戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第二章 救済(ギブリリーフ)
第四十二話 開幕のシグナルショット


━━━━暗雲が、漆黒の夜闇に渦巻いていた。

 

「……幸先わりぃな。」

 

「んー?どしたのクリスちゃん。」

 

「……んでもねぇよ。ただ、折角の遠出にゃ似つかわしくねェ空模様だと思っただけだ。」

 

「あー、そうだよねー。折角山口まで行くんだからお天気もピクニック日和だと良かったんだけど……」

 

その言葉に、窓際に突いていた頬杖が思わずずり落ちそうになる。

 

「お前なぁ……あたしのはちょっとした冗談で済むけどピクニック気分は流石にねぇだろ……あたし等が此処に居る理由は任務だぞ任務!!」

 

「わ、分かってるってクリスちゃん……ただそれにしたって天気はいい方がいいかなってだけの話で……」

 

「ったく……」

 

━━━━あたし等に任された任務とは、山口県は岩国に存在する米国基地へと装甲列車を用いてソロモンの杖を搬送する事だ。

この三ヶ月程の間に表向きは日本との協調による聖遺物研究を進める事を基本方針とした米国。

未だ脅威の続く認定特異災害たるノイズ。その災禍を防ぐ為に『ノイズを召喚・送還し、自在に操る』という完全聖遺物(サクリストS)の特性を日本と協働して研究しようと考えるのは当然の帰結だった。

だが……本当に、米国はソロモンの杖を平和の為に利用してくれるのだろうか?

たった一年程前にはソロモンの杖を起動する術を持たぬからと米国はフィーネへ秘密裏に杖を引き渡していたのだ。

米国の聖遺物研究機関もまたフィーネの息が掛かっていたとはいえ、其処にはやはり米国そのものの思惑が関わっているだろう……

 

━━━━窓を濡らす暗い嵐の夜のように、あたしの疑念は黒く(わだかま)っていた。

 

「あ、そうだ!!クリスちゃんもお夜食食べようよ!!夜通しの任務になるからってお兄ちゃんがサンドイッチ作ってくれたからさ!!」

 

「あ?まーたアイツは気が利きすぎる……お、こっちはツナか……ま、ずっと気を張ってたって始まらねぇしな。貰うとするか……」

 

一瞬何を暢気な事を……とも思いはしたが、到着予定は朝方だ。腹が減ってはなんとやらとも言うし、貰っておいて損はないだろう……

 

「━━━━そういやよ。最近どうなんだよ、お前。」

 

「んー?最近って?」

 

食事をしながら、折角だと話を振るのは目の前の相手の身体について。

 

「フィーネの奴が言ってたんだろ?『真霊長』だなんだって。」

 

「あー……どうなんだろう?鳴弥さんが言うには、私の胸のガングニールとの融合が少しずつ進んできちゃってる事は確かだって言うんだけど……イマイチ実感は湧かない、かな?

 対策になる聖遺物に関しても、米国にも協力してもらって八方手を尽くして探してるって言うし……」

 

「……そうか。まぁ……なんかあったら言えよな。」

 

「うん。私一人じゃなんにも出来ないから……そんな時には必ず、クリスちゃんにも頼み込むから!!」

 

「安請け合いはしねーけどな……余裕がありゃ聴いてやるよ。」

 

━━━━列車は走る。一時の穏やかな時間を乗せたまま。しかして、嵐の夜は未だ明けてはいなかった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━マムの決意を聞き届けてから、二ヶ月が経った。

 

あの後、私達FISは秘密裏にウェル博士と接触し、表向きは米国の意向に従うという形で計画を進めていた。

私が、孤児出身でありながらスターダムへと駆けのぼった……とされているのも、米国の計画の一つ。

勿論、その総てが米国の裏工作というワケでは断じて無く、私の歌を純粋に好いてくれたファンも大勢居る。

だが、そんなファン候補達に私の歌を届ける為に掛かる巨額の宣伝費用や、新人歌手の異例と言える横紙破りをも業界に許させたのは、(ひとえ)に米国という巨大なバックアップあっての物だ。

 

