俺が立花響と小日向未来と初めて出会ったのはいつの事だっただろうか。
父が防人を辞するよりも前から、ずっと一緒だったような気もする。
――――あぁ、そういえば。彼女達と出逢ったのはもう十年近くも昔の事になるのか。
俺がまだ小学生だった頃。父が防人を辞するよりも昔の話。
うだるような夏の暑さに辟易しながらも、ガキだった俺は夏休みを満喫していて、そこで彼女に出逢ったのだ。
「やめてよぉ!!返して!!」
その叫びを聴いたのは全くの偶然だった。虫取りを楽しんだ後、家路に着きながら今後の楽しみを考えていた俺が公園に通りかかった時に聴こえたのだ。
「へっへー!!こんな暑いのにぬいぐるみを抱っこしてるなんて暑くて仕方ねーだろー!!」
「女の子にはしんせつにしろってとーちゃんが言ってたからな!!そのぬいぐるみを涼しい所に連れてってやるぜー!!」
言葉だけを聴けば親切な子どもに聴こえるそれは、だがその実態を目に捉えればどう見てもいじめっ子でしか無かった。
ぬいぐるみを大事そうに抱える少女に男子二人で寄ってたかって、そのぬいぐるみを奪おうとしているのを見れば、誰であろうと理解するだろう。
それを見かけて放って置ける俺では無かった。勿論、父から『護るべき物』について語られていたからもある。
だが、それ以上に許せなかったのだ。当時の――――ガキだった俺には言葉に出来なかった想いがそこにはあった。それが、今ならわかる。
確かにこんな暑い夏の日にぬいぐるみを大事に抱えている事は、他者の眼からすれば奇異に映ろう。だが、それは『個人の自由』の範疇に納まっている事だ。
単にそのぬいぐるみが好きなのかも知れない。もしかしたらぬいぐるみを人間と同じく扱う優しい子で、この暑さでぬいぐるみを心配して共に居るのかも知れない。
それは他者が介在出来ない個人の世界の問題だ。
それを『善意でやっているのだ』という甘い衣で包み込み、その中に『異なる他者の存在そのものを認めない』という、無自覚な、人間なら誰しも持つだろう不理解を仕込む。
それが俺はどうしても気に入らなかったのだ。と
「おい、お前ら。何をやってるんだ?男子二人で女の子に寄ってたかって。ぶっちゃけ……かっこわりいぜ?」
だから、声を掛けた。
……喧嘩腰だったのはやはり、言葉に出来なかったモヤモヤのせいだろう。うん。
今にして思えばもうちょっと穏便な済ませ方があっただろうと、穴が有ったら入りたくなる。思い出さなくていいなら思い出したくない。そんな類の想い出だ。
だから今の今まで忘れていたのだろう。
――――けれど、コレが天津共鳴と小日向未来と、そして立花響の出逢いの想い出なのだから。うん。否定する事など出来ようも無い。
「な、なんだよオメェは!!オメェこそ虫取り行ってきました!!って格好しててあんまカッコよくねェだろうが!!」
「そうだそうだ!!見てて暑苦しいぞ!!」
「むっ。俺の長袖長ズボンは虫取りの為に備えた結果だぞ?確かに暑いけど……それがカッコいいかカッコ悪いかはどうでもよくないか?
