戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第百話 赫耀のシューティングスター

 

「━━━━天羽々斬(アメノハバキリ)、イチイバルともに、各部状態良好(コンディション・グリーン)!!」

 

━━━━調ちゃんと切歌ちゃんの撤退が終わった事で普段通りの機能を取り戻した発令所に響く、藤尭くんの声。

 

「コレが……強化型シンフォギア……?」

 

「━━━━Project IGNITEは、破損したシンフォギア・システムの修復にとどまる物ではありません……」

 

データ上は知っていたとて、その勇姿に驚きを隠せない友里ちゃんに教えるように、強化作業を終えた(天津鳴弥)とエルフナインちゃんが説明をしながら進み出る。

 

「出力向上だけじゃなく、バリアフィールドの性質をアルカ・ノイズへと適合させる事で、万象の中で唯一解剖器官への耐性を得た《対アルカ・ノイズ用回天特機装束》……」

 

「アルカ・ノイズという最強の矛に対する、最強の鎧……錬金術が到ったもう一つの究極形態。それが、強化型シンフォギアです。」

 

そう断言するエルフナインちゃん。

その眼前のモニターの中、私達の言葉を体現するようにアルカ・ノイズの解剖器官の波状攻撃をその手に握るアームドギアで受け止める翼ちゃんの姿……

 

『━━━━信じる事……諦めるなッ!!』

 

━━━━だが、その拮抗は一瞬。返す刀で三体のアルカ・ノイズは紅い塵へと消える……

 

『━━━━今のうちに撤退だッ!!』

 

『此処は二人に任せるデス!!』

 

その裏で別のモニターに映るのは、上着を着せられた切歌ちゃんと調ちゃんが、マーティンさん達と共に戦場(いくさば)から離れゆく姿……

 

『……クッ……!!』

 

「周辺の避難状況はどうなっているッ!?」

 

「大よそは終わりましたが、まだ放たれたアルカ・ノイズが残って此方を押さえ込んでいます……

 特異災害対策機動部からは此方に戦力を集中するよう進言がありましたが、セレナさんも奏さんもそれを断って彼等と共に防衛に当たっています。」

 

「人の命より優先するモノなど無い、か……頼んだぞ、翼……クリスくん……ッ!!」

 

『司令ッ!!』

 

「津山か。どうした?」

 

『遠方に避難の列から逸れた子供を発見しました。ジョージさんとマーティンさんに装者二人の護衛を任せて俺は其方の救助に向かいますッ!!』

 

「分かったッ!!気を付けろよッ!!」

 

━━━━後になって思えば。

この瞬間から、既に運命は、分水嶺を越える為に動き出していたのだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━平等ッ!!ってッ!!ワケにいかないがァッ!!」

 

━━━━回転弾倉(ガトリング)から弾丸をバラ撒いて、アタシ(雪音クリス)は咆える。

 

『必ずッ!!孤独ッ!!じゃないッて事だけ……』

 

━━━━回転剣技(逆羅刹)でアルカ・ノイズを切り裂いて、センパイ(風鳴翼)も咆える。

 

「忘れず、その胸に……()()()()……ッ!!」

 

そして、おおよそのアルカ・ノイズを紅い塵へと還して、センパイは不俱戴天の仇と向き合う。

それは、紅い人形。

 

「━━━━雪、にもッ!!」

 

━━━━センパイがバーニアを吹かして紅い人形の下へ跳ぶ。

 

「━━━━風、にもッ!!」

 

━━━━その道を、アタシがバラ撒く弾丸で切り拓く。

 

「━━━━花、にもォッ!!」

 

「━━━━(だ、れ)にもッ!!」

 

『━━━━負、け、ないッ!!自分の色ッでッ!!』

 

━━━━蒼刃罰光斬━━━━

 

『戦い泣く勇気のハート……』

 

大振りな剣刃から引き出され、最速の威合いとなった一刀が鍔目返す二閃。

その交叉を、紅い人形は跳び上がって躱す。だが……

 

「━━━━孤独(ひと)りにはしなァァァァいッ!!」

 

━━━━MEGA DETH FUGA━━━━

 

そっから先は、地獄行きの一方通行だ……ッ!!

