戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第五十六話 決断のエクストーション

━━━━力が、漲る。

融合症例の齎す出力。確か了子さんも言っていた、私のパワーの源。

 

……私の命を燃やす、力。

 

「━━━━熱ッ!?」

 

「この熱気は……立花さんが!?」

 

「ま、前はこんな事無かったじゃない!?どうなっちゃってるの!?アニメみたいなパワーアップイベントとか!?」

 

━━━━後ろから掛かる言葉に、私の異常が明確に伝わってしまった事が分かる。

それでも、ノイズに否定される皆の姿なんて、私は絶対に見たくない……ッ!!

 

━━━━たとえ、私の命が燃えて、落ちて、尽きたとしても……

 

「━━━━拳も、命も、シンフォギアだぁ……?

 論理的な答えになっちゃいないじゃあないかッ!!全然ッ!!

 いつもいつも!!そうやって都合のいい所でブッ飛んで来て!!コッチの都合をひっちゃかめっちゃかにかき回してくれるッ!!

 お前も!!あの天津共鳴もだァァァァッ!!」

 

━━━━決意を握る事に迷う暇すら、残酷な現実は与えてくれないのだろうか。

ウェル博士は杖を振るって更なるノイズを召喚する。

 

「━━━━ヒーローになんて、なりたく……ないッ!!」

 

━━━━胸の内から溢れる歌は、未来を庇ったあの日のようにその様相を変えていた。

そう。私は、ヒーローになりたいワケじゃない。お兄ちゃんに抱き留められて分かったんだ。

戦うなんて、怖いに決まっている。死ぬかも知れないなんて、怖いに決まっている……ッ!!

 

「そんな物は、要らないッ!!世界へとォォォォ!!」

 

━━━━だけど、それでも誰かを否定する誰かは今も世界に溢れていて。

そんな否定の意思に傷つき、泣き崩れる誰かが居るのだ。

だから、怖くても立ち上がるッ!!立ち向かうッ!!

 

━━━━だって、手を伸ばせなかった後悔を、それを握りしめる人の背中を!!

私は、知っているのだからッ!!

 

「この胸には、祈り(ゆめ)が宿ってるッ!!」

 

「いつも!!いつも!!いつもいつもいつもいつもッ!!もッ!!もッ!!もォッ!!

 ━━━━どうして、ボクの完璧な救済計画を受け入れないッ!!どうして、お前等はボクの邪魔をするんだよォォォォッ!!」

 

胸のガングニールが放つ力、それはノイズを片端から消し飛ばすに足る物だった。

そんな事実を前に、狂乱を隠す事すら出来なくなったウェル博士は更なる狂気を発露させる。

 

━━━━その狂気に返す答えは、最初から決まっていた。

 

「━━━━そんなの、貴方のやる事で()()()()()()()()()()()に決まってるッ!!」

 

━━━━確かに、世界は滅びの危機に瀕しているのかも知れない。

……そして、米国みたいに、それを隠し通して不利益が出ないように立ち回っている人も居るのかも知れない。

 

━━━━けれど、それでも。

それは決して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ッ!!

 

「はァァァァッ!!」

 

                ━━━━我流・燕撃槍━━━━

 

━━━━師匠から習った技の一つに、遠当てという技がある。

本来の()()は、相手の気迫を呑む事で一瞬動きを止める物だ。

だが、ガングニールが齎す超常の力は、そのエネルギーは本当に『遠くから当てる』事すら可能とする……ッ!!

その一撃に、ウェル博士の召喚したノイズがあらかた消し飛ぶ。

 

「ひ、ひゃあああああ!!」

 

だが、消し飛んだ端から行われる、召喚、召喚、召喚。

ソロモンの杖、無尽蔵なノイズの召喚を可能とする完全聖遺物。

━━━━まずは、それをウェル博士の手から弾き飛ばすッ!!

