『
『うわァッ!?』
━━━━空を飛ぶ彼女達に向けて放たれたその熱量は圧倒的だった。
デュランダルのエネルギーを利用した荷電粒子砲と思しきビーム。ベイバロンが吐き出したその熱量は、砲身が短くなった事でカ・ディンギルそのものよりは些か加速度が低減されたとはいえ、限定解除したというシンフォギアをも圧倒するに相応しき威力を擁していた。
「このッ!!ちょせぇんだよッ!!」
━━━━MEGA DETH PARTY
クリスちゃんのギアから、ミサイルが変化したと思しきレーザーが無数の閃光となって撃ち出される。
だがベイバロンは、コア部分と見えるフィーネ本体をシャッターのような器官で覆い隠す。
『ハッ、羽虫の一撃程度ではなァ!!』
「ぐ……ッ!!あぁ!?」
━━━━ベイバロンの砲口はその口元だけでは無かった。背に抱くその翼を広げた羽根先から、お返しと言わんばかりにクリスちゃんが放ったレーザーと同質の閃光が放たれ、クリスちゃんに迫り、爆裂する。
「はァァァァ!!」
━━━━蒼ノ一閃
━━━━POWER∞SHINE
その間隙を突いて翼ちゃんと奏さんもそれぞれが一撃を叩き込む。
……だが、それですら多少の傷を付けるだけに終わる。そして、再生。
『クッ……!!ネフシュタンの再生能力にソロモンの杖による巨大質量!!』
「それに加えてデュランダルの無限出力か!!本当に厄介な!!」
━━━━シンフォギアはノイズに対して物理的な干渉を可能とする。だが、それでもギアが巻き起こせる破壊の規模というのは大概が決まっており、超巨大ノイズを相手取る時には出力次第では物理的に干渉したとて弾かれる事もある。
ベイバロンが行っているのはまさにその究極。無限に召喚されるノイズで構成された装甲は、その質量で以てギアの攻撃を防ぐ鉄壁の盾となっているのだ。
『ハハハハハハ!!いくら限定解除されたギアとて、所詮は不完全な欠片より造りだされた玩具風情!!
完全にして十全なる力を放つ完全聖遺物に抗える等と、思い上がりも甚だしいッ!!』
━━━━悔しいが、フィーネの語る言葉は事実だ。無限の三乗による絶対的なエネルギー差。それは、如何に奇跡のような限定解除を果たしたとはいえ単なる半無限機関たるシンフォギアでは未だ到達できぬ領域だ。
「ッ!!」
『……聞いたか?』
だが、彼女達は諦めていないようだ。
フィーネにも伝わってしまう念話をカットして、口頭にて何かを伝えあっているのが
「……どうやら策はあるようです。その間の時間稼ぎ、承りましょうか、おじさん。」
「あぁ……了子くんとて、黙って見ているとは思えんからな。」
━━━━これほどの質量を前にしては、範囲攻撃など欠片も出来ない俺では有効打すら与えられないだろう。
だが、それでもこの場には、俺にしか出来ない事がある。
「足場は俺が作ります。存分に!!」
「すまん……行くぞッ!!」
RN式には飛行能力など当然備わっていない。フィーネが空を飛ぶ限定解除ギアを優先しているのもその慢心が原因だ。
だが、俺のアメノハゴロモがあれば話は変わる。短距離跳躍と飛翔能力。それを組み合わせる事で中空に司令が戦うための足場を作り出す……それが、この場で俺にしか出来ない戦法だった。
━━━━そして、作戦会議を続ける四人を狙うベイバロンの脳天に、最強の拳が突き刺さった。
◆◆◆◆◆◆◆
━━━━轟音と共に、フィーネが作り上げた威容が大地に倒れ伏す。
「っとォ!?なんだ!?フィーネの奴がぶっ倒れやがった!?」
「恐らくは司令と共鳴くんだろう。それより立花、やるべき事は分かったな?」
「えっと……はい。わかりました!!やれるか分からないけど、やってみますッ!!」
「ハハハ、そこまで構えなくってもいいさ。前回だって響は抗って見せたんだろ?