強化された事を高らかに示すように、爆速で用意し、ぶっ放すミサイルは、センパイの二閃に応えるように、二発。

 

コイツでその着地を狩り獲ってやらぁなッ!!

 

━━━━狙いは過たず、着弾。響き渡る轟音と爆裂。

 

「ふんッ……ちょせぇ……」

 

コレで倒せるとは言わないが、直撃弾は確実に……

 

「いや、待て……ッ!?」

 

「━━━━それはどうかな。」

 

━━━━黄金。

轟音の中でも不思議と響く声と共に、爆煙の中で輝くのは、いつかの(ペンタクル)のような黄金の六角形(ヘキサゴン)達。

 

「な、に……ッ!?」

 

「面目ないゾ。」

 

「……いや、手ずから凌いでよく分かった……

 ━━━━()()()()()()()()()()()()()

 ならば、オレの出番だ。」

 

『キャロルちゃん……ッ!!』

 

『キャロル……』

 

━━━━見せつけるようにアタシ等の前で放つ、その言い方は即ち。

 

「ラスボスのお出ましとはなァ……」

 

「だが、決着を望むのは此方も同じ事ッ!!」

 

傍観者気取りを()めて、盤上に立つってんなら話は早ェ……ッ!!

 

「……総てに優先されるのは計画の遂行。

 此処はオレに任せて、お前は戻れ。」

 

「……うん、分かったんだゾ。」

 

……?

アイツ等の話は上手く聞こえなかったが……何か、違和感があった気がする。

手駒よりも先に親玉が戦うと言ったから?いや、違う。

親玉の言い分が妙な言い回しだから?いや、違う。

 

アタシの小さな困惑を他所に、紅い人形は跳び上がり、カプセルを割って()()()()()()()()()()()

 

「━━━━トンズラする気かよッ!?」

 

「━━━━案ずるな。

 この身一つお前等二人を相手にするぐらい……このオレには造作もない事。」

 

「その風体でぬけぬけと咆える……ッ!!」

 

センパイの言葉は油断や慢心では無い。だがそれでも、目の前のエルフナインと同じ体躯(サイズ)の少女が強化型シンフォギアを圧倒するのだ。と告げられても俄かには信じがたい……

 

「なるほど。確かに……風体(ナリ)を理由に本気を出せなかった……などと、言い訳されるワケにはいかないな……

 ━━━━ならば、刮目せよッ!!」

 

━━━━啖呵と共に、彼女の脇の空中に浮かぶのは、これまで見た事のない紫色をした魔法陣……ッ!?

何をするのか分からないアタシ等の前で、その魔法陣から彼女が引きずり出すのは……竪琴……?

 

━━━━そして、彼女は持ち替えたその竪琴を、爪弾(つまび)いて……

 

『━━━━アウフヴァッヘンッ!?』

 

『いいえ、コレは……アウフヴァッヘン波形では無い。けれど……』

 

『はい……非常に近いエネルギーパターンですッ!!』

 

『━━━━儀式(カルト)。かつての英雄英傑達が、己の手に握った聖遺物を使う為に行ったというそれ……』

 

『まさか……聖遺物の起動ッ!?』

 

『ダウルダブラの武装錬金(ファウストローブ)……ッ!!』

 

通信の先から聴こえる発令所の喧騒。それを裏付けるように、目の前の少女の変化は劇的だった。

 

━━━━いや、少女と呼ぶ事は出来ないだろう。一瞬にして成長を遂げた豊満な体躯を縛り上げるように、巻き付いた糸は服となって彼女を覆う。

 

「━━━━コレくらいあれば不足は無かろう?」

 

挑発。テメェの胸を揉んで、コッチに見せつけるように。

 

「急成長……ッ!!」

 

「エクスドライブが見せる髪の伸長の如くにか……ッ!?」

 

どうやって起こしたのかは分からないが、聖遺物の力がこれほどたぁ……ッ!!

