戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第八十六話 孤独のテイクオフ

━━━━二月の、とある日曜日。

FIS所属の少女達を拘留する施設にて。

 

『わぁ……!!』

 

「良かった……皆元気そうで。二課の人達からは聴いてたけど、やっぱり心配だったから……」

 

「でも、春からは一緒の学校だよ!!

 ━━━━というワケで、気が早いけどお祝いとバレンタインも兼ねたドーナツの差し入れ、どうぞ!!」

 

「私も、一緒に中等部に通う事になったんですよ!!」

 

彼女達の処遇にようやく大筋が付いた事。

それによって面会が可能になった響達に付き添って(天津共鳴)はこの施設を訪れていた。

 

「ま、先輩として厳しく指導してやるから、そこんトコロは覚悟しておけよな?」

 

「━━━━調と切歌、それにセレナも学校に……」

 

リディアン生徒として、来年度から共に通う事になる三人からの温かい言葉に、やはり彼女達三人の学歴について思う所があったのだろうマリアさんが感極まったように目を逸らす。

 

「━━━━それにしても、三人共……丸くなったな。」

 

『━━━━はぅッ!?』

 

━━━━そんな和やかな雰囲気を一刀両断した快刀の持ち主、それは翼ちゃんだった。

 

「な、何を言い出すデスか……確かにおせちは豪華に二段でデザートも付いてより取り見取りだったデスけど……」

 

「ご、ご飯が以前より充実してるとかあ、有り得ないし……年越しそばは出て来たけども……」

 

━━━━二課側で唯一、彼女達の凄まじい台所事情を知っている俺は、その言葉に涙がこぼれ落ちそうになってしまう。

 

「うん……?皆の印象があの時より険が取れたな……と、そういう話だったのだが……何故ご飯の話に……?」

 

「━━━━天然で、この切れ味ッ!?」

 

「特にマリアが丸くなったな。以前よりも今の姿の方が、私としては好ましいのだが……」

 

「……クッ……やっぱりこの剣……可愛くない……ッ!!」

 

翼ちゃんの天然理心の一撃に、マリアさんがあえなく轟沈する。南無……

 

「お兄ちゃん?他人事みたいに言ってるけど、お兄ちゃんも翼さんと同類だと思うんだけど……」

 

「やめてくれ、未来。その言葉は俺に効く……」

 

流石に此処まででは無いと思うのだが……此処まででは無い、よな……?

 

「……こほん。改めて……調と切歌の事、感謝するわね。特機部二(とっきぶつ)の事を信じていないワケでは無かったのだけれど……

 こうして、一つずつ実現していくのを見ると……」

 

「えっへん!!師匠達は凄い人達ですから!!」

 

「……そうだな。叔父様達や斯波田事務次官等の尽力あればこそ……これほど早くの事態収拾が成ったと言えるか。」

 

「まさか、米国に思いっきり吹っ掛ける事で自分から矛盾を踏ませるたぁな……あの蕎麦のオッサン、思ったよりもやり手じゃねぇか。」

 

「事務次官が言うには『トワリよりもニハチの方が喉ごしがいいってもんサ』……だってさ。

 ……言いたい事は分かるんだけど、なんで何でもかんでも蕎麦で例えるんだろうな……?」

 

「それだけ蕎麦を愛している……って事なのかしらね……?

 ……それで、話は変わるのだけれども……美舟の容態は?」

 

そう言って、申し訳なさそうにマリアさんが訊いて来るのは、此処にまだ居ないもう一人の少女の事。

だが、それは当たり前の事だ。

 

「美舟ちゃんは……まだ、眠りに着いたままです。ネフィリムの細胞の侵蝕自体は収まっているんですが……

 左腕を介して直結していた巨人をウェル博士に破壊された際のフィードバックの影響が大きかったようで……」

 

「そう……」

 

言葉と共に、拳を握りしめるマリアさん。

 

「━━━━大丈夫だよ、マリア姉さん。」

 

「セレナ……?」

 

そんな彼女の拳を握り締め、微笑みを向けるのは、妹のセレナちゃんだった。

 

「命を懸けて絶唱を歌った私だって、コールドスリープから戻ってこれたんだもの……美舟さんだって、きっといつか目を覚ます。

 ……二度目だって、ある筈だよ?」

 

