戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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━━━━響達と未来との再会より少し時は遡る。


閑話 夏休み(サマーバケーション)
第三十八話 合間のファーストメジャー


━━━━ルナアタック

後にそう呼ばれるようになるその事件は、先史文明の巫女『フィーネ』が世界を巻き込んで引き起こしたものであった。

 

完全聖遺物『デュランダル』によって起動した荷電粒子砲『カ・ディンギル』によって月を穿ち、人類に掛けられた『バラルの呪詛』を解き放ち、同時に月を喪う事で重力バランスが崩壊する地球に君臨しよう……などという規格外にも程がある大望を抱いた彼女の計画は、私達『特異災害対策機動部二課』の尽力によって成し遂げられる事無く頓挫した。だが……

 

「うわーん!!!!」

 

━━━━私達の戦いは終わってはいなかった。

読んでいた本から目を上げ、いきなりに叫び出した少女に私は声を掛ける。

 

「……立花は今日も今日とて元気なのだな。」

 

「だってだってだってー!!もう二週間もこんな所に閉じ込められてお日様を拝めてないんですよ、翼さん!?」

 

━━━━彼女、立花響の言う通り、私達はこの二週間程もの間、自衛隊基地内にある地下施設に隠遁していた。

 

「……そうは言ってもだな。月の損壊、及びそれにまつわる一連の処理や、関連する機密情報の秘匿に関する調整が済むまでは私達は行方不明扱いの方が都合がいいのだ。だから仕方がないだろう?」

 

月を穿つというフィーネの計画は確かに打ち砕かれた。だが、総てが上手くいったワケでは無い。

カ・ディンギルの砲撃によって削り取られ、ネフシュタンによって引き寄せられた月の欠片。そして、それを打ち砕いたシンフォギアという存在……

本来ならば歴史の影に隠れる筈だったそれらの事象はしかし、多くの人々が知るところと相成ってしまった。

 

━━━━それが齎した影響は、やはり大きい。

月の欠片の破壊という奇跡的な事象は、しかして他国にとっては『シンフォギアが齎す可能性』としてとらえられてしまったのだ。

立花に気づかれぬように嘆息を零しながら思う。

 

━━━━この星は、いつか終わりを迎える。

資源枯渇の可能性は前世紀から指摘されている。そして、資源を喪えば人は文明を喪うだろう。

だが、シンフォギアや聖遺物はその問題点をある程度クリアする『無限』の体現だ。

もしも……もしも、聖遺物を人が完全に制御できる日が来れば、旧来のエネルギー資源を巡る利権争いは全てが薙ぎ払われてしまうだろう。

……その可能性ゆえに、そういった既得権益を握っている他国はシンフォギアの見せた奇跡を殊更に危険視しているのだ。

 

親米派の防衛大臣と、日本側の憲法違反を訴える抗議活動という大規模な裏工作を利用して日本との協調路線を打ち出し、各国に先んじて『相互協力』の提案を為して来た米国や、

『日本が技術独占し、さらに聖遺物から得られる利益までも独占することなど、決してあってはならない』という共同宣言を発表したロシアと中国……

 

そういった不穏な空気の中でとうの私達がノコノコと顔を出してしまえば、各国は私達を槍玉に挙げるだろう。

それに……

 

「……わかってます。未来を危険に巻き込まない為、ですよね?」

 

「……あぁ。小日向さんは直接は関係しないとはいえ、それでも私達が近づいてしまえば各国からの干渉を招きかねない……私達防人の力不足で迷惑を掛けるな、立花……」

 

私達が槍玉に挙げられてしまえば、当然にその周辺の人々もまた、その影響を受けてしまう。

そんな時に真っ先に狙われるとすれば、それは護る力を持たぬ小日向さん達であろう。

━━━━それが分かっていながらも、防ぐ術の無い無力さに歯噛みするしかない。

 

「……きっと、大丈夫ですよ!!お兄ちゃんも付いててくれますし!!

