━━━━落ちる。落ちる。落ちる。
何百mだっけ。300?400?さっき見た筈だけど、もう覚えていない。
考えるのは、未来を助ける事だけ。
「━━━━
だから、その為に胸の歌を歌う。
展開する装甲に呼応して、胸の奥から湧き上がる力。
━━━━それを信じて、私は着地する。
衝撃はバンカーが受け止めてくれる。煙をあげながらも、動く事に問題は無い。だから……!!
「━━━━未来!!今助けに……!!」
━━━━そうして見上げた空に、真っ黒な華が咲く。
「━━━━ッ!?」
視えてしまう。普通なら豆粒ほどにしか分からない筈に遠い展望台の爆発が。
「あ、あぁ……」
━━━━繋いだ手の中からすり抜けたのは、私じゃなかった。
後悔が心を埋め尽くす私の目の前で、形すら分からなくなるほどの大爆発を起こす展望台。
「未来ゥゥゥゥ!!」
絞り出す。心の中、後悔が産み出す物全部。
分からない。分からない。分かりたくない!!見たくない!!
「未来……?」
でも!!目の前の現実が変わらない!!腕を食べられた時と同じ……いいや!!そんな物よりもっともっと怖い!!
私の全部が、私の陽だまりが!!
━━━━
「う、あ……なんで……どうして……!!
いやだよぉ……助けて、お兄ちゃん……!!」
ギアが
残酷な現実を前に、私の胸から歌は消え去ってしまって……
そんな私にノイズが迫ってくる音が、ぼんやりと聴こえる。立ち上がらないといけないって分かってる……
けど、無理だ。だって……だって……!!
━━━━私の陽だまりはもう無い!!心の中、さめざめと冷え切ってしまった!!
後悔で埋め尽くされて、折れてしまった私にはどうしようもあるワケが無くて……
「━━━━立花ッ!!」
━━━━それでも、歌が聴こえたんだ。
◆◆◆◆◆◆
━━━━間一髪、だが間に合ったッ!!
あたしの矢が、
「━━━━ソイツは任せたッ!!
アイサツ無用の、ガトリングッ!!」
━━━━
「One、two、three……目障りだァァァァ!!」
━━━━MEGA DETH PARTY━━━━
……コレで察せない程、あたしはバカじゃねぇ。
だから、邪魔くさいノイズ共にミサイルを叩き込みながら、あたしは考える。考えてしまう。
「ドタマに風穴欲しいなら……キチンと並びな!!Adios!!
One、two、three……消え失せろォォォォッ!!」
ナニカが少しずつ狂って、壊れていきやがる。
……勿論、今までだって完璧に上手く行った試しなんざあたしの人生にはそうそう無い。
だが、そんなチャチなモンじゃ断じてねぇ……
もっとおぞましいナニカが、あたしの居場所を蝕んでいきやがるんだって……!!
「ガラじゃねぇセリフ……でも悪くねェ……」
そうだ。悪くなかったんだ。みんなと日常を楽しんで……歌を歌う事が!!
━━━━なのに、やってくれるのはどこのどいつだ!?お前か!!それともお前等かッ!?
成長の証だった筈の、装甲を纏ったガトリングを振り回して。
あたしは鴨撃ちを続ける。
「Hyaha!Go to Hell!!さぁ、スーパー懺悔タイム!!
地獄の底で閻魔様に土下座して来いッ!!」
鴨撃ちの相手とは、即ちノイズ。
……なんだ。結局、悪いのはいつもあたしじゃねぇか……
ソロモンの杖を起動して、人に向かってその威を振るってしまった、あたしの……
『━━━━けど俺は……それでも、赦されないままでも、その人にも幸せになって欲しい。』
「ッ!!Hyaha!Go to Hell!!もう、後悔は……しないッ!!
護るべき場所が……出来たからッ!!もう……逃げなァァァァいッ!!」
後悔に苛まれた瞬間、脳裏にリフレインしたのはあの夏の日の木陰の
零してしまったあたしの罪に、向き合ってくれた奴の顔。
━━━━MEGA DETH FUGA━━━━
━━━━あぁ、そうだ。あたしは……確かに赦されない事をした。杖が齎したこの歪みだって、基を正せばあたしの責任だ……!!
