戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第四十五話 三重のスパーブソング

「翼さん……良かったぁ……」

 

マリアさんに蹴り飛ばされてノイズの只中へと落ちて行く姿を見た時には思わず肝が冷えてしまったが、お兄ちゃんが飛び出して救い出してくれたのを中継越しに見て思わずホッとする。

 

━━━━だが、その直後に中継画面が切り替わってしまう。

画面に浮かぶのは『NO SIGNAL』の文字ばかり。こんな時に放送事故?

 

「えぇーッ!?なんで!?翼さんはこの後どうなっちゃうの!?」

 

「現場との中継が遮断された!?」

 

「って事は……こっからは二人の反撃ってこったな……!!なぁ、あたし等はどれくらいで着けそうなんだ?」

 

けれど、あおいさんやクリスちゃんはなんだか事態がよく分かってるようで、私を置いてけぼりに二人だけで会話を続けて行ってしまう。

 

「え?」

 

「後五分って所よ。間を置かずの三連戦になるけれど……」

 

「え?」

 

「構いやしねぇ。むしろ望むところだッ!!」

 

「えー!?誰か説明してよー!!」

 

「だーッ!!めんどくせぇな!!会場からの全世界中継が遮断されたって事は、あの人が歌ったってもうどこにもバレやしないってこった!!」

 

━━━━なるほど。翼さんが歌っても大丈夫になったのか。

それなら一安心だ。

 

「……ヤッター!!」

 

「うっせぇな今度は!?」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━中継は遮断したという緒川さんの言葉を受け、翼ちゃんと二人で頷きあい、モニターから飛び降りる。

今回は俺が加速して先行し、翼ちゃんが後に続く形となる。

 

「━━━━Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

 

聖詠と共に纏ったアメノハバキリの放つフォニックゲインを受けてレゾナンスギアが更に震えを増す。

……マリアのフォニックゲインよりも翼ちゃんのフォニックゲインの方が量として多いという事か?もしくは、レゾナンスギアの共振にも聖遺物同士の相性というのが存在するのだろうか?

一瞬頭に過った疑問を即座に棄却し、伸ばした糸で着地地点周辺のノイズ達を切り裂く。

 

「一つ目の太、刀ッ!!」

 

                ━━━━蒼ノ一閃━━━━

 

そうして空いたスペースに降り立つよりも早く、まさに最速なる翼ちゃんの一閃が会場西側のノイズを割断する。

 

「共鳴ッ!!」

 

「あぁ!!」

 

交わす言葉は一つだけ。それだけで事足りる。

地へと手を突き、天地を逆にして舞う翼ちゃんの回転半径の外側を繰り出した糸にて切り裂いて行く。

 

「二つ目の太刀ッ!!」

 

               ━━━━逆羅刹━━━━

 

               ━━━━輪舞曲(ワルツ)━━━━

 

「翼ちゃん!!まずはノイズを!!」

 

「分かっている!!」

 

フィーネを名乗ったマリアの手によって展開されたアリーナ内のノイズ達。制御されているらしきとはいえ、いつ先ほどのように突撃してくるか分からない。

それ故に、翼ちゃんと息を合わせ、意を合わせてまずはそちらのノイズ達を殲滅に掛かる。

 

               ━━━━千ノ落涙━━━━

 

               ━━━━謝肉祭(カーニバル)━━━━

 

フォニックゲインを固着させた剣が涙雨となって降り注ぎ、紡がれた糸が手の内から散弾のように一気に解き放たれる事で、次々と打ち砕かれるノイズ達。

 

「ハッ!!」

 

━━━━そして、俺と翼ちゃんは再びステージへと降り立つ。

 

「……フッ。」

 

それを見ても尚、マリアの口元には挑発的な笑みが浮かぶ。

 

「……どうして!!」

 

━━━━思わず、口に出してしまっていた。

何故、どうして?こんな事を?あの時の言葉は嘘だったのか?

