戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第九十九話 銃剣のチャージアタック

━━━━森の中に鳴り響く電話のベルに、恐怖で身が竦む。

だが、この電話を取らぬワケにはいかない。我が身の震えを自覚しながら、偉大なる黄金結社の一員である(錬金術師)は電話の受話器を取る。

 

『━━━━やぁ、ボクだよ。』

 

「は、はははいッ!!偉大なる空に輝く明けの明星にして、最も完全な存在たる統制局長閣下ッ!!」

 

このアンティーク調の電話には電話線が無い。ましてや電源など繋がっても居ない。

━━━━念話。錬金術師が己の魔力によって他者へと干渉し、直接連絡を行う技術の現れだ。

だが、一般的な念話はまさに《念》だけを相手に飛ばすモノでしかない。このように物質的な空想(イマジネーション)を叩きつけ、()()()()()()()()()()()()()()()()事など、我等にとっては埒外の絶技である。

 

『あぁ、いいよ。長い前置きはね。

 ━━━━念話を飛ばしたのは聴きたかったからさ。キミに与えた任務の動向をね。

 何かあったのだろう?ボクに連絡をして来たからには。』

 

━━━━統制局長。アダム・ヴァイスハウプト。黄金の君。解放者(スパルタクス)

フランス革命を裏から扇動したとも、英仏百年戦争をその眼で見て来たとも謳われる偉大な錬金術師。

そんな天上とも言える方から直々に拝領した私の任務。それは欧州某所に眠る《隻腕の遺骸》の監視と調査。

━━━━森の中、洞窟に隠された地下墓とその罠を乗り越えるのは如何に私が結社内部でもそれなりの(それなりの!!)地位にある私にとっても中々骨が折れた。

だというのに。

 

「は、はい……局長閣下の仰っていた地下墓に辿り着いたのですが……

 ━━━━地下墓の奥底、其処で信じられぬ物を見たのですッ!!

 地下墓の奥底に安置されていた遺骸が……私の目の前で動き出したのです……ッ!!」

 

━━━━それは、信じがたい光景だった。

数百年前に死しただろう遺骸が!!顔面を潰され、片腕を喪ったその遺骸が!!

 

『……ふむ。それは奇妙な事だね、なんとも。』

 

「その遺骸は副葬品だったろう仮面を被り、長い槍の付いた義手を付けると……私を一瞥してから転移で去って行きました……」

 

━━━━転移術式。それも、テレポートジェムを使用しない高度な用法。

まさか、こんな辺境の地下墓にそんな錬金術師が居たなんて!!

 

『……なるほどね。ウソを言っている……ワケでは無さそうだね。その様子では。』

 

「信じていただけないのも無理はありません!!ですが統制局長閣下!!私はこの目で見たのです!!」

 

統制局長閣下の疑念も当然だ。私とて、この目で見ていなければ到底信じられなかっただろう。

 

『あぁ、分かった。分かったとも。

 ━━━━キミは一度帰還したまえ、本部にね。

 詳細はそちらで聴くとしよう、報告書でね?』

 

「……はい……」

 

消沈しながらも、私が統制局長閣下の言葉に異議なく従う理由は単純至極。

━━━━あの遺骸が、恐ろしかったのだ。

 

━━━━あぁ、お前はなんなのだ。《隻腕の遺骸》よ。

見るだけで怖気(おぞけ)が走る。

この世に有りながら、この世を否定する悪魔の如き異質さ。

死んでいる筈の者が立ち上がる矛盾だけではない。もっと根本的な……

 

……そして、何よりも不思議なのは、立ち上がる最中に放った譫言(うわごと)だ。

 

『━━━━長い、夢を見ていた。

 身体は不倶で、血は歪み……幾百の歳月を積み上げ……ただ一人を待つ。

 ━━━━あぁ、狂い果てたこの身の意義は、()()()()()……』

 

━━━━お前は一体、ダレを待っていたのだ?