 

「━━━━歌は、咲き誇るゥゥゥゥッ!!」

 

「うわァァァァッ!?」

 

━━━━漆黒が割り込んで来たのは、その瞬間だった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━なッ!?盾ッ!?」

 

━━━━それは違う。

 

「━━━━なんと鋸。」

 

「調ちゃん……切歌ちゃん……ッ!!」

 

「この身を纏うシュルシャガナはおっかない見た目よりもずっと汎用性に富んでいる。

 ━━━━防御性能だって、勿論不足無し。」

 

「━━━━それでも、二人がかりの全力で、どうにかこうにか受け止めてるんデスけどね……ッ!!」

 

望んで得た力では無いけれど、シンフォギアの力だって今の私の力なのだ。

誇るべき所は、誇る物だ。

 

「ごめんね、切ちゃん。私のヒールだけだと踏ん張り、効かないから」

 

「いいって事デス!!調が出来ない事はアタシが。そして……」

 

「うん。切ちゃんが出来ない事は、私が。」

 

『━━━━櫻井理論が齎した物はシンフォギアだけに非ず。ドクターが出現させたノイズによって位置を絞ったのもまた異端技術の力です。』

 

『だけど、私達が嗅ぎつけたという事は……』

 

『えぇ。彼方(あちら)もまた然り。急ぎましょう。』

 

『━━━━聴こえているわね、二人共!!』

 

聴こえる通信はマリアとマムの物。

今だって、二課の装者とあの男……天津共鳴、だったっけ?彼も此処へと急行している事だろう。

だから……

 

「ドクターを回収して、速やかに離脱……」

 

「それはもちろん、分かっているのデスが……ッ!!」

 

━━━━まさか、イガリマとシュルシャガナを重ねても尚互角だなんて。

 

『クッ!!』

 

苦悶の声は、果たしてどちらの物だったのか。

拳と鋸の鍔迫り合いから、お互いに距離を取る。

 

「━━━━アイツを相手に、言う程簡単では無いデスよ……ッ!!」

 

数の上では二対一。けれど、此方はウェル博士(おにもつ)を抱え、なおかつ相手の出力は昨日の一件を見れば分かる通りの青天井。

 

「━━━━はぁ……はぁ……あうッ!?あ、あぁ……ッ!!」

 

━━━━だが、どうやらその青天井にも代償が付き纏うようで。

このチャンス、逃すワケには……

 

「━━━━では、頑張る二人にプレゼントです、よッ!!」

 

『……えっ?』

 

━━━━まさかのウェル博士(おにもつ)の行動に、私も切ちゃんも反応が追い付かない。

 

「うひっ。」

 

━━━━無針注射器ッ!?それに、流し込まれる前に少しだけ見えたあの中身は……ッ!?

 

「ッ!!何しやがるデスかッ!?」

 

「コレ……Linker!?」

 

「効果時間にはまだ余裕があるデスよ!!」

 

「━━━━だからこその連続投与、ですよ。」

 

『ッ!?』

 

━━━━理屈は分かる。

女神ザババの刃を重ねる事で私達の力は跳ね上がる。それこそ、二課の装者がタッグで挑んで来たって跳ね除けられる程にだ。

……けれど、その二枚重ねすら弾き返す埒外の具現が目の前に居る。

 

「あのバケモノに対抗する為には、今以上の出力で捻じ伏せるしかありません。

 ━━━━その為にまず、適合係数を無理矢理にでも引き上げる必要があるのですよ。」

 

━━━━けれど、どうやって?そう簡単に適合係数を安定して上げられたら苦労はしない。

 

「でも、そんな事をすればLinkerのオーバードーズによる負荷で私達のギアは……」

 

私達第二種の適合者は、根本的にギアを纏う事が難しいのだ。それを補うのがLinker。けれど、薬も過ぎれば毒となる(って美舟が言ってた。美舟は物知りさん)のだ。

過剰投与されたLinkerは私達の脳に負担を掛け、過剰な興奮に依る気絶や、最悪の場合死に至る程の副作用を齎してしまうのだという。

そうなれば、ドクターを回収するどころでは無い。

 

「ふざけんな!!なんでアタシ達がアンタを助ける為にそんな事をッ!!」

 

「━━━━するデスよッ!!

 いいえ、せざるを得ないッ!!貴方達が連帯感や仲間意識なんかでボクの救出に来るなどと楽観視はしていません!!