……だったら今度は、今度こそ使いこなして見せるって事が出来る筈さ。」
━━━━作戦は単純な物だ。あの威容に届く物が無いのなら、届く物を用意すればいい。
届く物とは即ち、無限の出力を誇るデュランダル。
「……はい!!」
それを、立花に託す。そして、無限の出力で以て無限の再生力を持つネフシュタンを打ち破る。
━━━━聖遺物の同時起動は暴走の危険性がある、とは雪音も断りを入れていた。
だが、それでも其処に賭けなければ勝機は掴めぬと、私達の誰もが分かっていた。
「私達が露を払う!!」
「手加減無しだぜ?分かってんだろうな!!」
「あぁ、勿論!!」
デュランダルの制御に備えて意を研ぎ澄ます立花を護る為、そして、そんな立花の基へと切り札を届ける為、私と雪音、そして奏の三人でフィーネの基へと向かう。
共鳴のアメノハゴロモを足場に空を駆ける司令の拳によって上へ下へと殴り飛ばされる事に苛立ちながらも、フィーネは全く堪えた様子が無い。
「……ほぼ生身で完全聖遺物を圧倒するなんざ、あのオッサン、ホント何者なんだ……?」
「ハハハ、弦十郎のダンナを常識に当てはめようとすると色々バグっちまうぞ?」
「だが、司令の拳だけでは、あの分厚いノイズの装甲を超える為の突破力が足りない……言葉は届いても、拳を届ける事は出来ない。」
「あぁ、だからやるぞ翼!!両翼の
「ふふっ……えぇ!!限定解除されたギアで放つあの技ならッ!!」
雪音に今も羽根が放つレーザーの対処を任せ、私と奏は更に加速する。
速度を合わせ、意を合わせ、息を合わせる。
━━━━かつて、ツヴァイウイングとして奏と共に飛んでいたあの日に紡ぎあげた必殺のコンビネーション。
アメノハバキリの力と、ガングニールの力を一つに合わせたその技の名は……
━━━━双星ノ鉄槌-DIASTER BLAST-
「はァァァァ!!」
「とりゃァァァァ!!」
二つのアームドギアから放たれた力は渦を巻く竜巻となり、フィーネの座す中心部へと直撃する……!!
━━━━そして、私達の目論見通りに中心部へと通じる穴が開く。
「よっしゃああああ!!」
雪音がその穴へと突撃するのを見据え、その間に共鳴達へと声を掛ける。
「策を成しますッ!!一旦退避を!!」
「……了解した!!」
その一声で察してくれたのだろう。跳躍で地上へと下がって行く共鳴と司令を見送りつつ、アームドギアへと力を集める。
そして、雪音の攻撃を疎んでシャッターを開くと同時に放つは、練り上げたる一閃。
━━━━蒼ノ一閃・滅波
「はァァァァッ!!」
一撃そのものはフィーネのバリアに防がれる。だが……爆炎の中からはじき出された物がある。
それは黄金の剣。即ちデュランダル。
「響!!ソイツが切り札だッ!!」
奏が叫ぶ。
「勝機を逃すな!!掴み取れッ!!」
私もまた叫ぶ。
「ちょせぇッ!!」
そして、雪音はデュランダルを銃撃で撃ち上げるという神業で以て立花の手に収まるよう誘導する。
「……うォォォォ!!」
「まさか、デュランダルをッ!?」
眼を見開き、立花はデュランダルを掴む。
「━━━━やったか!?」
声は、誰の物だったか。
━━━━そして、世界が反転する。
「は、ハハハ、ハハハハハハ!!暴走だ!!デュランダルを用いるところまでは良かったが、扱う者の心が破壊衝動に塗りつぶされてしまえば戦術としてなど機能しまい!!」
黄金の奔流は最早暴流の如く。
立花を先夜のように漆黒に染め上げ、その意思すら奪わんとデュランダルは暴れ狂う。
……だが、私達は諦めない。立花の手によって繋げて貰った私達は、立花響を信じる事を諦めない……!!
◆◆◆◆◆◆◆
━━━━漆黒に染まった響ちゃんを見て、真っ先に動き出したのは未来ちゃんだった。
「━━━━ッ!!」
「未来ちゃん!?」
「地上に出ます!!」
「無茶よ!!危ないわ!!」
あおいちゃんを含め、皆がそれを止めようとした。けれど……
「響は響のままで居てくれるって、変わらずに居てくれるって……だから私は響が闇に呑まれないように応援したいんです!!