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━切れる感覚。念話の物だ。

 

「━━━━どういう事なのかな、コレは。」

 

調べていたのだ。ボク(アダム・ヴァイスハウプト)は秘密裏に。

彼女(ディーンハイムの裔)の足跡における最大の不明点、隻腕の遺骸について。

 

「……自動人形(オートスコアラー)であった、という事かな。*1

 数百年の時を経て動く存在となれば。」

 

━━━━そう言う事か、なるほど。

かつて彼女が(イザーク)を喪った時、その喪失に立ち会った存在……彼女はその男を自動人形へと改造したのだ、恐らくね。*2

 

「まさか()()()が居たとはね。*3黙示録の騎士(ナイト・オブ・クォーターズ)に。」

 

思考を回しながら、新調したワイングラスを揺らす。

 

「となれば……遺骸の目的は合流、という事かな?*4

 

……放置しておいて構わないだろう。そうであれば。

彼女の根幹に関わる物と目していたのだ、ボクは、あの遺骸の事を。

だがそうでは無く、彼女の計画の最後のピースだと言うのなら構わない。

 

━━━━ただ、分からなくなるだけだ。彼女が何を思って事を起こしたのかが。

 

「……無意味なものだね、感情など。」

 

━━━━あぁ、こんなモノなんて。完璧には必要ないというのに。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

『━━━━胸にある(ホントの)……想い(想い達を)果たしきれやしない……ッ!!(果たしきれやしない……ッ!!)

 

━━━━ミカ(アタシ)の挑発に乗って、ギガソーラーの広げる葉の上に乗ってくるジャリ共(紅と翠)

 

強く……(強くなる勇気を)なれば(心に秘めて)太陽の(月を包む)耀きにッ!!(耀きにッ!!)

 

その耀きは申し分なく、二手に分かれたと見せかけての交叉攻撃で、ミカの命を刈り取らんと迫ってくる。

 

「子供でも下駄を履けば(LiNKERツッコめば)それなりのフォニックゲイン……」

 

━━━━マスターの計画に必要なのは、ようはミカ達を高いフォニックゲインでぶっ壊してくれる事。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「出力の高いこの子一人でも十分かもだゾ?」

 

……だけど、コイツ等を解剖(バラ)したら、やっぱりマスターは悲しい顔をするのかな。

でも、ミカはマスターの計画を絶対に成し遂げるって決めてるんだゾ。

だから……

 

「アハハハハハッ!!」

 

(わら)って、(わら)って。

マスターの願いを叶える為に、マスターの想いを踏み躙って。

ミカにはもう何が正しいのか分かんないんだゾ。

 

━━━━だけど、だからこそ、アタシの意義(レゾンデートル)に従って、アタシは壊される為に全力を尽くすんだ。

 

『━━━━強くなりたい(強くなる為には)護られる(求め続ける)だけだと(だけだと)ッ!!

 胸にッ!!ある(ホントの)想い達を(思い達を)果たしきれやしないッ!!(果たしきれやしないッ!!)

 

━━━━β式・巨円断━━━━

 

「大振りなんか通らないんだゾッ!!」

 

叩きつけるようなヨーヨーの一撃を、アタシは敢えて目の前で受けてやる。

炎の熱量で形成したバリアの目的は、ただ受け流す事だけじゃなくて……

 

『━━━━強く……(強くなる勇気を)なれば(心に秘めて)太陽の(月を包む)耀きにッ!!(耀きにッ!!)

 近づけるかな……?(嘘は無い、番いの愛)

 

━━━━Σ式・降下巨刃(兇脚・Gぁ厘ィBアa)━━━━

 

こうして動きを止めた所を好機と見て突っ込んで来るジャリ共をブッ飛ばす為の罠でもあるんだゾ。

降ってくるのは、脚に生やした一対の大鎌と大鋸(ライダーキック)

 

キミに照らされ……(キミをッ!!照らしたい……)

 

それを、こうして……

 

「━━━━ドッカーン!!」

 

『━━━━あぁッ!?』

 

爆発、炎上……ギガソーラーの葉を落として、剪定してやったんだゾ。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━漆黒。ギガソーラーの葉が落ちて。