何から問えばいいのかが分からない。

中継が途切れた以上、此処に居るのはレゾナンスギアの使い手では無くただ一人の天津共鳴。それが故に零れてしまった問いだった。

 

「……どうして?愚問だな。言った筈だぞ……私達はフィーネ、終わりの名を持つ者だとッ!!故に私達は決起したのだッ!!」

 

「……共鳴。何があったかは知らぬ。だがまずは彼女を無力化し……その後にゆっくりと問いただせばいい。」

 

けんもほろろなマリアの言葉に対する翼ちゃんの言葉は、蓋し正論だ。ここで感情にあかせた押し問答を繰り返すよりも余程建設的というものだろう。

 

「……分かった。」

 

「━━━━ならばいざ、推して参るッ!!」

 

その言葉と共に真っ直ぐに、本当に真っ直ぐなまでに突っ込む翼ちゃんの姿が眩しく見える。だが、彼女にばかり任せてはいられない。

真っ直ぐな翼ちゃんの一刀をマントにていなすマリアの隙を狙う為に後方から繰り出す糸にて援護する。

 

━━━━だが、マリアはその上を行ったのだ。文字通りに。

 

「ハッ!!」

 

「んな……ッ!?」

 

後方宙返りに捻りを加える事で翻るマントをマリアは振り回す。たったそれだけの動作で翼ちゃんを刀ごと弾き、同時に俺が敷いた糸の包囲網すら弾き飛ばす。

 

「巧い……ッ!!」

 

「この力……やはり偽物では無い、という事か……ッ!!」

 

「ようやくお墨を付けてもらった。そう、コレが私のガングニール!!何者をも貫く無双の一振りッ!!」

 

「だからとて、私が引き下がる道理などありはしないッ!!」

 

「クッ……!!」

 

距離を置いての俺達の感嘆に応えながら、今度はマリアが攻め手となる。あのマントこそがマリアのアームドギアなのだろうか?

その大ぶりな一撃は受け止めに回ったレゾナンスギアを一瞬で吹き飛ばし、翼ちゃんのアメノハバキリと鍔競り合う。

その違いを引き起こしたのは単純な一つの相違点。武器としての質量が違い過ぎるのだ。俺のレゾナンスギアの利点でもあり欠点である『軽さ』が此処に来てマリアのマントとの打ち合いに影を落とす。

 

━━━━だが、それがどうした。

 

相性が悪いから出来ぬ事が何も無いなどという事は無い。特に、このレゾナンスギアにおいては。

 

「翼ちゃんッ!!」

 

掛ける一声と共に、マントを纏って回転しながら迫るマリアに対してでは無く、翼ちゃんのギアの放熱部へと糸を伸ばす。

シンフォギアは歌によってフォニックゲインを形成し、しかして人と聖遺物の埋められぬ差異故に反動を産み出し、余剰熱量として放出する。

━━━━レゾナンスギアはそれを逆手に取る。余剰熱量が発生するというのなら、それを使えるようにしてやればいい(・・・・・・・・・・・・・・・・)

反動除去と同時にアウフヴァッヘン波形の発生へと干渉、共振(レゾナンス)し、調律(チューニング)する事でシンフォギアの運用を効率化する特異戦術。

同調効果(シンクロン・エフェクト)』と名付けられたこの戦術は、俺が調律に集中せねばならない事、また、糸によって直接繋がらなければならない都合で使用者が大きく動く場合に息を合わせる必要がある事から対多数戦では使いづらい戦法だ。

だが、今回のようにたった一人を相手にするのであれば問題はない……ッ!!

