戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第八十話 彼方のジェネシスソング

━━━━有り得ない光景が、モニターの中に広がっていた。

七色のヒカリが、ネフィリムを貫いて……

 

「何故だ……なぁぜだァァァァ!?」

 

七領のシンフォギアを揃えた所で、絶唱の一発程度では奇跡(エクスドライブ)を齎す程のフォニックゲインには届かぬ筈……ッ!!

どこだ……どこで計算が違っていた……!?

 

「━━━━ウェル博士ッ!!お前の手に、世界は大きすぎたようだなッ!!」

 

炉心を前に有り得ない光景に頭を抱えて驚愕するボク(英雄)の前に現れる、不埒な闖入者共……

 

「━━━━ッ!!」

 

驚愕と、フィードバックを考慮したが故に端末との接続を断っていたボクにとって最悪の展開……ッ!!

それを覆す為、ボクはネフィリムの左腕を伸ばし……

 

「あなたの好きには━━━━」

 

それよりも速く、抜き放たれる銃弾……ッ!!コレだから短絡的な暴力バカ共はッ!!

━━━━だが、その軌道は、ボクを貫く物では無く。そこに到る前に()()()()()

 

「はァァァァ!?」

 

そして、ボクの腕の下にブッ刺さり……!?

 

「がッ……!?ぐぐぐ……ッ!!」

 

━━━━動かない!?何の攻撃も受けていないボクの腕がッ!?

 

━━━━影縫い━━━━

 

「━━━━させませんッ!!」

 

その言い草からして狙っての物……つまり、コレは……

 

「催眠暗示……ッ!!弾丸を見ただけでこれほどの暗示を……ッ!?

 ━━━━だが、まだだッ!!まだ終わってなァいッ!!

 奇跡が一生懸命の報酬なら……ボクにこそォォォォ……ッ!!」

 

ふざけるな。認められるものか。奇跡を手繰るのはボクの……英雄の権利だ……ッ!!

だから、全力を込めて左腕のネフィリムを動かし、炉心の心臓と同調させる。

 

━━━━指令(オーダー)はただ一つ。

 

「━━━━ッ!?何をしたッ!!」

 

「フヘッ……ただ一言、《ネフィリムの心臓を切り離せ》とネフィリムの左腕を通して命じただけ……

 此方の制御を離れたネフィリムの心臓は、フロンティアの船体を無秩序に喰らい、糧として、暴走を開始するッ!!

 そうして再構成された神体たるネフィリムが地上に落着した時に発生するエネルギーは……1,000,000,000,000℃だァァァァッ!!

 ボクが英雄になれない世界なんて、蒸発してしまえば……」

 

「━━━━ふんッ!!」

 

━━━━瞬間。鳴り響く破砕の音。

 

「━━━━ひィッ!?」

 

気付いた時には一撃で、先ほどまでボクが接続していたコンソールが砕かれていた。

ウワサには聴いてたが、なんて馬鹿力ッ!?

 

「……壊してどうにかなる状況では、無いようですね……」

 

「……そうか。

 ━━━━来いッ!!ウェル博士ッ!!アンタを確保させてもらうッ!!」

 

「なんて甘ちゃんッ!?」

 

「━━━━あぁ。甘いと、よく言われたとも……」

 

━━━━そうやって、誇らしげに笑いながらボクに手錠をかける男の姿が、何故だろうか。ボクの苛立ちを更に増させるのだった……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━それは、輝ける希望のヒカリだった。

(天津共鳴)の目の前で立ち上った、七色の光の翼(フリューゲル)

限定解除(エクスドライブ)のキラメキをその身に宿した、六種七領のシンフォギア達……

 

「……良かった……本当に、良かった……」

 

━━━━大火球が直撃した瞬間、呼吸を忘れてしまうかと思った程の長い一瞬。

それを、自ら手繰った奇跡で乗り越えてくれた彼女達は、やはり強い少女達だ。

 

「……美舟ちゃん……」

 

━━━━腕の中、眠りに着いたように目を覚まさない少女もまた……

息はある。だが、巨人から切り離された衝撃がやはり大きかったのだろう……

 

「早く二課本部で保護してもらわなければ……」

 

『━━━━此方でウェル博士を確保したッ!!だが、その際にネフィリムの心臓をパージさせられてしまった為、現在ネフィリムは暴走状態に陥っているッ!!

