戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

46 / 104
第四十三話 競演のラストナイト

「━━━━では、岩国ベース内部に突如出現したノイズは、響くんとクリスくんの活躍で排除された、と……」

 

二課仮設本部内にて、遠く山口から受けた連絡。それは不穏な空気を伴った物だった。

 

『……はい。事態はそれで収拾……米国側からの言質も取りましたので、米国基地内での行動に関しては今の所問題は無いかと。ですが……行方不明者の中に、ウェル博士の名前が。

 そして、ソロモンの杖もまた……保管ケースを放置していった事から、ケースに仕込まれた追跡装置について熟知している人物の仕業と考えられます。』

 

「そうか……わかった。まずはご苦労。響くん達と共に急ぎ帰投してくれ。今からでも急げばラストには間に合う筈だ。」

 

『わかりました。』

 

「……今回の襲撃、やはり何者かの手引きによる物なのでしょうか……」

 

「……わからん。断定できる事が何も無い、という状況だ。此処で決断を急いてしまえば、何か致命的な見落としをしてしまうやもしれん……警戒をするに越したことはないがな。」

 

……だがそれでも、急な話で決まった翼のステージに合わせたかのように計画されたソロモンの杖搬送計画。決して無関係では無いだろう……現地に居るメンバーにも連絡を入れておかねばなるまい……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「……ところで、不躾な質問だとは思うのですが……此方で何を?」

 

━━━━日米の歌姫が並び立つ一夜限りの祭典、クイーンズオブミュージック。その会場警備の責任者に俺が任命されたのは、エンペラーミュージック側からの要請であった。

翼ちゃんの正体を知る俺に警備を任せてもらえるのは此方としてもありがたい為に、二年前から都合が着く時には請け負っていた依頼なのだが……

やはり、米国の歌姫ともなると様々な警護を見て来たのだろうか。せいぜい高く見積もっても同年代にしか見えない警備責任者という事で驚かせてしまったようだ。

 

━━━━まぁ、それに向こうのSPの皆さんは軒並み190オーバーだからなぁ……180に届かない程度の俺と見比べれば体格は数段は違って見える事だろう。

そういった外見によって周囲を威圧する事で不用意な部外者の接近を防ぐのも要人警護においては重要なファクターであるのだが、如何せん俺では難しい部類の話である。

 

そんな風に意識の一部は逸れながらも、サングラスで覆った視線は周囲を観察し続け、会話も続ける。

今日のゲストの一人でもあるマリアさんがケータリングの前に居る事それ自体は不審な行動とは思い難いのだが……

 

「……え、えぇ。ライブの前に少し腹ごしらえをしておこうかとね?腹が減ってはなんとやら……日本のコトワザだったでしょう?」

 

「あぁ、そういえば時間的にもそろそろ昼時ですものね。ところで、そちらの方は……?」

 

「あ、はい!!ま、マリアのマネージャーをやらせてもらってます……美舟、と申します。」

 

━━━━何故か俺が声を掛けてからずっと俯いて居た彼女が顔を上げた時に感じたのは、強烈な既視感。

だが、その正体が思い出せない。

 

「……どうか、しましたか?」

 

「……あ、いや。知り合いに似ておりましたのでついつい考え込んでしまって……それでですね。先ほどから気になっていたのですが、美舟さんのお持ちのその保冷バッグは一体……?」

 

そう、美舟という少女。彼女が持っている巨大な保冷バッグ。それこそがここまで突っ込んだ質問を俺にさせる理由であった。

マネージャーだというなら確かに、マリアさんの水分補給などの為に保冷バッグを持ち歩く事は考えられるだろうが……その保冷バッグはむしろファミリーサイズ。

それこそ、冷凍食品をいっぱいに詰めて持ち帰るようなサイズの物であり、明らかに不審であった。

 

「……ッ!!」

 

「……えっと……その……」

 