 

同調によって瞬間的に上がった翼ちゃんの出力、そして何故か同時に動揺を顔に浮かべたマリア。その一瞬が勝機を産む。

 

「私達を相手に気を取られるとはなッ!!行くぞ、共鳴ッ!!」

 

「あぁ!!」

 

翼ちゃんが動き出す気配を察知して同調を解除し、翼ちゃんがギアから取り出したもう一本の刀を手に持っていた刀と共に合体させて一種の対剣と成すのを見届ける。

そして同時に俺はステージ後方のモニターを足場に緒川さん直伝の壁走りにて駆け上がり、宙へと跳び出してマリアの上へと陣取る。

翼ちゃんもまた、片手で握りしめ、振り翳す対剣の回転に緒川さん直伝の火遁忍術を加え、ギアに追加された脚部バーニアを噴かせてマリアへと迫る。

 

                ━━━━風輪火斬━━━━

 

「くっ!?」

 

「後の話はベッドで聴かせてもらうッ!!」

 

風輪火斬は一撃のみならず、連続で繰り出される高速機動斬撃。マントにて一撃目を受け止めながらも体勢を崩したマリアを上空と真横から挟撃する……

 

━━━━その瞬間、歌が聴こえた。

 

「ッ!?」

 

「翼ちゃん!!」

 

翼ちゃんもその乱入者に気づき、風輪火斬を両手で回して迎撃に当たる。

 

「それではガラ空きだぞッ!!」

 

「……ガ、ハッ!?」

 

だが、それ故に必殺を期した挟撃は崩れ去り、俺は空中で無防備なままにマリアから迎撃される形となる。

振り抜かれるマントを咄嗟に防御こそしたものの、俺は大きく弾かれ、ステージの端まで飛ばされてしまう。

 

「━━━━首を傾げて……」

 

                ━━━━α式 百輪廻━━━━

 

「━━━━行くデス!!」

 

                ━━━━切・呪リeッTぉ━━━━

 

歌を纏った乱入者、それは新たな装者二人だった。

アリーナの外側から滑り降りてくる少女達。展開したギアから大量の円盤を射出する桃色の少女と、手にした鎌状のアームドギアから分裂した二枚刃を投擲する緑色の少女。

 

「あぁッ!?」

 

「翼ちゃん!!」

 

円盤の射出こそ受け止めたものの、左右から迫る二枚刃の挟撃まで手を回せず、俺と同じくステージの端へと吹き飛ばされる翼ちゃん。

 

「……危機一発。」

 

「まさに間一髪だったデスよ!!」

 

「クッ……装者が、三人……!?」

 

俺と翼ちゃんを見下ろすように、三人の装者が並ぶ。

そうして並ぶ事で気付くのは、ギアの色だ。二課に所属する装者達は四人とも、自らを表す色と共に白を基調としたギアを纏う。それに対して、彼女達のギアの基調は黒。

其処に意味があるのかは分からない。けれど、強く目につく特徴だった。

 

「━━━━調と切歌に救われなくても、貴方達程度に後れを取る私では無いんだけどね。」

 

高飛車に、それこそ支配者でも気取るかのような物言いをしながらマリアが近づいて来る。だが……

 

「貴様みたいなのはそうやって……見下ろしてばかりだから勝機を見逃す!!」

 

━━━━翼ちゃんのその言葉は、空を見上げたからこその物だった。

 

「━━━━上かッ!?」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「土砂降りの、十億連発!!」

 

                ━━━━BILLION MAIDEN━━━━

 

クリスちゃんのいつものガトリングは、翼さんをの前に集まった三人を散らばらせて仕切り直す為の物。

だが、避けた左右の二人に対してマリアさんだけは異なる手を打った。それは即ち、背負ったマントによる防御という一手。

 

「クッ!!」

 

「おおおおッ!!」

 

━━━━だから、私がそれをこじ開ける。

握った拳を振りかぶり、マントの中心を打ち貫こうとする。だが当然、そんな大振りは避けられてしまう。今はとにかくそれでいい。

 

「はッ!!」

 

しかし、マリアさんもタダ避けただけでは終わらない。翻すマントによる反撃で私を捉えようとする。

だから、マントを避けつつも翼さんとお兄ちゃんの間に飛び込んで二人を救い出す。

アリーナを仕切る柵の前まで飛んで来て、振り向けばそこには再び集った三人の装者の姿。

 

「━━━━やめようよ、こんな戦い!!今日出逢った私達が争う理由なんて無いよ!!」

 

━━━━どうしても、そう思ってしまう。

 

「ッ!!そんな綺麗事をッ!!」

 

━━━━けれど、私の言葉は届かない。

 

