戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第五十八話 再会のヤクザ

━━━━応接室の中には、重苦しい沈黙が降りていた。

 

「……さぁて、今回儂がわざわざ出向いて来た理由は分かってるだろうねィ?」

 

「は、はいッ!!」

 

━━━━応接室のソファにどっかと座り込む方は、関東の土建屋を纏める親玉である大親分だ。

そんな殿上人が、何故ウチのような下請けの解体業者にまでわざわざ出向いたのか。

その理由は唯一つ……

 

「━━━━声を掛けたのはコッチからとは言え、ウチのシマで仕事する以上は地元民に危険が及びかねない杜撰な仕事は見過ごせないねぇ……

 余所でアンタ等が仕出かした仕事の記録を調べさせて貰ったが……随分とまぁ、バクチ打ちな経営じゃないか、えぇ?」

 

━━━━我が社が行っていた解体工事における様々なやむを得ぬ事情についてだ。

 

「は、ははは……お、お陰様で……この不況の中をなんとか乗り切らせていただきまして……」

 

「おぉ。運が良かったねぃ……一年前の関西での()()なんざ、一歩間違えれば十数人の死傷者が出るとこだっただろうなぁ?」

 

━━━━マズい。コレは……完全に()()()()()()()……ッ!!

……確かに、我が社の方針は『安かろうとも良かろう』をモットーにしており、予算の中抜きや手抜き工事に余念がない。だが待って欲しい。此処までされる謂れはない!!

 

「まぁ、分かってるようだから単刀直入にいこうかぃ。コッチの要求は唯一つ。()()()()()だ。少なくとも、()()()()()が起きないようにしてくれればそれで十分サ。」

 

「え、えぇ……!!それはもう、我が社としてもそのような事態は出来るだけ避けたいですから……!!」

 

━━━━ふざけるな!!我が社は孫請けの立場とはいえ、解体工事業の認可を受けた会社なんだぞ!!……賄賂で受かった会社だけども。

それなのに上から目線で業務改善を要求するだなんて……!!そっちだって叩けば埃がドカドカ出てくる仕事をしてるヤクザの屑だろうに、何様のつもりだッ!!

 

……そんな本音を必死に隠しながら、この場を切り抜ける為の算段を脳内で必死に捏ね繰り回す。

ひとまずこの場さえ、この場さえ乗りきれれば━━━━ッ!!

 

「━━━━社長!!」

 

━━━━そんな折に、応接室に飛び込んで来る事務員。まったく……

 

「おい!!今大事な来客が来ているんだぞ!!後にしろ!!」

 

「おぉ、此方の事はお気になさらず。どうも大事な連絡のようですからなぁ。」

 

……狸め!!

心中の罵詈雑言を押し殺し、事務員に耳打ちをさせる。

 

「それが……うちの解体現場で足場が倒壊した事故について話があると、特異災害対策機動部の天津共鳴と名乗る方から電話が……」

 

━━━━顔が青褪めていくのが、自分でも分かる。

なんて……なんて最悪なタイミングなんだ!!今日は厄日だ!!

このタイミングでさえ無ければどうにかなったかも知れないというのに……!!

 

「━━━━おぉ、如何なさいました?どうもよろしくない知らせだったようですが……ウチに任せていただければ、解決できるかも知れませんよ?」

 

━━━━笑顔とは、本来攻撃的な物である。なんて、どこかで聴いた雑学が脳裏を過る。

……あぁ、終わった。さよなら適当に脅せばよかった仕事たち……

 

「ハイ……」

 

━━━━特異災害対策機動部、即ち自衛隊。そんな所に我が社の手抜きがバレたとあっては未来は無い。

だが、対処を大物である目の前の狸ジジイに任せれば、ワンチャン生き延びる目はある……代わりに、どれだけ厳しい条件を課せられるかは分かった物では無いが、それでもお縄に着くよりはマシだ!!

