戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第三十一話 蒼穹のタペストリー

━━━━その街に、最早人は居なかった。

 

超大型飛行ノイズの出現により、進行ルート上で大規模な避難活動が行われた為だ。

その事実に、少し安心する。人が灰と崩れ去る様は、やはり絶対に見たくない物だ。

 

二課で用意してくれたヘリコプターで現地へと向かう道中で考えたのはそんな事だった。

 

「まもなくスカイタワー付近に到着します!!司令!!どうしますか!?」

 

『地上に降りてしまえば超大型飛行ノイズに攻撃が届かん!!……危険だが、響くんに上空からダイヴしてもらう!!高度を高く取ってくれ!!』

 

「……了解!!危険手当、弾んでくださいよ!!」

 

ヘリのパイロットさんが司令と通信するのを横目に見ながら、私は飛んで来るノイズが居ないかを見張る。

ソロモンの杖を握る女性━━━━フィーネに操られているらしい超大型飛行ノイズは一般的なノイズと違って人を狙ってはこない。

だが、スカイタワーに到着した個体は大量の小型ノイズと共に飛行型ノイズをも吐き出し始めたという通信が入っている。

そちらの個体は人間を狙って此方を攻撃してくる可能性がある。そうなれば、私が囮にならなければならない。

 

「その……ありがとうございます。こんな危険な任務を引き受けてくれて。」

 

「……なに。気にするな!!元々俺は一課から引き抜かれた現場向きの人材でな!!俺が命を張るのは俺自身の選択だ。嬢ちゃんが気にするこったねぇさ!!」

 

━━━━それが、強がりだというのはすぐに分かる。ノイズがもたらす恐怖を、存在を否定される事の恐ろしさは、私にもよく分かるのだから。

 

「……ありがとうございます!!それじゃ……行ってきます!!私が落下したらすぐに離脱を!!」

 

「幸運を!!なぁに、心配ないさ!!逃げ足は二課でも随一だからな俺は!!」

 

だから、返す言葉は感謝の念。心からの言葉が、どうか彼に届くようにと祈りながら、私はその身を空へ━━━━超大型飛行ノイズの直上へと投げ出す。

 

「━━━━Balwisyall nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

 

胸の歌を(かざ)し、身体を通してあふれ出す力へと変換する。

狙うは中央突破。腕のバンカーを引き延ばし、落下による加速を利用して一撃にて貫き通す━━━━!!

 

━━━━蒼ノ一閃

 

私が一体目を倒して着地する横では、バイクで到着した翼さんが地上から二体目を狙う。だが……

 

「クッ……!!やはり飛行型ノイズが盾になるかッ!!相手に頭上を取られるという事だけで、こうも立ち回りにくいとは!!」

 

「だったら多少動く事になりますけど、作戦空域外で翼さんがヘリに乗ってあの日みたいに飛び出して……」

 

━━━━超大型飛行ノイズを倒す為の作戦を練る私の耳に爆音が届いたのは、その瞬間だった。

見上げた空で起きていたのは、凄惨な状況。先ほど懸念した通りに飛行型ノイズがヘリコプターに突き刺さり、爆炎の華を咲かせる光景だった。

 

「そんな……ッ!!」

 

━━━━さっきまで、生きていたのに。恐怖に抗いながら、私達を届ける事で多くの人々を護らんとした立派な人がそこに居たのに。

 

「相模さん!!よくもォッ!!」

 

知り合いだったのだろう。名を叫びながらも剣閃を緩める事の無い翼さんと共に、私も悲しみを一端置いてノイズへの対処を優先する。

 

「……やっぱり、お前たちは……許せない!!」

 

胸に宿る怒りの焔。だが、それは私の身を焦がす憎しみの焔では無い。

飛行型ノイズの波状攻撃を避けて、殴って、一体ずつ丁寧に倒していく。二機目のヘリを呼ぶにしろ、なにかしら別の方法を取るにしても、機動力に優れた飛行型ノイズを放っておいていい事など何一つない。

