戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

68 / 104
第六十五話 英雄のジ・オリジン

「━━━━ノイズからの避難の際になにか、変わった事はありませんでしたでしょうか?」

 

スカイタワー周辺の捜索は陽が傾いてもなお続いていた。表向きには、スカイタワーを襲撃したテロリストが逃亡している為の情報収集としながら。

 

「うーん……と言ってもねぇ……ノイズ警報が出た途端にシェルターに向かって皆して一目散に避難してたからねぇ……それ自体が変わった事って感じだからなぁ……

 ━━━━あ、でもそうだ……おーい!!京太郎くーん!!」

 

「━━━━あ、ハイ!!なんすか、店長?」

 

その中で、避難誘導を最後まで手伝っていたというコンビニを見つけられたのは幸運だった。

 

「避難誘導の時にさ、なんか凄いモン見たって言ってたよね?アレについて話してくれない?」

 

「━━━━あー……いや、冷静になって考えたら頭おかしくなったとしか思えない光景だったんですけど……それでもいいんすか?

 聴いた後で笑ったりしません?」

 

アルバイトらしき青年……共鳴くんと同年代か、少し年上だろうか?彼は緊張気味にそう切り出した。

なるほど、幾ら事情聴取とはいえ、聴かれた後に笑われないか心配になるという事は、俄かには信じがたい事象を見たという事だろう。

 

「えぇ。情報の詳細は此方で確認しますし、ノイズ相手なんですからどんな事態が飛び出しても笑ったりはしません。約束しますよ。」

 

「はぁ……ならいいんすけど……えーっとですね。ノイズからの避難誘導に協力してて、人も居なくなったし俺等もそろそろ行くかなーって思い始めた辺りだったんですけど……

 ━━━━人が空飛んでたんですよ。スパイダーマンみたいに。」

 

━━━━間違いない。共鳴くんだッ!!

 

「……それで、その飛んでいたという人はどんな背格好でしたか?」

 

「えーっと……片方はスーツを着て女の子をお姫様抱っこして、もう片方は……なんか黒い鎧?みたいなのを着込んで、蒼い髪の女性を抱えてました。

 ……改めて考えると夢でも見てたんじゃないかと思っちゃいますねやっぱ……」

 

片方は恐らく、マリア・カデンツァヴナ・イヴとナスターシャ教授だろう。

━━━━ならば、もう一人である共鳴くんが抱えていた女の子とは?

……逸る気持ちを抑えて、彼に問う。

 

「それで、その二組はどちらから飛んできたんですか?」

 

「あっちのタワーの方から来て、あの川を超えて郊外の方に行きました。

 ━━━━あぁ、そういえば……なんか、川を超える辺りでスーツの方がなんか落としてたような……?遠すぎてなんなのかまでは分からなかったッスけど……」

 

「……いいえ。情報提供、本当にありがとうございました!!」

 

━━━━スカイタワーの展望台で見つかった物はノイズ被害者の炭化した()()だけだった。

そして、未来さんの通信端末への呼びかけの応答も無い。

だがもしも、共鳴くんと共に未来さんが脱出しているとすれば……!!

 

「詳細は証拠が見つかってからですが……もしも、ボクの予想通りなら……ッ!!」

 

情報提供者の二人に別れを告げ、怪しまれない速度で走り出す。

 

━━━━目指す先は、何かが落とされたという川のほとりだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━スカイタワーの襲撃から、約九時間。

塞ぎ込む立花が二課本部での待機となる中。

私達は何故か、ファミリーレストランへと繰り出していた。

 

「あむ、あむ……」

 

「あぁ、もう……雪音、パスタはもうちょっとフォークに巻き付けて団子のような姿にしてからだな……」

 

「つばさー、アタシの分もー」

 

「奏まで……もう……」

 

━━━━これではまるで、子の世話を焼く母親だな。と自嘲すると、心の奥がチクリと痛む。

……私の中に、母様の面影は殆ど無い。だから、こういった物事は大抵がドラマや映画から学んだ『普通の光景』という印象になってしまう。

 

