戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第七十五話 転機のカウンターアタック

「……接続したぜィ。」

 

『OK。コレでこうこうこうやって……よし、遠隔とはいえコネクタに接続してもらえばこんなもんさ!!』

 

━━━━エアキャリア後部に存在するロックの掛かった扉を、オレ(アゲート・ガウラード)は回線の先の少年に頼んで開けてもらう。

このエアキャリアと対面するのは、あの倉庫でフィーネを名乗る少女と戦った時以来だろうか?

 

「……さぁて、お目当ての物はァどこにある……?」

 

━━━━怒りは、胸の内に燃えている。

戦場(いくさば)で交わした約束を横から掻っ攫われるのを指を(くわ)えたまま見ている趣味なんざ……生憎だが、持ち合わせが無い。

 

だが、だからこそ転機が必要だったのだ。ドクター・ウェルの殺害よりもスマートで、()()を救えるとっておきの秘策が。

 

「━━━━有った。」

 

━━━━無人のカプセルの設置された後部カーゴ。その片隅に放置されていた、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あとはタイミングを見計らって……ん?」

 

切り札は得た。

それを切るタイミングを計る為、操縦席からエアキャリアのシステムをハックしに向かう中、側面個室の机の上に見つけた()()

……書きながらに握り締めたのか、所々がくしゃくしゃで、蚯蚓ののたくったような文字列にも涙の跡も残った、その()()

 

「……やるせねぇ、な……」

 

━━━━同情は、しない。どんな都合や事情があれ、戦場(いくさば)に立つ覚悟を固めた以上、その身は戦士だ。それを女だ子どもだで区別するのは侮辱に他ならない。

……けれど、けれども。心だけは。そう容易くは割り切れない物なのだ。

特に、子どもの心を護ると宣いながらも、護り切れなかった今のオレには……

 

『……システムには接続出来た。いつでも離陸出来るよ。』

 

「おう……自動操縦も頼めるか?」

 

『……誰に物言ってるのさ?迎えの便までバッチリだよ。

 ━━━━だから、さ。帰って来いよ。オッサン。』

 

「━━━━そんなに、分かりやすかったかィ?」

 

最悪、相討ちでも構わないと思っては居た。

元々、七彩騎士としての仕事に固執していたワケでも無し。

共ちゃんの忘れ形見……真っ直ぐな目をしたあの少年が光に消えた以上、彼との約束さえ護れればそれでいいと。

……そんな後ろ向きは、スッカリ見抜かれていたようで……

 

『もうバレバレだって。ムサシだって気づいてて敢えて何も言わなかったんじゃない?』

 

「……参ったねィ……」

 

操縦席に座りこみ、一人頭を掻く。

 

「━━━━まぁ、アレだなァ、うん。帰ってくるともさ。

 だから、出迎えは丁重に頼むぜ?小僧。」

 

バツは悪いが、この口の悪い小僧が此処まで真っ直ぐに心配してくれているのだ。

コレでまたしても約束を破ったりなんぞしちまったら……それこそ、死んでも死にきれねェ。

 

『フッフッフ……超特急で届けるからね?』

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━相殺、相殺、相殺相殺相殺!!

アタシ(暁切歌)と調の戦いは、お互いを知っているからこその物になっていた。

アタシが投げ飛ばした鎌の刃に対して、アームの先の丸鋸を飛ばして撃ち落とす調。

アームの数を倍増させて手数を稼ぐ調に対して、アタシは鎌の数を倍増させて手数を稼ぐ。

 

「━━━━どうして分かってくれないんデスかッ!?

 もうアタシ達に賭けられるモノなんて何も残ってないんデスよッ!?」

 

だから、撃ち落とし合うだけでは明かない埒を開ける為に、アタシは叫びを挙げる。

 

「賭けられるかどうかじゃないッ!!

 ……ドクターのやり方じゃ何も残らないッ!!遺せないッ!!