 

━━━━だが、それを嘲笑うかのように超大型飛行ノイズは格納しているノイズをバラ撒いて来る。

なんでも、あの手の大型ノイズは自らの内部にノイズが元々存在する異空間への『扉』を開いており、それによって無制限にノイズを増やしていくのだという。

 

「どうすれば……!!コレじゃジリ貧です!!」

 

「あぁ……だが、臆するな立花!!私達防人が一歩後退すれば、それだけ戦線が後退するという事……その先に居る護るべき人々の基へとノイズを通してしまう事に他ならない!!」

 

「分かってます!!分かってます……けどッ!!」

 

一発の拳でノイズを砕き、一発の蹴りでもまたノイズを砕く。

だが、数が多い!!

一匹を倒す毎に五体が増えてくる。元々、私の戦法は対多数よりも対単体を想定した拳法が主体であり、殲滅力で言えば当然翼さんに見劣りするのだ。

この前に使った突撃はバンカーを引き延ばさなければ使えない為、このような乱戦ではそのヒマが無い。脳裏に浮かぶ焦りを構えた拳で振り払いながら少しずつ、少しずつノイズを散らしていく。

 

「━━━━立花!!上だッ!!」

 

そんな中で聴こえた翼さんの声にハッとして私は空を見上げる。其処に居たのは飛行型ノイズの群れ、群れ、群れ。

あの数はどうあがいても捌き切れない……!!

 

━━━━そんな予想を、私達の後方から放たれた銃声と砲火が蹴散らして、変えて行く。

 

「あっ!!」

 

その銃声には聞き覚えがある。その砲火には見覚えがある。

 

「━━━━クリスちゃん!!……って、お兄ちゃんまで!?どうしたの!?」

 

振り返れば、確かに其処に居たのはクリスちゃんだった。……けれど、その隣には何故かお兄ちゃんの姿。

 

「ったく……コイツがピーチクパーチクうるせーからちょっと出張ってみりゃこのザマか?コレじゃ、安心して昼寝も出来やしねぇ。

 だが勘違いするなよ!!あくまでもあたしはあたしの意思でここに居る!!お前等のお仲間になったつもりはサラサラねぇ!!」

 

「あぁ、分かってるよ。あくまでもノイズが共通の敵であるからこその利害の一致……今はそれでいいさ。」

 

クリスちゃんの手には、私達も使っている通信機が握られていた。

それで分かった。きっと、お兄ちゃんが説得してくれたのだろう。

 

『見ての通りだ!!まだ仲間とまでは言えんがそれでも強力な助っ人。第二号聖遺物イチイバルを纏うシンフォギア装者。それが彼女……雪音クリスだ!!』

 

「クリスちゃーん!!ありがとう!!絶対分かり合えるって信じてたから!!」

 

お兄ちゃんの説得に応えてくれた事、私達の手助けをしてくれる事。その全てが嬉しくて私はクリスちゃんに抱き着いた。

 

「ちょ、こんのバカ!!今の話聴いてなかったのか!?分かり合ったワケでもなんでもねぇ!!」

 

けれど、クリスちゃんは抱きしめる私の腕から逃れてしまう。むぅ、私としては分かり合えたつもりなのだが……

 

「……まぁ、あなたがそう納得しているのならとりあえずはいいわ。今優先すべきはノイズの殲滅だもの。」

 

「あぁそういうこった!!あたしはあたしで勝手にやらせてもらう!!邪魔だけはするんじゃねぇぞ!!」

 

そう言い残すとクリスちゃんはなおも空を覆う飛行型ノイズへと向かって行ってしまう。

 

「えぇー!?」

 

「まぁまぁ、敵対はしないと明言してくれただけ良しとしよう。まずはノイズの数を減らさないと……」

 

「……共鳴、策はあるのか?」

 

レゾナンスギアを纏ったまま、それでも余裕を崩さないお兄ちゃんを見て、翼さんが問いかける。

 

