戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第十話 運命のリユニオン

二課本部の司令室、そのモニタに映される、あまりにも惨過ぎるこの世の残酷。それを受け止める事は、今の私には生半(なまなか)には出来なかった。

確証は未だ無い、半ば勘のような物だったが、映し出される状況はそれを裏付ける証拠を次々と吐き出してくる。

 

「ガングニール、だとォッ!?」

 

アウフヴァッヘン波形、シンフォギア装者が聖遺物と共鳴して発生させる特定振幅の波動。

それは聖遺物ごとに異なる波形を示し、その聖遺物を示す証明ともなる。

それが、ガングニールを示した。

思わず、隣に居る奏を見る。本来のガングニールのシンフォギア装者を。

 

彼女の胸にさがるガングニールのペンダントを見て、ひとまずの安心を得ながらも、防人としての自分はその残酷を肯定する。

ガングニールのギアは此処に有る。であれば、今計測されているアウフヴァッヘン波形の持ち主は、先ほどまで思考していた『新たなシンフォギア装者』に他ならないだろう。

 

それを肯定するもう一つの証拠。二課の権限でハックされた現場のカメラに映るその少女。

今日に話したばかりのその少女の名は━━━━

 

「立花、響くん……だと……!?馬鹿なッ!!」

 

司令の困惑ももっともである。ただライブ会場での事故に巻き込まれ、生死の境をさまよっただけの少女が何故、ガングニールを纏っているのか?

 

━━━━その問いの答えに、あのライブ会場で戦った私と奏、そして共鳴くんは気づいていた。

 

「……そっか。あの子はまだ、生きる事を諦めてないんだな。翼、ちょっと行って迎えに行ってやってくれないか?トモはもう行っちゃったけどさ。」

 

「……分かったわ。貴方と共鳴くんが護り抜いた希望……決して消えさせやしない!!」

 

そうして、私は走り出す。

頭をよぎるのは、数時間前に語り合った彼女の笑顔。

 

━━━━あれは、紛れも無く防人が護るべきものだ。

 

事情の細かい説明を奏に任せ、私は先行した共鳴くんに追い付く為に駆け出すのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━視界が真っ赤に染まる。

 

胸に浮かんだ言葉を唱えた瞬間、自分が誰なのかが分からなくなった。天地も、前後も、何もかもわからなくなりながらも、身体は激痛を訴える。

ナニカが私を書き換えて行く、感覚。

 

「あああああああああ━━━━!!」

 

熱が、私の中を通り抜けて行く。出て行って、戻ってくる。

思わず喉が張り裂けんばかりに叫んだ私の身体は、気づけば元の人型に戻っていた。

 

━━━━いや、違う。

 

その腕はまるでアニメに出てくるロボットのような装甲に覆われ、足元もヒールの付いたメカニカルなブーツに覆われている。視界の外でよく見えないが、耳元にも何かパーツが付いている感覚がある。

 

「え?えぇ!?私、いったいどうなっちゃってるのー!?」

 

声がしっかりと出た事に安堵しながらも、私のキャパシティを超えた出来事に思考が纏まらない。

コレじゃまるで、奏さんや翼さん━━━━ツヴァイウイングの二人みたいじゃないか。

 

「おねえちゃん、カッコいい……!!」

 

何もかもが分からなくて、不安な私の意識を戻してくれたのは、助けた女の子の声だった。

そうだ、何もかもが分からないが、これだけはわかる。最後まで、この子を護りたいと思ったのだ。

 

気づけば、胸の中に歌があった。

 

━━━━絶対に、放さない。

 

胸に湧く歌に共感しながら、女の子の手を取り、胸元に抱え上げる。

そうだ、繋いだ手があったかいから。私はそれを手放したくない。

このぬくもりを感じていたい、喪いたくない!!

 

そう思って、全力で一歩踏み出した脚は、いつの間にか空中になっていた。

 

「うぇあ!?な、なに!?」

 

そして当然、重力に引かれて私は落ちる。せめてもの抵抗にと脚を踏ん張ってみたら、なんと傷みすら感じる事無く着地に成功してしまった。

どうやらこの装甲、外見通りにアニメみたいな動きが出来るみたいで……

 

そんなことを思いながら、元居た屋上を見上げる。当然、ノイズは私達を追って落ちて来ていた。

 

━━━━触れれば、死ぬ。

 

そんな恐怖と戦いながら、タイミングを計る。

伊達に人助けに挑戦しまくってはいないのだ、スポーツならともかく、土壇場での判断力はお兄ちゃんからだって褒められた事がある━━━━!!

