戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第二十三話 街並のサイレントボイス

━━━━どうすればよいのだろうか。

 

トボトボと自室へと戻りながら、考える。

未来に、なんて言えばいいのだろうか。

それが、どうしてもわからない。

未来に嘘を吐き続けてしまった事。コレは当然悪い事だ。

 

━━━━けれど、その理由はけっして保身や誤魔化しからではない。

 

実感なんて無いけれど、国家機密だというシンフォギアには様々な危険が付きまとうのだという。

お兄ちゃんも、実際に誘拐されかけた事があるという。そんな後ろ暗い事に、私は未来というあったかい場所を巻き込みたくなかったのだ。

 

「ただいま……」

 

「……おかえり。」

 

「えっと……未来。ごめんね。」

 

「……お兄ちゃんも響も……そのごめんは、何に対してのごめんなの?」

 

つっけんどんな返答を返す未来の言葉は辛辣だったけれど、(けだ)し正論だった。

だって、あまりにも謝らないといけない事が多すぎる。

隠していた事、嘘を吐いていた事、翼さんとの事。

 

「……全部、だと思ってる。嘘を吐いていた事も、約束を破った事も、隠していた事も……」

 

「……そうだよ。全部、全部……!!私には、何も知らせてくれなかったもの……!!

 ……私、今日は下のベッドで寝るから。」

 

そう言って、未来は下のベッドへと入って行ってしまった。

いつもは、上で二人で寝るからと、物置代わりに使っていた、二段ベッドの下の段。

きっと、帰って来てから片付けたのだろう。それも心落ち着かないままにしていたのは、放り出されただけの荷物を見ればよく分かる。

そうして引かれた仕切り代わりのカーテンは、まるで心と心を隔てる壁のようで……

 

「……ごめん。」

 

届かない、届かない。今度もそうだ。届けたい私の想いが、どうしても届かない。

 

━━━━どうして、私達は分かり合えないのだろうか?

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━どうすればよいのだろうか。

 

トボトボと夜の街を彷徨いながら、考える。

フィーネが残した言葉の真意を訊ねる為に、あたしは少しずつ西へと歩いていた。

今までならばネフシュタンの能力によって飛行する事であっという間に着いていた筈のその距離が、酷く遠い。

なんといったか、確か奥多摩とかいう所の方にあった筈だ。

 

「……こんなに、遠かったんだな。」

 

改めて歩いてみると、本当に遠い物だ。フィーネが車で乗り入れしていたのも頷ける。

 

━━━━フィーネ。あたしに紛争の火種を潰す力をくれた人。あたしをあの地獄から救ってくれた、ただ一人の人。

 

「……なんでなんだよ、フィーネ……」

 

『はぁ……クリス、貴方にもう用はないわ。』

 

『ねぇ。クリスちゃん。貴方が戦う理由を教えて?ノイズと違って、私達は言葉が通じる!!話しあえる!!

 ちゃんと話をして、理由をすり合わせればきっと戦わずに済む!!だって、私達同じ人間なんだよ!!』

 

そんな恩人から飛び出した、あたしを否定する言葉。

それを信じる事が出来ないあたしの胸に入れ違うように食い込んで来るのは、今日に対峙したあの大馬鹿の言葉だった。

 

言葉なんかでは、想いなんかでは世界に平和をもたらす事は出来ない。圧倒的な暴力の前にはそんな物は黙り込むしか道はない。

必要なのは、暴力を叩き潰す、さらなる力だ。戦おうとする意思と力を軒並み叩き潰す、そんな存在。

フィーネこそがそうであり、あたしもまたそうなれるのだ。と彼女は言った。

それを信じたからこそ、あたしはあの杖(・・・)を振るったのだ。

なのに……

 

「うぇーん!!」

 

「だから泣くなって……泣いてもどうしようもないんだぞ?」

 

「だって……だってぇ……」

 

そんな風に行き詰った思考に囚われたあたしは、いつの間にか人気も絶えた公園に辿り着いていた。

そして、聴こえてきたのは、泣き声。

女の子が、泣いている。

 