 ……そういえば、私達はこんな風に隠れてるのに、なんでお兄ちゃんは普通に外に?」

 

「あぁ、それはな……レゾナンスギアの存在が機密事項扱いだったのもあるが、独力起動も出来ない欠陥品であれば各国の追求も弱まる……というのが表向きの理由なのだが……

 どうも欧州連合各国からの強い後押しがあったらしい。『我々は欧州を守護した英雄の尽力を忘れない』と……恐らくは、二年前に欧州でKIAとなった共行おじ様の事なのだろうが……

 事の詳細は機密故明かせないと言われてしまってな……ひとまずはその厚意をありがたく頂戴しているが、いずれはその詳細を知りたいと共鳴は言っていた。」

 

━━━━おじ様がいったい何を成し遂げたのか。それは分からない。

だが、超規模経済破綻を起こしながらも今なお国家を超えた規模での協力を続ける欧州連合が一目置くともなれば並大抵の事では無いだろう。

 

「ほえー……共行おじさんってスゴイ人だったんですね……」

 

「あぁ、アメノツムギを用いて世界を飛び回り……様々な人々を護っていたのだと聴いている。その背中を、共鳴は今も追っているのだろうな」

 

「私にとっては、厳格だけどちょっとお茶目な近所のおじさんって感じでしたから、あんまり想像付かないです。」

 

その言葉に、思わず笑みが零れる。

私にとっての共行おじ様も、厳格でありながらも私に優しく接してくれる人だったのだから。

 

「ふふっ、共行おじ様ってば、相変わらず子ども達に優しかったのね。」

 

「そうなんですよ~。私もお兄ちゃんの家に遊びに行った時によく甘い物貰ったりしてまして……まぁ、その後お手伝いさんに共行おじさんが怒られてたんですけど……

 ……うぅ、考えてみたら今の私ってもしかして、あの時の共行おじさんと同じ立場なのでは!?

 あそこまで大見得切っておきながらサクッと戻ってきちゃった上に、未来にホントの事全然言えてないし!!」

 

共行さんとの想い出でなにかのスイッチが入ったのだろうか、立花がいきなり騒ぎ出してしまった。

しかし、小日向さんに心配をかけてしまっているのは事実なのだ。護る為に一生懸命にした結果がそのような事態を招き、二人の仲を悪化させるなどというのは私にとっても本意では無い。

 

「まぁ落ち着け立花。もしもの時は私達からも口添えしてやろう。小日向さんとて悪鬼羅刹では無いのだから話せばわかってもらえよう?」

 

「ホントですか!!ヤッター!!」

 

━━━━まぁ、今の二人ならばそこまで過保護にするほどの心配は要らぬだろうな。という言葉は敢えて口にせず、私は暫し立花との世間話に興じたのであった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━あたしは、人を殺した。

ソロモンの杖を振るい、ノイズを使役し、そして……人を、その尊厳を炭に帰したのだ。

 

成り行き任せであのバカ共と手を繋いではしまったが……あたしのその罪は、永劫赦される事は無い。

 

━━━━いいや、赦されてはいけないのだ。

 

だってそうだろう?人が人を殺す事は、どんな場所だろうと、どんな時代だろうと、肯定されてはならない最大級の禁忌なんだ。

あたしは、あたしのしでかした事から、一生目を背けたりしちゃいけない……

 

「どうしたの?クリスちゃん。さっきからずーっと黙ってて……」

 

そうしなきゃあたしは……あたしは……

 

「━━━━わかった!!お腹空いたんだね!!

 わかるわかる!!私もマジでガチでお腹空くとおしゃべりも億劫になっちゃうもんねー!!

 あ、そうだ!!さっき新聞の折り込みチラシ見たんだけど、宅配ピザに革命!!って見出しでカロリーに比例して美味さも天井知らずらしくって……」

 

「……だーっ!!いい加減うっとおしいんだよ!!空気詠み人知らずかこのバカ!!」

 

━━━━そんな風にシリアスに考え事をするあたしを邪魔するのはあのバカ。

立花響とかいうソイツは、どういうワケかあたしによくよく絡んできやがる。

 

「く、クリスちゃんが空腹のあまりに怒りっぽくなっちゃった……」

 