 

落ちてくるノイズを横っ飛びに転がる事で躱し、ノイズ達の次の行動をしっかりと見据える。

こういう時は相手から目を離してはいけない。野良犬から子犬を護った時に学んだやり方だ。

 

そして、ノイズが突っ込んで来る。二年前のあの日、お兄ちゃんに殺到した時と同じ、棒状になって突っ込んでくるノイズを先ほどのような全力のジャンプで避け━━━━!?

 

「うわわ、わわっ!?」

 

全力が過ぎてしまった私の身体は、先ほどまで居た屋上すら超え、加速したまま高くそびえるタンクに激突してしまったのだ。

 

……あまりにも感覚が違い過ぎて、身体の動きに思考が追い付かない!!

 

タンクのへこむ程の衝撃に驚き、咄嗟にタンクの外壁にしがみ付きながらも思考を回す。

それでも、胸に抱える少女を怪我無く庇えているのは、普段の人助けのお陰だろう。痛い想いだってした事があるが、それが役に立ったのだ。

 

『Guoooooo!!』

 

そんな私の目の前に現れたのは、建造物すら優に超える巨大な人型ノイズだった。

当然、狙いは私達。この凄まじい身体能力に段々と馴れて来た私はその一撃を避ける為にタンクを蹴って飛び出す。

 

「おわっとっと……!!」

 

それでも、あまりの勢いに脚がもたつく。そして、その隙を見逃さなかったのか、後ろから殺到してくる人型サイズのノイズ達。

 

「くっ……!?」

 

もしかしたら、翼さんや奏さんのように、この装甲があればノイズに触れても死なないかも知れない。

けれど、この子は違う。これだけの数のノイズを総て撃ち落とす事は不可能だろう。

あの時のお兄ちゃんや奏さんみたいに、ノイズを撃ち落とせる武器も無い。

だから、装甲が護ってくれると信じて、女の子をノイズから遠ざけて抱え込む。

 

━━━━けれど、衝撃は襲ってこなかった。

 

「……悪い、響。遅くなっちまったな。」

 

代わりに届いたのは、優しい言葉。

 

「お兄ちゃん……!!」

 

顔をあげたそこには確かに、護ってくれる人が居た。

 

「妹分を振り回したツケ、熨斗付けて返すぜノイズ共……!!」

 

あの時とは、お兄ちゃんの姿も随分変わっていた。手袋のような形で展開している、私の物と同じような装甲。

そしてなにより、強さが段違いだった。扱う糸の数も一本から大きく増え、八本もの糸を手足のように操って私達に近づくノイズを押しとどめている。

 

━━━━きっと、今までもずっと戦ってきたのだろう。

 

今日だけでは無い。自衛隊が対処したという昨日のノイズも、今までニュースの紙面を騒がせながらも未然に防がれたノイズ災害も、その裏でお兄ちゃんが戦い続けていたのだろう。

なにか、力になりたい。そんな思いを載せて、歌を歌う。

 

胸の奥から湧き上がる歌は今も続いている。

あの日も、歌が聴こえた。お兄ちゃんは帰って来てくれた。

 

だからきっと、この歌は、お兄ちゃんを助けてくれる。

そんな、確信のような想いで、女の子を抱きかかえながら、歌を歌う。

 

「……ありがとう。響。お前の歌が、俺に力をくれる。護る為の力を!!戦う為の力を!!」

 

それは、間違っていなかった。だが、その前に立ちはだかる、巨大な人型ノイズ。

私達二人を覆いつくして取り込まんとするその巨体に思わず恐怖する。

恐怖は心を揺らがせ、歌が乱れる。

……ダメだ!!歌が無ければ、お兄ちゃんを助けられない!!