━━━━それに対しての反応は劇的だった。あからさまに答えたくない、と言った感じだ。

最悪の場合、警備責任者として第三者立ち会いの基で中身を見せてもらう必要も……

 

「……ご、ごめんなさい!!私が悪いんです!!」

 

そんな風に段取りを考える俺の思考を破ったのは、深々と頭を下げる美舟さんだった。

 

「━━━━え?」

 

「その……マリアが孤児院出身だという事はご存知だと思います。それで、私も同じ孤児院に居たんです。だからこの歳でマネージャーの真似事をさせてもらってるんですけど……

 えっと……他にも、日本に遊びに来てる孤児院の家族が居るんです。だから、私がマリアに無理矢理頼み込んでケータリングの品を貰おうと思ってこんな保冷バッグまで持ち込んじゃったんです……

 マリアは悪くないんです!!」

 

━━━━あぁ、俺はなんて思い違いをしていたのだろうか。

こんな重い事情があったとも知らずに、賓客であるゲストのプライベートにまでくちばしを突っ込んでしまうだなんて!!

 

「……マリアさん。この度は私の浅慮でこのような詰問をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした!!」

 

だから、マリアさんへと精一杯の誠意を見せる為に頭を下げる。

 

「えっ!?……えーっと……ゴホン。いいえ、非礼を詫びるのは此方もよ。天津さん。事前の申請も無しに搬入予定も無い荷物を持ち込めば、警備責任者である貴方がそれを訝しむのは当然の帰結だわ。

 ……それで、もし良かったら。なのだけれども……此方のケータリング、持ち帰ってもよろしいかしら?殆ど事後承諾になってしまうのだけれども……」

 

「えぇ!!なんでしたら、オードブル形式のお持ち帰りパックも用意してもらってますので、そちらの予備もお渡しします。

 他のスタッフにも此方から話を通して置きますので、どうぞごゆっくり……」

 

ケータリングは基本的に現地に出向いて食事を供出するものだが、仕出し弁当に留まらなかった今回の現場では持ち帰り用のオードブルも準備されている。

そしてそれには、不良品が混じってしまった場合に備えての予備品も用意されているのだ。一流のケータリング故のアフターサービス、という奴だ。

 

「え、えぇ……ありがたく戴いておくわ……美舟、オードブルを貰ったらそのまま一度皆に渡して来なさいな。」

 

「あ、はい……えっと……おに……天津、さん。ありがとうございます!!」

 

「いえ、どういたしまして。」

 

何故か、美舟さんの笑顔に懐かしさを感じながら、俺はその違和感を言の葉に載せる事も無く、自らの仕事へと戻って行った。

 

 

 

━━━━今にして思えば……この時に『あの子』に気づいてあげられなかった事を、俺は一生悔やみ続けるだろう。たとえそれが、実現不可能な無理難題だったと分かっていても。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━なーんかキナ臭いんだよなぁ。」

 

「キナ臭い?なにが?」

 

奏の言葉に、思わず鸚鵡返しになってしまったのは、致し方ない事だろう。

クイーンズオブミュージックという大舞台。過度な緊張こそ無いが、昂る気持ちを抑えるこの高揚感を前にして何かを疑うという発想は今の私には無い。だからこそ、奏の疑問が耳に着いたのだ。

 

「んー……なんって言うかさ。アタシ達は二課の助けがあったから普通のアイドルとは言い難いけどさ。それでも、下積み時代とかあっただろ?

 それが、今日のお相手のマリア・カデンツァヴナ・イヴはデビューしてからまだ二ヶ月其処等ってんだろ?ライブ映像も見せてもらった事だし実力は疑って無いけど……」

 

━━━━なるほど。スターダムへと文字通り駆け上がってきた米国の歌姫。その存在そのものに奏はある種の『異端』さを感じている、という事のようだ。

 

「それは……確かにそうだけれども、アメリカの芸能事情は複雑だもの。向こうの場合は芸能事務所では無くエージェントによる直接の売り込みの実力主義の傾向が強いのだし、彼女の実力を考えればむしろ勝機を逃さず掴み取った。