しかも、口を開けばこの始末だ。あまりの能天気さにあたしとて思わず語気が荒くなってしまう。

 

「そういう問題じゃねぇェェェェ!!お前は!!少し!!黙れ!!あたしが求めてるのはメシじゃなくて静寂だ!!いいから黙って一時でいいからあたしに静寂を寄越しやがれ!!」

 

「ふえーん!!翼さーん!!クリスちゃんが怒りっぽいんですよー!!」

 

泣き言を叫びながらバカが縋りつくのはあの剣女。

しかし、あの剣女ならまぁまだ多少はコッチの意を汲んでくれるから気が楽なのだが……

 

「まぁ落ち着け、立花。人には一人瞑想に耽る事が必要な時もあるものだ。恐らく雪音が求めているのはそういった物事なのだろう……

 ━━━━つまり、修行だ。さぁ、立花も共に瞑想するといい。時には心を落ち着けて耐える事が重要になる事もあるだろう。」

 

━━━━そんな甘っちょろい考えは、即座に打ち砕かれる事になる。

しまった。この二週間程で気づいたが、コイツも中々の鍛錬バカなのだった……!!

『常在戦場』などと宣いながら脚を組んで座り込み、数時間も動かなかった時は遂にコイツは狂ったかと思った物だ!!

 

「なるほど……言ってる事全然分かりません!!けど、やってみます!!」

 

━━━━マズい!!この流れではまたぞろ数時間はコイツ等に付き合わされて拘束されてしまう!!

その前に此処からおさらばしなければ……!!

 

「おーい響ー、邪魔するぞー?

 お?なんだ、翼もクリスも揃い踏みか?ちょうど良かったちょうど良かった……な?鳴弥さん。」

 

「えぇ、そうね。ちょうどいいし、皆にも聞いてもらいましょうか。」

 

望まぬ救いの手は、そんな時にやってきた。

車椅子に乗ってやってきたのは……確か、天羽奏だったか。あたしは殆ど会話した事も無いが、元々のガングニール装者だったと聴いている。

……そして、車椅子を押して来たのは天津鳴弥、アイツの……母親らしい。

とはいえ、あたしは巻き込まれなきゃそれでいい。話とやらでコイツ等の注意が逸れればそれでいいと小さく息を吐く。

 

「あっ、はい。私に聞いてもらいたい事ですか?」

 

「響だけにじゃないんだけど、まぁ手近に部屋があったからなー……んでそうそう、話したい事ってのは今後のあたしの身の振り方についてなんだよ。」

 

「身の振り方……?」

 

「えぇ、これまでは奏ちゃんはリハビリも兼ねて本部併設の病院と本部を行き来していたんだけど……」

 

「あぁー……カ・ディンギルで思いっきり潰れちゃいましたもんね……」

 

━━━━注意が逸れればそれでいいと思っていたのに、バカの言葉に思わずビクリと身体が震えるのが自分でも分かる。

カ・ディンギルが顕現して、学校と病院が潰れたのもまた、元を辿ればあたしのせいなのだ……

……平和な日常を、あたしが汚してしまったのだ。

 

「そうそう。だからコレを機に環境も一転させちまおうって思ってな?だから、トモの家に転がり込もうって話になってさ。」

 

「ほうほうお兄ちゃんの家に……ってなんですとォ!?」

 

「あぁ……なるほど、共鳴くんの家ならお手伝いさんが居てくれるものね。

 それなら、私としても一安心だわ。」

 

そんなあたしの、震えを見せまいとする努力が功を奏したのか、気づかれる事無く話は進んでいく。

どうも、天羽奏はアイツの家に厄介になろうとしているらしい。

まぁ、そうであろう。と内心納得する。車椅子で無ければ動けない今の彼女が生きていくのなら誰かに頼るしかないのだから。

 

「えぇ、私も出来るだけ戻るようにするし、お手伝いさんの他にも在宅リハビリの為にヘルパーさんも雇おうかと思ってて……」

 

「そこまでは流石にいいって言ってるんだけど、鳴弥さん全然聴いてくれなくてさぁ……響達からも説得してくれないか?」

 

