戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第六十二話 晴天のスカイフォール

「━━━━デタラメ、だと?」

 

「はい。NASAが公表している月の公転軌道と、我々が独自に収集したデータを解析した結果には、僅かながらの差異がある事が確認出来ました。」

 

「この誤差自体は非常に小さい物ですが……月軌道程の大規模な軌道に対する影響となれば、一年後、十年後にどれほどの大きさになるか……」

 

━━━━ここ数日、我々二課が探り続けていたルナアタック後の月軌道に関する情報収集。その結実が齎した答えは、あの日にドクター・ウェルが言い放った言葉を裏付ける物だった。

 

「ルナアタックの破損が齎した月の公転軌道のズレは今後数百年の間は問題無い……という、米国政府の公式見解を鵜吞みにするワケにはいかない、という事か……

 ━━━━いや、だからこそFISは動き出した、という事か……」

 

━━━━確かに、コレは難題だ。

月という34万キロの彼方に浮かぶ地球の隣人。だが、それが落ちてくるとなれば……まず間違いなく、人類は滅ぶ。

我々人類は未だ宇宙への本格進出を果たせてはいない。それ故、地球という星そのものが消え去らずとも、その表面の環境が激変するだけで容易く滅亡してしまうのだ。

かつて、6550万年前にメキシコはユカタン半島付近へと落ちた小惑星『チクシュルーブ』が齎した寒冷化などの環境変動が地上から恐竜を絶滅させたように……

 

確かに、その前提を考えれば、月の落下が起きる前に人類を救う手段を探る事、それは理解出来る。だが……

 

「……その為に、十万の観客を、数多くの人々を犠牲と計上して……本当にそれしか方法は無かったのか……?」

 

━━━━どうしても、思ってしまう。これでは了子くんに……いや、今代のフィーネだというマリアに笑われてしまうだろうな。と、頭を振ってその甘さを隅へと追いやる。

 

「━━━━ですが、希望はあります。此方の資料を見てください。

 S2CA・トライバーストを複数回重ねる事で空間のフォニックゲインを極限まで練り上げ、ギアのエクスドライブモードを起動させた上で……

 アメノハゴロモの空間跳躍にて月遺跡へとアタック、月内部から直接アクセスする事で月軌道の正常化を図る計画の草案です。」

 

そんな折に藤尭が提案してきたのは、荒唐無稽に片足を突っ込んだ突拍子も無い計画だった。

 

「━━━━なに!?……なるほど、確かにアメノハゴロモの超長距離空間転移を用いれば、月遺跡そのものに乗り込む事は可能か……

 確かに、現行技術での解決が不可能だというのであれば、先史文明技術での解決法を探るべきなのは道理か……」

 

━━━━それは、FISと同じでありながらも異なるアプローチ。

月遺跡を操作する事での月軌道修正……実際に出来るかどうかはやってみねば分からない。だが、何も打つ手無く指を咥えて見ているよりも、最後まで足掻き続ける事こそ人の為すべき事では無いだろうか?

 

「共鳴くんが相談してくれたんです。月遺跡へのアプローチが出来ないだろうかって。」

 

「共鳴くんが……そうか……」

 

━━━━彼も、ドクター・ウェルの言葉に思う所があったのだろう。

いや、むしろ『手の届く総てを救う』という理想を握る共鳴くんにとってこそ、月の落下による世界滅亡など看過出来る問題では無いのだろう。

 

「……む?そういえば、当の共鳴くんはどこに行ったんだ?今日は一度も見かけていないが……」

 

「あ、なにか用事があるから今日は一日出かけるそうです。」

 

「そうか……まぁ、此処からは大人の仕事だからな。響くん達とデートに行っているのかも知れんしわざわざ待機を求める事も無い、か。」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━スカイタワーの地上部分には、有名な水族館がある。

あの日、ウェル博士を止める為に無理をして倒れた私は、体調こそ戻ったものの融合が進んだままであるからと戦闘行為を禁止されている。

だから今日一日を未来とのデートに費やす事に決めてここに来たのだったが……

 