━━━━その姿は、かつての記憶の中でよく見て来たものだった。

 

けれど、無力に泣いた昔のあたしとは違う。今のあたしには力がある。

 

「オイこら!!弱い者をいじめるな!!」

 

「いじめてなんかいないよ!?妹が……」

 

「うわぁぁん!!」

 

「いじめるなって言ってるだろうが!!」

 

言い訳なんて聞きたくない。力を振るう奴は全て━━━━

 

「━━━━お兄ちゃんを、いじめるな!!」

 

そんなあたしを止めたのは、泣いていた筈の少女だった。

今の今まで泣いていた筈なのに、毅然とあたしに向き合う、その力強い瞳。

それに射抜かれて、気づく。

 

「あ……」

 

━━━━今、あたしは何をしようとしていた?

 

まるで、あたしを叩くアイツ等のように。

弱い者をいじめる側に回ってしまって居た……?

 

「お前、お兄ちゃんからいじめられてたんだろ?」

 

「違う!!」

 

「あ?」

 

「父ちゃんと一緒に来たんだけど、俺等が目を離した時にはぐれちゃって……探しながら歩いてたんだけど、妹が途中で疲れてもう歩けないって……」

 

「……つまり、迷子かよ!?紛らわしい真似しやがって……」

 

明かされた理由に、内心ホッとした自分が居た。

口に出たのは紛らわしい真似だ、なんて悪態だが、誰かがいじめられるのを見なくて済んだのは喜ばしい事なのだから。

 

「だって……だってぇ……!!」

 

「おい!!コラ、泣くなって……」

 

けれど、そんな言葉の裏側が目の前の少女に伝わる筈もなく。

案の定、彼女は再び泣き出してしまった。

 

「妹を泣かせたな!!」

 

そして、それに反応する兄。傍から見るだけなら微笑ましいだのなんだの言えただろうが、残念ながらあたしは当事者なのだ。

 

「あー……もう!!めんどくせぇ!!あたしが一緒に探してやっから泣くんじゃねぇ!!」

 

どうせ、フィーネの居る場所まではまだまだ掛かるのだ。少しくらい寄り道したって変わりはしない。

そんな風に考えながら、あたしは幼い兄妹と一緒に夜の街へと歩き出したのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━どうすればよいのだろうか。

 

トボトボと、夜の街を流離いながら、考える。

考えるのは、未来に拒絶されてしまった事。

 

『お兄ちゃんの嘘吐き!!私に嘘は吐かないって約束したのに!!今言った理由だって、自分を誤魔化してるだけなんでしょう!?ホントは、私を巻き込みたくなかっただけ!!

 ……でも私はそれがイヤなの!!蚊帳の外で心配させられるだけなんて、もうイヤなの!!』

 

未来の叫びは、全く以てその通りだった。

嘘を吐いてでも、俺は未来を巻き込みたくなかったのだ。

 

━━━━けれど、その想いこそが未来を傷つけてしまった。

 

「……護られる側の気持ち、かぁ。」

 

切り捨てられる痛みの事は、父さんから聞いていたし、竜子さんというかけがえのない存在を喪った事で分かっていた。

けれど、切り捨てない為に動いた事で誰かを傷つけてしまうだなんてのは、覚悟していたつもりでも予想を遥かに上回る衝撃を俺にもたらしていた。

 

「……確かに、蚊帳の外に置かれるのは苦痛だもんな。」

 

━━━━もしも、レゾナンスギアが無い状態だからと、今日のような緊急事態を知らせてもらえなければ?