「……イツワリノウタヒメ、だなんて。そんな風に言ってしまえば私の歌を好いてくれている人達への背信になってしまうのでしょうけれど……」

 

「━━━━そんな事は無いよ。マリアが歌に全力だってことは、ボクも切歌も調も、誰も疑ってはいないもの。マリアが此処に居るのは、間違いなくマリア自身の実力。マリアが本物の歌姫である証だよ?」

 

「……ふふっ。ありがとう、美舟。貴方達が信じてくれるのなら、私はいつだって歌姫である事が出来るわ。」

 

宿泊先であるホテルのスイートルームの窓を眺めながらポツリと零した私の呟きを拾ってくれたのは、私のマネージャー役を務めてくれている少女、天坂美舟。

南海から来た家系だったのだ━━━━なんて冗談めかして話してくれるように、日本人としては珍しい小麦色の肌の少女。本来ならば、もう高校生にもなっている年頃だろうか。

……レセプターチルドレン達の多くは、私やセレナ、切歌のように行き場を無くした孤児達だったけれど、中には美舟や調のように、ただ平凡に暮らしていた筈の少年少女が略取・誘拐された事例も存在する。

フィーネ復活の器として、私達は様々な実験をさせられた。だが……結局、フィーネが死した後も私達にフィーネが宿る事は無かった。

 

━━━━私達はFISに編入される事で難を逃れた。だが、他の施設に収容されている筈の彼等は……どうなってしまうのだろうか?

 

自分達だけが助かってしまったのでは無いか、という心中の不安を隠すように、強く、強く胸元のペンダントを握る。

 

「さ、そろそろ寝ましょう?明日のステージは文字通り━━━━世界最後のステージになるでしょうから。」

 

━━━━強い言葉は、私の心を奮い立たせる為に。

私は、フィーネ。終わりの名を持つ者なのだから……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━襲撃は、嵐の夜に紛れて始まった。

装甲列車を後方から追い上げ、食い潰さんと迫るは、認定特異災害たるノイズ達。

その猛威を前に、護衛達も為す術なく薙ぎ倒されてゆく……

 

(……ま、そうなるように仕掛けたんですけどね?)

 

『杖が入っているとされる』ケースを掻き(いだ)き、ボクは心中でほくそ笑む。

フィーネによって騙し取られたソロモンの杖を再び手中に収める事は米国側にとっての最重要事項である為に、米国側の計画では第一段階であるこの護衛は『滞りなく終了する』とされている。

 

━━━━だが、それでは少々時間稼ぎが足りない。

 

クイーンズオブミュージックにて行われる『もう一つの作戦』。それを円滑に進める為にはシンフォギア装者達の分断は必要不可欠。

それ故にこうして……ボクの手で(・・・・・)ノイズを召喚・使役する事で、あたかもフィーネのように異端技術を操る『何者か』が杖を狙っていると誤認させる。

それが、『我々(・・)』の計画の第一段階。

 

(さぁ、ハルファスよ……その翼で以て人類最後の闘争の開幕ベルを鳴らせ……!!)

 

━━━━狙いは過たず、爆散する最後尾車両。

そして、それによって倒れ込む、二課所属の女性。うーん、下卑た興奮なんざ全然覚えないボクだが、他人が自分の意のままに動かされているこの感覚は……病みつきになってしまいそうだ……!!

 

「ああっ!?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

自分の演技力に内心ではほくそ笑みながらも、顔はクールに。

 

「大丈夫です!!それよりもウェル博士はもっと前方の車両へ避難を!!」

 

「━━━━早く!!すごい数のノイズが迫ってきます!!」

 

「……連中、明らかにコッチを獲物と定めていやがる。

 ……まるで何者かに操られているみたいに……」

 

━━━━大正解!!