 

━━━━この日、我が社は実質的に壊滅した。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……なんか、随分畏まった対応だったな……?」

 

━━━━ふらわーに調ちゃんを運び込んだ俺は、現場の後始末を行う為に解体業者への電話を行っていた。の、だが……

何故か、電話を受けた事務の人が恐ろしく畏まった対応で責任者を呼びに行ってしまったのだ。

 

「……ま、どうもよろしくない業者ではあるようだしなぁ……」

 

呟きの理由は、現場の惨状からの推測だ。

二人が勝手に侵入したのが原因とはいえ、あそこまで杜撰な解体現場であれば、少なくとも真っ当な業者ではあるまい。

 

『……お、お待たせしました……これより責任者に代わりますので……』

 

「あ、はい。お願いします。」

 

━━━━そんな独り言を聴かれる事も無く、保留音が鳴っていた通話が再開される。

さて、責任者にどう今回の件を説明したものか……

 

『━━━━カカカッ!!よぅ天津の坊ちゃん!!久しぶりだなぁ!!』

 

━━━━なんて思っていた俺の耳に飛び込んで来たのは、約一週間ぶりに聴く事となる声。

関東を締めるヤクザの大親分。以前、俺と緒川さんで身内向けの禊の手伝いをやらされた相手。

 

「……なるほど、貴方の所の下請け業者でしたか、此処は。」

 

『んー……まぁ、結果的にはそうなるな。まずは謝罪を。今回の件、総て此方の責任だ。申し訳無い。』

 

━━━━!?

土建屋の元締めでもある以上、彼が黒幕として出張ってくる事自体は予想の範疇だった。だが、まさか彼が自ら謝罪するとは思わなかったのだ。

なにせ、ヤクザとは信用商売。軽々しく頭を下げるようではその看板を維持する事は出来ない筈だが……

 

「……どういう風の吹き回しで?」

 

『まぁまぁ、まずは事情を聴いてくれぃ。そもそもこの会社は元々はウチの下請けじゃなくてねぃ……

 この前話したろう?米国に医療機器を売り捌いたバカな奴の事をサ。』

 

「えぇ……って、まさか……」

 

『そう、責任取らせる為にソイツを調べ上げたら引っ掛かった孫請けだったのサ……まったく、ウチは地域密着型だと言ったろうによぅ……

 ま、そんな感じでルナアタック事件の後始末にウチが噛んでる中に危険な業者が混じってるんじゃ堪らねぇってんで業務査察してる真っ最中だったってワケサ。』

 

「……なるほど。」

 

━━━━なんて、数奇な偶然だろうか。FISに協力したという幹部が、切歌ちゃん達に襲い掛かった杜撰な現場の元凶だったとは……

 

『━━━━それで、だ。コッチの事情は明かしちまえばこんな所だが……ソッチも、今回の件は荒立てたくねぇんだろう?

 アンタは立場ある人間だ。二課なり警察なり、今回の件を正式に捜査させる事だって出来た筈だ。だが、それをしねぇって事は……』

 

「……まぁ、そうですね。確かに、此方としても今回の件は穏便に収めたい所です。

 ━━━━出来る事ならね?」

 

━━━━なるほど、最初にぶっちゃけた事すら交渉の為の手管か。

やはり、年の功は恐ろしいと再認識する。

 

今回の一件、警察が捜査すれば付近の監視カメラから切歌ちゃんと調ちゃんに辿り着く可能性はある。そうすれば、芋づる式に二課にこの問題は丸投げされる。

そして、そんな情報を受けては二課本部とて動かぬワケにはいかない……あそこまで調子を崩してしまった調ちゃんを相手にしても、だ。

━━━━だが、今すぐは困る。倒れてしまった調ちゃんを容易に動かせぬ以上、今二課が動き出せばふらわーが戦場になってしまう。

だからこそ、俺の権限の範囲でどうにか口止めを出来ればと思ったのだが……渡りに船なのはいいが、あまりに話が上手く進み過ぎている。

 

