戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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一部に関して自主規制によりノイズが走っている部分が御座います。ご理解の程よろしくお願いいたします。


第二十一話 歪みのバックラッシュ

とぼとぼと、夕暮れに染まり始めた町を歩く。

足取りは重く、気持ちもまた重い。

 

ぐるぐると頭の中を空回る思考。

響とお兄ちゃんが遠ざかって行く感覚。

響との約束を楽しみにしていたのに、という殆ど理不尽な怒り。

響が私に隠し事━━━━ツヴァイウイングの二人の立場を考えれば当然だが……をしていた事。

 

くうくうと空いたままのお腹を抱えて、ふらわーに辿り着く。

 

「いらっしゃい。」

 

おばちゃんは、いつも通りに笑って迎えてくれた。

 

「こんにちは……」

 

「おや?いつも人の三倍は食べるあの子━━━━響ちゃんだっけ?あの子は、一緒じゃないのかい?」

 

「……今日は、私一人なんです。」

 

「……そうかい。んじゃ、カウンターにお座りよ。おばちゃんも今日は何故か人が寄り付かなくなってて困ってたとこサ。」

 

「ありがとうございます……」

 

きっと、おばちゃんは気づいているのだろう。けれど、そこに深く突っ込んでは来ない。

大人だなぁ。と、空腹でぼんやりした頭で思う。

 

━━━━おばちゃんみたいに大人になれば、響やお兄ちゃんに抱いているこの気持ちは整理できるのだろうか?

 

手際よくお好み焼きを焼き始めるおばちゃんを見ながら思う事は、結局降り出しに戻る。

ぐるぐる、ぐるぐる、空回り。このままじゃ私、バターになっちゃいそう。

 

「響ちゃんが来ないなら……その分、今日はおばちゃんが食べちゃおうかねぇ?」

 

なんて感心していたのに、結局軽口が飛んで来る。

 

「食べなくていいから焼いてください。」

 

……あぁ、なんて無様なんだろう。私。

おばちゃんは何も関係無いのに、なんでもない軽口にムカッと来て、とげとげした言葉をぶつけてしまうなんて……

 

「あらら。やっぱりダメか。あははは。」

 

「……お腹、空いてるんです。今日はおばちゃんのお好み焼き食べたくて、朝から何も食べてなくて。」

 

バカみたいだな、私。その日にいきなり切り出したって、今日みたいに響の用事が入る可能性があるって分かってた筈なのに、こんなに浮かれて。

 

「……お腹空いたまま考え込むとね?嫌な事ばかり浮かんでくるもんだよ。」

 

……それは、いつか言われた言葉。あぁそうだ、あれは確か……

 

「……それ、お兄ちゃんも言ってました。親戚から教わったんだ。って言って。

 ……私と、響と、お兄ちゃんの三人で街まで遊びに出て迷った時、そういって甘い物奢ってくれたんです。」

 

「ふふっ。トモちゃんてば昔から変わらないねぇ……」

 

「……ご親戚だったんですね。」

 

「そうさね。天津のお家の……分家の、更にそこから嫁に出てった放蕩娘、って辺りだけどね?

 あの子、昔っから背負いこむから、未来ちゃんもあの子のやり口で気に入らない事があったらガツン!!と言っておやり?

 天津の男ってのはどいつもこいつも頑固揃いだからね。自分で決めた道を自分で貫くって言えば聞こえはいいけど……それは同時に、絶対に護りたい人を巻き込みたくないって我儘なのサ。」

 

……巻き込みたくない。あぁ、そうか。お兄ちゃんは、響をボランティアに参加させるのもなんだかんだと渋っていた。

きっと、お兄ちゃんは響を巻き込みたく無くて、響は私を巻き込みたくないのだ。

 

━━━━ちゃんと話さないとな、と思う。

 

私だって、二人と同じように響やお兄ちゃんに危ない事をしてほしく無いと思っているし、二人の力にだってなりたいのだ。

 

「……ありがとう、おばちゃん。」

 