 

自分の立場に立って考えてみればわかる。知らせない、というのはある意味で酷く残酷な仕打ちだ。

 

「けれど……それでも、未来にはこんな世界を知ってほしくなかったんだ……」

 

……それが、言い訳に過ぎない事もまた、分かっている。未来も言う通り、自分を誤魔化していたいという俺の我儘でしかなかったのだ。結局のところは。

 

「おーい!!おーい!!」

 

ふと、誰かが呼び掛けている事に気づく。

そちらに目線を向ければ、成人男性が誰かを探すかのように周りに呼びかけをしていた

 

「おーい!!(りょう)!!(あかね)!!どこに行ったんだー!?」

 

「……どうかしたんですか?」

 

そんな風に困っている誰かを見つけたからには放ってはおけないと声を掛ける。手の届く範囲であれば、決して諦めないと決めたのだから。

 

「あぁ……すいません。子ども達とはぐれてしまいまして……」

 

「交番に訊ねてみましたか?」

 

「一度寄っては見たのですが……もうこんな時間です、居ても経っても居られずに出て来てしまいまして……子ども達ですからここ等には居ると思うのですが……」

 

「でしたら、俺も一緒に探して見ます。行き違いになるかも知れませんし、お父さんは交番の方で待っていてください。もしも交番に辿り着いていたならきっと寂しがってる筈ですから。

 コレ、俺の携帯の番号です。近くの交番だと駅前のですよね?もし見つけたらそちらまでお連れしますよ。」

 

「そんな!!そこまでしていただかなくても……!!」

 

俺の申し出は流石に予想外だったのだろう。その男性は遠慮がちに断ろうとしてきた。だが……

 

「最近はノイズ発生も増えて物騒になってきましたし、ここ等も再開発待ちの地区が増えて来ました……だから、安心して明日を過ごす為に放っておけないんですよ。こういった小さな事件も。」

 

……嘘、なのだろうか。この弁明は。物騒だから、というのも本当だし、放っておけないのも事実だ。

 

━━━━だが、そうなったそもそもの原因は俺達二課とフィーネの暗闘なのだ。

 

嘘に真実を混ぜすぎたからか、自分の言葉を信じられなくなってきている自覚がある。

俺は、俺自身の想いに嘘を吐いてはいないだろうか?それが、わからない。

 

「……わかりました。では、交番でお待ちしています。私の番号もお教えしますので、見つかりましたら連絡を。それと、息子たちの写真も。」

 

そんな俺の複雑な心境に気づくはずもなく、常に持ち歩いているのだろう家族写真を俺へと託して男性は去って行った。

だから、彼の期待に応えるべく、俺は動き始める。手始めにしたのは周辺の地理の確認。

 

「交番からぐるっと一周すればちょうどいいか……?」

 

最速で、最短で、まっすぐに、一直線に、彼の元へと子どもたちを帰してあげたい。

 

━━━━これだけはきっと、俺の偽らざる想いだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

ガキ二人の手を引いて、夜の街を歩く。交番、と言っただろうか?そう言った施設にこいつ等を預けるのがなんだかんだと最短の道だろう、と真っ直ぐに歩を進める。

少なくとも、人通りが多い方に行けば、さっきみたいな人気の無い場所よりは安心だ。

 

あたしは幸か不幸か縁がなかった事だが、バルベルデみたいなとこじゃ人気の少ないとこじゃ何やっても文句は言えない。

そんな後ろ暗い事にこの子等を巻き込むつもりもない以上、多少目立ってはしまうが繁華街を歩くのが一番だ。

 

「~♪」

 

明るい街というのは、いいものだな。となんとはなしに想う。

あたしの知る町といえばそれはそれは見ずぼらしい物で、電灯の明かりさえ無いが故に夜などは月明かりしか頼る物が無かった。

それに比べれば、人の気配がそこかしこに見え、キラキラとライトアップされた暢気な街は天国みたいにも見える。

 

「……」

 

そんな風に想いを巡らせていると、少女があたしの顔を見上げている事に気づく。

 

「……なんだよ?」

 

やっぱり、どうしてもぶっきらぼうになってしまうあたしの言葉に、しかし少女はもはや怯む事すら無くこう返して来た。

 

「おねえちゃん、お歌好きなの?」

 

「……いや、歌なんか、大嫌いだ。」

 