助けられるだけじゃなく、一緒に背負うって誓ったんです!!皆と一緒に!!」
━━━━その叫びは、どこまでも真っ直ぐで。
「……しょうがねぇお嬢さんだこって。行きな、護衛は俺達が引き受ける。」
「ジョージさん!?」
だから、人々を動かす力があった。
「あの嬢ちゃんが決意を握れるかどうかの瀬戸際なんだ。やってみる価値はあるだろうさ。」
「マーティンさんまで……ふふっ、私達の負けみたいね、コレは。
━━━━行きましょう、未来ちゃん。響ちゃんに、想いを届ける為に。」
「……はいッ!!」
◆◆◆◆◆◆◆
「━━━━正念場だ!!踏ん張りどころだろうがッ!!」
策の為に一旦下がってくれと言われた俺と司令は、奏さんや司令が破壊して出て来た元校庭シェルターの入り口付近へと退避していた。
━━━━彼女達が取った策は、完全聖遺物を以て完全聖遺物に対抗するという物。
その為に必須となるのが、響による完全聖遺物の制御。だが……
「響……」
━━━━漆黒に染まる響を空に見る。
勿論、響の事は信頼しているし、信用もしている。けれどそれでも、心配なのだ。
「━━━━強く自分を意識してください!!」
気づけば、シェルターの中から二課の皆が、未来達が駆けだして来ていた。
咎めようとする言葉は、ジョージさんとマーティンさんに目線で抑えられる。
━━━━覚悟はあるのだと。
「昨日までの自分を!!」
「これからなりたい自分を!!」
「響ちゃん!!今、自分が何をしたいのかを強く念じるの!!」
そんな中で、未来が近づいて来る。
「……お兄ちゃん。」
「未来……」
「一つだけ、お願いがあるの。私じゃあそこまで飛べないから、私の代わりに響の手を握ってあげて?」
「……わかった。じゃあ、行ってくる!!」
━━━━未来の言葉に背を押されて、俺は覚悟を決める。
響の事は心配だ。いつだってその無軌道で無鉄砲で無茶千万な行動を心配してる。
━━━━けれど、彼女にだって握る想いはあるし、それを護るとも誓ったのだ。
「……だったら、俺が響を信じてやれなくてどうするってんだ……!!」
未だ漆黒の衝動に抗う響へと手を伸ばす。手を伸ばして、空を飛ぶ。
「み、ん、な……ッ!!」
「━━━━屈するな、立花。お前が抱えた胸の覚悟、私に見せてくれ。」
「━━━━お前を信じて、お前に全部賭けてんだ!!お前が自分を信じなくてどうするんだよ!!」
「━━━━響。お前さんなら大丈夫さ。思いっきり、お前の胸の内を歌えばいい。」
「ぐ、ぬ、う……ッ!!」
「あなたのお節介を!!」
「あんたの人助けを!!」
「今日は私達が!!」
━━━━声が集う。そして、それに応じて、響が段々と自我を取り戻しているのを感じる。耐えているのだ。完全聖遺物の暴走に。
『
━━━━だが、それを易々とはさせぬ者が居る。
ベイバロンの触手が、デュランダルを担う響達を打つ。
「━━━━GAAAAAAAA!!」
衝撃が暴走を後押しし、響の自我を奪う。だが……
「━━━━響ィィィィィィィィ!!」
聴こえる声は、未来の物。そのぬくもりを、あったかいものを届ける為に、短距離跳躍でそっと、正面から響の手を握る。
「━━━━響。この手のぬくもりが、このあったかい繋がりが……響の握った力だろう?」
━━━━黄金が、世界を覆った。
◆◆◆◆◆◆◆
━━━━声が、聴こえた。
何もかもを塗りつぶすような黄金の暴流の中で、それでも消える事のない声が聴こえた。
『そうだ……今の私は、私だけの力を握っているワケじゃない……皆がくれたあったかい繋がりをッ!!』
『だから……ッ!!この衝動に、塗りつぶされてなるものかッ!!』
━━━━もう一度、強く剣を握る。最早、黄金は暴流では無かった。
春風が背中を押してくれる。黄金が力強く応えてくれる。
『━━━━うむ。やはり、キミはデュランダルを担うに相応しい勇士だったな。
いやー、しかしブラダマンテみたいな女傑が多いねー今の時代。
アンジェリカ姫程じゃ無いけど魅力的だ。アストルフォ辺りが居たらきっとキミ達を放っておかなかっただろうな。
……そこのところはちょっとだけ、
━━━━なんだか春風の中から不思議な声が聴こえた気もするけれど、それは幻だったのか、それとも本物の『誰か』だったのか。
お兄ちゃんが離脱していくのを見ながら、黄金を再び握る。
世界を黄金に染めて、デュランダルが輝く。その力を四人で振りかざす。
『その力ッ!!何を束ねたッ!?』
━━━━そんな物、たった一つに決まっている。
「響き合うみんながくれた、シンフォギアでェェェェ!!」
━━━━Synchrogazer
━━━━そうして振り下ろした黄金が、竜を真っ二つと切り裂いた。
◆◆◆◆◆◆◆
「完全聖遺物同士の対消滅……!?無限と無限の正逆の概念故の、奇跡だとでも言うのかッ!?」
ベイバロンが崩れてゆく。
「どうしたネフシュタン!!再生だ!!再生しろ!!」
━━━━認めない。認めるものか。
こんな、こんな結末が認められるワケが無い。
私の計画はいつから崩れた!?一体何が問題だったのだ!?
「━━━━この身、砕けてなるものかァァァァ!!」
━━━━崩壊する。この身をも維持する神殿が崩れて消えてゆく。
こうなれば、我が身は保てないだろう。
……だが、それでも最悪では無い。
何故ならば、『
確かに、二課のメンバーに私の正体も、そして私がアウフヴァッヘン波形を受けて復活する存在である事は知られてしまった。
━━━━だが、それがどうした?過去にも私を魔性の者として祓った者共は居た。だが、その度に私は時間を掛け、歴史の表側から私の伝承が風化するまで待ち続けたのだ!!