「綺麗事で戦う奴の言う事なんか信じられるものかデス!!」

 

━━━━綺麗事、なのだろうか。私が握るこの想いは。

 

「そんな……話せばわかり合えるよ。戦う必要なんか……」

 

「━━━━偽善者。」

 

━━━━きっとそれが分からないから、その言葉を受けて心が痛むのだ。

 

「う……ぁ……」

 

「━━━━この世界には、貴方のような偽善者が多すぎる……!!」

 

桃色のギアの少女は叫ぶ。だからそんな世界は伐り刻んであげましょう、と。

━━━━その叫びの悲痛さに、私の拳は躊躇いを見せてしまう。

 

「━━━━それが、どうしたァ!!」

 

━━━━けれど、そうして少女が飛ばして来た多数の円盤は、その全てが私を庇ったお兄ちゃんによって弾かれる。

 

「……立花ッ!!今はまず彼女達を止める事に専念しろッ!!」

 

翼さんの言葉と共に火蓋は切って落とされる。クリスちゃんのガトリングが火を噴き、向かいの三人は散開してそれぞれが此方へと向かってくる。

 

「クッ……!!近すぎんだよ!!」

 

「この距離なら弾幕は張れないデスよねッ!!」

 

「ハァッ!!」

 

「フッ!!その程度か、風鳴翼ッ!!天津共鳴ッ!!」

 

「嘗めるなッ!!」

 

緑色のギアの少女はクリスちゃんの弾幕を止める為にその懐に飛び込み、マリアさんはお兄ちゃんと翼さんをマントにて翻弄する。

そして、私に向かって滑り込んで来る桃色のギアの少女。そのギアの形状は特徴的で、まるでもう一対の腕のように変形したアームドギアから形成された巨大な丸鋸が二個。

それぞれが独立して動いて襲い掛かってくる。

 

「私は、困ってる皆を助けたいだけで……だからッ!!」

 

「━━━━それこそが偽善ッ!!」

 

━━━━断言されてしまう。私の想いは、私が握る物は間違っているのだと。

 

「痛みを知らない貴方に、『誰かの為』なんて言って欲しくないッ!!」

 

                 ━━━━γ式 卍火車━━━━

 

その言葉と共に、二つの丸鋸が切り離されて飛ばされてくる。それが当たれば痛いって分かってる。

けれど、真っ向からしたい事を否定された私の身体は、全く思うようには動いてくれなくて。

……あぁ、また痛い想いをするんだな。なんて、冷めた思考だけが頭の中をくるくると空回りする。

 

「━━━━ッガァァァァ!!」

 

━━━━けれど、その回転は私に届く前に受け止められる。

間に飛び込んで来たお兄ちゃんが、素手で丸鋸を食い止めてくれたのだ。だが、それが無茶である事は誰の眼にも明らかで……受け止めた掌から滴り落ちる血が、その代償を物語っていた。

 

「お兄ちゃん!?血が……!!」

 

「━━━━へいき、へっちゃらだ!!

 ……ガ、アアアアアアアア!!フンッ!!」

 

強く、力強い声で私の心配を殴り飛ばしてくれたお兄ちゃんは、そのままの勢いで左右の手で受け止めた丸鋸を握りつぶす。

そして、桃色のギアの少女へと叫びを返す。

 

「……誰かの為と拳を握るのは、ただの偽善からなんかじゃない!!たとえ自分は傷つけられていなくとも、其処から目を逸らしてしまえば、心が痛む……それは時に、一生痛みを放ち続けるんだよ……ッ!!」

 

「……分かった風なクチをッ!!私達の痛みなんて知らないクセにッ!!」

 

「何も言ってもらわなきゃ分からないからこそ、手を伸ばして話し合おうとするんだ!!俺達はッ!!立花響はッ!!」

 

━━━━お兄ちゃんの返すその言葉に、私は思わず俯いて居た顔を上げる。

そうだ。私は……私が握るこの手は……ッ!!