俺は、お前らの行動がかっこわりぃって言ってんだ。その子、泣いてるじゃねぇか!!」
「むぐぅ……けっ!!カッコつけしいめ!!覚えてろよ!!」
「覚えてろ~!!」
そうして、二人は去って行って、残されたのは俺と、まだ泣き続ける女の子一人。帽子を被って下を向いているから表情はわからないが、ぬいぐるみを喪う事も無く済んでよかったよかった。
と、そうなれば良かったのだが……
「こぉらぁー!!女の子をイジメちゃダメでしょー!!」
俺の後ろからもう一人、ぬいぐるみを持った女の子と同じくらいの歳頃のおせっかい焼きがやって来ていたのだ。
「え?ちょ、ちょっと待ってくれ。俺はイジメてたワケじゃなくて……」
「そんな事言って!!その子泣いてるじゃない!!」
「いや、これは語れば長くなるというか別に長くないというか……キミ!!頼むから俺はイジメてないって言ってくれよ!!」
「…………ホント?」
乱入してきた太陽のような女の子は、そう言ってぬいぐるみを持った女の子に問いかけて、
「……うん。私のぬいぐるみ、取られそうだったのを取り返してくれたの……」
「……たははー……ごめんなさい!!」
そう言って、珍妙な乱入者の表情がコロコロ変わるので俺も、泣いていた女の子も、涙とか、困惑とか、そういう物をすっかり忘れてふっと笑顔がこぼれてしまったのだった。
「えー!?なんで笑うの!?うぅ……私、やっぱり呪われてるかも……」
「はは、ごめんごめん。きっと、このすれ違いもお互いを知らないから起っちゃったんだろうな。俺は天津共鳴って言うんだ。キミ達は、なんて名前なんだ?」
「私、立花響って言います!!ごめんなさい共鳴さん!!」
「……小日向、未来って言います。えっと……ありがとうございました。天津さんも、立花さんも」
「名前でいいよ。ここ等辺の公園に居るって事は、多分同じ学校に通う事になるだろうしさ」
「私も名前呼びでいいよ!!未来って多分同い年でしょ?だったら、友達になろう!!お父さんから『学校行ったら友達百人出来るかな?』って言われちゃったから、私は友達百人作るんだ!!」
「えっと……響、でいいの?それに、共鳴さん……もいいんですか?」
「あぁ。勿論。響もよろしくな」
その時の響と未来の花咲くような笑顔だけは、このみっともなさ多めな想い出の中でもひときわ強く輝いていて。
――――結局、この時の偶然の巡り合わせで小学校にも上がる前から一緒になった響と未来と、ついでに俺は幼馴染としてつるむ事になったのだった。
◆◆◆◆◆◆
そんな、想い出の夢を見ていた気がする。
意識が浮上すると同時に感じるのは消毒液の強い匂い。
病院に掛かる事こそ殆ど無かったが、稽古で消毒液の匂いはよっぽど嗅ぎなれている。
故に、これほど強く匂うのなら病院なのだろう。と、そこまで思考を進めた段階で思い出す。
――――ライブの日、現れるノイズ、貫かれる響、戦う天女達
「!!!!!」
一瞬で意識を覚醒させ、もがく。いや、もがけない。最近実用化されたという話を聞いたカプセル状の手術台に取り込まれていて動けない。
気が逸る。今は何時だ。ライブ会場はどうなった。
――――なによりも、胸を貫かれた響はどうなった――――!!
『先生!!患者が!!目を覚ましたと同時に暴れ出しました!!』
『鎮静剤の投与急げ!!他の者は緊急メディカルチェック準備!!腕を動かされる前が勝負だぞ!!』
暴れようともがく俺を嘲笑うかのように感覚の戻らない腕も、繋がれた足も動かず、看護師の女性に何かの薬品――――恐らくは先ほど言っていた鎮静剤だろう。判断が素早い優秀な看護師だ。を流し込まれ、
俺の思考は、また、千々に千切れて――――闇に――――
◆◆◆◆◆◆
ICU――――いわゆる集中治療室の前に、俺――――
「一時とはいえ、意識が回復したと聴いて来たんだが……」
「プロフェッショナルと聴いていましたので、念のためにカプセル型を使っていましたが、判断は正解でしたね……もし普通のベッドに寝かせていたらあっという間に立ち上がっていたでしょう。いっそ驚異的ですよ。」
「苦労を掛けて、大変申し訳ない」
「とんでもない!!……コレが、これしか出来ないのが私達医療従事者なんです。私達は損傷を治す事しか出来ない。それを……負傷が起きないよう予防するのは、貴方がたのように力を持ちながら、それを人助けの為に使う皆さんの仕事ですから。