 

「お兄ちゃん!!」

 

「大丈夫だ。……俺もお前も、一人なんかじゃないんだ。だから、大丈夫。」

 

思わず挙げた私の声への返答には迷いがなくて、そして、お兄ちゃんの言う通りに……

 

 

 

Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

 

 

 

空から降ってきたのは、巨大な剣だった。

 

壁か何かと見まごう程に、巨大な剣。

 

 

「……待たせたわね、共鳴くん……それに、立花さん。」

 

その剣の天辺に、彼女は居た。

風鳴翼はそこに居た。

その姿に、凛々しい立ち姿に思わず見惚れてしまう。

 

「すまない、助かったよ。翼ちゃん。」

 

「……そう思うなら、フォニックゲインを安定して用立て出来る私の現着を待たずに突っ込むのは止めてくれないかしら?」

 

「うぐっ……いや、その……コレは何と言いますか……」

 

「……ふふっ、冗談よ。私も、司令の指示より先に駆けだして来てしまったもの。彼女……立花さんを心配してね?」

 

あの巨大さはどこへやら、小さくなった剣を仕舞った翼さんはお兄ちゃんと談笑していた。

そんな会話の中に気になる所があったので、ついつい声を挙げてしまう。

 

「私を……?あ、そうだ!!お兄ちゃん!!コレっていったいなんなの!?まるで━━━━」

 

頭をグルグルと回る疑問を形に使用としたその言葉は、お兄ちゃんに遮られてしまう。

 

「ゴメン、響。もうちょっとだけ我慢してもらえるか?……響の纏うそれは、機密事項の塊なんだ。だから、まずはその子の親御さんを探してから……な?」

 

━━━━なるほど、確かにその通りであった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

特異災害対策機動部によるノイズの後始末というのは、様々な物がある。

まず一つ目は単純な物で、討伐され、炭化したノイズを回収する事。……時には、かつて人だっただろう物を回収しなければならない時もある、単純だが辛い仕事だ。コレに関しては公にも知られている仕事である為、現場封鎖などの対外作業と共に一課のメンバーが行う事が多い。

二つ目は、目撃してしまった人への口止めや、情報操作。二課の主要メンバーである情報班はこちらに多く割り振られる。シンフォギアの存在は重大な機密であり、時には米国や中国などからの略取といった強硬手段を招きかねない爆発物である為、国益だけでなく国民を護る為にも重要な仕事である。

三つ目はそうそうある仕事では無いのだが……

 

「はい。あったかいもの、どうぞ。」

 

「はぁ……あったかいもの、どうも……ふー、ふー……ほぁぁ……ほぁあ!?」

 

「何やってんだ響……ほれ、コーヒー戻すぞ?」

 

緊張が解けたのだろう。友里さんが居れてくれたあったかいものを飲んでギアが解除されてしまい、せっかくのコーヒーが台無しになる所であった。

咄嗟に手を出して回収できたのは幸運である。

 

「ご、ごめん……ありがとうお兄ちゃん……」

 

「まぁ、色々あったからな。まずはゆっくり飲んでくれ。」

 

俺と響の間に束の間流れる、ゆったりした空気。それを変えたのは嬉しい事態だった。

 

「ママ!!」

 

「……よかった。お母さんと合流出来たみたい……」

 

「だな。それじゃ、次はコッチの話だな……」

 

「えーっと、お兄ちゃん。ところで……あちらの黒服の方々は……」

 

━━━━響が言及した彼等こそ、ノイズの後始末において二課が担う三つ目の後始末。

 

「あー……すまん、響。ちょっと不自由を強いる。」

 

「へ?」

 

「すいません。これも規則でして……」

 

緒川さんの見事な早業で響の手にかけられるゴツイ手錠。その外見に違わず、司令ですら破壊するのに三十秒は掛かるという超高度なハイテク手錠である。

……因みに、司令を封じられる手錠の開発はあまりの要求スペック故に頓挫してしまった。不可能では無いが、コストに対するリターンが無さすぎて実質不可能であると研究者たちが愚痴っていた。

 

「機密だって言っただろ?だから……防諜設備の整った所にちょっと移動してからの話になるんだ。」

 

「え?」

 

「此方の皆さんはその為の護衛です。万が一にも貴女を喪う事が無いように……という我々の誠意だと思って貰えれば恐縮です。」

 

「えぇぇぇぇ!?」

 

 

かくして、立花響は諜報班の黒服の皆さんと共に二課本部へと移送されてゆくのであった。ちゃんちゃん。

 

 

 

 

「ちゃんちゃん。じゃないってば!!っていうかここ……リディアンじゃない?」

 

「そう。そんで、教員が詰めるここ中央棟には……結構用事がありそうだなぁ、響の場合。」

 

「ちょっとお兄ちゃん!?流石にまだ入学二日目だから呼ばれてないよ!?」

 