『なら丁度よかったぃ。今回の件、お互いに痛い腹を探られたくも無いって事で……()()()()()って事で収めちゃくんねぇかい?』

 

「……いいでしょう。幸い、直接の死傷者が出たワケでも無いですし……ただ、業務改善だけはお願いしますよ?」

 

『おうともよぅ。コッチも信用商売だかんな。こんな三流をのさばらせてたんじゃあ今後に差し支えちまう。

 ……あぁそうだ、話は変わるんだがよぅ。アンタ、どこぞなりへと出資してたりするのかい?』

 

「……?いえ、我が家は純利益のほぼ全額をボランティア団体に回してますので出資は特にしてませんが……」

 

急に変わった話の矛先は、資産家としての責務である外部業者への出資について。

確かに資金は死蔵していても意味が無いので、天津家としてもボランティア団体への寄付や運営資金の補填として経済への再循環を進めているが……?

 

『あぁ、なら大丈夫だろうが一応なぁ。今回の件に関わってた幹部のバカ野郎なんだが、叩いたらどうにもきなくせぇ。

 昔っから優秀で上昇志向の強い奴ではあったんだが……半年ほど前、香港の鐵鎚電影公司(てっついでんえいこうし)への出資話を取り付けに行った後から人が変わったようになってな。

 それまでは虎視眈々と俺の立場を狙って合法的に権力を求めてたのに、こんな雑な仕事やらかしてまで金を求めるようになりやがった。』

 

「━━━━それは、怪しいですね……」

 

━━━━上役の寝首を掻こうと狙っていた事はともかく、其処から急に方針まで変わる……なんていうのは非常に怪しい。

 

『あぁ。そんで、あまりにも怪しいんでその理由について()()()()()()《完全へと到る為だ!!》だの《金が必要だっただけだ!!出資の為にな!!》だの……頑として詳細を語りやしねぇ。

 ━━━━どうにも奴さん、相手方に完全にビビっちまってるらしい。』

 

「なんとも……」

 

━━━━組織の方針に喧嘩を売り、米国などの外部組織の干渉を招いた理由を聴きだすとなれば、それこそ爪くらいは犠牲になっただろうに……

それでもなお口を割らないとなれば余程の事だ。

 

『まぁ、そんな所でな。相手の正体も知れん以上は気を付けるに越したこたぁ無いだろう。』

 

「そうですね……今の所は国外への出資は考えていませんが、此方でも出資先の選定は慎重に行うとしましょう……とはいえ、何かを引き当てるとしても其方とは別ルートでのアプローチを掛けられそうですが。」

 

『カカカッ!!ちげぇねぇや!!』

 

━━━━香港の闇に潜む謎の存在。ヤクザ者にさえ宗旨替えをさせるというそれは、一体なんなのだろうか……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……調……」

 

━━━━アイツに連れてこられたのは、ちょうど昨日、お昼時だからと立ち寄ろうかと調に持ち掛けたお好み焼き屋さんだった。

あの時はウェル博士を連れ戻す事を優先したから入る事は無かったけれど……そのお店の店主さんは、何も聴かずに調を寝かせる布団を用意してくれた。

 

「……全然、わかんないよ……」

 

━━━━布団に横たわる調の汗を拭きながら一人零す言葉は、アタシの本心だった。

謎のバリア。マリアに宿っている筈なのにアイツがアタシを見て呟いたフィーネって言葉。

色んな事が一気に起こり過ぎて頭がいっぱいいっぱいになる。

 

「━━━━切歌ちゃん。調ちゃんの具合はどう?」

 

そんなアタシの悩みに気づいているのか、いないのか。暢気に調を心配して声を掛けてくるソイツに思わずしかめっ面になってしまう。

……いや、そもそもコイツとちゃんと会話したのだってさっきが初めてなんだ。マリアや調や美舟ならともかく、見知らぬと言ってもいい他人に気づいてもらうも何も無いだろう。

