戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第六十話 暗闘のデュエリスト

━━━━夜の郊外の街中で、重要時以外は送話しか出来ない筈の公衆電話が鳴り響く。

普通の人間が見たのなら、チープな怪談話にしか見えないだろう。

だが、それを待っていた俺はすぐさま受話器を取る。

 

「━━━━俺だ。ラズリーか?」

 

『……ボクの名前はラズロだって言ってるだろ、アゲート。』

 

「ハハハ、すまんすまん。んで定時連絡だが……コッチは指令待ちだ。現地エージェント諸君も今の所は大人しいもんだ。よほどドクターの乱心が応えたと見える。」

 

『それはありがたいね。そっちに潜り込めてるエージェントは貴重なんだ。ただでさえルナアタック事件の時にフィーネの甘言に乗って人員を損耗したって言うのに……』

 

「……フィーネ、か。俺達にとっちゃ疫病神みたいな存在だなぁ。」

 

『まぁね。FISの連中は躍起になってあの女の遺した櫻井理論を基に聖遺物理論を組み立てちゃいるけれど……』

 

「そんなもんは所詮は異端技術。再現性や信頼性の点で言えば当然既存技術体系には幾分も劣る……戦場(せんじょう)で命を預けるならまぁ、俺はこの無骨で不作法な銃で結構さ。」

 

━━━━異端技術(ブラックアート)

俺達米国所属者にとってのその言葉は、米国が世界の最先端を往く為に表向きの科学技術と同時に研究を続けている特異な技術体系の事を指す。

 

『そんな事言っていいの?キミの使ってる双対四挺も、一応基幹設計の一部に異端技術由来の先端科学が使われてるっていうのに。』

 

「あぁ。先端科学となったって事はつまり()()()()()()って事だからな。

 六年前の《天の落とし子》やら、ルナアタック事件……果てはシンフォギア・システム。ああいう再現性が欠片も無い奇跡のような綱渡りだけは御免被るってだけの話だ。」

 

『……ま、キミの場合は最前線に立つ戦士だものね。確かに、信頼出来ないプログラムを渡されてもはいそうですかとは言えないか……

 ━━━━雑談はコレくらいにして本題に入ろうか……状況がついさっき動き出したよ。

 FIS側からノイズからの避難誘導を行うボランティア団体を通じて二課への接触があった……

 《貴方が求める物について交渉に応じる余地あり。ついては明日の太陽が天頂に輝く時、もう一つのカ・ディンギルにて待つ》……

 文面はコレだけ。文面からして暗号なのは間違いないから念のため暗号解読プログラムには掛けてみたけどヒットは無し。

 換字式や転置式じゃなくて《鍵》が必要な物じゃないかな?』

 

━━━━ついに来たか。

FISからの脱走者であるフィーネは、持ち出した神獣鏡の機能によって光学的ステルスが為されており、ローラー作戦でも無ければその所在を見つける事はほぼ不可能だ。

まさか、偶然歩いていたら行き逢うだなんて偶然などあるまいに……

それ故、米国は二課の動向に強く探りを入れていた。フィーネが動けば、二課も動くのだから。

 

「……文字通りのキーワードが必要って事か。まぁ、重要事項ではあるが一般のボランティア団体を間に挟むんだ。時刻について捻る理由は特に無いだろう。」

 

『このメッセージの存在自体に気づかれなければ意味が無いワケだしね。となれば……』

 

「━━━━明日の正午。それは間違いない。だが……もう一つのカ・ディンギルとはどういう事だ?

 一つ目が零番地のカ・ディンギル址地を指すのは間違いないだろうが……」

 

『うーん……もしかして、二課の行動とリンクしているのかな?』

 

「二課の行動……というと?」

 

『ルナアタック事件の資料によると、二課はカ・ディンギルの情報を掴んだ後、装者三人を東京スカイタワーへと集結させている。コレは出現した巨大飛行型ノイズに対する動きでもあるんだけど……』

 

「……確か、カ・ディンギルという言葉は塔を意味する事もあるんだったな?」

 

『うん。そして、スカイタワーは二課の情報通信データの統括・制御機構をも備えている塔……

 となればこの巨大飛行型ノイズの出現そのものがフィーネによる陽動だったという事になるのかな?』

 

「そうだな……恐らく、フィーネとしては時間稼ぎのつもりで急遽仕立て上げた偽の塔だったんだろうが……皮肉だな。」

 

━━━━もう一つのカ・ディンギル。新たなフィーネが提示した、その条件。

 

『皮肉って?』

 

「フィーネがかつて建てたカ・ディンギルってのはいわゆる《バベルの塔》だったんだろう?