 フロンティアの船体を呑み込んだネフィリムが地上に落着し、その衝撃で臨界に達すれば、地上の壊滅は免れないッ!!

 本部潜水艦は要救護者を確保した後に脱出するッ!!装者達は、限定解除(エクスドライブ)ギアの総力を以てネフィリムを打倒せよッ!!

 ……頼んだぞッ!!』

 

『━━━━了解しました。臨界に達する前に対処します。』

 

騎士から借り受け、本部側で調整してもらった新たな通信機から聴こえてくるのは、司令からの指示と、それに対して凛と応える翼ちゃんの姿。

 

「……なら、司令と合流して一度本部潜水艦へ戻らなきゃ、だな……」

 

ネフィリムの打倒の為に先に向かうべきか、それとも人命救助を優先すべきか。

先ほどにウェル博士が俺に吹き飛ばされる美舟ちゃんと生身のままだったマリアさんを選ばせたのと同じ、命の選択。

 

━━━━だが、俺はもう一人じゃない。

確かに、俺の手の届く総てには限りがある。どれだけ手を伸ばしたって、救えない人が居る。

けれど、そんな時に。助けてくれる人達が居る。共に手を繋いで、もっと先へと手を伸ばせる人が居る……!!

 

「━━━━了解、ネフィリムは装者に任せ、天津共鳴は要救助者の救出に向かいます。

 皆……世界を、未来(あした)を頼んだ。」

 

『……あぁ、任せておけ。』

 

『任せてッ!!ドーンとやっちゃうからッ!!』

 

「━━━━共鳴くん!!」

 

通信の最中、地下から飛び出してくるのは、司令達の乗り込んだジープの姿。

掛けられる声に合わせ、俺はその荷台に飛び降りる。同時に、セレナちゃんを連れた騎士もまた。

 

━━━━背後では、重力制御が霧散した事で落ち始めた浮遊岩塊がフロンティアの船体を叩いている。

 

「━━━━お待たせしました。天津共鳴、帰還しました。」

 

「うむ……信じていたぞ、共鳴くん。」

 

「邪魔するぜィ……やれやれ、エアキャリアをぶっ壊しちまったのは失敗だったかねィ?」

 

「どいつもこいつも悠長な事を……ボクを殺せば簡単な事……うぇ?」

 

━━━━拘束されたウェル博士の長口上を遮るように、前方から降ってくる浮遊岩塊、一つ。

 

「緒川ッ!!」

 

「はいッ!!」

 

「足場をッ!!」

 

「━━━━はァァァァッ!!」

 

司令の声かけに応える緒川さんの迷いない直進。その信に応えるかのように、車輌前方に浮遊した俺の手の上を足場に勁を解き放ち、岩塊を砕くのは司令の一撃。

……というか、俺の手に反動が伝わってこないのだが、もしや反動すらも岩塊に叩き込んだのか……!?

 

「ふッ!!……殺しはしない。お前を、世界を滅ぼした悪魔にも、理想に殉じた英雄にもさせやしない……ッ!!

 ━━━━どこにでもいる、ただの人間として裁いてやるッ!!」

 

━━━━砕いた残心を解いて着地した司令がウェル博士に言い放つのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()という残酷な言葉。

 

「……ちくしょうッ!!ボクを殺せェッ!!英雄にしてくれェェェェ!!」

 

その残酷が分かるが故に、ウェル博士は現実を認められずに喚き散らす。

 

「……どうして。

 ━━━━どうしてアンタはッ!!世界を危険に晒してまで英雄になろうとするんだよッ!!」

 

━━━━その姿に、どうしても一言物申してやりたい。

それは未熟だと、八つ当たりでしかないと頭では分かっている。だけど……ッ!!

 

「あァ!?決まっているだろうッ!!英雄は誰よりも畏敬を集め、飽くなき夢をその背で語る物ッ!!

 世界が月の落下という危機に陥ったんなら、それを利用してでもその先端に立たなきゃいけないだろうがッ!!」

 

「━━━━その為に、何を犠牲にしたとてもかッ!?」

 

「当たり前だろうッ!!英雄は世界の総てを背負う物ッ!!世界の危機に立ち向かう為の致し方ない犠牲(コラテラルダメージ)なんざ一々気にしていられるかッ!!」

 

「……ッ!!ふざけるなッ!!