「何かあったら、またおばちゃんの所においで。ほら、丁度良くおばちゃん特製お好み焼き、一丁上がりサ!!」

 

「わぁ……!!いただきます!!」

 

まずはお腹を満たして、それから、まずは響と話し合おう。私の想い、間違いなく響に届けられるように。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「はぁ……!!スッキリしたー!!」

 

歌って、語って、そうやって想いを出し切った奏が笑っている。

それは、私にとっても嬉しい事だ。

二年もの眠りから覚めて、四肢も、シンフォギアという力までも喪った奏。

そんな彼女が精一杯だった私に優しくしてくれる事に感謝しながらも、当の彼女自身は大丈夫なのか?と薄々は感じていたのだ。

 

「もう……はしゃぎ過ぎよ、奏ってば。」

 

「だってさ。歌を思いっきり歌うと気持ちいいじゃんか。響もそう思うだろ?」

 

「はい!!全力で、全開で歌うとすっごい疲れますけど、すっごい気持ちいいです!!」

 

「……はぁ。ガングニールのシンフォギア装者は皆してこうなっちゃうのかしら?」

 

「こうってなんだよこうってば……あ。」

 

そんな、微笑ましい一幕を引き裂くのは、可愛らしい腹の虫の音。

 

「……あ、そうだ!!奏さんも病院食ばっかりじゃ飽きちゃいますよね?私、いいお店知ってるんです!!お持ち帰りしてきますから三人で食べましょうよ!!」

 

「……もしかして、ふらわーのお好み焼き?」

 

お持ち帰り、という辺りでふと思い当たる店があった。その予想を告げて見れば、返ってきたのは肯定の返事。

 

「はい!!翼さんも行った事あるんですか?」

 

「いいえ。私は残念ながら行った事は無いのだけれど……鳴弥さんから聞いた事があるのよ。『お腹が空いたままだとロクな考えが浮かばない』って教えてくれたってね?」

 

中々予定が合わずに行けないままだったウワサのお店。なるほど、その味を試せるというのなら丁度いい。日も傾いて来た頃で時間もまた良い。

 

「それですそれです!!けだし名言ですよねー。」

 

「なんでもいいけど、お持ち帰りしてくれるってんなら頼むけど、お腹と背中がくっつきそうだから出来るだけ早めにお願いするぞー?あ、お代は後でアタシが立て替えるから、悪いけどとりあえずの支払いは響よろしく。」

 

「はい!!まっかされました!!」

 

そう言って、駆けだしてゆく立花さん。

その背を見送って、奏と二人、屋上の風に吹かれる。

 

「……ゴメンな、翼。今まで虚勢張ってて。」

 

立花さんの姿が見えなくなってすぐ、此方に向き直った奏が私に掛けて来た言葉は、謝罪。

 

「ううん。大丈夫だよ奏。防人としての私も、きっとまだ虚勢が混じっているのだもの。むしろ、その虚勢を虚勢とちゃんと明かしてくれた事の嬉しさの方が勝ってるから。」

 

きっと、それが奏の本音だと分かるからこそ、私もまた本音を返す。

 

「……ホントは、ずっと怖かったんだ。ツヴァイウイングとしての歌も、ガングニールのシンフォギア装者としての槍も、今までのアタシを支えていたモノが、翼以外なんにも無くなって……」

 

……奏の独白に、胸が締め付けられる。

 

「……私も、あの事故の後すぐには立ち直れなかったわ。……ううん。本当なら、まだ立ち直れてすら居なかったかも知れない。けど……」

 

「……トモが居てくれた。だろ?わかるさ。アタシだって似たようなもんだったんだから。」

 

「えぇ。共鳴くんが居てくれた。隣に立って、私と同じ目線に立とうとして、真っ直ぐに見つめてくれた。」

 

━━━━もしも、共鳴くんが居なければ。なんてことを思うのは、ソーマに見せられた夢のせいだろう。

 