「……むー。お兄ちゃん、やっぱり既読も付かないし……」

 

「あはは……やっぱり、何か急な仕事が入っちゃったんじゃないかな?前もこういう事が無かったワケじゃないでしょ?」

 

「そうだけどさぁ……やっぱり私が私のままで居るからには、未来だけじゃなくてお兄ちゃんも居なきゃイヤだよ?」

 

━━━━私の事、普通の女の子なんだって言い切った責任くらい取って欲しい。という言葉はそっと胸の裡に仕舞って、それはそれとして本音の言葉を未来に告げる。

その言葉に返ってくるのは、未来の花咲く笑顔。うん。やっぱり私は未来の笑顔が大好きだ。

 

「ふふっ。響ったら欲張りさんなんだから。私だけじゃ不服なの?」

 

「あ、いやそういうワケじゃなくてね!?

 未来の傍に居るとあったかい気持ちになれる唯一無二であってそれは比較とかしようがないんだけどそれはそれとしてお兄ちゃんが居てくれるのも私は嬉しいというか!!」

 

「……ぷっ、ふふっ。分かってるわよ響。デート中なのにお兄ちゃんの話ばっかりだからちょっと意地悪しただけ。

 ━━━━私だって、二人もいいけどお兄ちゃんと三人なのもそれはそれで好きなんだよ?」

 

━━━━その言葉に、気付く。

お兄ちゃんが居てくれないという不平を私が並べる事は、お兄ちゃんが居てくれない事実を未来に再確認させてしまうって。

 

「……やっぱりダメだなぁ、私って。

 ━━━━うん。心配しないで、未来!!今日は久しぶりの二人っきりのデートなんだから楽しくならない筈無いよ!!

 さ、行こう!!今日一日でスカイタワーをコンプリートして満喫しちゃおう!!」

 

━━━━私はやっぱりぶきっちょで、心のままに放つ言葉が知らず知らずのうちに誰かを傷つけてしまう事もたくさんあって。

けれど、私が心のままに在る事をお兄ちゃんは、そして未来は肯定してくれている。

だったら、私は心のままに生きていたい。いつか選択を間違ってしまうとしても、自分を偽って、手を伸ばす事を諦めてしまわないように。

 

━━━━だから私は……皆に笑っていて欲しいという想いを絶対に、絶対に手放したくない。

その為にまず、目の前の未来に笑ってもらいたい。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━スカイタワー最上階にあるVIP用の会議室を架空の名義で借り受けたのは、三日前の事だ。

本来であれば日本に潜入する米国エージェントとの接触を図る為に用意していた架空名義だったのだが……米国がテロリストに身を墜とし裏切った私達を真っ当に扱うとは思えない。

……いや、七彩騎士まで投入してのマリア殺害を狙った以上、最早米国が此方の釈明を聞き届けることは無いだろうと判断し、二課に接触する事を決めたのだ。

 

「……ねぇ、マム。昨日のあの言葉はやっぱり……」

 

「えぇ。言葉通りの意味です。私達に出来た事と言えばテロリストの真似事程度……しかし、私達が真に為すべき事は其処には無く、月が齎す災厄の被害を出来るだけ抑える事にあります。

 ……であれば、テロリストの真似事に拘る必要などありません。」

 

「それは……私が、フィーネを背負いきれなかったから?」

 

あぁなんて、優しい子……

失敗の原因は多岐に渡り、誰が悪かったと断言する事など出来はしない。けれど、マリアはそれを自分のせいだと背負いこんでしまっている。

 

「いいえ。美舟にも語りましたが……失敗の原因はもっと根本的な所にあったのです。

 ……こんな事、もっと早くに気付いておけば良かった。」

 

━━━━それはつまり、武力に依って世界を変革しようとした事。

確かにシンフォギアは強力な兵器ではある。人の身でノイズを排除しうるそのサイズに比さない火力は通常兵器の大半を凌駕しうるポテンシャルを秘めている。

……だが、それを使うのは人であり、それを振るえば誰かを傷つけてしまうのだ。

こんなにも優しい子達に人を傷つける力を与えて、戦わざるを得ない状況に追い込んで……私は一体、何をしていたのだろうか?