 ……アンタの技術力は紛れもない天才で……だからッ!!

 ……その才能を使って誰かと手を取り合おうとしていたのなら……アンタは世界を救った英雄になれたかもしれないじゃないかよ……ッ!!」

 

━━━━酷い言い草だ。自分でも分かる。

 

《お互いに見据える未来も違えば、その為に取り得る手段も違う。そして……何よりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事だってあり得る。》

 

……あの日、切歌ちゃんに自分で言った事と矛盾する言葉を他人にぶつけてしまっているのだから。

けれど、どうしても。この天災の如き天才を前には言わずには居られなかったのだ。

 

手の届く総てを救おうとする俺と、手の届く物だけを救おうとした男。

━━━━どうしても、それが他人のようには見えなくて。

 

「…………クソッ……クソックソックソッ!!

 ━━━━天津共鳴ッ!!覚えていろッ!!ボクはッ!!貴様みてぇに甘っちょろくてッ!!反吐が出る程のお人よしなんか大っ嫌いだァァァァ!!」

 

━━━━俺の八つ当たりが、彼にどう思われたのかは分からない。

分からないけれど……

 

「……あぁ。甘っちょろく、お人好しで……だから、俺は誰かと手を繋ぐんだ。」

 

本部潜水艦に到着し、緒川さんに引きずられながら叫ぶ男の声に背中を向けて、俺は進む。

━━━━明日に、手を繋ぐ為に……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━閃光が、フロンティアの内側から溢れ出す。産まれ落ちる赤子が叫びを挙げるように。

 

「高出力のエネルギー、更に上昇……爆発的膨張までもう時間が……ッ!!」

 

━━━━呟いた瞬間、一瞬の静寂を突き破り、ネフィリムの神体が爆裂と共に姿を見せ……太陽を視た人の目を焼き尽くすように、外部カメラの殆どを動作不能にまで追い込んでいく。

ゆうに数㎞は離れている筈の本部潜水艦にすら多数のERRORを巻き起こす大熱量……ッ!!

 

「━━━━鳴弥くんッ!!状況はッ!!」

 

「最悪一歩手前って所ね!!今すぐ落下しないと本部まで呑み込まれるわッ!!」

 

━━━━本部の脱出を主導していた(天津鳴弥)の周りでは、優秀なスタッフ達が戦い続けていた。

 

「お兄ちゃん……ッ!!」

 

「ゴメンな、未来……心配かけた。代わりに、この子達を頼む……」

 

「うん……ッ!!えっと、貴方は……」

 

「はい!!セレナ・カデンツァヴナ・イヴです!!ひとまずよろしくお願いします!!」

 

「クソッ!!さっきの一撃のせいで演算領域が足りない……ッ!!こうなりゃ最後の手段だ……ッ!!」

 

「筆算でッ!?この土壇場にッ!?」

 

「━━━━今は恐らく、ナスターシャ教授の居る遺跡は地球と月を結ぶL1のラグランジュポイント付近で安定してるッ!!けど、月の公転軌道修正に入ったら、ラグランジュポイントもまた移動してしまうんだッ!!

 だから、ナスターシャ教授を救えるチャンスは今しかないッ!!この一瞬、月軌道の修正が完了する前に……ッ!!

 ━━━━共鳴くんッ!!あったよッ!!計算式がッ!!」

 

「━━━━はいッ!!」

 

━━━━そして、それでも尚届かなかった筈の手を伸ばし続け、戦い続ける防人(息子)の姿も、また。

 

「フフッ……脱出シーケンス、開始ッ!!

 試製地中貫通爆弾(バンカーバスター)、全弾発射ッ!!」

 

━━━━だから、私も。

発射された弾頭は本部潜水艦の周囲数百mのフロンティア船体を爆砕、それによって本部潜水艦は重力に引かれた自由落下を開始する……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━総てを呑み込んで、()()は産まれ落ちた。

 

「アレが、司令の言っていた……」

 

「フロンティアの船体を呑み込んで、心臓だけの状態から再誕した……天の墜とし子(ネフィリム)……ッ!!」

 

━━━━その大きさ、凡そ1㎞以上ッ!!