 

━━━━ステージの上で光が爆発したのは、その瞬間だった。

緑色の光……そういえば、ソロモンの杖もあんな色の光を放っていたような気がする。

その光の中から出てくるのは、超巨大な緑色のノイズ。

 

「うわぁ……何?あのデッカイイボイボ……」

 

「増殖分裂タイプ……」

 

「こんなの使うなんて、聞いてないデスよ!?」

 

向こうのメンバーにとってもこのノイズの出現は想定外だったらしく、戸惑う気配が伝わってくる。

 

「……わかったわ。」

 

そんな風に浮足立つ中で真っ先に動き出したのはマリアさんだった。

両の腕に付いたパーツを合体させ、槍の形をしたアームドギアをその手に握る。

━━━━そういえば、奏さんのアームドギアもかつてはああいう形式だったと、翼さんから聞いたことがある。

 

「アームドギア……やはり、温存していたというのかッ!?」

 

翼さんの声を受けても、マリアさんは何も答えない。

ただその手に握った槍を翳し……ノイズへと向かって、溜め込んだ光を解き放つ。

 

                 ━━━━HORIZON†SPEAR━━━━

 

「おいおい、自分らで出したノイズだろ!?」

 

クリスちゃんの疑問も尤もで、先ほど出て来たばかりなのに超大型ノイズはボロボロと肉片をバラ撒いて今にも崩れてしまいそう。

しかも、そんな事をしておきながら三人はさっさと会場から逃げ出して行ってしまう。

 

「ここで撤退だと!?」

 

「折角温まって来たのに尻尾を巻くのかよ!!」

 

━━━━そこで、周囲を見渡してようやく気付く。

 

「あっ!?ノイズが!!」

 

超大型ノイズが撒き散らしていた肉片は、ただの肉片では無かったのだ!!

うぞうぞと気味悪く蠢く姿こそその証。まるでアメーバのようにくっ付こうとアリーナ中の肉片が動き始めていた……!!

 

「ハァッ!!」

 

「セイヤーッ!!」

 

翼さんとお兄ちゃんが切り裂くも、切り裂かれたノイズはむしろ増えてしまったようにも見える。

 

「なるほどな……先ほどの言の通り、コイツの特性は増殖分裂……」

 

「放っておいたら際限無いってワケか……このままじゃ、此処からあふれ出すぞ!!」

 

『皆さん、聴こえますか?此方でも状況は確認しています。ですが、会場のすぐ外にはまだ避難したばかりの観客達が居ます!!

 そこからノイズを出すワケには……』

 

「観客が!?」

 

「……本来は会場を出る予定も無かった十万人の避難誘導。生半可に終わるとは思っていなかったが……」

 

━━━━みんなが、まだ近くに居る。

それを想った瞬間に脳裏を過る記憶があった。それは、二年前の事。

誰もが生きたいと願ったのに、それ故に憎悪と不和の渦に巻き込まれてしまった。あの日。

 

「しかし、迂闊な攻撃では吸収されて増殖と分裂を促進するだけ……」

 

「かといってタワーの時みたく溜めてぶっ放すには時間が足りねぇ!!押し留めるよりも先に会場から出て行っちまう!!」

 

「……お兄ちゃん。レゾナンスギアの改修って終わったんだったよね?」

 

「━━━━あぁ。S2CA・トライバースト。今度こそ、俺が全部受け止めてやる。」

 

「……なるほど、あの威力なら間違いねぇな。共鳴、後ろ任せたぜ?」

 

「増殖・分裂を上回る破壊力の一撃による即時殲滅。立花らしいが、理に適っている。」

 

「あぁ、任せてくれ。

 ……遂に、コイツを使う時が来たか。」

 

そう言ってお兄ちゃんがギアの内部から取り出すのは、ギアペンダント状に加工された聖遺物。その名は、雷神の鼓枹(つづみばち)

師匠のRN式が修復が難しい程に破損した事を受けて急遽レゾナンスギアの機能拡張の為に転用されたそれを、お兄ちゃんはギアのスロットへと差し込む。

 