そして幸いな事に、今回の私にはバックアッププランがある。シンフォギアを纏う者共!!薬に頼らねばならぬ不完全品とはいえ、それを利用すれば再起は可能━━━━
━━━━そんな思考を回す私の前に、ソイツが飛び込んできたのはその瞬間であった。
「天津、共鳴ィ……!!」
━━━━私の栄光を奪っていった天津の裔が、私の計画の邪魔をしたこの男が、何故こんな所にまで飛び込んで来る?
念入りにトドメを刺す為か?もしくは私が死んだ事を見届ける為か?
「━━━━ハァッ!!」
━━━━だが、事実はそのどちらでも無かった。
ノイズ達で形作られたベイバロンと、私自身を繋ぐバイパスを切り裂き、そして男は空間跳躍を敢行したのだ。
「お前、何をバカな事を……!?」
「貴方が居なくなれば、響が悲しみます。だから……たとえその前の一瞬だとても、言葉を交わしてあげてください。」
━━━━それは、紛れもなく大馬鹿者の理屈だった。
◆◆◆◆◆◆◆
「……ったく、このスクリューボール共が。」
━━━━気づけば、最早日は暮れ始め、空には再び、割れた月が浮かんでいた。
「てへへ……よく言われます。未来からも変わり者だーって。」
「はぁ……」
約束通り、フィーネは響と言葉を交わしていた。
「……もう、終わりにしましょう?了子さん。」
「……私はフィーネだ。」
「でも、了子さんは了子さんですから。
━━━━きっと、私達は分かり合えます。」
「……ノイズを作り出したのは、先史文明期の人間……ルル・アメル達だ。
彼等はバラルの呪詛によって統一言語を喪った時、手を繋ぐ事よりも相手を否定する事を求めた。
……ノイズはその究極、『人類を否定する』為の兵器なのだ。そんな人間同士が分かり合える物か。
現に人間は反応弾頭を抑止として仮初めの平和を維持するのが手一杯では無いか……」
「人が、ノイズを……」
「━━━━だから、私はこの道しか選べなかったのだ……!!」
「ッ!!おい!!」
━━━━フィーネの言い分は、どこまでも身勝手ではあった。
そもそも、当時の人類……ルル・アメル達を唆してカ・ディンギルを建てたのはフィーネである以上、その罪過はフィーネにも責任の一端があるだろう。
━━━━だが、だからとて、その言い分を聞く事無く、法に
この場は断罪の場では無く、分かり合おうと手を伸ばす場なのだから。
だから、激昂するクリスちゃんを諫める手は翼ちゃんと、俺の二人から伸びていた。
「……人が言葉よりも強く繋がれる事、わからない私達じゃありません。」
「はー……でやァァァァ!!」
━━━━それは、呆れだったのか。根負けだったのか。
その答えは永遠に分からないだろう。
ネフシュタンの鞭を伸ばしてきたフィーネに、響は冷静に対応し、彼女に肉薄する。
「……止めたな?拳を。ならば……私の勝ちだッ!!」
『ッ!?』
━━━━そこには、有り得ない光景が広がっていた。
地球と月の間、その距離実に38万4400㎞。欠片にて月そのものからは外れていたとはいえ、ネフシュタンはその長大な距離を一瞬にして0にしてみせたのだ……!!
「でぇやァァァァ!!」
フィーネの渾身の引き寄せに、反発力を受けた大地が割れる。
「━━━━まさか、月の欠片をッ!?」
「━━━━その、まさかよッ!!月の欠片を……落とすッ!!
私の邪魔をする禍根!!正体を知る貴様等諸共に此処で纏めて叩いて砕くッ!!
この身は此処で朽ち果てようと、魂までは果てはしないのだからなァ!!
この星に我が血族が居る限り、アウフヴァッヘン波形の歌が空に響く限り、私は何度でも蘇る!!千年後の今日とて私には明日の出来事よッ!!
どこかの場所、いつかの時代!!今度こそ、世界を束ねる為に!!
私は永遠の刹那に存在し続ける巫女……フィーネなのだから!!」
━━━━なんたる執念!!それに、なんたる割り切り!!
己の身の限界すら利用した自爆特攻!!
月の欠片を利用した、いわば『ルナアタック』!!
どうすればいい、どうすれば皆を助けられる……!?
あまりの規模の大きさに対応策が思いつかない。
ディープ・インパクトも真っ青な緊急事態を前にして思考が空回りを続けてしまう……!!