 ……ならば何故来たか?その答えはこの()ッ!!こいつを野放しにする気が無いから探し回っていたのでしょう?

 完全聖遺物は起動さえすれば誰しもが使用可能な異端技術の結晶……されど、今はこのボクの手の内にあるッ!!

 ━━━━さぁ。自分の限界を越えた力をかまして!!このボクと杖を救って見せたらどうですか!!」

 

━━━━それは、否定が出来ない事実。杖を放っておけないから私達は朝飯前にも関わらずこうして探し回っていたのだ。

でも、上から目線で言われるのは……流石に腹が立つッ!!

 

「━━━━それに、コレはまたとないチャンスなのですよ?

 あのバケモノは今一人きり。二課の装者やあの男は未だ姿を見せず……此処で奴を仕留めてしまえば、残り二人とそのオマケは貴方がた二人の連携を以てすれば余裕のよっちゃん!!

 マリアを前線に引きずり出して余計な上書きをする必要もナッシングッ!!

 ━━━━だからこそ、念には念を入れた一撃で奴にトドメを刺す必要があるのデスよ……ッ!!」

 

━━━━けれど、その甘言は甘く、胸の裡に滑り込んで来る。

 

「こん、のォォォォ……ッ!!」

 

━━━━苦しみながらも、立ち上がる事を止めない少女を見る。

どうして、貴方はそこまで諦めないの?誰も傷つけたくないなんて偽善を抱えて、自分ばかりが傷ついて……

そんな迷いを振り切り、声を張り上げる。分からないならなおさらだ。あの子を今のマリアとぶつけるのは危険に過ぎる!!

 

「━━━━やろう、切ちゃん!!

 マリアにアイツをぶつけるワケにはいかないッ!!だから、今此処でッ!!」

 

「絶唱、デスか……」

 

「━━━━そう、YOU達歌っちゃいなYO!!

 適合係数がテッペンに届く程、ギアからのバックファイアを軽減出来る事は、過去のカデンツァヴナ姉妹の臨床データが実証済みッ!!

 だったら……Linkerブッ込んだばっかの今なら━━━━絶唱歌い放題のやりたい放題ッ!!

 正義の大盤振る舞いであのバケモノを膾に切り刻めるってモンですよッ!!」

 

「……やらいでか、デェェェェスッ!!」

 

          ━━━━絶唱・ワタシの全部、キミに捧げて調べ歌う━━━━

 

合わせる声は高らかに、絶対なる(ウタ)は空へと鳴り響き渡る。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「響ちゃんのコンディション、レッドへ移行!!」

 

「聖遺物の侵食が加速している……やはり、響ちゃんとガングニールの境界が曖昧になっているのが全ての原因……ッ!!」

 

「くっ……装者二名と、何より共鳴くんの動向はどうなっているッ!?」

 

「クリスちゃんは学院から、翼ちゃんは収録現場から現在急行中ッ!!共鳴くんも学校から直行していますが……到着まではまだ……!!」

 

━━━━状況は最悪だった。

装者達にも、護るべき日常がある。それを侵さぬようにと裏方だけを動かしていたことが完全に裏目に出ていた。

だがそれでも、共鳴くんの現着が間に合えば反動除去によって響くんを助ける事が出来るのだが……

 

『……藤尭さん!!()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?』

 

「うぇッ!?……あ、あぁ!!ヘリも別ルートから進行中だ。航空機なども飛んではいない……けど、なんでッ!?」

 

「━━━━まさか、()()つもりかッ!?」

 

『━━━━その、まさかですよッ!!』

 

━━━━スイングよりも速く、誰よりも速く辿り着く為に共鳴くんが考えた手段は、ビルを利用したパチンコで自身を砲弾と化す事。

 

「んなッ!?無茶だ!!危険すぎる!!現場までの直線にはビルが立ち並んでいるその中を抜けなければいけないんだぞッ!?」

 

『━━━━その無茶を通さなければ、響が死んでしまうかも知れないんですよッ!!』

 

━━━━ノータイムで返ってくるのは、彼の全力の答え。

 

「……勝算はあるのか?」

 

『はいッ!!』

 

「━━━━よし、許可する!!