「……ふふっ、本当に仲がいいのね、貴方たちは。」

 

「まぁ、昔からこんな感じだからなぁ。流石に響相手に肩肘張るのはもう諦めた。」

 

「うぅ……未来もお兄ちゃんも、皆して私を弄って翼さんとの話のダシにしていく……」

 

そんな事を話しながらも足取りは軽く。身柄を拘束しているから場を和ませようと道化に回ったのだが、どうやら上手くいったようだ。

 

「エレベーター……?」

 

「ま、他にも入り口はあるけど今回はこっからだ。」

 

そう言っている間に、緒川さんが通信機を使ってエレベーターのロックを解除し始める。

 

「うぇ!?なに!?なんなの!?」

 

「掴まった方がいいわよ。大分引っ張られるから……」

 

「掴まる!?引っ張られる!?」

 

「あーはいはい、ほれ響。俺の腕に掴まれ。」

 

「あっ、はい……ってなんでぇぇぇぇぇぇ!?」

 

このエレベーターは二課本部を貫く巨大なシャフト、その内部に設置されている。しょーじき安全基準とか大丈夫なのか?と疑問を覚える時もあるが、まぁ二課本部そのものが櫻井女史の手による物であるのだから、出自はともかく、その完成度は高いレベルが維持されている。別段心配する必要も無いだろう。

 

「うわぁ……なにこれ……すっごい……」

 

「……そういや、ここの模様って結局なんなんですかね?」

 

「了子さんによると、異端技術によって強度を確保した結果。だ、そうですよ?」

 

「地下とはいえ全長1キロの構造物ですもんねぇ……」

 

「1キロ!?そんなに潜るの!?」

 

「あぁいや、俺等がいっつも使ってるのは数百メートル地点の浅い層が基本さ。下の階層は、俺もあんまり見た事がない。」

 

「ほへぇ……」

 

エレベーターのスケールに圧倒されながらも、響はしっかりとこれからの話を理解しようとしてくれていた。その成長が、彼女の兄貴分としてとても嬉しかった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「ようこそ!!人類守護の砦!!特異災害対策機動部二課へ!!」

 

弦十郎のダンナがやらかした歓迎会に、その少女は面食らっていた。まぁ当然だろう。いきなりの覚醒に、身柄の確保と来てのコレだ。

 

「はぁい、じゃあお近づきの印にツーショット写真を……」

 

了子さんがいつも通りのノリでするりと懐に入るのを、その少女は上手く躱してこう言った。

 

「えぇ!?い、嫌ですよ!!手錠をしたままの写真なんて、きっと嫌な想い出になっちゃいます!!」

 

その言葉に、強い納得を感じる自分が居た。幸せな想い出と、嫌な想い出。確かに、思い出す物によってその視点は変わる。

 

「了子さん、それくらいにしておきなって。」

 

「はーい。」

 

「久しぶりね、響ちゃん。」

 

「おっす、響。二年ぶりだな。」

 

「━━━━奏、さん?」

 

アタシを見た時のその少女の顔は、まさにハトが豆鉄砲を喰らったような物だった。まぁ、世間的には今だ回復の見込みは無いとされている、死人も同然なアタシだ。衝撃も大きかろう。

 

「奏さん……奏さん!!」

 

「おっと!!その前に。」

 

「だぁ!?うー、いたた……」

 

感極まって飛びつこうとしてきたその少女━━━━響には悪いが、流石に今のアタシの身体だとその手錠付きだとどうにも受け止め切れそうにない。鳴弥さんに車椅子を動かしてもらって避けたアタシは、緒川さんに頼む事にした。

 

「緒川さん、この手錠取ってあげて。」

 

「はい。」

 

「あいたたた……あ、ありがとうございます……」

 

「いえ、此方こそ失礼しました。」

 

「悪いね。」

 

「あ、いえ……えーっと、改めて……お久しぶりです。奏さん。私、立花響って言います。」

 

「あぁ、トモから聞いてるよ。……それと、ありがとう。あの日からずっと、生きる事を諦めないで居てくれて。」

 

「はいッ!!……あ、アレ……なんでだろ……涙……アレ……?」

 

「よしよし、よく頑張ったなー。」

 

あの日の生存者が良くない待遇を受けていた。というのはトモから聞いていた。腕こそ無いけれど、アタシの胸に抱き寄せてやったその温もりを確かに感じる。ちょっと体温高めかな?