もしも、共鳴くんが居なければ、私は一人、剣と化していただろう。

もしも、共鳴くんが居なければ、私は立花さんを認められなかっただろう。

もしも、共鳴くんが居なければ、奏の心が傷ついていたことにすら気づけなかっただろう。

 

「……不思議だと思ってたんだ。同じ二課に所属してるとはいえ、どうしてわざわざ、装者で無くなったアタシに構い続けるのかって。

 ……トモは、最初からアタシの事を、手を届けたい誰かだと思ってたんだな。」

 

「えぇ……きっと。」

 

それからの私達に言葉は無かった。けれど、それは居心地の悪い物では無く、むしろ心地いい物だった。

 

━━━━だが、それを切り裂くのは、私の端末への着信音。

 

「……奏は本部へ!!」

 

「あぁ……気を付けてな、翼。」

 

「えぇ……行ってきます。」

 

奏に見送られて、私は空を舞う。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「すいません。合流が遅れました。」

 

廃棄されたと思しき事務所で、諜報部のメンバーと合流する。突入はやはり早期に終結していたらしく、残っているのは緒川さんと後始末班くらいの物だった。

 

「いえ。今回はむしろ正解でしたよ。見ての通り、突入前からもぬけの殻でした。襲撃に使われた偽装トラックの元の持ち主もダミーカンパニー、そして、その会社の事務所はこの始末……」

 

「随分周到ですね……やはり、襲撃それ自体が米国の益になったというワケですか。」

 

「でしょうね……事務所に残されていた予備の防弾チョッキも製造番号その他は全て消去されていました。単純な過激派テロとは格が違い過ぎます。」

 

「それで……当の本人たちはどこへ……?」

 

武装した特殊部隊が市井に紛れ込んでいる。となれば当然、それは一般市民達への脅威となる。

大臣暗殺だけでは無い別の目的があるが故に、彼等は未だ潜んでいるのだろう。だが、その理由が分からない。

 

「……偽装トラックがもう一台止まっていた形跡がありました。ご丁寧に、タイヤ、塗装、ナンバープレートまで、襲撃の後にここで改造して出ていったようです。そうなれば追跡は困難ですが……」

 

「……襲撃後に再改造した、という事は、今彼らが動いているのはメインプランでは無い……という事ですね?」

 

ただの逃走用なら、無関係を装えるトラックを最初から用意しておくだろう。であれば、この急遽の大改造はバックアッププランへの移行を示している。

 

「えぇ。そして、大臣暗殺こそがメインプランであったとするなら、恐らくですがバックアッププランは同じく個人への攻撃に限られるでしょう。メインプランの為の装備とバックアッププランの為の装備が違い過ぎては運用にも支障が出ます。」

 

もしも、彼等の目的がテロリストのような大量虐殺による日本への攻撃であるならば、銃を使うよりもガス兵器やBC兵器を使えばいい。だが、それをしないという事は、市民へと積極的危害を加える可能性はかなり低いだろう。

 

「……ふぅ。なら、ひとまず安心ですね。」

 

「と言っても、ナンバープレートどころかタイヤまで取り換えられてはお手上げですよ。ミーティングに使ったと思われる資料も大半が見事に焼き払われていました。唯一残ったのはこの書類の切れ端だけです。」

 

そう言って緒川さんが見せてくれたのは、資料の一部だけだった。

 

「なになに……?八年前━━━━コロンビア経由で━━━━現地組織に拘束。その後、協力者(あの女)によって救い出され━━━━今回の作戦においては第三ターゲットとして異端技術(ブラックアート)・━━━━?」

 

━━━━断片的な情報だ。にも拘わらず、俺の心を刺激するナニカがある。

 

「恐らくはバックアッププランの重要対象の情報資料では無いかと……共鳴くん?」

 

「八年前……コロンビア経由で、陸路にてバルベルデへと入国。現地でテロに逢い夫婦は死亡……しかし、娘は生存しており、現地組織に拘束……異端技術・ネフシュタンの鎧を持つために優先保護対象とする……?」

 

「……それって、まさか!?」

 