 ……ただし、二人共無傷で帰って来いッ!!」

 

『━━━━はいッ!!』

 

━━━━その全力が分かるから、返す言葉は一つだけ。

……しかしまぁ、俺と違って共鳴くんはちゃんと勝算を計算しているのだなぁ……なんて、心中で少し苦笑を零したのは、俺だけの秘密だ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━歌が、聴こえた。

 

「━━━━ッ!?まさか、この歌って……絶唱ッ!?

 ダメだよッ!!Linker頼りの絶唱は、装者の命をボロボロにしてしまうんだ!!」

 

━━━━記憶の中に思い浮かぶのは、あの日に見た、槍を掲げる少女の背中。

……奏さんが死ななかったのは、お兄ちゃんが咄嗟に絶唱をアメノツムギで受け流すという奇策を思いついたからでしかない。

お兄ちゃんが居なければ、間違いなく奏さんはあの日、命を燃やし尽くしていた筈なのだ。

 

「━━━━女神ザババの絶唱二段構え!!この場の見事な攻略法!!

 コレさえあれば、コイツを持ち帰る事だって……!!」

 

『━━━━グゥゥゥゥッ!!』

 

━━━━ウェル博士の入れ知恵なのかッ!!

ガシャガシャと、溢れ出すフォニックゲインを使ってギアを変形させていく切歌ちゃんと調ちゃんを、私は成す術無く見守るしか無い。

 

━━━━本当に?何も出来る事は無いの?

 

「━━━━シュルシャガナの絶唱は、無限軌道の刃から繰り出される果てしなき斬撃。

 コレで物理的強度を突破して(ナマス)に刻む……ッ!!

 それが能わずとも、動きさえ止めてしまえば……ッ!!」

 

「━━━━続き、刃の一閃で対象の魂を両断するのがイガリマの絶唱ッ!!物質的防御など能わずッ!!

 まさに、絶対に絶対のォッ!!隙を生じぬ二段構えって奴デスッ!!」

 

━━━━理屈は、よく分からない。けれど、二人の語る絶唱特性に嘘は無いのだろう。

……だけど、その絶対を放つために、二人が命を燃やしている。苦しんでいる。

 

「……それは、イヤだ。」

 

━━━━絶唱特性。私のそれは手を繋ぐ事だって、鳴弥おばさんは言っていた。

……出来るだろうか?いいや、やらなければならない。

脳裏を過った起死回生の一発逆転に、私は総てを賭ける事にした。

 

             ━━━━絶唱・胸に響き、いつか世界に満ちるまで━━━━

 

━━━━だから、その歌を歌う。空に、音を響かせる。

あぁ……そういえば……お兄ちゃんの手助け無しで絶唱を放つのは、ルナアタックの時以来だったな……

 

「ぬぅッ!?」

 

「━━━━エネルギーレベルが、絶唱発動にまで高まらない!?」

 

「減圧まで!?ど、どうなってるんデスか!?」

 

━━━━ぶっつけ本番。出来るかどうかも分からなかった。

だがそれでも。手を伸ばしてその()を集める。

 

「━━━━セット、ハーモニクスッ!!」

 

「コイツ……エネルギーを奪い取ってるんデスか!?」

 

━━━━S2CA・ぶっつけ本番放圧バージョン……ッ!!

手を取れていない相手の歌に合わせて、そのフォニックゲインも、反動も、総て私が肩代わる……!!