赫灼たる威容はヒトのカタチへと近づき、翼のように腕を広げる……

 

「━━━━先手必勝デスッ!!」

 

「どんなに大きかろうと、限定解除(エクスドライブ)ギアの出力なら……ッ!!」

 

━━━━終Ω式・ディストピア━━━━

 

━━━━終虐・Ne破aア乱怒(ネバーランド)━━━━

 

「━━━━ッ、待てッ!!」

 

(風鳴翼)の静止も聴かずに飛び出すのは、暁と月読の二人。

……出力の向上した限定解除(エクスドライブ)ギアで先んじて叩く。確かに、その言葉には些か以上の理がある。

 

━━━━だが、我々が相手取るのは、斯く在るべしという理を蹴り飛ばす完全聖遺物……ッ!!

 

アームドギアを巨大なロボットへと変えた月読と、三枚刃へと変わった鎌を振り抜く暁。

 

『━━━━ああああああッ!?』

 

だが、その一撃が齎した結果は……

 

「━━━━聖遺物どころか、それが発するエネルギーまで喰らっているのかッ!?」

 

イガリマとシュルシャガナのギアを構成するエネルギーさえも強制的に喰らい始めたという、埒外の結果……ッ!!

 

「重力に引かれて落着し、臨界に達したら地上は……ッ!!」

 

フロンティアを喰らった、まさに島一つほどもある大質量ッ!!

その落着の際の衝撃は、門外漢である私達にすら理解出来てしまう程の大衝撃……ッ!!

 

「━━━━蒸発しちゃうッ!!」

 

「だったらァァァァ!!

 ━━━━バビロニア、フルオープンだァァァァッ!!」

 

どう対処するべきかを悩む私達の中で真っ先に動いたのは、雪音。

その手に握ったソロモンの杖を振るい、重力に引かれ徐々に落下していくネフィリムの真下にバビロニアの宝物庫への扉を開く……

 

「バビロニアの宝物庫をッ!?でも、ノイズを使役しても……」

 

「いや、違う……()()では無い、()()だッ!!

 限定解除(エクスドライブ)の出力でソロモンの杖を機能拡張したというのかッ!?」

 

「━━━━そうかッ!!ゲートの向こう……隔たれたバビロニアの宝物庫にネフィリムを格納出来れば……ッ!!」

 

━━━━臨界に到った爆発も地上を焼く事は出来ない……ッ!!

 

「━━━━人の叡智が産み出した物だってんならァ……ッ!!人を殺すだけじゃなくて、人を救って見せろッ!!

 やって見せろよッ!!ソロモンッ!!」

 

━━━━底の底から叫びを挙げる雪音に呼応するように、バビロニアの宝物庫への扉が開いてゆく……ッ!!

だが、まだ足りないッ!!その大きさ、ようやく1㎞弱……ッ!!

 

「コレなら……」

 

「ッ、避けろッ!!雪音ッ!!」

 

━━━━だが、自我と呼ぶべき物がネフィリムにもやはりあるのだろうか?

バビロニアの宝物庫への扉を開くソロモンの杖を危険と認識したか、雪音をその巨大な腕で薙ぎ払う……ッ!!

 

「ぐあッ……しまった、杖がッ!!」

 

「雪音のフォローには私が入るッ!!杖の確保を……ッ!!」

 

「私がッ!!

 セレナが笑って暮らせる……明日をォォォォッ!!」

 

━━━━マリアの裂帛の気合いが杖を通して輝き、ネフィリムをも超える超巨大ゲートを造り上げる……ッ!!

 

「やったッ!!」

 

「あとは、この手を避ければ……」

 

「いや、まだだッ!!マリア、杖を放り投げて逃げろッ!!」

 

━━━━薙ぎ払うネフィリムの手を避けたマリアに、奏が叫ぶ。

 

「えっ……きゃあッ!?」

 

『マリアッ!?』

 

「ネフィリムの腕が(ほど)けてッ!?」

 

細い糸のようになったネフィリムの指先が、杖を持ったマリアを絡め取って離さない……ッ!!

しかも……

 

「マズい……ッ!!本格的なネフィリムの落下が始まった……ッ!!早く切り離さねば、マリアが……ッ!!」

 

重力に引かれる速度が上がり、ネフィリムは最早半ばまでバビロニアの宝物庫の中へと落ち窪んでいる

 

「━━━━格納後、私が内部よりゲートを閉じるッ!!

