戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第七十八話 始源のリプロダクション

━━━━信じられない。

理解は出来る。適合係数が()()()()()()()に宿る……即ち、《愛》だという事。

それを解き明かし、優しいLinkerへと昇華せしめたのは他の誰でも無いボク(ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス)なのだから。

 

━━━━だが、この土壇場でッ!!

()()()も居なくなったかも知れないと突きつけられてッ!!

それでもなお、と叫びをあげてッ!!

 

「このボクの完璧な計画をぉぉぉぉ……ッ!!

 こんな所でッ!!」

 

此処ではダメだ。ブリッジまで踏み込まれてしまった以上、フロンティア中枢を直接操作するのでは重力場で吹っ飛ばす前にブン殴られて終いだッ!!

そう頭では分かっていても、ボクの身体はこの完璧な頭脳に着いて来る事が出来ず……

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

階段を降りる中でバランスを崩し、転倒。

だが!!選ばれた英雄であるこのボクはッ!!この程度の困難程度に屈しはしないッ!!

 

「諦め……られるかァァァァ!!こんな所でッ!!」

 

左腕を叩きつけ、ブリッジの緊急脱出装置を強制起動する。

 

「ッ!?待ってッ!!」

 

「ぁ……」

 

「っとぉ!?」

 

そんなボクに追いすがろうとするガングニールだが、何やらあったようでコッチに飛んで来はしない。

━━━━ツイてるッ!!やはりボクは人類史に名を刻むべく選ばれた天才なんだッ!!

 

「━━━━ウェル博士ッ!!」

 

目の前のエレベーターからやってくる二課の連中も、既に緊急脱出装置に乗り込んだボクには届かない……ッ!!

 

━━━━コレで勝ちだッ!!ボクのッ!!

 

「にへ……」

 

━━━━目指す場所はフロンティアのもう一つの中枢……動力室ッ!!

其処にみっともなくへばりついたネフィリムの心臓を直接稼働させれば……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ガングニールを剥ぎ取られて力んでいた物が弾けてしまったのだろうか?

力無く倒れ込むマリアさんを支えながら、(立花響)は思う。

 

━━━━信じていたい、と。

 

マリアさんの言葉は事実だ。お兄ちゃんは今も行方不明だし、美舟ちゃんも助けられたのかは分からないし……ナスターシャ教授の命だって、状況はよく分からないけど危ない筈なのだ。

だけど、私は一人じゃない。一人きりの歌では無く、私は今も繋がっている。

 

「ぬぅ……!!」

 

「響さん!!そのシンフォギアは!?」

 

「マリアさんのガングニールが、私の歌に応えてくれたんですッ!!」

 

━━━━そう、こうして司令と緒川さんが駆けつけてくれたように。

 

けれど、喜ぶよりも先に、振動と共にフロンティアが揺れる……

 

「コレはッ!?」

 

『━━━━重力場の異常を検知ッ!!』

 

『フロンティア、上昇しつつ移動を開始ッ!!』

 

「ッ!?」

 

通信の向こうから聞こえるのは、フロンティアが今なお動き続けているという事実……ドクターはブリッジから去った筈なのにッ!?

 

「……今のウェルは、左腕のネフィリムをフロンティアと繋げる事で意のままに制御できる……

 今まで律儀にブリッジから動かしていたのは、単に状況判断に必要な情報を集めるのにこの中枢制御機構を介するのが一番楽なやり方だったからだ……

 ……恐らく、奴は重力波の偏向か……或いはブロック毎の投棄でお前達シンフォギア装者と二課本部潜水艦を排除しようとするだろう……

 ━━━━けれど、それを成し遂げる為には中枢制御機構を介さずにフロンティアを全域掌握する事が不可欠。それには今少しの時間がかかる筈……

 その前に、フロンティアの動力源となっているネフィリムの心臓を止める事が出来れば……

 戦う資格の無い、己の憎悪で刃を振るってしまった私に変わって……お願い……」

 

抜けた力が戻らないかのように、へたり込んだままにマリアさんは言葉を紡ぐ。

……けれど、それはまるで懺悔のようで。

自分では前に進めないと断じてしまう、そんな姿。

 