「えぇ~?でも奏さんの事を考えてしてくれてる事ですし……天津の人ってそういう所で勿体ないとか全然考えない人ばっかりだから難しいと思いますけど……」

 

「私も同感よ、奏。天津が防人として守るべき人を見過ごす事はもう有り得ないのだもの……観念して受け取った方がいいと思うわよ?」

 

「えぇ~……?そうだ、クリス!!クリスはどう思うよ?」

 

━━━━何故、そこであたしに話を振ってくるのだろうか。

 

「はぁ!?あたしに振られても困る……っていうか、あたしには関係のない話だろ!?」

 

「まぁまぁそう言わずに……」

 

「って言われてもだな……世話してくれるって言ってんだから、別にそれならそれでやってもらえばいいんじゃねぇのか……?」

 

結局、返せたのは無難な答えだけ。

……それにしたって、あたしが言えた義理では無い。アイツも、あのデカいおっさんも、皆が差し伸べてくれた手を払ったのはあたし自身の選択なのだから。

 

「ぐぬぬ……アタシの味方は居ないのかよー!!」

 

「味方だからこそ、余計なお世話まで焼くんでしょう?」

 

「あはは……でもちょっとうらやましいなー。お兄ちゃんの家って大きいし、流石に私も泊りに行った事は無いからちょっと憧れちゃいますよ。」

 

「おっ?なら響と未来も寮から出て転がり込んで来るか?どうせだし翼とクリスも来ちまえよ!!」

 

「……はぁ!?なんでそこであたしまで!?」

 

━━━━掛けられる言葉の総てがあったかくて、昨日までにやらかした罪を忘れてしまいそうになる。

けれど、それはあたしには許されない事だ。罪は、簡単に償えないからこそ罪なのだ。

そこから逃げないと決めた以上、あたしにそんな安らぎなんて要らないのだから……

 

「あー……お誘いは嬉しいんですけど、私の場合はお父さんが『嫁入り前なのに男の家に転がり込むだなんて響がグレちゃったー!!』とか言って泣き出しちゃいそうなので……」

 

「……私の方も、個人として交流するだけならともかく移り住んでしまえばお爺様が黙って居ないわ。奏には申し訳無いけれど、私も辞退させてもらうわ。」

 

「ちぇーっ……んじゃま、とりあえずそういう事で、コンゴトモヨロシク?」

 

「なんでカタコトなんだよ……」

 

望まぬ救いの手は、やっぱり望まなくて良かった救いの手だったな……等と想いながら、ひらひらと腕を振る彼女を見ていると、すっかり逃げる気力も失せてしまったのだった……

 

 

━━━━追伸。その後本気で修行とやらに付き合わされた。

やっぱり特起部二(とっきぶつ)にはまともな人間は居ない。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━と、言うワケで改めての紹介だ!!雪音クリスくん!!第二号聖遺物イチイバルの装者にして心強い仲間だ!!」

 

「……ど、どうも。ヨロシク……」

 

雪音クリスの歓迎会をしよう!!という司令の言葉に一もにも無く賛成したメンバーが多かったのは、二課の気風を象徴していると言えよう。

とはいえ、歓迎会が開かれた理由というのはそれだけでは無く……

 

「さらに!!本日を以て装者三人の行動制限も解除となる!!」

 

「……師匠!!それってつまり……!!」

 

「そうだ!!キミ達の日常に帰れるのだ!!」

 

「やったー!!やっと未来とお兄ちゃんに会えるー!!」

 

━━━━そう、各国とのドタバタもひとまずは落ち着き、喫緊に装者を襲うような無鉄砲な計画が進んでいない事が確認された事で、彼女達を日常に帰す事が可能となったからだ。

……とはいえ、生臭い世界での闘争は終わったワケでは無い。国会におけるシンフォギア秘匿に対する風当たりは未だ強く、米国が何かしら動いている可能性も皆無とは言い切れない。

それでも、彼女達には帰るべき日常があるのだ。であれば、安全確認が出来た状態でなお拘束する必要も無い……それが、二課が上層部との交渉の末辿り着いた結論だ。

 