「……うん、そうですよね。
どこかの場所、いつかの時代。空に歌が響く限り、蘇る度に何度でも。私の代わりに皆に伝えてください。
━━━━世界を一つにするのに、力なんて必要ないって事を。
━━━━言葉を超えて、私達は一つになれるって事を。
━━━━私達は、未来にきっと、手を繋げるって事を。
それって、今だけを生きる私には伝えられない……了子さんにしか出来ない事なんです!!」
━━━━けれど、フィーネへと告げる響の声に迷いは無かった。
「お前……まさか……?」
「だから、了子さんに未来を託す為にも、私が今を護ってみせますね!!」
━━━━イヤな予感がする。
「……フフッ、本当にもう……放っておけない子なんだから。
━━━━胸の歌を、信じなさい。
それがきっと、貴方の今を切り開く為の力になる筈よ。」
━━━━頭の中によぎるのは、未だに残留したフォニックゲインのお陰か限定解除されたままのシンフォギアの性能。
バリアコーティングによる装者の保護、念話による意思疎通、そして、重力を無視した飛行能力。
「……はぁ。本来なら、ネフシュタンの対消滅によって、ネフシュタンと繋がっていた私は此処で退場の筈だったのに。どこかの誰かさんが諦めなかったせいで数分くらい延びちゃったわ……」
言外に俺のせいだと言われている事にはまぁ、見て見ぬふりを決め込む。
「……了子くん。」
「……なにかしら?謝罪要求以外なら受け入れるけれど……」
━━━━了子さんが言い切るより早く、司令は彼女をそっと抱き留めていた。
「……本当は、もっと早く伝えるべきだった。心地よい距離感に惑わされずに、キミを求め続けていれば良かった。
━━━━キミが好きだ。了子くん。」
「……本当に、今更過ぎるわね。それに、私の恋は今も遥けし彼方のあの御方にしか向いていないのよ?
━━━━どういう風の吹き回しかしら?こういうの、貴方は墓場まで持っていくタイプだと思ってたのだけれども。」
「鳴弥くんから背中を押されてな……本当は、キミともっと一緒に居たかった。
惚れた女一人、護り切ってやりたかった。だが……」
「━━━━この結末は、私の選択の結果よ。後悔なんて無いし、これからも一切しないわ。
……けれど、そうね。もしも……もしも、この世界が明日に繋がって行くのなら……千年後の今日に、また逢いましょう?」
「……あぁ。」
━━━━それを見届けて、良かったのか、悪かったのか。俺には、まだ分からない。
だが、それが尊い光景だったという事だけは、心で理解出来たのだ。
「……フィーネ。」
「……私から言う事なんて、何も無いわ。クリス。貴方を道具として扱った事も、嘘で騙していい様に操った事も全て事実なのだから。」
━━━━フィーネに偶然と訪れたロスタイムを惜しむのは、司令だけでは無かった。
藤尭さんが各種観測データや衛星からの情報を統合して、月の欠片の進路予測を立てる間に産まれた、ささやかな時間。
「━━━━でもッ!!なんでッ!!」
クリスちゃんは、泣いていた。フィーネと最も言葉を交わしていた彼女の感情は、俺達では推し量る事は出来ない。
「……でももなんでも無いわ。私がした事は、私の計画の為の事……だから、もう貴方は私に縛られる必要も無い。貴方は、貴方の夢を追いかけなさい、クリス……」
そこに、嘘は無いのだろう。計画の為にフィーネがクリスちゃんを利用した事も、その為に仮初めの愛情を注いだことも。だが……
「……けれど、計画の為だからとて、総てが嘘偽りだったワケでは無いでしょう?」
嘘が無いからとて、総てが真実とも限らない。無粋だと分かってはいる。けれど……泣いている女の子を、放っておけなかったのだ。
「……はぁ。ホント、勘のいい男の子って面倒ね。
……えぇそうよ。愛玩かも知れない。計画通りに動く事に愉悦を感じていたのかも知れない。けれど……他意が無かったかと問われれば、そうでは無いわ。」
「フィーネ……」
「居なくなってからじゃ、何も伝えきれないですから……」
「フン……ならそうだな。貴様には冥途の土産に面白い事を教えておいてやろう。
━━━━神獣鏡は未だこの世に存在している。そして、それを使えば立花響の融合症例を治療する事が出来る可能性がある。」
俺の言葉に何かを思いついたのか、ニヤリと笑うフィーネは、とんでもない爆弾発言をしていく。
「━━━━なッ!?」
「アレは真なる姿を写す鏡……で、あれば。『聖遺物との融合』などという異物の混入を許さず、その身をまっさらに戻す事も可能やも知れんなぁ?