むしろ苦労を掛けているのは此方の方ですよ。警備の人員を回してくださって感謝しています。流石にこれほどの人数を収容するとなれば混乱は避けられなかった筈ですから……」
そう言って、目の前の男性――――この病院の外科のエースだという医師は一般病棟の方を見つめる。
――――三日前、ツヴァイウイングのライブと、その裏で行われていた極秘実験がノイズに襲撃され、多くの人々が犠牲になった。
俺達『特異災害対策機動部二課』は、その悲劇の発端となった責任を負う為に沙汰を待ちつつ、その全力を以て事態の収拾に当たっていた。
……と言っても、特務機関である二課が表立って出来る事など殆ど無い。出来る事といえば、裏側での事態収拾――――即ち、口止めと情報封鎖である。
全く以て、腹立たしい事だが。俺達は多くの人の命を犠牲としながらも、その責を負う事すら出来ないのが現実だった。
せめてもの償いと、そう言う事すら偽善である為憚られるが、通常業務に戻れない為に余った人員をこういった医療機関へのヘルプとして出張させているのが、彼の言う警備の人員の事だった。
「……しかし、大きくなったなぁ。共鳴くんは」
そんな混乱の中で、しかしこの悲劇を最小の被害に収めた裏の立役者である少年――――俺の顔見知りでもある。が目覚めたと知らせを受け、飛んできたのだが……
なんと、彼は目覚めるや否や手術台から飛び起きようとしたのだという。今は鎮静剤によって気絶しているが、彼の父を知る者としては誇らしくもあり、同時に悲しくもある。
(……せっかく、親父殿の手の内から離れたというのに……特殊な武器とは聞いていたが、まさか天津家に伝わる至宝が『シンフォギアと共鳴する』聖遺物だったとはな……『風鳴機関』成立以前より継がれていた第零号聖遺物、とでも呼ぶべきか。
『
彼の父親――――天津共行は、偉大な人物であった。八年前、イチイバル略奪の責を負って辞任した風鳴家当主・風鳴訃堂に対して堂々と叛逆。その絶大な影響力をある程度削減せしめ、国連を始めとした各国との協調路線――――あくまでもごく一部の、裏社会での話であるが。それを切り開いた英傑であったのだ。勿論、日本を訪れた各国要人を人知れず脅威・怪異・妖怪・変化から護り抜いたその腕前も一級品であった。
――――そんな彼が一年前、欧州での特務中に『
八年前の謀反より後こそ親父殿の眼があって逢う事は出来なかったが、それ以前には防人の家系として共に育った同年代……いやさ、兄貴分として尊敬していたし、防人と家長を両立するその姿にまぶしさすら感じていたのだ。
だからこそ、姪と殆ど変わらない年ごろである筈の共鳴くんが裏社会に落ちて来てしまった事に、俺は特に悩まざるを得ないのであった。
――――何故なら、幾ら当主を継がんとする決意を持っていると聴いていようと、戦う覚悟をその手に固めようと、彼はまだその未来を護られるべき少年なのだから。
最後に大きく息を吐いて、俺は少年から目を移して自分に課せられた仕事へと戻る事にした。
――――願わくば、南無三宝よ。彼の行く末に輝きあらん事を。
普段は特に考えず使っている言葉だが、今は仏にすら願わずには居られないのだった。
◆◆◆◆◆◆
再び、意識が浮上する。
混濁した意識の中で記憶の糸を手繰る。
薬の影響か、夢すら見ずに泥の中にいるような感覚の中眠っていたようだ――――そう考えるに至り、意識を目覚めさせる。
今度はカプセルの中では無く、個室病棟のようであった。まぁ、そうであろう。と思考がわき道に逸れる。
あのような代物があるという事は恐らくあの部屋は集中治療室であり、そういった部屋は次の患者に備えるために長い事占有する事は基本的に考えられていないと聴いている。
麻酔故か、鎮静剤故か、ぼんやりとした思考のまま医師が来るのを待つ。このまま騒いだ所で怪我が治るワケも無し。であれば情報収集の為にも今は座して待つべきであろう。
「おや、今度は暴れなかったようだね?」
「……ぇ」
しまった。医師が入ってきたので返答を返そうとしたのだが、喉がうまく動かない。声が出せないというワケでは無いが、少なくとも数日はねこけていただろうと推察できる。
「あぁ、喉が渇いていますか。キミ、何か飲み物を。外傷以外は特に問題無いから種類はお茶でいいよ」
「……ぁりがと、う……ごぁいます……」
「無理はしない方がいい。君は丸一週間も寝ていたのだから」
一週間。
突きつけられた言葉に気が逸るのを抑えられない。