「━━━━聖遺物同調(サクリスト・チューン)……演奏開始(ミュージック・スタート)!!」

 

それは、いずれシンフォギアのようにレゾナンスギアで聖遺物を使えるようになった時の為にと、了子さんが遺してくれた機能。

それを鳴弥さんが改修し、聖遺物が持つアウフヴァッヘン波形をモチーフにした音楽によってレゾナンスギアの出力向上を可能としたのだそうだ。

 

『バチバチバチ!!ドコドコドコ!!刻めビート!!唸れボルト!!雷・神・降・臨━━━━ボルトマレット!!』

 

━━━━その割には、音楽というよりは変身ベルトみたいな音楽だけれども。

三人で顔を見合わせて苦笑しながら手を繋ぎ合う。過剰な程の緊張は無い。だって、私達の歌が空に響く限り、お兄ちゃんは此処に居てくれるのだから。

 

「……行きますッ!!」

 

 

 

                   ━━━━絶唱・風雪は柔らかに、咲く花と共に鳴り響く━━━━

 

 

 

「スパーブソングッ!!」

 

「コンビネーションアーツッ!!」

 

「━━━━セット!!ハーモニクスッ!!」

 

━━━━あの時と同じ、圧倒的な力が私達三人を包み込む。

だが、それはあの時のように暴れまわる力では無い。

 

「おおおおおおおおッ!!」

 

私の後ろから響き渡る、お兄ちゃんの雄たけび。私の歌と絶唱の間にどうしても生じてしまう差異を同調し、調律する事で少なくしてくれているのだ。

その頑張りが分かるから、私達の胸の歌は迷いなく、虹色の光となってこの空の下に響き渡る。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━現場は騒然としたまま、避難作業は遅々として進んでいなかった。

だが、それも当然だ。幾ら制御されたノイズとはいえ、避難が始まってからまだ一時間も経っていない。むしろ、ここまでスムーズに会場から全員退出する事が出来ただけでも僥倖なのだ。

 

だから、そんな中でコンサート会場の中から虹色の光が零れるのを見て人々が不安になるのも当然の事だった。

 

━━━━けれど、私は知っている。

その虹色の光を誰が生み出しているのか。その虹色の光を何の為に放つのかを。

 

「響……お兄ちゃん……翼さん……クリス……」

 

それなのに、私にはこうしてただ見ている事しか出来ない。

だから、せめて祈るのだ。少女達の血が流れるこの歌が、誰かを救う為の……『希望の歌』である事を。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━S2CA・トライバースト。その猛威は瞬く間に臨界を超えたフォニックゲインを叩き出し、虹の光となって拡散する。

拡散した光に曝された超巨大ノイズは、その増殖速度を遥かに上回る出力を受けてゲル状部位を一瞬で引きはがされる。その中に残ったのは、まるで人の骨格のようなノイズの中核部位のみ。

 

「今だ!!立花!!」

 

この猛威の中でも機を逃さぬ翼ちゃんの見切りによって、S2CAは最終フェーズへと移行する。

 

「━━━━ゲットセット!!レデイ!!」

 

「ぶちかませ!!」

 

響のギアが限界を超えて開口部を開かせ、拡散したフォニックゲインをその身の内へと収束させていく。

両手のアーマーを合体させ、一つの円柱状のアームドギアへと変形させてゆく姿を見ながら、俺は最終放出に向けて動き出す。

本来であれば、S2CAの収束によって蓄積されたフォニックゲインはこのまま放たれる。だが、仮にあの時のように収束し切れなければ今度はライブ会場の周りにまで被害が出てしまうかもしれない。

それを避ける為、響はあくまでも超至近距離での解放を求めるだろう。だが、地上に立ったまま飛び上がる響と同調し続けるのは至難の業だし、第一地上か超至近距離かの二択を背負わせては響が安心して飛び上がれない。

 

「跳ぶぞ!!響!!」

 

━━━━だから、掛ける言葉と共に、今の俺に維持できる最大延長の上で跳び上がる。ちょうど、超巨大ノイズと響の中間程の高度。これならピッタリだ。

 