 ━━━━伝説にある通りに《言葉をより遠くへ届けて遍く人々が一つであり続ける事》を求めて作られた塔だってんなら、電波通信によって人々を繋げる事を目的と造られたスカイタワーは、

 荷電粒子砲なんぞよりもよっぽど尤もらしいカ・ディンギルと言えるだろうからさ。」

 

『あぁ……なるほどね。確かにそれはそうだ。最も新しき現代のバベル・タワー……なら、ボク等はさしずめ神の落とした雷霆ってとこ?』

 

「━━━━冗談。俺達は神罰なんかじゃねぇ。ただの……人間だ。」

 

『ハハハ。それじゃ、明日の正午、スカイタワーでの会談と見てコッチは準備を進めておくよ。突入は間違いなくキミにお願いする事になると思うから、突入用に大激(モラルタ)の準備をよろしく。』

 

━━━━突入用、と来たか。と、受話器の向こうには通じないだろうが俺は一人、眉をしかめる。

 

「あー……大激(モラルタ)紅槍(ガジャルグ)の組み合わせだがな……今回はナシだ。なにせスカイタワーは高さ600mオーバーだぞ?んなとこで倍強化ガラスもぶち抜ける火力をぶちかまして見ろ。

 最悪、モラルタの衝撃で下まで真っ逆さまだ。殺害はオーダーじゃねぇだろ?」

 

『……データチップさえ奪取出来たなら、その後の手段は問わない、との事だよ。』

 

━━━━此処で言いよどむ辺り、ラズロも割り切れない少年だな。と内心で苦笑する。

簒奪帽者(ザ・ホワイト・ハットトリッカー)》なんて呼ばれちゃ居るが、俺からしたらエシュロンシステムと適合しただけのただの小僧っ子だ。

 

「ならそっからは現場判断だな。なぁに、弾が勿体ねぇし、黄槍(ガボー)小激(ベガルタ)で平和的に解決してきてやるさ。」

 

『……脅迫の時点で平和的からは程遠いと思うんだけど……まぁいいや、それと……どうも他の七彩騎士もそれぞれ好き勝手に動き出してるみたいだよ。

 コッチにも詳細を明かしてはいないけどハワイへと向かってるのが、《虐殺旗艦(ザ・ジェノサイド・ブラックノア)》と、奴に雇われたらしき《二天一流(ザ・ダブルキャスター)》。

 そして、いつも通り詳細不明だけどその動きを受けて動き出した《黄金幻夜(ザ・ナイト・オブ・ゴールド)》……どいつもこいつも報連相がなってないんだから……』

 

━━━━電話口で俺が思わず頭を抱えてしまったのも仕方ない事だろう。

七彩騎士は確かに自力裁量を米国から承認された特務機関だ。だが……

 

「七人中三人の行動が詳細不明ってのはどういう事だオイ……ッ!!

 《絶望獣輪(ザ・ディスペアー・ホイール)》と《新界巣生(ザ・グレイテスト・オブ・ネスツ)》が以前から独自行動を取ってるのは知ってたが……よりにもよって残り三人も勝手に動くか!?」

 

『しょうがないよ……ルガールの奴は基からして米国とは対等の交渉関係に居るし、アイツが本気で報酬を出せば根無し草のイオリはまず間違いなく釣られるだろうし……』

 

━━━━ルガール・バーンスタイン。出自不明ながらに武器の製造・輸出に長けたいわゆる《死の商人》として名をあげた男だ。

だが、十数年前にある異端技術に接触して片目を奪われた事を機に奴は異端技術との伝手を求め……

その末に当時の七彩騎士の一人であった謝華グループ総帥、《邪華抱妖(ザ・ヴァリアブル・クイーン)》を殺害する事でその力を見せつけたのだ。

 

「━━━━にしたって、目的はなんだ?いくらなんでもコレを機に米国に反旗を翻そうってワケでもあるまい?」

 

『FISのロスアラモス研究所との秘匿回線を利用した形跡があるから、恐らくはそっちとの交渉の上だろうけど……とはいえ、ハワイに向かってる事は間違いないから今回の件と直接関わるワケじゃないとは思う。』

 

「まったく、どいつもこいつも……ッ!!