「……それで?何故ファミリーレストランなのだ?」

 

その痛みから眼を逸らし、問いかけるのは目の前の雪音に対して。

注意こそしたものの、やはり食い散らかされた、と形容するのが妥当な有様の机上を前に、雪音は語る。

 

「……あの七夕の時みたく、一緒に飯を食ってみたかっただけさ。

 ━━━━アイツは、生きてると思うか?」

 

━━━━アイツ、というその呼びかけが共鳴くんでは無く、小日向を指しているという事はすぐに分かった。

 

「……共鳴くんが近くに居た以上、半々……と言った所だ。

 ━━━━手が届くのなら、共鳴くんが救出していない筈が無い。

 ━━━━だがそれは同時に、()()()()()()()()()()事も意味するのだから。」

 

「……どうして、こうなっちまったんだろうな。あたし等。

 目的は同じ筈なのに、てんでバラバラになっちまって……」

 

━━━━雪音の零すような本音は、私にとっても耳に痛い物だ。

FISの事件が始まってから、私達は様々な障害に苛まれた。

アンチリンカー、ネフィリム、月の落下、そして……融合症例。

 

「……恐らくは、立花の命が危ないという焦りゆえだろうな。

 共鳴くんの独断も、私達が足並み揃わぬのも……」

 

「……ま、結論はアタシ達には出せない以上、今考えたって始まらないさ。

 トモの奴と連絡が付かないって言ったって、なんかあったら向こうの方から接触してくるだろうし……な?」

 

「それは……そうだけれど……」

 

悠然と構えているように見える奏。だが、その言葉を額面通りに受け取っていいかは、付き合いの長い私でも図りかねる。

━━━━奏とて、小日向の事を心配していない筈が無いのだから。

 

「そうそう。共鳴の奴が向こうの人質になっちまって頭数も減っちまった事だし、此処は以前話し合ったみたいに連携を取り合ってだな……」

 

「━━━━む、雪音。連携を取り合うというのならば、共鳴くんのように名前か、せめて個人を識別できる呼び方をしてはくれ無いか?

 アイツにコイツにソイツでは此方とて意図を図りかねる事が起きてしまうかもしれない。」

 

「あ、ならアタシの事も名前で呼んでいいぞー?」

 

雪音の方から歩み寄りを考えてくれたのならばちょうど良いと、私はかねてより考えていた事を口にする。

彼女は、他人の名前を呼ばない。アイツとか、コイツだとか。そういった代名詞で呼びかける事が多く、例外と言えるのは共鳴くんと叔父様程度のもの……

連携を深めるというのならば、流石に多少なりの改善が必要であろう。

 

「は、はぁ!?それは、お前……そ、そうだ!!アンタだってあたし等の事は名字でしか呼ばないじゃないかよ!!

 だから、アンタとあたしはコレで対等ってもんだろ!?」

 

「む……そう言われれば、そうかも知れんが……」

 

しかして雪音の返答は芳しくない物で。

 

「……おーいー。アタシだって今後は戦うんだから、アタシだってちゃんと仲間に入れてくれよなー?」

 

━━━━そうして、雪音どう説得したものかと次の手を悩む私と雪音の間に割って入った横槍の勢いは凄まじい物で。

 

「━━━━奏ッ!?」

 

「━━━━オイッ!?体調は大丈夫なのかよ!?」

 

「ん。問題無し!!医療チームからも司令からも許可取ってるから安心しなってば~。」

 

そう言ってニカッと笑う奏の笑顔に気負いは見えない。

 

「━━━━響が戦えないなら、その分休んでたアタシが前線に立たなきゃだろ?