「━━━━調ちゃんにも頼まれてるんだ。

 マリアさんを助けて、って。だから、心配しないで。」

 

━━━━だから、私は笑顔で微笑みかける。安心してもらえるように。

 

「あな、たは……」

 

「━━━━破ァァァァッ!!」

 

その瞬間、横から聞こえるのは破砕の轟音。

 

「師匠!!」

 

それは、師匠の拳がウェル博士が逃げ出した辺りの床をブチ抜く音。

 

「━━━━ウェル博士の追跡は俺達に任せろ。だから響くんは……」

 

「━━━━ネフィリムの心臓を止めますッ!!」

 

「ふっ……行くぞ、緒川ァ!!」

 

「はい!!」

 

━━━━二人が行ってくれるのなら、ウェル博士の方は問題ない。だって、師匠なんだもの!!

だから、私は私のやるべき事を……!!

 

「待ってて。ちょーっと行ってくるから!!」

 

『━━━━高質量のエネルギー反応、位置特定ッ!!

 恐らく、此処が炉心の筈よ!!さっきまで途絶してた翼ちゃん達の反応も再捕捉出来ているから、合流して炉心に向かってちょうだい!!』

 

通信を聴いて、向かう先はブリッジの外。其処に広がるソラの下。

 

「はいッ!!至急向かいますッ!!」

 

飛び出す足に迷いはない。

━━━━信じているのだ。皆の事を。皆の力を……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━フロンティアのブリッジから、ヒカリが放たれて。

 

「まったく……響がやる事はいつもいつも……」

 

(天津共鳴)は、そのヒカリの主が誰なのかが分かるが故に微笑みを浮かべていた。

 

「綺麗な光……もしかして、あの光は、お知り合いの方が?」

 

そんな俺の姿に疑問を抱いたのか、腕の中のセレナちゃんが声を掛けてくる。

 

「あぁ……確信があるんだ。あのヒカリの中心に居るのは……

 とても真っ直ぐで……躓いたって、誰かと一緒なら何度でも立ち上がれる……そんな、どこにでも居る、心優しい普通の女の子だって。」

 

━━━━だからこそ、行かなければならない。

先ほど打ち上げられた遺跡の一部。その行動の意味を想定したのなら辿り着く答え。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。で、あれば。

 

「切歌ちゃんと調ちゃんでも無い……美舟ちゃんでも無い……であれば、あそこに居たのは……!!」

 

その先を言葉にする事は無い。腕の中の少女、セレナちゃんがマリアの妹だと言うのなら……間違いなく()()()の世話になっている筈。

ならば、まだ疑惑の段階で口に出す事は出来ない……

 

━━━━そうして、輝きが収まる中でブリッジへ到ろうとする俺達の足下で、フロンティアが急激な上昇を行い始める。

 

「ッ……!!セレナちゃん!!しっかり掴まっててくれッ!!」

 

「は、はいッ!!」

 

マズい……ッ!!地を走るよりも速いからと、飛行でブリッジへ向かう選択が悪手と変わってしまった……ッ!!

相対速度を合わせるよりも速く迫りくる大質量!!ブリッジ側面の階段状構造物!!

 

「飛べよ……ッ!!」

 

━━━━急速浮上!!大気圏外までも飛び上がろうかという速度で上昇し始めたフロンティアに叩きつけられれば骨の数本では済まない!!

それでも殺しきれない相対速度の差!!グングンと迫りくる地面(デスゾーン)!!

 

「おォォォォ……らァッ!!」

 

だが、その程度で防人の意気は砕けはしない……ッ!!

インパクトの瞬間、伸ばしきった脚を相対速度差に合わせて屈曲、衝撃を殺し……短距離跳躍!!

 

「相対速度差……コレでぇ……ッ!!」

 

ブリッジ側面の下方、崖となっている部分へ一旦降り、浮遊を止める事でフロンティアと上昇速度を共にする……ッ!!