……でも、あたしは……みんなと一緒のこの日常を護って、楽しんでいたい……!!
━━━━しあわせに、なりたいんだ……ッ!!
荒い息を吐きながら、思う。
本当なら、こんな事あたしには認められる筈が無い。
人を害する為に武器を振るった事。人を殺す武器を産み出してしまった事……
そんな罪深いあたしは絶対に幸せになんかなっちゃいけないって思う筈だから!!
その罪を、多少とはいえ受け入れられたのは、間違いなくアイツの……共鳴のお陰なのに……
「……共鳴。おまえは……今、どこに居るんだよ……」
━━━━本部からの応答に、アイツは返事の一つもしなかったと。そう、聴いた。
◆◆◆◆◆◆
━━━━表向きは警察や特異災害対策機動部……つまりは一課の仕事とされているが、そう見せかけての封鎖もまた、二課の仕事だ。
とはいえ、通常ならばそちらの対応は一課に完全に任せているのだが……
「事情が事情、か……あぁ、特別警戒態勢は解いてもらって構わない。どうやら突入した謎の部隊とやらの生存者は一人だけ……それも、既に撤退したようだからな。」
無線を通じて各方面へと指示を出す。どうにも、このスカイタワーでのノイズ大量発生の裏には、特殊部隊のような存在の関与が見られたらしい……
「━━━━生存者からの聞き取り、終了しました。やはり、米国らしき特殊部隊の突入があったようです。
そして、その折に、マリア・カデンツァヴナ・イヴと共鳴くんらしき人物が特殊部隊を引き付け、避難指示まで出してくれた、と……」
「……やはり、共鳴くんがFISに接触を試みたか……その結果が、この惨状とはな。」
「ボランティア団体に届いていたメッセージから見て、むしろ接触を図ったのはFISの側だとは思うのですが……
米国もノイズを使われれば国際問題になりかねない以上は事を荒立てない筈なのに、何故なのでしょう……?」
「……FISも一枚岩ではない、という事だろうな。いや、むしろ……
米国の横槍を見抜いていた以上、マリア・カデンツァヴナ・イヴよりもノイズを放った人物の方が遥かに厄介かも知れんな……
それと……共鳴くんと……未来くんの行方は?」
━━━━その言葉を口に出すのは、俺とて気が重い。だが、口に出さねばならないこの立場が今は恨めしい。
「……生存者の話によると、最後に見た時は彼等は第一展望台に居たと……未来さんと響さんが居た第二展望台ではありませんでした……
ですが、第二展望台の現場検証では炭以外は発見されませんでしたので……今は、行方不明としか……」
「……そうか。なら次は捜索範囲を広げて、タワーの周囲数㎞圏を特に密にしろ。
共鳴くんは連絡端末を置いて行ったが、それはそれとして唯々諾々とFISに着いて行く程無鉄砲では無い筈だ。必ず手掛かりはある!!」
━━━━そして、願わくば……それが未来くんの生存の可能性に繋がればいいのだが……
◆◆◆◆◆◆
━━━━頭の中を、纏まらない思考がぐるぐると回る。
手の中からすり抜けた物が大きすぎて、なにも考えられない。
……私の中が空っぽになって、替わりに詰め込まれるのは後悔の念ばかり。
━━━━絶対に、離しちゃいけなかったんだ。未来と繋いだこの手だけは……
「━━━━あったかいもの、どうぞ。」
そんな私の前に差し出されたのは、湯気が立ち昇った、あったかそうな……
「……こ、こあ?」
「砂糖たっぷりよ。
……少しは、落ち着くから。」
「……あったかい……う、うぅ……」
━━━━掌をじんわりと温めてくれるココアの温もりが、逆に心の中の寒さを際立たせてしまう。
「響ちゃん?」
「……私にとって一番あったかい物は、もう……う、あぁ……
お兄ちゃん……どこに居るの……?寂しいよぉ……」
━━━━何度も、何度も、お兄ちゃんに連絡したのに繋がらない。
それが尚の事、陽だまりを喪ってしまった悲しみを際立たせる。
いったい、どこに行っちゃったの……?