「うん!!━━━━コレが私達のォ……!!絶唱だァァァァッ!!」

 

そして、響の咆哮と共に収束したエネルギーは解放され……

 

━━━━真っ直ぐに、空に巻き上った。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━なんデスか、あのトンデモはッ!?」

 

「綺麗……」

 

装者三人で逃げ出す途中、どこかのビルの上で私達はライブ会場から空に立ち上る虹の光を見た。

恐らくは、二ヶ月前の報告にあった絶唱をコントロールするという特異戦術だろう。コレによって、私が歌って、戦ってもなおまだまだ足りなかったフォニックゲインを喰らってネフィリムは目覚めた筈だ。

 

「こんなバケモノもまた、私達の戦わねばならない相手……だけど……ッ!!」

 

━━━━だけど、彼等では世界は救えない。

━━━━だけど、彼等ではセレナを護れない。

━━━━だから、私は悪を貫くと決めたのだ……!!

 

「……天津共鳴。伝えられはしなかったけれど……あの欠けた月こそが、私の答えよ。

 切歌、調、行きましょう。ドクターが逃げられるよう、フォニックゲインを放つ私達が出来るだけ会場からもアジトからも遠ざかる必要があるもの。」

 

「がってんデス!!……ところで、今日のお夕飯はなんなんデスか?」

 

「この通り私は実働だったから、美舟にお任せしてる……」

 

「……そういえば、美舟はちゃんとマムと合流出来たのかしら……オードブルを貰っていくからと早めに帰したのだけれど……」

 

……更に言えば、天津共鳴と出逢ってからの美舟は、どこか様子がおかしかった気がする。その詳細も、今の内に聞いておくべきなのだろうか……はぁ。

今まで考えた事も無かったけれど……組織を運営するって、たったこれだけの人数であっても本当に大変だわ……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━立花!!」

 

S2CAを放つ事で超巨大ノイズを見事仕留めた立花。だが、地上に降り立った彼女は地に膝を屈していた。

それ故に、何事かがあったのかと思わず駆け寄って確かめる。

 

「……へいき、へっちゃらです。」

 

━━━━だが、そうして確かめた立花は、涙を零していた。

 

「へっちゃらなもんかよ……!!どっか、痛むのか?」

 

「違うの!!……違うの……私のしてる事……間違ってるって言われて……それで……!!

 胸が痛くなる事だって、知ってるのに……!!正しいのかどうか、分からなくなっちゃって……!!」

 

━━━━立花が涙と共に訥々と零すその言葉は、あまりにも重い。

彼女達……フィーネを名乗る少女達に如何な事情があるかは分からない。だが、彼等は立花響の事情を知らない(・・・・・・・・・・・・・・)

どちらが正しくて、どちらが間違っているかも、今の私達には分からない。だから、泣きじゃくる少女の……その小さな背中を前に、どうしてやればいいのかが、分からない。

 

「━━━━響。」

 

そんな状況を変えたのは、歩いて来た共鳴だった。彼は、未だ血の流れる両手を器用に服に当てぬよう避けさせながら、後ろから立花の背をそっと、軽く抱きしめる。

 

「……まだ、分かんないな。あの子達が言ってる事。

 きっと何か事情があるんだろうけど……その事情を教えもせずに、助けは要らないって突っぱねて、敵対して……

 ━━━━だからさ。知る為に戦おう。彼女達が戦う理由を。それで、彼女達が『誰かの為』に戦うって言うのなら、それを出来る範囲で手伝ってあげたい。

 誰かと繋がるこの手こそ、立花響のアームドギアなんだからさ。」

 

「……お、兄ちゃん……うん……うん……ッ!!」

 

━━━━欠けた月の下、未だこの世界は不和と混迷の中にあった。

だがそれでも……諦める事を知らぬ希望の歌は、確かに此処にある。




━━━━問題です。

・入ってくるいらない物を断つ。
・家にずっとある要らない物を捨てる。
・物への執着から離れる。

この三つの考えから構成された、2010年の流行語にも選ばれた言葉をお答えください。

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