 

「内蔵電源に切り替えますッ!!」

 

━━━━復帰。立ち上がるモニターの中に広がるのは、炎の赫。

 

「━━━━負けないで……」

 

━━━━(小日向未来)には、(シンフォギア)が無い。

……あぁ、あの日と同じ無力感。

 

「セレナ……天羽奏……どうか、二人に奇跡を……ッ!!」

 

()()()()()()拳を胸の前で握り締めるマリアさんも、きっと同じ気持ちだろう。

━━━━そんな中、開かれる発令所の扉。

 

「━━━━ッ!?

 響くんッ!?」

 

━━━━其処に立っていたのは、眠り続けていた、私のお日様……!!

 

「━━━━響ッ!!」

 

「あはは……」

 

生きている。歩いてる。思わず抱き着いた彼女の身体はしっかりと床を踏みしめていて。

 

「……ありがとう……響のお陰で、私……」

 

「私の方こそ、また歌えるようになったのは━━━━未来のお陰だよッ!!」

 

━━━━今も生きているんだよ、って。続けようとした声を、響の声が上書いて。

けれど、それは……

 

「でも……平気なの……?」

 

「だーいじょうぶ!!へっちゃらだよ!!」

 

眉を(ひそ)めて問う私の声に、響は明るく応えて見せる。

━━━━だけど、胸元で握るその拳は、震えていて……

 

「━━━━状況、教えてください。」

 

━━━━その震えを止めぬままに、響は強く言葉を紡ぐ。

そんな響の姿が、私には誇らしく、けれど同時に……

 

「……あぁ、分かった。

 ━━━━現在、SONG本部を収容しているこのドックの発電施設が襲撃されている。

 大詰めに入ったギアの改修作業を完遂させるまでの時間を稼ぐべく奏くんとセレナくん、それに乗じて調くんと切歌くんも出撃した……

 だが、特異災害対策機動部の部隊はアルカ・ノイズを押し留めるのに精一杯で、其方の支援から奏くんとセレナくんが抜けられん……」

 

聞けば聞くほど、私達は追い詰められている。たった数十分の襲撃で電源は喪失し、戦える残りのメンバーも全員が出撃せざるを得ない。

 

「調ちゃんと切歌ちゃんに任せるしか、無いんですか……?」

 

「━━━━いいや。最後の希望は、既に放たれた。」

 

━━━━だというのに。信頼を握って立つ司令の言葉は力強く発令所に響いた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「はぁ……クッ……!!

 このままじゃ何も変わらない……変えられない……ッ!!」

 

━━━━圧倒的。ひたすら圧倒的パワーが蹂躙し尽くす。

炎の暴威。その熱量を前に、(月読調)達は成す術無くギアの出力を削られていた。

 

「ッ……こんなに頑張っているのに……ッ!!どうしてデスかッ!?

 こんなの嫌デスよ……変わりたいデス……ッ!!」

 

LiNKERを注ぎこんで、命を賭して戦っても尚、傷だらけのギアが示すように、私達の攻撃は目の前の紅い人形にすら通じない……

無力なお子様なままで居るのがイヤだから、私達は無理を承知で力を握った筈なのに……ッ!!

 

「ンー、まぁまぁだったゾ?

 ━━━━でも、そろそろ遊びは終わりだゾ?」

 

ゾッとするような、それでいて当人は楽しそうな嘲笑と共に、紅い人形はその身に宿す暴威を高速の機動力に変えて迫りくる……ッ!!

 

「はっ……!?」

 

「バーイならァァァァッ!!」

 

「切ちゃ……ッ!?」

 

一瞬だった。

ほんの一瞬。

気落ちはしても、油断なんてしていなかった。なのに……紅い人形の左掌から放たれた結晶が、切ちゃんの胸のギアコンバーターを、貫いて……

 

「━━━━あゥッ!?あぁッ!?」

 

コンバーターが一撃で砕け散る程の衝撃に跳ねた切ちゃんの身体を地面から護って、役目を果たせなくなったギアが光と(ほど)ける。

 

「━━━━切ちゃんッ!!」

 

いかなくちゃ。

切ちゃんが傷ついてるんだ。絶対に、助けなきゃ……ッ!?