「セレナ……」

 

「━━━━そうデスよ、マリアッ!!」

 

「私達も、美舟を信じて待ってあげよう?」

 

「調……切歌……

 ……そうね。きっといつか……美舟も、マムも一緒に……」

 

━━━━その先の、言葉にならない言葉を訊くのは野暮というものだろう。

……それだけに、その願いが叶う日を見る事が出来ないだろうこの身の脆さに腹が立つ。

 

━━━━だが……だからこそ、同時に思う。この未来を護りたいのだと。

 

「そういえば……どうして差し入れがドーナツなんデスか?ありがたくちょうだいいたしますデスけど……」

 

「確か……今の時期って、バレンタインデーなんですよね?」

 

「あ~……おう。ちょうど今日だったんだけど、な……」

 

調ちゃんと切歌ちゃんの質問に、顎をしゃくって此方を指す事で答えを返すクリスちゃん。その対象は俺と、そして翼ちゃんで……

 

「……すまない。今年もファンからのチョコの山を削るのに手一杯で、この時期にチョコは鬼門なのだ……」

 

「気持ちを蔑ろにする気は無いんだけど……流石に、机の上でチョコが山になってると色々キツイ物があって……」

 

「翼さんは公式ファンクラブ経由で、お兄ちゃんは単純に告白数の多さでチョコが山盛りになっちゃってね……

 そんな状況だから、いっそチョコに関係無い物の方がいいかな?って。」

 

『なるほど…………(デス)

 

━━━━味覚が機能していない以上、チョコを味わう事も出来ないのに。そう自嘲する言葉は、しかし音として紡がれる事も無い。

 

「……あぁ、そうだ。マリアさん。ナスターシャ教授なんだが、暫くは此方とも通信が出来なくなりそうなんだ。」

 

「……マムと共に射出された、フロンティア第三艦橋……その調査の件に絡んでの話ね?」

 

━━━━そう。あの日、ナスターシャ教授を乗せて射出された、フロンティア最大の遺留物。ラグランジュ1付近、月周回軌道上を漂う遺跡の調査が遂に始まろうとしていたのだ。

 

「えぇ。アルテミス13号による月周回軌道へのアクセスを狙う国連主導の調査……では、あるのですが……」

 

「アルテミス13号……確か、米国の宇宙開発計画で使われる筈だったスペースシャトルだったか?

 私とて門外漢故詳しくは知らないが……」

 

「うん。元々は2020年代から始まったアルテミス計画だったんだけど……EUがデュランダルを手放す理由になった欧州の超規模経済破綻、およびそこから波及した世界恐慌による経済活動の縮小が原因で計画は一時中断。

 けれど、シャトル自体は既に竣工していた為に製作が続けられていたのがアルテミス13号なんだよ。」

 

「ほへぇ……色々大変なんだなぁ……」

 

「……その話は、私達も多少聞いた事があるわね……FISと直接の関わりは無かったけれど、月遺跡へのシャトルによるアプローチはフィーネの研究命題の一つだったらしくて、その関係でね?

 ……尤も、シャトルは目立ちすぎる上に、遺跡の防衛機構を越える算段が付かないからと棚上げしていたらしいのだけれども……」

 

その話は初耳だったが、言われてみれば妥当な話だ。フィーネの目的が月遺跡の機能停止であるのなら、わざわざ完全聖遺物を複数揃える必要があるルナアタックでなく、シャトルによる月遺跡への物理的アプローチであってもなんら問題はない筈なのだから。

 

「シャトル自体の投入出来る絶対数も少ないですから、表沙汰の宇宙開発計画ともバッティングしてしまいますしね……

 まぁ、そんな感じで……ちょうど今年の三月に打ち上げ予定のスペースシャトルがあるからには、場所も分かっているフロンティアの遺留物を探らない手は無い、という事。

 国連による計画の一時的引継ぎというカタチで米国からアルテミス13を借り受けて、米国の宇宙飛行士を載せて発射……そして、異端技術関係者の指示の下で遺跡から情報を回収する、という流れが予定されているらしいです。

