戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第七十三話 交戦のスタートシグナル

━━━━浮き上がり、潰れて、砕けて、落ちていく。

米国からの増援にして、此方から指揮権を譲ってやった空母ジェームズ・ジョンソンが呆気なく散るのを、

(ルガール・バーンスタイン)はモニター越しに見やる。

 

「……おっそろしいわねぇ……」

 

━━━━そう呟くのは、傍らの女。先頃には先行してノイズ相手に生か死かの大立ち回りを繰り広げたというのに、まるでそれを感じさせずに飄々(ひょうひょう)と事態を見据えている。

 

「━━━━重力制御か。

 ……欲しいな。」

 

だが、そんな事はどうでもいい。私の眼にあるのは、目の前のモニターに映る宝島(フロンティア)の偉容のみだからだ。

 

「あらら……相変わらずの蒐集癖。私の刀や国家に属さないシンフォギアの次は、人類最後の宝島目当て?」

 

「ふん!!貴様の刀は確かに強力な兵装だが、それはお前のような棒振り馬鹿共が振るってこその物……もはやそんな物に興味は無い。

 ……国家に属さぬシンフォギアは、まだ多少の興味をそそられるがな。」

 

━━━━だが、FISの報告書にあるフィーネの元々の計画によれば、この舟の封印を急激に解放するシークエンスを成したのもまた、シンフォギアが齎すウタノチカラだという。

尋常なる超常共、世界の裏に蠢く怪異なぞでは無しえぬ巨大な力!!それを、人の手に齎す物!!

それが実在したというのならばやはり……FISを離れて私へと接触してきた()()()()()が語る地球意思━━━━オロチの力もまた、実在するという事だろう。

 

「……く、ハハハ……!!面白くなってきたでは無いか!!」

 

━━━━あの超重の(アギト)。自然をも掌握する程の力!!それを手にする事が出来れば……

 

「━━━━お楽しみの所悪いんだが、なァ。今回の一件についちゃ、俺に任せて欲しいんだがね?」

 

メイドが注ぐワインを楽しみながら機を窺う私の心地よい時間を邪魔するのは、先ほど着艦して来たばかりの、もう一人の七彩騎士の声。

 

「……ふん!!好きにしたまえ!!

 ━━━━私とて、今の段階で貴様を敵に回すような余計なリスクマネジメントは好みでは無い。

 ……そうだな、先を見据えた、新たなビジネスの話と思うがいい。」

 

この件に深入りし過ぎるのは良くない事だ。

なにせ、先ほど目の前で中継ヘリが潰されたように、重力場の制御は空中においてもかなり精密に行えるようなのだから。

 

「このブラックノアを沈めるつもりは無い。幸い、破壊されたのは第二陣となる艦隊だけだったが……この有様では、ミサイルによる第三波攻撃など夢のまた夢であろう。

 ━━━━上層部の阿呆共とも取引は着いているからな。」

 

━━━━旗下の艦隊第二陣へは決死の命令を。だが、対等の立場である私には有償の依頼を。

米国上層部の考え方はドライであり、なおかつ分かりやすい。ビジネスパートナーとしては信用出来る物。

 

「そうかよ……なら、一機借りるぜ?」

 

「あぁ、好きにしたまえ。それを止める気も無い。」

 

「いってらっしゃーい。お土産話もよろしくね~」

 

ひらひらと手を振る女もまた、私と同じく手出しする気はないのだろう。私との契約が完了した以上、この女を繋ぎ留めておく事も不可能である。

……まったく、七彩騎士という連中は、なかなかどうして度し難い。

 

「私には是非、フロンティアをそっくりそのまま手土産にしてくれたまえ。報酬は弾もう。」

 

「……善処はしてやらァ。」

 

振り返る事も無く、手だけを振り返して男はブリッジを去っていく。

 

「━━━━死ぬ気かしらね?」

 

「かも知れんな。やれやれ……ネオドミノシティでの一件以降連絡の一つすら無い《絶望獣輪(ザ・ディスペアー・ホイール)》の後任の話が飛び出している真っ最中だというのに。