━━━━だが、どこにあるかまでは教えん。せいぜい、足掻く事だな。フフフフフ……」
━━━━意味深な言葉を遺して、彼女は炭と崩れて、去って行く。
「……あーあ、アタシだって了子さんに言いたい文句が山ほどあったんだけどなー。」
バックファイアを考慮して先にギアを解除し、車椅子に戻っていた奏さんの言葉は、その剣呑さとは裏腹に、複雑な感情を載せていた。
━━━━それは、仕方のない事かも知れない。奏さんの半生は、常にフィーネの……了子さんの計画に翻弄されていた。フィーネは、奏さんの家族の仇そのものでもあり、同時に共に歩む仲間でもあったのだから。
「奏……」
「……そう暗い顔すんなって!!翼。了子さんの事だから、数ヶ月後とかにひょっこりフィーネとして現れて来たりするかも知れないしさ!!
そん時には精々拳骨の一発くらいはぶち込んでやるから安心しなって!!」
「そういう問題じゃ……もう……」
「……軌道計算、出ました。やはり、重力圏に入ってしまった以上、直撃は避けられません……」
「あんなものが落ちてきたら、あたし達、もう……」
━━━━藤尭さんの齎した計算結果は残酷な物だった。
月の欠片は地球に引かれ、地表へと衝突する。
その衝撃は基より、衝撃によって舞い上がった土砂は太陽を覆い隠し、この星に深刻な規模の寒冷化を齎すだろう。
━━━━その未来に抗う為に、前に進みだす姿があった。
「響……」
━━━━握り込んだ指先に、力が入るのを実感する。
「何とかする。
ちょーっと行ってくるからさ。未来はお兄ちゃんと一緒に待っていて欲しいんだ。未来とお兄ちゃんが居る所に、私は絶対帰ってくるから!!
だから……生きる事を、諦めないで。」
「えっ……?」
━━━━そう言って、飛び立つ響を止める術が、俺には無い。
限定解除されたシンフォギアの絶唱による迎撃と破壊。それは、最も確度の高い排除法だと計算は告げる。
……だが、俺には出来る事が無い。アメノハゴロモはかつて世界を繋いでいたというのだから、宇宙での活動を可能にする機能が備わっていると思われるのだが……
あまりにも多すぎる搭載された術式の中からこの短時間でそれを見つける事は不可能だったのだ。
そして、アメノハゴロモの共振によるバックファイア除去が使えない以上、絶唱を使う事は即ち、彼女達の身の危険を意味する。
……それを前にして、何も出来ない自分の無力さがあまりにも腹立たしい。
「響……」
「……では、叔父様。私も行って参ります。」
「……待ってるからな。ツヴァイウイング再結成ライブの為にさ。」
「……えぇ、それまでの間、世界と……共鳴くんの事をお願いね?」
「あぁ、馬鹿な真似なんてさせやしないさ。安心しな。」
━━━━そうして、翼ちゃんも空へと飛んで行く。
「……あたしも行くかな。んじゃあな、『共鳴』。」
「━━━━ッ!!」
━━━━飛んで行く一瞬に発したクリスちゃんの言葉に込められたその重さに、涙が溢れる。
最早遠い昔のように思える昨日の昼下がり、好きなように呼んでいいと俺は言ったが、結局の所クリスちゃんが俺の名前を呼ぶ機会など一度も無かった。
だからこそ、なのだろう。俺の未練に付き合ってくれたのと、そして、俺に未練を遺させないようにと……
◆◆◆◆◆◆◆
━━━━絶唱・胸に響き、いつか世界に満ちるまで━━━━
空へ向かって飛んで行く中で、絶唱を口ずさむ。
口にしただけで発せられる反動の強さに、思わず顔を顰めてしまう。凄いなぁ……翼さんも、クリスちゃんも、奏さんも。
『━━━━そんなにヒーローになりたいのか?』
『あっ!?』
独りで歌うと思っていたら、いつの間にか歌い手は三人へと増えていた。
『━━━━こんな大舞台で挽歌を歌う事になるとはな。立花には驚かされっぱなしだ。』
『翼さん、クリスちゃん……』
『……ま、一生分の歌を歌うにはちょうどいいんじゃねぇのか?』
『ヘヘッ。』
嬉しく思う。二人が付き合ってくれた事。
そして、
『━━━━それでも実を言うとな。私は立花や雪音と……それこそ、奏と一緒にもっと歌いたかった。』
『……それは……』
『バーカ。未練であって、後悔じゃねぇよ。だから……いいのさ。きっと。』
『そっか……未練、か。』
『あぁ、それはきっと何かを成し遂げたいと、何かを貫き通したいと思った尊い想いだ。』
『━━━━ありがとう、二人共。
よーっし!!解放全開ッ!!いっちゃえ!!ハートの全部でッ!!』
そうして、意を合わせた私達は欠片を目指す。
『皆が皆、夢を叶えられやしないのは分かってる。
━━━━だけど、夢を叶える為の未来は皆に等しく無きゃいけないんだよッ!!』
『命は、尽きて終わりなんかじゃない。
━━━━燃え尽きたとしても、其処に残った物を未来へと繋いでいくのもきっと、人の営みだ。
だからこそ、剣が護るのだ。明日へと続く道をッ!!』
『━━━━たとえ声が枯れたって、この胸の歌だけは絶やさないッ!!
