戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第三十三話 月華のファーストレディ

━━━━最悪だ。

 

そう想っても仕方ないだろう。

折角店長に昇進したばかりだったというのに、休日の昼間というボリュームタイムをノイズに襲われたのだ。

幾ら店員に一人の犠牲者も無くシェルターに逃げ込めたとはいえ、それだけで気持ちが上向く程、俺は単純にはなれない。

 

「店長?どうしたんですか頭抱えて?」

 

そんな風に落ち込む俺に声を掛けて来たのは、バイトの青年だった。

逆立った金髪と長身も合わさって、一見すれば威圧感すら感じさせる風貌ではあるが、その性格は誠実で、働きぶりも見事な物。

なんでも、幼馴染に付き合って長野から東京の大学に進学してきたのだという。

彼のような立派な青年がノイズの犠牲にならなくてよかった。と心の隅で思いながらも、目の前に見える現実を見据える。

 

「あのねぇ……そりゃあ、頭も抱えたくなるよ。ノイズが出現したって事は、この後に待ってるのはノイズ災害の後始末なんだからさ……

 ノイズが店に突っ込んでたりしたら大騒ぎだよ?」

 

「あー……確かに、そりゃ大変ッスよねぇ……」

 

「そうでなくとも、避難の時の混乱で持ち逃げされちゃった商品が無いかとか……ノイズの灰が商品に掛かっちゃって無いかとか……一つでも残ってたら、お客様から何を言われるか分かったもんじゃ無いしさ……」

 

━━━━その灰が、本当にノイズの物かも分からないのだから。せめてそんな諍いの種にされる事が無いようにしたいのだ。

 

「すいませーん!!この周辺のコンビニの方ですか?」

 

俺達に声が掛けられたのは、そんな会話の後だった。

その声の主は、避難誘導をしてくれたボランティア団体の一人だった。

 

「あ、はいそうです。それで……一体どのようなご用件でしょうか……?」

 

━━━━正直に言えば、面倒事の気配がプンプンするのだ。具体的には廃棄になる品を配ってくれとか、避難者の一時受け入れをしてくれだとか……そういった、コンビニの分を超えた仕事をさせられるのではないか?という疑念だ。

 

「えっとですね━━━━」

 

だが、その予測はいい意味で裏切られる事となる。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━と、言うワケでこの店の食品系の商品は殆ど俺の名義で買い占めた。この後、ウチの団体のメンバーが商品の引き取りに来るからその前に好きな物を取っていいよ。」

 

「━━━━結局金にあかしたゴリ押しじゃねーか!!」

 

あたし達に名案があるなどと抜かしていたその男が行ったのは、力技にも程がある解決法だった。

 

「うわー!!買い占めとか私初めて見たよー!!クリスちゃん、何食べる?」

 

「当たり前のように馴染んでんじゃねぇよバカ!?」

 

「むぅ……コンビニ弁当というと、食品添加物などでバランスが良くないというイメージが付きまとってしまうが……」

 

「あ、最近のコンビニ弁当は技術も進歩してますからそんな事無いですよ?それでも気になるなら一緒にサラダ系も貰っていきましょう!!」

 

「なるほど……む、サラダも色々な種類があるのだな……トマト入りは……止めておこう。」

 

だがしかし、そんな荒業に対して残り二人はどこ吹く風。

━━━━そりゃ二課とやらの連中が非常識そのものなのはあたしも薄々気づいちゃいたが、ここまでやるか普通!?

