━━━━錯綜する情報の流れの中で
「陸に揚がった潜水艦なんて冗談じゃない……!!」
「全くね……!!秘匿建造されていた最新鋭潜水艦とはいえ、流石に地盤ごと空に浮かべられるだなんて想定されてないわよ!?
鳴弥さん!!揚陸装備の応用は可能ですか!?」
「……ダメね。やっぱり駆動させての脱出は重量が重すぎて不可能だわ……となれば、試製
藤尭くん、フロンティア本体の移動と並行になるけれど、軌道計算をお願い出来るかしら?」
「浮上していく目標からの安全な投下と着陸要求とか無茶苦茶言いますね!!やってみせますけどさぁ!!」
手元に送られてくる観測情報を基に、着陸可能な島をピックアップしていく。
だが……
「クソッ……日本南洋で着陸可能な島なんてそうそうありゃしないっての……いや、あった!!
かつては極園島リゾートとして開発される計画があったのが、中国側の領海取得に邪魔だってんで潰されたとかいう曰く付きだけど……四の五の言ってる場合じゃないか……!!」
「━━━━艦内乗員に通達!!当艦は本部機能を放棄、その後司令部エリアのみを用いてフロンティアより脱出を行う!!
各自、既定の手順に従って機密保持プロトコルを実行、その後司令部エリアに集合せよ!!繰り返す……」
「奏ちゃん!!本当に出撃するのね!?」
『あぁ!!此処で手をこまねいてる余裕はないだろ!!完全聖遺物が相手だってんなら一人だけ寝てるワケには行かないさ!!』
「……分かったわ!!幸運を!!」
ボクの齎した情報を基にあおいさんが艦内放送を、そして、鳴弥さんが奏さんとの通信を行う。
「響……翼さん……クリス……奏さん……調ちゃん……どうか、皆無事で……」
━━━━そんな慌ただしいブリッジの中でただ一人、手を合わせて祈りを捧げる少女の姿。
……あぁ、全く。護るべき少女にこんな重荷まで背負わせてしまうだなんて。喉元まで出かかった言葉を必死に抑え、手元に流れる数字から事象を演算する。
━━━━口に出してしまえば、それは彼女と、彼女達を信頼した二課のクルー全員への侮辱だ。
『━━━━聞こえますか。』
不可解な通信が飛び込んで来たのは、そんな矢先の事。
「……?外部回線からの通信?だけど、司令も装者の皆も反応はコッチでキャッチしてるし……」
『━━━━二課本部、聞こえますか。此方は識別番号RG-n00、レゾナンスギアの天津共鳴です。』
━━━━その声に、思考が一瞬停止する。幻聴?だが……
「おにい、ちゃん……?
━━━━お兄ちゃんッ!!」
そんな逡巡を切り裂いて、少女の叫びがブリッジ内に木霊する。
『未来か?
……心配かけてゴメン。だけど、俺は此処に居るよ。』
「よかった……よかった……」
「……フフッ、ちょっと遅かったんじゃない?」
『母さん……うん、そうかも知れない。もう少しで何もかもが間に合わなくなる所だった……けれど、その前に俺は此処に到ったんだ……
━━━━だから、藤尭さん。お願いがあります。』
「ボクに……?一体何を?」
━━━━何があったのだろうか。居なくなる前よりも堅く決意を握ったような声音で、少年はボクへと頼み込んで来る。
『先ほど、フロンティアが浮上を始める前に切り離され、高速垂直射出された遺跡ブロックがあった筈です。
━━━━そのブロックが今、どこにあるのかが知りたいんです。』
「遺跡ブロックって……さっきのアレか!?」
それは、重力異常を感知する直前の事。
打ち上げロケットのような速度でフロンティア遺跡の一部が飛び出していった事、確かに此方でも観測していた。
すわ本部への攻撃か……?と身構えたものの、そのまま大気圏外まで飛び出して行った事でひとまず棚上げにしてあったのだ。
「無茶だッ!!詳細な観測データなんて殆ど無い!!目測主軸でたった数十m程の構造物を宇宙から探すだなんてッ!?砂漠の中から一粒のダイヤを見つける方がまだ容易いッ!!