 死なれてもそれはそれで困るのだがな……」

 

━━━━去り行く男の背に煤ける焦りは、果たしてどのような結末を齎すのか。

 

「━━━━お手並み拝見といこうか?《双装銃師(ザ・デュアル・ドラグナイト)》よ。」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

二課本部潜水艦は、先端を折り上げる事で前方に車輌を搬出可能な前部ハッチが付けられている。

そんなハッチの中で、(風鳴翼)は雪音と共にギアを纏い、出撃前の最終確認を行っていた。

 

「……雪音。準備はいいか?」

 

「━━━━あぁ。あたし等が連れ立って突っ込んで行きゃ、ドクターの野郎は前線を構築せざるを得なくなる。」

 

━━━━それは、フィーネを宿した少女の齎した情報を基に建てられた策の第一段階。

 

「それは、二課の最大戦力による突貫を前に、FISに遺されたシンフォギアでは抗し切れぬからこそ……

 ━━━━背中は任せたぞ。雪音ッ!!」

 

そう雪音に告げながら、私は共に戦場(いくさば)を駆ける騎刃(きば)に跨る。

人馬一体の境地を以てして私が駆けねば、戦線を構成するウェル博士を引き付け続ける事は出来ないだろう。

 

「……あぁ。あの杖を……ソロモンの杖を、必ず奪い返すッ!!

 ━━━━それが、あたしの……」

 

そんな私の掛け声に応じて独り()ちる雪音の体重。

それが、私の背中に掛かるのを感じる。

 

「しっかり掴まったな、雪音?

 ━━━━然らば、風鳴る一閃……いざ……参るッ!!」

 

━━━━クラッチを切り、動力をバイクの全身へと走らせる。

雪音との連携を確かめる為にもいきなりのフルスロットルとはいかぬが、それでも急激な加速を伴って騎刃は駆けだす。

 

「━━━━ッ!!

 ……ぞろぞろと頭数ばっかり揃えやがって……!!」

 

加速に一瞬おいて行かれそうになりながらも、即座に対応して見せた雪音の身体操作。それは紛れもなく、司令が行わせた特訓の成果の一つだろう。

 

「━━━━近間の敵は私が討ち払うッ!!雪音は遠間をッ!!」

 

「あい、よッ!!」

 

━━━━BILLION MAIDEN━━━━

 

脚部ブレードを変型させ、バイクの前方へと配置した私の背後から生えてくるのは、雪音の両手に携えられた二挺四門のガトリング砲。

 

「━━━━三つ目の太刀、怒りの炎……永久(とわ)に消えぬ烈火の如くッ!!」

 

「……嘘臭ぇ、チープな言葉。

 ━━━━そんな()()はヤだから……ッ!!」

 

私の怒りが、雪音の痛みが。歌となり、刃の如き鋭さと、弾丸そのもののような威力を産み出し、群れ成すノイズへと突き進む加速する風となる。

━━━━よくも、共鳴くんの道行きを(にじ)ってくれたな。ドクター・ウェル……ッ!!

手を伸ばし続けた防人への無礼へのお返しは、防人姉妹(わたしたち)の歌であると知るがいい……ッ!!

 

━━━━騎刃ノ一閃━━━━

 

「━━━━四つ目の太刀、動じぬ心は……御山の如し……ッ!!」

 

「━━━━トリガー引く歌詞は、そう《サヨナラ》だ……!!