「…………」
━━━━寒いよ、苦しいよ……手が、冷たいよ……
◆◆◆◆◆◆
━━━━二課の皆は気づいてくれただろうか……
あの後、未来と共にFISに
伝言までは残せずとも、その端末のログを見れば俺と未来が生きている事くらいは伝えられるだろう……
「……ごめんね、お兄ちゃん。私の我儘でこんな事になっちゃって……」
レーザーの格子造りという危険な檻の中で背中を預け合う未来が零す言葉は、自分を責めるもの。
だが、それは筋違いというものだ。なぜなら……
「……気にするな、未来。そもそもは俺が独断でFISと接触しようとしたのが悪いんだ。
━━━━未来は、それに巻き込まれてしまっただけなんだからさ。」
「……うん……」
……そう、そもそもは、俺の独断専行が原因なのだ。
二課を動員すればFISを刺激してしまうかもしれない。そんな思考に囚われて、米国もまた干渉の機を狙っているという初歩的な事実を忘れてしまっていたのだ……
「……やっぱり、背中は遠いなぁ……」
「背中?」
「あー、うん……実は俺……司令の大きな背中に憧れててさ。
だから、皆を助けてやれるようにって動いてみたんだけど……それで、このザマ。
……あんな風に誰かを思いやれる大人は、俺にはまだ遠いなーってさ……」
━━━━思い出すのは、涙を受け止めて貰ったあの日の事。
やはり、俺の中で憧れる大人といえば父さんと司令のような大きな背中なのだ。
「……ぷっ、ふふっ。お兄ちゃんってば、そんな所に拘ってたの?」
「そんな所、ってお前なぁ……」
「━━━━私や響にとって、ううん。私達だけじゃなくて、きっとクリスも、翼さんも、奏さんも……
お兄ちゃんの背中を見て、その大きさに助けられてきたんだよ?」
━━━━未来の言葉に、思わず未来の方に向き直ってしまう。
俺が?皆を助けていた?
「む。鳩が豆鉄砲を食ったようなその顔。信じてないでしょ?」
「う……恥ずかしながらご指摘の通りでございます……」
「まったくもう……考えても見てよ。私の事だってそうだけど、お兄ちゃんが響を助ける為に無茶した回数を数え上げれば分かるでしょ?
━━━━わざわざ無理をしなくたって、お兄ちゃんはお兄ちゃんのままで頑張ってくれれば皆を助けられるんだから。
むしろ、私にしてみれば、お兄ちゃんはお兄ちゃんのままで居てくれなきゃイヤだよ?」
━━━━此方に眼を合わせてくれた未来の心からの言葉。それが、後悔に苛まれかけた俺に力をくれる。
「……ありがとう、未来。
じゃあまずは、此処から未来を助けてあげないとな……」
「うん。信じてる。私の事、絶対助けてね?」
━━━━軽口を叩いて、未来と一緒に笑い合う。
最悪な状況の中でも、この陽だまりの温かさだけは……どうか、変わらないで居て欲しい。
そんな小さな俺の我儘も、エアキャリアの冷たい空気の中に溶けて、消えた。
◆◆◆◆◆◆
「…………」
「……ねぇ調、マリアってばどうしちゃったんデスか?さっきからずっと黙りこくって窓の外を睨みつけて……」
「わからない……ねぇマム、教えて?今日の任務で一体何があったの?」
切歌と調の心配の声を背に受けるのは、私とて辛い。
……だけど、今の私の顔は、到底あの子達に見せられる物では無い。
「……二課との交渉の橋渡しの為に臨んだ今日の会談でしたが、所詮は素人の浅知恵……場所を察知した米国の追跡部隊に不意を打たれてしまったのです。
ですが……」
……ドクターはそれを予期してノイズを放つ準備をしていた。それだけでも私にとっては度し難い行動だというのに、あまつさえ彼は……!!
「━━━━そこからはボクが説明しましょう。
特殊部隊に追い詰められた彼女達の窮地を、このボクが颯爽と救ってあげたのですよ!!」
━━━━そう言いながら現れたドクターを思わず罵ってしまいそうになるのをグッと我慢する。
彼の言い分にも理はあるのだ。私達が米国の追手を些か以上に嘗めてしまっていたのも、そこをドクターの蛮行に助けられた事もまた事実なのだから……
「まったく……十年の時を待たずして必ず訪れる月の落下……其処から一つでも多くの命を救うという私達の崇高な理念をあんな少年の善意に託す時点で言語道断だというのに……
━━━━
『━━━━ッ!?』
━━━━気づかれていた!?だが何故!?