 

「……マム?」

 

「えぇ。だからこそ、その間違いを正す為に……これからの大切な話をしましょう。

 ━━━━天津共鳴さん。」

 

━━━━マリアに車椅子を押してもらい、辿り着いた会議室で待っていたのは一人の少年。

二課に所属しながらも、日本の中枢に巣食う風鳴と対立する家計の裔にして、もう一つの防人。

天津家の当主を務める、少年だった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━これからの大切な話をしましょう。天津共鳴さん。」

 

━━━━スカイタワー最上階の会議室にて相対するは、FISの主要メンバーの一人と目される女性、ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ教授。

その背後に控えているマリアと合わせてたった二人だけでの登場に、俺は内心驚いていた。

抜きこそせずとも、抑止となり得る杖を持つウェル博士を同席させる可能性は高いと踏んでいたのだが……

 

「━━━━大切な話、ですか……それは、こうして俺を呼び出した事と関わりが?」

 

「えぇ。まずはコレをご覧なさい。」

 

言葉と同時に、会議室に備え付けられたモニターに映し出されるのは、巨大な構造物らしき図面。

 

「……島?」

 

━━━━その形は、まるで海に浮かぶ島のような形をしていた。

 

「記紀神話における葦原の中つ国平定はご存知でしょう?

 伝承によれば、その際に高天原の使者であるタケミナカタを載せたとされる存在……鳥之石楠船神(トリノイワクスフネノカミ)

 ━━━━その正体こそが、この船です。」

 

「━━━━ッ!?」

 

鳥之石楠船神。それは、いわゆる《国譲り》の際に言及される記紀神話の神格の一つだ。

曰く、鳥と船という《渡る物》の象徴を同一視したとも言われるその神性。

 

「━━━━記紀神話もまたカストディアンに繋がる統一神話の一端だとするならば、高天原より降り立った神格による国譲りとは即ちカストディアンの降臨……

 まさか、コレはカストディアンの入植用宇宙船……ですか?」

 

「ふっ、流石は天津鳴弥氏の息子ですね。えぇ、その通り。

 この船……我々も含め、米国側がフロンティアと呼ぶこの聖遺物は日本の南海に今なお封じられた遺跡であり、その正体はカストディアンの星間航行船だろうと目されています。」

 

「……なるほど。それであなた方の行動の謎は幾つか解けました。ウェル博士が言っていた《月の落下に対する対抗策》……それは、フロンティアを用いた地球脱出計画ですね?」

 

「えぇ。

 ……フィーネが米国と内通しながら進めていたカ・ディンギルの建造……それは米国側には《シンフォギアのフォニックゲインを用いた完全聖遺物の起動計画》として知らされていました。

 フロンティア計画もその中で起動される予定だった完全聖遺物の一つ……日本南海に眠るメガフロートを浮上させ、太平洋上に軍事拠点を形成出来るとなれば米国も否やは在りませんでしたからね。」

 

なるほど、それは確かにそうだろう。

現在では多少落ち着きはしたが、つい数十年前までの東アジア情勢は不安定極まる物だった。それ故に日本は東アジアと米国との間の緩衝材となり、日米同盟と言える蜜月が続いていたのだから。

 

━━━━だが、もしも東アジア情勢に即応できる太平洋上の拠点が日本以外に設営出来たなら?