 と思うべきでは無いかしら……」

 

言外に、流石に失礼であろう。という意を込めて奏を見つめる。実力を疑いこそしてはいないが、ライブを目前に控えた相手役を信頼しない。などというのは紛れもない不義理だからだ。

 

「うっ……ゴメンゴメン。ただ……用心しろよ、翼?マリアはひとまず棚上げしておいても、このライブ自体たったの一ヶ月前に決まった話なんだ。年末のシングル発売に合わせる為だって言っても、あんまりにも早急過ぎる。

 このライブにはきっと、何か別の思惑が関わっている……気がする。」

 

「ふふっ。まるで名探偵ね、奏ってば。分かったわ。十分用心して挑む事にする。」

 

……確かに、言われてみればそうではある。通常、ライブという物は大きな舞台であればあるほど、その準備に時間を掛ける物だ。

それこそ、全世界生中継ともなれば数ヶ月単位で演者のスケジュールに食い込む一大イベント。それが、たったの一ヶ月其処等で実施までこぎつけたのは偏にマリアを支援する米国側のエージェントの強い働きかけあってこそ。

であれば……それほどまでに強く、彼等はマリアを売り込みたいのだろうか?

 

━━━━控室のドアが力強く開け放たれたのは、ちょうどその時だった。

 

「邪魔するわよ。」

 

━━━━開いた其処には、純白のステージ衣装に身を包んだ桃色の髪の少女が居た。

ライブ映像で見た自信に溢れた姿。それはまさしく、今日のステージの共演者であるマリア・カデンツァヴナ・イヴその人だった。

 

「ッ!?」

 

緒川さんが驚くのも無理はないだろう。なにせ、時刻は既に午後の五時前。彼女のソロステージが始まるまでもう時間がないのだから、通常はこんなタイミングで飛び込んで来る事は無いだろう。

 

「今日はよろしく。せいぜい私の脚を引っ張らないように頑張ってちょうだい?」

 

高圧的な物言いだが、まぁ全米ヒットチャートを塗り替えた歌姫ともあれば当然であろう。むしろ、此処で低姿勢で来られる方が此方としても対処に困ってしまう。

 

「あぁ、一度幕が上がればそこは戦場。未熟な私を助けてくれるとありがたい。」

 

であるからこそ、返す言葉は虚勢では無く本心からの物。

歌を届けるステージの上という戦場において世界の舞台を戦う彼女は、私よりも高みに居る存在なのだから。

 

「フッ……続きはステージで。楽しみにしているわよ?」

 

━━━━伸ばした手は、取られる事も無く。

マリア・カデンツァヴナ・イヴは颯爽と風を切って去って行ってしまった。

 

「……凄い迫力でしたね。流石はアメリカを席捲するトップアーティスト、と言ったところでしょうか?」

 

「……アレが、マリア・カデンツァヴナ・イヴ……」

 

「……なるほどなぁ……」

 

「第一印象、いかがでしたか?」

 

緒川さんの問いに、少し考え込む。確かに、一見しただけでは高圧的で威圧的に見えた態度だが……なんだか、それは本質では無いような気がしたのだ。

 

「……かわいいタイプ、かな?」

 

「……そうだな。アタシもそう思う。」

 

「え?可愛い?今のがですか?……なんだか感触が違うような……」

 

緒川さんの言う事も尤もだ。あの態度そのもので見れば、其方の方向性で受け取る方が無難であろう。けれど……

 

「彼女はそう……散らかった部屋を片付けられずにべそをかいているような……手は掛かるけど可愛いタイプに違いない。そう、私の直観が告げているのです。」

 

「まるで抱え込んでる時の翼みたいだったな~?」

 

「ちょっと、奏!!」

 

奏のおちょくるような指摘に思い当たる節が無いワケでは無い。それ故にどうしても、照れの混じった反応しか返せなくなってしまう。

 