「ある。あるんだけれど……それにはクリスちゃんの協力が必要だ。だから、まずはノイズ自体の数を減らしてクリスちゃんと話しあう余地を作らないといけない。

 俺もクリスちゃんを手伝って飛行型を片付けるから、二人は地上のノイズをお願い。」

 

「……わかった。立花!!共に駆けるぞ!!」

 

「は、はい!!」

 

それに対するお兄ちゃんの返事は明確。それを信じて、私と翼さんは地上のノイズ達へと立ち向かう。

 

━━━━けれど、策と言ってもどうやって……あの空に浮かぶ大型ノイズを倒すのだろうか?

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「クッ……!!しつこいぞ、お前!!」

 

「ゴメン。けど、ノイズを倒し切る為には上の奴を倒さなきゃならない。その為には作戦を練る時間が必要だ。その時間を確保する為に、まず飛行型だけでも蹴散らさないといけない……でしょ?」

 

あのバカと剣女(つるぎおんな)から離れたあたしを、それでも追ってきたのはあの男。レゾナンスギアを纏った、シンフォギアが居なければノイズと戦う事も出来ない筈の男だった。

 

「……アイツ等からわざわざ離れたんだ。あたしから離れれば死ぬぞ、お前。」

 

「死なないさ。キミ達の歌が、空に響く限り。」

 

━━━━なんだそれ。まるであたしの質問への答えになっていない。

だというのに、ソイツの眼は真っ直ぐだった。まるで、あのバカのように。

 

「……あぁそうかよ。だったら精々頑張って着いて来やがれ!!」

 

その眼を真っ直ぐに見返せないから、私が返せたのは憎まれ口だけだった。

 

「勿論!!」

 

返答と共にソイツのギアから糸が伸びて飛行型ノイズの一群を切り裂く。

あたしもまた、変形させたイチイバルのアームドギアで飛び回る奴等を撃ち落としながら、あたしの周囲を立体的に飛び回る男の戦いを観察する。

その戦闘スタイルをまじまじと見るのはそういえば初めてだった、とふと気づく。前回はソロモンの杖による圧殺を試みたのだから。

ビルを足場に、糸を掛けて、脚で蹴り出して飛び回るそのスタイルはまるで獲物を狩る蜘蛛のよう。

━━━━それにしても、銃に慣れている男だな。

ふと思い浮かんだのはそんな感想。ビル街を立体的に飛び回る中であたしと狙った獲物が合ってしまう事は必然と起きる。そうでなくとも、あたしがバラ撒いている以上はその射線を通り抜けないといけない事も当然ある。

そんな鉄火場の中を、幾らギアでバリアコーティングされているとはいえ平然と通り抜ける姿は、砲火から逃げ出したあのバカの━━━━ある意味では平和ボケしたこの国では当然な反応とはまるで違う。

 

「よし、大分減ってきたな……翼ちゃん!!響!!コッチに来てくれ!!」

 

そうして多くのノイズを倒す中で、ソイツがバカと剣女に呼びかける。周囲のノイズも減った事で余裕が出来たと判断したのだろう。

 

「クリスちゃん、あの超大型……倒せる?」

 

「……あぁ、出来る。だがこの状況じゃあ無理だ。」

 

━━━━やはりそうか。この男の事だから、策が無いなんて事は無いだろうと睨んでいたし、その為にあたしのイチイバルを使おうとするだろうとも読んでいた。

けれど、その作戦はご破算だ。なぜならば……

 

「あたしのイチイバルは長射程広域攻撃を得意とするギアだ。けどな!!絶唱でも無きゃ、デカブツまで届く一撃にゃチャージが必要になる。

 その間の無防備な背中をお前等に預けるなんて、あたしには絶対出来ねぇ。

 ……確かに、あたし達が争う理由なんてねぇ。だからって、こないだまで争ってたあたし達が争わない理由もあるものかよ!!」

 