 

「━━━━さぁ、狩りの始まりだッ!!」

 

━━━━言葉と同時に、彼女の腕が振るわれる。一閃、此方に届くようには見えない。だが……

 

「クッ!!」

 

その五指に巻き付く《五線譜(いと)》が見えたアタシ等は、勘に従って跳び上がり、その五線譜が刻む寸断を(から)くも回避する。

 

「━━━━らァッ!!」

 

「ッ!!……大きくなった所でェッ!!」

 

続く二閃はセンパイを狙った物。それをあの人は伏せて回避する。けれど、その背後の燃料タンクは紙切れのように切り裂かれ、爆発炎上する。

 

「━━━━張り合うのは望む所だァッ!!」

 

出力がデカくなったってんなら結構、その上でぶちかます……ッ!!

 

「━━━━燃えよ、押し流せ。」

 

━━━━だが、そんなアタシ等を嘲笑うかのように、その背に負う弦を開いて女は紡ぐ。力ある言葉を。

 

たった一語。それだけで、世界法則(あたりまえ)は女の前に跪く。

 

「くうッ……!?」

 

「どわぁッ!?」

 

━━━━紅と蒼の魔法陣。その色の通りに錬金術が放たれる。だが、その規模は超絶にして膨大……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━呆然。その言葉がふさわしいだろう。

錬金術が凄まじい物である事は、オートスコアラーの強さから誰もが身に染みていた。

だが、それでも……

 

「……歌うワケでも無く、こんなにも膨大なエネルギー……いったいどこから……?」

 

発令所で見守る(風鳴弦十郎)達の目の前のモニターに映るのは、ただ一撃で地形を変える焔と水の猛威。

その規模は超絶にして膨大。

オートスコアラー達でさえ、これほどの破壊を起こす事は容易ではない筈だ。

 

「……想い出の焼却です。」

 

「想い出の……?」

 

最も詳しいだろうエルフナインくんの言葉に、しかし理解を示せる者は誰も居なかった。

 

「キャロルやオートスコアラーの力は、想い出という脳内の電気信号を変換錬成した物……

 造られて日の浅いモノには、力に変えるだけの想い出が無いので、他者から奪う必要があるのですが……

 数百年を永らえて、相応の想い出が蓄えられたキャロルは……」

 

「それだけ強大な力を秘めている……ッ!!」

 

なるほど、確かにそれならば破壊規模の説明は付く。だが……

 

「……力へと変えた想い出は、どうなる?」

 

「……燃え尽きて、喪われます。」

 

「……そう、か……」

 

━━━━人は、何かの犠牲無くして何かを産み出す事は出来ない。

無から有を産み出すのは神の御業であり……有から何かを取り出せば、其処に残るのは変質したモノだけ……

 

「記憶の焼却……物質のエネルギーへの変換……?

 それじゃあまるで対消滅……いえ、それを高度に管理出来ているという事は想い出とエネルギーの価値を等価にしているという事……?

 ……ならそもそもこの物質宇宙は《物質》と《情報》に別れているのでは無く、ホログラフィック原理に基づいて表出した《情報》が物質となっている……?」

 

「……キャロルは、この戦いで結果を出すつもりです。

 ……仮令(たとえ)、自分がどうなろうとも……」

 

……それほどの強い覚悟があるのなら。ならば何故、彼女は……

 

目の前の戦いから眼を逸らす事無く、俺と鳴弥くんは思考を回す。

総てを賭けた少女の戦いが、何を目的としているのかを見極める為に……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「さぁッ!!さぁッ!!さぁさぁさぁッ!!」

 

竪琴の彼女(キャロル)の指が振るわれる度に、五線譜が宙を舞い、地を裂き、航空機燃料(ヒドラジン)のタンクを破壊し、爆裂を巻き起こす。

 

「━━━━うぁッ!?」

 

五線譜の直撃は避けれども、蒼き刃の少女はタンクの爆裂に背を押され、地へと叩きつけられる。

 

「━━━━光よッ!!」

 

その一瞬の停滞を見逃さず、背に負う弦を鳴らし、竪琴の彼女は世界を書き換える。

六つの魔法陣、六つの光条。第五属性(エーテル)の輝きが宙を裂き、蒼き刃の少女へと直撃する。

 