「なるほど……なら似た者同士、という事で……このライブを通じてもっと仲良くなれるといいですね。」

 

「歌で、世界を平和に……か。うん。今日のステージを終えた時にはきっと、もっと彼女と近づけているといいな。」

 

「んじゃ、アタシは特等(VIP)席でそれを見届けてやるからさ。頑張れよ、翼。」

 

「えぇ!!」

 

観客席へと戻る為に、共鳴と共に席を外していた鳴弥さんへと緒川さんが連絡するのを見ながら、私は鏡の中の自分を見つめる。

……何故だろうか、彼女(マリア)はどこか無理をしているように見えた。だから、ふと思う。

 

━━━━私は、どうなのだろうか?無理をしてしまってはいないだろうか?と。

 

だが、その自問への自答は簡単だな。と零れるのは苦笑一つ。

歌女である私も噓偽りでは無い本当の私の一つなのだと、共鳴くんが教えてくれたのだから。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

『この盛り上がりは皆さんにも届いていますでしょうか!!

 世界各地の主要都市生中継されているトップアーティスト二人による夢の祭典!!

 今この時も、世界の歌姫マリアのスペシャルステージに会場の盛り上がりも最高潮となっています!!』

 

━━━━時刻は日没も迫る夕暮れの十七時十五分頃。急ピッチで準備が為された為に問題が発生するかと思われていたクイーンズオブミュージックだが、その予想に反してライブは順調に進んでいた。

 

「ふぅ……」

 

一番の危険が予想された入場の列整理が滞りなく済んだ事にホッと一息を吐きながらバックヤードを歩く。

しかし……先ほど感じた違和感はなんだったのだろうか?事前にライブ映像で顔を知っていたマリアさんはともかく、美舟というあの少女を見た事があるとは思えないのだが……

 

「……ん?」

 

そんな思考を断ち切るように鳴り響くのは携帯端末の呼び出し音。

 

「はい、共鳴です。」

 

『共鳴くんか。仕事中に悪いな。』

 

「いいえ、今はちょうど観客の誘導も終わってヒマでしたので。それで、一体どういう要件で?」

 

『……ソロモンの杖が、何者かによって強奪された。』

 

「━━━━ッ!?」

 

司令が寄越してくれたその通信は、肝を冷やさせるに足る情報を(もたら)した。

 

『下手人は不明だ。だが、輸送途中にもノイズによる襲撃があった。決して、無関係な事象とは言えんだろう……』

 

「この事は、翼ちゃんには?」

 

『ハハッ!!緒川も同じ心配をしていたぞ?ノイズの襲撃と聴けば、翼はこの大舞台からすら跳び出しかねん。今の所は黙ってもらっている。』

 

「……分かりました。此方の方でも警戒をしておきます。ところで、響達は?」

 

『ノイズ襲撃の後始末で時間が取られてな……到着予定がこの後十九時過ぎになってしまいそうだ。それでも、最悪でも打ち上げには間に合わせてやりたい。すまんが、到着したら誘導してもらえるか?』

 

「えぇ。此方としても望む所です。それでは。」

 

━━━━なにか、喩え様の無い違和感が背中を伝っていく感触がある。

 

「……なんだ?俺は一体……何を見落としている……?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

            ━━━━Dark Oblivion━━━━

 

「おおーッ!!さっすがは世界の歌姫、マリア・カデンツァヴナ・イヴ!!

 やーっぱ生の迫力は違うねー!!」

 

「全米チャートに登場してまだ数ヶ月なのに、この貫禄はナイスです!!」

 

「ホントね~。こんな素晴らしいライブを特等席で見せてもらえるなんて嬉しいわ~。」

 

「いやー……今度の学祭での『アニメ研究会』発足の為の出し物の参考にでもなれば……なんて思ってたけど、流石にコレは真似できそうにないわ!!」

 

「流石にそれは無理がありますよ板場さん……」

 

「そうね~。むしろ二課の皆さんに名義貸しをしてもらってでもメンバーを五人揃えた方が早いんじゃないかしら~。」

 

「尼ケ瀬先輩までそんなぁ!!響達じゃ今日みたいに忙しくて参加できない日がいっぱい出ちゃうじゃないですか!!