 

 

 

 

「……さて、改めて自己紹介させてもらおう。俺は風鳴弦十郎。ここのトップをやらせてもらってる。」

 

「そして、私はデキる女と評判の櫻井了子よ。よろしくね?」

 

「天津家のメンバーとは面識があるし、一気に何人も覚えるのは難しかろう。そっちはおいおいで構わない。」

 

閑話休題(それはそれとしておいといて)。メンバーの自己紹介から話はスタートしていた。と言っても、弦十郎のおっちゃんと了子さんが主体だったが。

 

「はぁ、それで……結局、あの時私に起こった事って、いったいなんなんですか?」

 

「……それについてなんだけど、正確に知る為に少しばかりお願いがあるの。確度の高い予測は出来てるのだけど、確定では無いから身体検査を受けてもらうのと……今日の事は誰にも言わない事。お願いできるかしら?」

 

「えーっと……国家特別機密事項……でしたっけ?とりあえずわかりました……」

 

「よーし!!それじゃあメディカルルームへレッツラゴー!!」

 

「なんでぇぇぇぇ!?」

 

━━━━それは、嵐のような光景だった。

 

「了子さんは相変わらずだねぇ……おや、トモ。用事は済んだのかい?」

 

「……あぁ、アリバイ作りは成立。母さん、響のメディカルチェック、立ち会ってもらえる?奏さんは俺が世話しておくからさ。」

 

「えぇ。……まぁ無いとは思うのだけれども、嫁入り前の響ちゃんに何かあったらご家族に顔向けできないし……」

 

「了子さんってばスキンシップが派手だからなー。」

 

「じゃあ共鳴、奏ちゃんの事、お願いねー」

 

そう言って、鳴弥さんもメディカルルームへと去って行く。

 

「……さて、では此処に残ったメンバーで真面目な話と行くか。」

 

「緒川さん、米国からの干渉は?」

 

「今の所は見られません。どうやら響さんの覚醒は米国側のシナリオの外だったようです。」

 

「……ふぅ、とりあえず第一関門は突破、か……それにしてもまさか、あの時響を貫いた瓦礫がガングニールの破片だっただなんて……」

 

「ま、それ以外に理由は考えられないよな。けどさ、こうは考えられないか?ギアを纏えないアタシの代わりに、ガングニールの装者が現れてくれた……ってさ。」

 

「それは……」

 

アタシの言い分に黙り込む男衆。どーせあの子には責任など無いとかああだこうだと、過保護な事を考えているのだろう。

 

「言っておくけどな。お前さん等がそうやってあの子を保護しようなんて思ったって、あの子にはしっかりとした力があるんだ。それをどう振るうか、責任を背負うかどうかを決めるのはあの子の意思だ。

 ……だから、アタシとしてはあの子の選択を尊重したい。それに、過保護にされると後が怖いぞ~?翼みたいにさ。」

 

「ちょっ、奏!?いきなり私を引き合いに出すのは……もう……私としては、彼女を関わらせるのは反対なのだけれど……」

 

「といっても最近はやけにノイズが多いからなー。もう翼一人だけじゃ首が回らなくなってきてるじゃないか。」

 

「うっ……」

 

「そこまでだ。……これ以上は平行線だろう。結論は後日、響くんのメディカルチェックの結果を見てからとしよう。その結果と、彼女の意思。その両方を鑑みて今後の方針を決める。それでいいな?」

 

「……はい。」

 

トモは、浮かない顔をしていた。まぁ、当然と言えば当然だろう。

トモと話している時にお互いの身の上話になると、決まって出てくるのが彼女━━━━立花響と、その親友の小日向未来なのだ。幼馴染の妹分が戦いに出るなど……というのは、年長者としては当然の結論であると思う。

 

けれど、あの子は降って湧いた力に振り回されながらも、最後まで生きる事を諦めなかった。不格好でも、不器用でも、最後まで戦い抜いたのだ。

……アタシは、それを信じたい。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

もう夕方になるというのに、響が帰ってこない。街にはノイズ出没の警報が流れているという。

不安も高まるそんな時に、掛かってきたのはお兄ちゃんからの電話。私は、すぐさま電話に出る。

 

「……お兄ちゃん!?今どこに居るの!?」

 

『ああ……ちょっと野暮用で。ただ、ノイズは来ない所に居る。安心してくれ。ところで、響は?一緒じゃないのか?』

 