「センパイッ!?」

 

「その程度の歌で……オレを満たそうなどとッ!!」

 

蒼き刃の少女を心配し、その足を止めてしまった紅き弓の少女もまた、追撃の五線譜に追われ、足場を崩される。

 

「クソッ……お・(か・え)・し……だァァァァッ!!」

 

━━━━GIGA ZEPPELIN━━━━

 

反撃にと紅き弓が解き放つのは、本来ならば対多数へと放たれる拡散弾(クラスター)

だが、それを対個人面制圧として撃ち放ったのだ。

 

分裂、分裂。

二つが多数へ、多数が、数多(あまた)へ。

 

「━━━━猪口才(ちょこざい)なッ!!」

 

だが、その数多(あまた)の弾雨に対してすらも、竪琴の彼女は揺るぎない。

その指に通じる糸を束ね、集束回転……ッ!!

それは盾として総ての欠片を叩き落とす……ッ!!

 

「ッ!!」

 

━━━━それを、どこかで見た事があった気がして。紅き銃の少女の思考が、一瞬止まる。

 

「返礼は……高くつくぞッ!!」

 

━━━━竪琴の彼女はそれを斟酌(しんしゃく)しない。なぜならば、それは自分が五百年背負ったモノだったから。

 

集束回転した糸は()り合わさり、回転削岩機(スパイラルドリル)へと姿を変え。

そして、そのドリルの回転が描く魔法陣が風を操り、超電磁竜巻(EMトルネード)を発生させる……ッ!!

 

「ぐあッ……!?う、動きが……ッ!?」

 

「はァァァァッ!!」

 

━━━━ブロウクン・スパイラル━━━━

 

竪琴の彼女が突き抜けた事で指向性を得た超電磁竜巻が打ち上がり、地を抉りながらに瓦礫を巻き上げ、曇りゆく空に咲くギガソーラーに届く程の華を咲かせる。

 

そして、落着。

 

「━━━━ガハッ……!?」

 

━━━━圧倒的。

先の紅い人形すらも超える程の、圧倒的な出力差。

一つ一つの技が地形を変え、天へと届く程の暴力的規模。

 

「うっ……くぅッ……!!」

 

『まだよッ!!まだ立ち上がれる筈よッ!!』

 

━━━━それでも。

 

『イグナイトモジュールの可能性はこれからです……』

 

『イグ、ナイト……』

 

━━━━まだ、諦めていない。紅き銃の少女も、蒼き刃の少女も。

 

「うっ……ふぅ……ッ!!

 ━━━━クソッタレがッ……!!」

 

「……大丈夫か、雪音?」

 

()()を試すくらいにゃあ……ギリギリ大丈夫、ってとこかな……!!」

 

その眼には、光。

諦めずに立ち続ける、焔が宿って。

 

「フッ……弾を隠しているなら見せてみろ。

 オレは、お前等の総ての希望をブチ砕いてやる……ッ!!」

 

そして、遥かな高みに立つ竪琴の彼女は宣言する。

少女達の希望を()()砕くと。

 

━━━━その真意は。未だ竪琴の彼女にしか分からなくて。

 

「━━━━付き合ってくれるよな?」

 

「━━━━無論、孤独(ひとり)で行かせるものかッ!!」

 

『━━━━イグナイトモジュール、抜剣ッ!!』

 

━━━━紅と蒼が、同時に叫ぶ。

華のように胸元に咲く、新たなるモジュール部分を摘まみ、高らかに。

 

【Dainsleif】

 

胸元から取り外されたモジュールが合成音声を鳴らし、展開する。

その姿は開いた華のようにも……自らを貫く剣のようにも見えて。

 

━━━━その先に形作られた黒赤(しんく)の刀身が、紅と蒼の少女二人の胸元、貫いて……

 

「ぐあ……ぁッ!!

 はぁ……ッ!?」

 

「ぐぅ……ッ!!

 うぅ……ッ!!

 内腑(はらわた)をかき回すような……ッ!!