━━━━特に、壊す事しか出来ないあたしの歌は。

 

「あの……すいません。」

 

「んだぁ……?って、テメェは……!!」

 

そんな折に、横合いから声を掛けられた。それに対してぶっきらぼうに返そうとしたあたしの視界に飛び込んできたのは、見覚えのある顔だった。

 

「えーっと……その子達の親御さんから捜索を頼まれてたんだけど……行き違いだったみたいだね?」

 

「ッ……!!」

 

間抜け面のままで声を掛けてくるソイツ━━━━確か、天津共鳴だったか。から距離を取る。

 

「っと!!ちょっと待った!!コッチに交戦する気はない!!というか、そもそも今の俺はギアも何も持ってないんだ!!」

 

そう言ってホールドアップの体勢を取る男。だが、油断はしない。見たところ、確かにあの手袋みたいなギアを持ってはいないようだが、不意討ちというのも有り得る。

 

「信じられるかそんな言葉!!お前は敵にテメェの不利を晒すってのか!?」

 

「あぁ……うん。時と場合によるけど、普通は晒さない……でも、今回は晒すべき時なんだ。キミ達……隆くんと茜ちゃん、だよね?お父さんから写真を預かってるから確認して欲しいんだ。」

 

「う、うん……」

 

そう言って、警戒するあたしの前だというのを気にするでも無く手に持っていた写真を渡してくるソイツに、あたしの苛立ちは否が応でも高まって行く。

だが、この子達を巻き込むワケにはいかない。それくらいの良識はあたしにだってある。

 

「……」

 

「そんなに睨まなくても……キミを見つけたのは完全に偶然だよ。その子達のお父さんが二人を探してるのを見かけて、放っておけないからと探しに来ただけで……」

 

「うん!!おねえちゃん!!コレ、お父さんがいっつも持ってる写真だよ!!」

 

そう言って少女が見せてくれた写真は、まさに幸せな家族の象徴、といった所だった。

 

━━━━あたしには、もう一生縁のない代物に、羨望の気持ちが混じる。

 

「……そっか、よかったな。じゃあ、あたしはコレでサヨナラさせてもらうからな。あとはそこの馬鹿親切な奴に着いて行けばいいさ。」

 

こんな気持ちを抱いたまま、こいつ等と一緒に居る事なんて出来ない。穢れたあたしにはやっぱり輝くイルミネーションなんぞよりも薄暗い裏路地がお似合いだ。と踵を返した所に、後ろから声が掛かる。

 

「えー!?おねえちゃんも一緒に行こうよ!!」

 

「そうだぜ!!父ちゃんも『親切にされたらちゃんとお礼を言いなさい』って口が酸っぱくなるくらい言ってんだ!!だから、父ちゃんからちゃんとお礼受け取ってくれよなー!!」

 

「んな……!?んだよその理屈!?……だーッ、クソッ!!分かったよ!!一緒に行きゃいいんだろ!?」

 

「今連絡を入れたから、すぐに来てくれる筈だよ。最初からクリスちゃんが交番に一直線に向かってくれてたお陰だね。」

 

「あっ、オイコラ!!お前に名前教えた覚えは無いぞ!?」

 

恐らくは、あの能天気馬鹿のせいだ。個人情報保護(プライバシー)もクソもありゃしねぇ。

 

「クリスおねえちゃん?」

 

「クリスねーちゃんって呼んでいいかー?」

 

「お、おう……ただしそこのお前!!お前は名前で呼ぶな!!あたしとお前が敵同士なのは変わらねぇんだからな!!」

 

「……分かったよ、雪音さん。」

 

━━━━どうして、そこでお前が辛そうな顔をするんだよ。

この男についてあたしが知っている事は少ない。名前と、レゾナンスギアとかいう欠陥品を使っている事くらいだ。

だから、向こうが勝手に調べ上げて来ているだけだろうに。アイツもコイツもどうしてこんなに、あたしなんかにこうも親身になる?