 私は……切ちゃんにそんな世界に居て欲しくないッ!!」

 

でも……調はその叫びにも動じる事無く答えを返してきて……

 

「ッ……!!アタシだって……アタシだってそうデスよッ!!

 調にも……美舟にだって……大切な人達に、笑っていて欲しかったんデス……!!」

 

━━━━けど、もう。そんな結末は有り得ない。美舟の腕は異形と変えられて……おにーさんも、もう居ない。

 

「……切ちゃん……だから、護る為に私は戦うよ。切ちゃんも、マリアも、美舟も……私は、大好きだから。」

 

「━━━━大好きとか言うなッ!!あたしの方がずっと……皆の事が大好きデス!!

 だから……だから……ッ!!おにーさんが護ろうとした世界を!!絶対に護らないといけないんデス……ッ!!」

 

零れそうな涙を振り払い、目の前の調を見つめる。

 

「切ちゃん……私も、切ちゃんの事が……」

 

━━━━緊急φ式 双月カルマ━━━━

 

調のツインアームが身体の上下へと展開し、回転と共に浮き上がる。

ギア単独での空中機動は調の奥の手。

 

「調……アタシも、調の事が……」

 

━━━━封伐・PィNo奇ぉ(ピノキオ)━━━━

 

だから、それに対抗する為にアーマーを展開する。

上からの有利を、抗うアームの数で押し返す……ッ!!

 

『━━━━大好きって、言ってるでしょォォォォッ!!』

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━飛天八双、空を往く。

残る三体の飛行型超巨大ノイズを叩き潰す為に、(風鳴弦十郎)は飛行型ノイズの群れの上を駆け抜ける。

 

「━━━━コレで、最後だッ!!」

 

━━━━俺式・雷神蹴撃衝━━━━

 

そして、最後の一体を後方宙返りからの急降下蹴りで砕き散らす。

 

『おーおー、綺麗な花火じゃん……お陰でアタシの出番がまるで無かったけどさ。』

 

「フッ、すまんな……緒川ァ!!着地は任せたぞッ!!」

 

蹴り散らした事で空中での足場を失い、始まる落下と、それによってもたらされる加速を軽減する為に腕を開き、全身で風を受け止める。

だが、恐れは無い。

━━━━なにせ、俺には頼れる仲間が居るのだから。

 

『了解しました!!

 ━━━━風呼ぶ轍、今刻まん……ッ!!』

 

眼下に見えるのは、走り込んで来た緒川のジープがバック走行で一点を軸に高速回転し始めるその姿。

 

━━━━風遁・車輪旋風(しゃりんせんぷう)━━━━

 

そして、回転は風を巻き上げ、空へ昇る旋風(つむじ)を巻き起こす……ッ!!

 

「ぬッ……おおおおお!!」

 

━━━━巻き上がる風を全身で受け止め、落下の速度を殺しきる。

そして、竜巻から離れながらの前方回転受け身で着地を成功させる。

 

「━━━━司令!!御無事ですか!?」

 

「問題無いッ!!鳴弥くんッ!!そちらには何か動きはあったかッ!?」

 

『あったわ!!今、マリア・カデンツァヴナ・イヴが全世界に向けての演説を始めたの!!』

 

通信機越しに聴こえる鳴弥くんの声と共に流れるのは、情報通りの物。

 

「やはり、FISはドクター・ウェルとナスターシャ教授の間で内部分裂しているようですね……」

 

「━━━━急ぐぞ、緒川ッ!!」

 

「……はい!!こうしてナスターシャ教授達が堂々と動けるという事は……」

 

「作戦通り、ドクターが釣り出されたという事ッ!!」

 

急発進するジープに掴まりながら、マリア・カデンツァヴナ・イヴの演説を聞く。

 

『中継に関しては此方でも精査しておきます。

 ……先に向かった響ちゃんの事、よろしくお願いしますね?』

 