 アニメがホントに好きならともかく、そうでも無い子から名義貸ししてもらうなんて……非実在青少年のカッコよさを信奉するアタシのプライドが許しませんッ!!」

 

「おぉ~、弓美ちゃんってば燃えてる~。私もそういう頑張りは大好きよ~?」

 

アニメ研究会の会員候補だという、一つ上の尼ケ瀬天音(あまがせあまね)先輩と盛り上がる板場さんを横目に見ながらも、私の意識は素晴らしいステージの演出では無く、手元の時計を注視してしまう。

 

━━━━時刻は、十七時三十分。

 

「……ビッキーからまだ連絡来ないの?もうメインイベント始まっちゃうよ?」

 

「うん……」

 

「あはは……ゴメンな、未来。コッチの事情は時を選べないからさ……」

 

隣に座る奏さんの言葉に頭では納得できるけれど、やっぱり心では納得しきれない自分が居る。

響がお兄ちゃんと同じく命を懸けて戦う事。それは、響が選んだ道なのにな……

 

「せっかく風鳴さん達が招待してくださったのに、今夜限りの特別ユニットを見逃すだなんて……」

 

「期待を裏切らないわね、あの子ったら!!」

 

「━━━━あら、そろそろ始まるみたいね~?」

 

会場が場面転換の為に暗くなると同時に聴こえた尼ケ瀬先輩の言葉に、私の意識は現実に引き戻される。

そうだ、響と一緒に見られないとしても、今日はせめて響に楽しかったライブの記憶を伝えなきゃ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━遂に、その時は来た。

欠けた月が照らす夜空の下に、天女の如き歌姫二人が並び立つ。

 

「━━━━見せてもらうわよ。戦場に冴える抜き身の貴方を!!」

 

マリアさんのその言葉は、共に立つ翼ちゃんに向けての物だろう。

……ひょっとして、言語センスが似ているのだろうか?等と一瞬逸れる思考すら呑み込む、圧倒的なパフォーマンス。

 

『さぁ、始めよう━━━━!!』

 

バックスクリーンに大きく映えるカウントダウン。

それが何を示すのかは、観客の盛大なコールが教えてくれる。

 

「……やっぱり、綺麗だな。」

 

その熱狂を裏方の通路入り口から覗きながら、思う。

二年前のライブ以来、仕事の都合が合う時はこうやって翼ちゃんのライブの会場警備を行ってきたが……

ここ数ヶ月は翼ちゃんの復帰の為のリハビリや、俺の出席日数が前回の一件で酷い事になってしまっていた為に、中々スケジュールが合わなかったのだ。

 

だから、舞台の上で輝く翼ちゃんを見るのは半年ぶりくらいだろうか?その時に比べても、やはり翼ちゃんは綺麗になった。

それに何より、何か吹っ切れた事でもあったのか、その表現に迷いが無くなっている事が感じられる。

━━━━あの日のように、その姿は天女のようだ。なんて言ったら、やっぱり本人からは流石に恥ずかしいと怒られてしまうだろうか?

 

そんな中で、ステージは最高潮の最高潮。まさにその熱狂へと文字通りの点火をする場面へと移行しようとしていた。

 

━━━━Ignition……!!