夜明けを告げる鐘の音奏でて、この空に共に鳴り響き渡れッ!!』
想い出すのは、今日までの日々。たった数ヶ月だったけれど、今なら心の底から『楽しかった』と言える、そんな日々。
『━━━━これが私達の……絶唱だァァァァ!!』
━━━━剣は巨大に分厚く重く、
━━━━砲火は激しく連なり、
━━━━拳は長く強く伸びる。
『うおおおおおお!!』
月の欠片を砕く為、世界の未来を護る為。
━━━━私達は、命を賭して歌を歌ったのだ。
『……まったく、本当に世話の焼ける連中だ。』
◆◆◆◆◆◆◆
━━━━月の欠片は、砕け散った。
大気圏に突入しながらも、三つの輝ける光と共に崩壊し、無数の欠片となって世界へと降り注ぐ。
「流れ星……うぁ……うわぁぁぁぁん!!」
━━━━未来の涙を拭ってやる事が、俺には出来なかった。
「……ぐ、あ……あぁ……」
━━━━視界が歪んで、前が見えない。
「どうして……なんで……!!」
気づけば、俺はがっくりと膝を付いていた。大事な人を三人もいっぺんに喪った事だけでは無い。
━━━━また、手が届かなかった。
手を伸ばして、必死になって頑張って、それでもまだ、足りなかった。
「どうしてッ!!俺の手は……いつだってッ!!大事な時に届かないッ!!
……どうして、手を伸ばしてもすり抜けていくんだァァァァ!!
あ、あああああああああああああ……!!」
━━━━空を覆う無数の破片の流れ星、いつかの約束の通りの光景を前にして、俺の慟哭は、闇夜に溶けて、消えて行った。
◆◆◆◆◆◆◆
雨が、しとしとと降っている。
━━━━あの日から、三週間が経った。
響達の捜索は、打ち切られる事になったと、弦十郎さんから聞いた。
……同時に、書類上は作戦行動中の行方不明からの死亡扱い……KIAとか、難しい言い回しをされた気もする。
━━━━そうして、郊外に響のお墓が建てられた。けれど、其処に響は居ないし、名前だって彫られてはいない。
米国からの干渉を防ぐ為に、『立花響』の周囲への被害を出さないようにするためだと鳴弥さんは語ってくれたけれど、私にはよく分からない。
━━━━お墓がある区画も、これまでのノイズの襲撃で損壊している部分が多かった。
直接は人命に関わらない以上、優先して予算を回す事も出来なくて申し訳ないと、そう言っていた弦十郎さんの申し訳なさそうな顔を覚えている。
━━━━それを響のお墓であると示しているのは、弦十郎さんに渡したあの時の写真だけ。
もっといっぱい何かを遺しておけば良かった。響と私が歩んだ時間を、永遠に続くと思っていたあの瞬間を、もっともっと何かに遺しておけば良かった……!!
「会いたいよ……もう会えないなんて私、いやだよぉ……私が見たかったのは、お兄ちゃんも、響も、皆一緒に見る流れ星なんだよ……!!」
━━━━弱まってきた雨足の中、それでも私が濡れないようにと傘を差して、お兄ちゃんは何も言ってくれない。
何故?どうして?たくさんの質問をぶつけたのに、お兄ちゃんが返してくれた言葉はあまりにも少なかった。
『……ゴメン。未来……』
返ってきた言葉はそればかりのなしのつぶて。
機密なのだろうか?けれど、だとしたら何の機密?
━━━━悲鳴が空を裂いたのは、そんな一時の中だった。
「きゃああああ!!誰か、助けて!!」
「ッ!!未来は此処に……」
「ノイズだったらお兄ちゃんと一緒の方が安全でしょう!?それより早く!!」
「……わかった。必ず護る!!」
久しぶりのマトモな会話。けれど一刻を争うからとお兄ちゃんを押し切る。
行ってみれば、そこに居たのは自動車での運転中に運悪くもノイズの出現にかちあってしまったらしき女性だった。
「コッチへ!!」
「未来はそのまま行ってくれ!!後ろから来る奴は俺が撃ち落とす!!」
「━━━━ッ!!お兄ちゃんも一緒に逃げて!!だって、ギアはもう……!!」
「……ならそうだな。じゃあいざとなったら歌ってくれ、未来。……この空に歌が響く限り、俺は死なない。」
━━━━そのまま、お兄ちゃんが抱き上げた女性と一緒に逃げ出す。
諦めたりなんかしない。するもんか!!