 ━━━━ん?」

 

━━━━あまりの身勝手さに思わず電話機を叩いた瞬間、感じる違和感。

 

『どうしたの?』

 

「……コレは、コイン……ッ!?」

 

複雑な模様が描かれた、通常の日本硬貨とは全く異なる意匠の黄金色のコイン。それが、何故か公衆電話の返却口に置かれていた。

━━━━それに気づいた瞬間、感知限界のその先から感じる違和感。

振り向きながら、懐の大激(モラルタ)へと手を伸ばす。

 

『━━━━アゲート!?』

 

━━━━だが、其処には何も無い。電灯もまばらな郊外の建物は闇の中に沈み、当然ながら人の気配も、息遣いも感じられない。

 

「……なんでもない。誰かに見られてる気がしたんだが……とにかく分かった。ラズロは引き続きあのバカ共の行方を探ってくれ……頼んだぞ。」

 

『りょーかい。』

 

━━━━仕方も無いが故に違和感はそのまま、コインを投げ上げて足早にこの場を去る。

……なんでもない筈の任務だというのに、どうにも気が重いのは、相手が相手だからなのだろうか。

 

「……共ちゃん。」

 

呟いた言葉は風に乗り、解けて消えた━━━━

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━だが、誰にも聞き取れぬ筈のそれを聴き取る存在が、確かに居た。

 

「━━━━流石は音に聞こえし七彩騎士。この距離でコインを介した共振傍受術式を半ば見抜くとは。地味に厄介。」

 

━━━━それは、四大の具現たる地のヒトガタ。

屋根より飛び降りた勢いを大地に逃がしながらに立ち上がってポージングをキメるその動きは、紛れもなく人ではない。

 

「……しかし、やはり……私に地味は似合わない……だが、まだ派手に行くには早すぎる……まったく……歯痒いとはこういう事か。」

 

━━━━その名は、レイア・ダラーヒム。地のアルカナを示し、地より産まれる貴金属より錬成されるコインを使いこなす自動人形(オートスコアラー)の一である。

 

「━━━━しかし、フィーネのメンバーが米国と接触していないとは。地味に意外。

 コレも、()の介入の結果か……或いは……いや。派手な結果が出揃うまでは、予測するだけとしておくべきか。

 それよりもまずは……有事の介入に備えての想い出の確保を優先。」

 

━━━━そして、夜の街へとヒトガタは去る。その後に、奇妙な紋様の刻まれたコインを遺しながら……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━ハワイ近海に座する空母・ブラックノアのブリッジにて、私は通信で繋がれた先の惨状を眺める。

 

「━━━━第一陣は全滅、か。まったく、良く出来た人形だな。」

 

「そうねー。異端技術……錬金術だっけ?それによって発生する風で弾丸を弾き返し、水は弾丸を通さぬ氷壁となる……

 通常装備じゃ荷が重いんじゃないかしら?」

 

隣でそう相槌を打つ女は、私が直々に雇った七彩騎士の一人。

 

「……そうだな。奴等は力を示した。であれば、この私が直々に相手をしてやるのが勝者への礼儀という物か。

 ……お前はどうせ、あの風の人形を狙うのだろう?」

 

「あははははー……まぁ、剣士の性って奴で。」

 

━━━━そう、剣士。

強い相手を倒す事をも楽しみの一つとする私が、わざわざ他者を雇うなどというまどろっこしい真似をしたのは其処にある。

確かに、強者と戦う事は楽しい。そのぶつかり合いの果てに勝利し、その力と命を奪い去るのは至上の甘露と言える。

 

「━━━━あぁ、此度の私は経営者として此処にいる。露払いは任せたぞ。」

 

━━━━だが、今はそれを為すべき時ではない。

優れた経営者は私情だけで動かず、機を逃さぬ者なのだから。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━ん……む、ぷはぁ……んー、美味しく食べさせてくれるのはありがたいんですけどォ……これだけで終わりだと流石につまんないかなー?ってガリィちゃんおもいまーす。」