「……それが、翼さんのCDを買いに行って……まだ帰ってこないの……」

 

『そうか……もしかしたら、別のシェルターに居るのかも知れない。シェルターに関してはウチの支援団体の都合で融通が利くから、コッチの方でも探しておくよ。……響なら、きっと大丈夫さ。』

 

「うん……」

 

 

それから、数時間が経った。ノイズの警報もすっかり解除され、世間はすっかり日常に戻った頃、掛かってきたのはまたもやお兄ちゃんからの電話。

 

「もしもし、お兄ちゃん……?」

 

『あぁよかった……未来。響と連絡が付いたよ。どうにも無茶してノイズ警報の近くで避難誘導をしてたらしい……』

 

「そんな……!?危ない事はやめてってあんなに……」

 

『……目の前で、ノイズから逃げる人達と、出逢ったみたいで、さ……今回は運よくシェルターまで逃げ切れたから無事だったんだけど、寮から離れた場所のシェルターに逃げちゃったから、ここまで連絡が遅れちゃったみたい。』

 

「もう……心配かけるんだから……」

 

そうも言われてしまえば、立花響は引き下がれなかったのだろう。と納得はする。けれど、ノイズに触れられれば人は死ぬのだ。

……出来れば、そんな無茶はもう止めて欲しい。

 

『……それで……相談、なんだけどさ。響に、ウチの支援団体でボランティアしてもらおうかと思って。』

 

「ボランティア?」

 

『あぁ……最近、ノイズ出没が増えてるだろ?だから、それに対する対策として、特異災害対策機動部の他にもシェルターへの誘導を行う人が居るべきなんじゃないか……って話が持ち上がってて。

 勿論、ノイズの発生場所から離れた所に配置されるから……響がノイズの犠牲者を放って逃げる事はあり得ないだろうし……むしろ、コッチの方である程度面倒を見てコントロールした方がいいんじゃないかな……って、ちょっと思ってさ。』

 

「……確かに、響は目の前の人の事、放っておけないだろうし……うん。わかった。この事、響には?」

 

渡りに船、とはこの事だろう。お兄ちゃんが面倒を見てくれるというのなら、響が無茶をしても死の危険からは遠ざけられる。

 

『あー、まだ話してない。』

 

「わかった。じゃあ、お兄ちゃんの方からちゃーんと響に伝えてね?隠し事は無しだよ?」

 

『……了解しました、お嬢様。』

 

「ふふっ、流石にお嬢様は無いでしょ?」

 

心配していた心が少しだけ軽くなるのを感じながら、私は改めて響を待つ事にしたのだった。

 

 

 

 

「ただいまぁ……」

 

「おかえり、響。……心配したんだからね?」

 

「うっ、ごめんなさい……」

 

「……ふふっ、お兄ちゃんからちゃんと連絡があったから今回は許します。ただ、次からは出来ればちゃんと連絡してね?」

 

「はーい……」

 

「ほら、とりあえずご飯食べよ?」

 

「未来のごはん!?食べる食べる!!」

 

……やっぱり、響と一緒だと嬉しいな。

そんな風に思って準備していると、つけっぱなしだったテレビから流れてくるニュース。

それは、翼さんが海外進出するかも知れない。という物。

 

「……やっぱり、翼さんも海外進出したいのかなぁ?」

 

「どうだろう?でも、アーティストとしては世界に羽ばたく、っていうのは一つの夢であり、目標だと思うよ?」

 

「……未来も、そういう理由でピアノを習ってるの?」

 

「ふふっ、私は……流石にそこまでじゃないよ。私の場合はむしろ、世界になんて聴かせる気はないもの。私のピアノは、せいぜいお兄ちゃんとか、響とか……そんな、身近な皆に届けられれば、それで十分。」

 

「……そっか。色んな考え方があるんだ……」

 

「うん。そうだよ。」

 

━━━━私がピアノを選んだ理由。それはやっぱり、響とお兄ちゃんのお陰なのだ。

陸上部で伸び悩んでいた私に、別の道がある事を示してくれた二人。

 

高校への進学など、変わる環境は多いし、ボランティアのようにこれからもきっと変わって行くのだろう。

 

━━━━けれど出来れば、こんなあったかい日々が永遠に続くといいな。と思ってしまうのでした。




どこまでも、過保護な男衆なのでした

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