つい先ほどまで敵同士だったのだ。そんなあたし達が今さらに連携など出来るものか。さっきまでの共闘だって、あたしの攻撃をお前が避けたから成立するだけの砂上の楼閣だ。

デカい花火をブチ上げるまでの完全に無防備になる瞬間を預けるだなんて事は出来やしない。

だから、叫ぶ。できるわけがないと。

 

「━━━━そんな簡単に人と人とが手を取り合えるもんかよ!!」

 

それはあたしの、心からの叫びだった。

━━━━だって、人と人とがそんなに簡単に手を取り合えるのなら、どうしてパパとママは……

 

「━━━━出来るよ。出来る。誰とだって仲良くなれる。」

 

そんな叫びを、なんでもない事のように受け止めたのは、あのバカだった。

あたしの手を取るその姿は、どうしてだろうか。記憶の中のパパとママを思い出させて……

 

「どうして、私にはアームドギアが作れないんだろう?って思ってたんだ。いつまでも半人前で、お兄ちゃんや翼さんに迷惑を掛けちゃうのもイヤだなぁって思ってた。

 ━━━━だけど、それは違ったんだって、クリスちゃんが気づかせてくれたの。」

 

「あたしが……?バカ言ってんじゃねぇ、あたしは、お前を……」

 

━━━━お前を、殺そうとしたんだぞ?

そんな言葉を続ける事は、あたしには出来なかった。

 

「だってクリスちゃん、アームドギアを砕かれた時に無理矢理助けに入った私の事、抱き留めてくれたじゃない。私、あの時に気づいたんだ。私のアームドギアは作れないんじゃなくて……もう此処にあるんだって。」

 

アームドギアを、もう持っている?

ソイツの言う事が分からない。理解出来ない。アームドギアとは自らの意思を貫く為の具現武装だ。であれば、無手で存在するアームドギアなど存在しえない(・・・・・・)

 

「立花のアームドギア……それは一体……あっ、おい!?」

 

あたしとバカの会話を見守っていた剣女の手までそのバカは握り出す。それを見て、思い至る答えが一つあった。

……まさか、コイツはそんな大馬鹿を大真面目に語ろうって言うのか━━━━!?

 

「はい。こうやって、武器を握らないからこそ、誰かと手を繋ぐ事が出来る……きっと、これが私のアームドギアだと思うんです。」

 

「この……手が?」

 

剣女すら呆気に取られる予想の斜め上をカッ飛んで行く答え。

だってそうだろう?『武器を持たない事』こそが『最大の武器である』など、矛盾するにも程がある。

 

「はい!!ほら、そういう事だからお兄ちゃんも手を握ろうよ~!!」

 

そう言って、ソイツは上空へと声を掛ける。そこでは、自分で呼び出したクセに作戦会議からいつの間にか離れていた男が一人、戦っていた。

 

「あのねぇ!!生憎とコッチはキミ達が作戦会議してる間に邪魔しようとしてるノイズの皆さんと戯れるので忙しいの!!だから……俺の事なんか気にせず手を取り合って取り合って!!

 無粋なお客様はコッチでどうにかしておくから、さッ!!」

 

返答と同時に切り裂かれる、多数の飛行型ノイズ達。

その宣言の通り、あたし達に近づかんとするノイズを一体も通さんとばかりに切り裂き、投げ飛ばし、蹴りつけて足場として利用するその姿は徹頭徹尾本気だった。

手を取り合う事は出来ないだなんて、ちっとも信じていやしない。

 

「ふふっ。なるほど……立花と、そして共鳴らしい答えだな……どう?彼等の本気、信じられないかしら?」

 

そう言って、あたしに手を伸ばす剣女。手を握るのは簡単なのだと言わんばかりに、その手には奴のアームドギアである刀すら無い。

 

「……このバカ共にあてられたのか?」

 

「えぇ、きっと大分昔からあてられていたのね。それに気づいたのはつい最近だったけれども……」

 