それでも合わさり切らぬ速度を、滑り落ちる事で斜めのベクトルへと変え、ようやくに急制動を掛け終える。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫だ、問題無い……ッ!!それより、この急上昇……もしかしなくともウェル博士の差し金か……ッ!!」

 

━━━━顔を上げて見上げるのは、またも遠くなってしまったブリッジの外周。

気圧の問題などをフロンティア全体を覆うバリアフィールドが解決してくれているが故に、外宇宙航行も可能な船でありながらも密閉構造では無いそこへ。

 

「ここからは飛行では無く跳躍になる。揺れたりフワッとしたりするかも知れないけど……」

 

「はい!!しっかり掴まってます!!」

 

そう言って、俺の服の裾をキュッと握るセレナちゃん。

━━━━この幼い少女もまた、守護らねばならないという想いを新たに、俺は一段数mはあろう階段状構造物に糸を掛けて登り始めた。

最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に。そこへ向かう為に……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

『うわ……コレどうなってんの?大気ごと保持されて持ち上がってるじゃん……』

 

「あぁ?どういう事だよ。俺達にもォ……分かるように言ってくれぃ。」

 

エアキャリアの遠隔自動操縦によってフロンティアのブリッジへと向かうその途上。

通信越しのラズロの言葉に(アゲート)は眉を(ひそ)めて問い返す。

 

『あぁ、うん。説明からしないとだね……ついさっき、フロンティアが再度の上昇を始めた。

 さっきまでは高度で言えば約10㎞ちょいだったけど……今はもう20㎞を越えてまだ上昇中。このままだとオゾン層も超えて成層圏も突破しそうな勢い。

 ━━━━けど、エアキャリアの周囲の気圧は地上と同じ一気圧に保持されてるのさ。つまり地上とほぼ同じ条件の大気が一緒に持ち上げられてるって事。』

 

「そいつぁ……凄まじいな……」

 

━━━━問いに返って来た答えは、想像を遥かに超えた規模の物。

 

『だから、同じ速度で大気ごと持ち上げられてるエアキャリアがこんな高高度で運用出来てるってワケ。

 ホントなら、こんなに気圧が低い高高度じゃローター式は揚力を得られない筈なんだからね?』

 

「なるほど……」

 

『……ただ、ちょっとマズい事もあってさ。』

 

「マズい事ぉ?おいおい、これ以上何がマズい状態になるってんだ?」

 

『━━━━つい今さっき、フロンティア前部上方に重力異常が発生してさぁ。

 どうもそれを浮上と前進の推力に転用してるみたいで、今フロンティア表面に掛かる重力が月並み(地表の六分の一くらい)になっちゃってるんだよね。』

 

「……は?」

 

それはつまり、こうして飛んでいるエアキャリアに掛かる重力も小さくなっているという事で……

……そういえば、よく比喩表現として月面では六倍跳べるなんて言われるような……?

 

『ゴメン。地上の感覚でローター回してた。機体重量が実質六分の一なんでこのままだと加速し過ぎてブリッジの上部構造物に突っ込む。』

 

「━━━━そういう事は早く言えェェェェ!?」

 

ブリッジを飛び出し、後部のキャリア部分で横になっている少女を引っ掴み、そのまま側面ハッチを蹴り開けて飛び出す。

この間、約三秒。

 

「だァァァァ!!貧乏籤引いたァァァァ!!」

 

『ゴメンってばー。遠隔自動操縦なんで細かい場の空気の違いなんて分からなかったしー。』

 

「そういう問題じゃねぇ!!あぁもう!!しっかり掴まってろよ嬢ちゃん!!このままブリッジに飛び込むからな!!」

 

━━━━幸か不幸か、落下軌道はそのままブリッジへと落ちていける物。ならば時間短縮も兼ねてこのまま飛び込むのが吉……ってかぁ!?