そう思い、ローラーを必死に転がす私の前に突き立つのは、新たな結晶達……

 

「クッ……!!」

 

「━━━━余所見してると、後ろから狙い撃ちだゾ~?」

 

振り向けば。私の……いいや、私達の努力を嘲笑うかのように、健在の紅い人形が結晶をその掌に浮かべて嗤っている。

━━━━ふざけるな。

切ちゃんを傷つけた紅い人形。その暴威を許せるワケが無い。だから私は、傷ついたギアに発破を掛けて、アームに纏う鋸を最大限の四つに増やして紅い人形に向かい合う……

 

「━━━━邪魔しないでッ!!」

 

「仲良しこよしで、お前達のギアも壊してやるゾ……っとォ!?」

 

━━━━紅い人形が、そうして向かい合った私を挑発した瞬間。お互いの知覚の外から放たれた一撃が紅い人形へと直撃する。

 

「━━━━嘗めてんじゃねぇぞ木偶の坊がッ!!」

 

その攻撃の正体は、ミサイル?でも、本部潜水艦はまだ兵装を動かす程の出力を出せない筈じゃあ……?

 

「対アルカ・ノイズ戦術草案第二弾ッ!!

 ━━━━ロスアラモス製の携行式ミサイル(誘導弾)による簡易的面制圧ッ!!」

 

私の疑問に答えるかのように高らかと吠えるのは、迷彩服を着て、物陰から穴の開いた筒を突き出している三人の男性たち。

 

「ジョージさんにマーティンさん!?それに……」

 

「諜報班の津山ですッ!!我々は指揮系統が特異災害対策機動部とは異なるので、此方の援護に来ましたッ!!」

 

「━━━━オマエ等……」

 

『━━━━ッ!?』

 

手短に情報交換する私達の耳朶に響く、低く、けれども熱い嗤い声。

 

「そんなに遊んでほしいンなら存分に遊んでやるんだゾッ!!そーれェ!!」

 

狂ったような笑顔を張り付けて、紅い人形はその掌に山盛りの結晶を投げ上げる……ッ!!

 

「アルカ・ノイズを……ッ!?」

 

「十や二十じゃ効かんか……仕方ない。この数相手には誘導弾も効果が薄い……()()()()も使うぞ。」

 

「うわーめっちゃイヤだわぁ……()()、ほぼ自爆兵装っしょ?」

 

「そのまま死ぬより自爆して死んだ方がアドが大きいぞ?」

 

「俺は死ぬわけにはいかないので遠慮したいですッ!!」

 

中空で砕けた結晶、その中から墜ちた光が魔法陣を描き、数多のアルカ・ノイズを召喚する……

 

「ふふふ……ほーら。千客万来の満員御礼だゾ?」

 

「に……逃げるデス……調……おじさん達も……」

 

「切ちゃんを置いて逃げるなんて出来ない……私の(こころ)は、切ちゃんに救われた命なんだものッ!!

 だから……」

 

だって、切ちゃんが居なかったら、私はあの白い孤児院で心を喪っていた。

名前を失くして、過去も無くして……家族も、きっと亡くしてしまって……

何もかもが無くなった私に寄越された月読調(なまえ)を肯定してくれて、同じ立場だと明かしてくれた切ちゃんの優しさを、私は忘れない。

だから切ちゃんを救う為なら、この命を総て使っても惜しくない。

 

「━━━━おじさん呼ばわりはヒデェな。これでもまだ二十代なんだぜ?」

 

「お前な……十は年上ならそりゃおじさん呼ばわりされるに決まってるだろう……」

 

「えー……我々としても非武装の民間人を無視して撤退する事は出来ません。だから━━━━生きる事を、諦めないでください。」

 

━━━━そう、私は思ったのに。

切ちゃんの言葉に返す彼等の言葉に恐れは無い。いいや、有るのかもしれない。でも、それを見せまいと笑っていて……

それに……

 

「その言葉、響さんの……」

 

━━━━奏さんから受け継いだんだって、響さんが笑ってた。

 

「えぇ、昔、あの二人(ツヴァイウイング)に助けられた事がありまして。

 ━━━━だから、今度は俺が助ける番って事です。彼女達を悲しませないように、彼女達を護ろうとする誰かをッ!!」

 

「言いたい事は終わったのか~?