「━━━━任せろッ!!」

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━深呼吸を、ひとつ。

 

「━━━━私は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 月の落下が(もたらす)す災厄を最小限に抑える為、フィーネの名を騙った者だ。」

 

━━━━コレは、布告。私が騙して来た者たちへの謝罪であり……同時に、世界を救う為の所信表明。

 

「━━━━半年前のルナアタック事件……コレに端を発する月の公転軌道の異常は、とある存在によって隠蔽されていた。」

 

━━━━コレは、事実。マムに齎された情報を基に私達が調べ上げ、確証と共に世界へ告げる物。

 

「それは、米国・国家安全保障局(NSA)とパヴァリアの光明結社。

 ━━━━彼等のように政界・財界の一角を占有する特権階級において、月の異常とそれが齎すだろう混乱は極めて不都合であり……

 彼等にとっての不利益を齎す自体だったからだ。それ故、彼等は自己の保身のみに終始した。」

 

━━━━コレは、陰謀。秘匿された世界の裏側で起きている、仄昏い欲望を満たす事しか頭にない連中の末路。

 

「━━━━今、月は落ちてこようとしている。かつて、杞の国の人が描いた憂いは有り得る未来となったのだ。

 ……コレが落ちる事は即ち、重力バランスの変動や環境の著しい変化などの未曽有の災害を引き起こし、数多くの犠牲者を出すだろう……」

 

━━━━コレは、未来。月の落下が齎し、世界を書き換える呪い。

 

「私は……私達はッ!!それを止めたいッ!!

 だから……(みな)の力を貸して欲しいッ!!」

 

━━━━コレは、誓願。遍く世界の総ての人々を救う為に、願いながらも伸ばすこの手。

 

「手立てはある。だが、私一人では足りない……全世界の━━━━皆の協力が必要だ。

 歌には力がある。冗談でも比喩でも無い。本当に……歌には力が、()()()()()()()()がある。

 大量のフォニックゲイン……全世界を、全人類を震わせる歌があれば、月を公転軌道上へと押し戻す事が出来る。」

 

━━━━コレは、博打。全世界をフォニックゲインで繋げる事で、フロンティアを起動させる為のエネルギーを賄おうという物。

 

「……目的があったにせよ、私達がテロという手段に走り、世間を騒がせ、混乱の種を撒いたのは確かだ……

 目的の為にと総てを偽って来た私の言葉が、今やどれほど響くか自信は無い……

 ━━━━だが、歌が力になるという、この事実だけは信じて欲しいッ!!」

 

━━━━コレは、懇願。セレナが居る世界を護る為に私が取る、パンドラの箱に残った最後の希望。

 

「━━━━Granzizel bilfen gungnir zizzl(溢れはじめる秘めた熱情)……」

 

━━━━故に、私は鎧を纏う。歌に力がある事を、まず隗より始めて示す為に……ッ!!

 

「……繰り返しになるが、私一人の力では、落下する月を受け止め切れない……ッ!!

 ━━━━だから、貸して欲しいッ!!皆の歌を……届けて欲しいッ!!」

 

━━━━セレナが救ってくれたこの命。誰かを……そしてなによりも、セレナが生きるこの世界を護る為に。

それが、セレナが遺してくれた物に報いる為に出来る事……ッ!!

 

独唱歌(カデンツァ)に込めるのは、私の想い、私の総て。

━━━━だから、どうか、歌を……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「━━━━分からず屋には、いいお薬を処方して説得(オペ)しま……しょうッ!!」

 

「━━━━でやァァァァッ!!」

 

落下する(月読調)の巨刃一対を弾き飛ばし、肩のアーマーも用いて手数を増やした切ちゃんが迫りくる。

 

「ターゲットには、容赦はしない……ッ!!感情を後回しに(アンインストール)……!!」

 

その四本のアームを、私は一対のアームで弾き、逸らし、相殺し、その反動で距離を取る。

 

「━━━━交錯してく刃の音が、何故か切ない狂騒曲(ラプソディ)に……ッ!!」

 

開いた距離は一足一刀、私達にとっての、技一つ分。

だから、私がぶつけるのは最大級の突撃力━━━━!!