 まぁ、Linkerの連続投与は出来ないって釘刺されちゃったから最初の一当ては二人に任せるけど、さ。」

 

「……それなら、コレで三人。そして……向こうだって共鳴の奴を監視しなきゃいけないだろうから、前線に出てこれる奴はきっと二人が限界……」

 

「……微かだが、希望が見えて来たな。」

 

━━━━そう。微かな物。

未だ蟠る闇は晴れず、漆黒の空はどこまで続くかもわからない。

それでも。私達の心は折れていない。ならば……歌は、空に響くのだから。

 

「……って、にがっ!?」

 

「む、雪音はブラック派では無いのか?なにも入れないからてっきりそうなのかと思っていたが……

 ほら、砂糖とミルクも此方にあるぞ。」

 

「……イケると思ったんだよ。いっつも淹れて貰ってるのは最初っからちょうどいい味だったから試して見たくて……」

 

「あぁ、友里さんのか……アレは熟練の技だからな~。まぁでも、そうやって色々やってみて自分に合った味付けを探すのもコーヒーの醍醐味ってもんじゃないか?」

 

「そんなもんかね……あ、今度は甘すぎた……」

 

砂糖を大量に入れてしまった雪音がまたも舌を出すのを見ながら、奏と二人で顔を見合わせて笑い合う。

 

━━━━落ち着いた外面を取り繕いながらも、どこか緊張が漂う。

そんな状況が一変したのは、翌日の早朝の事だった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━お久しぶりですね、天津共鳴クン?」

 

━━━━陽も落ちた夜になって、檻の中で放置されていた俺と未来の前に姿を現したのは、杖を握るウェル博士だった。

 

「……えぇ、お久しぶりですね、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス博士。」

 

「ククッ……わざわざフルネームで呼んでくれるとは光栄ですね。それほどボクに畏敬の念を抱いてくれるとは。」

 

「抱いているのは畏敬では無く嫌悪ですよ……そこは、勘違いしないでもらいたいですね。」

 

「……お兄ちゃん……」

 

「……大丈夫だよ。俺が何とかするから……」

 

俺の警戒を感じてか、不安そうに腕に抱き着く未来にそっと笑いかける俺を見て、男は笑う。

 

「何とかする、ですか……ハハッ!!空手形など、幾ら発行した所で意味はありませんよ?」

 

「その手形の意味はこれから出来るんだ。問題無いだろう……それで?俺に何の用があるって言うんだ?」

 

「えぇ。お招きした以上貴方は客人……だというのにこんな所に閉じ込めていては申し訳無いですから。」

 

白々しいウェル博士の言葉に、俺は心中で渋面になる。

この口ぶりからして、ウェル博士の目的は俺と未来を分断する事だろう……だが、今の俺にはそれを止める術がない。

……俺の独断が招いたこの状況、だが同時に、ウェル博士にとっては想定した罠の形の一つなのだろうか?

 

「……未来も客人扱いしてもらえれば一番いいんだがね?」

 

「残念ながら。」

 

「あぁそうかよ……未来、ちょっとだけ待っててくれ。

 ━━━━必ず、キミを助けに戻って来るから。」

 

「……うん。信じてる。」

 

未来の手を握って、約束をする。

約束は、絶対だ。だから、必ず目の前のこの男の罠も乗り越えて見せると暗に伝えられる筈だ。

 

「では此方へ……あぁ、此処で僕を倒そうとしても無駄ですよ?マリア達三人の装者は全員、僕に着きましたので。」

 

「━━━━なんだと?」

 

元より襲い掛かる気はない。歌も響かぬ此処では、ウェル博士の振るう杖の猛威を防ぐ術が無いのだから。

だが、マリア達が全員ウェル博士に着いたというその釘刺しは見過ごせない。

 

「フフヒッ……まぁ、行けば分かりますよ。さぁ、此方へ……」

 

━━━━そう言ってウェル博士が案内した側面個室の中には、FISのメンバーが全員揃っていた。

だが、その表情は暗い。いったい、何があったんだ……?