「……そうか。」

 

その迷い無い返答に背中を押されてぎこちなく手を握るあたし達の頭上を、まるで自身の存在を主張するかのように通過していく超大型飛行ノイズ。

アレを倒す為の策……

 

「……わかったよ。今回だけだ。あたしのイチイバルの出力を上げに上げて、放出せずに溜め込んでぶっ放す!!だが……」

 

「あぁ、チャージ中は丸裸も同然。この状況でそれを成すというのなら……」

 

「私達三人でクリスちゃんを護ってあげればいいんですよね!!分かりました!!」

 

そう言って、それぞれにノイズを減らす為に散って行く三人。

━━━━まだ頼んでも居ない事を、全く……ここまでされたら、あたしだって引き下がれねぇじゃねぇか━━━━!!

覚悟と共に胸を突くのは、半月前、あの子達と一緒に夜の街を歩いたあの時。あたしが自分の正義に迷い始めたあの時からずっと、あたしの胸によぎっていた想い(メロディ)。それを歌詞(ことば)が彩る。

 

━━━━繋いだ手だけが紡ぐもの

 

きっと、それはあるのだ。そうあたしが信じられるようになったから、胸の歌を信じたから、この歌は紡がれたのだと分かる。

 

そんな風に出力を上げる事に集中するあたしを狙うノイズの気配は未だ周囲に多くある。だが、最早それらは脅威とは感じられなかった。

だって━━━━

 

「クリスちゃんには近づけさせないッ!!」

 

「共鳴と立花と彼女が繋いだ勝機ッ!!逃すはずも無い!!」

 

「こういうのは本業なんでね!!二度と……後ろに通す気はないッ!!」

 

拳と、剣と、糸と、三つの力が阻んでいる。

無防備なあたしを狙う暴虐を阻んで、砕いて、させる物かと叫んでいる。

 

━━━━だから、あたしも叫ぶのだ。光を、力を、魂を……!!

 

「ぶっぱなせェェェェ!!」

 

『託したッ!!』

 

胸を突く歌に合わせて、空を見上げる。届かないと思っているのか、それとももはや周回する事しか命令されていないのか。

暢気に空を飛ぶ三体をロックする。

あたしの叫びに呼応して展開し続ける装甲から排出されるのは、自分でも驚くほどの大型のミサイル達!!

今までとはワケが違うのだと、イチイバルがそう叫んでいるように感じる程の強力なエナジー!!

 

━━━━MEGA DETH QUARTET

 

そして、解き放つのは爆裂の四重奏(カルテット)。一発でアイツをブッ飛ばしてもお釣りがくる程の広域殲滅火力!!

それを確実に届ける為に、腰のアーマーからも多弾頭ミサイルを放ち、両腕のガトリングから砲火を放ち続ける。

飛行型ノイズ達を片端から射抜き、焼き尽くし、薙ぎ払う。

 

「やっと見えたと……気づけたんだ……きっと……届くさ……」

 

━━━━あぁそうだ。やっと見えたのだ。あたしがどうしたいのか。どうすればいいのか。その答えの一端が。

 

着弾したミサイルがドデカい花火と変わる中で、あたしは一つの決心をしていた。

あたしは、パパとママの夢を━━━━

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「やったー!!やったやったー!!」

 

「だーッ!?何しやがるこのバカ!!引っ付くな!!暑苦しい!!」

 

作戦通り、クリスちゃんの一撃で空を覆っていたノイズは一掃された。

私達とクリスちゃんの初めての共同作戦。それが嬉しくて嬉しくて、ついついクリスちゃんに抱き着いてしまう。

 

「だってだってだって!!あんなにいっぱいのノイズを一掃出来たのはクリスちゃんのお陰だもん!!えへへー」

 

「だーかーらー!!抱き着くのはやめろ!!そもそもだ!!さっきも言ったがあたしはお前たちの仲間になった覚えはねぇ!!