「クリスくんの住まいも手配済みだ。そこで暮らすといい。」

 

「あ、あたしに!?いいのか!?」

 

「あぁ、もちろんだ!!装者としての任務遂行時以外の自由やプライバシーは二課が総力を挙げて保証しよう!!」

 

「あ、ぁ……」

 

━━━━雪音ちゃんが溢れる喜びを抑える様に、思わず笑みが零れる。

共行さんから聴いていた、雪音夫妻の忘れ形見。奇しくも共鳴が巡り合った彼女。

内戦に巻き込まれたという彼女が帰るべき日常を手に入れるその瞬間に立ち会えたのは僥倖であった。

 

「……アレ?そういや鳴弥さん、トモは?」

 

「え?あぁ、共鳴なら未来ちゃんに付き添ってあげてるわ……もう、共鳴ったら。『響達が生きてる事を知ったら間違いなく未来は会いたがるけど、今未来が接触したら完全に巻き込まれてしまう……でも未来に嘘を吐かないって約束をしたし……』って頭抱えちゃって……真っ直ぐ過ぎるのも困りものねぇ……」

 

「……もしかしてトモ、未来に何も教えないでただ付き添ってるだけって事?」

 

「えぇ……やりたい事と出来ない事の板挟みに頭抱えて。まったく……防人として覚悟を握ってる人からは、本音一つ引き出すのにも苦労するわ。」

 

「……それって、もしかして惚気話?」

 

「ふふっ、さてどうかしら?もしかしたらアドバイスかも知れないわね?」

 

━━━━共行さんに似て、共鳴も多くの女の子と絆を紡いでいる。

共行さんは私だけを選んでくれたけれど、あの子の人生は共行さんとは違う、あの子だけの人生だ。

そしてあの子の理想もまた、共行さんの物とは違う。だから、誰を選ぶのかもまた、共鳴の自由に任せようと思う。

……けれどきっと、その自由の先には多くの苦難が待っている。それでも、空に歌が響く限り……あの子は諦めないだろう。

だから、私はその道行きを応援したい。共に立つ事は出来なくても、諦めない想いを応援する事は出来るだろうから……

 

「━━━━自由もプライバシーもどっこにもねぇじゃねぇかァ!!」

 

クリスちゃんの絶叫が聴こえて来たのは、そんな時だった。

 

「……ん?どうしたんだよクリス。」

 

「どうしたもこうしたもねぇ!!なんでこいつ等まであたしの部屋の合鍵を持ってんだよ!!」

 

どうもクリスちゃんは、自由とプライバシーは保証すると言われたのに用意された部屋が既に合鍵だらけだった事にお冠なようだ。

 

「あー……それな。いちおう真面目な理由はあるんだぞ?」

 

「はぁ!?」

 

「えぇ、装者としての任務外のプライバシーは保証するのだけれど……同時に、貴方達シンフォギア装者に急に連絡が付かなくなった場合……例えば体調不良とか、他国の策略だとかね?

 そういった時に対処する為に合鍵を保持する必要性はあるのだけれど……流石に、年も離れた異性が多い黒服の皆さんに合鍵を預けるのはクリスちゃんも安心できないでしょう?

 だから、悪用の可能性が低くて年恰好も近い他の装者達に合鍵を預けたのよ。」

 

「んなっ……!!それは……確かに真っ向否定は出来ないけどさ……にしたってこのバカの分まで用意するか普通!?」

 

「えぇ~?酷いよクリスちゃーん!!」

 

「まぁまぁ……」

 

ある程度の納得は出来たけれど、最低限のラインを譲歩しようと迫るクリスちゃんを宥めすかす。

とはいえ、装者襲撃の可能性を考えればどちらかと言えば渡すべきで無いのは戦う力を持たない未来ちゃんの分なのだが……きっとそれは、クリスちゃんが少しずつ受け入れようとしてくれているという証なのだろう。

微笑ましく思いながらクリスちゃんの立て板に水の如き言葉を受け止めようと構え直した……

 

━━━━ノイズ出現を知らせる警報が鳴り響いたのは、その瞬間だった

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━ノイズか!!藤尭ァ!!場所の予測急げ!!」

 