 

━━━━そうして視線を巡らす中で、気づいてしまった。

 

「……美舟さん?」

 

あの日、ライブ会場で出逢ったきり前線に出てくる事の無かった少女。FISの中核メンバーでは無いにしろ、関係者である事は間違いないと二課でもマークされていたのだ。此処に居る事自体はおかしくない。

━━━━おかしいのは、その姿。頑なに左腕を隠し、その眼を此方に向ける事は無い。以前出逢った時には、どこか見覚えのある笑顔を向けてくれていたというのに。

 

「━━━━ッ!!」

 

「……美舟……」

 

━━━━隠された左腕。だが、()()は隠し通せるような物では無い。

 

「━━━━ドクター・ウェルッ!!貴様……ッ!!()()()()()()()()()()を造ったなッ!?」

 

それに気付いた瞬間、俺は即座にドクターを壁に押し付けて杖を奪う。

━━━━許せる物か。融合症例、それも生体型の完全聖遺物との融合など、何が起きるか分かった物では無い。

マリア達を味方に付けたというのもコレを交渉……いや、脅迫の材料にしたのだろうと、今なら分かる。

 

「━━━━ダメデス!!おにーさん!!」

 

「━━━━なっ!?切歌ちゃん……!?」

 

「……ふひっ。ふひゃはははは!!彼女の腕については大正解ッ!!

 ━━━━だけど、それだけでは及第点止まりですねェ……!!」

 

「━━━━ドクターッ!!止めてッ!!」

 

俺に押さえつけられながらもドクターが懐から出した一つのスイッチ。

そして、それを見て血相を変えるFISの装者達。

 

「美舟の首輪には爆弾が仕込まれてるんデス!!だから、おにーさん!!

 ……離してやって、くださいデス……」

 

「━━━━なん、だと……?」

 

……融合症例の実験体にするだけでは飽き足らず、直接その命まで握ったというのか……!!

思わず緩めた拘束をウェル博士が剥がすのを止める事も出来ないまま、俺は立ち尽くす。

 

「……分かりましたか?天津共鳴。キミは既に詰んでいるんですよ。

 目の前の誰かすら見捨てられないってのは悲しいモンですねぇ……」

 

「━━━━ッ!!何故だッ!!何故、アンタはそこまで手段を択ばない!!」

 

「既に言ったでしょう?ボクは、いや、ボク等は既にテロリスト()に身を墜とした。

 ならば……手段など選ぶ必要も無く!!理由もまた存在しない!!確実を得る為ならばねッ!!

 ……むしろ、此方の方が聞きたいくらいですよ。天津共鳴……キミが言う《世界を救う方法》とやら……

 ━━━━それは、()()()()()()()()()()()()()?」

 

━━━━そう(のたま)うドクターの言葉は終始身勝手な物。

 

「……神獣鏡のギアの機械的起動で響の融合症例を治療し、その後に一領残っているガングニールのギアを響に改めて纏ってもらう。

 そしてレゾナンスギアのバックファイア除去を用いてS2CAを使用してギアのロックを一斉解除。エクスドライブギアのフォニックゲインを以てレゾナンスギアをアメノハゴロモと覚醒させる。

 ━━━━それが、俺達の《世界を救う方法》だ。」

 

だから、俺は隠す事無く計画を説明する。

遠回しな説明だが、目の前のこの男ならばコレだけで総てを理解する筈だ。

━━━━なにせ、櫻井了子を除いてLinkerを生成出来たのは彼だけなのだから。

悔しい事だが、櫻井理論について現状世界で最も真理に近づいているのはコイツの筈だ。

 

「……なるほどなるほど?アメノハゴロモの超長距離転移にて直接月遺跡にアタック。その機能を以て月軌道の修正手段を模索する、と……

 ハッ!!ボクが教授なら落第点をくれてやる所ですよッ!!」

 

「なんだと……ッ!?」

 

勿論、彼が俺の案を唯々諾々と受け入れるとは思っていなかった。

……だが、それでも。駄目出しまでしようというのなら反骨心も湧いて来る。

 

「━━━━月遺跡に月軌道を修正する能力があるかも分からない。そもそも月遺跡に入った所で、確実に存在するだろう遺跡の防衛機構を突破できるかも分からない……

 ま、こんな所は其方も想定済みでしょうしとやかくは言いません。証拠を用意出来ない以上あるともないとも言えないのですから。」

 