後ろの車両から飛び込んで来たのは音に名高いシンフォギア装者が二人。その状況判断は全く以て適切だ。思わず答え合わせをしたくなってしまうが、それをなんとか堪える。

だが、そんな場数を踏んだこの二人とて、この護送における米国側の立会人であるこのボクが既に『米国を見限っている』等とは露とも思うまい。

 

「急ぎましょう!!」

 

「……三ヶ月前、世界中に衝撃を与えたルナアタックを契機に日本政府より開示された『櫻井理論』。

 その殆どは、用いられている異端技術の高度さから未だ謎に包まれたままになっています。ですが、回収されたこのアークセプター・ソロモンの杖を解析し……

 世界を(おびや)かす認定特異災害ノイズに対抗しうる新たな可能性を模索する事が出来れば……」

 

「はい……え?多数のノイズに混じって、高速で接近するパターンが?」

 

興味もないので名前すら忘れてしまったが、二課の女性が本部と通信を取り合う横でボクは装者二人に改めて状況を説明する。

勿論コレもボクへの不信感を募らせない為の演技ではある。だが、同時にそれはボクの本音でもある……何故って?

 

━━━━認定特異災害たるノイズ!!それを世界から根絶した英雄!!それこそ正にボクという天才に相応の栄誉ってもんだからだ!!

 

「ソイツは……ソロモンの杖は、そうポンポンと簡単に扱っていいもんじゃねぇ。

 ……あたしがこんなことを言うなんてちゃんちゃらおかしいって分かってる。けど……!!

 それでも、ソイツを間違いのねぇように運用してくれ……頼む。」

 

その本気があるからだろうか?情報によれば他者を信じる事が少ないという少女。雪音クリスが、ボクの演技をすっかりと信じ込んでくれたのは。

 

「クリスちゃん。大丈夫。大丈夫だよ、きっと。」

 

「ばっ、おまッ!?時と場合を考えろバカ!!」

 

「何があっても、私もお兄ちゃんもクリスちゃんの手を握る事、絶対諦めないから。だから、大丈夫!!」

 

「……まったく。お前等ってばホントのバカだな。」

 

そうやって柔らかに笑いあう少女達。麗しい友情もいいが、此方とて計画を進めねばならないのだ。

……そろそろ発破の掛け時だろうか?

 

「━━━━了解しました。迎え撃ちます!!」

 

「出番なんだな?」

 

「えぇ。」

 

━━━━ココだ!!

服の内へと隠した杖にてノイズを操る。とはいえ、細かく指定するのではない。『この壁に突き刺され』程度の物だ。

ノイズ本来の性能ならば、壁を透過する事で彼女等を炭と帰すことなど至極簡単。だがそれでは『杖を狙う何者か』を演出する事は不可能だし、第一ボクだけが生き残る理由に欠けてしまう。

だからこそ、『杖を狙うが故に追撃は緩んでいる』という誤認を与えてやる事。この場で必要なのは蹂躙では無く『脅威を演出した上での負けロール』なのだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「う、うわぁ!?」

 

遂に現れたノイズの襲撃は、しかし壁を透過する事は無かった。クリスちゃんの言う通り、何かがあるのだろうか?

 

「行きますッ!!」

 

「あぁ!!」

 

しかし、そんな思考も一瞬。為すべき事を成す為に、目の前の災厄を打ち祓う歌を口ずさむ。

 

「━━━━Balwisyall nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

 

私の聖詠を受けて輝く胸のガングニールが光を放ち、私を包み込む。

そして、この両手に私が纏うのはオレンジに煌めく機械腕(マシンアーム)

 

「ハッ!!」

 

「まったく、群れ雀共がうじゃうじゃと!!」

 

天井に突き刺さったノイズ達を打ち破り、そのままの勢いで天井へと飛び出す。

その先の空には、先ほど後ろを確認した時のように、飛行型ノイズが空を埋め尽くす程に群れていた。

 

「大丈夫!!どんな敵がどれだけ来ようと、今日まで訓練してきたあのコンビネーションがあれば……」

 

「アホ!!アレは共鳴のヤツが居なきゃ反動除去が効かねぇ欠陥品だろうが!!お前の身体に余計な負担が掛かるんじゃそうそう使えっかっての!!」

 

━━━━S2CA・ツインブレイク Type-A

 

私が言及した絶唱の二重奏を使うという案は、クリスちゃんにバッサリと叩き切られてしまう。

……けれど、そうやってクリスちゃんが私の身体を心配してくれるのが、とっても嬉しいなって。ついついそう思ってしまうのだ。

 