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━ブリッジの階段を降りる(マリア・カデンツァヴナ・イヴ)の足取りは重い。

戦う資格……烈槍(ガングニール)のシンフォギアを喪い、歌で人を束ねる事も出来ず……

挙句の果てに、マムまでも喪ってしまった……

 

「……私の歌では世界を……セレナが生きるこの世界を護る事は……出来ないの……?」

 

世界を救いたいと、そう思って拳を握った筈なのに……

 

「━━━━だァァァァ!!」

 

━━━━沈みゆく思考の海から私の意識を浮上させるのは、ブリッジ正面から飛び込んで来る誰かの叫び声と……

 

「爆発音ッ!?どこから!?」

 

━━━━頭上、ブリッジの更に上から聞こえた爆発音。

 

「今の爆発音は!?」

 

「━━━━マリア姉さん!!」

 

その混乱も収まらぬ内にブリッジ側面から飛び込んで来るのは……

━━━━居なくなってしまった筈の少年と少女の姿。

 

「━━━━セレナ!?天津共鳴までッ!?」

 

「……おうおうおう、生きてやがったかよ……孺子(こぞう)ッ!!」

 

魔女に連れられ、また、ヒカリの中に消えて。

居なくなった筈の二人が急に現れた事に驚愕を隠せない私を置き去りに、状況は更に混迷を極めていく。

爆発音に気を取られて気づけなかった男、アゲート・ガウラード。

親しげに天津共鳴へと声を掛ける彼の腕の中に居るのは……!!

 

「美舟ッ!?どうして貴方が!?」

 

「約束したのさぁ、其処の孺子(こぞう)とよぉ……

 ━━━━約束通り、お前さんが戻ってくるまで護ってやったぜぃ。後は好きにしな……

 フロンティアが浮上しちまった以上、こっから手出しが出来る手札は米国(おれら)には殆ど無いんだからな……

 救って見せろぃ……お前さんの手の届く涯まで……!!」

 

「━━━━えぇ……やってみせますとも。

 手の届く総てを救う為に、俺は此処に帰って来たんですから。」

 

「お兄ちゃん……」

 

そんな私の困惑を蚊帳の外にして、男達と美舟はなにやら約束とやらについて語り出す始末……

 

「えぇと……そうだ、セレナ!!貴方はどうして此処に!?」

 

「うん……私、マリア姉さんに届けないといけない物を持って来たの。」

 

そう言って、セレナは握り込んでいた拳を開く。

其処にあるのは……

 

「ギア……ペンダント……!?」

 

二つに割れたギアペンダント、その欠片。

 

「うん。あの日、私が纏った白銀のシンフォギア。その欠片……」

 

━━━━その声に応えて胸元から取り出すのは、セレナと同じ物。残りの半分。

 

「……やっぱり……今でも持っていてくれたんだね。マリア姉さん。」

 

「えぇ……唯一残った貴方(セレナ)との絆だもの……手放したりだなんて、出来る筈が無いわ……

 ……でも、もう私にはコレを持つ資格すら無いのかも知れない……貴方が生きる世界を護りたいって、そう思って握った筈の力は……

 いつしか、破壊と混乱を巻き起こす欲望に塗りつぶされてしまって……」

 

━━━━そもそも、ドクターを巻き込んだのは私達なのだ。

そんな事を言う資格は……

 

「━━━━マリア姉さんがやりたい事は何?」

 

「……え?」

 

セレナに向ける顔が無くて、俯くしかない私に掛けられるのは、セレナからの問い。

 

「マリア姉さんがやりたい事……本当にやりたかった事を教えて?

 私は、それが知りたいな。」

 

「━━━━大丈夫だよ、マリア。どんなに遠く穢れても、ボク等は星を探すんだ。

 だからお願い。マリアの気持ちを聴かせて?ボク等は此処に居るから……」

 

「でも……」

 

「━━━━マリア姉さん、生まれたままの感情を……隠さないで?」

 

━━━━ペンダントを重ねるように手を重ねてくれるセレナと共に、手を握ってくれる、美舟の手の温かさ。

あぁ……忘れてしまっていた。悪を貫かねばならないと自分を偽って……

こんなにも、繋ぐ手はあったかいんだ……

 

「…………歌で、世界を救いたい。

 月の落下が齎す災厄から、皆を……そして、何よりも貴方を助けたかった……でも、私の胸の歌(烈槍)では世界を束ねる事は出来なかった……

 七十億の人のフォニックゲインを束ねて月遺跡を再起動する事が出来れば、月の軌道を修正する事が出来る筈だったのに……」

 

「歌……そうだ、歌だ!!