 ネフィリムは、刺し違えたとしても私が……」

 

「自分を犠牲にするつもりデスかッ!?」

 

「マリアッ!!ダメェェェェ!!」

 

「……こんな事で、世界を滅ぼし掛けた私の罪が償える筈は無い……

 だけど、この世界は……セレナが生きるこの世界の、総ての命だけは私が護って見せる……ッ!!」

 

━━━━その決意は、紛れもなく尊い物。防人の如き信念だ。だが……

 

「━━━━それじゃあ、マリアさんの命は私達が護ってみせますね?」

 

━━━━手が届く場所でそのような自己犠牲を見逃すような者は、私達には一人も居なかった。

 

「あなた達……ッ!!」

 

「マリア、さっきお前が自分で言ったじゃないか。

 ……今日はまだ、世界最後のステージじゃあ無いんだぜ?

 ━━━━だから、生きるのを諦めるなッ!!」

 

「奏……」

 

「英雄でない私に、世界を護るなんて出来やしない……

 でも、私達……私達は、一人じゃないんだ……ッ!!いつだって、どんな時だって……ッ!!」

 

━━━━バビロニアの宝物庫。特異災害たるノイズを産み出し続ける、隣り合う異界。

その中に、私達は飛び込んで……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━バビロニアの宝物庫。その扉、閉ざされて。取り残された者、数多く。

 

 

「━━━━響ィィィィ!!」

 

「━━━━マリア姉さんッ!!」

 

「衝撃に備えてッ!!」

 

「……さぁ、間に合わせろよ、孺子(こぞう)……?」

 

 

━━━━それでも、多くの者が祈る。明日が欲しいと。まだ、歌っていたいと……

 

 

「よく分かんないけど……頑張って、響……ッ!!」

 

「ビッキーだけじゃないッ!!先輩達も皆よッ!!」

 

「明日にまた、共に歌う為にッ!!」

 

「私達、此処に居るって事を~ッ!!」

 

 

━━━━祈りは歌に。そして、歌は集う。光となって。星の海へ……

 

 

「━━━━フォニックゲイン、照射継続……ッ!!

 ……月遺跡、バラルの呪詛、管制装置の再起動を確認……

 月軌道、アジャスト開始……ッ!!」

 

━━━━彼女は見上げる。遠く彼方になった、青い星を。

 

「あぁ……星が、音楽となって━━━━」

 

言葉は続かず。倒れゆく女の身体を止める者は……

 

「━━━━えぇ。泣いて、笑って……この鼓動の(ウタ)を、伝え、紡いでいます。

 だから、帰りましょう。ナスターシャ教授。」

 

━━━━此処に、一人。確かに、立っていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━よく分からない黄金の構造物が数え切れぬほど浮かび、その上に、それどころか空間すら埋め尽くすかのように立つ者共が居る。

 

「━━━━なんて大量のノイズッ!!」

 

「さんざんこの杖から呼び出して来た奴等の住処だからなッ!!」

 

「まずは切り払い、道を開くッ!!往くぞッ!!」

 

はいッ!!(おうッ!!)

 

「響ッ!!ブチかますぞッ!!ガングニールの二重奏をッ!!」

 

「はいッ!!奏さんッ!!一番槍、二人で行きますッ!!」

 

━━━━我流・特大撃槍━━━━

 

━━━━ULTIMATE∞COMET━━━━

 

『はァァァァッ!!』

 

━━━━翼を広げ、槍持つ乙女二人が塞ぐ者共を打ち払う。

 

 

「ふっ……ならば見せようッ!!双翼の刃をもッ!!」

 

━━━━断空ノ煌刃━━━━

 

 

「退けよやァァァァッ!!」

 

━━━━DESTRUCTION SABBATH━━━━

 

極大なる剣が大型ノイズを易々と薙ぎ払い、数多の光条が小型ノイズの群れを焼き尽くす。

 

「せぇいッ!!

 ……調ッ!!まだデスかッ!?」

 

「もう少し……でッ!!」

 

そして、近寄るノイズを切り伏せる切歌の鎌と、未だに(マリア・カデンツァヴナ・イヴ)を拘束していたネフィリムの糸を切り、共に砕け散る調のメカ。

 

「マリアッ!!」

 

「ありがとう、調……でも、一振りの杖ではこれだけの数は……制御が追い付かないッ!!」

 

彼女等に死角から忍び寄るノイズを優先して止めども、止めども、溢れるノイズ達は尽きやしない……ッ!!