 なんでも、ナスターシャ教授によれば《世界の未来を救えるかもしれない》物が眠っているそうで……」

 

「━━━━そして、其処に日本側の代表者としてマムが通信越しに参加する……と。

 そんな時期に私達と通信をしていれば、其処を根拠にして米国が噛みついてこないとも限らないものね?」

 

「そういう事ですね……」

 

━━━━あぁ、まったく。世の中は儘ならない物だ。折角再開を果たした筈のナスターシャ教授とマリアさん達が、こうしてまたも引き裂かれてしまうなど……

 

「━━━━そんなしょげた顔をしないでちょうだい?」

 

そんな俺の内心が、雰囲気にも出てしまっていたのだろうか。マリアさんが俺の顎にその指を掛け、上を向くようにクイ、と上げさせる。

 

「マムは生きている。今は少しだけ逢えなくても……いつか、きっとまた逢える……

 ━━━━そんな奇跡を齎してくれたのは他でもない貴方。だから……胸を張りなさいな。」

 

「……はい。」

 

━━━━奇跡。そう、奇跡だ。

大気圏外、ラグランジュポイントまで超高速で射出されたというのに即死する事無く。

ナスターシャ教授が生きたまま地上に帰還出来た事。それは、紛れもない奇跡の産物だ。

━━━━俺が手繰り寄せられた、奇跡。

 

「ふふっ、コレではまるで姉弟(してい)のようだな。天津家でセレナを義理の妹と迎えているからにはちょうどいいのか?」

 

「珍しいね、お兄ちゃんが言いくるめられる方なのって。」

 

「むぅ……たとえ共鳴さんが相手でも、マリア姉さんを渡すつもりは無いですからね!?

 マリア姉さんの妹は私なんですから!!」

 

「フフッ……安心しなさい、セレナ。幾らこの子が手のかかる弟みたいな感じとはいえ、私とてセレナの姉の立場を譲る気はないわ。

 むしろ、ライバルと言ってもいいかも知れないわね?」

 

「ライバルってなんですか……」

 

━━━━そんな俺とマリアさんの会話を見て、空気を和ますように茶々を入れてくれる翼ちゃんと未来。

あぁ……護りたい。護り続けたい。こんな、なんでもない日常を……

 

 

━━━━けれど、日常の終わりはひたひたと、確実に近づいてきていて……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

早い物で、フロンティア事変(2043年9~11月)から四ヶ月近くの月日が流れた。

そして、旧リディアン音楽院で起きたルナアタック(2043年4~6月)から数えれば、もう一年。

 

━━━━そう。もう、一年が経ったのだ……

 

「━━━━仰ぎ見よ太陽を、よろずの愛を~学べ」

 

皆の歌が、聴こえる。

校歌斉唱。聴き慣れた筈の、リディアン音楽院の校歌。

 

━━━━けれど、今の(風鳴翼)にその歌を聴く余裕など無く……

 

「う゛ぅ~!!ぐすっ……」

 

「つ、翼ちゃん……気持ちは分かるけど、流石に流石にだよ……皆の涙も引っ込んじゃってるし……ね?」

 

ただただ、溢れる涙が止まらなかった。隣で落ち着かせようと声を掛けてくれるクラスメイトの優しさに身につまされるが、それでも涙は止まらない。

 

『元栓閉め忘れてんじゃねーんだ!!簡単に泣く物かよッ!!

 むしろ泣くのは卒業するそっちだろッ!?』

 

『剣に涙は似合わないッ!!二度と泣かぬと決めたのだッ!!』

 

つい先日、雪音の売り言葉に対して啖呵を切ったばかりだというのにこの始末……

 

 

 

「━━━━言わんこっちゃねぇな……」

 

式次第も終わり、自らも卒業式を終えた共鳴くんとも合流した私達二課メンバー。

 

「面目ない……だが、もう皆と一緒に居られないと思うと、つい……」

 

━━━━モラトリアム(猶予期間)は終わり、夢に向かって歩き出す時なのだと。頭では理解している。

理解しているのだが、それでも……

 

『う、う゛ぇ~!!』

 

━━━━気づけば、雪音と私のどちらもが涙を溢れて泣き出していた。

 

「あはは……お兄ちゃんの方は、どうだったの?」

 

「ん……皆と挨拶もちゃんとしてきたよ。あんまり出席は出来なかったけど……やっぱり、学校に行ってて良かったって思ったんだ。」

 

「泣きそうになったりは?」

 

「━━━━男ってのは馬鹿だからさ。泣きたい時こそ笑ってカッコつけたがる物なんだよ。

 だから、良哉とシンとは一発クロスカウンター決めるくらいで済ませて来た。」

 

「……そっか。でももし……ホントに泣きたくなったら、その時は私達にも言ってよね?