 なら始まるゾ!!バラバラ解体ショーッ!!」

 

━━━━わざと待っていたのだろう。此方に準備させて、それでも敵わないんだって。

……それも、叶わないんだって。痛感させる為に。

 

でも。

 

「━━━━負けるワケにはいかないッ!!」

 

━━━━生きる事、諦めないと。

 

「そらそらそらァッ!!」

 

だから、飛び掛かってくるアルカ・ノイズに対して私達が選ぶのは徹底的な抗戦(トライブリゲード・リボルト)

後ろに控えつつ銃弾をばら撒いてくれる彼等の援護を受けながら、四つのアームで保持した丸鋸がアルカ・ノイズの解剖器官を避けてその身を切り刻む。

 

「くっ、はッ……うぅッ!!」

 

━━━━けれど、押し寄せる数は甚大で。

━━━━そして、私達の抵抗は果敢無くて。

 

「マズい……ッ!!空中じゃあ避け続けるにも限度があるぞ……ッ!?」

 

「クソッタレがッ!!こんだけの同時並列処理が出来るなんざ、あの人形女郎はどんなCPU積んでやがるッ!!」

 

一つ、二つ、三つ。後方宙返りで跳び上がった私を狙うアルカ・ノイズを丸鋸が切り裂いて。

━━━━けれど、四つ目。角度が合わない……ッ!!

 

「あぁッ……!!」

 

回転型アルカ・ノイズとかち合った刃は、しかし解剖器官に一瞬で競り負けて、右上方の丸鋸が基部ごと壊されてしまう。

それでも、前へ前へと進もうとする私の刃達を押し込むように、地面から空中の私の胸元へ向けて叩き込まれる人型アルカ・ノイズの一撃。それを後方上体傾斜(スウェーバック)で避けるも、左下方の丸鋸が粉砕される。

 

「火力も出せねぇ俺達は二の次ってか……ッ!!」

 

「ちくしょう……ッ!!あんだけ大口叩いたってのに……

 ()()()()()()()()()()ッ!?俺はッ!!」

 

アルカ・ノイズの狙いは、一貫して私。他のメンバーへの攻撃は散発的で、だからこそ彼等も避ける事が出来ている。

 

「くっ……はッ!!━━━━せぇい」

 

バックステップで仕切り直そうとする此方に向けて飛んで来るのは、さっき丸鋸を砕いた回転型。学習したぞと言うように、刃先を立てて此方の丸鋸に迫る。

だけど、この短時間で二度も同じ失敗はしない……ッ!!

 

「丸鋸で……ッ!?」

 

「受けて……投げたァ!?」

 

「マ・ワ・シ・受ケ……見事な……」

 

右下方の丸鋸を、今度は真っ直ぐでは無く、横から側面でビンタするように受け止め、右手のヨーヨーを突きさして、解剖器官を当てられないようにしつつ半回転。

コレで一旦距離を稼いで……ッ!!しまったッ!!

今の回し受けで砲撃型への射線が通ってしまった……ッ!!

 

「だったら……ッ!!」

 

丸鋸で挟み込むような軌道で続く回転型二体を待ち受ける……と見せかけて、お互いの丸鋸をかち合わせる……ッ!!

反動で左右に押しやられた丸鋸が左右の砲撃型を弾き飛ばし、目の前の回転型二体へ対処する猶予をくれる……ッ!!