 

「だーッ!!ここには常識人が一人も居ねぇのか!?大体、支払い切れんのかよそんな額!!」

 

「案ずるな、雪音。共鳴のクレジットカードはセンチュリオンカード……いわゆるブラックカードだからな。限度額は実質存在しない。」

 

「そういう問題じゃねェェェェ!!見たとこ学生だろうが!!収入と支出のライフバランスどうなってやがんだ!?」

 

「えー?だってこの中で一番稼いでるのって多分翼さんかお兄ちゃんだしなぁ……もぐもぐ」

 

「あはは……まぁ、否定はしないかな。そんなこんなだから、二課のバックアップ無しでも割とどうにか出来る事だってあるんだ。

 お金を払えないのが気になるなら、俺が立て替えるって事にしても構わないよ?その分の金額なら、この前のお金の返却も受け付けるし。」

 

コイツ……あたしが気にしてる部分━━━━金を払って奢ってもらう事が嫌だというのを理解していないワケでは無く、むしろ理解しているからこそ色々と手を回してくる。

それが分かるだけに、お膳立てされてるようで気に入らねぇ。

だが、ここで固辞した所で腹は減る。それは、あたしの目的を果たす事にも支障をきたすだろう。

……暫し悩んだ末に、天秤は情けを受ける方向に傾いた。

 

「くっ……わかったよ!!だが、金は払うからな!!まだ返却するワケじゃないから勘違いするなよな!!」

 

━━━━それは、誰に対しての言い訳だったのだろうか。

食べる物を出来るだけ安い金額に納められるように選ぶことに意識を向けながらも、頭の片隅にそんな疑問が渦巻いていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━さて、じゃあ。俺は団体のメンバーと納入の打ち合わせをしてくるよ。集合は……五時くらいにしようか。その後に、俺と翼ちゃんのバイク二台に便乗してリディアンに向かうって事でいいかな?」

 

「あぁ。だが……立花の分のヘルメットはあるのか?」

 

「あぁー……それもあったね。分かった。皆に聞いて来るよ。ここ等辺にモーターショップがあるかも知れないし。」

 

食べ終わって、暫しの休息を取る私達にそう言って、共鳴くんは歩いて去ってゆく。

その背中に、舌打ちを送る少女が一人。

 

「チッ……気遣いも出来過ぎると嫌味になりやがるな……」

 

「ほぇ?どうしたのクリスちゃん?」

 

━━━━あぁ、彼女は共鳴くんの意図を理解しているのだな。

勿論、彼が口にした理由に嘘はない。だが、共鳴くんがこうして私達から離れた理由は……幾つか、想像が付く。

 

「出発までの間、男の自分は近づきゃしねぇと明言してんだ。今のうちに御手水(おちょうず)でも済ませとけってんだろ?

 その為に離席する流れが自然過ぎて逆に露骨だから嫌味だっつったんだよ。」

 

「おぉーなるほどー!!お兄ちゃん、そういうとこいっつも気を効かせてくるもんねぇ……流石に、お兄ちゃんが居る前だと恥ずかしいし……」

 

「まぁ……共鳴くんの周りは大抵女所帯だからな。そういった技能も鍛え上げられよう。」

 

……それが良い事か、悪い事かは、同年代の男性との関わりに疎い私には判断が付かない。

━━━━だがまぁ、危急の今はその気遣いに甘えるとしよう。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━ぬ、ぬぅ……」

 

「司令!!目が覚めましたか!!」

 

「う……状況は?」

 

担架によって運ばれていた司令が目を覚ましたのは、夜も近くなってからだった。

 

「本部機能の殆どが、櫻井女史の━━━━フィーネのハッキングによって停止させられました。地上、及び地下施設の被害状況も不明です……」

 

「ぬぅ……そうか……クッ!!」

 

「司令!?まだ立っちゃいけません!!」

 

「担架で運ばれるより意識がはっきりする……それで、鳴弥くん。俺達の策は……どうなった?」

 

━━━━私が未だ此処に居る事で大筋は分かっている筈だ。それでも、次の策を建てる為に、司令は私に質問する。

 

「……第一候補であった『RN式』は、エレベーターシャフトそのものがカ・ディンギルであった事、そして、本部施設そのものがハッキングされた事で『深淵(アビス)』へのダイヴが困難な事から回収が不可能になりました。やはり、怪しまれる可能性を考慮してギリギリまで手出ししないようにしていたのが裏目に出た形になりますね……」

 