 

ステージに火柱が上がり、その中を翼ちゃんとマリアさんが駆け抜ける。だが、計算されたその火柱は(すべか)らく真っ直ぐに昇り、そして火の粉を撒いて落ちる。

 

『━━━━アリーナ席西側、演出による怪我人無し!!』

 

「了解、アリーナ席東側も異常なし。ご苦労、突貫工事を完璧に仕上げた演出班に感謝だな。」

 

━━━━制御された焔、爆炎という物は、花火を思えば分かる通り、見る分には興奮を煽る素晴らしい演出だ。

だが、それは制御を離れれば一瞬にして総てを焼き尽くす劫火と化す……それ故、演出だと分かってはいても、計算された物であっても、会場警備としては気が抜けないモノなのだ。

 

「……この調子なら、最後まで問題は起きなそうかな……?」

 

違和感は未だ拭い去れない。だが、少なくともライブ中に何かが起きる事は無いようだ。

ステージがクライマックスへと高まって行くのを見ながら、俺はホッと一息を吐く。

 

「……そういえば、響達はまだ着かないのか。貧乏籤引かせちゃったかな……」

 

楽しみにしていたライブに、急用で参加出来なくなる……だなんて。まるで二年前の再現だ。

だから、本当は代わってやりたかったのだが……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━ありがとう、皆!!

 私はいつも、皆からたくさんの勇気を分けてもらっている……

 だから今日は、私の歌を聴いてくれる人達に少しでも同じ勇気を分けてあげられたらと思っている!!」

 

全てを出し切って歌を歌う。その心地よい感触を噛みしめながら、中継されている世界の総てへと、私は万感の思いを告げる。

私の歌を待ってくれている人が、この世界には多く居る。トニー・グレイザー氏が教えてくれたその希望は、私に強く焼き付いている。

 

━━━━あぁ、もしも。ノイズの災禍が世界から消えたなら……世界を舞台に、私は歌ってみたいな。

 

「私の歌を全部!!世界中にくれてあげるッ!!

 振り返らない。全力疾走だッ!!

 ━━━━付いてこれる奴だけ付いて来いッ!!」

 

それを思うのは、世界を舞台に羽撃(はばた)く彼女を見たからだ。

その輝きを、美しいと思ったからなのだ。

 

「今日のライブに参加出来た事を感謝している。

 そして、この大舞台にて日本のトップアーティスト、風鳴翼とユニットを組み、歌えた事を。」

 

「あぁ。私も、素晴らしいアーティストと巡り合えたことを光栄に思う。」

 

伸ばした手は、先ほどの控室とは異なってガッシリと受け止められる。

 

「━━━━私達は世界に伝えていかなきゃね。歌には力があるって事を。」

 

「あぁ!!それは、世界を変えて行ける力だ。」

 

「えぇ……世界を変えて行ける力だからこそ……ッ!!」

 

━━━━マリアがスカートを翻した瞬間だった。

ノイズが、ステージ周辺へと姿を現したのは。

 

「……ッ!?」

 

呆気にとられるのは一瞬だけ。なぜならば、次の瞬間には観客がパニックを起こして居たからだ。

その狂乱が呼び起こすのは、二年前の記憶……コレでは、まるでその再現では無いか……!!

 

「いやァ!!」

 

「逃げろォ!!」

 

「……クッ!!

 ━━━━うろたえるなッ!!」

 

━━━━だが、その狂乱は、会場中に響き渡る一喝にて鎮められる。

その仕手は、壇上に立つ白い少女。マリア・カデンツァヴナ・イヴその人だった……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「あ、アニメじゃないのよ……?」

 

「なんでまた、こんな事に……あまあま先輩?」

 

VIP席の周りにまでノイズが現れる事は無かった。だがそれでも、目の前にノイズが居るという恐怖は、依然変わる事は無かった。

けれどそれ以上に劇的だったのは尼ケ瀬先輩の反応だった。

いつもおっとりとしている尼ケ瀬先輩が、頭を抱えて震えている。

 

「イヤ……イヤぁ……!!二年前と同じ……ノイズが、皆無くしてしまう……!!」

 

━━━━その言葉で、気付く。先輩は、二年前のライブ会場に居た人なんだって。

あぁ、ならきっと同じなんだ。あの時と……!!