なんだってこんな緊急時にそんな事を!?」
『━━━━あの遺跡ブロックに、ナスターシャ教授が取り残されています。』
━━━━ヒュッ、と息を詰まらせたのは。その言葉の重さ故。
「生きて……」
『生きています。通信がありましたから。
━━━━だからこそ、俺はその座標を知らなければならない。手を伸ばし続ける為に。
……難しい事だとは分かってます。けど……』
━━━━無理、無茶、無謀。脳裏を過る冷酷な計算はその少年の要求に否を突きつける。
構造物の形状、重量、大きさ、加速度、そして発射された座標に風速その他諸々……計算に必要な情報があまりにも膨大だ。
不可能とは言わない。それくらいのプライド、ボクにだってある。だけど……
手元のコンソールから顔を上げ、指令室を見渡す。この艦の乗員全員の命を、ボクは背負って脱出の軌道計算をしていたのだ。
流れ落ち、眼に入る汗が鬱陶しい。あぁ、ボクは……命の選択を迫られて……
「━━━━藤尭くん。私からもお願い。
脱出後の軌道計算、此方で受け持つわ。最悪でも司令部エリアには航行機能があるのだもの。誤差が許されるのはまだ此方の方の筈よ。
……だから、あの子の我儘を叶えてあげて欲しいの。防人として手を伸ばす、あの子の夢を。」
━━━━その選択に、第三の選択肢を差し込んでくれたのは、下層でコンソールを叩く鳴弥さんの声。
先ほどのような、難題を願う声音では無い。困ったような、それでいて嬉しそうな……母が子を見守る……優しい声音。
「はぁ…………ヨシ!!」
今も尚脳内で叫びをあげる弱音を、両手で頬を叩く事で黙らせる。
「━━━━共鳴くん。十五分だ。十五分で軌道計算を果たして見せる。
だから、その間にウェル博士を止めてくれ。」
『━━━━はい。藤尭さんなら出来ると信じています。』
「……ハハッ!!
━━━━そこまで言われちゃね。全力でやらなきゃ男がすたるってもんだ……ッ!!」
本部外周のカメラ映像、日本から送られている人工衛星からの監視映像、そして手元の端末に収めた膨大な数の軌道計算用マクロを同時起動。
構造物の形状、重量、大きさ、加速度、そして発射された座標に風速その他諸々……
「計算に情報が必要だってんなら、それを用意するだけさ……ッ!!」
『━━━━ソイツはありがたい。手が足りないようだったらボクまで投入されちゃう所だったしね。
二課に優秀な人材が居て助かったよ。』
「誰ッ!?」
外から聞こえる余計な情報は一旦棚上げ。今のボクに必要なのは数字と計算、その二つだけ……!!
『なぁに、通りすがりのホワイトハットさ。相棒を危険に晒した補填と……あと、此処でやらなかったら姉さんに殺されそうなんで多少ながら援護させてもらうよ。
━━━━コッチの権限で出せる衛星からの映像と、下から見た映像を送る。
それ以上の観測データは残念ながら出せないけど……ま、頑張ってね。』
━━━━誰だか知らないがありがたい……ッ!!
危険性が無いかどうか、また、偽造が無いかどうかのチェックだけを最速で済ませ、そのデータも計算に組み込んでゆく。
「とにかく精度だ……精度を高めなければ、最悪……」
━━━━共鳴くんが宇宙に置き去りになってしまう。
呑み込んだコトバを現実にしない為に、ボクは数字と戦い続ける……
◆◆◆◆◆◆
「よし、あとは響たちと合流すれば……」
「━━━━待って、お兄ちゃん。」
通信を終え、ブリッジの下方からマリアと共に飛び立とうとするお兄ちゃんを、
「━━━━美舟ちゃん?そういえば……どうして、キミは此処に来たんだ……?」
━━━━あぁ、気づいてもらえた。それだけで嬉しいと思う自分が居る。
お兄ちゃんは……皆を見ているから。ボクなんかは気づいても貰えないかとちょっと不安だったのだ。
「……うん。ドクターは、ネフィリムの左腕をフロンティアと接続する事で船体のコントロールを掌握していた……
━━━━それはつまり、ブリッジの中枢端末にアクセス出来なくなった今も、ドクターは少しずつ掌握範囲を広げているという事……」
「……あぁ、だからこそドクターがフロンティアの掌握を完了する前に彼を止め……待て、待ってくれ。」
瞬間、ナニカに気づいたように、眼の色を変えて此方へ手を伸ばそうとするお兄ちゃん。
「……ゴメンね?