 コレが……っ!!この力が……ッ!!」

 

「(あのバカはずっと……こんな衝動に晒されて来たのか……ッ!?)」

 

「(気を抜けば、まるで深い闇の底に……ッ!!)」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━目の前のモニターの中で、赤と黒に染まってゆく二人を見つめる。

それは……きっと、(立花響)も向き合わないといけないモノ。

 

「モジュールのコアとなるダインスレイフは、伝承にある殺戮の魔剣……

 その呪いは、誰もが心の奥に眠らせる闇を増幅し、人為的にギアの暴走状態を引き起こします。」

 

「━━━━それでも。人の心と叡智が呪いの齎す破壊衝動を捻じ伏せる事が出来れば……ッ!!」

 

「シンフォギアは、キャロルの錬金術に打克てます……!!」

 

エルフナインちゃんの言っている事は、よく分からない。

だけど……師匠の言ってる事は分かる。

 

「心と……叡智で……ッ!!」

 

━━━━それはきっと、誰もが握って立っているモノだと思うから。

 

……だけど、何故だろう。

心の奥に眠る闇と聴いた時に、頭を過った()()は……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━ふと、目を覚ます。

 

「ん……ステー、ジ……?」

 

気付けば、(風鳴翼)は舞台の上に臥して居た。

それは、風鳴翼が心の底から立ちたいと願う場所。

 

「もう一度……私は此処で……大好きな歌を歌うんだ……ッ!!

 夢を諦めてなるものか……ッ!!」

 

『━━━━どうして?』

 

「何故どうしてなどでは……ッ!?」

 

どこからか声が聴こえて、思わずに顔を上げた私の眼に映るのは……

観客席を埋め尽くすアルカ・ノイズ達。

それはまるで、歌女としての私を否定するかのようで。

 

「━━━━ッ!?

 ……私の歌を聴いてくれるのは、敵しか居ないのか……?」

 

『━━━━ほんとうに?』

 

「……新たな脅威の出現に、戦いの歌を余儀なくされ……

 剣に戻る事を強いられた私は……もう……」

 

どこからか、声が、聴こえる。

何故どうしてを問うその声に、何故か私の心は悲嘆を零してゆく。

 

「━━━━お父様!!」

 

かおをあげれば、そこにはおとうさまがいて。

だけど、おとうさまはわたしからめをそらして……

 

「━━━━お前が娘であるものか。

 ……どこまでも、穢れた風鳴の道具に過ぎん。」

 

━━━━幼き日の悲しい想い出だと、そこでようやく思い至る。

それでも、お父様に認められたい……だから、私は……私は、この身を剣と鍛えた……ッ!!

 

『━━━━ほんとうに、それだけだった?』

 

そうだ。それだけだ。

━━━━この身は剣。

()()()()()など許されない、風鳴の護国の七志刀(どうぐ)……ッ!!

 

『━━━━おもいだせないの?それとも、めをそらしているの?』

 

━━━━スポットライトが光る。

その光の中に、誰かが居る……隻腕だというのにスーツを着こなして、すらりと伸びた姿勢で立つ、男の人……

 

「貴方は……誰……?」

 

━━━━その顔が、わからない。姿形は見えるのに、その顔を、その声を。

━━━━《貴方》の事が、思い出せない……

 

『━━━━あなたの、いちばんのファン。忘れちゃったの?』

 

「だって……だって……ッ!!」

 

頭を抱え、(うずくま)る私は、声の言う通り目を逸らしているとしか言えぬだろう。

━━━━あぁ、そうだ……この声は……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━脳波パターンが一定しない……ッ!!

(天津鳴弥)の目の前にあるデータが示すのは、装者の脳波パターン。

シンフォギア・システムが呪いによって侵蝕される事で暴走状態を人為的に引き起こし、出力を引き上げるイグナイトモジュール……

だが、それを成す為に必要な前段階が一つある。

 

━━━━それは、装者の精神が呪いに屈服しない事。

呪いに屈服し、負の感情に呑まれればイグナイトギアは完成せず、暴走を制御する為の消耗だけが残る諸刃の剣……ッ!!