そうなれば、現状の日本との関係性を続ける必要性は薄くなる。勿論、二重三重の防壁とする為に同盟関係は続くだろうが……岩国など全国各地に点在している在日米軍の一部撤退なども視野に入る。

日本を敵に回すリスクは確かにあるが……それでも、日本が表向きには防衛戦力しか保持していないというお題目で動いて居る事。

そもそもメガフロートを起動させる為に必要なシンフォギアの存在。それを一方的に国際社会に広められる立場にある事などを考えれば、十分に分の良い賭けだ。

 

━━━━フロンティア計画が描かれた青図面通りの物だったのなら、だが。

 

「だが、実態は違った。フォニックゲインを用いた完全聖遺物の起動までは同じでも、その先をフィーネは既に描いていた。」

 

「……えぇ。ルナアタックによって月を破壊し、バラルの呪詛を廃し……それによって起きる重力崩壊の中でも人の安住の地となる最後の楽園(フロンティア)……

 それこそが、フィーネがフロンティアを浮上させようとしていた真の理由。そして、我々はそれを継いで人類を救う……筈でした。」

 

「……筈だった?」

 

「えぇ……そして、それこそが我々が貴方との接触を図った理由です。

 ━━━━端的に言えば、貴方方と手を組みたいのですよ。我々は。」

 

━━━━あまりにも直球に、ナスターシャ教授はその言葉を口にした。

 

「米国がフィーネの遺した研究データを引き継いだ時、既に月軌道の誤差が致命的な物である事は自明の理でした。

 ですが、米国上層部はこの事実を隠蔽し、フロンティア計画を新たな段階に推し進めようとしていたのです。

 ……如何にフロンティアが巨大とはいえ、所詮はメガフロート規模。それでは全人類を救う事は不可能であると断じて……」

 

━━━━その先を言い淀んだナスターシャ教授の心境は察するにあまりある。

彼女がウェル博士とは理想を異にしている事は、今の情報共有だけで分かったのだから。

彼女の後ろで目を伏せるマリアさんの姿も、その直観を肯定している。

 

「……目指したのは、米国上層部などの一部の人間のみによる地球脱出、ですか。」

 

だから、続きを引き継ぐのは此方の役目だろう。

 

「━━━━《オルタネイティブ・フロンティア計画》と名付けられたそれは、我々にとっては到底承服しかねる物でした。

 それが故に我々FISは決起した……しかし、現実とはそう上手くは行かない物でした。

 様々な要因によって我々の計画は行き詰ってしまったのですよ。」

 

「……我々から見れば、貴方達は此方の追跡を掻い潜り身を潜める神出鬼没の集団に見えていたんですがね……」

 

「ふふっ、それは流石に、買い被り過ぎという物ですよ。

 ━━━━神獣鏡のギアの電気的起動によって我々はほぼ総ての追跡を振り切る事が出来ます。ですが、その起動の為の電気はどうやって得るのですか?

 ……確かに、米国が日本国内での作戦用に用意していた隠れ家を用いて一度は補給が出来ました。ですがそれによって、米国に我々の行動ロジックは見抜かれてしまったでしょう……二度目はありません。」

 

彼女達が移動に使っているのがエアキャリアと分かった段階で、二課から各所の大型飛行機への給油履歴等に調査の手が及んだが痕跡は発見できなかった。

てっきり何かしらの伝手があっての物かと思ったのだが……まさか、綱渡りの結果だったとは……

だが、逆にその暴露によってこの会談が罠である可能性はほぼ0になった。なにせ、此処まで内部事情を此方に教えてやるメリットは全く無い。

 

「……なるほど。そちらが逼迫しているという事情はようやくですが理解出来ました。

 ━━━━だからこそ、本題に入りましょう。貴方達は、俺に一体何を求めているのです?」

 

「……えぇ。二課には、我々の保護をお願いしたい。そして、可能であれば━━━━フロンティアを浮上させる事について協力してもらいたい、とも。」

 

━━━━やはりそうか、と冷静に判断する思考と、今なら手を伸ばせるという直観が脳内で相反する。

まず考えるべきは、彼女達を保護した場合のデメリットの問題だ。

彼女達は米国を敵に回した裏切者……つまり、保護すれば米国と敵対する事になる。

……とはいえ、現在の日本と米国の関係は表向きは良いものの、裏では米国の国力に任せた暗躍の数々に辟易しているのだ。今さら裏での対立要素を増やした所で特に問題はない。