でも、こうしなければお兄ちゃん達が間に合わないかも知れないんだもの。」
━━━━けれどそれよりも、ボクの左腕が中枢端末に触れる方が速い。
「━━━━
呟く言葉、ネフィラの左腕を通じ、フロンティア……鳥之石楠船神と自身を同調する為の、
━━━━ブリッジに飛び込むまでの短い間だったけれど、その間に同調を重ね、少しだけ……ほんの少しだけ、ボクの意思を伝えてくれるようになった、この手、伸ばして。
「━━━━
━━━━続く
本来ならば、血統たるボクですら数十年の研究の果てにしか辿り着けなかった筈の
『━━━━けれど、ドクターはとうに其処に手を掛けていた。
なら、
だから、ボクが掌握する。この船の総てを……ッ!!
「━━━━が……ぐ、うぅ……ッ!!」
「━━━━美舟ちゃんッ!!」
「美舟さん!?」
「美舟ッ!?」
━━━━叫ぶ、声が聴こえる。
それは、背中を押してくれる声だ。
……だからッ!!この、泣けるくらい……勇気になるくらい……あたたかい力を……ッ!!
「━━━━束ねてッ!!ネフィラッ!!」
━━━━腕を通して伝わるネフィラからの直截な要求に笑みを零しながら、ボクは告げる。
「━━━━フロンティア
━━━━ドクターの計画をブチ壊す為の、宣誓の言葉を。
◆◆◆◆◆◆◆
━━━━跳んで、跳んで、跳んで。
重力異常の影響からか、浮遊する岩が数多く浮いている事も相まって、
「━━━━翼さんッ!!クリスちゃんッ!!」
「立花か。その姿……フッ。どうやら口説き落とせたらしいな?」
「……おせぇんだよスクリューボール二号!!」
「二号って、そんな消える魔球か力自慢みたいな……
━━━━それで、はい……マリアさんの想いも、ちゃんと受け止めて来ましたッ!!このガングニールと一緒にッ!!
……だから、もう負けませんッ!!」
━━━━胸の内から溢れる歌。融合症例で無くなった今だって、答えてくれる物。
それを、そっと握り締める。それだけで、あったかい物が心を満たしてくれている。だから……
「……よし。ならば行くぞッ!!この場に槍と弓、そして剣を携えた者は……」
「此処にも居るぜッ!!もう一人なッ!!」
━━━━翼さんの発破に負けぬ声と共に飛び込んで来る声、一つ。
「━━━━奏ッ!?」
「奏さんッ!?」
「おい、アンタ身体は……」
「問題無しッ!!だから、訂正だ。
━━━━行くぞ、皆。この場に槍と弓、そして……拳と剣を携えているのはアタシ達だけなんだから、さ?」
「もう……奏はいつもそうやって……
━━━━だが、そうだな。四人揃って……行くぞッ!!」
『
拳を突き出す奏さんの訂正と、それに合わせた翼さんの掛け声に、私達もまた拳を突き合わせて応える。
そして、四人で共に飛び出す足取りはもっともっと軽くなって。
……うん。大丈夫だ。だから、見守っていてね。お兄ちゃん……
◆◆◆◆◆◆
「━━━━人ん家の庭を走り回る野良猫め……」
━━━━フロンティア中心部、炉心区画。
へばりついたネフィリムの心臓によって無限の動力を得たジェネレーターを前に、
「フロンティアを喰らって同化したネフィリムの力ァ……思い知るがいいィィィィッ!!」
思念と共に
コントロールできぬ状態であらばその欲望の赴くままにフロンティアの船体毎喰い潰してしまいかねないが為に使わなかった奥の手だッ!!
『コレはッ!?』
「かつて、天から追放され、落ちたるネフィルの集積体ッ!!