 ナ・ミ・ダを……ブッパなせ!!My song!!」

 

砲と剣を重ね合い、私と雪音はノイズの群れの中を駆け抜けて征く……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「さすがは翼さんとクリスちゃん!!」

 

「あとは、この攻勢に引かれてドクター・ウェルが前に出て来てくれれば……」

 

━━━━フロンティアの浮上に巻き込まれた二課本部潜水艦のブリッジに、(立花響)は居た。

 

━━━━了子さん、ううん。フィーネさんを宿した少女、月読調ちゃん。

彼女の告げた事実を受けた私達は、その目的に協力する為に動き出そうとしていた。

 

「……此方からの要請だったとはいえ、本当にいいの?私は元より、私に宿ったフィーネだって、貴方達とは袂を別った筈なのに……」

 

━━━━そんな時に呟かれたのは、緒川さんにブリッジまで連れて来てもらった調ちゃんの疑念。

 

「勿論!!了子さん……じゃなかった!!フィーネさんの事だって、調ちゃんの事だって、私は信じたい!!」

 

それに応えるのは、きっと私の役目だと思う。

だって、彼女は……

 

「……あなたのそういう所、本当に好きじゃない。正しさを振りかざす……まるで、偽善者。」

 

私の信頼に返ってくるのは、調ちゃんの素っ気ない否定の言葉。

━━━━だけど、あのライブの日とは違って、私達は言葉を交わせる場所に立てた。

だから、私は私なりの答えを返す。

 

「あはは……うん。もしかしたら、私のやり方はそういう風(偽善)に見えるかも知れない。

 ━━━━でもね。私、自分のやってる事が正しいと思ってやってるワケじゃないんだ。」

 

「……」

 

私の言葉を受けて、静かに揺れ動く調ちゃんの瞳に、私は了子さん……えっと、フィーネさんの影を感じる。

フィーネさんは、私の境遇を知っている。お兄ちゃんが、その地獄から引きずり出してくれた事も。

━━━━そして、お兄ちゃんがその決意を握るまでに、喪われてしまった人の事も。

 

「……私ね。人を信じたいんだ。

 裏切られるのは、確かに辛いけれど……それで手を伸ばす事を諦めたら……

 きっと……私は、笑って誰かと向き合う事が出来なくなる。」

 

「人を……信じる……?

 そうやって誰かに手を伸ばして……裏切られて。

 そうしてあの人━━━━共鳴さんだって、居なくなってしまったのに……?」

 

━━━━その言葉に、胸の奥がチクリと痛む。

胸を過る喪失の実感。

だけど、だからこそ。

 

「━━━━うん。

 お兄ちゃんなら、きっと信じて進むだろうから。

 調ちゃんと同じように、美舟ちゃんの事も助ける為に。

 ……だから、私からもお願い。調ちゃんのやりたい事が私達と同じなら━━━━手を伸ばす事、諦めないで欲しいんだ。」

 

そっと、調ちゃんの手を取る。

振り払われるかも知れないな、っても思ったけれど……振り払われる事は無かった。

 

「手を、伸ばす……でも、私達はもう敵同士になってしまったのに……?」

 

それでも、調ちゃんは顔を伏せて更なる疑問を零す。

……調ちゃんが切歌ちゃんと仲が良かった事は、私達にも分かっていたから。

 

「━━━━敵とか味方とか、それ以前の話さ。

 譲れない物があるからこそ、それを擦り合わせる事が出来るのが人間ってもんだからな。」

 

「師匠!!」

 

シュルシャガナのペンダントを調ちゃんに手渡し、師匠は言葉を続ける。

 

「……キミのお陰で、俺達はキミ達が抱える多くの事情を知る事が出来た。

 だから、コレは可能性だ。明日に……千年後の今日に、笑い合える未来の為の。」

 

「━━━━相変わらずなのね……」

 

━━━━溢れる、涙。それを拭って、調ちゃんは……いや、黄金の瞳のフィーネさんは微笑む。あの日のように。

 

「━━━━甘いのは分かっている。性分だ。」

 

「ううん……きっと貴方のそれは、甘さじゃなくて……優しさ、なんだと思う。

 ふふっ……えぇ、だから……私は、また貴方の優しさに甘えさせてもらうわね?」

 

「……全く、キミには勝てないな……いつまで経っても……」

 

━━━━そんな風に笑い合う二人の間には、どうにも入り込める気がしなくて。

 

「……大人だ……」

 

「もう……響ったら……台無しな事言っちゃダメでしょ?」

 

しまった、と思った時にはもう遅くて。

ふと思った事が、つい口を衝いてしまっていた。

 

「あ、えーっと……ごめんなさい。」

 

「……?」

 

「ハハハ!!なに、気にする事は無いさ!!