 

━━━━そう、裏だけを見れば、だ。

 

「……難しい話ですね。コレがもしも、ライブ会場での演説の前に持ち込まれた話だったのなら……俺は一も二も無く頷いて居たでしょう。

 ━━━━ですが、今の貴方達は国際的に見ればライブ会場十万の命を盾とした立派なテロリストにしか見えない。このまま二課で保護したとしても……

 世界の警察を自任するが故に猛追してくるだろう米国を相手に貴方達の身柄を護り通せるかどうか……」

 

「━━━━ッ!!」

 

半ば試すような俺の言葉に、マリアさんの肩が跳ねる。今の言葉に何かしらの思う所があったのだろう。

……偽りのフィーネを背負う、ガングニールの少女。正直に言って思う所は幾らでもある。だが、今はまず目の前のナスターシャ教授だ。

 

「……そうですか。では、私が首謀者として名乗り出ましょう。マリア達レセプターチルドレンは私の洗脳的教育によって育てられたが故に責任能力は無い。

 これならば、米国といえど私以外を切るのは難しくなるでしょう?」

 

「━━━━マムッ!?そんなッ!!」

 

「━━━━ッ!?」

 

だが、そんな俺の試すような言葉は、決意の言葉に一蹴されてしまう。

 

「落ち着きなさい、マリア。大切なのは何よりも世界が救われる事です。その為ならば……私の命など安い物。」

 

「━━━━でもッ!!」

 

「……はぁ。やっぱり、腹芸は俺の性に合わないですね……

 ナスターシャ教授。試すような物言いをして申し訳無い。

 確かに先ほども言った通り、米国の表だった追及を躱し続ける事は難しいでしょう。

 ━━━━けれどもし、今回の一件そのものが無意味な問題になったのなら?」

 

━━━━ナスターシャ教授の決意、それは決して蔑ろにされていい物では無い。

だからこそ、腹を括ろう。向こうから手を伸ばしてくれたというのなら渡りに船だ。手の届く総て、俺がこの手で救ってやる━━━━ッ!!

 

「……今回の一件を、無意味に?

 一体どうやってそんな事を成し遂げるというのですか?月の落下は世界を滅ぼす極大災害……それが無意味になるなんて……」

 

「そんなの、決まっているじゃあ無いですか。

 ━━━━月の落下から、世界を救えばいいんですよ。」

 

『━━━━なッ!?』

 

━━━━簡単な話。三つよりも、六つあった方が安定するのだ。

だから、世界を救う片棒を担いでもらえば、彼女達の責任が追及される事も……

 

「━━━━そこまでだ。悪いがな。」

 

━━━━そんな俺の画餅を嘲笑うかのように、その男は現れた。

漆黒を伴って、死神(グリムリーパー)のように。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━木漏れ日の中で、一人考える。

リインカーネーション、フィーネの器。

 

「……未来を託された、かぁ……」

 

アタシの中にフィーネの魂が居るかも知れない事に関する不安は特に無い。

━━━━けれど、おにーさんが教えてくれたフィーネの心境の変化。それを知った以上は……アタシだって託された未来をより良くする為に考えなきゃいけない。

だからこうして考えてはいるのだけれど……

 

「……って!!改めて考えてみたらアタシ、そういうの全部マリアやマムや美舟に任せっぱなしでは無いデスか!?」

 

難しい話だから、とか。マム達が関わらせようとしなかったから、とか。頭を抱えながらも色々言い訳は浮かぶけれど、そんな事で良いワケは無い。

フロンティア計画、人類救済のための計画……お題目はそれでいい。だけど、その為にあんな風に犠牲を出してしまう事は……果たして本当に善い事なのだろうか……?