 

「……大丈夫。大丈夫さ、天音ちゃん。翼だって、あの頃より強くなった。トモだって、あの頃より強くなった。

 それに……アタシだって生きて此処に居るんだ。だから、大丈夫。」

 

「……ぁ……はい。あ、ありがとうございます。奏さん……」

 

そんな尼ケ瀬先輩を落ち着かせたのは奏さんの言葉だった。

けれど、状況が好転したワケでは無い。このままでは、待っているのは大惨事だ……

 

「響……」

 

━━━━キミに楽しい想い出を伝えたかったのに。どうして世界は斯くも残酷なのだろう?

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━ノイズは、微動だにせず。

操られている?ならば、緒川さんが隠したがっていたのは恐らくこの事だろうか……

 

衣装の一部であるスカーフを外し、ギアペンダントを繰り出しながら思考は巡る。

 

「……怖い子ね。この状況にあっても私に飛び掛かる機をうかがっているなんて。

 でも逸らないの。オーディエンス達がノイズの攻撃を防げると思って?」

 

「くっ……!!」

 

マイクを逸らしながら、マリアが私にだけ告げてくる言葉は、業腹ながら事実だ。

あまりにも護るべき人質が多すぎる。この状況では、私一人では彼等を護り切る事は難しい。

 

「それに……ライブの模様は全世界生中継の真っ最中。

 日本政府はシンフォギアについての概要を公開はしていても、その装者が何者なのかについては秘匿しているのでは無かったかしら?

 ━━━━ね?風鳴翼さん。」

 

彼女の言は、この状況が、クイーンズオブミュージックというライブそのものが彼女達の思惑に沿って動いている事を示していた。

 

「……甘く見ないでもらいたい。そうとでも言えば、私が鞘走る事を躊躇うとでもッ!?」

 

確かに、状況は悪い。最悪と言っていいだろう。私が動けば日本はその立場を悪化させる。だが、それでも……目の前で零れ落ちるかもしれない命を、許容など出来るものか!!

 

「……フッ。貴方のそういう所、嫌いじゃないわ。貴方のように誰もが誰かを護る為に戦えたなら……

 世界は、滅びなかったかも知れない。」

 

━━━━世界が、滅ぶ?

 

「なん……だと……?マリア・カデンツァヴナ・イヴ……貴様は、一体……?」

 

「━━━━そうね。そろそろ頃合いでしょう。

 私達は、このノイズを操る力を以てして、この星の総ての国家に要求するッ!!」

 

「━━━━世界を敵に回しての口上ッ!?

 コレではまるで……!!」

 

━━━━宣戦布告。

脳裏をよぎるはその言葉。幾らノイズを操る事が出来るとはいえ、それだけで世界を敵に回せるワケでは無い。フィーネとて、米国と通じる等の策を重ねていたのだ。だというのに、何故……?

 

「フッ……だがどうやって?と思う者も多かろう。だからこそ、今此処に証を立てよう。ハッ!!」

 

宣言と同時に、マイクを宙へと投げ上げるマリア。

 

「何をッ!?」

 

「━━━━Granzizel bilfen gungnir zizzl(溢れはじめる秘めた熱情)

 

━━━━それは、力を秘めた詠唱。

 

「聖詠だと!?まさか……ッ!?」

 

その歌詞に、私は覚えがある。細部こそ異なるが、私が幾たびも幾たびも隣に立ち、聞き届けたその言葉。

 

━━━━次の瞬間、マリアの色は純白から漆黒へと変わっていた。

その両手には機械腕(ギアアーム)が、その背には夜闇の如き表地のマントが。

それはまさしく、シンフォギアだった。

 

「黒い、ガングニール……」

 

「私は、私達はフィーネ……終わりの名を持つ者だッ!!」

 

 




━━━━その宣言こそ、終わりの始まり。
欠けた月が照らす夜の下、少女は世界へ、そして自らの飼い主へすらも否を突きつける。
譲れない願いを握って、苛烈なる槍は此処に立つ。

だが、その大望で傷つく誰かを容認出来ない者とて、此処に居る。
その正体を仮面に隠し、少年は今、舞台に立つ。

━━━━颯爽登場。その名は……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。