「……そうか。まぁ、俺もこのザマだ。ダイヴの強行は今の所ナシ、だな……グッ……」

 

「第二候補であった奏ちゃんのガングニール……これは、彼女が耐えられるか分からない事と、地上の状況が分からなくなった事の双方から危険性が高いと判断して、初期案通り採用しない方向で進めています。」

 

「……となれば、第三候補の学園シェルターへの移動が一番の安全策、というワケか……あちらは本部との繋がりを表に出さないように別規格になっているからな……

 防衛大臣の暗殺、デュランダルの狂言強奪……そして、本部にカムフラージュされて建造されたカ・ディンギル……

 俺達は、やはり彼女の掌の上で踊らされていたというワケだ……」

 

「イチイバルの紛失に、雪音クリスの誘拐……いえ、それどころか二年前のライブ事故への関与も。他にも彼女の暗躍が疑われる案件は、数多く存在しますね……」

 

━━━━突きつけられた事実に、私達の間に落ちる空気は、重い。

 

「だがそれでも。同じ時間を過ごして来た彼女との総てが嘘だったとは……俺には思えない。」

 

━━━━それを打ち破ったのは、やはり司令だった。

 

「……甘いのは分かっている。性分だ……だが、だからこそ……俺の手で彼女を止めてやりたかった……」

 

苦笑いを零す司令の、その無念が分かっているからだろう。誰も、その言葉に反論を出す事は出来なかった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━夜に、赤い月が昇っていた。

 

「ようやく到着したが……」

 

「……やはり、ノイズは活動限界時間を迎えているようだな。」

 

リディアン音楽院は、静まり返っていた。

夜だから、では無い。

崩れた校舎と、焼け落ちた木々。そして、破壊された戦車の残骸。

━━━━戦いが、ここであったのだと実感する。

 

「……未来ー!!みんなー!!……そんな……」

 

「立花……」

 

翼ちゃんと響の落ち込み様は、目に見える程だ。

それも当然だろう。今日まで自分たちが通っていた学園が灰燼に帰すなど、そう簡単に受け入れられる事実では無い。

クリスちゃんも、何かを思い出すかのように顔を顰めている。

 

━━━━だから、夜の闇の中に堂々と佇む彼女に最初に気づいたのは、部外者である俺だった。

 

「━━━━ッ!!了子さん!!やはり……貴方がッ!!」

 

「フフフフフ……ハハハハハハ!!愚問だな、天津の(すえ)!!当然だろう?こんな状況でただ一人生き延びたのだ……などと、そんな風には見えまい?」

 

挑発を交えながら、その姿を『櫻井了子』から黄金へと変えていくフィーネ。

 

「そんな……嘘、ですよね。了子さん……だって!!だって!!私の事、護ってくれたじゃないですかッ!!」

 

━━━━響の慟哭が、胸に刺さる。

本当ならば、こうなる前に終わらせたかった。

響がこんな残酷な事実を思い知らされる前に、どうにかしてあげたかった。

……こんな時、自らの無力を思い知る。手が届かなければ、俺は誰かを助けられない。

 

「アレは━━━━完全聖遺物とはいえ、その力を喪失していたデュランダルを庇った……いわばついでだ。」

 

「嘘ですッ!!だったら、貴方がフィーネだったら、本物の了子さんはどこに居るんですかッ!?」

 

「……櫻井了子の肉体は、先だって完全に食いつぶされた。いや、むしろ『櫻井了子』なる存在は十二年前にとうに死んでいたと言ってもいいだろう。

 超先史文明の巫女たるこの(フィーネ)は、自らの遺伝情報へと己の意識を刻印し、自身の血を引く者がアウフヴァッヘン波形に触れる事をトリガーとしてそこに刻まれたフィーネの意識と、記憶を再構成するよう策を施していたのだ。」

 

━━━━その言葉に、思わず耳を疑う。

超先史文明の巫女の意識!?子孫を食いつぶして再構成される存在だと!?