「……何の事でしょうか?」
「今さらすっとぼけた所で無駄ですよ、ナスターシャ。第一、時期が怪し過ぎるじゃあ無いですか。
ログを漁るまでも無く、ルナアタックの直後から一ヶ月の間に貴方達が何度も実験を行っていたのは明らか。なのに、一ヶ月後になって急にフィーネが目覚めた?しかも不完全なので異端技術知識はまだ無い?
━━━━そんな
それでも冷静を見せた筈のマムの虚勢は、しかしてドクターの冷静な指摘に枕を潰されてしまう。
「……そんな……じゃあ、やっぱり……」
「……」
「なら、何故そんな設定をナスターシャとマリアは仕組んだのか?それはこのボクを計画に参加させ、ボクにしか作れない優しいLinkerを供出させる為……酷い裏切りだとは思いませんか?
共に育った貴方達まで巻き込んで嘘でだまくらかし、挙句の果てにその計画まで売ろうとしたんですから。」
━━━━唖然としているだろう切歌と調の顔が直視できない。だって、私とマムが家族である筈の三人すら騙していた事実は変わらないのだから……
……あれ?そういえば、美舟はどこへ?戻ってきてからこっち、私は美舟の姿を見ていない。
何故だろうか、そんな小さな違和感にとても嫌な予感を感じてしまうのは……!!
「……マム、マリア。ドクターの言っている事……ホント、なんデスね……?」
「……えぇ、そうです。ドクターの糾弾の通り。マリアにフィーネが宿ったという虚言でドクターを計画に引き込み、Linkerを供給してもらった事は紛れも無い事実。
━━━━ですが、計画を売ったとは心外ですね、ドクター。私達の目的はあくまでも二課との協調による計画の方針変更でした。
勿論、それが米国の横槍によって踏みにじられかけた事も、その攻めの枕を貴方がノイズを召喚して潰してみせた事もまた拭い難い事実ですが……」
「フッ……嫌だなぁ……悪辣な米国の罠から貴方達全員を護ってみせただけだというのに。このソロモンの杖でッ!!」
━━━━そう宣って杖を構えるドクターに、私も切歌と調も思わず身構えてしまう。
確かに、結果だけを見ればそうだ。私とマムの稚拙な策は見抜かれ窮地へと陥り、それを救ったのはドクターの一手。
「━━━━だからとて!!
……だからとて、それが脅迫を以てしてまであの子を
私には理解できない。ドクターの力をひけらかすやり口の行く先が。
「えぇ、なりますよ。
『ッ!?』
……だから、その力強い返答の理由も、私には分からない。
「……はぁ。そう簡単に理解してもらえるとは思いませんでしたが、よもやここまで鈍いとは……
いいですか?このまま行けばボク達は世界の敵である十把一絡げのテロリストとして終わる。
そして、二課に協力なんて依頼した所で連中が米国から世界救済の要であるフロンティアを護り切れるかも分からない。
ならばと米国に任せた所で、その経営者共はオルタネイティブ・フロンティアとして運営を終えて自分達だけ尻尾を巻いて宇宙に逃げ出す気で居るッ!!
━━━━つまり、この混迷した世界を救える可能性を持つのは、ボク達だけなんですよッ!!」
━━━━力強く断言するドクターの発言にも一分以上の理はある。
……だが、何故だろうか。私の心にその言葉が強く響かないのは。
「……それは、確かにそうでしょう。であればドクター。貴方はどうやって世界を救うつもりなのですか?
神獣鏡によるフロンティアの封印解放が出来ない以上は……いえ、まさか……!?」
「━━━━そのまさか、ですよッ!!