 

「……呼吸は落ち着いたデスよ。熱もさっきよりは下がったから、もう少ししたら目を覚ます筈デス……」

 

━━━━そっけない言葉しか返せない自分に、少しだけ嫌な気分になる。

確かにコイツは敵で、全然知らない奴で、何考えてるか分からないけど……

 

「そっか……良かった。大事ないようで……」

 

━━━━そう言って安心した顔に、そしてこの行動には嘘は無いって分かるのだから。

 

「……その……ありがとう、デス……調の事、心配してくれて。」

 

……だから、コレはまぁ、通さないといけない義理のような物だと思う。

 

「━━━━あぁ、此方こそありがとう。立場が異なる俺の言葉を、それでも信じてくれて。

 ……ところで、切歌ちゃんこそ、身体の方に不調は無い?」

 

その言葉にビクリ、と肩が震えるのが自分でも分かる。

━━━━アタシが目を逸らしていた事実を突きつけられたような感覚。

 

「だ、大丈夫に決まってるじゃないデスか!!それに、アンタとは敵同士!!別にいちいち教えてやる道理なんて無いデスよ!!」

 

「……そうかも知れない。けれど……()()()()()()()()()()()()()以上、俺は確かめないといけないんだ。」

 

「━━━━う……やっぱり、アレは……」

 

「あぁ、俺も直接見たことは無いが、フィーネの持つ異端技術の中にああいったバリアの形成能力があったと聴いている。

 ……二課が動いて居ない以上、フォニックゲインの反応も無かった事になるからには、シンフォギアの隠された機能では無く、フィーネの力と見るのが妥当だろう。」

 

━━━━理詰めで積み上げられる証拠の数々。やはり、アレは……フィーネの力?だったら、アタシの自我は……フィーネに塗りつぶされてしまうの?

 

「……けど、今すぐにフィーネがキミを乗っ取る事は無い筈だよ。其処に関しては安心していい。」

 

「━━━━ッ!?なんでそんな事が言えるんデスか!?フィーネは過去から現れる亡霊!!アウフヴァッヘン波形を受けてレセプターチルドレンの遺伝子から再構成されてその自我を塗りつぶす……」

 

「そう、アウフヴァッヘン波形を受けた瞬間からフィーネの自我の再構成は始まる。そして、アウフヴァッヘン波形は適合者の歌に宿る……

 ━━━━でも、キミ達は今までキミにフィーネが宿っている事に気付かなかった。そして、今もキミはキミのまま自我を保っている。」

 

「━━━━あ……」

 

━━━━言われてみれば、そうだ。

アウフヴァッヘン波形はアタシ達適合者の歌にも宿る……らしい。流石にそういう難しい所まで知っているのは美舟だけだけど、アタシだって概要は聞いている。

けれど、それは矛盾している。アウフヴァッヘン波形でフィーネが目覚めて自我を塗りつぶすというのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

「……つまり、アウフヴァッヘン波形を受けて目覚めたフィーネはしかし……今はまだ眠っているんだろう。だから、切歌ちゃんの意志を塗りつぶす事はそうそう無い筈だ。

 ━━━━そんな方針転換の理由はきっと、ルナアタック事件のあの日にあるんだろうな。」

 

「ルナアタック……」

 

━━━━大雑把には聞いている。フィーネが引き寄せた月の欠片を砕いてみせたという、シンフォギアの話。

 

「あぁ……響が、フィーネに頼んだんだ。未来に人が手を繋ぐ為に見守っていて欲しい……って。」

 

「未来に……人が手を繋ぐ為に……?」

 

━━━━意味が分からない。どうしてそれがフィーネの方針を変えるのだろうか?

 

「んー……俺も流石にあの人の思考までは分からないんだけどさ。多分、響の言葉通りに()()まで待ってるんじゃないか?