 

「━━━━十二年前、風鳴翼が偶然引き起こしたアメノハバキリの覚醒。それこそがトリガー。実験に立ち会った櫻井了子の内に刻まれた遺伝子は起動し、私の意識を復活させた……それこそが、フィーネ。」

 

「あなたが、了子さんを塗りつぶして……!!」

 

「それではまるで、過去から現れる亡霊では無いか……!!」

 

興が乗ったのか、フィーネの口から次々と明かされる真実。それは、俺達の理解を遥かに超えて、フィーネという存在の強大さを思い知らせていた。

 

「フフフ……そんなシステムが、よもやこの数千年の間に櫻井了子ただ一人でのみ起動したと思うか?

 歴史に記されし偉人、英雄……その中にも当然私は存在してきた!!世界中に散った私の子孫たちを介して、パラダイムシフトと呼ぶべき技術の転換点に立ち会ってきたのだ……」

 

「ッ!!シンフォギアシステム!!」

 

「聖遺物の限定利用技術もそれ故かッ!!」

 

フィーネの壮大な話の中で湧いて出た、聞き覚えのある話に反応する、俺と翼ちゃん。

 

「ハッ!!そのような玩具(おもちゃ)、為政者にコストを捻出(ねんしゅつ)させる為の副産物に過ぎん。」

 

「そのような戯れの為に、奏は命を燃やしたと!?」

 

「あたしを拾ったのも、アメリカの連中とつるんでたのもそのコストとやらの捻出の為か!?」

 

「となれば……アメリカに俺の情報を売ったのも貴方の仕業ですか……身内を疑う追及の眼を躱す為に!!」

 

━━━━すべての情報が、一点に収束していく。

二年前のライブ会場、ネフシュタンの鎧、雪音クリスの失踪、入院中を狙ったテロまがいの誘拐未遂。

だが、その収束した先が、分からない。

 

「そう……すべては、カ・ディンギルの為!!」

 

━━━━これほどまでの策謀と時間を掛けてまで完成させたいカ・ディンギルとは、一体なんなのだ?

そして、それを何のために使おうというのだ?

 

フィーネの言葉と共に、大地が揺れる。

それは、考えるまでも無くカ・ディンギル出現の予兆。だが、その塔はどこに?

 

「……まさか!!本部そのものが!?」

 

━━━━それは、マズい。フィーネへの対抗策として俺達が用意していた『RN式回天特機装束』。その現物はアビスに保管されているのだ。

焦る俺と、困惑する三人を後目(しりめ)に、大地を割って現れる、巨大な塔。

 

「これこそが。地より屹立し、天にも届く一撃を放つモノ……荷電粒子砲『カ・ディンギル』!!」

 

━━━━荷電粒子砲!?

確か、それは粒子を膨大なエネルギーによって加速させる、いわゆるフィクションにおけるビームの名称の筈だ。

それが、ここまで壮大に策を練ってきたフィーネの最終目的?

何かがおかしい。まだ、なにかピースが欠けている。

 

「カ・ディンギル!!コイツでバラバラになった世界が一つになると!?」

 

クリスちゃんが咆える。

だが、その怒気に動じる事も無く、フィーネは語り続ける。

 

「あぁ、一つになるとも……今宵の、この月を穿つ事によってな!!

 そもそも、今の今までカ・ディンギルの砲塔を露出させなかったのはこの為よ!!」

 

「月を!?」

 

「穿つと言ったのか!?」

 

「なんでさ!?」

 

「なぜ、そんな事で世界が一つになる!?」

 

━━━━あまりにも荒唐無稽な、その言葉に疑問が口を突く。

月を穿つことが、何故世界を一つとすることに繋がる!?