 

━━━━コレで十二人目。吸い尽くした残骸を放り投げて、エントランスの入り口である大扉に向かって呼びかける。

それに応えて現れるのは、第二陣だろう特殊部隊の面々、そして……

 

「━━━━ハハハハハハ!!咆えるでは無いか、人形風情が。オートスコアラーだったか?貴様本体はともかく、その技術は興味深い。

 どうだ?我が社にて素体となる気はないか?」

 

━━━━赤いスーツに身を包んだ、身長2mを超える巨大な男。

七彩騎士の中にあって、()()()()()()()()()()()()と並んで、米国と最も対等に立ち回るその男。

 

「━━━━よぉうこそ御出で下さいました。ルガール・バーンスタイン様ァ……ですがァ、ガリィちゃんてば仕事のやりがいにはうるさい性質(タチ)なのでお断りしまぁす。

 ……そしてぇ、御主人様はお忙しい身ですのでぇ……アタシが代わりに要件をお聞きしますねェ?」

 

「━━━━うむ。話が早いのは良い事だな。

 ……要件はただ一つ。セレナ・カデンツァヴナ・イヴの身柄、及び貴様等が回収したシンフォギア……アガートラームのギアコンバーターの供出だ。

 つまり、米国と貴様等の間の契約はこの場を以て破棄する、という事だ。返答は如何に?」

 

━━━━オートスコアラーの機能が蒐集した情報を基に弾き出した予測通りの要求に、内心ツマラナイと思ってしまうガリィちゃんなのでした、まる。

 

「……お断りいたします。あの少女はマスターが招いたお客人。それを力によって奪おうとするような無粋な乱入者に渡す物など……コレくらいしかねェんですよッ!!」

 

━━━━アイサツも無しに繰り出すのは、大質量を以て侵入者を弾き出す濁流の錬成。

 

「ガリィちゃんが司るのは四大の一つ、水ぅ!!流れる物、押し寄せる暴威!!アハハハハ!!そんな重い物纏ってるからァ……?」

 

━━━━重武装故に抗い切れずに、苦悶の声と共に流されて行く特殊部隊の面々を嘲笑うだけだった筈のアタシの視界は、何故かすぐさま真っ黒に。

 

「コレ、靴うラぁ!?」

 

           ━━━━デッドエンド・スクリーマー━━━━

 

「━━━━フハハハハ!!温い温い!!その程度の水流で私を食い止めようなど片腹痛いわッ!!」

 

いつのまにやら宙を跳んでアタシの頭上を取ったソイツは、そのままガリィちゃんのかわいいかわいい顔を足蹴にして、挙句の果てに大回転までかましてきやがったのだ━━━━!!

 

「━━━━ッ!!この、クソ野郎がァ!!」

 

━━━━あったま来た。マスターからは適当に相手してやれって言われたけど、絶対殺す……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━ん……さて、私のお相手は貴方一人、という事でよろしいのかしら?十三代目宮本武蔵の襲名者、宮本伊織さん?」

 

「うわぁ……舌まで入れちゃってる……あぁ、うん。そういう事になるのかしらね?

 露払いというか、完全に別行動になっちゃってるけどまぁいいとしましょう!!」

 

━━━━屋敷の裏庭にて、突入してきた特殊部隊を戴く私の前に現れたのは、ブカブカの羽織に身を包み、二本の刀を腰に差した少女。

彼女は宮本伊織。二天一流と謳われたという宮本武蔵の剣を継ぐ十三代目にして、若干二十歳ながらにして七彩騎士へと上り詰めた剣豪でもある。

 

「この剣が、貴方を呼び寄せてしまったのかしら?なら先に謝っておきますわね?