 

「切ちゃん?いきなり叫び出してどうしたの?ご飯の支度出来たけど……」

 

「あ、調!!なんでも無いデスよ!!それで、何を作ってくれたデスか?」

 

━━━━考える事は止めない。けれど、それで調達を心配させちゃったら意味が無い。なので、今はそっと胸に仕舞っておこう。

アタシの大好きな皆が笑っていてくれるなら、それがアタシの……

 

「なんと、298円。」

 

「おぉ……ごちそうデース!!」

 

「ドクターと美舟は新しい任務だって出て行っちゃったし、伸びない内に早く食べちゃおう?」

 

「そうデスね。アイツはともかく、美舟には食べて欲しかったけど、また今度作ってあげればいいだけデス!!」

 

「ふふっ……そうだね。美舟とマリアの分はちゃんと取ってあるし。

 ……ドクターはお菓子しか食べないし、マムはちょっとお醤油を使いすぎだから残念ながら作ってあげられないけど……」

 

「はぁ……皆の偏食っぷりにも困った物デスね……」

 

「……切ちゃんもあんまり人の事言えないと思うけど……」

 

「ほぇ?何か言ったデスか調?」

 

「ううん、なんでもない。行こ?」

 

━━━━腹が減っては何とやら。まずはご飯を食べてから考えるとするのデス!!

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「マム!!」

 

会議室へと押し入ってくるのは、いつかに見た米国特殊部隊と同じ装備の集団。

━━━━読まれていた!?

 

「おォっと、悪いが動かんでくれよ?コッチは引き金がァ軽いんだ。アンタの歌よりも……俺の抜き撃ちの方が遥かに早い。」

 

「くっ……」

 

「どうして此処が……時間に関してはともかく、場所の方はフィーネと二課にしか分からない物だった筈ですが……」

 

「確かに経験に基づく暗号は部外者に流出しても解読されェにくい……だが、残念だったな。アンタ等が持ち出せたように、二課の行動記録については日米の共同研究の際に提示されている。

 ……勿論、多少の推理は必要だったが、な?お陰で寒空の下で探偵ごっこする羽目になっちまったィ。」

 

━━━━やはり、素人の浅知恵では本物には敵わないのだろうか?

二課との直接のコンタクトは米国に気取られてしまう上に、二課という組織そのものを信頼する事は出来ないからと秘密裏に設けたこの対談。

だが、浅はかな暗号(プロテクト)はこうして食い破られ、私達の身を危難へと晒してしまった……

 

「……アゲート・ガウラードさんですね?」

 

「……あぁ、そうだぜ。天津共鳴。」

 

「━━━━父の最期について、訊きたい事があります。」

 

━━━━だが、少年は臆してはいなかった。

七彩騎士を目の前にしてもその眼に宿る決意は揺らがず、言葉を紡ぐ。

 

「ハッ!!銃突きつけられたこの状況で訊く事かよソイツは!!時間稼ぎのつもりだろうが……悪いがその手には乗らん。

 二課だってバカじゃねぇんだ。こんな風に白昼堂々と行動を起こせばすぐに気付く。

 だからまずはそっちの二人共々拘束した上でさっさと退散させてもらう。アメノツムギは追跡される要因になるんで、コッチとしては残念ながら置いて行って貰うがな。

 ━━━━その後なら、幾らでも話して……ッ!!」

 

━━━━異音が響いたのは、その瞬間だった。

 

「あぁッ!?」

 

「━━━━ノイズ、だとッ!?総員、撤退ッ!!」

 

「クッ!?」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「ぎゃああァ……」

 

その強襲に即座に対応出来たのは、七彩騎士と目の前の少年のたった二人だけ。

床下からすり抜けて来たノイズによる強襲、コレは……

 

「ドクター・ウェル……ッ!!」

 

間違いない、ソロモンの杖によって操作されたノイズの襲撃だ。

 

「━━━━マリア!!」

 

「━━━━Granzizel bilfen gungnir zizzl(溢れはじめる秘めた熱情)……」

 

恐らくは、昨夜のうちにこの車椅子に盗聴器を仕掛けていたのだろう。なんとも用意のいい事……!!