 過去の亡霊であるフィーネが出張って全部解決するんじゃない……要するに、今の時代の問題は、今を生きる俺達が解決しろって事かな?

 あの人……了子さんは、そういうとこ無駄に律儀だったしなぁ。」

 

「今を生きる……アタシ達が……」

 

━━━━それは、希望……なのだろうか?

アタシに、アタシ達に未来を託してくれたからフィーネは今も眠っている?

 

「……だったら、どうして……アタシ達、争ってるんデスか……?

 未来を託された筈のアタシ達が……」

 

━━━━あの日、ライブ会場で戦った時は断言出来た。綺麗事を言っているだけで、結局は大衆や国家の犬に過ぎない二課の連中と違ってアタシ達は世界を救う為に戦っているんだって。

……けど、ドクターの野郎を見ていて思ってしまったのデス……アタシ達が正しい事をしているのなら、どうして……正しい事の為に犠牲が出る事で……ここまで胸が痛くなるんデスか……?

 

「……託されたからこそ、じゃないかな。過去から託されたからと言って、何もかもを水に流して人が今すぐに手を取り合う事は不可能に近い。

 お互いに見据える未来も違えば、その為に取り得る手段も違う。そして……何よりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事だってあり得る。

 ━━━━けれど、だからこそ。そうして託された未来を全力で考えるからこそ、俺達はそれぞれの正義を信じて想いをぶつけ合うんだと思う。」

 

━━━━そんなアタシの疑問に答えるその人の言葉は、ある意味では争いを肯定する論調なのに……どうしてだろうか、泣いているようにも聴こえたのデス。

 

「━━━━それぞれの、正義を信じて……」

 

「……それでも、犠牲は避けられるのなら避けるべきだと俺は思ってる。だって……喪われてしまったモノは、決して戻らないんだから。

 ━━━━キミ達を助けたのも、本音を言えばそれが理由。だから、クサい言い方にはなっちゃうけど……きっと、それが俺の《正義》なんだと思う。」

 

「……目の前の人、誰でもかれでも助ける事デスか?」

 

「いや━━━━手を伸ばす事を、絶対に諦めない事さ。助けられるかは……分からない。

 けど……手を伸ばさなかったら、絶対後悔する。

 そんなのは、もう十分って程味わったから……」

 

━━━━そう言って、上に向かって手を伸ばすおにーさんの姿は悲しそうで。

……きっと、多くの悲しみを背負っているんだろうな。と思う。

 

「……アタシの正義、アタシ達の……正義……」

 

「FISの皆が総意として何を考えているのかは分からないけれど……ウェル博士も、あんなやり方ではあるが本人なりの正義に則った事をしているんだろう。

 ━━━━だが、それで涙を零す誰かが居るのなら、俺は戦う、立ち向かう。手を伸ばし続ける。キミ達に対してもだ。」

 

━━━━それは、まるで矛盾しているようにも見える決意で。

 

「……アタシには、まだよくわからないデス。だけど……そうデスね。アタシなりの答え。いつか見つけたいデス。

 ━━━━だからおにーさんの事、おにーさんって呼んでいいデスか?手を伸ばして助けてくれた人の事、いつまでもアンタだなんて呼びたくないんデス。」

 

けれど、その本気が見えるからアタシは、おにーさんに握手を求める事にしたのデス。

敵同士なのは変わらないけれど……それはそれ、コレはコレって奴デス……多分。

 

「━━━━あぁ。それが切歌ちゃんがしたい事なら喜んで。

 ……お腹空いてないかい?おばちゃんがこの後近所の皆にお好み焼きをお裾分けする予定らしいし、折角だから俺達も貰っちゃおうよ。」

 

「おぉ……!!お好み焼き!!美舟から話には聞いてたけど、実際に食べるのは初めてデース!!」

 

「おばちゃんのお好み焼きは絶品だからね……折角だし、美舟ちゃん達の分の持ち帰りも包んでもらおうか。起きてくるかはともかく、調ちゃんの分も用意してもらわないといけないしね。」

 

━━━━それで思い出すのは、昨日の事。

そういえば、アタシと調の失敗で美舟にも美味しいご飯を食べさせてあげられなかったデス。

 

「賛成デース!!」

 

なら、そのお詫びにおいしいお好み焼きを持ち帰って皆に食べてもらうのデス!!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━意識が、浮上する。

初めに感じたのは、いい匂い。

甘いソースと、鰹節?それに、お肉も焼いてる?