 ━━━━なにせ私、剣で負ける事は有り得ませんので。」

 

私の誇る剣を掲げて、彼女へと謝意を伝える。ですが、コレは決して侮りや慢心ではありません。

 

「アッハッハッハ!!まぁ呼び寄せられたのはそうなんですけど、その謝罪は必要無いですよ?」

 

「あら、どうしてかしら?」

 

だが、少女は気にした風も無く言葉を返す。

 

「━━━━その有り得ない事を、今から起こすの……でッ!!」

 

━━━━瞬間、十メートルは離れていた少女との距離が、一瞬で零になる。

噂に違わぬ速度。そして……

 

「噂に違わぬ斬撃……

 ━━━━ですがそれでも、それが()()()()()()()……」

 

「━━━━ッ!?」

 

━━━━一合、打ち合う。それだけで違和に気付き、間合いをとって引き下がる少女。

それを追う必要は無い。なぜならば、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……一発、たった一発打ち込んだだけで……?」

 

━━━━手の内にて崩れる刀を茫然と見つめる少女。ですが、その困惑も一瞬で消え、崩れた刀を投げ捨てながらに残った一本を正眼と構える。

 

「あら。凄まじいですわね?今の一合だけでこの《ソードブレイカー》の危険性を察知して下がるとは。流石は七彩騎士。」

 

「ソードブレイカー……!?でもその形状は……まさか、コレが師匠の言っていた《魔剣》って奴?」

 

「えぇ、そうですわね。貴方方人間の剣士が振るう技の到る場所である《剣技》には非ず……

 コレは、人々の認識が()()()()()()と呪った哲学の刃。」

 

━━━━哲学兵装。

《剣を折る剣》と人々に認知されたソードブレイカーの要素を抽出、錬成し、剣という概念を持つ器……即ち私に付与した事で完成した錬金武装。

通常のソードブレイカーが剣を折る為の機構を備えるように、私を構成するこの剣はただ存在するだけで剣を容易く手折る呪いの集積複合機構。

 

「なるほどね……形状では無く、名が背負う呪い……この前行き逢った村正みたいなモンか……!!

 そして、遠距離武器で倒そうにも貴方が纏う風はそれを弾き返す……それを嫌って近接に持ち込もうにも、刃の付いた武器は総て剣の呪いにて砕かれる……ッ!!

 拳で抗おうにも、剣を持つ相手に勝とうとするなら埒外の膂力か、技量が無ければ能わない!!隙が無い構築!!」

 

━━━━そう。遠かれば跳ね返し、近ければ間合いによって絶対的優位を保つ。

オートスコアラーとしての出力で言えばミカに届かぬ私ですが、戦術の組合せたる戦略面においてはまさしく同等以上の戦力となり得るといういい例です。

 

「━━━━分かっていただけたようで何よりですわ。さて……では、それを踏まえてどうなさいますか?

 尻尾を巻いて逃げ帰るのでしたらそれも結構。私の職務はただこの屋敷を護る事ですので。」

 

━━━━微笑みながら告げるその言葉は、あからさまな挑発。

剣に生きるモノが、()()()()()()と告げられておめおめ引き下がれる筈も無いでしょう。

 

「━━━━冗談。剣士がメタ張られたくらいで引き下がったらそれこそ完全なる()()でしょ。

 たいそうなご説明でやり方は幾つか見えたもの……こっからは私の反撃の時間……よッ!!」

 

━━━━その言葉と共に再び飛び込んで来る少女。ですが、その手に握る刀は未だ振り抜かれず、いわゆる胴構えの逆を為してその刀身を覆い隠す。

ですが……

 

「クッ……その構え!!打ち下ろし以外の力は掛けにくくても、()()()()()()()()という思想の上で待ちに徹するのなら最適ね、それ!!」

 

隠した刃を振り抜く事無く、少女は反対側へとすり抜ける。

私の構えが後の先に向いている事を察して振るう事をやめたのでしょう。

 

「お褒めに与り恐悦至極……とはいえ、私の刃はただ受けて砕くだけではありませんよ……ッ!!」

 

━━━━ですが、それを漫然と待つだけで終わる私ではありません。

この大上段に構える動きが後の先に向いているのは幸いなる偶然の一致。

私の剣技の真価はオートスコアラーたるこの身の駆動と膂力を活かした人外の剣……例えばそれは、この突きのように━━━━ッ!!

 

「クッ……!?」

 

身を捻り、私の攻撃を受けもせずに無様に避ける少女。ですが……

 

「胴ががら空きですわよ……ッ!?」

 

このまま掻っ捌いて真っ二つにしてさしあげます。

━━━━そう告げようとした瞬間、人形たるこの身が捉えたのは、捻った勢いを利用して、懐から何かを取り出す少女の姿。

 

「━━━━幾つか見えたって言ったでしょ?二天一流たる者、勝つために色々使えるようにしておくのは当然至極ってね?」

 

━━━━それは、少女が握るにはあまりに無骨過ぎる代物。

恐らくは、コルトSAAのカスタム品。しかも……

 

「撃鉄を起こしたままでの携帯をッ!?」

 

シングルアクションには所謂安全装置の類いは殆ど無い。撃鉄を起こし、引き金を引くという二動作だけが発射までのプロセスとなる。

そしてそれはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事。一歩間違えれば懐の中で暴発を起こしてもおかしくないというのに……!!