「……自分の容態よりも、あの時何が有ったのかが知りたい。そんな顔をしてるね?」
図星である。腹芸はやはり苦手だ。
「――――残念だが、ボクはそれに答える権限を持たない。ボクは一介の、この病院の医者でしか無いからね。けれど、今君が目覚めた事を連絡したから、数時間もすれば、説明が出来る人が来る手筈になっている。
だから、その間ヒマになってしまうから、キミの怪我について説明したり、ちょっとした検査をしたり、それこそお茶を飲んだりして欲しいのだが……ダメかな?」
「……はい」
真摯に対応してくれる医師に対して、カラカラの口を動かして、でもそれだけはしっかりと答える。コレは徹すべき筋という物だ。
「よろしい!!おや、ちょうどお茶も来たようだ。ではお茶を飲みながら聞いてくれ。」
――――その医師が説明した事を要約すると、俺の容態は最悪に近かったという事であった。
「まず腕、コレが一番酷い。なにに腕を突っ込んだらこうなるんだ?と頭をひねる程にグチャグチャになっていた。昨今の再生治療の進歩が無ければ義手に変える事を間違いなくオススメしていたレベルだね。」
「次に頭。吹っ飛んだか何かして頭が地面に強打されたようで、搬送されてきた時はそりゃ見事なたんこぶになっていたよ。脳に関しては今でも分かっていない部分が多いから、もうちょっと経過を見て後遺症が無いかを確認する予定だ。入院する理由は腕だけじゃないからあんまりはしゃがないように。いいね?」
「後はまぁ……全身どこもかしこも傷だらけだね。瓦礫が当たったとみられる打撲、裂傷、打ち身、その他諸々。まぁコッチは一週間寝てる間に治った部分もあるからそこまで気にしなくてもいいよ。」
「――――よくもまぁ、生きてたもんですね。」
心から、そう言う。あのライブ会場の最後に垣間見た爆心地もかくや……という惨状の中ではマシな方だっただろうが――――
「ははは、でもまぁ。人の形を保っていただけコッチとしては気分が楽だったよ」
など、という俺の甘い考えは、現実を見続けた医師によって一瞬も保たず崩れ去るのであった。
「……御免ね。辛い事を思い出させてしまっただろうか?」
「……いえ、むしろコッチの台詞です。辛いのは現場の人だけじゃないですものね。」
ノイズに同化された人間は、炭となって崩れ落ちる。例外は存在せず、その人が人であった証すら遺さず塵と消える。
医療関係者には、身内をノイズに殺された想い出を糧に、ノイズの致死率を下げようとする研究者すら居るという。
そう考えれば、なるほど。人の形をした怪我人であるならば、間違いなく『手遅れとは限らない』
「――――プッ、クックック……ハッハッハ!!なるほど、風鳴さんの言う通りの少年だ。」
「笑う事ですか!?――――って、風鳴?」
ふと、知り合いの家名が出て思考が中断する。
病室の扉が開いたのは、そんな時だった。
そこには、巌のような真っ赤な漢が立っていた。逆立つ赤毛、なんだか微妙に似合っていない気がする赤一色のスーツ、そしてなによりも。
デカい。
縦にも、横にも、厚みもデカい。だが、そんな筋肉で出来たような漢に、俺は見覚えがあった。
十年近く前、親父が防人を辞する前に逢った事があったのだ。
「風鳴―――――弦十郎、さん」
「ハッハッハ!!昔みたいに小父さんでいいぞ!!共鳴くん!!ようやく目覚めたようでなによりだ!!」
「……変わらないですね、小父さんは。」
フッと笑顔が零れる。
「おや、ようやく笑ってくれた。しかめっ面のままだからやはりボクのトークは面白くなかったのかと思っていたよ――――では、風鳴さん、後の説明は頼みます。」
「あぁ、任せてくれ。」
そう言って、目覚めてからなんだかんだと長い事居てくれた医師はスッと居なくなったのだった。
「……改めてとなるが、『特異災害対策機動部二課』の司令をさせてもらっている風鳴弦十郎だ。と言っても、今の名乗りは形式上の話だからあまり気にしなくていいぞ。共鳴くん。
昔のまま、オッサンと少年の距離感のまま話して貰って構わない」
「はぁ……特異災害対策機動部二課……二課?」
特異災害対策機動部。コレは日本国民ならだれもが聴いた事があるだろう。特異災害たるノイズ発生の際に避難誘導や物理攻撃によってノイズを食い止める護国の盾。
金喰い虫などと揶揄される事もあるが、自衛隊の中でもトップクラスの志願者が集まる人気職筆頭だ。
だが、そこに二課などあっただろうか?