 

「システムから逆流する負荷に、二人の精神が耐えられませんッ!!」

 

「このままでは、翼さんとクリスちゃんが……ッ!!」

 

「真の暴走……ッ!!」

 

「やはり、ぶっつけ本番では……ッ!!」

 

発令所に漂う諦観。だが、それも仕方ない事だろう。

人間の精神を完全に理解し、それを利用する事など未だかつて出来てはいないのだ。

そしてその中でも、装者達が背負う物は重く、苦しい。

その苦しみに寄り添い続ける事を選んだ私達でも、それを受け止めろなどと居丈高に言う事は出来ないのだから。

 

「……違う……」

 

「……響?」

 

「━━━━だとしても、信じてあげてください。

 翼さんと、クリスさんを……」

 

エルフナインちゃんの言葉の通り、私達がすべきは信じる事……

だけど、小さく呟いた響ちゃんの言葉が、何故か私には気になって……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━ふと、目を覚ます。

 

気付けば、アタシは教室に座っていて。

黒板に書いてある二次関数のグラフとか、斜め前の席に座る鏑木の奴とか、天音の奴をぼんやりと見ていると、視線に気づいたのか、二人共がアタシに顔を向けて微笑みやがる。

 

「うぁ……ッ!?」

 

━━━━それが、なんだかこそばゆくて、アタシはつい顔を伏せちまう。

 

『━━━━たすけて……』

 

「……あ?」

 

どこからか声が聴こえて、ようやく気付く。

アタシが居てもいい所……()()()()()()()()()場所……

ずっと欲しかった物の筈なのに……まだ、違和感を覚えてしまう。

 

━━━━それでも……この春からは新しい後輩が出来た……

 

『━━━━たすけて……』

 

なのに……ッ!!アタシの不甲斐なさで、アイツ等がボロッカスになって……ッ!!

 

孤独法師(ひとりぼっち)が、仲間とか、友達とか……先輩とか、後輩なんて求めちゃいけないんだ……ッ!!

 ━━━━だって……でないと……ッ!!」

 

━━━━気が付けば、アタシはまた孤独法師(ひとりぼっち)でバルベルデの残骸の中で(くずお)れていて。

 

……その足下には、アタシを慕ってくれる後輩達の物言わぬ骸と、顔が削ぎ落された()()の遺骸。

削ぎ落されてしまったからか、誰かも分からないのに……その遺骸が放り投げられているのを見るだけで、涙が溢れて止まらない……ッ!!

 

「残酷な世界の現実が皆を殺しちまって……本当に孤独法師(ひとりぼっち)となってしまう……ッ!!」

 

『━━━━たすけて……!!』

 

あぁ、どこからか声が響く。

けれど、それは、どこかから響く物では無くて……

 

「う……うぅ……うあああああああ!!!!」

 

━━━━アタシの心が叫んでいる声なんだって。分かってしまう。

 

だから、それを誤魔化すように。その事実から逃げ出すように、アタシは遮二無二駆け出して……

 

━━━━振り抜いたその手を、掴む感触、一つ……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━すまないな。雪音の手でも握ってないと……底なしの淵に呑みこまれてしまいそうなのだ……ッ!!」

 

━━━━暴走、焦燥、幻想に呑まれた紅と蒼の少女達はしかし、お互いにその手を繋いで自らの心を必死に繋ぎ止める。

 

「へッ……かまいやしねえッスよ……お陰でコッチもいい気付けになったみたいだ……ッ!!

 危うく、あの夢に解けてしまいそうで……ッ!!」

 

だが、それは超克を意味しない。

《超人》たるを意味しない。

己の業を受け入れ、それでも尚、前を向き続ける事が出来ていない。

 

『くぅ……ッ!!』

 

━━━━故に、その結末は必定。黒赤の光は消え失せ、残る物は、ただ喪失の虚無があるのみ……

 

「……不発?」

 

━━━━その結末を不服に思うのは、少女達を想う者達だけではない。

竪琴の彼女もまた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「尽きたのか。それとも、折れたのか……

 いずれにせよ、このオレを前に大言壮語を吐いたのだ。立ち上がる力くらいは、オレがくれてやる……ッ!!」

 

そう言って、竪琴の彼女は紅い輝きを投げ上げる。

 

━━━━その輝きの魔法陣より出でるのは、巨大なるモノ。浮遊要塞型巨大アルカ・ノイズ……ッ!!