 

「……私は、ただあの御方と並びたかった……だから、私は人々を意志ある言葉━━━━歌によって束ねる歌巫女となり、シンアルの野に塔を建てた……

 それこそが、始まりのカ・ディンギル……だが、あの御方は、人が……ルル・アメルが同じ高みまで到る事を許しはしなかった……」

 

━━━━シンアルの野?それは、確か……

フィーネの話は、あまりに壮大が過ぎて分かりづらい。だが、そこに一片どころではない量の真実がある事もまた、認めざるを得ない事だ。

だから、必死に聞き覚えのある語を繋ぎ合わせて、フィーネの真意を探る。

 

「あの御方の怒りを買い、雷霆に塔を砕かれたばかりか、人類が交わしていた言葉まで砕かれる果てしなき罰……『バラルの呪詛』をかけられてしまったのだ。」

 

━━━━シンアルの野、神の門たるカ・ディンギル!!そして、雷霆によって砕かれる塔と、人々の言葉!!何よりも『バラル(バラバラ)』というその罰!!

 

「━━━━まさか、バベルの塔!?」

 

「バベルの塔?お兄ちゃん、それって……?」

 

「旧約聖書に曰く、かつての人々がシンアルの野に建てたという天を衝く威容を誇りし塔!!だが、それは神の怒りによってバラバラに言葉を別たれた事で完成する事は無く、説によっては神の雷霆で砕かれたという!!

 ━━━━アレは、実際に存在した塔の話だったのか!!」

 

「……そうだ。天津の(すえ)よ。そして、貴様にとってはこの後の話こそが本題だ。」

 

「……さっきから、何故俺の事を天津の(すえ)とばかり呼ぶ!?アンタと俺の家系に関係があるとでも!?」

 

「あぁ、ある。あるとも……あるからこそ、私は貴様等を憎み続けるのだ!!この臆病者共の子孫めが!!」

 

━━━━なんだって?

フィーネの突然の罵倒に、またも頭が追い付かなくなる。

バベルの塔を建てたというフィーネと、天神である道真公の末裔である天津。それをどんな因縁が結ぶというのか?

 

「シンアルの野に建てたカ・ディンギルが崩れ落ちる前!!ルル・アメルがあの御方に愛でられるだけだった蜜月の時代!!

 その時代に、あの御方に取り入る事でその御許(みもと)に抱えられた者共が居た!!それらは様々な姿をした船を駆り、遠く離れた世界を瞬時に繋げていた……

 そう、『道』無き世界にて、天より来たる使いは『(ソラ)』より降りて来ていたのだ……!!」

 

━━━━ご丁寧に説明してくれるフィーネの言葉で、思い出した事があった。

 

「━━━━天女伝説!!」

 

「そうだ!!貴様等天津の源となった女!!羽衣と共に降り立った彼奴(きゃつ)こそ、あの御方に取り入り、カ・ディンギルの崩壊後もあの月の遺跡にてのうのうと生きながらえていた裏切者!!」

 

天神、菅原道真公の母親は天女であったとする伝承。まさか、それがこんな所まで繋がっていただなんて。

 

「だが、カ・ディンギルにて月を砕く理由はそれだけでは無い……貴様等は、月が何故、古来より不和の象徴として崇められてきたと思う?

 ━━━━それはな!!月こそが!!其処に造られし遺跡こそが!!バラルの呪詛の源だからだ!!人類の相互理解を妨げるこの呪いを!!

 月を砕く事で解き放ち、そして世界を再び一つに束ねる!!」

 

━━━━そんな驚くべき事実を明かしながらも、それでもフィーネの怒りは止まらない。

永劫の時の果てから、この現在まで抱き続けた怒りは、そう易々とは収まらないのだろう。

 

「……そうやって、自分がお山の大将でございって人を支配するのがフィーネ、アンタの願いか?

 ━━━━安い!!安さが爆発しすぎているッ!!」

 

それに対して放たれたクリスちゃんの叫びも尤もだ。

そんな大昔の因縁が為に、これだけ多くの人々を巻き込み続け、その果てに遍く人を支配しようだなんて。それこそ不和に囚われた妄執だ。安っぽいにも程がある━━━━!!