 

━━━━非常Σ(シグマ)式 禁月輪━━━━

 

━━━━双斬・死nデRぇラ(シンデレラ)━━━━

 

「籠の中から……救ってあげるッ!!両断の一閃(クチヅケ)で……ッ!!」

 

それを読み切ったのだろう。切ちゃんが取ったのは、迎撃に特化した待ちの一手。

━━━━それなら、私はその迎撃ごと叩き斬る……ッ!!

 

「━━━━早くこんな……涙は……」

 

「叫んでみてcall now、涙ごと全部……ッ!!」

 

重なる刃、重なる歌。それは、重なりながらも擦れ違う心の在り方を現わすようで。

 

『━━━━斬り刻んであげましょう(伐り刻んであげましょう)……ッ!!』

 

だから、重なり合った筈の切ちゃんの鋏も、重なり続ける筈の私の鋸も、相手の決意を切り裂くに至らない。

 

伝えきれない(臨界を越えた想い)……ココロ、を(━━━━)今ぶつけようッ!!(今ぶつけようッ!!)

 

━━━━だけど、そんな事は当然分かってる。だって、相手は切ちゃんなんだもの。

何が出来て、何が出来なくて、何をしてくるかだってお互いに分かってる。

 

「遠慮」なんて要らないッ!!(「遠慮」なんて要らない……ッ!!)さぁ、今試すMy allッ!!(さぁ、今試す愛……ッ!!)

 

━━━━けれど、けれども。心だけは分からない。

分かってあげられなかった。だからこそ……手を伸ばす事、諦めないと。

敵とか味方とかじゃない。

━━━━切ちゃんと、今度こそ分かり合う為に……ッ!!

 

「━━━━募り切って止まらない……ッ!!《大好き》伝えたいよッ!!」

 

「きっと……きっと……そうッ!!《大好き》伝えたいッ!!」

 

離れてしまった距離を、今度は私自身の(ローラー)で詰める。

 

「━━━━煌めいたッ!!」

 

「━━━━煌めくッ!!」

 

そんな私を足止める為に切ちゃんが放つ(アンカー)をスウェーバックで避ける。

 

「━━━━運命にッ!!」

 

「━━━━運命(サダメ)ッ!!」

 

上体を起こす反動を跳躍に変換し、私は、空へ飛び出して……

 

『━━━━二人はッ!!(嗚呼……溶ける)月と太陽……ッ!!(月と太陽……ッ!!)

 

━━━━交錯、一対。

翠紅が……互角の威を以て弾き合う。

 

「……ッ!!」

 

「……ッ!!」

 

━━━━またしても、開いてしまった距離。それを詰める為に、私は声を挙げる。

 

「━━━━切ちゃんッ!!どうしても退けないのッ!?」

 

「退けないデスッ!!退かないデスッ!!だって、アタシ達はもう()()()()()()()()()()()()じゃないデスかッ!!

 ━━━━それでも、退かしたいって言うのなら……力づくでやってみせるといいデスよ……ッ!!」

 

「……ッ!!コレ、は……!!」

 

(Linker……それも、貴方達に合わせてドクター・ウェルが調整した『あなたに優しい』物……

彼女は最初から、コレを狙っていたワケね……)

 

「━━━━ままならない想いは、力づくで押し通すしか無いじゃないデスか……ッ!!」

 

━━━━あぁ……

こんなにも、私達は切ちゃんを追い詰めてしまったんだ。

優しい切ちゃん。誰よりも優しいから、貴方は全部を背負ってしまおうとするのね……

 

(……フィーネさん。ごめんなさい。私……)

 

(━━━━言ったでしょう?胸の歌を信じなさい……って。それが貴方の決断ならば、かつての影でしか無い私に止める権利なんて有りはしないわ。)

 

━━━━Linkerの詰まった無針注射器を首に当てる。逡巡なんて、もう有りはしない。

 

━━━━ワタシの全部、キミに捧げて調べ歌う━━━━

 

「━━━━絶唱にて繰り出されるイガリマは、相手の魂を刈り取る刃ッ!!