 

「おーい!!お前たちー!!」

 

「あっ!!父ちゃん!!」

 

「お父さん!!」

 

そうこう言っているうちに、連絡を受けてきたのだろう、先ほどの写真にも写っていた男性がやってきていた。

 

「全く……一体どこに行ってたんだい?」

 

「おねえちゃんが一緒に迷子になってくれてたのー!!」

 

「違うだろ!!一緒に父ちゃん探してくれてたんだよ!!」

 

そう言って、子ども達は父親の元へと駆けてゆく。

さっきまで足が痛くて歩けないだなんて言っていたのに、能天気な奴等だ。

 

「すみません……お二人にはご迷惑をおかけしまして……ありがとうございます。」

 

「……あ、いや。あたしの方は成り行きだから、その……」

 

「困ってる人を放っておけなかっただけですから。」

 

……誰かに感謝される事なんて、久しぶりが過ぎる。

真っ直ぐに受け取れないあたしに対して、いつの間にか隣まで来ていたソイツは至極当然みたいな顔をしてお礼の言葉を受け止めている。

その差がまるで今までの人生の違いを表しているようで、なんだかちょっとムカつく。

 

━━━━どうせ、コイツも恵まれた人生を送ってきたんだろう。

 

「ほら、お前たちも。一緒に来てくれたお姉ちゃんにお礼は言ったのかい?」

 

「クリスおねえちゃん、ありがとう!!」

 

「クリスねーちゃん、ありがとう!!」

 

「……仲、いいんだな。そうだ、そんな風に仲良くするにはどうすればいいのか教えてくれよ。」

 

「……ッ!?」

 

さっきは泣いて困らせていたのに、たったの十分其処等でこの通り仲良く笑いあっている。

まるで、魔法みたいにコロコロ変わる子ども達の感情に、ふと気になった事を聞いてみる。

 

「そんなの、わからないよ。いっつもケンカしちゃうし。」

 

「ケンカするけど、仲直りするから仲良しなの!!だから、クリスおねえちゃんも、お兄ちゃんと仲直りしてね!!」

 

「んなっ!?」

 

その問いに返ってきた言葉は、予想外もいい所だった。

喧嘩するけど、仲直りするから。それは、今までのあたしには無かった考えだ。それはまだいい。

けれど、その後がいけない。隣のコイツと仲直りだ?そもそもコイツとあたしに接点なんて殆ど無いのだ。それに……

 

「……別に、コイツと仲良しこよしするつもりはねぇよ。あたしが聴きたいのはもっとこう……大切な人と仲直りする為のだな……」

 

「……?」

 

「茜ちゃん。俺と雪音さんは別に喧嘩してるワケじゃないんだ。ただ、ちょっと事情があって……」

 

「……大切な人と仲直りしたいのなら、尚更にですよ。お二方。」

 

『えっ?』

 

そう言って話に割行ってきたのは、二人の父親だった。

 

「貴方達の大切な人がどうして貴方達と仲違いしたのかは分かりませんが、私だったら『誰かと敵対する誰か』よりも、『誰かと仲良く出来る誰か』との方が仲直りしたくなりますよ。

 ……きっと、この子が言いたいのもそういう事でしょう。」

 

……その言葉に、ただ唖然とするしかない。大切な人と仲良くする為に誰かと仲良くする?

 

『覚えておいてね、クリス……痛みだけが人の心を繋いで絆と結ぶ……この残酷な世界の真実だという事を……』

 

脳裏によぎるフィーネの言葉。

真に絆を紡ぐのは、痛みだけでは無いのか?

わからない。頭の中がグチャグチャだ。

この世界の本当はどこにある?

 

「……ありがとう、ございます。俺自身が迷ってた事、ちょっとだけ答えが見えて来たような気がします。」

 

「…………」

 

「ははは、いつかまた逢えたら、その時は仲直りしたお二人の姿をこの子達に見せてやってください。」

 

そう言って、手を振りながら去ってゆく親子に力無く手を振り続ける事しか出来ない。

わからない。

 

━━━━あたしは、何を信じて立てばいい?