 

「━━━━マリアさんは、その杖でもう一度宝物庫を開く事に集中してくださいッ!!」

 

「━━━━何ッ!?」

 

「外から開くならッ!!中から開ける事だって、出来る筈だッ!!

 ━━━━ハーッ!!」

 

「鍵なんだよ、そいつはッ!!」

 

「鍵……ソロモンの……」

 

「お前さんが行きたい所を願えッ!!繋がる筈だッ!!」

 

━━━━私が、行きたい場所。この銀の、()()()()()()で以て帰りたい場所……それは……

 

「━━━━セレナァァァァッ!!」

 

━━━━もう一度、逢いたい……ッ!!逢って、話がしたい……ッ!!私、まだ貴方に伝えられていない言葉がいっぱい有るのだもの……ッ!!

 

「脱出デスッ!!」

 

「ネフィリムが飛び出す前にッ!!」

 

「行くぞッ!!雪音ッ!!」

 

「おうッ!!

 ━━━━吹っ飛びやがれッ!!」

 

分離(パージ)した装甲を光条に変え、弓の少女は追手のノイズを打ち払う。当たり前のように行われたそれの、なんて技巧ッ!!

 

━━━━だが、七人並んで脱出への道を飛ぶ私達の脇を追い越してゆく、赫灼の大質量一つ……ッ!!

 

「━━━━ああッ!?」

 

アリがどれほど速く足を動かそうと象の一歩に追い付けぬように、1.5m程の私達と1.5㎞程もあるネフィリムではやはり速度が違いすぎる……ッ!!

 

「……迂廻路は無さそうだッ!!」

 

「ならば、往く道は唯一つッ!!」

 

「この━━━━億万のノイズの群れと、ネフィリムを……」

 

「打ち破って、進むッ!!それ以外、答えなんてある訳が無いッ!!

 ━━━━だから、手を繋ごうッ!!」

 

荒唐無稽な筈の少女達の答え。だが、それを《出来る》と確信する自分達が居る……ッ!!

 

「マリアッ!!」

 

「マリアさんッ!!」

 

胸の歌が、最高潮へと達した証のように胸元から産まれるは……白銀の剣、一つ。

━━━━どうか、力を貸して欲しい。剣を握るのでは無く、手を握り合う私達が……明日へと繋がる道を往く為の力をッ!!

 

「━━━━この手、簡単には離さないッ!!」

 

しっかりと、七人が手を繋ぎ、明日へ向かって駆け出す……ッ!!

その想いに応えるかのように、ギアは変わるッ!!装甲の総てを一点収束……ッ!!白銀の左腕と、黄金の右腕ッ!!左右一対の双腕へとッ!!

 

『━━━━最速で、最短で、真っ直ぐに……ッ!!』

 

回転、加速。全て、全て、貫き徹す、その為に……ッ!!

 

『━━━━一直線にィィィィッ!!』

 

━━━━Vitalization━━━━

 

━━━━ヒカリが、巨人を、貫いて……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━空に開いた穴から、七色の輝きが降り注ぐ。

ネフィリムを貫き、押し通ったシンフォギア、七領の姿。

 

……だが、その代償もまた甚大。超新生(ノヴァ)へと到りし巨人(ネフィリム)のエネルギードレインを前に、ギアが悲鳴を挙げる程の、動けぬ程の……

 

「くッ……杖が、弾かれて……ッ!!

 すぐにゲートを閉じなければ、ネフィリムの爆発が……だが、身体が……ッ!!」

 

満身創痍、疲労困憊。当然だ。彼女達は半日にも渡って歌い、戦い続けたのだ。常人であればとうに死んでいる程の運動量。

 

「まだ、だ……」

 

━━━━それでも。

 

「心強い仲間は他にも……」

 

「まだ、居るのさ……ッ!!」

 

━━━━諦めず、輝きをその眼に宿して、少女達は見据える。未来(あした)を。

 

「仲間……?」

 

「━━━━私の、親友だよ……」

 

すぐ近く。()()()()()()二課仮設本部潜水艦、その艦橋部から駆け出す影、一つ。

 

(ギアだけが戦う力じゃないって、響が……お兄ちゃんが教えてくれたッ!!