 コレで、分からず屋の調から、ほんの少し負けん気を削げば……ッ!!」

 

━━━━まるで、魔女の箒のよう。ブースターを展開し、空を飛ぶほどの出力を撒き散らして、イガリマの絶唱は此処に顕現する。

 

「━━━━分からず屋はどっち?私が望んでいるのは、切ちゃんが笑えないこんな未来(あした)じゃないッ!!

 寂しさを押し付ける世界なんて……私はちっとも欲しくはないッ!!」

 

━━━━そんな魔法に対峙するのは、展開される機械鋸(マシンソー)。それを支える機械脚(マシンレッグ)

かつて、弾圧されながらも物語を綴り続けた作家兄弟がこの世界に産み落とした、人に非ずして人を支える物。

━━━━人型機械(ロボット)が、シュルシャガナの絶唱として顕現し、迎え撃つ。

 

「……だったら……だったら、アタシはどうすれば良かったんデスか!?

━━━━美舟を人質にされてッ!!手を差し伸べてくれたおにーさんも居なくなってッ!!

ドクターのやり方以外で世界を救う方法がドンドンと削られて行って……ッ!!」

 

━━━━まるで駄々をこねるように、足に鎌を履いた切ちゃんは回転し、加速のままに此方の絶唱を両断せんと迫りくる。

 

「━━━━だったら、抗うしか無い……ッ!!

 抗うって字は、上から押し付けるドクターみたいな横暴に……ッ!!」

 

左の機械鋸(マシンソー)で、その大回転魔斬を弾き、逸らす。

……けれど、一瞬のインパクトに全力を叩き込んだその魔斬に耐えきれず機械鋸(マシンソー)は崩壊する。

 

━━━━構うもんかッ!!

 

「下から手で押し上げてッ!!抗い続ける姿を表しているんだよッ!!

 だから、切ちゃん!!手を伸ばしてッ!!」

 

「━━━━ッ!!今さらッ!!どのツラ提げてェェェェッ!!

 たとえ調に嫌われたって、今さら、アタシはァァァァッ!!」

 

二撃目、私自身を狙った攻撃を、右の機械鋸(マシンソー)で辛うじて受け止める。

━━━━けれど、砕け散るのは私の機械鋸(マシンソー)だけ。

……この結末を呼び寄せたのは、最初の一撃で総てを決めようとした切ちゃんと、説得し続けようと温存を選んだ私の、たった一つの大きな違い。

 

「━━━━届かないの……?手を伸ばしても、やっぱり……」

 

目前に迫る鎌刃。それを止める手段が、私には無い。私の代わりに手を伸ばしてくれたシュルシャガナの刃も砕けて散ってしまったのだから。

 

(……潮時、かしらね。

━━━━手を伸ばし続けなさいッ!!月読調ッ!!彼女を救いたいと思うのならッ!!)

 

━━━━だから、脳裏に響く彼女(フィーネ)の囁く通りに私は手を伸ばして……

 

━━━━ASGARD━━━━

 

━━━━瞬き一つよりも速く、その壁は顕現する。

 

(……北欧神話において、山の巨人(ベルグリシ)がスヴァジルファリと共にアースガルズの最果てに築いた、()()()()()()()

それを模した鉄壁の防御術式……だが、コレを造り上げるという事は……)

 

「━━━━ッ!?」

 

「コレ、は……まさか、フィーネが貸してくれた力……?」

 

「……まさか、そんな……調……だったんデスか……?