 

「そうじゃなきゃこういう状況で使えないで、しょッ!!」

 

━━━━なんと恐るべき剣士なのでしょうか、彼女は。

いわゆる早撃ち(クイックドロウ)の一種、シングルアクションのみが可能とする()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

彼女はそれを、親指と中指の二回行ってきた。即ち、三発の連続射撃を━━━━!!

 

「━━━━ですが、無粋な弾丸は私には届かない……ッ!!」

 

しかし、それも無意味な抵抗。何故なら、私が纏う風は弾丸など弾き返すのですから━━━━!!

 

「━━━━そうだね。一発なら、決して届かない。」

 

━━━━少女の言葉は揺ぎ無く、そして、偽りも無かった。

人形の視界の中で、風のバリアに至近距離でぶつかる一発目の弾丸。

人間であればまず見落としてしまうだろう瞬き程の刹那、私は確かに見た。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()━━━━!!

 

「ガッ━━━━!?」

 

かち合った弾丸は、押し込まれた勢いで右目に直撃する。

━━━━なんという絶技!!

 

「けどさっき、映像で見て気づいた。弾丸を返す時、打ち返しに集中するから貴方は動けない。

 ━━━━そして同時に、弾丸を弾き返すその風も決して無敵じゃない。乱射された時、全ての弾丸が弾き返されたのでは無く、貴女の足元に幾つかの弾丸が落ちていたのがその証。

 なら、こうして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。違う?

 ほら、さっさと起きなさいよ。人形なんだから脳幹撃ち抜いた程度で死にやしないでしょう?

 ……こんな弾遊びでアンタを倒しても意味が無いわ。

 ━━━━私の剣で、アンタの魔剣を砕く。そうでなければ、私がアンタに勝ったことにはならない。」

 

━━━━弾丸に頭部を貫かれ、倒れ伏す私に容赦ない言葉を掛けつつ、彼女は折れた刀を拾う。

 

「……まったく。容赦のない剣士なのですね?貴方は……ウフフフフ……!!」

 

━━━━昂る自分を抑えられない。マスターの命令を逸脱する気は更々無い。

だがそれでも。

 

「━━━━えぇ。それでこそ砕きがいもあるという物ッ!!

 この魔剣(ソードブレイカー)にて貴方を支えるその剣を総て砕き散らして、苦悶の中で貴方にトドメを刺してこそッ!!」

 

「……なんだ。ただのお人形かと思ったらいっちょ前の剣士じゃない。そう、己の剣こそを最強だと断ずるからこそ……構える剣は過たず、はだかる壁を微塵と斬り捨てるッ!!」

 

━━━━私の上段の構えに対して、彼女が構えるのは()()()()()()()。正眼に構えたそれに刃は無く、当然それは()()()()()筈だ。

 

「━━━━どうして?って雰囲気してるんで、わざわざ説明してあげる。

 コレはね。師匠から禁じ手扱いされてる名も無い技よ。

 ……いいえ、もしかすると、失踪したって言う《初代》の剣は届いていたのかも知れない。」

 

握った柄など、断じて剣では有り得ない。その筈なのに。哲学の牙が震えをあげる。

━━━━剣が、其処に居ると。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━師匠の話は、毎度毎度難しいのでよくわからなかった。

 

『……いいか。伊織。俺等剣士は剣を振る。だが、それは誰かを殺すとか、斬ってやりてぇだとか、ンな()()()()()()()()じゃねぇ。

 大体、人を殺すってんなら、今のご時世剣を振るうよりも銃で撃った方がはえぇ。

 ━━━━俺達は、()()()()為に剣を振るうンだよ。

 そんで、お前のそれは恐らく、歴代でも三指に入る程《純粋》だ。だからこそ、お前が()()のに御大層な名剣・名刀だのはもう必要ねぇ。

 有った方が勿論いいが……んなもン無くったって━━━━』

 