 

「━━━━援護しますッ!!」

 

「砲撃型のトドメは任せなッ!!」

 

私が弾いたアルカ・ノイズ。だけど、それは弾かれただけで、本来ならすぐに戻ってきてしまう筈だった。

━━━━だけど、そうして弾いたアルカ・ノイズにトドメを刺してくれる人が居るのなら話は別だ。

 

砲撃型が銃弾の雨にはじけ飛ぶのを横目に、私は手に入れた一瞬で状況判断。ヨーヨーを叩き込んで回転型二体を粉と挽く……

だけど、数が多い……ッ!!

 

「そこを……どけェェェェッ!!」

 

ヨーヨーを叩き込む為に跳び上がった一瞬を突いて殺到する、後続の人型と回転型の群れ……このままじゃいけない……ッ!!

包囲を抜け出す為にローラーを後ろに全力回転させ、奴等(アルカ・ノイズ)を少しでも切ちゃんと津山さん達から引き離す……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「誰か……」

 

━━━━少女が、声をあげていた。その身に(よろ)う力も無く、その腕には立ち上がるだけの力すらも無い。

……それでも、少女はゆっくりと、しかし確実に這いずり進む。

 

「助けて欲しいデス……ッ!!

 私の友達……大好きな調を……ッ!!」

 

━━━━けれど、けれども。

少女の声は届かない。

その声を聴くものは居ない。

その声に答えるモノはない。

 

目の前で、人型を取った《死》が、少女の胸元の希望(ギアコンバーター)を砕く。

 

「アハハーッ!!砕けて散ったんだゾー!!」

 

桃色の少女がその身に纏う鎧も、光と砕けて。

壁際に倒れ込むその姿は、ただのか弱い少女でしかない。

 

━━━━そして、その壁を解剖して現れる影、二つ。その影の正体は言うまでもない。

 

……あぁ、涯無きものなど。尊くあるものなど。

━━━━すべて、すべて、あらゆるものは意味を持たない。

 

「ち、くしょう……ッ!!」

 

「あの距離じゃ()()()()も使えねぇ……巻き込んじまう……ッ!!」

 

いっそ滑稽な類の音を立てて、《死》が迫る。少女の前から、そして後ろから。

その歩みは、見せつけるかのようにゆったりと。

 

「う……うぅ……誰か……誰か、調を……

 ━━━━誰かァァァァ!!

 

━━━━少女の、声は。

 

 

「誰か、だなんて。

 つれねぇ事言ってくれるなよ?」

 

 

━━━━伸ばした、手は。

 

「剣……」

 

「……ありがとうございます━━━━翼さんッ!!」

 

 

「あぁ━━━━振り抜けば、風が鳴る剣だッ!!」

 

 

━━━━風が吹く。《死》が、塵と消えてゆく。

灰は灰に、塵は塵に。そして、万象(アルカへスト)は万象に。

 

その跡には、蒼と赤の少女達が、光を纏い、此処に。

━━━━意志を握って、立っていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━放たれた最後の希望。

それは即ち、土壇場で完成していた強化型シンフォギア。その二領。

 

『━━━━さて、どうする?センパイ?』

 

『反撃……では生温いな。

 ━━━━逆襲するぞッ!!』

 

━━━━だが、それはそれとして。

このマリア・カデンツァヴナ・イヴ()にも看過出来ぬ事態がある。

 

「━━━━男共は見るなッ!!」

 

━━━━嫁入り前の娘の裸を男共に無防備に晒す事などッ!!

 

『━━━━ッ!?』

 

「なー!?ななな、なんで私まで……!?」

 

「あ、ごめん……つい勢いで……」

 

視界の端で立花響と小日向未来がじゃれ合っているのが見えるが、まぁそれに関してはそれだけ余裕があるのだろう。

 

「も、モニターから眼を離したままでは、戦闘管制が出来ませんッ!!」

 

━━━━そう言い訳じみたような言い方をしてしまう彼の性根は分かっているが、その態度はいただけない。

 

「何ッ?その必死過ぎるぼやきはッ!!」

 

職務に忠実な結果だろうが、傍から見れば嫁入り前の少女の裸体を見たいだけにも見えてしまうのだ。

……調と切歌が嫁に行くとしても、それは今じゃない。だから、彼女達の保護者代理として、私には彼女達の尊厳を護る《義務》があるッ!!