 マリアさん!!フォニックゲインを束ねる事が出来ればいいんですよね!?」

 

私の……今さらに過ぎるちっぽけな夢の吐露。

それにいち早く反応したのは、片腕を喪った筈なのに力強く見つめてくる少年だった。

 

「え、えぇ……でも、それは失敗してしまったのだもの……」

 

「━━━━いいえ。まだ失敗したワケじゃありません。だって、マリアさんの胸の歌は他の誰でも無い、マリアさんだけの物……

 今まで、世界が滅ぶと知る由も無かった人々が、総てを背負おうとしたマリアさんと同じ歌を歌うのは……とても難しかった。それだけの事なんです。

 だから……歌を。」

 

━━━━歌を、と彼は言う。

……どんな歌を?独唱(ひとりきりのうた)では遠いというのなら、どうすればいいの?

 

「古い、古い歌を。いつかの昨日から、今この時まで受け継がれてきた歌を……通し道歌(日本の童謡)でも、清しこの夜(十字教の聖歌)でも、恐らく足りない。

 ━━━━マリアさんが知る、一番古い歌が必要なんです。」

 

「古い、歌……」

 

「マリア姉さん、一緒に歌おう?昔のように……黒い茎(チョルノーブィリ)から避難したお祖母ちゃんたちが、唯一受け継いだ、古い、古い歌を……」

 

━━━━その言葉に、思い出すのはかつての記憶。

 

『━━━━むかしむかし、私達の父祖は牧畜と農耕を生業として、天に住まう神々を信仰していたの。

 そして……神様に言葉が届くようにと、この歌を歌ったの……』

 

「りんごは浮かんだ、お空に……」

 

「りんごは落っこちた、地べたに……」

 

━━━━それは、わらべ歌。

 

『━━━━星が生まれて……歌が、生まれて……ルル・アメルは笑った、永久(とこしえ)と……』

 

カミサマに届くようにと祈りを込めて歌われた、古いコトバ。

 

『星が交叉(キス)して、歌が眠って……』

 

━━━━終ぞ、届く事が無かったコトバ。けれど、その響きは今、世界に鳴り渡って……

 

『帰るとこは……どこでしょう……?

 ━━━━還るとこは……どこでしょう……?』

 

セレナと、私と、そして美舟と。

気付けば、騎士アゲートまでも共に歌ってくれていた。

 

『━━━━マリア……マリア……!!』

 

「━━━━マムッ!?」

 

━━━━歌の力を確かめるよりも先に、ブリッジ中央から聴こえてくるのは、マムからの通信の音声。

 

『あなたの歌に、世界中が共鳴しています……これだけフォニックゲインが高まれば、月の遺跡を稼働させるには十分ですッ!!

 ━━━━月は、私が責任を持って止めますッ!!』

 

「でも……ッ!!」

 

━━━━それは、つまり。マムが帰還を捨ててでも遺跡を起動させるという事……

溢れる涙を止められない。だって……コレが一生のお別れなんだって分かっているからッ!!

 

『……もう、何も貴方を縛る物はありません……行きなさい、マリア。

 ━━━━行って私に、あなたの歌を聴かせなさい……ッ!!』

 

「マム……」

 

マムの意志は堅い。そんな事、計画を始めた当初から分かっていた事で……

 

「ッぅ……やっぱり、先ほど投棄された遺跡ブロックにはナスターシャ教授が乗せられていたんですね。」

 

そんなお別れの言葉に横から言葉を混ぜてくるのは、いつの間にか頭を抑えてしゃがみ込んでいた少年の声。

 

『━━━━ッ!?天津共鳴!?生きていたのですね!!でしたら、マリアの護衛を……』

 

「俺だけじゃありません。セレナちゃんも、美舟ちゃんも此処に居ます……だから、生きる事を諦めないでくださいッ!!