「……私達が、それに易々と手を貸すとでもッ!?」
━━━━マムが何に思い至ったのかは分からない。だが、ドクターの手法が真っ当な物では無いだろう事は私達にもよく分かった。
「えぇ。底抜けな程にお優しいキミ達が、ボクの英雄への道に唯々諾々と従ってくれるだなんて……最初から思ってはいませんでしたよ。
━━━━さぁ、お入りなさい。」
けれど、そうして身構えた私達の前で、ドアの外へ声を掛けるドクターが見せた
◆◆◆◆◆◆
━━━━数時間前・スカイツリー近郊の喫茶店にて━━━━
━━━━何故、彼は僕を連れ出したのだろうか?
マムとマリアが二課との……お兄ちゃんとの交渉に向かってすぐに、彼は独自にバックアップを行うと言って私に同行を求めた。
しかし、その為にと彼が入ったのは、スカイタワーそのものでは無く、そこを見渡せる喫茶店だった。
「……何故、という顔をして居ますね。」
「……まぁ。杖を持ち出す事もだし、こうしてスカイタワーから離れた場所に居座っている事も。
━━━━なんなら、僕を連れ出した事が一番の疑問点ですけど。」
「ハハハ、コレは手厳しい。ですが……そうですね。ちゃんと理屈はあるんですよ。私やキミは、マリアと異なりシンフォギアを持っていない。
そんな状況で襲撃の可能性がある場所に向かっても足を引っ張ってしまうだけです。現場主義は流石に前回までので懲りましたよ、流石に。
そして、キミを連れ出した理由ですが、コレも簡単な事です。私一人だけでは喫茶店では浮いてしまうでしょう?コレでも白衣がTPOにそぐわいにくい事くらいは理解していますから。」
そう言ってお
「……率直に言って、襲撃されると思っているの?」
「━━━━えぇ。100%で。
ナスターシャ教授は軍部の求める異端技術の一般化というメインストリームから外れて居ましたので全容を把握できていないようですが……
世界全土を覆う情報ネットワークであるエシュロン。そして、それを操る七彩騎士である
それに……フィーネの経験を基にした暗号とはいえ、その記録は日米協調の流れの中で大なり小なり向こう側にも流れています。向こうが鍵を見つけるのも時間の問題でしょう。」
「……なら、今からでも止めた方が……」
「━━━━いえ、もう遅いようです。突入してきました。」
━━━━心が
纏うギアも無く、マリアの付き人という仕事も今は無い。
そして、為すべきだった筈の封印解放儀式もまた、到底今の激動する状況の中で間に合う筈も無い。
「……まったく。誰も彼もが好き勝手な事ばかり……」
━━━━だから、目の前でノイズを放つ彼を止める術すら、僕の手の中には存在しない。
分かっている。頭では。そうするしかもはや手は無いのだと。
━━━━爆発。そして、黒煙。
……命が消える、その証。
「……マムッ!!マリアッ!!」
思わず、ガラスに張り付いて僕は叫ぶ。
その叫びが届かないなんて、分かり切っている筈なのに。
━━━━だから、首に巻き付けられたその冷たい感触を察知する事も出来なかった。
「……うひっ。うひひ、うひひひひィ!!
━━━━流行りのアクセサリーで無くて悪いですがァ……キミには
「━━━━コレは……ギアスッ!?
どうして、こんな代物をッ!?」
━━━━ギアス。それはケルト神話における神へと捧げる誓い、ゲッシュを基とした《誓約》の名を持つ異端技術応用品であり……
「そう。通信機付きの小型爆弾ですよ……ホントは敵の装者を鹵獲した時に首輪代わりに付けようかと思ってたんですが……事情が変わりましてねェ……!!」
「どうして僕にこんな物を……まさかッ!?」
━━━━脳裏を駆け巡るのは、これまでのドクターの狂奏の数々。
マムやマリアとは異なる、
「鹵獲した装者に付けても括れるのは一人だけ……ですが、キミに付ければ括れるのはアマちゃんなFISの連中全員の首って事、ですよッ!!」
「くっ……この、外道!!」
━━━━地雷という兵器がある。
それは、人を一撃で殺す事を目的にした物では無く、むしろ
その理由は単純にして悪辣。一人を一撃で殺せば残りの人員は戦いに戻れる。だが……手足が使えず、さりとて死にもしない
ドクターがやった事も同じだ。
僕という人質を盾とする事で、僕を喪いたがらないだろうFISのメンバーの勝手な行動を抑止する為に……!!