その足裏から出現するは、数多の飛行型アルカ・ノイズ達。

その威容は、猶も少女達を追い込み、怒りを立ち上がる力に変えろと言外に迫る為に。

 

「クッ……!!此処に来てアルカ・ノイズを……ッ!?」

 

「━━━━今からコイツ等は街を襲う。その毒牙は、有象無象の区別をせんぞ?」

 

━━━━それは、即ち。アルカ・ノイズの性質が発覚した当初よりSONGが最も恐れていた、アルカ・ノイズを用いた大量殺戮。

 

「やめ……ッ!!」

 

━━━━此処が、分水嶺。数多の人々を解剖し、世界を滅ぼしてでも一人を救わんとする少女の我儘が、大罪を孕む呪いと成り果ててしまう、その瞬間。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「マズい……ッ!!」

 

「装者、モジュールの使用に失敗ッ!!」

 

「……やっぱり、不完全な偽物(エルフナイン)であるエルフナイン(ボク)の錬金術では、キャロルを止める事はできない……」

 

……予想は出来ていた。人間の精神は不完全にして、未だ錬金術も科学も到達しえていない未知数の霧の中に眠っているパンドラボックス……

それを頼りに暴走を制御しようというのは、最初から博打の要素が大きかったのだ。だから、万策が尽きてしまったのも……

 

「━━━━大丈夫。可能性が総て尽きたワケじゃないから。」

 

「えぇ。私とエルフナインちゃんの《二人》で組み上げたのは、二領だけじゃあないでしょう?」

 

「未来さん……鳴弥さん……」

 

失意のボクを励ますように、二人は優しく背を押してくれる。

 

「改修した、ガングニール……でも……」

 

「━━━━大丈夫。なんとなく、分かったんだ。ダインスレイフの齎す暴走を止める方法。

 だから……ギアも可能性も、二度と壊させやしないから……ッ!!」

 

「響さん……!!」

 

━━━━病み上がりで、到底万全とは言えない筈なのに。何故だろう、彼女なら出来ると、ボクの心が叫んでいる。

だって、彼女は《彼》の……

 

「━━━━ッ!?巨大アルカ・ノイズ出現ッ!!同時に、飛行型アルカ・ノイズの多数出現も確認ッ!!」

 

━━━━そんな中、キャロルは遂に抜いてしまう。アルカ・ノイズを用いた大量殺戮という禁忌のカードを。

 

「ッ!?━━━━師匠ッ!!ドデカいの、一発かまして来ますッ!!」

 

「……あぁッ!!本部機能の全部載せだッ!!

 友里ォッ!!残りの電力を総てミサイル発射準備に回せッ!!

 藤尭ァッ!!ミサイルの軌道計算に演算を回す余裕はないッ!!……頼んだぞッ!!」

 

「了解ッ!!軌道計算始めますッ!!三十秒くださいッ!!」

 

……祈る事しか、もうボクには出来ない。

キャロルの暴走を今すぐに止める力はSONGにはもう無いのだから。

 

「━━━━コレは……ッ!?」

 

━━━━だけど。

 

「どうしたァッ!?」

 

━━━━思いと力を握って立つ人たちは、SONGだけに居るのでは無くて。

 

「━━━━各地の電力網防衛に当たっていた特異災害対策機動部が、全滅規模の打撃を受けながらも此処へ集結……飛行型アルカ・ノイズに対して対空攻撃を仕掛けていますッ!!」

 

「なんだとォッ!?」

 

『━━━━特異災害対策機動部第三小隊、対空車輌一輌、現着ッ!!』

 

『━━━━同じく第八小隊、通信車輌一輌、現着ッ!!通信網は此方が受け持つッ!!』

 

『━━━━同じく第十二小隊、八名現着ッ!!避難誘導、及び個人携行火器による対空攻撃を開始するッ!!』

 

「お前達……ッ!!