「……行動制限は解除された。ならば、ここからは防人の務めを果たすまでッ!!」

 

「クリスちゃん!!一緒に行こう!!」

 

━━━━ノイズ出現と聴いて、隣に立つクリスちゃんの手を握る。

 

「は、はぁ!?お手手つないで同伴出勤なんて出来っかよ!?」

 

クリスちゃんは何故かそれを拒否するが、まぁ慣れた物だ。クリスちゃんが割と押しに弱いというのはこの数週間で分かった事だし、このまま押し切ってクリスちゃんと一緒に戦うんだ!!

 

「でも、任務なんだよ!!」

 

「だ、だからっていきなり友達なんてのは……」

 

━━━━はて?どうして一緒に任務に行くことが友達になるのだろうか?というか、私とクリスちゃんはもう手を取り合っているのだし友達なのでは?

 

「何をやっている二人共!!そういう事は家でやれ!!」

 

そうして訝しむ私と慌てるクリスちゃんを一喝するのは翼さんの言葉。

 

「家でやれってのか!?」

 

「━━━━場所、特定できました!!コレは……近くに共鳴くんの通信機の反応もあります!!」

 

『ッ!?』

 

藤尭さんの報告が緩んでいた部屋の空気を引き締め、緊張が走る。

 

「━━━━共鳴が居るという事は……!!」

 

「━━━━そこに未来も居る!!」

 

「━━━━急ぐぞ!!」

 

「うん!!」

 

そして私達は走り出す。一番あったかい場所を護る為に。一番居たい、帰るべき日常へ帰る為に。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━そこは、闇が帳を降ろした空間であった。

欧州某所。防諜対策が施された地下空間。かつての大戦の折に建造されながらも、『存在しない物』として抹消された筈の地下世界。

そこに、結社の魔人たちが集っていた。

 

「……にしても?こうして三幹部が揃うのって久しぶりじゃない?」

 

「言われてみれば確かに、前回揃ったのは大規模作戦の時だったワケダ……それで、サンジェルマン。分かってはいるが一応聞くが、召集の理由は?」

 

私が手ずから錬金術を授け、導いた二人。アレッサンドロ・ディ・カリオストロ。そしてフランソワ・プレラーティ。

彼女等に促され、私は重要な議題を口にする。

 

「……あぁ、諸君も分かっているだろうが……フィーネが潰えた。数週間前の話だ。

 フィーネ……先史文明の巫女にして、自分以外の異端技術の使用者を刈り取る執行者。その存在は、我々結社にとっても邪魔な存在だった……

 フィーネの存在ゆえに動かせない計画が幾らあった事か……今回は、フィーネの存在を前提に水面下で進めていた計画をどこまで顕在化させるかを議論する為に諸君を召集した次第だ。」

 

「やはりそれ絡みというワケダ……とはいえ、私としては特に言う事もない。『あの錬金術師』は未だに潜伏中。シャトーの建造もあと半年は掛かる状態だ。少なくとも今すぐに何かしらのアクションを起こせる状態では無い。」

 

「━━━━キャロル・マールス・ディーンハイム……本来ならば知啓の集約の為に組織を組むことが前提となる錬金術師の世界で、配下こそあれ自らと並び立つ者を作らない異端の錬金術師だったか……

 シャトーを建造して、その先に起こす計画については?」

 

「なしのつぶて、というワケダ。奴さんは(えら)くガードが堅いし、受付役のホムンクルスは何も知らん。ただ……」

 

「ただ?」

 

私達結社の三幹部は今、それぞれ別々の計画を進めている。その中でもプレラーティが関わっている物はとある技術(・・・・・)に関してのノウハウ取得のための資金援助が主な役割だ。

その相手は異端の錬金術師であるディーンハイム。彼女は、自らの相似体であるホムンクルスを利用して数百年の時を生き続ける傑物でもある。

 

「……あのシャトーは、まるで楽器(・・)だ。設計に関しては此方も口出ししているが、奴さんの構想では錬金術的な意味合いをも超えて風洞が多い。

 あれだけの風洞があれば、シャトー全体が巨大な音叉のような役割を果たす事も可能だろう。

 ━━━━奴さんが米国と距離を取りながらも多少は関わり合っている以上、件のシンフォギアとやらとも関係するのカモ知れんワケダ……」

 

「……なるほどな。であれば、今すぐ動き出す事は無かろうがこれまで通り油断せずに付き合うべき……という事か。」

 

「そうねぇ……あんまり距離を狭めすぎると、向こうの思惑がコッチの想定を大幅に超えていた時に振り回されちゃうものねぇ?