 ━━━━さ、調くん。キミは、キミのやりたい事をやってくるといい。」

 

「えーっと、じゃあお詫びも兼ねて……ハッチまで案内してあげる!!

 フィーネさんの方も、この(ふね)の構造までは分からないでしょ?」

 

「あ……うん。」

 

そう告げて、調ちゃんの手を取って走り出す。

━━━━今回の作戦で、私は留守番だ。

その理由は、ギアが無いから。

ギアの無い装者では戦場(いくさば)には立たせられないから、と止められたのだ。

……けれど、それでいいのだろうか?

 

「……迷っているのね?」

 

━━━━その迷いが伝わってしまったのだろうか?

辿り着いた前部ハッチの中で、フィーネさんが私に問いかける。

 

「……はい。

 ━━━━ギアが無いから、戦わせられないって。

 ……でも!!

 でも……手を伸ばす事、諦めたくないのは……私もそうなんです。」

 

━━━━それは、Linkerの除去の為に眠りに着く直前に、奏さんが教えてくれた事。

 

『あき、らめない……ッ!!

 ━━━━この空に、歌が響く限りッ!!俺はッ!!死なないッ!!諦めないッ!!

 ━━━━手の届く総て、救う……為にィィィィ!!』

 

━━━━血を吐くような、お兄ちゃんの叫び。

そして、言葉の通じる誰かと手を取り合いたいという私の願い。

……私の命が危ないからって、そんなに簡単に諦めていいの?

 

「……そうね。弦十郎くんの判断は正しいわ。ノイズを操るドクターを相手に、ギアを持たない貴方を戦力と数えるのはあまりに酷だもの。」

 

……フィーネさんの分析は冷静で、的確な判断に裏打ちされた物だった。

そう、想いだけで現実は変えられない……

 

「━━━━けれど、ね?

 今、先んじた二人が、ドクターを足止めする為に早駆けを仕掛けていて……

 もう一人(イガリマ)を、この子(シュルシャガナ)が止める。

 ━━━━そう、人手が足りていないのよ。残った二振りのガングニールは、共に戦場に立てる状況に無いのだから。」

 

━━━━そう、思っていた。

 

「戦力としての貴方じゃなくて……貴方の人助けが必要なの。人質を取られて従わされているだろうマリア・カデンツァヴナ・イヴを説得し……此方側に引き入れる為に。」

 

「フィーネ、さん……はいッ!!」

 

━━━━あぁ、そうだ。

私は何を勘違いしていたんだろう。力が無かったら手を伸ばせないなんて誤魔化して。

━━━━けれど、やっと。身体中を巡る本能の律動(RHYTHM)に気づいたんだ。

 

「━━━━生きる事、諦めないと伝える為に!!私も一緒に行かせてくださいッ!!」

 

━━━━力が有るとか無いとか、そんな事は関係無いんだッ!!

私は、私のままッ!!強く在りたいッ!!

だからッ!!手を伸ばす事、諦めたくないッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━ハッチから飛び出した調ちゃんの後ろに、お陽様の色が見えた気がした。

 

「あっ……響!?」

 

ううん、やっぱり見間違いなんかじゃない!!一輪バイクみたいに走る調ちゃんの後ろに乗っているのは(小日向未来)の親友だ……!!