「うん!!取っておきたいとっておきだもんね!!心配してくれてありがと、クリスちゃん!!」

 

「ふん、お前がぶっ倒れでもしたら後がこえぇんだ。だから……さっさと片付けて問題起こさねぇうちに帰るぞ!!背中は預けたからな!!」

 

クリスちゃんはそう言って、イチイバルのアームドギアを展開する。

コンビネーション特訓も含めて、この三ヶ月の間で大分慣れこそしたけれど、それでもクリスちゃんが背中を預けてくれるというその事実は、私の心をとってもあったかくしてくれる。

 

「任せて!!」

 

━━━━だから、その期待に応える為に、ぎゅっと拳を握る。

稲妻を喰らい、雷土を握りつぶすように、溜めこんだ力を解放全開に空へと跳び出す。

 

飛行型と言えど、常に私達の射程外に居るワケでは無く、むしろ体当たりしか出来ないが故にドンドンと距離と密度を詰めてくる。

だからこそ、密度の上がった集団へと最短で、真っ直ぐに、一直線に飛び込めば、飛行型ノイズを足場にして疑似的な三次元戦闘を行う事だって出来る。

 

そうして集団を割り裂きながらも、周囲を見る事は忘れない。だって、背中を預けて貰ったのだから。

 

「━━━━届、けェェェェ!!」

 

だから、クリスちゃんの背後を狙う飛行型ノイズの的確な配置にも気づくことができた。

三体が迫る内の二体を飛び込んだ拳で蹴散らし、もう一体をサマソで撃ち落とす。

 

「数が多いってんなら……鴨撃ちの時間だよなぁ!!」

 

その眼下では、クリスちゃんがその両手に握るアームドギアたるクロスボウを更に大型化させ、結晶のような巨大な矢を左右に二本ずつ、計四本も撃ち放っていた。

 

「弾けろッ!!」

 

━━━━それは、まるで雨のようだった。

撃ち出された巨大な矢は幾つもの小片に別れて空を覆い、輝きと共に飛行型ノイズ達を一掃する。

 

            ━━━━GIGA ZEPPELIN━━━━

 

「……ッ!?なんだありゃあ!!」

 

━━━━だが、その爆裂の雨を物ともしない閃光が、尾を引きながら迫って来ていた。

その正体は、まるでSF映画に出てくる戦闘機のような巨大な飛行型ノイズ。

 

「アイツが取り巻きを率いてやがんのか……無誘導を回避してくるなら……コレでどうだ!!」

 

            ━━━━MEGA DETH PARTY━━━━

 

クリスちゃんの腰のアーマーから出てくるのは、最早お馴染みのミサイルパーティ。

誘導ミサイルの雨霰が高速飛行ノイズを狙い……だが、初めて見るそのノイズはそれすら意に介さずに私達の立つ列車へと複雑な軌道を描きながら迫り来る。

 

「だったらァァァァ!!」

 

            ━━━━BILLION MAIDEN━━━━

 

ミサイルの次はガトリング。三ヶ月前とは違って全体が装甲に覆われた、三角柱が二つ上下にくっついたみたいな見た目になったその四門が砲火を放つ。

 

「うらァァァァ!!」

 

だが、それに対してのノイズの行動は単純だった。つまり、変形して装甲を引き出しての突貫。速いだけじゃなくて堅さもあるなんてズルい!!

 

「くっ!!」

 

「クリスちゃん!!」

 

━━━━けれど、そうやって近づいて来るという事は、私の距離に入ってくるという事!!

腕のバンカーを起動させながらクリスちゃんに合図を送り、真正面から打ち抜く為に突貫する……ッ!!