 

「━━━━天津共鳴!!申し訳ありませんが、襲撃者を排除する為にドクターがノイズを展開したようです!!

 ……身内の恥を晒して、どうかお願いします。マリアと協力してノイズの排除を。」

 

━━━━ドクターの判断自体は正しい。米国の手際を無意識に侮っていた我々などよりも余程。

だがそれでも、その為にノイズの災禍をまき散らしたまま等、看過出来る筈も無い……!!

 

「……分かりました。ひとまずは、ノイズを排除するまで。その後は貴方達には二課の保護下に入ってもらいます。それでいいですね?」

 

「……えぇ!!」

 

「━━━━この!!胸に宿ったッ!!信念の、火はッ!!」

 

「セイヤーッ!!」

 

━━━━マリアの槍がノイズを砕き、少年の振るう糸が私へも殺到するノイズを打ち払う。

 

「エレベーターが動く内に脱出を!!取り残されてしまえば我々は袋のネズミです!!」

 

……それは、米国を指してか、それとも今こうして我々にすらノイズの威を向けるドクターを指してなのか。

自分でも、それは分からない。

 

「マム!!ちょっと揺れるわよ!!」

 

「構いません。四の五の言っている猶予は無いようですから……」

 

━━━━一体どれほどの人員を割いたのか。エレベーターホールに辿り着いた途端に出迎えて来たのはPDWを構えた兵士の一団。

 

「クッ……邪魔だッ!!」

 

「此処は俺に任せて二人は先に!!」

 

「なっ!?相手は銃弾だぞ!!ノイズとは速度が違う!!」

 

「安心してください、マリアさん。

 ━━━━天津の防人は、銃弾の雨など物ともしませんから。」

 

━━━━その宣言と、放たれた銃弾はどちらが先だったのか。

 

「天津式糸闘流・(かえし)が変型……ッ!!」

 

 

━━━━返奏曲・縦横無尽━━━━

 

しかし、銃弾はマリアのマントにすら届くことは無く。

 

「なッ!?弾丸が、空中で止まった!?」

 

「怯むな!!押し込め!!」

 

「……残念だが、次弾は撃たせない……ッ!!」

 

━━━━手指を繰る彼の姿を見て、ようやく思い至る。

弾丸を宙へと止めて見せたそのタネは、彼が通路に展開した糸の網であると。

 

そして、その網は(たわ)みを持って弾丸を止めながら、バリスタのように装填された姿へと変わっているという事にも……!!

 

「ぎゃッ!?」

 

「グアッ!?」

 

弾かれた弾丸は、元の威力にはほど遠いながらも、的確に兵士達の手足を射抜く。

 

「━━━━鉄板入りの特別製だッ、そのまま寝てろッ!!」

 

そして、射抜かれた衝撃で怯んだ彼等の間を潜り抜ける風のように少年の蹴りが振り抜かれ、兵士達は通路の端に折り重なる。

 

「……どうやら、下は既に包囲されているようですね。上の階から窓を割って脱出すればまだ可能性はありますが……付いて来れますか?」

 

「えぇ、問題無く。」

 

「マリア、お願いします……」

 

「……分かったわ。」

 

━━━━こうして、天に最も近い塔の上で今……命を懸けた鬼ごっこ(キャッチ・アンド・キャッチ)が始まったのだ。




━━━━摩天楼は砂上の楼閣へと姿を変え、無辜なる人々の涙が零れ落ちる。
それを見過ごせぬキミの優しさ。その輝きこそ私にとっての太陽。

━━━━けれど、けれども、だからこそ。
キミが命を捨ててまで、手を伸ばし続けるその姿を、私は黙って見ていられない。

━━━━あぁ、指をすり抜ける……キミの左手。
私だって、キミを……
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