「ッ!!マズい、囲まれた!!」
「あ、あぁ……もうダメよ……お終いなんだわ……」
「……お願い!!どうか、生きる事を……生きる事を、諦めないで!!」
心が折れてしまったのだろう。へたり込んだ女性を庇って、歌を歌う。それはリディアンの校歌。そして、その歌を受けてお兄ちゃんのレゾナンスギアが起動する……
━━━━それよりも早く、ノイズ達が炭へと返る。
「……ごめん。機密を護らなきゃとかなんとかで、未来にはまた……ホントの事言えなかったんだ……」
━━━━首を向けた先には、彼女達が居た。
涙が溢れて、止まらない。
気づけば、走り出していた。
━━━━ノイズの脅威は尽きる事無く、人の闘争は終わる事無く続いている。世界には危機が溢れているし、悲しみの連鎖は止まる事が無い。
━━━━けれど、諦めない。うつむかない。だって、この世界には……この空には、歌が響いているのだから。
◆◆◆◆◆◆◆
「響ッ!!響……響……響……!!」
「ははは……ゴメン。やっぱ、心配かけちゃったかな……」
仲睦まじい様子の二人に声を掛けるのも無粋だろうと、それを見守る。
「響、響、響……!!」
「ははは……ちょっと痛い、カモ?」
しかして、小日向さんの感情は相当な物だったのだろう。段々とエスカレートしていく姿は、その心配の気持ちそのもの……と言ったところだ。
「響響響響響響……!!」
「……あれ?ちょっとどころじゃないカモ!?」
「響響響響響響響響響響!!」
「み、未来さん!?痛い!!痛いって!!いやいや痛い痛いデス!!」
「響響響響響響響響響響響響響響響!!」
「やめてとめてやめてとめてやめてとめて……あ、あだーッ!?」
遂に立花が音を上げ始めたが、小日向さんが収まる気配は見えない。
「うーん……ま、KIA判定まで出て三週間も行方知れずだったんだ。むしろコレくらいで済んで僥倖かもなぁ。」
「叔父様、すいませんでした……小日向さんを巻き込まぬ為とはいえ、わざわざ嘘まで吐いてもらって……」
「ハハハ、なぁに。米国が完全に撤退したと見えるまで小日向くんをキミ達と接触させるわけにもいかなかったからな。
こういう汚れ仕事なんてのは、それを専門にする大人に任せておけばいいのさ。」
「……なぁ、ところでおっさん。アイツはなんでさっきから見事な土下座を披露してんだ?」
━━━━此方の話もひと段落したと見たのか、雪音が指さして聞いて来るのは、先ほどから見事な土下座の姿勢のままピクリとも動かない共鳴くんの事であった。
「アレか?アレはなぁ……」
「なんでもさ、未来を巻き込まない為に~って何も教えない事にしたんだけど、そのせいで『誤魔化す為の嘘は二度と吐かない』って未来との約束が守れなくなるってんでずーーーーっと黙りこくってたらしいぜ?」
語りづらそうな叔父様の代わりに理由を答えたのは、鳴弥さんに車椅子を押して貰って現れた奏だった。
「な、なんつー不器用!!っていうか、アイツが近くに居たらそれだけで関係者認定されるんじゃねぇのか!?」
「それも一応忠告したんだけどねぇ……未来ちゃんが心配だーって言って聞かなくて……」
鳴弥さんのやれやれと言った感じの言及で、殊更にボロが出て来てしまう共鳴。
……心配させてしまった事の負い目、だろうか?普段の共鳴ならもっと柔軟に対応する気もするのだが……
「……お兄ちゃん。」
「……はい。」
「……まずは顔を上げて?汚れちゃうでしょ。」
「……その……」
「━━━━嘘、吐かなかったんだね。」
「━━━━約束、したからな。」
「ん……じゃあ、今回は許します。ただし、次回は響と同じ目に遭う事を覚悟するよーに」
「それは……恐ろしいな。」
「えっ!?ちょっと待って!?もしかして私オチ替わりに使われた!?ふえーん!!未来ー!!マジゴメンってばー!!」
━━━━あぁ、約束か。約束であるならば、確かに彼はそうするのだろうな。
━━━━そうして見上げる空は高く、今日も今日とて世界は回っている。世は押しなべてことも無し、とは言うが、世界のどこかでは、今でも陰謀が渦を巻いているのだろう。
そんな陰謀をも切り裂く剣であろう、と。護るべき日常である彼女達を見て、私は改めて誓うのであった。
此れにて、物語は大団円を迎えた。
しかし、次なる陰謀・策謀・欲望の渦は、まさしく彼女達を呑み込まんと手ぐすねを引いて待っている。
━━━━だが、それに対するはいずこかの日だ。
まず見据えるべきは明日では無く今日そのもの……即ち、是より描かれるは合間に挟まりし日常のお話である。