ちょうど、数日前に話題に挙げたばかりの人物だ。忘れるワケが無い。

 

「……緒川さん!!本部へ連絡を!!ネフシュタンの少女の正体は━━━━雪音夫妻の娘、雪音クリスちゃんです!!」

 

穴だらけだった過去が、現在へと繋がって行く感覚がある。認めたくはないが、まるで運命に導かれるかのように俺達天津家の心残りが集っていた。

その中心にあるのは、完全聖遺物・デュランダルと、ネフシュタンの鎧。そして、あの詳細不明の杖の聖遺物。

俺の端末へと緊急事態を告げる連絡が叩き込まれたのは、その瞬間の事だった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

丘の上から降りて行く道の途中、本部からの着信を受ける。

 

『彼女はリディアンへ向けて市街地を直進中だ!!出来るだけ郊外へ誘導しつつ戦うんだ!!』

 

「はい!!わかりました!!すぐに向かいます!!」

 

返事を返した瞬間、曲がり角の先から現れたのは未来だった。

 

「あ、響!!私……響に伝えたい事が……」

 

なにかを伝えようとして駆け寄ってくる未来。けれど……

 

「未来!!危ないからこっちに来ちゃダメだ!!」

 

「お前がァァァァ!!」

 

空から飛んで来る蛇が、坂道へと炸裂する。

ネフシュタンの鎧の鞭状の武装パーツが、私と未来の間を大きく抉る。

 

「きゃああああ!!」

 

あの日、二週間前の私のように、分断され、吹き飛ばされる未来。

 

「しまった!?アイツの他に居たのか!?」

 

意識の片隅に聴こえる声に、少し安心する。ネフシュタンの少女も、無関係な人を巻き込むのは本意では無いと分かって。

 

━━━━けれど、それに安堵する前に助けなければならない人が居る。

 

先ほどの衝撃で飛ばされた未来に飛来する車。同じくネフシュタンに吹き飛ばされたその鉄塊が、未来へと迫っている。

 

「━━━━Balwisyall nescell gungnir tron(喪失へのカウントダウン)

 

未来の命を喪わない為に、未来の信頼を失う事となっても構わない。そんな思いを握りながら、聖詠を口ずさむ。

変身、そして対処。アッパーカットにより車を除ける。

……未来の顔は、見れない。

 

「……ひび、き……?」

 

驚いた声がする。それは当然だろう。変身して車をぶん殴るなんて、そんな非日常は到底受け入れられる物では無い。

 

「……ゴメン。」

 

駆けだす足に迷いは無い。けれど、私の心は曇り模様だ。

ゴメンって言葉は、いったいどれに関してだ?

巻き込んでしまった事?約束を破った事?秘密にしていた事?

━━━━それとも、命を懸けていた事を?

 

そんな私の胸の内から溢れる歌は、けれど今までとはその様相を変えていた。

メロディーラインは、先ほど奏さんが歌ってくれた、出し切ってくれた曲そのもの。

けれど、歌詞が違う。燃え尽きるまで走り続けんとした奏さんの歌と、私の歌は違う。

 

━━━━私ト云ウ 音響キ ソノ先二

 

そのメロディーを胸に、私はネフシュタンの少女を挑発する。

 

━━━━こんな所で戦うのは、お互い本意では無いだろう。

 

「どんくせぇのがいっちょ前に挑発のつもりか?いいぜ、乗ってやらァ!!」

 

思った通りだ。彼女は私に着いてきてくれる。それを頼りに、郊外の森の中へ。

 

「ちょせぇッ!!」

 

だが、いつまでも逃げ続けられるワケでは無い。やはり戦術とリーチでは向こうの方が上のようで、着地の瞬間を狙われてしまう。

 

「クッ!!」

 

それを腕で防ぐ。絡めとられないように丁寧に。鞭状の武器に絡めとられれば、私の武器(こぶし)はその力を発揮しきれない。

 

「どんくせぇのがやってくれる!!」

 

「どんくさいなんて名前じゃない!!」

 

「はぁ?」

 

呆れたような顔。そうじゃないと言いたいのだろう。けれど、此方にとってもそうではない(・・・・・・)

 

「私は立花響!!十五歳のO型で、誕生日は九月の十三日!!