「……なら、何故落第点と?」

 

「そんなの、決まっているじゃないですか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その狭窄した浅ましさにですよ!!」

 

━━━━天地がひっくり返ったかと思う程の衝撃が、俺を貫く。

そんな事、考えもしなかった。

 

「だが、適合係数は確かに……」

 

「えぇ。覚醒の鼓動を発し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ━━━━ですが、それ以前は?データは共有されているんです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事なんてそれを見れば分かります。」

 

「う、あ……」

 

━━━━確かに、そうだ。

リディアン音楽院に編入した立花響は、しかし簡易的なメディカルチェックなどでは聖遺物への適合は大きくない……つまり、()()()()()()()()()のだ。

ウェル博士のその言葉を完全に否定する術が、俺には無い。

 

「で、あれば。融合症例である彼女がその身から聖遺物を除去されたのなら……適合係数をそのままに維持できるなんて考えるのは、あまりに虫が良すぎるってモンじゃあありませんか?

 ━━━━聖遺物への適合に奇跡などという曖昧な要素は介在しない……ッ!!《融合症例》という状態こそが聖遺物への適合の因だとするのなら、その因を消してなおシンフォギアを纏える理由など有り得ないッ!!」

 

「━━━━グッ……!!それでも!!」

 

「━━━━あぁ。それとも……彼女の適合係数が維持された融合症例である今のうちに、世界を救ってしまいますかァ?

 代わりに無茶苦茶を受け入れる事になる彼女の融合は深刻なまでに進行してしまうでしょうけれどねェ!!」

 

━━━━詭弁だ。彼の言う事は仮説の欠点を並べ立てているだけ。証拠は、無い。

……だが、それは先ほど彼が言及した月遺跡に関する仮説の欠点と表裏を同じくする一体だ。

 

━━━━証拠はない。だから、《できる》とも《できない》とも断言する事は、出来ない。

前提と共に膝をも崩された俺の肩を、彼が叩く。

 

「それに対して僕の案は確実で……そして、その確実性を示す証拠も十二分にあるんですよ。天津共鳴……

 分かりますか?人を傷つけるかも知れないが百%人類を救える計画と、彼女━━━━立花響を英雄として尊い犠牲にしなければならないかも知れない、キミの希望的観測に満ちた計画。

 ━━━━科学の徒として、僕がどちらを選ぶかなんて、最初から決まっているじゃあ無いですか。」

 

「そん……な……ふざけるな……ッ!!」

 

認めない。認められる物か。

()()()()()()()()()()()()()()()()?フロンティアの大きさは全長約30㎞しか無い。必然、其処に全人類が避難する事など不可能。

つまり、フロンティアで百%人類を存続する事が可能だとしても、多くの人々は滅びる惑星(ほし)と運命を共にしなければならないという事だ……ッ!!

 

━━━━だが、俺の計画の巨大な穴を指摘された以上、これを固持する事も出来ない。

……俺は、響を犠牲にする事で世界を救うなど許容出来ない……!!

 

「ハハハハハハ!!その顔が見たかったァ……!!ようやく見出した希望を奪われ、絶望するその顔がァ……!!

 どうです?世界を救う為に必死で考えたプランが穴だらけだった事を思い知った気分はァ……!!」

 

「……」

 

何も、言い返せない。机上の空論を捏ね繰り回して、皆を救える気になって独断専行までして……その結末が、コレか……ッ!!

 

「……ドクター。もう十分でしょう?おに……()だって、ボク等に協力するしか手が無い事は思い知った筈。

 ……後は、時間を掛けて説得すればいい。」

 

俺とドクターの舌戦……いや、ドクターの論破に口を挟む事すら出来ずに圧倒されていたFISの少女達から進み出たのは意外にも、決意を固めた表情をした美舟さんだった。

 

「……そうですね。彼にもキミに掛けられた二重の首輪を見せつけるという当初の目的は達成出来ました。

 後の事はまた明日、としましょうか。フフフ……!!」

 

━━━━そう言って部屋を出ていくウェル博士の背を、俺は力無く見つめる事しか出来ない。

俺は、どうすればいい……!!