 

「━━━━何をやっているッ!?響くんを戦わせることは出来ないと……」

 

『戦いじゃありませんッ!!人助けですッ!!』

 

「減らず口の上手い映画なぞ、見せた覚えはないぞ!?」

 

『えぇ、私の入れ知恵だもの。驚いてもらえたかしら?』

 

「ぬ……いや、待て。そういう事では無い……ッ!!」

 

通信越しに響を止めようとする司令を煙に巻くのは、響を乗せたまま走るフィーネさん。

 

「━━━━行かせてあげてください。」

 

「なッ!?だが……!!」

 

……確かに、危険な事だ。お兄ちゃんが今も行方不明であるように。

でも……

 

「━━━━人助けは、一番響らしい事ですから。

 それに、響がピンチになったら、きっと……」

 

━━━━世界の涯からだって、駆けつけてくれる人が居る筈だから。

 

「ふっ……こういう無理無茶無謀は、本来俺の役目だった筈なんだがなぁ……」

 

「弦十郎さんも?」

 

正直、意外だと思ってしまう。確かに言われてみれば、ルナアタックの時なんかもフィーネさんに一人で挑むような事をしていたけれど……

 

「うふふ、弦十郎くんってばね?公安時代にはなんと海外の犯罪組織の中枢にまで無理矢理踏み込もうとしてたんだから。」

 

「えぇ!?」

 

そんな折に鳴弥さんが耳打ちしてくるのは、本当に、本当に驚くべき情報。

……公安って、なんだかドラマのイメージだともうちょっとスマートだったような……?

 

「━━━━鳴弥くん!?そういうのは守秘義務がだなぁ……」

 

「ハハハ……それはそうと、コレは帰ってきたらお灸ですかね?」

 

━━━━そんな脱線をそれとなく戻してくれるのは、緒川さんの一声。

 

「━━━━あぁ!!特大のをくれてやる!!首謀者と、共犯者の二人揃ってだッ!!

 だからこそ俺達はッ!!」

 

「バックアップと各種計算なら任せてください!!」

 

「各国機関への状況説明は今も続けています。

 私達は、私達のやれる事で!!」

 

「━━━━最終調整、完了。

 ……良かったですね、()()?無理無茶無謀のチャンスも、もしかしたら巡ってくるかも知れませんよ?」

 

━━━━そう言って、自分達に出来る事をする大人達の背中は、とても大きく見えて。

 

「……私に、出来る事……」

 

━━━━一人だけ、手持ち無沙汰になってしまった私だけが、このブリッジに置いて行かれてしまったようで。

 

「……ううん。違う。私がすべき事は……」

 

━━━━響の人助け。響が一番やりたい事。

それを、私が見届けないでどうするのだろうか?

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━立花が、月読と共に?」

 

「はぁ!?あのバカ、一体全体何考えてやがる!?」

 

━━━━誘いこまれたのだろうか?

ノイズの濃い方角へと突き進み続けた私達(風鳴翼と雪音クリス)は、フロンティアの前方を船首とした場合には右舷に相当するだろう部分へと辿り着いていた。

 

「フッ……立花らしいな……説得に乗り気だろう事は読めていたが、さしもに想像の斜め上過ぎる。」

 

「珍妙奇天烈摩訶不思議で片付けていい問題じゃねぇだろ!?

 今のアイツはギアを持ってねぇんだぞ!?」

 

━━━━然り。今の立花にはノイズへと抗する力が無い。それは事実だ。

だが……

 

「━━━━なれば、この場にてドクターからソロモンの杖を取り戻し、全てのノイズを封印処置すればいい……

 ゆえに……ドクターよッ!!()く出てくるがいいッ!!このまま十把一絡げなノイズを挟んで睨み合った所で、この状況は変わるまいッ!!」

 

『……ハ!!嫌なこった。と、言いたい所なんですが……えぇ、認めましょう。キミ達を雑魚ノイズ程度で足止めするなんてのはどだい不可能なようだ……』

 

宣言と同時に、陽光を背に男は此方よりも高台から姿を現す。

 

その右腕は、見せつけるようにソロモンの杖を握り。

その左腕は、異形の物へと変化して……

 

もしや、天逆美舟のようにネフィリムとの融合を?

 

━━━━そして、その怪腕で掴むのは、左腕を異形へと変じさせられ、涙を流し続ける少女の。今はまだ無事なその右腕。

 

天逆美舟を人質と取って、ドクター・ウェルが其処に立っていた。

 

「……くッ……!!」

 

「おぉっとォ、動くんじゃあないデスよ?