 ━━━━フィーネが見届けていたのはアタシじゃなくて……そして、調を護る為に……力を貸して……」

 

『━━━━そうだ。真に私が宿ったのは、この娘だった。

 だが、お前の信念は━━━━』

 

私の口を借りて、フィーネが語り掛ける。けれど、切ちゃんの絶叫が、それを遮る。

 

「黙れェッ!!

 ……黙って……

 アタシは調を、美舟を、みんなを……護りたかった……ッ!!

 おにーさんがしたかった事、やりたかっただろう事……フィーネが見守ってくれているだろうからこそ、未来に、絶対に繋げないといけないと思って……ッ!!」

 

━━━━それは違う!!と、そう叫びたいのに。言葉よりも先に、切ちゃんの意を汲んだ獄鎌(イガリマ)は空高くまで飛び上がり、地に叩きつける断頭台(ギロチン)となっていて……!!

 

「━━━━でも、出来た事は誰かを傷つけて……調が伸ばしてくれた手だって振り払って……

 アタシって、ホント馬鹿だ……このまま、消えてなくなりたいデスよ……」

 

(━━━━走ってッ!!イガリマの絶唱は魂の情報構造そのものを分解する不可逆の一閃ッ!!

アレが直撃したら、彼女は絶対に助からないッ!!)

 

「━━━━切ちゃん、ダメェッ!!」

 

フィーネの言葉を聴くまでも無く、私は走り出していた。

目の前で命を投げ捨てようとしている切ちゃんを、放っておけるワケが無いッ!!

 

━━━━あぁ、だけど……二人一緒に逃げ切るのは無理だろうなぁ……

……まぁ、いいか。切ちゃんが居ない世界で、私は歌えないんだから。ただの我儘かも知れないけど……何が有っても、私は切ちゃんに生きていて欲しいんだ。

 

 

 

「━━━━天津糸闘流・四の(よわい)……ッ!!」

 

━━━━天津糸闘流・四の齢・弧月━━━━

 

 

━━━━けれど、切ちゃんを庇った私の身体を貫く筈の鎌刃は、突然の乱入者に打ち払われて……

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━間に合ったッ!!

 

世界を越える跳躍という初めての運用。容易には掴めぬその勝手に四苦八苦しながらも、(天津共鳴)は俺の行くべき場所に辿り着いた。

 

━━━━即ちフロンティア直上、高度数十㎞の大気圏内へと。

 

「━━━━優先すべきはまず切歌ちゃんと調ちゃんを止める事ッ!!

 美舟ちゃんを助ける為に、そして、世界を救う為にッ!!彼女達のどちらが欠けてもそれは成し得ない無理難題ッ!!」

 

━━━━睨みつけるのは、直下に広がるフロンティアの偉容。現行人類の作成可能規模を遥かに超えた、まさに《島が浮いている》とでも言うべきふざけたスケール。

その中から一組の戦いを見つけるとあっては、遥か上空からでは個々人の区別など困難だ……そう考える俺の手元で、アメノハゴロモが震えだす。

 

「これは……フォニックゲインに反応しているのかッ!!

 ……場所は、中枢、右舷、船首、そして……左舷ッ!!この規模は……絶唱かッ!?」

 

━━━━震え、共振し、共鳴する羽衣が、俺を往くべき場所へと導いてくれる。

 

「間に合え……ッ!!」

 

━━━━絶唱の齎すバックファイアは、装者の生命を考慮しない全力の叫び……ッ!!