 ━━━━私だって、戦うんだッ!!)

 

━━━━小日向未来が、砂浜を必死に駆けていた。

 

「━━━━ッ!?マズいデスよッ!!ネフィリムが!!」

 

━━━━だが、あぁ……だが、しかし。奇跡のように甘く、残酷のように苦い現実は、有り得ざる事象を映し出す。

 

「左腕を……ッ!!そうか、ドクターのネフィリムと引き合って……ッ!!」

 

「それだけじゃない……ッ!!美舟(あの子)の左腕に宿ったネフィルともだッ!!」

 

━━━━即ち、ネフィリム・ノヴァが伸ばす、左腕……境界を越え、此方の世界へと……

 

「マズい……仮令(たとえ)腕一本でも、此方の世界で爆裂してしまえば……ッ!!」

 

「━━━━大丈夫。絶対、大丈夫だよ。」

 

「……ヘヘッ。奇遇デスね。アタシも、なんとなく分かるデスよ。」

 

「アイツ、こういうタイミングは完璧だからなぁ。」

 

━━━━けれど、太陽に陰り無く。

 

『━━━━未来ッ!!そのまま杖を投げろッ!!』

 

「━━━━お願いッ!!閉じてェェェェッ!!」

 

通信の向こうから聴こえる声に背中を押され、陽だまりの少女は杖を投げ放つ……ッ!!

 

━━━━瞬間、その杖を護り、導くように空を奔る糸、複数……ッ!!

 

「━━━━螺旋線輪(ソレノイドコイル)、起動……ッ!!

 雷神の鼓枹(ボルトマレット)……聖遺物同調(サクリストチューン)ッ!!

 演奏開始(ミュージックスタート)……ッ!!」

 

螺旋を描き、黄金の雷電を奔らせ、空に描かれる一本の誘導直線(ガイドレール)……ッ!!

 

「━━━━天津糸闘流、奥伝ッ!!

 雷神飛翔脚が崩し……ッ!!」

 

━━━━ガウスガン、そう呼ばれる武器がある。螺旋線輪(ソレノイドコイル)が起こす電磁誘導によって物体を加速させ、撃ち放つという、空想(フィクション)の産物。

陽だまりの少女の後方より一足にて()()()()、地を蹴り放って飛び上がった青年が起こした事象は、まさしくソレだ。

アメノハゴロモが持つ重力から浮く力。飛翔の機能の総てを()()()()()()加速へと変え、青年は飛ぶ。先んじて飛ばされた杖に向かって……ッ!!

 

「もう響が━━━━誰もが戦わなくていいような……世界にィィィィッ!!」

 

━━━━共弦奏曲・神鳴(かみなり)━━━━

 

━━━━神鳴り。それは、狂言の演目の一つ。

空から落ちて来た雷様に、通りがかった医者が針を刺して天へと還る手伝いをするという物語……

 

「━━━━天へと、還れッ!!墜とし子よッ!!」

 

━━━━雷速の蹴撃が、ソロモンの杖を、撃ち放ち……此方の世界へとまろび出たネフィリムの左腕へと叩きつけられる。

 

「破ァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

一瞬の、拮抗。大質量が持つ大熱量が、超高速の一撃すら止めんとして……

 

「頑張ってッ!!お兄ちゃんッ!!」

 

━━━━背後からの声、一つ。それだけで十分過ぎる。

 

「━━━━絶対に……決めるッ!!」

 

再度の加速。距離は短くとも、杖までの距離を落ちるだけで、拮抗を破るに足る━━━━ッ!!

 

「━━━━さよなら。ソロモンの小さな鍵(ゴエティア)。」

 

弾かれ、押し込まれた左腕は異界へと繋がる穴へと杖と共に消え……そして。

空の色を変える程の大爆発の幻覚を遺し……ただ、それだけだった……




━━━━バラルの呪詛(ネットワークジャマ―)は再動し、ヒトの完全なる相互理解(神の復活)という(ひがん)は阻まれた。

それでも歌があると、少女は微笑む。
カミサマも知らないヒカリが、此処にあるのだと。

━━━━あぁ、あぁ。それでこそだ。
それでこそ、無茶苦茶にする(救済してもらう)に足るという物だ。
だが、この身()はひとまず眠りに着こう。
今はまだ、その時にあらぬから……
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