 身長はこないだの計測では157㎝!!体重は……もう少し仲良くなったら教えてあげる!!

 趣味は人助けで、好きな物はご飯&ご飯ッ!!

 ……あと、彼氏居ない歴は年齢と同じッ!!」

 

一気に、私のパーソナルデータを開示する。

どうせ、向こうは私やお兄ちゃんについて色々調べているみたいなのだ。だったらぶちまけたって問題無い!!むしろ、知ってもらいたいのだ。

……ただ、彼氏居ない歴に関しては余計だったかも知れない。そもそも、私の場合、中学時代はイジメで散々になってしまったし、リディアンは女子校だしで出逢いが少ないのだ。

それこそ、お兄ちゃん以外に親しい異性などいないワケで……いや、止めよう。コレを抱えたまま戦うのは目の前の彼女にとっても失礼だ。

 

「私達はノイズとは違う!!言葉が通じ合うんだから、話し合いたい!!」

 

それでも、この想いはぶつけなければならない。言外にぶつけるのはただ一つ。

『戦う必要は無い』という、それだけの物だった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「なんて悠長!!この期に及んで!!まだ!!そんな戯言をッ!!」

 

あたしは、それを新手の挑発だと判断する。

命を懸けた戦場(いくさば)に立ってなお戦う必要は無い、だと?

ふざけるな!!お前には戦う必要が無くとも、あたしにはある!!

 

━━━━だが、そう思って振るうネフシュタンの鞭はアイツを捉える事が出来ないで居た。

 

明らかに成長している。それも、前回よりも遥かに。

何が変わった?技か?力か?

……いや、違う。目が違う。コイツは、覚悟が変わったのだ。と直観する。

 

「話し合おうよ!!私達は戦っちゃいけない!!」

 

━━━━ああ、イライラする。

 

歯を食いしばり、思う。コイツの言葉は綺麗事だ。

所詮、現実を知る事も、その無慈悲の前に折れる事すら知らない、無垢な思想でしかないのだ。

 

━━━━だというのに、その言葉が、パパの想い出と重なる。

 

「だって、言葉が通じていれば人間は……」

 

「うるさいッ!!」

 

お前のような世間知らずの綺麗事が、あんな悲劇を産むんだ。

 

「言葉が通じようと、想いは通じねぇ!!そんなにお行儀よく出来るモノかよ人間がッ!!」

 

━━━━だって、私はあんなにも拒絶したのに、誰もヤメテなんてくれなかった。

 

「気に入らねぇ気に入らねぇ気に入らねぇ!!なにも知らないクセに他人に土足で踏み込んで来るお前がァッ!!」

 

彼氏居ない歴だと?ふざけるな。私が持てなかったモノ(・・)を見せつけるな……!!

 

「分からないよ!!だって、何も聞けてないもの!!だから教えて!!貴方が戦わなきゃいけない理由を!!」

 

「教えるかよそんな物!!お前を引きずってこいと言われたが、もうそんな事はどうだっていい!!テメェをここで引き潰す!!テメェの総てを凌辱し尽くしてからゆっくりと連れて行く━━━━ッ!!」

 

━━━━NIRVANA GEDON

 

ネフシュタンに秘められた無限のエネルギーを直接叩きつける破壊の暴風。それを放つ。

 

「させないッ!!」

 

拳で相殺しようとする姿勢はご立派。だが甘ぇ。

 

「もってけダブルだッ!!」

 

あの刀女のように一撃では対応されるというのなら、即座に二撃目を叩き込む。

単純だが、だからこそ強力な策。

 

着弾、そして炎上。

 

「お前のようなお花畑が居るから……あたしのような悲しみしか知らない奴が……ッ!?」

 

だが、必殺を期しての策は、力任せに破られる。

アイツは、未だそこに立っていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

二発目が飛んできた時、咄嗟にアームドギアを形成しようとするエネルギーを前面に放出させた事で、その直撃を躱す事が出来た。

 