 

━━━━目を開けると飛び込んで来るのは、見慣れぬ天井。

 

「……ここ、は?」

 

何処だろう、此処。

確か私は……切ちゃんとおさんどん係として買い物をしてて……切ちゃんが休憩しようって持ちかけてきた所までは覚えている。

……でもその後、身体が熱くなって……その時に何か……金色の影を見たような……アレは……誰?

 

「……ゴメンね、おばちゃん。いきなり転がり込んじゃって……」

 

「いいって事サ。それに、謝らなきゃいけないのはコッチの方だしねぇ……ゴメンね、皆に振る舞うからって予約の話断っちゃった上に、逆に飲み物の確保まで手伝って貰っちゃって……」

 

「いいのいいの。今夜の会合は元々緊急の話だったしね。其処は俺の自腹でお手伝いさんを雇って対応したから大丈夫大丈夫。」

 

━━━━状況を整理する私の耳に聴こえてくるのは、誰かの会話。

……その片方の声に、聞き覚えがある気がするけど、一体誰だろうか?

 

「━━━━あぁそうだ、切歌ちゃん。調ちゃんが起きたら流石に話がややこしくなりそうだし、俺はもう行くよ。それじゃ、また。」

 

「えっと、こういう時は……覚えてやがれ!!……って言うんでしたっけ?」

 

「ははは、それじゃ恨み節になっちゃうねぇ。

 ━━━━またね。でいいのサ。こんな時はサ。」

 

「━━━━じゃあおにーさん、またねデース!!」

 

━━━━切ちゃん、何かあったのかな?

軽やかな声で、誰かと話す切ちゃんに少し安心。

身体が熱くてうろ覚えだったけれど、休憩している時の切ちゃんはなんだかふさぎ込んでいたような気がしたから。

 

「━━━━あ、調!!目が覚めたデスか!!」

 

「うん……此処は?」

 

「━━━━昨日、調と立ち寄ろうか悩んだお好み焼き屋さんデス。

 ……調が急に倒れちゃったから、少し休ませてもらったんデスよ。身体、もう大丈夫デスか?」

 

━━━━熱は無い。むしろ、快調?

 

「……うん。もう大丈夫みたい。ご迷惑を掛けちゃったみたいだし、何かお礼を……」

 

「━━━━気にしなくていいサ。可愛い女の子が倒れたってんなら、助けなきゃ人道に悖るってもんさね。」

 

━━━━私達が買い物した袋を部屋の中に持ち込みながら声を掛けてくれた女性、店主さんだろうか?

 

「おばちゃん!!ありがとうございましたデス!!」

 

「うんうん。元気があって大変よろしい。次に此処等辺に寄ったら、今度は皆でお好み焼きを食べに来てね?」

 

━━━━お好み焼き。そういえば、切ちゃんもさっき言ってたっけ。

 

「……ありがとうございました。

 ━━━━切ちゃんも、ありがとう。ここまで運んでくれたんでしょ?」

 

「うぇ!?あー、えーっとデスね……」

 

「ふふふ……親切な人が通りがかって助けてくれたのサ。」

 

「……そうだったんですか?その人は……」

 

「仕事があるからって行っちゃったよ。だから、いつか直接お礼を言ってあげな?」

 

「━━━━そうデスよ調!!今は無理でも、いつかちゃんとお礼をするデス!!」

 

━━━━一体誰なんだろう?通りすがりの人……もしかして、さっきの声の男の人?