 命まで奪う気は更々無いですが、力加減を誤ったら……えぇ、手首くらいはポッキリ行っちゃうかも知れませんからね?」

 

「……外道が……ッ!!」

 

耳朶を打つのは、明確なまでの脅迫の言葉。

 

━━━━だが、此処までは計画通り。

 

「……第一段階、完了。」

 

「……なら、あとは……」

 

━━━━目配せにて意思を疎通し、雪音と二人、頷き合う。

 

「……ギアを解除して大人しく死んでくれ……なーんて言った所で聴く気は無いでしょう?」

 

「……其方とて、彼女を解放して大人しく縛に付け、そう言った所で聴く気はないのだろう?」

 

「えぇそうですともッ!!

 で、す、がァ……このソロモンの杖とフロンティアがある限り……ボクが勝つ未来は微塵も揺らいでいないッ!!

 それは何故かッ!!」

 

━━━━叫びと共に召喚される、大型ノイズの群れ、群れ、群れ。

地を這い、地に立ち、空を覆う。

視界を埋め尽くさんばかりのノイズの群れが、たった二人の最前線へと投入されたのだ。

 

「━━━━そうッ!!この杖こそ無尽の具現ッ!!魔術王ソロモンの偉業に謳われる七十二柱の悪魔を制御せし完全聖遺物だからだッ!!」

 

「━━━━御託はいい。テメェが杖も、その子も……この星の未来さえもッ!!

 手放す気が無いってんなら……!!

 あたし等が、その幻想を撃ち貫きッ!!」

 

「━━━━切り裂いて見せるッ!!

 はァァァァッ!!」

 

━━━━後は任せたぞ。月読……フィーネ……そして、立花……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━あそこに、マリアさんが?」

 

(立花響)が相乗りさせて貰っているこの一輪車?みたいな形態は、禁月輪と言うのだそうだ。道すがらに教えてもらった。

そんなこんなで、フロンティアの中心部へと右側から進んでいた私達の前に見えてくるのは、巨大なドーム状の建物。

 

「えぇ。データによればあそこがブリッジの筈。そして、ドクターはマリアを使わない。いいえ、使う事が出来ない。

 ……この子(調)の経験から予測しただけだけど……あの人は、優しいから。米国艦隊への仕打ちを見てなお立ち上がる事は難しい筈。

 ……けれど、切歌の方は……ッ!!」

 

そんな言葉の途中で、調ちゃんに宿ったフィーネさんが急にその場で一回転。

放り出されて、なんとか着地も出来た私の前にあるのは、小さなドームと……

 

「うわわ!?って、もしかして……!!

 ━━━━切歌ちゃん!!」

 

━━━━その上に立つ、翠の少女。

 

「━━━━Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)……デース!!」

 

聖なる詠唱を口ずさみ、翠の少女は力を纏って刃を握る。

 

「……切ちゃん。」

 

「調……なんでデスか!!なんで、そっちに着いてるんデスか!!」

 

「……ドクターのやり方は看過出来ない!!何も遺らないんだよ!?」

 

「━━━━違う。もう、ドクターのやり方を推し進めるしか無いんデス……

 もう、おにーさんは居ないんデスよッ!?コレが、()()()()()()()()()()()()なんデス!!それが分からない調じゃない筈デスよ!?」

 

━━━━その叫びは、悲痛な物で。

……お兄ちゃんと、ちゃんと向き合ってくれたんだと分かる。だけど、だからこそ……

 

「切歌ちゃん……ううん。こんな風なたった一つしか方法が無いなんて、そんな事は無いよ。

 ━━━━だって、私達はまだ諦めていないんだものッ!!」

 

「━━━━ッ!!戦場(いくさば)で何をバカな事をッ!!」

 

「バカでもいいよ!!賢くても、それで手を伸ばせなかったら、未来(あした)に絶対後悔する!!