 あたしはフィーネと決着を着けて、やっと見つけた本当の夢を果たしたいだけだ!!」

 

━━━━夢?

 

「クリスちゃんの……夢?それって、どんな夢?教えて欲し……あいたァ!?」

 

クリスちゃんの夢。彼女が抱くのなら、それはきっと素晴らしい夢だろうという確信から、またも抱き着いてしまいそうになる私。

そんな私の後頭部へと走った鋭い痛み、この痛みには覚えがある……!!私はこの一撃のヌシを知っているッ!!

 

「そこまでだ。もっと仲良くなって、クリスちゃんが教えてもいいとなった時に教えてもらいなさい。」

 

その一撃のヌシは、やはりお兄ちゃんだった。

 

「なんでお前等とこれからも仲良しする前提なんだよ!?ったく……お前等はホントのバカだな!!」

 

━━━━私の端末に連絡が入ったのは、ちょうどその時だった。

 

「あ、はいもしもし。」

 

『響!?学校が、リディアンがノイズに襲われてるの!!了子さんが━━━━』

 

━━━━切れた電話にすら気づかない私を襲うのは、サーっと、血の気が引いていく感覚。

 

「立花……?どうした?なにがあった?」

 

「リディアンが……学園がノイズに襲われてるって、未来から……私、行かないと……!!」

 

リディアンにはまだ皆が居るのだ!!ノイズに襲われているのだとしたら、速く行かなければ皆の命だって━━━━!!

 

「落ち着け、立花!!」

 

「落ち着けません!!どうしよう……どうしたら……ギアを纏って跳んで行けば……!!」

 

「━━━━響。」

 

怖い、恐い、コワい。私の日常が、この二ヶ月ですっかりと私の居るべき場所になったリディアンが、ノイズに壊されてしまう。否定されてしまう━━━━!!

足元が崩れて、前提が壊れていく感覚に震えながらに空回りする私を抱きしめてくれたのは、お兄ちゃんのぬくもりだった。

 

「大丈夫。未来が連絡してきてくれたって事は、未来は避難誘導も終えて二課の皆と合流出来たって事だ。

 だから、未来は大丈夫。そして、そうして避難誘導が終わってるって事は……リディアンの皆も無事だ。」

 

━━━━言われてみればそうである。

未来が連絡してきてくれたのだ。だったら、未来と皆は無事な筈だ。

 

「あぁ、二課だけでなく一課のメンバーも避難誘導に当たる筈だ。どうか、彼等の尽力を信じて欲しい。」

 

━━━━翼さんのその言葉は、空に向けて放たれていた。

先ほど、私達を送り届けてくれたヘリパイロットの人。あぁそうだ。シンフォギアが無くたって、誰もが精一杯に戦っているのだ。

私のアームドギアは、そんな力を紡ぐ為にあるというのに……

 

「……ありがと、お兄ちゃん。ちょっと落ち着いた。」

 

「……そうか。じゃあまず、状況を整理しようか。

 まず第一に、リディアンがノイズに襲撃された。コレは……恐らくはフィーネの仕業だろうな。そもそも、あの大型ノイズ自体が俺達を此処へ集める為の物だったんだろう。

 俺達はあのノイズがここへ向かい始めた事から、このスカイタワーこそがカ・ディンギルでは無いかと予測を立てた。だが……」

 

私が落ち着いたのを見計らって、お兄ちゃんが現在の状況を整理し始めた。

 

「……そのフィーネがノイズを操れる以上、『此方の出方さえ分かっていれば』ノイズを制御する事で間接的に我々を誘導する事は可能、という事か……」

 

お兄ちゃんの言葉に相槌を打つのは翼さん。なにやら浮かない顔をしているが、何か引っかかるのだろうか?

 

「……気づいてたのか。翼ちゃん。」

 

「薄々、何かがおかしいと感じてはいた。だが……確信に変わったのは今日、立花の話を聞いてからだがな……」

 

……私の話?