 

「はあああああッ!!」

 

━━━━だが、その一撃は真芯を捉える事が出来ずに僅かに逸れてしまう。いや、もしかしたら逸らされたのかも知れない。

軌道を変える事にこそ成功したものの、突撃形態の装甲を抜くにはやはり真正面からブチ当たらないとダメらしい。

 

「あん時みたいに空を飛べる限定解除(エクスドライブ)モードなら、こんな奴にもたつく事もねぇってのに……」

 

クリスちゃんの言葉も尤もだなぁ。と思いながら、ふと後ろを見る。列車の上を吹き抜ける風の流れが変わった気がしたのだ。

 

「━━━━あっ!?く、クリスちゃん!!」

 

「あ?」

 

━━━━その先に見えた光景は、ある意味予想通りだった。即ち……

 

「トンネルかよォォォォ!?」

 

「緊急退避ィ!!」

 

震脚の応用で屋根を蹴り砕き、抱き留めたクリスちゃん毎列車の中へと飛び降りる。

 

「ぎ、ギリギリセーフ……そういえば、此処に来るまでもトンネル多かったもんね……」

 

「わりぃ、助かった……クソッ!!しかし攻めあぐねるとはこういう事か!!今のあたしの火力で正面突破出来ない装甲に、お前じゃ追い付けない機動力を併せ持つ高速飛翔ノイズとはよ……」

 

「……あ、そうだ!!」

 

日本は山が多いから、そういえば鉄道もトンネルだらけになるのだ、とこの前授業でやったっけ……等と思い出している時にふと、頭を過る修行の一幕。

 

「お?なんか閃いたのか?」

 

「師匠の戦術マニュアルで見た事がある!!こういう時は列車の連結部を壊してぶつければいいって!!」

 

「あのなぁ……オッサンのマニュアルってそれただの面白映画だろうが……そんなのが役に立つのか?

 それに第一、ノイズは物質透過出来んだから車両をぶつけたってすり抜けてくるだろうがよ。」

 

「ふっふっふ……ぶつけるのは、車両だけじゃないんだよ?」

 

確かにノイズは物理法則に縛られない存在である為に何のリスクも無く物質を透過出来るが、それはシンフォギアの調律が届かない時の話。

シンフォギアの放つ歌によってこの世界に固着されたノイズは、性能を著しく落とさなければ物質透過が出来なくなる。

つまり、私達の前で障害物を通り抜けようとすれば、物理法則に縛られたまま突っ込むか、それとも自らの力を大幅に目減りさせるかの二択しか無いのだ。

 

━━━━そして、私達が今居る此処は、それを成すのにうってつけな閉所。さらに言えば、ぶつけるのが護衛用に銃砲火器が搭載されている装甲列車であった事も幸いだ。

信管式では無い武器弾薬は、強大なエネルギーを撃ち込む事で爆薬代わりにもなる。伝説の傭兵を描いたサバイバルアクション映画シリーズで得た知識だ。

 

「急いで!!トンネルを抜けるまでが勝負だから!!」

 

「おらよ!!……だが、ホントにこんなんでいいのか?」

 

「あとは、こうして……ッ!!うん。ありがとクリスちゃん。コレで━━━━準備は全部整ったッ!!」

 

切り離され、トンネルの途中に取り残される後部車両を見据えながら、昇り始めた朝日を背に受けて私は立つ。

ガングニールのガントレットを展開し、歌に集中する。タイミングは一瞬、他の飛行ノイズよりも速度が速い為に真っ先にすり抜けてくる高速飛翔ノイズの鼻っ柱を叩く!!

 

「━━━━君だって、護りたい。だから……共に!!飛、べェェェェ!!」

 

車両をすり抜けて来たノイズを確認した瞬間。背中のバーニア、そして展開したガントレットのブースター。その両方を解放全開にして私はトンネルの中を飛び抜ける。

 

「響けェェェェ!!」

 

━━━━真っ正面!!捉えた!!

叩いた鼻っ柱に、歌に集中した事で高まったエネルギーの総てを叩き込む!!

 

「はァァァァ!!」

 

解放されたエネルギーは高速飛翔ノイズを打ち砕き、その余波で後部車両をも爆発させる。

そして、歌によって物理的に固着している後方の飛行型ノイズ達は狭いトンネルの中を駆け抜けるその爆発によって焼き尽くされる。

 

「━━━━よし!!」

 

崩れ落ちたトンネルを見据え、ガントレットを戻しながらのガッツポーズ。残心も兼ねたその動作は、爆風の範囲外だった飛行型ノイズが居ないかの確認でもある。

 

「クリスちゃーん!!上手くいったよー!!」

 