届かなければ、間に合わなければ……不安と共に脳裏を過るのは、二年前の後悔。崩壊する少女の四肢。

 

「……いいや。」

 

間に合うのか?違う。

届くのか?違う。

 

「━━━━届かせると、伸ばし続けると……そう誓っただろうが……ッ!!」

 

短距離跳躍(ショートジャンプ)の連続で空を跳び、空を落ちていく。

 

「━━━━居たッ!!やっぱり、調ちゃんと切歌ちゃん……ッ!?」

 

一瞬にして七里(セブンリーグ)を駆け、それでもようやく顔が見える程度に近づいた瞬間。

見えてしまったのは、少女の横顔。

 

━━━━涙を零して笑う、切歌ちゃんの姿。

 

━━━━そして、断頭台のように鎌が飛び上がる。

 

「━━━━ふざけるな。」

 

━━━━それは、自分への怒り。

━━━━それは、理不尽への怒り。

 

少女に涙を流させて、悲しみを誤魔化す笑顔でッ!!

 

「━━━━そんな絶望(モン)を打ち砕く為にッ!!

 俺は拳を握ったンだァァァァッ!!」

 

━━━━左腕は無い。開けた岩場であるからには、糸の展開で絶唱の一撃を喰いとめるには《一瞬》が必要だ。

故に、選択するのは天津家に伝わる武闘術。

月の満ち欠けに掛けた三十の型。

その、四番。

 

「━━━━天津糸闘流・四の(よわい)……ッ!!」

 

━━━━天津糸闘流・四の齢・弧月━━━━

 

「吹っ……飛べェェェェ!!」

 

転機を齎す為の逆蹴撃(カウンターアタック)

下方から打ち上がる蹴り脚は弧を描き、敵対者を蹴り上げる。

 

━━━━ムーンサルトキックと、そう呼ばれる事もある一撃が、切歌ちゃんを庇った調ちゃんに刺さる筈だった鎌刃。

()()()()()()()を蹴り上げ、弾き飛ばす。

 

「……え?」

 

「……なに、が……?」

 

「━━━━悪い、遅くなった。」

 

━━━━何が起こったのかもわからないだろう二人に、安心させるように笑顔を向ける。

 

「おにーさん……?」

 

「共鳴……さん?」

 

「あぁ、そうだ……とはいえ、まずはアッチをどうにかしなきゃな。」

 

━━━━暴走は、そう易々とは止まらない。切歌ちゃん自身を狙っていたらしい鎌は弾き飛ばされながらも回転を増して戻ってこようとする。

 

「━━━━悪いな、イガリマ。

 その頑張りは、叶えてやれない。」

 

━━━━だが、それが切歌ちゃん達に届く事は無い。

 

「どんなに加速しようとも、どんなに回転しようとも……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だから、張り巡らせたアメノハゴロモが巣と張る面影糸の結界が……キミを、止める。」

 

━━━━弧月の蹴り上げと同時に周囲の岩場と接続し、造り上げた糸の結界へと最短ルートで突っ込んでしまったがために。

 

「……ホントに……ホントに、おにーさんなんですか……?」

 

「━━━━あぁ、幽霊でも無いし、化けて出たワケでも無い。

 正真正銘の天津共鳴だよ。」

 

遅ればせながらも……証明も兼ねて彼女達のギアと同調し、絶唱の反動を放出する。

━━━━カラン、と音を立てて、力を失った鎌が面影糸の結界をすり抜けて地に落ちる。

 

「……おにーさん……おにーさん……!!」

 

安心からか、ギアまでも解除してしまった切歌ちゃんが飛び込んで来るのを、俺は迷いなく受け止める。

確かに、ドクターの野望を止める為の時間はあまり残されてはいない。けれど……だからとて、此処で彼女の涙を無視するような事が、俺に出来る筈はなかったのだ。

 

「……はぁ。遅いわよ。」

 

━━━━切歌ちゃんの代わりに辛辣な言葉を掛けてくるのは、同じくギアを解除した調ちゃん……では無い。

 

「アハハ……すいません、了子さん。一応、最速で、最短で、真っ直ぐに……一直線に向かって来たんですがね……」

 

彼女と共存して眠りに着いていた、フィーネ。その魂が語り掛けて来ているのだ。

 

「……あら?知っているなら話は早いわね。状況は分かっている?」

 

「FISと二課がぶつかり合っている事と、本当はフィーネが調ちゃんに宿っている事……そして、美舟ちゃんが人質として前線に駆り出されている事くらいです。

 それ以外は……」

 

「━━━━それだけ分かっていれば十分よ。貴方はこのままブリッジに向かいなさい。」

 

「ですが、美舟ちゃんが……」

 

「あのねぇ……こっちはアンタが乱入しない事前提で作戦建ててるのよ!?