 

「おにーさん……」

 

━━━━欠けた月が見下ろす世界は今なお、残酷な現実と不協和の音色に満ちていた……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━あれから、一夜が明けようとしていた。

結局、目を瞑って眠ろうと思っても、心の寒さが抜け去らなくて……あまり眠れなかった。

けれど、朝早くに司令から呼び出されたのに寝ぼける事無く対応出来た事を思えば結果オーライ……なのかな?

……未来が聴いてたら、きっと『それじゃ全然結果オーライじゃないでしょ?』なんて言ってくるだろうな。なんて思ってしまって。

私の一番大事な物が二つも一気に居なくなってしまった事は、どうにも私の調子にも大ダメージを与えてしまっているようだ……

 

「━━━━コレは……?」

 

だから、司令が手渡したそれがなんなのかが私にはすぐに分からなかった。

 

「スカイタワーから少し離れた地点で回収された、未来くんの通信機だ。」

 

『━━━━ッ!?』

 

未来の通信機。ルナアタックの時から二課と未来を繋いでいた物。

 

「発信記録と、現地周辺で集めた目撃情報を照合した結果……

 共鳴くんが此方に状況を知らせる為にわざと落下させた可能性が高い。」

 

「……え?」

 

お兄ちゃんが、未来の通信機を?でもなんで?

 

「未来くんも共鳴くんも死んじゃいない……恐らく、連中に脅されてついて行かざるを得なかったんだろう……」

 

「師匠……それって、つまり……!!」

 

生きている……二人共生きて、今も戦っている……!!

 

「こんな所で呆けてる場合じゃないって事だろうよ!!

 ━━━━さぁ!!気分転換に身体を動かす特別メニュー、行ってみるか!!」

 

「━━━━ハイッ!!」

 

━━━━私の陽だまりも、大樹も、喪われてなんか居なかった!!

それが分かった今、私の心はもう冷え切ってなんか居ない!!

 

━━━━登る朝日のように、私の心は燃えているッ!!

私は今猛烈に、熱血しているッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━どうしてこうなった?

 

アイツが……小日向未来が共鳴の奴と一緒に生きているという吉報を受けてあのバカも眼に光を取り戻していつものバカ元気が復活した。

それはいい。

 

それに対しておっさんが特別メニューの特訓を持ち出して来た。

まぁ……それもいいとしよう。今までもS2CAの為とか言って妙ちきりんな特訓をさせられた事もある事だし。

 

「━━━━憑自我 硬漢子 拼出一身癡(誇り高い男は全力でぶつかる)!!」

 

「━━━━なんっでおっさんが歌ってんだよ!!ってかコレ何の歌だ!?大丈夫なのか!?」

 

「うむ。これぞまさしく英雄故事(イェンホングシ)……国境を超越してなお人々の心を勇気付ける偉大な歌だ。」

 

「コッチはコッチで即順応してやがるし!?風鳴の家系はこんなんばっかなのか!?

 ……ったく、慣れたもんだな……」

 

━━━━正直、まったく意味は分からない。分からないが……隣を走るバカの顔は、昨日のこの世の終わりみたいな顔とは大違いで。

ならまぁ、いいか。

 

憂患見骨氣 昂歩顧盼似醒獅(俺の魂は獅子のように強い)!!』

 

━━━━だがそれでも、この歌の意味はあたしには結局よく分からなかった。

 

 

 

「短期間の特訓メニューだ。基礎体力を向上させる意味合い自体は薄い!!

 だが、重ねた鍛錬は無駄にはならん!!様々な状況での身体のコントロール法を身に着けるんだッ!!」

 

 

とはいえ。

 

 

 

「姿勢の維持は体幹の強さが物を言う!!茶碗に溜まった水を零さぬ程の静止を目指せッ!!」

 

 

とはいえ、だ。

 

 

「━━━━熊を一頭伏せてターンエンドッ!!」

 

「よし!!よくやったッ!!