 

「ふっ……安いと思うなら買い叩いてみせろ。もっとも……今や私は永遠となったのだ。貴様等如き不完全品(シンフォギア)で止める事など不可能だがな。ハハハハハハ!!」

 

『ッ!!』

 

フィーネの長々とした昔話も此処までだと、四人ともが理解する。

だからこそ、その挑発に乗って戦場(いくさば)に響き渡る三重唱(トリオ)

 

「━━━━Balwisyall nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

 

「━━━━Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

 

「━━━━Killter ichiival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)

 

それに合わせて、俺もレゾナンスギアを起動。三人のフォニックゲインに共振して一気に攻める━━━━その、筈だった。

 

「レゾナンスギア、同調開(チューニングスター)……ガッ!?」

 

だが、現実はそうはならなかった。フォニックゲインを受けて形成された光のマフラーが、そのエネルギーを無秩序に解き放って俺の身を襲ったのだ。

 

「共鳴ッ!?」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「ッ!!フィーネ!!テメェの仕業か!!」

 

いきなり倒れ込んだ俺を心配する翼ちゃんと響に対して、クリスちゃんは真っ直ぐにフィーネだけを見据えていた。

そして、レゾナンスギアのこの不調の原因をはフィーネにあると推測し、問いかける。

 

「そうだ。と言えば満足か?ハハハハハハ!!装者に合わせて可変するよう作ったシンフォギアと違い、私が手ずから手を加えて置いてなんの防衛機構も備えない筈が無かろう?

 私を相手にその欠陥品(レゾナンスギア)を纏えば、共振したフォニックゲインが着用者を襲うように細工を施しておいたのだ。どうだ?痛かろう?」

 

「クソッ……!!趣味の悪い……!!響!!翼ちゃん!!俺には構わずクリスちゃんと一緒にフィーネを!!」

 

「……承知した!!」

 

「……わかった!!」

 

「オラオラオラァ!!」

 

━━━━なんという事だ。折角手に入れた筈のこの力。それが……こうもあっさりと無力化させられるだなんて……

そうして始まった盛大な戦いを眺める事しか出来ない無力感に苛まれながら、俺は三人の勝利を祈るしか無かった……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「ようやく学園のシェルターまで辿り着いたけれど……さっきの振動といい、外はどうなっているのかしら……」

 

鳴弥さんの言葉は、地下深くの二課本部から地下数十mにあるシェルターまでの道のりを長々と歩いて来た私達全員の気持ちを代弁していた。

だから、そんな風に暗い中を歩いて来た私達を急に照らしだすライトの光に、私達の目が眩んでしまったのは仕方ない事だった。

 

「誰だッ!?……なんだ、アンタらかよ……」

 

「ジョージさん!!良かった!!此方に避難していたんですね!!」

 

「あぁ、ノイズ相手にゃ俺等の装備なんぞ通用しねぇからな。残ってた学生の連中と一緒にここのシェルターに逃げ込ませてもらったぜ。

 ……アンタ等がコッチに来たって事は……本部の方で何かあったって事だな?ミスターグレネードが死にかけてるのは一番の驚きだが……まぁいい、説明は後だ。

 ここのシェルターは電源が生きてるぜ。まずは中に入んな。」

 

「あの……ジョージさんって、一体?」

 

ジョージ、というその男性は明らかに日本人では無く、むしろアメリカかどこかの外国の人に見えた。

 

「あぁ……彼等は、二年前に日本に潜入した米国の特殊部隊の生き残りでね?米国での居場所はもう無いとの事で、色々と制限付きではあるが二課に所属して働いてもらっているんだ。」

 

私の問いには、道案内が終わってようやく手が空いた友里さんが答えてくれた。

 

「へぇ……二年前?」

 

「━━━━小日向さん!!」

 

二年前、という言葉にどこか引っ掛かるものを感じる私の意識を引っ張り上げたのは、シェルターの中にいた寺島さんの声だった。

 

「寺島さん!!皆……良かった!!」

 