 幼馴染なんだから。そういうのだって受け止めてあげるのが良い幼馴染でしょう?」

 

「……さて、気が向いたらね……」

 

共鳴くんもまた卒業する。進路については……聴くまでもなく、彼は既に就職しているような物だろう。

 

「……寂しく、なるね。」

 

「ずっと一緒に居られると思ったから、余計にね……」

 

しんみりとした雰囲気で、私と雪音の鳴き声が響くこの場に、似つかわしくないように響くのは、端末のコール音。

 

『━━━━ッ!!』

 

瞬間、防人としての決意を固めた顔で防人姉妹(わたしたち)は頷き合う。

 

『はいッ!!』

 

『先ほど、国連からの緊急通信があったッ!!

 ━━━━アルテミス13号の月周回軌道からの帰還中にシステムトラブルが発生ッ!!現在、制御を喪って大気圏に突入し始めているッ!!』

 

「国連所属のスペースシャトルがッ!?」

 

「よりにもよって帰還時のシステムトラブルかよ……ッ!!」

 

「まるでアポロ13号の焼き直しだな……ッ!!」

 

「了解しました。本部にて合流しますッ!!

 ━━━━翼さん。最後にもう少しだけ……手伝ってくれますか?」

 

立花のその言葉は、最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に、私の胸に飛び込んで来る。

 

「━━━━無論だ。これからも、どんなに離れようと……私達はずっと一緒だッ!!」

 

だから、私が返す言葉も勿論決まっている。

 

「ヘッ……そういうのは後回しだ!!行くぞッ!!」

 

━━━━走りだす、この足で。何も恐れる事は無く。

辿り着く地平も今は見えない。けれど、未来へ続く道を切り開く為に、前へ……ッ!!

 

「━━━━いってらっしゃーい!!」

 

小日向の見送りを背に、防人姉妹(わたしたち)は本部へと向かう。

 

 

━━━━だから、最後まで気付く事が出来なかった。

防人姉妹(わたしたち)の後ろを走る共鳴くんの、その眼に浮かんだ感情一つにさえも……

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「城南大学の久住教授に確認、急げッ!!」

 

「シャトルに激突したデブリの正体は廃棄衛星S・ティアン号の破片と判明ッ!!」

 

「外部からのアクセス、機体が受け付けませんッ!!」

 

「現在の墜落予測地点はウランバートル周辺……人口密集地ですッ!!」

 

━━━━二課司令(風鳴弦十郎)の下にその情報が入ったのは、たった数十分前の事だった。

 

「安保理からの解答はまだかッ!!」

 

「外務省、内閣府を通じて再三打診していますが……今だありません……ッ!!」

 

「まさか、見捨てるつもりでは……!?」

 

「……いえ、宇宙空間は1966年に採択された宇宙憲章によってどの国家にも属さない永世中立地帯……

 更に言えば、日本政府保有の軍備と扱われる装者達を其処に打ち上げた場合に着陸・着水を行う場所がどこの国になるのかが予測出来ない以上、国連安保理がそう易々と装者の国外活動を承認する軽挙を起こす事は出来ないわ……」

 

━━━━最善を探り合うが故に、共に動く事が出来ない二課と安保理。

そもそもの事の始まり、それは……

 

「……ラグランジュ点に漂う、フロンティアの一区画……そこから国連調査団が回収した異端技術達……」

 

「それが……帰還時のシステムトラブルだなんて……」

 

「━━━━ッ!!承認、降りましたッ!!安保理の規定範囲で、特異災害対策機動部二課(われわれ)の国外活動、イケますッ!!」

 

━━━━故に、それは待ちかねた言葉。

 

「━━━━よォッしッ!!お役所仕事に見せてやれ、藤尭ァッ!!」

 

「軌道計算なんてとっくにですよッ!!」

 

「ミサイル発射管、左舷三番。経路よし!!