 

「うぅ……ぐ、ああああああああッ!!」

 

━━━━焼けるように熱い。いや、もしかしたら。

足元を舞う枯葉が燃える程の熱を出しながら火傷一つ現れない今の私は、もう焼け落ちて、総てが聖遺物と化してしまったのかも知れない。

 

「━━━━それでも……ッ!!二人に絶唱を使わせる事だけは……ッ!!絶対に、イヤだァァァァッ!!」

 

━━━━逃がす先は、空。周りを巻き込まないように放つのならば、其処しか無い。

 

「━━━━アアアアアッ!!」

 

━━━━反動が、私の身体を蝕んでいく。熱さで意識が朦朧とする。

だけど、だけど……

 

「━━━━響ィィィィ!!」

 

━━━━虹色の光の余波が吹き荒れる空を、最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に進んで来るお兄ちゃんの姿だけは、ハッキリと見えていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━ビル街の中をすり抜け、跳ぶ。

勝算はある。司令にはそう啖呵を切ったが、実はぶっつけ本番の策であったりするのだ。

なにせ、24時間眠る事の無いビル街に糸を掛けてスイングしたりすれば、翌日の朝刊一面を飾るスパイダーマンになってしまうのは確定だ。

二課の諜報班をそんな事で酷使するワケにはいかず、シミュレーターで試していた程度の技。

 

━━━━それは即ち、空への飛翔。

真っ直ぐ横へと跳ぶのではなく、ひたすら斜め上方へと飛び出す事。それによって高層ビル群の中でも比較的障害物の少ない上空を突っ切り、落下の速度を利用してスイングへと入る。

ビル群を二次元的な最短コースで突っ切るのでは無く、三次元的に隙間を縫う事で最高速度を出し続ける機動法……ッ!!

 

「響……ッ!!」

 

━━━━逸る気持ちを、必死に抑える。

最高速を維持した高速飛行中に余計な事を考えれば、その先に待つのは必定の激突死だ。

……だがそれでも。心は前に進み続ける。

 

「響━━━━ッ!!」

 

━━━━ビル街をすり抜け、最後に大きく空へと跳び上がる。

むしろ、こここそが一番の難所だ。

旧リディアン近くの郊外は、高台にある閑静な住宅地だった場所。様々な人工物に遮られて分かりにくいが、実は東京都は高低差が激しい都市なのだ。

落下による加速が付いた状態で、一気に低くなる二階建てビルを利用し、坂道を駆け上がる。

 

━━━━失敗すれば、地面で紅葉卸(もみじおろし)になる事請け合いだ。

だが、それがどうした。

 

「響が命を懸けて歌っているのに……命懸けの一つや二つでッ!!今さら死ねるかァァァァッ!!」

 

━━━━後悔がある。

それは、手を伸ばさなかった事。

目の前で苦難に喘ぐ少女を、見捨ててしまった事。

あの日、俺の心に雪の呪いを遺してくれた……きっと、大好きだった彼女の事。

 

「だから……もう投げ出さないッ!!逃げ出さないッ!!そしてェ━━━━ッ!!」

 

━━━━手を伸ばし続ける事。誰かの為に戦い続ける事。

 

「もう諦めないッ!!だからッ!!」

 

ショートジャンプを繰り返して辿り着いたその場所で、聴こえるのは絶唱の調べ。

 

「━━━━響ィィィィ!!」

 

━━━━そして、俺は、その歌に触れる。

 

「ぐ、ァァァァッ!!」

 

━━━━ただの絶唱じゃない!!S2CAか、コレはッ!!

振れた途端に此方をも消し飛ばしかねない程の猛威を振るう、あまりにも膨大なエネルギー。

どういう状況かは分からないが、S2CAが放たれているというのなら、通常モードのレゾナンスギアでは荷が勝ちすぎるッ!!

 

《ボルトマレット!!》

 

故に、判断は一瞬。懐から取り出した雷神の鼓枹をギアスロットに差し込み、サクリストチューンを開始する。

 

「おおおおおおおおォォォォッ!!」

 

絶対に、絶対に、放さない。決意を載せた雷撃が、反動を変換して周囲へと荒れ狂う……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━大丈夫、だよね……?」

 

「……当たり前です!!立花さんだって鍛えているんですから!!」

 

「なら、私達が此処に居たらビッキーの邪魔になっちゃう、か……ヒナ!!今のうちに避難しよう!!」

 

「……うん。」

 

━━━━本当に?

 

響が力を握っている事は知っている。けど、以前までの響はあんな風に熱を発しては居なかった。

……脳裏を過るのは、昨夜遅くに鳴弥さんから来た電話の事。

 

━━━━響が負傷で寝込んでしまった、という言葉。

 

もしかして、響の変化は昨日の戦いが原因なのでは……?