 ━━━━そんなのはイヤだッ!!手を伸ばし続ける事ッ!!生きる事を諦めない事ッ!!それがバカのやる事だって言うんなら……貫き徹したバカにだってなってやるッ!!」

 

「んな……ッ!?」

 

「それにね、切歌ちゃん。ドクターが何を言ったかは知らない。けど……

 ━━━━お兄ちゃんは、死んでない。私達が諦めない理由は……それを信じているからだよ?」

 

「……理想論の、夢想論デスッ!!はいそうデスかと、そう簡単にィ……信じられるもんデスかッ!!」

 

━━━━鎌を差し向けて、否定の意思をありありとぶつけてくる切歌ちゃん。

……やっぱり、そう簡単に分かり合う事は出来ないのかな……

 

「……私とギアを繋ぐLinkerにも限りがある。だから、私が切ちゃんを止める。貴方はマリアをお願い。

 ━━━━貴方の人助け、そこまで言うなら信じさせて欲しい。」

 

「━━━━でもッ!?」

 

「━━━━胸の歌を、信じなさい?貴方の物も、そして、この子(調)の物も、ね?」

 

━━━━調ちゃんの紅と、そして、フィーネさんの黄金の色が、私を見据えて。

 

「……はいッ!!

 うおおおおお!!」

 

走り出しながら、未来から教わった事を思い出す。

長距離走での走り方を。

 

━━━━腕の振り方は真っ直ぐに。

━━━━脚の上げ方は一定間隔に。

そして……

 

「━━━━目線の在処は、正面ッ!!目指す所だけを向いてェェェェ!!」

 

背後にぶつかり合う紅と緑を感じながら、私は走る。目指す所は、一番大きいドームの頂上━━━━ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━なんで邪魔するんデスかッ!?調ッ!!」

 

━━━━何故?どうして?

アタシ(暁切歌)の前にはだかるだけで無く……

 

「━━━━アイツは調の嫌った偽善者じゃないデスか!!」

 

━━━━どうして、アイツを庇うんデスか?

 

「……そう。傍から見たら、偽善者そのもの。甘ったるくて、口にする言葉は耳ざわりの良い事ばかり……」

 

「だったら……!!」

 

「━━━━でも。あの子は、自分を偽っているワケじゃない。自分のやりたい事、動きたい無茶の為に道理を動かすアイツが眩しくて、羨ましくて……

 だから、私も。胸の歌を信じてみたい。」

 

「……さいですか。でも、それを言うなら……アタシだって引き下がれないんデス!!

 おにーさんを犠牲にしてしまった……だからッ!!その犠牲を無為にしない為にッ!!

 確実に救うしか無いんデスよッ!!調やマリア、マムの暮らすこの世界をッ!!」

 

━━━━でも、さっきのアイツが言ってたように……おにーさんが生きてる事を信じ切れたのなら……なにかは変わっていたのかなぁ……

 

「……それが、切ちゃんの理由?」

 

「……これが、アタシの理由デス。」

 

向け合う理由は平行線。

向け合う得物は相似形。

━━━━だからこそ、始まりの合図(スタートシグナル)なんて、もう必要無かった。

 

「フッ!!」

 

━━━━切・呪リeッTぉ━━━━

 

「ハァッ!!」

 

━━━━γ式 卍火車━━━━

 

放つ力は、お互いに見知った物。見過ごす筈は有りはしない。

此処から始まるのは、お互いの歌を懸けた決戦だと、アタシ達はお互いに気づいているのデス。

 

━━━━あぁ、でも。

今の調やアイツを見ていると、胸に飄々(ひょうひょう)と吹くこの風は、一体なんなんデスかね……?




━━━━開戦の号砲は撃ち放たれた。
ぶつかり合う意地と意地、削り合う無尽と蒼紅が奏でる、歪な二連二重奏(ツインデュエット)

その裏で、欲望を伸ばし続ける者、それを止めんと動き出す者達。

遺された最後の希望をそれぞれが求め、されどその姿形は誰から見ても違っていて。
だからきっと、これもまた、不和の一つのカタチなのだ。
━━━━見間違えた希望が絶望へと相転移する刻は、近い。
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