━━━━けれどダメだ。やはりアームドギアが形成出来ない。

 

「まさか、アームドギアを形成しようってエネルギーで相殺しきったのか!?もうそこまでに!?」

 

驚く少女の声を聞きながら、三度目の正直を願う。二週間前と、そして今日と。三度目は、今だ。

けれど、エネルギーが纏まらない。形を成さない。私は、武器(こぶし)を握りたくない。

 

『……だったら、その想い全部、直接ぶつけてやったらどうだ?偶にはそんな直球解決があったっていいだろ?』

 

そんな折に脳裏に響くのは、奏さんからもらったアドバイス。

アームドギアを形成する筈のエネルギーが形を保てないなら……ッ!!

 

「させるかよ!!」

 

飛んで来るネフシュタンの双鞭、だが、それは怒りに任せた故か真っ直ぐだった。

怒りに任せた攻撃は、確かに強いが読みやすく対処されやすい……これも師匠の戦術マニュアルから学んだ事だ。

 

「なんだと!?」

 

双鞭を掴んだ左手で、雷土を握りつぶすように強く握りしめ、思いっきり引きずり込む。そして同時に、私も腰のバーニアによって前へと加速する。

速度を上げに上げたこの拳……ッ!!

 

━━━━最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線にッ!!胸の響きを!!この想いを!!伝える為に━━━━!!

 

「はああああッ!!」

 

師匠の拳に勝るとも劣らぬ一撃だ。という自負がある。

今の私が紡ぎ出せる最高の一撃だ。という自信がある。

 

その想いに応えるように、拳に込めた威が、力を放った。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「があああああッ!?」

 

━━━━なんて無理筋!!なんて御無体!!

 

アームドギアを形成するエネルギーを、すべて一発の拳に込めてぶち込みやがった!!

森の木々毎薙ぎ払い、あたしを崖に叩きつけてなお壁を砕いたその衝撃!!

あの女の絶唱にすら匹敵するそのパワーに、あたしは驚愕の念が隠せない。

 

ネフシュタンの鎧は確かに無敵では無い。再生する完全聖遺物とはいえ、再生する際に肉を喰い破る同化というリスクがある。

だが、それ以前の話。破壊力という一点においてはかつての先史文明すら上回る。とフィーネすら言う、現代兵器が誇る最強の存在。

反応兵器クラスの戦略火力で無ければネフシュタンを破壊する事は到底不可能と言っていたのだ!!

それを、まるで薄紙を引きちぎるみてぇに拳一発で破壊しやがった!!

 

……内側から喰い破られる前に、決着を着けなければならない。コイツは気に入らねぇし、許せねぇ。

 

━━━━だというのに、目の前のソイツはアタシを倒す絶好の機会を暢気に歌って見逃した。

 

「お前……!!馬鹿にしているのか!?このあたしを!!雪音クリスを!!」

 

思わず口に出してしまう程に、あたしは怒っていた。

コイツの行動のいちいちがあたしの逆鱗(げきりん)を撫でていきやがる……!!

 

「そっか。クリスちゃんって言うんだ……」

 

「ッ!?」

 

━━━━コイツ、この期に及んでまだ最初の御託を忘れちゃいねぇのか!?

 

怖気(おぞけ)すら感じる程の馬鹿さ加減に、怒りを通り越して呆れそうになったあたしの逆鱗はしかし、

続いたアイツの言葉に真っ直ぐにぶち抜かれた。

 

「ねぇ。クリスちゃん。貴方が戦う理由を教えて?ノイズと違って、私達は言葉が通じる!!話あえる!!