3000キュピドの神体そのものとまでは行かずとも、これだけの巨体であれば守護端末には十分至極ッ!!
貴様等シンフォギアは一見すりゃあ質量保存の法則をガン無視したシロモノだが、それでも
歌が力になるトンチキのタネと仕掛けさえ見抜いてしまえばッ!!このフロンティアを丸ごと砕けないのと同じように、ネフィリムを砕き散らす出力が用意出来ないなんて事丸分かりなんだよォォォォッ!!」
『━━━━あの時の、自律型完全聖遺物なのかッ!?』
『にしちゃあ張り切り過ぎだッ!!』
モニターの中では、ネフィリムから分離、突撃したネフィルミサイルの雨霰を避けた装者達に向けて、ネフィリムの肉体が火球を解き放っている。
「フヘヘ……フヘヘヘァ!!
そうだ……喰らい尽くせ……ボクの邪魔をする何もかもを……《暴食》の二つ名で呼ばれた力をォ……
━━━━示すんだッ!!ネフィリィイムッ!!」
叫びを此処に。ボクは此処に居るのだと。
人類を救う英雄は、紛れもなく、此処に居るのだ……ッ!!
◆◆◆◆◆◆
「オラオラオラオラァッ!!」
「━━━━はァァァァッ!!」
「うらッ!!」
「せいッ!!」
爆音鳴らす数多の矢が、風鳴る剣が、立つ花の拳が、そして天に羽ばたく槍が、力となって天の墜とし子へと炸裂する。
━━━━だが、届かない。徹らない。それは巨大であるが故に。それは、巨人であるが故に。
古の伝承に曰く。巨人とは、人の域を越えたモノを指すのだから。
「堅い……ッ!?」
「なら……全部載せだァァァァッ!!」
矢を放つ少女の持つガトリングが、ミサイルが火を噴き十字砲火と撒き散らす。
……そして、爆発。
「ヘッ……」
「やったかッ!?」
「……いや、まだだッ!!クリス避けろッ!!」
━━━━されど、巨人健在……!!
質量差と、そして内包するエネルギーの大きさが本体への直撃を決して通さない……!!
反撃に放たれる一撃は、ゆうに摂氏数億℃を越えるエネルギーの暴力!!着弾と共に弾け飛ぶ余波だけでシンフォギアを吹き飛ばしてなお余りある……!!
「うわぁぁぁぁ!?」
「雪音ッ!?━━━━ッ!!」
「クリスはアタシが拾うッ!!翼は反撃の機を窺ってくれッ!!」
「わかったッ!!」
「翼さんッ!!クリスちゃんッ!!」
そして、そのエネルギーに飽かした無秩序な体躯操作が、腕部の伸長という摩訶不思議を以て風鳴る剣に、そして後方へと抜けた立つ花へと向かい……
「━━━━ダァァァァム、デストロォォォォイ!!」
━━━━だが、それを阻む刃もまた、この地へ集っていた。
「切り刻んであげる……ッ!!」
翠刃と紅刃の一対が。巨人の腕を裂き、脇腹を抉る……ッ!!