 天舟の娘の救出だって、ちゃんと策を練ってやってるの!!そこに貴方が横から突っ込んでったら折角の策が台無しになるじゃない!!」

 

「う……」

 

━━━━そう言われると、どうにも弱い。

だが……此方とて、反論の一つも無いワケでは無い。というか、目の前の彼女に言ってやらねばならない事と、やってやらねばならない事があるのだから。

 

「そんな事言って!!フィーネさんだってさっき乱入してイガリマの攻撃代わりに喰らっていい感じに退場しようとしてたでしょう!?」

 

「ぎくっ……」

 

━━━━切歌ちゃんが自分をイガリマの絶唱で狙い、それを調ちゃんが止めようとした。

それ自体は、二人の関係性を知っていれば当然の事だと思うだろう。

 

━━━━だが、調ちゃんの中にはもう一人が居る。

永遠の刹那に生きる者……先史文明の巫女、フィーネが。

 

「そもそも今回の一件も元を辿れば貴方のせいなのに何もしないで寝てるのがヘンだと思いましたよ!!

 大方、司令や奏さんやクリスちゃんと顔を合わせるのが恥ずかしいとかそんな所だったんでしょうけど、そのせいで尻拭いさせられてるのは俺等なんですからね!?」

 

「しょ、しょうがないじゃない!!『千年後の今日に、また逢いましょう?』とか言ったのに今さら数ヶ月で戻ってきました~なんて、どのツラ提げて言えって言うのよそんな事!!

 ━━━━それに……真面目な理由だってあるわよ……まったく……隠しても仕方ないから言うけれど、この子……月読調には先史文明の巫女である私……フィーネの魂が宿っている。

 ……それは、この子の人生を否応なく書き換えるわ。たとえ、私が表に出てこの事件を解決に導いていたとしても。」

 

━━━━表情を沈痛な物に変えて言うフィーネの言葉は、事実だ。

フィーネが宿っていると知れれば、たとえこの事件が解決したとしても、調ちゃんの人生はどうしようもなく狂い果てる。

……かつて、聖遺物研究の道に進んだだけのただの研究員だった櫻井了子を、アウフヴァッヘン波形による目覚めと共に聖遺物研究ほぼ総ての第一人者である櫻井理論の体現者と変えてしまったように。

 

「……だから、私が眠ったまま解決すれば万々歳!!と思って静観してたんだけど……貴方が居なくなって落とし所(グッドエンド)が見えなくなっちゃったんだもの。そりゃあ手を貸すしか無いじゃない?」

 

「……色々言いたい事はありますが、概ね主張は理解しました……真面目な理由も嘘では無いでしょうし。

 ━━━━とはいえ、その問題の解決手段は俺が持ってきましたので。問題無いですよ。」

 

「……へ?」

 

━━━━そういえば。呆気に取られるフィーネの顔なんて、俺は初めて見た気がするな。

そんな事を想いながら、俺は皆が笑える未来(グランドエンディング)への道筋を模索し続けるのだった……




━━━━さぁ、逆襲劇(カウンターアタック)を始めよう。

銀の弾丸を銃に込め、狩人は赤ずきんを救う為に舞台に上がる。
崩れ落ちる前提の中で、黄金が観るのは紅か、蒼か……

弾け飛び、下げ合わせ、狭間に立つ三様を……刮目して視よ、英雄。
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