後方の列車上に居るだろうクリスちゃんへと振り向きながら声を掛け……そして、気づく。

装甲列車はノイズの追撃を避ける為に停止する事無く進んでいるのだ。つまり……

 

「待ってェェェェ!!おいて行かないでェェェェ!?」

 

━━━━走って列車を追いかける。だなんて、なんだかとっても締まらないオチになってしまったけれど、まぁ……私は、私のまま、強くなれたのかも知れない。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

━━━━山口県・在日米軍岩国ベース

 

友里さんが、二課側の立ち合いの証明となる電子印鑑をタブレット端末に押すのを見届ける。

時刻はもう朝真っ盛りの午前サマだ。

……結局、あの後少々待ってもらって隣のコイツと合流する事となったので、全体の行程としては当初の計画よりも遅れての進行となってしまった。

 

「━━━━コレで、搬送任務は完了となります。ご苦労様でした。」

 

「ありがとうございます。」

 

基地司令の言葉を受けて、響と顔を見合わせて頷きあう。あたし等の仕事はコレで終わり、というワケだ。

 

「━━━━確かめさせていただきましたよ。皆さんが『ルナアタックの英雄』と呼ばれる事。それが伊達や酔狂では無いという事を。」

 

そんな折に話かけて来たのは、確か米国側の立会人になった異端技術研究者……ドクター・ウェルと言ったか?

 

「英雄……?私達が?」

 

「えぇ!!人類を襲った前代未聞の大災害たるルナアタック!!コレを食い止めた皆さんの活躍と雄姿はまさに英雄と呼ぶに相応しい!!」

 

「いやー……あはは、普段褒められないのでそういう事言われるとテレちゃいますね……でも、もしも誰かを英雄って言うならそれは、それは私達シンフォギア装者の事じゃないんじゃないかなぁ……って、ちょっと思っちゃうんですよね。」

 

━━━━意外だな。と思ってしまったのは、流石に失礼だっただろうか?

コイツの事だから褒められれば舞い上がるかと思ったのだが……

 

「と、言いますと?英雄と言えばそれはそれは、誰もに信奉される━━━━偉大な存在では無いのですか?」

 

「だって、私が胸の歌を握れたのは私一人だけの力じゃないんですもん。だからきっと……英雄って呼ぶべきなのは、私達が手を繋げるように命を懸けて頑張ってくれた人達皆なんじゃないかなぁ……」

 

けれど、其処に続いた言葉は、確かにコイツらしいものだった。

 

「……オッサンとか、未来とか、それこそ共鳴のヤツみたいに頑張ってた連中って事か?」

 

━━━━その言葉には、確かに説得力というか……あたし等にとっては『そうだろうな』と思わせるなにかがあった。

確かにあたしもあの人(風鳴翼)も、コイツに全部預けて歌を歌った。けれど其処に到るまでの道程ではむしろ、ぶつかり合う事の方が多かったくらいだ。

 

「なるほど……自分達を支え、導いてくれた人こそが英雄だ、と……それが、貴方にとっての英雄像なのですね。」

 

「はい!!私にとっては、きっとそっちの方が性に合ってると思います!!」

 

「ハハハ、では。ボクも貴方にとっての英雄の一人になれるよう、貴方がたが護ってくれたこの杖を必ず役立てて見せましょう。」

 

「ふつつかなソロモンの杖ですが、よろしくお願いします!!」

 

「……頼んだからな。」

 

━━━━そうして、私達の任務は終了したのだ。

 

「……さて、無事に任務完了して万々歳ってとこだが……」

 

「うん!!この時間なら翼さんのステージにもギリギリ間に合いそう!!」

 

基地から空へとせわしくヘリが飛んで行くのを眺めながら、この後の予定を話し合う。

今日はクイーンズオブミュージックの当日。アメリカのヒットチャートを駆けあがったという歌姫とあの人の一夜限りのコンビ撃ちなのだ。

 

「二人が頑張ってくれたから、司令が東京までヘリを出してくれるそうよ?」

 

「マジっすか!?」

 

通信機で連絡を取っていた友里さんがくれた朗報に、目に見えて喜ぶ響。

━━━━だが、その喜びをも引き裂くかのように、基地が爆発した。

 