「……シュルシャガナと、」
「イガリマ。到着デスッ!!」
「━━━━来てくれたんだ……ッ!!」
「通信機、借りたままだったから……」
「それにまぁ……コイツの相手をするのは、結構骨が折れそうデスしね……」
感極まった少女の声に応えながら、翠の少女と紅の少女を揃えた全員が顔をあげる。
━━━━其処に立つのは、切断された傷口を即時修復し、元の姿を取り戻す巨人の姿。
「コイツ、不死身なのか?」
「ううん。フロンティアの炉心と融合したネフィリムは、今もフロンティアの土壌を吸収して自分の身体を再生しているだけ……」
「つまり!!再生するより速く切り刻んでやれば問題無いって事デス!!」
「……だが、それに最も適した絶唱は、共鳴が居ない今放てば自らをも傷つける諸刃の剣……」
「……ん?」
「……んん?」
「……もしかしておにーさん、誰にも連絡を入れてなかったんじゃ……ッ!?アレは……!?」
伝えなければ、伝わる筈も無く。無自覚な相互の不理解によって自覚無く擦れ違っていた少女達がその意見を擦り合わせんとしたその瞬間。
━━━━フロンティア、そのブリッジより立ち上る光の柱、一つ。
「アレは……?」
━━━━そして、光の中から現れる影、一つ。
その大きさ、優に二十m以上。
その色合い、白銀と赤を混ぜた物。
……そして、その肩に乗る姿、一人。
『━━━━美舟ッ!?』
━━━━天逆美舟が、その右肩に立っている。
「━━━━そうだ。貴方に名前、付けないと……ネフィラってのはドクターが付けた名前だし……何より、
だから……うん。
━━━━それは、人々が囁いた
誰もがホラ話だと知っている、最も新しい巨人のお話。その、巨人。
人々が豊かになればなる程に新天地へと赴き続け、最後には遥かアラスカまで去って行ってしまったという、まさしく新天地に居るべき巨人。
人が困難に挑み、苦難を共に乗り越えた歴史を表す優しい嘘が、其処に立って居た。
「━━━━さぁ、行こう!!バニヤン!!」
【━━━━Oooooo!!】
バニヤンが跳ぶ。ブリッジとこの場の距離を零にするように、速く。
ネフィリムはそれを受け止める。燃え滾るエネルギーを撒き散らすように、荒々しく。
━━━━
◆◆◆◆◆◆
「美舟……良かった……無事だったのね……」
「━━━━えぇ!!そして、私達も此処に居るッ!!歌と共にッ!!」
━━━━巨人と共に現れて、ネフィリムと取っ組み合いを始めた美舟。そんな彼女の姿に安堵を零す
『━━━━マリアッ!!』
「━━━━お兄ちゃんッ!!」
浮かぶ岩の上に立つその声の主は、覚悟を決めた眼をしたマリア。そして、その隣には……片腕を喪っても尚、諦めない輝きを宿した人。
「…………お兄ちゃん。」
「……ただいま。響、翼ちゃん、クリスちゃん、奏さん……」
「……寄り道し過ぎなんだよ、ったく……」
「あぁ……全くだ……」
「心配かけさせやがって!!この~!!」
「お兄ちゃん……ッ!!」
……でも、やっぱり彼は二課の装者達に連絡をしていなかったみたいで、彼女達から手荒い歓迎を受けている。
だから、私は私で、マリアに問う。ネフィリムを放り投げる巨人について。
「マリア……あの巨人は……」
「えぇ……美舟がフロンティア中枢を主体にフロンティアの船体から組み上げた巨人……」
━━━━私達の目の前で、ネフィリムを相手に圧倒しているその姿。そう、まるで一夜の
「ネフィリムを制御室から遠隔にて操っているドクターに対して、美舟はその場で直接巨人を操っている……
だから、反応の差は歴然と出る……ッ!!」
「このまま彼女にネフィリムを抑えてもらっている間に、レゾナンスギアの力で絶唱を束ねてエクスドライブを稼働させれば……」
◆◆◆◆◆◆
「━━━━とかなんとか思ってるんでしょうがァ!!そうは問屋が卸さねぇんだよッ!!
出来損ないを幾つ集めた所で、此方の優位は揺るがないッ!!」
━━━━ボクと同じくネフィリムの肉体を仮想顕現させるなんて曲芸には驚いたが……
「直接制御じゃ、落ちて潰れちまうから再構成は戦術に出来ねぇよなァ!!」
━━━━ネフィリムの肉体構成を崩壊させ、土へと還す。
それに驚愕の叫びをあげる連中の姿は既にボクより三手遅い……ッ!!
「足下からの火球で……吹っ飛びやがれェェェェ!!」
━━━━再構成させる場所はあの巨人の足下。そして、土を盛り上げるのでは無く
『きゃあああああ!?』
『━━━━美舟ちゃんッ!?』
勿論、急ごしらえの一撃を足下からぶち込んだだけじゃあ使い手ごと吹き飛ばす事は出来ない。
━━━━だが、
「生きていた事には正直びっくらこいたが、コレで詰みなんだよォ!!」
━━━━フッ飛ばされた少女と、そして……
「━━━━焼き尽くせッ!!ネフィリィィィィム!!!!」
━━━━生身のままで
どちらかを救えば、どちらかには手が届かない。
トロッコの進路の二つは既に天秤に量られてたんだよォッ!!