 

「……私、何か話してましたっけ?」

 

「……櫻井女史がノイズを退けた、という話だ。私とて十二年前からずっと彼女の研究対象だったのだ。だが、彼女がそんな研究成果を出して来た様子など一度たりとて無かったのだ。」

 

……それはつまり、どういう事だろうか?了子さんが何かを隠していた?

了子さんがノイズを倒していた事、それを隠していた事。

━━━━そうして繋がる答えは、無情にも程があるこの世の残酷だった。

 

「……第二に、フィーネの正体……いや、もしかしたらフィーネこそが彼女の正体だったのかもしれないな……それは、櫻井了子女史その人だ。だろう?クリスちゃん。」

 

「……あぁ。少なくともあたしはそう聞いている。二課に潜入する際の身分として使ってると、あたしにはそう説明していた。」

 

「そんな……じゃあ、了子さんが……学園にノイズを……?」

 

━━━━信じられない。それが、私の率直な感想だった。

確かに了子さんはいわゆるマッドサイエンティストな気質はあるし、女の子を見るとすぐにセクハラをしてくる人だけれど、外道では無かった。

けれど、フィーネは確かにそうだった。人を巻き込む形でノイズを呼び出し、使役し、時には私達を殺す為だけに驚異的な新ノイズすら投入する。

 

━━━━一体、どちらが本当の了子さんなの?

グルグルと、また回り始める頭はクラクラと眩んで、フラフラと震えるようで。

 

「第三に……口惜しいが、今からリディアンに直行しようとしても手段が無い。幸い、今回は翼ちゃんのバイクも横転しただけだったから、乗ってきた俺のバイクと合わせて二台に二人乗りすれば向かう事自体は出来る。出来るんだが……」

 

「……だが、それにしても一時間はかかる。徒歩ならその六倍は掛かるだろうとはいえ……ノイズの活動限界時間はとうに迎えてしまっているな……」

 

「あぁ。ノイズの活動限界時間を超えてしまう以上、今から俺達が最速で着いたとしても、待っているのは第二陣以降との戦いだ。

 それに……今は、休息も必要だ。響、お腹空いただろ?」

 

「……えっ?あ、うん……そっか……おばちゃんの言葉……」

 

「あぁ。お腹空いてたら悪い事ばっかり考えちゃう。だろ?

 一回休んで、お腹いっぱい食べて、そしたら訊きに行こう。どうしてこんな事をしたのか?ってさ。」

 

━━━━お兄ちゃんは、私の状態に気づいていたのだろうか?

言われて気づけば確かに、さっきまでガッツリ戦っていたからか、お腹はもうペコペコだ。

このまま向かっていたら、きっと戦うどころでは無かっただろう。

 

「うん……わかった。でもお兄ちゃん、ここ等辺は皆ノイズ出現で避難しちゃったからどこも開いてないよ?それなのに一体どうやってご飯を用意するの……?」

 

「んなもん、緊急事態なんだし金だけ置いとけばいいだろうが……」

 

「えー!?ダメだよクリスちゃん!!それじゃ泥棒さんだよ!?」

 

クリスちゃんの大雑把過ぎる解決法に思わず声を挙げてしまった私は悪くないと思う。

 

「っつってもよぉ……それ以外に手段、あんのか?」

 

「━━━━いいや、あるよ。」

 

『へっ?』

 

思わず、クリスちゃんと私がハモってしまうくらいビックリするほどに、さも当たり前だ。とでもいうように、お兄ちゃんは私とクリスちゃんの疑問に力強く答えたのだ。

 

「この状況で、合法的にご飯を用意する方法があるのさ、ただ一つね━━━━!!」




決戦のその前の、少しだけの幕間。
少年と少女達の交流、そして、ただ一人残った少女の決意。
揺らぎによって変わり、強まり、固まった想い達が今、カ・ディンギルの元へ集う……

━━━━少年と少女達の紡ぎあげたシンフォニーが今、月を穿たんとする悪意と激突する。
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