「……マジっすか……?」

 

「マジも大マジだ!!行くぞ!!」

 

「う、うん!!」

 

━━━━米軍基地内は治外法権だとか、そんな事を言っている場合じゃなさそうだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━クイーンズオブミュージック。

それは、私のエージェントを務める米国諜報機関が経営するダミーカンパニーが日本のエンペラーミュージックへと話を持ち掛けた、日米の歌姫が揃う一夜限りの特別ユニットライブだ。

 

けれど、合流しての事前リハーサルも殆ど無いという突貫ぶりから分かる通り……

日米合同ライブというお題目の聴こえこそいいものの、その実は日本が誇る歌姫である風鳴翼。彼女の正体が日本政府が秘匿するシンフォギア装者である事を全世界生中継の基で晒す為の罠だ。

 

進む会場設営をぼんやりと眺める私と美舟の基に入る一本の電話。それは、計画の進行を伝えるマムからの連絡だった。

 

『こちらの準備は完了。(サクリストS)が到着次第始められる手筈です。』

 

「……オーケイ、マム。覚悟は既に握っているわ。さぁ……世界最後のステージの幕を上げましょう。」

 

「マリア……」

 

「安心して、美舟。私はもう迷わないわ。だから……まずは、切歌達の為に持ち帰るケータリングの確保よ!!」

 

「うん!!お持ち帰り用のタッパーはバッグにいっぱい準備してきたよマリア!!」

 

━━━━腹が減ってはなんとやら。折角ここまでお膳立てしてもらっているのだから、充実したそのケータリングを人類救済の為に頑張らなければならない私達が貰ったとて必要経費の内に入るだろう。

 

美舟と共にケータリングへと突撃し、二人で周囲をよく観察する。自分の中での理論武装こそしているとはいえ、スターダムを駆けあがったアイドルがケータリングをタッパーに入れて持ち帰っているというのは外聞が悪い。

会場警備の人やケータリングのスタッフはプロであるから漏らす事も無かろうが、もしもパパラッチに見つかってしまえば大事だ。

 

「調にはもっとお肉が必要だし……切歌には色の濃い野菜を食べてもらわないといけないし……」

 

「マムはお肉大好き過ぎるし醤油掛けすぎだし……ここ等で醤油以外の味付けも覚えさせないといい加減高血圧の悪化が深刻だよ!!」

 

「どうしてうちの皆は好きな物しか食べないのかしらね……バランスよく食べてくれるのは美舟だけよ……」

 

あの人(・・・)に到っては『天才の頭脳には甘味が必要なんですよ!!』とか言ってお菓子しか食べないし……」

 

『はぁ……』

 

ケータリングを詰めながら、思う。

━━━━好き嫌い、ダメ、絶対。

 

「━━━━失礼、マリア・カデンツァヴナ・イヴさん……ですか?」

 

そうして愚痴り合っていたせいで油断してしまっていたのだろうか?

背後から近づいて来たその人物の気配にすら気づけなかったのは。

 

「━━━━ッ!?えぇ、そう……よ……?」

 

動揺も一瞬、歌姫の衣を纏って後ろを振り向けば、其処に居たのは一番出逢いたくない相手……

 

「私は、本日会場警備の責任者を務めさせていただきます天津共鳴です……えっと、大丈夫ですか?気分がすぐれないようでしたら……」

 

「……いえ、問題無いわ。随分と若い責任者さんだから、少し驚いただけ。大抵、こういう時の警備の人は外見的にも分かりやすくガードマンであると主張しているでしょう?」

 

「あぁ……そうですね。アメリカの方だと分かりやすく警護する場合が多いですからね。其方に慣れていると確かに驚くかも知れませんね。」

 

━━━━今日、この場で嵌める予定の相手の内の一人である男だった。




偶然は運命に変わるだろう。
けれど気づけず、手を伸ばす事も出来ねば、運命を手繰る事など出来はしない。

━━━━それは、不可避の擦れ違い。
━━━━けれど、不可逆の食い違い。

少年は少女の嘘に気づかず、遂に饗宴の幕は上がる。

━━━━まさに今宵、世界が一つになる為の。
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