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

偶然の果てに、まさかこんな出逢いがあるとは。

迷子になった子ども達を探す父親の為に周囲を捜索した所、なんと雪音クリスと共に表通りを歩いているのを発見したからだ。

 

ただ、その様子が誘拐などには見えず、人通りも多いため緊急配備は無しでの個人的な接触を図る事にしたのだが……

 

先ほどから、彼女は駅前のベンチに座ったまま、だんまりしている。

あの親子と交わした会話が、何か彼女の琴線に触れたのだろう。

その姿は、まるで雨に濡れる子猫か何かのようで放っておけない。

 

「……ほら、あったかいもの、どうぞ。」

 

「……お前、まだ居たのかよ?それに……敵からもらったもんなんて飲むか馬鹿。何入ってるとも知れねぇ。」

 

「……目の前のコンビニで買ってきたんだけどなぁ。」

 

苦笑しながら、一緒に買ってきたパンをほお張る。一緒に食べれば流石に警戒も緩むかと思ったのだが、そう容易くはいかないようだ。

 

「……お前は、あたしが怖くないのかよ。」

 

「怖い?」

 

「今のお前には、ギアも何もないんだろうが。それに対して、あたしはギアという絶対的な力を持ってる。あたしがその気になればお前はハチの巣だぞ?それが、怖くないのかよ。」

 

なるほど確かに。俺にはギアが無いが、彼女はギアを持っている。非対称的で、パワーバランスも間違いなく彼女に傾いている。だが……

 

「特に怖くはないかな。キミがそういう事をしないというのは、さっきの子ども達との会話でわかったし。」

 

「はぁ!?どうしてそうなる!!……というか、それじゃさっき声を掛けて来た時は完全に無策だったのか!?

 ……もしも、あたしがアイツ等や周りの連中に配慮なんかせずぶっ放す奴だったらどうする気だったんだよ!!」

 

言われてみれば全くその通りで、先ほどの接触は完全に無策であった。

けれど、父さんが護ろうとした輝きを信じて見たかったのだ。

……勿論、そんなことを初対面の男から言われても迷惑なだけだろうから口にはしないが。

 

「そうやって仮定だと口にしてくれる事とか、あとは子ども達が笑ってたから大丈夫かなぁ……って。」

 

「……お前も、アイツと同レベルの馬鹿だったんだな。」

 

「ははは……その通りだね。響と同じかはともかく、大馬鹿なのは全く以て否定のしようがない。」

 

そうだ、俺が大馬鹿だったのは間違いない。というよりは、今もなお間違い続けているといってもいいだろう。

『手の届く総てを救う』と(のたま)いながら、一番護りたくて手元に置いていた女の子一人護れやしなかったのだから。

 

「……何も、訊かないんだな。あたしに。」

 

「……訊いたところで、答えてはもらえないだろう?」

 

「あぁ、当然だ。さっきのガキどもが言ってた事は忘れろ。あたしとお前は敵同士だし、その関係は変わらねぇ。じゃあな。」

 

……隣で俺が食べていても口を付けてももらえない、か。警戒心が強い事だ。

なら、プランBで行くとしよう。

 

「……そっか、わかった。じゃあ、コレを。」

 

そう言って去りかけた彼女に投げ渡すのは、先ほどコンビニで買ってきた財布と、俺の財布から出したお金のセットだ。

 

「……なんだよコレ。金なんぞ渡してどうするつもりだ?まさかとは思うが……」

 

しまった、と思ったのは渡してから。確かに、少女に直接お金を渡すというのは如何にも外聞が悪い。

 

「あ、いや妙な意図は一切無い、誓ってもいい。

 ……見たところ、お金も殆ど持ってないんだろう?どこを目指してるのかは聞かないけど、女の子の一人旅ならお金はちゃんと持っていた方がいい。そういう、余計なおせっかいさ。」

 