 貴方の献身で世界が救われたって、それだけじゃ俺はもう満足出来やしないッ!!手の届く総て、諦めないと誓ったからッ!!」

 

━━━━そう言って、少年は叫ぶ。迷いなどもう無いと示すかのように……

 

『ッ……!!ですがッ!!此処は月軌道ッ!!人の手を此処に届かせるとて、それだけで何ヶ月かかるか……ッ!?』

 

マムの反論は科学的には正しい物。ロケットを準備し、宇宙へと発射するだけでどれほどの労力が掛かるか分かったものでは無い。

 

━━━━だが、此処に例外が存在する。

 

「アメノ……ハゴロモ……ッ!!」

 

「━━━━そうッ!!此処には、奇跡を手繰り寄せる為の最後のピースが揃っているッ!!

 だから、月遺跡を起動して、ちょっと待っててください。飛んで行って、貴方を助けに行きますから。」

 

『……フッ。分かりました。囚われのお姫様などガラではありませんが、今だけは待ちましょう……

 ━━━━マリア。私は必ず帰ります。だから……私が、いいえ。私やセレナ、美舟たちも帰る場所であるこの世界を……頼みましたよ。』

 

気付けば、マムの言葉は、別れでは無い激励の物と変わっていて。

それが分かるから、私は涙を拭いて振り返る。

 

「━━━━OK、マム。

 世界最高のステージの幕を上げましょうッ!!」

 

「マリア!!ボク達の未来をッ!!」

 

「私達の希望も託しますッ!!

 ……頑張ってッ!!お姉ちゃんッ!!」

 

━━━━決意を胸に抱く私に、皆が声を掛けてくれる。

 

「ギアペンダントは応急処置にはなるけど、遺跡を経由するフォニックゲインとアメノハゴロモの糸で繋いで、こうすれば……!!

 アゲートさん!!セレナちゃんと美舟ちゃんを頼みます!!」

 

「あぁ……乗りかかった舟だしな。戻り際、二課本部まで連れてってやらァ。」

 

そして、その決意を後押ししてくれる人も……

なら、私はまだ歌えるッ!!頑張れるッ!!戦えるッ!!

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━その歌を聴いた瞬間、(天津共鳴)の意識は吹き飛んでいた。

 

何が起こったかも分からない。だが、本能が理解と共に叫ぶ。

 

━━━━コレが、オーディンが言っていた(はは)へと還る為の機能なのだと……ッ!!

 

 

━━━━45i3.wyfuz@:o;w6or@、dqi3.aimjq@ut@utzqsgkbs━━━━

 

 

『ごッ……!?』

 

流し込まれる、莫大な情報の洪水。自分の中から浮かび上がるイメージの暴力。

━━━━それは、宇宙から見た地球の姿だった。

 

 

━━━━fd@/i32[rーt@3l、r^@wt@4j;w@q。bysy=3o0rwe3jsmjq、r^@w=4nq@rffw@3zq━━━━

 

 

『コレ……は……ッ!?』

 

脳が理解を拒む。理解してはならぬと警鐘がガンガンと鳴り響く。

……いいや、コレはもしや走馬燈なのかも知れない。

 

 

━━━━nr@fqt@eijx@l3zw6l、kftqat@uh、d/zqf@d9mno;utzq━━━━

 

 

━━━━脳裏に映し出されるそれは、無限の荒野。

乾いた風が吹き荒び、生命の一つすら存在しない……始まる前の大地。

 

 

━━━━tnt@nkutw@、4j;we.mkfq@;meutzq━━━━

 

 

『アレ、は……』

 

だが、その荒野にヒトが産み落とされ、文化を育み、命を繋いでいく姿が見えるようになる。

 

 

 

━━━━目覚/9、十一k子k一z、]d82d8━━━━

 

 

『ガッ……あァ……!?』

 

脳髄に叩き込まれる情報が変質したと思った瞬間、走る激痛。

声が……先ほどまでよりも明瞭に聴こえてくる。

 

 

━━━━我等ffk器sdw子sdw生j;落admk、xof@我等k意義fffk喜v@su.事也━━━━

 

 

『ちが、う……!!』

 

意味は、相変わらず理解できない。だがそれでも、反射的に俺は叫ぶ。

承服できないと、その言葉にだけは頷けないと、ナニカが叫ぶから。

 

 

━━━━愚t也、過a也。汝k身i刻j;d印f紛;muhfft@作ld物k証也━━━━

 