急に倒れたという私と切ちゃんを助けてくれたんだし、きっと優しい人なんだな。

 

「……うん。いつかもう一度出逢えたら、私もちゃんとお礼を言いたいな。」

 

━━━━ありがとう、親切な人。って、とりあえず心中でお礼を一つ。

私達が世界を救ったら、貴方にお礼を言えるといいな。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━マムと共に私が立つのは、森の中の湖の畔。

あの後、二課の追手を撒く為に郊外の森林地帯へと隠れた私達は、一晩を経てそれぞれの役目を果たす為に行動していた。

 

……そう、役目を果たす為……

 

「━━━━マム……役目を果たすって、難しいのね……」

 

━━━━私は、怖い。

あの七彩騎士そのものが、では無い。

腕を食い千切られたガングニールの少女の慟哭、()()()()()()()()()()()()()()()()()という自らの決断を受け入れてしまう事。

それが何よりも……怖い。

 

「……そうですね。私達が自らに課した役目……世界を救うという理想もまた……」

 

「━━━━このままだと私達、生きているままに壊れてしまうかも知れない……」

 

━━━━ぽつりと零してしまった本音は、しかし現実を的確に表していた。

……そもそも私達のフロンティア計画は『地球からの脱出』を最終目的としている。

……それはつまり、あの日のセレナや、ガングニールの少女のような悲しみを産み出し、それ等を総て切り捨てるという事を意味する。

切歌と調は、あんな犠牲がこれからも産まれる事を直視出来るのか?いや、そもそも私自身も耐えきれるのか?

 

「……やはり、貴方は変わりませんね。マリア……

 ━━━━お聞きなさい、マリア。私は……二課との交渉を行うつもりです。」

 

━━━━マムの言葉に、私は思わず耳を疑った。

 

「━━━━待って、マムッ!?二課との交渉と言ったって、私達に有利な札なんてなにもないのよッ!?

 それに、二課の連中が月の落下に対して有効な手立てを用意出来るのかもわからないッ!!

 そしてなにより、それは……」

 

そう、分からない。二課が如何に超法規的措置を行える特務機関であるとはいえ、その上層部は日本を裏から操る風鳴の血筋に染まっているのだ。

そしてなによりも大事な事。

━━━━私が、フィーネを騙っているという事実。それが明るみに出れば私達の宣言の信頼性は揺らぎ、二課が私達の意見を信じるかどうかも怪しくなる。

 

「━━━━いいえ。だとしても、これ以上貴方に新生フィーネを演じてもらう必要はありません。」

 

「マムッ!!」

 

「貴方はマリア・カデンツァヴナ・イヴ……フィーネの魂など宿してはいない……ただの優しいマリアなのですから……

 それを否定する事が出来ないのは、私の弱さです……」

 

「そんな……でも、私がフィーネを騙らなくていいとしても、二課とのチャンネルをどう繋ぐの!?

 私達の一挙手一投足を米国もまた監視してる!!待つにしても、二課よりも先に米国に見つかってしまうわ!!」

 

「━━━━ノイズ災害からの避難誘導をおこなうボランティア団体。そのトップこそ……あの少年、天津共鳴です。

 故に、そちらのボランティア団体にフィーネからのメッセージを送りました。詳細は後で話します。まずは今夜のフロンティア起動実験……それが、総てを決定します。」

 

━━━━マム……一体どうして、此処に来て計画の大幅な変更を……?

その理由は……やはり私が覚悟を定められていないからなの……?




━━━━天を摩する塔に数多の思惑が集う、その前夜。
遠く離れた火の島にて物語は別なる局面を映し出す。

思い出すのは、炎の記憶のその後の話。
謎のヴェールに包まれた真実(ヴァールハイト)の一端。
小夜曲の安らぎが彼女にひと時垣間見せた、とある隻腕の男の物語。
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