 重量、筋肉量、その他総てで勝る相手であってもそれがイコール勝てない相手とはならない!!

 勿論勝ち目を計るのは前提だが、その上で千に一つの勝利をもぎ取れるようにしろッ!!」

 

 

乱入してきた熊を相手に取っ組み合いをかましてブン投げたり。

 

 

「ドローッ!!

 ━━━━ドローッ!!」

 

「うむ!!見事なドローだ!!一意専心、滝をも割るッ!!

 一撃必殺は心技体の合一が前提となる!!どんな状況でも自らの心をコントロールする事を理想としろッ!!」

 

 

デュエルディスクとかいう板を構えてカードを引く動作で滝を二つに割ったり。

 

 

「ハッ!!」

 

「うむ。上下左右がズレていても照準に問題無しッ!!

 射手とて常に万全の状態で撃てるとは限らない!!ただ撃って中てるだけならば必要ないアクロバットも、ギアを纏えば立派な戦術となる事を忘れるなッ!!」

 

 

逆さ宙吊りになって競技用のビームライフルで抜き撃ちさせられたり……

 

 

 

 

「うおおー!!やったー!!」

 

「なんなんだよこりゃ一体よ……

 特訓というか、殆ど映画の撮影かなんかじゃねぇか……」

 

「うむ。叔父様の特訓はいつもこうだが?」

 

「えぇ……?」

 

「フッ!!ハッ!!ハハハハ!!よく頑張ったな皆!!お疲れ様だ!!」

 

━━━━結局、一日ぶっ通しで続いたその特別メニューの終了を告げる朝焼けを山の上の建物の前で迎える中で、あたしは想う。

どいつもこいつもご陽気で……あたし一人が真面目に特訓にツッコミ入れてたのが馬鹿馬鹿しくなってきちまうな……なんて。

 

暖かな日差しの中に居場所なんて無いと思っていたあたしだけど、捉え方一つでこうも変わってしまうんだな……

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━本当に、いいのね?」

 

「あぁ。女に二言は無いさ。皆がトモや未来を救う為に特訓してるんだ……アタシだって決意と覚悟を身に纏わなきゃいけないだろう?」

 

特別特訓メニューに皆が向かった二課本部の中で私が訊ねるのは、彼女の本気を試す為。

 

「……今の貴方は、喪った歩行機能をギアを纏う事で補っている。つまり、ギアを維持出来なくなれば最悪受け身も取れずにそのままノイズに襲われる事だって有り得る……

 それでも、心まで纏うのね?この鋼鉄を。」

 

「あぁ、勿論限界は見極めるし、むざむざ死ぬ気だって更々無い。

 ━━━━けど、戦える奴がドンドン減っちまってんだ……アタシが命張るとしたら、こういう土壇場なんだよ。いつだってな。」

 

━━━━そう言って、朗らかに笑う少女を見てしまえば、私にはそれを止める言葉などありはしない。

 

「……はぁ。分かった。じゃあ、奏ちゃん……ウチのバカ息子の事、どうぞよろしくお願いします。」

 

「あぁ。任された。首に縄付けてでも連れ帰ってやるから、鳴弥さんはドーンと構えてお説教の準備をしてやっててくれ。」

 

「ぷっ、ふふっ……」

 

そう言って二人、笑い合う時間は私の心を間違いなく軽くしてくれる。

 

だが、FISが拉致という強硬手段に打って出たという事は、共鳴と未来ちゃんを返せない理由がある筈。

 

━━━━決戦の時は近い。

共鳴が持っていった雷神の鼓枹さえ戻ってくれば、この切り札(ジョーカー)は起動するのだが……




どうすべきか、どうあるべきか。
迷える少年少女達の交流は、四分休符のような最後の幕間。

━━━━その裏で、悪い魔法使いは囚われの姫へも契約を持ちかける。
それは甘い、甘い毒林檎。無力を嘆く少女に齎された、蜘蛛の糸のような地獄への片道切符。

━━━━キミだけが、彼女を救う事が出来るのです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。