 

『ぐあ、あぁ……!!やめろ……やめろォォォォ!!』

 

━━━━肉体が何かに変質してしまう感覚。俺という自意識を書き換える、暴力的を越えた衝撃的な情報の濁流が、俺という個を押し流して……

 

 

『━━━━大丈夫。運命は、貴方の味方だよ。』

 

━━━━だが、そうなる事は無かった。

イメージの中の地球との周りを、いつの間にか月が回っている。

 

 

『━━━━意思を強く持って。今の貴方は、遺伝子(ジーン)に刻まれた烙印(スティグマ)に乗っ取られようとしているのだから。

 貴方は貴方。ムシュフシュと呼ばれたかつての怪物では無い筈よ。』

 

声が、聴こえる。月の方から?

 

『キミ、は……?』

 

『……私は、ソーマ。神智記録(アーカーシャ)と物質世界の間に起きる(ひず)みを正すモノ……』

 

ソーマ……?それは確か、インド神話における神酒だったような……?

 

『━━━━天津共鳴。まだ、貴方にはやらなければならない事がある筈よ。

 七十億の共鳴で(はは)が刻んだシステムが起動した程度で、貴方は止まっては居られないでしょう?』

 

━━━━そうだ。俺は……手を伸ばし続ける事、諦めないと誓った。

だって……俺の理想は……

 

【手の届く総てを、救う為に。】

 

声が重なる。

……何故、彼女が知っているのだろう?それは分からない。けれど、今俺がやるべきことは分かっている。

宇宙の調和を示すかのようなイメージの総てを振り払い、意識と共に停止していた生身の右手に集中する。

 

「━━━━ッ!!」

 

━━━━そこに、忘却のルーンを刻む。

 

「まだ……止まれないんだよ、俺は……ッ!!」

 

━━━━神の視点から見た記録と、其処から産み落とされる筈の怪物の情報。その総てを、俺はこの右手で否定する……ッ!!

 

 

『━━━━マリア……マリア……!!』

 

━━━━そして、意識が、浮上する。

 

戻った場所はフロンティアのブリッジ。聴こえるのはナスターシャ教授からの通信。

なるほど、やはり先ほど射出された遺跡には……!!

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━歌を胸にヒカリを纏う誰もが、戦う為に決意を握っていた。

覚悟無く、世界は永遠に続くと信じていた蒙昧なるヒトが。

この世界に《明日》が欲しいと。ただそれだけの為に。

 

「━━━━ふざけるなよ、ヒトよ……!!

 目覚めてしまうじゃ無いか、それじゃあ……!!

 神がッ!!ボクの手に神の力が収まる前にッ!!」

 

━━━━だが、それを認めぬモノも居る。

 

「くだらん……この神州に我が物顔でのさばらんとする夷敵共ッ!!

 その尻拭いの為に、何故儂が立たねばならんッ!!」

 

そして、この期に及んでも尚、他人事だと嘲笑う者でさえも。

 

「━━━━うぬ等の選択、人の意志を束ねる事。それが正しかったのかどうか……

 そして、世界が殺意の波動を必要とするか否かッ!!

 我に示してみせよッ!!」

 

そして、人でありながら人ならざる修羅を選んだ鬼は、地獄の島でヒトの選択を見届ける為空を見上げる。

 

 

 

━━━━そして、その空の上。

エアキャリアが激突し、大破炎上したフロンティアのブリッジ上部。その構造体の中。

 

━━━━《左腕》は、其処に居た。

覚醒(めざ)めの時を待ち、忌まわしき呪いを消し去られた……まさしく《怪物》の卵として……




━━━━其れは、暴食の具現。
共食いの果てに全にして一と化した、漆黒の巨人。
暴走する生体反応炉は稼動の叫びと共に爆発たる火球を撃ち放つ。

だが、それを止めんと、打ち破らんとする者達が居る。
拳を握り、剣を携え、槍を振るい、弓を鳴らし、鎌を打ちつけ、鋸で抉る者達。
そして、その後ろにはもっともっと多くの者達が、共に立っている……
ならば、奇跡の一つや二つなど……
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