……怖いよ。

響がどこか、私の知らない所で戦って、遠くに行ってしまう事……

 

「……?アレ、なんだろ?」

 

━━━━それでも、避難をしようとする私達の前方、遠いビル街の方から、飛んで来る物があった。

その正体を、私は知っている。

 

「━━━━お兄ちゃんッ!?」

 

「共鳴さん!?」

 

「━━━━今さら死ねるかァァァァッ!!」

 

━━━━此方に気づいてすら居ないお兄ちゃんとの高速でのすれ違い様に聴こえるのは、お兄ちゃんの叫びの断片だけ。

けれど、其処に含まれた意図が、私には分かってしまう。

 

━━━━お兄ちゃんが全力で手を伸ばす時。それは、誰かが悲しい目に遭っている時だから。

 

━━━━その推測への回答は、彼方の空まで突き上がる七色の竜巻。

あの日、ライブ会場で響達が見せた、少女の血が流れる、歌。

 

「━━━━イヤだ……イヤだッ!!響が遠くに行っちゃうなんて!!」

 

パズルのピースが組み上がる。最悪の推理が脳内を埋め尽くす。

 

「━━━━小日向さん!?」

 

「ヒナ!!そっちは危ないって!?」

 

━━━━だとしても、私は行かなきゃいけないんだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━モニターに映る少年と少女の姿。

その周囲には、絶唱の爪痕がありありと刻まれていた。

 

「吹き荒れる破壊のエネルギーを、その身に抱え込んで……!!」

 

「━━━━さらには、抱え込んだエネルギーを虹へ、その反動を雷撃へと変える二段構え……繋ぎ繋がれる絶唱特性によるフォニックゲインの簒奪……

 まさか、この土壇場でそんな新技が出てくるとは予想外でしたね……」

 

「けれど、その分の消耗も激しい。これなら撤退は基より、あの子を倒す事も……ッ!!この反応はッ!!」

 

「彼が文字通りに跳んで来た以上、他の装者達もまた……欲を掻けば、喉元を食い千切られるでしょうね……

 ━━━━聴こえていますね?ドクターを連れて急ぎ帰投しなさい。」

 

『だけど、この一遇を逃したらッ!!』

 

「そちらに高速で向かう反応が二つ。恐らくは……イチイバルとアメノハバキリ。」

 

『う……』

 

「貴方達もLinkerの過剰投与による負荷を抱えているのです。指示に従いなさい。」

 

『……』

 

━━━━切歌と調、優しい子達……マリアに負荷を与えないようにというドクターの甘言に乗ってしまう程に甘く、そして優しい……

 

『━━━━そうは問屋がァ!!』

 

「ドクターッ!?」

 

━━━━だが、不承不承ながらも納得した二人とは違い、引き下がらない男が一人。

彼は杖を振るい、反動に咽ぶ少女と、彼女を背に護らんと構える少年へとノイズを……

 

『降ろさねぇよッ!!』

 

━━━━だが、嗾けられたノイズ達は視界外からの力によって瞬殺される。

 

「イチイバル……ッ!!」

 

「ドクター、コレで分かったでしょう。長期戦は此方に不利を齎すばかり……素直な帰還を、お願いしますよ。」

 

『クッ……』

 

『━━━━此方にはキミ達フィーネと交渉に臨む用意があるッ!!神獣鏡のギアと引き換えにだッ!!』

 

「神獣鏡を……?」

 

「……なるほど、ルナアタックの後にフィーネが告げたという神獣鏡による融合症例の治癒。彼女を救う方法を、彼は求めているのですね……」

 

「……でも、このアクティブステルスは私達の要ッ!!」

 

「……えぇ。この場で交渉に入ったとて戦力を消耗した我々が圧倒的に不利……今すぐにはいそうですかと渡すワケには行きません。ひとまずは、この場からの撤退を。」

 

『━━━━わかった、デス……』

 

『あ、おい待てよッ!!』

 

━━━━こんな優しい子達に、私はなんて事をさせているのだろうか……

……二課との交渉を、視野に入れるべきなのだろうか。

 

「……後で、美舟に訊ねねばなりませんね……」

 

━━━━それを問う事はあの子の奥底に踏み込む事になるでしょう。だが、それでも……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……身体、思ったほど何ともない?絶唱を口にしたのにデスか?」

 

「━━━━まさか、アイツに護られたの……?