「……ヒナ、結局この人達はどういう人達なの?そっちの二人は説明が面倒だからって、特異災害対策機動部だってことまでしか教えてくれなくて……それに、そっちには何故かツヴァイウイングの奏さんまで居るしさ……」

 

「……あ、うん……えっと……」

 

━━━━どうしよう。三人から詳細な説明を求められても、私自身よく分かっていないのだが……

 

「そう……だな。ここまで来ておいて隠しても仕方がないだろう。我々は確かに『特異災害対策機動部』の所属としてこの事態の収束・収集に当たっている。

 だが、その為に少々特殊な手段を用いているが為に、重大な機密を護る特務機関としても動いているのだ。彼等や小日向くんはその協力者、というワケだ。」

 

「……話が壮大過ぎて、付いていけませんわね……」

 

「いきなり機密だの特務機関だの言われてもね……」

 

「ふっ……それが、普通の反応だ。とりあえずは、我々が政府に従って動いているのであって、怪しい者では無いという事だけ分かってくれれば、それでいい。」

 

「モニターの再接続、出来ました。此方から操作、出来そうです!!」

 

━━━━黙々と作業していた藤尭さんの努力によって、私達はようやく外部の情報を知る事が出来た。

 

「響……翼さん……それに、クリス……やっぱり、そうだったのね……アレ?お兄ちゃんは?」

 

『えっ!?』

 

モニターの中では、装者達が戦っていた。それを確かめる私の言葉に反応する三人。

けれど、お兄ちゃんの姿だけが見えない。

 

「見つけた!!どうやら……なんらかの理由でギアが纏えないようだ。三人の後方に居るよ。

 ……そして敵は、了子さんなんですね……」

 

藤尭さんがお兄ちゃんを見つけてくれたことに、思わずホッとする。

 

「どうなってるの……こんなの、まるでアニメじゃない……!!」

 

「ヒナはビッキーの事……知ってた、みたいだね。じゃあ、前にビッキーとヒナが喧嘩してたのもそれでか……納得いったよ。」

 

「うん……ごめん……黙ってて……」

 

三人の視線が痛い。隠し事をしていたのだ。嫌われて……しまっただろうか?

 

「緒川……やはり状況は悪そうだ……危険だが、行けるか?」

 

「……えぇ。1.8㎞の直下行だろうと、成し遂げて見せますよ。四時間だけ下さい。

 ジョージさん、マーティンさん、周辺のシェルターの生存者は?」

 

「一課の名前を借りてとっくに調べてある。そうだな……ドクターも居たし、ミスターグレネードの腹の傷を診て貰う為にも此処に他の生存者と一緒に連れてくるさ。お前さんは、やる事があるんだろう?」

 

「……はい。今も戦っている彼女達を助ける為に。鳴弥さん。アビスへのアクセス方法は?」

 

「アビスは、植物型聖遺物なども保管出来るようにと非常電源を備えているわ。だから……アクセス権限を持つ私のこの端末を持っていけば入る事自体は出来る筈よ。

 ……けれど、地下1.8㎞よ?地下に100m潜る毎に気温は3℃上昇するという一般則に則れば、今あそこの温度は60℃以上……更に言えば、周囲の岩盤もカ・ディンギルの上昇で崩落の危険に晒されている……

 それでも、貴方は行くのね?」

 

「……はい!!」

 

だから、響達を心配する私と三人の後ろで交わされていた重要な会話に気を回す余裕は、まるでなかったのだった。




━━━━月を穿つ。
女の妄執を止めんがため、少女達は歌と共に威を放つ。
けれど、完全なる力を前に威は及ばず、塔は激しく光を放つ。
それを止めんと、空を奔る光がある。そうはさせんと、命を懸けて歌う少女が居る。

━━━━お前は、手をこまねいてそれを見届けるだけなのか?命が零れ落ちるのをみすみすと見逃すと云うのか?

━━━━そうではない。そうではない筈だ。足掻け!!手を尽くせ!!立ち上がれ!!
━━━━お前の手の中に、既に少女を救う力は収まっているのだから!!
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