━━━━意味は分からないが、意義は分かった言葉の通りに、意を構える。握った柄を緩く握り、相手の喉元に切っ先を突きつける事で牽制とする。

所謂、正眼。尋常でないのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()というただそれだけ。

 

「━━━━剣気、収斂。

 南無、天満大、自在天神。我が一刀、未だ零に到らぬ未熟な生なれど……

 ━━━━剣閃に歪み無く。我は唯()()事のみに特化する。」

 

━━━━師匠に見出されたあの日、私は木を斬り倒していた。それが異常なのだと知る事も無く、山中にてただただ枝を振るって総てを斬っていた。

私に過去は無く、想い出は無く、類縁もまた居ない。

合理的に考えて意味が分からないが、きっと斬る為に捨ててしまったのだろうと師匠は言う。

 

「━━━━剣で無いというのに……!!いいえ、貴方そのものが剣と言えましょうか……!!」

 

「━━━━折れるものならば折ってみなさい、魔剣人形。

 我が生涯、我が総て。文字通りの《全力》の一刀を……!!」

 

━━━━斬りたいと思うから、物は斬れるのだ。

意思は物理法則を捻じ曲げ、極光となりて剣を成す。

 

━━━━私はそれを八相に構え、そして……

 

 

          ━━━━ギガンティックプレッシャー━━━━

 

 

━━━━横槍をねじ込んで来た傍迷惑な連れ。その一撃が押し倒して来た壁を切り裂いた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……社長。真剣勝負に横槍入れないでよね?」

 

「む。すまないな、イオリくん。態とでは無かったのだが……どうにも、この屋敷は脆くていかんな。もっと強度を上げるべきでは無いかね?」

 

━━━━よもや、あの人形を壁に叩きつけた一撃だけで屋敷の壁面が大きく崩壊してしまうとは思わなんだ。

私やギースの屋敷であればこうはならんのだが……

 

「まったく……この屋敷は戦闘用ではありませんのよ?そんな馬鹿力でオートスコアラーをぶつけられてしまっては壁ごと吹き飛んで当然でしょう。

 ━━━━ねぇ、ガリィ?」

 

もう一体の人形が声を掛けるのは、私が吹き飛ばした事で今も瓦礫の中で倒れ込む、水を司る自動人形めに対して。

━━━━だが、それが嘘である事など当然に見抜いている。

 

           ━━━━ジェノサイド・カッター━━━━

 

「━━━━ゲェ……ッ!?」

 

分身か何かと入れ替わっての頭上からの強襲を狙うも。私の蹴り上げで吹き飛ばされる人形。そしてその裏で、瓦礫の中の人形が水と崩れる。

 

「━━━━フン。その性根の腐りようならば私と同じ攻撃で鬱憤を晴らしに来るだろうと読んでいたが……あまりに読みやすいと些か拍子抜けだぞ?」

 

「……この、クソ野郎がッ……!!

 絶対生きて返さねぇッ!!マスターからは禁じられてるけど、()()を使ってこいつ等を……」

 

━━━━私の挑発が逆鱗に触れたのか、何やら切り札らしき物を取り出そうとする人形。

……なるほど、《結社》が秘匿するという秘奥術式。それを結社に敵対する事無く拝める日が来ようとはな。

その危険性を見極める為に構えながらその切り札を見据えようとする私達の間に割って入る、いっそ能天気な程に明るく、しかし同時に誰よりも切実な声。

 

「━━━━ちょっとちょっとちょっと!!流石にそれ使われたらあーし達まで困るんですけど!?」

 

━━━━其処に居たのは、この場における三人目の七彩騎士。

黄金幻夜(ザ・ナイト・オブ・ゴールド)》……アレッサンドロ・ディ・カリオストロを名乗る変態だった。




━━━━その騎士の名は、以外の意外。
権謀術数の坩堝の中で、泳ぎ揺蕩う最古参。
黄金なる結社の看板をも背負う彼女の介入で混迷を極める事態は正転へと転がり始める。

それと時を違えて始まるは、誰もが知らぬ物語。
誰にも真意を語る事の無かった男の、同情を求めぬただの独白。
だがそれ故に……その叫びは、何よりも純粋だった。
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