 ……あ、次はサンジェルマンがお願い。この流れだと多分あーしの計画が一番優先度高そうだから。」

 

プレラーティの計画は未だ道半ば……それ故に今すぐに動き出す事は無いだろう。三人の間でその合意が取れた事を確認しつつ、次の計画について話し出す。

 

「了解した。私が携わっているティキの本体の探索だが……前回の大規模作戦で欧州の聖遺物保管庫を捜査出来た事で絞込は済んだ。やはり旧第三帝国絡みのならず者国家か……或いは日本の深淵の竜宮か。

 そのどちらかに、ティキの本体は保管されている筈だ。」

 

━━━━私の携わる計画、それは結社の悲願である『バラルの呪詛の解呪』。つまりは月の遺跡の掌握を為す為、かつてのカストディアンに比肩する絶対なる神の力を地に降ろす為の時節と場所を見定める事だ。

その為に必要な物こそ、惑星運行観測機能に特化した『神宿す人形(ヒトガタ)』である自動人形(オートスコアラー)のティキである。

だが、四百年前、天地の照応を以てティキに宿る筈だった神の力はフィーネの横入りによって霧散し、ティキの本体もまた封印され、地中海へと沈んでしまった。

 

「……前大戦の折、ドイツ海軍がティキの本体をサルベージした事は事実。だったらティキの本体の今の所在は……」

 

「そのナチスドイツから接収された聖遺物を保管する欧州屈指の聖遺物研究機関たるSERNか、ナチスドイツと協力関係にあった日本、もしくは亡命した元ナチスドイツが潜伏する南米の三択だったというワケダ。」

 

「えぇ、けれど……そこからは手詰まりね。やはりならず者とはいえ国家は国家。私達結社が歴史の表舞台に出られない以上、何かしらの豪華な対価を示さなければ彼等とて胸襟を開きはしないだろう。」

 

アルカノイズを使うという手も考えはしたが、アルカノイズは錬金術の秘奥の一つである。

シンフォギアとやらが対ノイズ戦闘に特化しているという情報を思えば『人間がノイズを使う』等という挑発にも等しい策を取るのはリスクが高すぎるだろう。

 

「日本に到ってはあの風鳴訃堂が今なお強権を振るっている物ねぇ……でも安心して?あーしはそこを考えて新たな計画を練ってきたから。」

 

「新たな計画?」

 

「まずはコレを見てちょうだい?」

 

そう言ってカリオストロが提示してきたのは惑星運行を予測した軌道データだった。確かに惑星運行は錬金術の成否をも定める重要なファクターの一つではあるが、コレの何が重要なのか……?

カリオストロが無意味なデータは出さないだろうと一つ一つの運行予測を眺めていく。水星、金星、地球、火星、土星、天王星、海王星、冥王星……そこで、感じる強烈な違和感。

錬金術の神秘を成すはずの宇宙の調和が、微妙に成り立たないと錬金術師としての勘が警鐘を鳴らしている。

 

「待って、このデータ……数値が狂っているわね!?」

 

「ご名答。フィーネがバラルの呪詛を解呪しようと月をぶっ壊そうとした事……あーし達が思ってるよりも影響はデカかったって事ね。

 ━━━━月が、その軌道をズラし始めているわ。」

 

「月が……!?」

 

「……だがそれでは話がおかしいというワケダ。宇宙開発の最前線に立つNASAはルナアタックの影響による月の軌道への影響は軽微だったと言っている……あぁ、なるほど。そういうワケダ?」

 

ニヤリ、とプレラーティが嗤う。事ここに到れば、私にも話は見えてくる。

 