「外道?そうですねぇ……キミ一人の命を盾としただけでは確かに外道のままでしょう……ですが!!
ボクがこの手で世界を救い、救済を成し遂げた英雄となればッ!!それは人類救済のための致し方ない犠牲となるのです……そう、あのスカイタワーの人々と同じようにッ!!
━━━━いひ、あひゃひゃひゃっひゃァ!!」
━━━━なんて、ことだ。僕は……
力が無いばかりか……彼女達の重石になってしまうだなんて……ッ!!
「ごめんなさい……マリア……みんな……!!」
涙が溢れて止まらない。生殺与奪の権を握られるだなんて、あの白い孤児院では当たり前だったはずなのに。
━━━━マリアが楽しそうに歌う姿を見た。
━━━━切歌と調が学園祭を楽しむ姿を見た。
━━━━そしてなにより、お兄ちゃんにもう一度逢う事が、出来たのに……
「━━━━おっと。忘れちゃいけないもう一つゥ……確かにギアスは速効性こそ覿面だが、もしもジャミングされちゃったりしたらそれだけで解除されかねない不安定な代物ですからねェ……」
━━━━床に
それを見てもなお、喜色満面と言った
━━━━今だなお爆発を続けるスカイタワーが窓の外に映る中で、彼はその手に握る無針注射器を、
◆◆◆◆◆◆
「み、ふね……?」
「そんな……
「まるで、ネフィリムみたいになっちゃって……お前ッ!!美舟に何をしたデスか!?」
━━━━ゾクゾクと、ボクの心が震えるのが分かる。
「なにをしたも何も、
聖遺物を取り込む事を可能とする完全聖遺物、ネフィリム。その細胞サンプルから造り上げたLinkerの実験にネェ!!」
『━━━━ッ!?』
生物型聖遺物である以上、ネフィリムにも細胞構造が存在する。その細胞構造を使い、Linkerのように人と繋げる事が出来れば……人の身で、人のままで、聖遺物を自在に操作可能な万能コントローラーとする事が可能な筈なのだ。
「ウヒャヒャヒャヒャ!!とはいえ、細胞構造をそのままに使ったパターンは失敗だったようでしてェ!!
ボクの作るやさしぃ~Linkerが無いと、飢餓衝動の赴くままに宿主を食い破ってしまうようですよォッ!!」
「━━━━なんですって!?」
「……そういう、事ですか……美舟の首に掛かったそのギアスが私達の短気を押しとどめ……
そして、その左腕に宿らせたネフィリムの欠片が、貴方を排除するという方針そのものを押しとどめる……悪辣にして用意周到ですね。ドクター……!!」
オバハンが口の端を切りそうな程に力を込めながらに解説してくれたボクの策。
そう、封印解放儀式も間に合わず、ギアとしての戦力にもならない役立たずに二つの
「使えない駒に新しい価値を与えてあげただけじゃぁ無いですか、人聞きの悪い。」
「……最低……貴方って本ッ当に最低のクズだわッ!!ドクターッ!!」
「ハハハハハハ!!負け犬の遠吠えは耳に心地いいですね!!コレで分かったでしょう?どちらが上で、どちらが下なのかがッ!!
━━━━さぁ。ボクと契約して、世界を救っちゃいましょうよ。マリア・カデンツァヴナ・イヴ……!!」
━━━━此処まで散々にボクの救済計画を邪魔してくれやがったが、それでも彼女等シンフォギアが使える駒な事は変わらない。
だから、此処からはボクの独壇場だ。ボク以外の主役は要らない。ボク以外の英雄は要らないッ!!
「フフ……ハハハハ!!ヒャーッハッハッハッハッハァ!!」
狭窄が見誤らせた過ちが、悪意の檻に囚われる未来を引き寄せた。
手放した過去には後悔ばかり。
陽は没し、彼女達の運命もまた没した。
残ったものは絶望だけ……
━━━━いいや。そうでは無い。それだけでなど断じて無い。
望まぬ未来が待ち受けようと、絶望に涯など無いと謳われようと。
奈落の只中でも空を見上げ、彼等は瞳を逸らさぬからこそ、そう謳われて、歌われたのだから。