 ……なんで、私達を護るの……?」

 

戻って来た調と切歌が不思議そうに口にするのは、絶唱の反動すら束ねた少女の行動について。

━━━━だが、私からすれば然もありなん。だって、あの子は……立花響は、お兄ちゃんと一緒に育ったのだから。

 

「……羨ましいな……」

 

「……美舟?」

 

「ん、なんでもないよ。

 ━━━━おかえり。調、切歌……ウェル博士も。」

 

「ん……ただいま、美舟。」

 

「━━━━ただいまデス!!」

 

「……えぇ。出迎えありがとうございます、美舟さん。」

 

思わず零れてしまった本音を聴き留めた調を、言い訳と共にそっと抱き留める。

━━━━お兄ちゃんがあの子を救おうと手を伸ばし続けている事が、私には羨ましいだなんて。

そんな本音を今さらに言える筈も無いのだから……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━走る、走る、走る。

ルナアタック事件の際のノイズ被害で荒れ果てた街を走り抜ける。

だが、走れば走る程目立っていくのは、数ヶ月前どころか、今付いたような新しい疵の数々。

嫌な予感を必死に抑え、私は━━━━

 

「━━━━響!?お兄ちゃん!!」

 

━━━━ようやく、彼等を見つけたのだ。

 

「ダメだ!!今近づけば火傷じゃ済まねぇぞ!!」

 

けれど、二人に駆け寄ろうとする私をクリスが止める。

 

「でも!!響が……響が……!!」

 

「……それでもだ!!」

 

動かない響と、そんな響を抱き留めるお兄ちゃん。その周りには、雷撃が走り回っている。

どう見ても近づくのは危険だ。わかってる。

━━━━だけど、その渦中に居る二人が、一番危険なのでは無いのか?

 

「━━━━共鳴ッ!!水を使う!!電撃を止めてくれ!!」

 

「……ッ!!了解!!」

 

そんな状況を変えたのは、遥か上から掛かった声。翼さんの言葉。

お兄ちゃんが腰のギアからペンダントを抜き出し……走り回る電撃が散り、代わりに訪れるのは熱風。

 

「……ッ!!さっきと同じ!!やっぱり、響が!?」

 

            ━━━━騎刃ノ一閃━━━━

 

そんな熱に、文字通りの冷や水を被せるように、給水塔を破壊する翼さん。

 

「響!!お兄ちゃん!!」

 

「……収まった、か……グッ……」

 

「無茶をするな!!無理矢理なコース取りで間に合わせたのだ、立花もそうだが共鳴も消耗している筈だ!!」

 

「ゴメン、心配かけて……でも、響を……放ってはおけなかったんだ……」

 

「……それは!!そうだが……」

 

「響!!……お兄ちゃん!!何がどうなってるの!?響は、一体どうしちゃったの!?」

 

「未来……ごめん……」

 

「ごめんじゃなくて……ッ!!」

 

━━━━思い出すのは、ルナアタックの後。嘘を吐かないって約束したからって、何も語らずにただただ傍に居てくれた時の事。

 

「……響━━━━ッ!!」

 

━━━━あぁ、どうして……世界は、こんなにも響に厳しいのだろうか。

 

響を搬送しに来たのだろうヘリの音に、私の叫びは掻き消されて、消えた。




━━━━致死の呪いが全てを覆い、少女の総てを奪っていく。
残酷なる事実を前に、されど一縷の希望を捨てずに誰もが立ち向かう。
陽だまりもまた常の戦場(いくさば)。日常だって大戦争なのだから。

━━━━それ故に、おさんどんさんの戦いは今此処に。
特売、直売、生鮮特価。
干物にシメジに開きもの。腹が減ってはなんとやら。
美味しい料理で、笑顔の魔法を届けます。
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