━━━━着弾。そして、爆裂。
勝ったッ!!シンフォギア共はコレで御終いだァァァァッ!!
『━━━━皆ッ!?』
「フフ……ウヒヒヒ……エヘヒャハハハァァァァ……」
勝つってのは気持ちがいいなァ!!
「━━━━ンンンン!?」
━━━━だというのに。歌が聴こえやがる。何故だ……ッ!?
◆◆◆◆◆◆
━━━━
シンフォギアを纏う際のバリアフィールドは、ともすれば近くに居る誰かをも傷つけてしまう諸刃の剣。
だけど……それだけじゃないと信じられた。
だって……調が居る。切歌が居る。美舟も、セレナだって居てくれる。
そして……マムだって、まだ諦めるには早すぎる。皆が居てくれるのなら、こんな奇跡……
「━━━━安い物ッ!!」
「━━━━
天羽奏の声が聴こえる。
『装着時のエネルギーをバリアフィールドにッ!?』
「━━━━
立花響の声が聴こえる。
『だがそんな芸当、いつまでも続く物では無ァいッ!!』
それを遮るように、拒むように。ドクターの操るネフィリムが火球を撃ち放つ。
「━━━━
「セット、ハーモニクスッ!!S2CAッ!!フォニックゲインを力に変えてェェェェ!!」
━━━━けれど、けれども。その拒絶を打ち払う為に、立ち上がるヒカリがある。
「━━━━
風鳴翼の声と、雪音クリスの声が聴こえた。
『━━━━
「惹かれ合う音色に、理由なんて要らない……」
重なり合い、惹かれ合う歌を通して、私達の心は一つになろうとしていた。
そう……調が、
『━━━━
「あたし等も、付ける薬が無さそうだ……」
「それは……お互い様デスよ。」
切歌が、
「調ちゃんッ!!切歌ちゃんッ!!手を繋ごうッ!!」
「……なら、アタシはマリアとだな。ちょうどアンタと翼と組んで三人で世界に乗り出す計画を練ってた所なんだ。
チャチャっと世界を救っちまって、今度のライブの予定を建てようぜ?」
「……フフッ。そうね。世界最高のステージは今日この日だけれども……世界最後のステージは、今じゃ無いのだものね……」
そして私が、
「━━━━
胸の内から湧き上がる、心地いい歌に合わせて、私は歌う。
「……貴方の事、偽善者じゃないって段々分かって来た。
━━━━だから、この先も見せて欲しい。貴方の人助けを、私達に。」
「……うんッ!!」
一つになって、調和を成していくのが、私にも分かる。
「━━━━
切歌の声が聴こえる。
「━━━━
調の声も、また……
『━━━━
繋いだ手だけが紡ぐ物……広がっていくヒカリの中に、私はそれを見た。
『絶唱六人分……
━━━━すっかりその気かァァァァ!!』
『━━━━
━━━━それでも、彼は拒絶の意を以て力を振るう。暴力的なまでのエネルギー、赤い破壊のヒカリへ変えて……
「六人じゃない……」
━━━━けれど、けれども。その拒絶を打ち返すように、叫びあげるヒカリがある……ッ!!
『━━━━
━━━━その瞬間、見えた気がする。手を繋ぎ、想いを繋ぎ……《明日が欲しい》と叫びをあげる、世界の人々の祈る姿が……
「私が束ねるこの歌は……ッ!!
━━━━七十億の、絶唱ォォォォッ!!」
━━━━ヒカリが溢れる。ただギアを構成するだけでは収まり切らぬ程の大出力!!明確にそのカタチを変える程の大質量!!
「━━━━響き合う皆の歌声がくれた……」
その先は、言葉を交わさずとも分かる。だから、共に……叫ぶ……ッ!!
━━━━虹色の輝き、尊い物。
暴食の具現、貫いて……
━━━━
コレは、人が紡ぎあげた奇跡のカタチ。
━━━━だからこそ、その後に続くべきは人の歩みだろう。