 ━━━━協力、感謝するッ!!三十秒だけ時間を稼いでくれッ!!」

 

きっと、彼等だって傷ついた筈だ。此処に姿を見せなかった三騎のオートスコアラー。

その猛威に立ち向かって……それでも、此処が天王山だと、強く応える為、少ないながらも援軍を送ってくれたのだ……!!

 

「……ですが、それでも浮遊する巨大アルカ・ノイズに対しての有効打は……」

 

果敢無い希望を胸に抱いて、それでも……其処に横たわる圧倒的な物量差。

仮令(たとえ)、特異災害対策機動部の人達が全力で救助に当たっても、今あの場に居る人々は……

 

無力感に苛まれながらも、人々が前を向き、希望を掲げた時。

 

「━━━━ウソだろ、おい……ッ!?

 ━━━━大気圏外より飛来する物体ありッ!!サイズは……1.8m(人間大)ィ!?しかもなんだよコレ……大気速度、時速一万二千キロォッ!?」

 

「一万二千キロ、だとォッ!?」

 

━━━━遥か空から、耀く星が降って来たのは、そんな瞬間だった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━微かに笑って、その()は落ちる。

赫灼たるその速度を産み出すは、ヒトの大きさに収まりながら重力を振り切る程の大出力。

かつて太母(グレートマザー)が子等に求めた躯体性能(スペック)……即ち、星々の海を渡り切る力。

 

━━━━単独での大気圏突入・離脱機能。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その骸は、超音速で宇宙(そら)を裂きながらも、本来ならば間に合うかも怪しかった。

彼女(キャロル)を止める事は出来ただろう。だが、その前に彼女が為す大量殺戮を止める事は能わなかった筈だ。

 

猛禽の如く、地表(100㎞先)の状況を()()()()彼は、自らが居なくとも《最善を目指し足掻き続けた》人々の輝きに笑みを零す。

 

そう……

 

「━━━━強く、応えてくれたんだ。」

 

━━━━隻腕の遺骸(この身)は、()()()()()()()()()()()()、彼等と共にあった天津共鳴()では無いけれど。

それでも、この身にも過去があった。時空跳躍にて彼女(キャロル)の下へと落着するまでの過去が。

かつて……極めて近く、限りなく遠い世界で紡いだ絆を、彼はただ一人(キャロル)の為に犠牲とした。

 

「……だから、今度は俺が応える番だ━━━━ッ!!」

 

━━━━加速。大気圏を鋭く切り裂いて落ちる速度をそのままに、脚に込めるのは必殺の紫電。

 

錬金戦(アルケミック・リプロダクション)闘術(マスターアーツ)……即ち、A()R()M()s()ッ!!

 火、そして風の元素混成(エレメントコンポジション)……混ざりあいしは紫電の壱ッ!!」

 

━━━━この身に刻まれた錬金術の知啓。かつて彼女(キャロル)から教わった物。

その術理を、遺骸たるこの身を構成する《情報》を焼却する事で強制駆動させ、天津糸闘流と共に撃ち放つ。

 

━━━━コレは、歌の力を喪ったこの身が、それでも護る為に拳を握る為に鍛え上げた究極融合。

 

━━━━錬金戦闘術・紫電の壱 降蹴撃・轟雷一閃━━━━

 

━━━━電磁加速(レールスライド)と、錐型力場(コーンウォール)の合わせ技によって()()された隻腕の遺骸。

 

━━━━その一撃、浮遊要塞型巨大アルカ・ノイズを、貫いて……




━━━━耀く星は言う。
キミだけの為に、俺は此処に居ると。

その背に、少女達は忘れてしまっていたモノの残滓を見る。
それは、受け入れ難かった喪失の事実。だけど、だからこそ受け入れる。
その覚悟を以て、竪琴の彼女を止めると、撃槍の少女は叫ぶ。

あぁ、見るが良い。その隻腕を聖ゲオルギウスの槍(アスカロン)で補いし、今に枯れる華よ。
この輝きこそが、本来お前が護りたかった《すべて》に相違ないのだ。
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