 ちゃんと話をして、理由をすり合わせればきっと戦わずに済む!!だって、私達同じ人間なんだよ!!」

 

━━━━フラッシュバックする、封印した記憶の揺り戻し(バックラッシュ)

 

『いいかい、クリス?歌は、世界を平和に出来る大事なツールなんだ。喩え言葉が通じなくとも、歌は、心の震えは人々の心を打ち、感動を与える。

 きっと……だから僕達は、時を重ねてもなお、原初の鼓動に歌を感じるんだ。

 ━━━━だって、それもまた愛なんだから。』

 

『クリス!!危ない!!』

 

『……ソーニャのせいだ!!ソーニャが気づかなかったからパパとママは!!』

 

『コイツかぁ?最近見つかった日本人(ジャパニーズ)ってのは……まだガキじゃねぇか。おい!!テメェは今から俺等バルベルデ民族解放戦線の備品だ。口答えは許さねぇし、勿論叛逆も許さねぇ。わかったか!!』

 

『ハハハハハ!!面白い反応するようになったぜこのガキ!!ご立派に女になってやがる!!』

 

『ギャハハハハハ!!牛みてぇな乳ぶら下げやがって!!━━━━にゃあピッタリじゃねぇか!!』

 

━━━━アレが、同じ人間なモノか。あんな、人を人とすら見ない、下卑たクズ共が、パパやママと同じ人間であるものか……ッ!!

 

「……お前、くせぇんだよ。うそくせぇ!!あおくせぇ!!」

 

怒りの臨界点を突破したからだろうか。痛みは感じないし、むしろあのクソみてぇに能天気なツラがよく見える。

あたしのパンチにガードを合わせたようだが、無駄だ。完全聖遺物のポテンシャルはシンフォギアなんぞの比じゃねぇ。さっきみたいな無理筋の曲芸でも無きゃ到底埋まらねぇ……!!

だが、コイツをブッ斃す前に、あたしの方が限界を迎え始めている。痛みこそ感じないが、致命的なまでに『ナニカ』に犯される感覚がある。いつものモンとは違う、あたしが書き換わってゆく感覚はそれはそれで恐怖を煽る。

撤退すべきか……?だが、フィーネに啖呵を切った手前無手にておめおめと帰っては以前の二の舞だ……などと、ネフシュタンの浸食によって冷えて打算的に動いていたアタシの頭は。

 

「チッ……!!」

 

「クリスちゃん……!!」

 

それでも、ソイツが手を伸ばしてくるのを見て、至極冷静に答えを出した。

 

━━━━ぜってぇ、許さねぇ。

 

「ブッ飛べよ!!アーマーパージだ!!」

 

ネフシュタンの所有権を放棄し、欠片として散らす。何度か見たクレイモア地雷のように、相手を穴だらけにする為の殺意の嵐だ。

だが、それではシンフォギアは止められない。当然、アイツも耐えている。だから、業腹も煮詰まるが、この手を切るしか無かった。

 

「━━━━Killter ichiival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)

 

「この、歌って……!!」

 

「見せてやる。コレが、イチイバルの力だ!!」

 

━━━━イチイバル。フィーネが最初にくれた力。争いを起こす馬鹿共を軒並みぶっ潰す為の力。全てを焼き尽くす、暴力。

だが、コイツには全く以て度し難い難点が存在する。それは……

 

「クリスちゃん……私達と同じ……?」

 

「歌わせたな……」

 

「えっ?」

 

そう。アイツが纏うそれと同じ、シンフォギア。装者のアウフヴァッヘン波形によって発生するフォニックゲインを物理的な力と成す異端兵器。その力の源は即ち━━━━

 

「━━━━あたしに、歌を歌わせたな!!教えてやる!!あたしは、歌が!!大っ嫌いだ!!」

 

あたしの人生に何もしてくれなかった、ウタノチカラだった。




歌なんて嫌いだ。と少女は叫ぶ。
貴方に失望した。と女は嗤った。
信頼を裏切られた、と少女は弾劾する。
信頼を裏切った、と少年は絶望を抱く。
彼と彼女の悲痛な叫びは絶えず、しかし、撃ちてし止まぬ残酷な運命のもとにも、共鳴する歌はきっと有るのだと信じて。
諦めぬ少女達は、未だ見えない明日へ突き進む。

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