「……やはり、お父さんはキミに何も教えずに戦っていたのだな。」
「父が……?教えてください。小父さん。二課とはなんなのか。そして――――あのライブ会場で何が起こっていたのかを」
◆◆◆◆◆◆
二課についての説明や、ネフシュタンの鎧とは明言しないまでも、ライブそのものがある種の実験であった事、彼のお父さんが起こした謀反の舞台裏。
――――そして、なによりも重大な事例、半ば事後承諾となってしまってはいるが、彼の持つ聖遺物『
あまりにも多くの情報だ。考える事を放棄してもいいだろうに、共鳴くんは考える事を放棄せず、今も考え込んでいる。
きっと、彼は考え抜いて出した答えに納得するだろう。――――それが、小父さんという微妙ながらも近い立場にいる大人としてとても歯がゆい。
天津共鳴――――彼は昔から聡い子であり、正義感の強い子であり、なにより『違う事』を重んじる、とても良い子であった。
『違う事は悪ではないのだ』という。大人でも実践出来るかは難しい考えを感覚的に分かっていたからか、マイノリティを排除せんとするいじめっ子と対立する事も多くあり、時には大立ち回りを演じる事もあったと。
酒盛りの際に共行さんが楽し気に語っていた事を覚えている。
――――だからこそ。違いを認めずあらゆるものを滅ぼすノイズと戦う二課の活動を、天津家の当主たらんとする彼は割り切って認めるのだろう。
たった16歳の、それこそ俺のような連中からすれば全く以て子どもな彼に、それを背負わせたくないからこそ、共行さんは彼に何も教える事は無く、八年前の謀反に到ったのだろう。
「――――わかりました。」
あぁ、全く以て。背がデカくなっただけで出来る事はちっとも増えやしない。などと、単純な俺にしては珍しくセンチメンタリズムに囚われながら承諾を得たのだった。
「あぁ!!そうだ!!話が壮大になって遅れましたけど!!立花響という子は!!あの子は助かったんですか!?」
――――そう思っていたら、なにやら急に共鳴くんがあわただしく聞いて来たのだった
「キミの知り合いか?……まさかライブ会場にいたのか?」
「……はい。あの時、俺が飛び出したのを待っていたら、二階席の崩落に巻き込まれて……そして、あの赤い……シンフォギア、でしたっけ?それを纏った少女が護ってくれたんですが、胸に破片を受けてしまって……その後俺も気絶してしまって……」
「なるほど、奏が……それだけ情報があれば早晩にも絞り込めるだろう。此方の方で探しておく。安心したまえ!!あの会場でも屈指の重傷だったキミが搬送されたという事は、彼女も恐らくこの病院に居るだろう!!すぐに見つけ出してやるからな!!ハッハッハ!!」
名前からして女の子だろう。彼女さんだろうか?彼にもそんな年頃の付き合いがあるのだ。と思うと萎んでいた気持ちも俄然燃え上がるという物だ!!
そう思った気持ちは、だが。
次の共鳴くんの質問で先送りにする事となる。
◆◆◆◆◆◆
「俺が会場でも屈指の重傷って……あの奏?さんでしたっけ。あの人の方がよっぽど……」
よっぽどヒドイ状況だった。と言いかけそうになった言葉を飲み込む。
それはそうだ。シンフォギアとやらが二課所属だというなら彼女の事は機密事項。
――――そもそも、それ以前に。『四肢が崩壊した人間』をヒドイ状況だった。などという一言で括るのは俺が一番嫌う決めつけだ。と気づいてしまったのだ。
そうやって、小父さんの顔を見れずにいると、ふと頭にあったかいものが乗っかってきた。
――――それは、小父さんのデカい掌だった。拳を握れば昔の俺の顔よりも大きかった。昔から変わらない掌。
「……ありがとうな。奏を助けてくれて。」
突然の言葉に、思考が止まる。だって、『考えてもみなかった』のだ。
「でも……ッ!!俺……!!」
言葉にならない。だって、『俺の力が足りなかったから』彼女――――奏という少女は四肢を喪い、俺が受けきれなかったノイズたちのせいで多くの人が死んだのだというのに!!
「それは、違うぞ。共鳴くん。キミは出来る事を、全力でやった。だから、責める言葉なんてキミには要らない。キミに掛けるべき言葉は『ありがとう』だけだ」
その言葉と、頭を撫でる暖かな体温に、何か、胸の奥に深々と刺さった棘が溶けるように消えたようで。
気づいた時には、涙が止まらなくなっていた。
「アレ……お”れ”……こ”ん”な”……」
口を開けば汚い涙声が抑えられない。眼を閉じても涙が止まらない。
こんなにひどい顔なのに、小父さんとくれば微笑むばかり。
「それとな、奏の事だが、機密故詳しい事は言えんが、あの時『彼女が人の形を保っていた』のはお前のお陰じゃないか。というのが二課の技術者たちの考察だ」
「……え?」
「だから、ありがとう。だ。奏の保護者代わりとして、そして翼――――もう一人の装者の叔父として、心の底からキミに感謝したい。だから今は気にせず泣いて結構!!ドーンと俺が胸を貸してやる!!」
その言葉に、一瞬引っ込んだと思った涙がまた堰を切るようにあふれ出して。
結局、泣いて泣いて泣き疲れた俺はそのまま撫でられたまま寝てしまうという悶絶物の想い出を増やす結果を招いたのだが――――不思議と、恥ずかしいが、あったかい想い出となったのだった
風鳴司令にとってもつらい選択であり、共鳴がまだ人として壊れていない事の証明でもあるのです。