「━━━━米国による情報操作か。」

 

「そゆ事。けれど、月は今も不安定な天秤をギリギリの所で押し留めているだけ……だからこそ、その米国の欺瞞を暴こうとする勢力(・・・・・・・・・・・・・・・・)が現れる。

 あーしは其処を焚き付けてあげようかと思ってね?この軌道データの欺瞞を知れば、彼等は立ち上がるでしょう。」

 

米国に正面切って喧嘩を売る愚かな国家など、表の世界には存在しない。だが、世界の闇の中には、それを為せる程の力を持つ者達が存在する。

その中でも、今回の件について喫緊に動き出せる存在となればそれは……

 

米国連邦聖遺物研究機関(Federal Institutes of Sacrist)……我々からして見れば、フィーネの子ども達か。」

 

「えぇ。レセプターチルドレン達にフィーネが宿らなかった事はこの二週間の監視で分かったけれど、彼等にはまだやってもらうべきことがある……」

 

「『対ノイズ兵器』の秘匿と独占、そして月の落下の隠匿……それにまぁ、どうせ生存原理(オルタネイティブ)に基づいた宇宙への脱出計画でも建てているだろう米国の糾弾……これが成功すれば米国の権威は失墜するというワケダ。

 そこに我々結社の意思が介在したとなれば……」

 

「ならず者国家は私達の言葉を重く受け止める、という事か……だが、もしも糾弾が失敗したら?」

 

「失敗したとて、米国は内部からの叛乱でガタガタになる。少なくとも、聖遺物に関する最先端の研究はその殆どが停止せざるを得なくなるわ。

 それに、米国が『世界正義』として正しい道を歩まざるを得なくなっている以上、失敗した場合でも権威に傷が付けば各国はこぞって米国に嘴を刺していく。今の米国圧倒的優位な外交はどっちにしろ覆されるって事。」

 

「……流石は、山師(アヴァンチュリエ)と名付けられる事はあるワケダ。たった二週間でルナアタックを味方につけるとはな。」

 

「あぁ、カリオストロ。この計画を推し進める事には私達も否やはない。それにもしも……」

 

━━━━もしも、月の落下といういずれ来たる一大事が本当に彼等の尽力で覆されるのならば、それはなんて、希望に満ちた夢物語だろうか。

……頭を(よぎ)った言葉を口に出す事は出来なかった。

 

『━━━━人々を護る事こそが防人の務め!!それを忘れ、罪なき人々を踏みにじった先に掴んだ栄光は罪と血にまみれた王冠でしか無い!!それを完全無欠を謳う綺麗なお題目で飾り立てるのは……貴様等が自らの過ちに気づいているからだろう!!』

 

二年前、我々結社が起こした欧州を覆う程の巨大錬成陣による賢者の石製造を目論んだ『大いなる業(マグヌム・オプス)計画』は、ある一人の男の命を懸けた活躍によって阻止された。

その時に突きつけられた叫びが胸を突く。

私達は、人を犠牲にして此処に居るのだと。我々の理想もまた、誰かを踏みにじった上に立っている理不尽なのだと……

 

「……サンジェルマン?大丈夫?」

 

「……いや、なんでもない。ひとまず、計画はこの方向で進めるとしよう。私は先に戻る。」

 

カリオストロ達に声を告げ、一人足早に部屋を去る。

━━━━コレは、結社の最高幹部たるサンジェルマンが見せるべき感情では無いのだから。

 

「……天津、共鳴……」

 

部屋に戻り、一人呟く名は、とある少年の名。

ルナアタックを解決した特機部二(とっきぶつ)に所属する一人の少年。資料に記されたその名に、その特徴に、酷く覚えがあった。

 

「天津共行の……私が殺した彼の、息子……」

 

━━━━運命が交差する日は、未だ遠い。




━━━━夏が来る。
不穏な影を宿しながらも、時は誰しもに等しく訪れる。
そうして迎えるは、少年の誕生日。
シンフォギアの新たな戦術、交錯する想い、変わり始める感情……
転機は、常に突然にやってくる。
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