 

「安心なさい。調と切歌が撤退するまでの間よ。

 ━━━━それも……」

 

何もずっとモニターを見るなとは言っていないし、言いはしない。

 

「え?」

 

「今の翼とクリスなら、それくらい問題無い筈。」

 

━━━━そう、彼女達が無事に保護されるまでの間、あの人形を止める事程度。

 

『━━━━ところで、俺等は事故なんで許してくれねぇか?』

 

『コレを羽織ってくださいッ!!翼さんッ!!彼女達は俺達が護衛して帰還しますッ!!向こうのアルカ・ノイズもじき掃討出来そうですので、それまでお願いしますッ!!』

 

「えぇ、調と切歌を頼んだわよッ!!」

 

『えぇ、頼みますッ!!』

 

……まぁ、現地で保護する為の行動ならば致し方なかろう……あの津山とかいう青年も、真っ先に上着を渡していたし……

 

「……扱いの差ぁ……」

 

「女所帯だ、致し方あるまい……」

 

「あはははは……」

 

そんな私の後ろからあがる弱音は、残念ながら聞かなかった事にさせてもらおう……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「リベンジマッチならいつでも受け付けるんだゾ……そりゃッ!!」

 

━━━━紅の人形はそう言って、防人姉妹(わたしたち)の周囲へ向かってアルカ・ノイズの結晶体をばら撒く。だが……今の防人姉妹(わたしたち)を、一週間前と同じと高を括ってくれるなッ!!

 

「慣らし運転がてらに片付けるぞ、雪音ッ!!」

 

「あぁッ!!綺麗に平らげてやるッ!!」

 

『━━━━はァァァァッ!!』

 

雪音と声を合わせ、呼吸を合わせて走り出す。

 

「はッ!!ハァーッ!!」

 

「ふッ!!はぁあッ!!」

 

アメノハバキリの斬撃が、イチイバルの射撃が。

位相差障壁を喰い破り、アルカ・ノイズ達を紅き塵へと還してゆく。

 

「━━━━挨拶など無用。剣舞う懺悔(斬ッ!!げ)の時間ッ!!

 地ィ獄の奥底でッ!!閻魔殿にひれ伏せッ!!」

 

鎧袖一触。一刀両断。

巨大化させた剣を振るう剣圧すら、いまやアルカ・ノイズを砕き散らす破壊の暴風となる。

 

「━━━━一つ目は、撃つッ!!二つ目も……撃つッ!!

 三つ四つ……めんどくせぇッ!!キズナァ……」

 

私が砕き散らした爆心地に立ち、周囲を囲むアルカ・ノイズをリズミカルに吹き飛ばす雪音の矢柄も、いまやその一矢一矢が絶殺の意志の具現。

 

なめッんじゃねぇッ!!(嘗めるでないッ!!)

 

━━━━そう。防人姉妹(わたしたち)のギアは、アルカ・ノイズと戦うに足る姿へと強化されたのだ……ッ!!

*1
※違います

*2
※やっぱり違います

*3
※居ません

*4
※惜しいですが違います




華やかな舞台の上で、千両役者が舞い踊る。
天女の如きその舞と、真蛇(きよひめ)の如き能面に、誘われたるは、世界を呪う少女の末路。

幾百年の時を経て、かつて天女と呼ばれた少女は舞い戻る。
かつて大妖を砕き、天津の裔に彼の天女ありと謳われたその力を。

━━━━そう、天女。
かつて、かつて、遠き世界の涯で、太母(グレート・マザー)は求めた。
この星で、この(ソラ)で、決して孤独では無いと証明する為の存在を。

あぁ、故に。空を見よ。(ソラ)を見よ。
━━━━崩れゆく曇天の空を引き裂き、赫耀が来たる様を。
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