響や未来から学んだのだが、女性の服というのはおしゃれの為に収納性を犠牲にしている物が多いため、大抵はバッグにお金などを入れて歩くものだという。

着る理由こそ違うかも知れないが、彼女の着ている服はまるでドレスのようで、見るからに収納性に欠けている。その上で無手で歩いている事。

また、あの後数時間経っているにも関わらず、公共交通機関も使わずにまだリディアン周辺に居た事などから、俺は彼女が現金を持ち歩いていないと判断したのだ。

 

「……だとしても、テメェからの施しなんざ受けねぇ。」

 

「じゃあ、貸しって事でどう?俺は暫くの間は返却を受け入れる気はないから。返せないからって其処等に置いてたら、誰かに悪用されちゃうかもしれない。」

 

金額としては十万程。まぁ、悪用しようと思えばできる金額だ。

先ほど見せてもらった彼女の善性に付け込むようで申し訳無いが、無手にて返すワケにもいかないのだ。

 

「ぐっ……ぐぬぬ……わかった。業腹もいいとこだが、一旦あたしが預かっといてやる。ただし!!利子付けて熨斗付きで返してやるからな!!忘れんじゃねぇぞ!!」

 

きっと、お腹が空いていたのだろう。腹の虫の音と共に不承不承ながら、彼女は俺の渡した財布を受け取ってくれた。

 

「うん。期待して待ってるよ。あぁ、それと……ここ等で寝泊まりするならここの駅前のビジネスホテルが一番いいと思うよ?西の方は住宅街になってて泊る所が無いし、東は再開発地区で治安が悪いから。」

 

「……筋金入りのお節介焼きめ。それ以上構うようなら今ここでギアを使うぞ?

 ……それと、勘違いするなよ。今日の事は全部あの子に免じての事だ。この金の事で今後手心を加えるような事は無い。

 次に戦う時には躊躇なくテメェをぶっ潰す!!」

 

そう言い残して彼女は去って行った。

 

「……やっぱり、根はいい子なんだな。」

 

子ども達を放っておかなかった事、金を受け取ろうとしなかった事、色々あるが、その全ては彼女の優しさに集約されるだろう。

放ってはおけない。フィーネと名乗る女性が彼女を切り捨てたような発言をしたというのなら、尚更だ。

 

「……けれどやっぱり、未来に関する問題は解決してないんだなぁ……」

 

誰もが去った駅前のベンチで一人、彼女の分の菓子パンも食べながら、考える。

あの男性が教えてくれた事、誰かと敵対する人よりも、誰かと仲良くする人の方が仲直りしたくなる。という言葉。

確かにそうだと思ったし、だからこそ雪音クリスにあそこまでお節介を焼いたのだ。

 

「未来……」

 

小日向未来、俺達にとっての陽だまり。

彼女が居るから、俺も響も笑って無茶を出来たのだ。

決して翳って欲しくなかった、その少女。

 

「……どだい、隠し通すのが無理だったんだろうな。」

 

雪音クリスと出逢って、少し落ち着いた頭で考えれば分かる。

彼女に何も知らせず、隠そうとした事。隠し続けていた事、心配させてしまった事。

それに加えて、俺のやった事で響と未来の間に不和を招いてしまったのも、すべてが俺の責任だ。

 

「……それら全部、だよなぁ。」

 

あの時は、未来に嘘を吐いていた事だけを謝った。けれど、考え直せばこうも俺の間違いは多い。

謝れるだろうか。間違ってしまった事を。

直せるだろうか。友達としての関係を。

助けられるだろうか。翳る彼女を。

 

夜の闇に溶けて消えゆく静かな声で、それでも改めて誓う。

未来を護りたい、という想いを貫き通すと。




零れ落ちる少女の涙。
悲痛なる少女の慟哭。
誓いは此処にあれど、少年の手は未だ届かず。
けれど、少年が一人ではないように、少女達もまた一人では無い。
掛替えの無い先達が教えてくれる物がある。
それは、不器用な想いの交わし方。何億もの人が紡いで来た、時を重ねる奇跡のお話。
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