 ━━━━発射ッ!!」

 

━━━━そして、モニターの中発射されるミサイル。

それは、尋常な形では決して届かぬ手をそれでも届ける為の……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━アルテミス13号。それはまさしく、アルテミス計画の十三番目に発射されるシャトルの事を示している。

……だが、その道のりは決して平らな物では無かった。

欧州の超規模経済破綻の影響をもろに受け、2030年代には成就される筈だった計画は遅れに遅れ、2043年にまでずれ込んでしまった。

そして、其処に追い打ちをかけるかのように起きた、ルナアタックと、フロンティア事変。

月にまで影響を与える甚大特異災害。さらには、其処に関与していた米国の闇……

そうしたフィーネの齎した影響によって米国は計画の主導を外れ、アルテミス13号はフロンティアの遺留物を探る為の国連の調査団として再編されたのだ。

 

━━━━それは、まさしく13という忌み数の名に相応しい程のすったもんだであり、その最後にデブリが直撃してシステムがダウンするだなんて、そんなケチが付いたとしてもしっくり来てしまうな。

なんて、余計な考えまで浮かんでしまう。

 

「システムの再チェック……!!軌道を修正し、せめて人の居ない所に……ッ!!」

 

「そんなの分かってますよ……ッ!!

 ━━━━うぁ!?」

 

話をしている間にも後方で起きる爆発に、俺の言葉は強制的に途切れさせられる。

━━━━そして、爆発に揺さぶられてコックピット前部のレーダーを見た俺は、気付く。

 

「ミサイル……!?俺達を、撃墜する為に……ッ!?」

 

「……クッ……致し方無し、か……!!」

 

━━━━このまま行けば、ウランバートルの人口密集地にシャトルが墜落するという宇宙開発史上最大にして最悪の大事故が起きる。起きてしまう。

ウランバートルの人口は約147万人。しかも、人口密集地と疎遠地に大きく分かれている都合上、シャトル一機の落着による衝撃と、其処で起きる混乱は容易く何十万もの命を奪ってしまうだろう……

そうなれば、宇宙開発の歴史は其処で幕を閉じる。宇宙飛行士の命だけでなく、多くの人々を奪ったシャトルは、人々の希望では無く、呪いを受ける事になるからだ。

━━━━だから、仕方がない。致し方ない犠牲(コラテラル・ダメージ)として乗員二名を切り捨て、何十万もの命を救う。当たり前に人々が突きつけられる、最悪の二択……

 

『━━━━へいき、へっちゃらですッ!!』

 

「━━━━ッ!?」

 

━━━━だというのに。

 

『━━━━だから……生きる事を、諦めないでッ!!』

 

━━━━声が、聴こえた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━始まる歌」

 

「━━━━始まる鼓動」

 

「響き、鳴り渡れ」

 

『希望の(オ、ト)ッ!!』

 

『生きる事を諦めないと……』

 

「示せ」「熱き夢の」「幕開けを……!!」

 

「爆ぜよ」「この」「奇跡に」

 

『━━━━嘘は無いッ!!』

 

━━━━このままだと、大都市圏にシャトルが落ちる。

落ちて……人が、死ぬ。多くの、あまりにも多くの人が。

そんな事、許容できるワケが無いッ!!その想いを重ね、亜宇宙にまで飛び上がった(立花響)達三人。

凄く速く動くシャトル(お兄ちゃんが言うにはなんだか違うらしいけれど……)に追い付く高速機動を為す為、私達はクリスちゃんのミサイルに乗って、大気圏に突っ込むシャトルと速度を合わせに掛かる。

 

「ッ……!!まるで、雪音のようなじゃじゃ馬っぷり……ッ!!」

 

「━━━━だったら乗りこなしてくださいよ、()()()()?」

 

卒業したとしても、翼さんが私達と同じリディアン音楽院に通っていた事実は消えない。

それを示すように、クリスちゃんが声を掛けるのが聴こえる。

 

「ハッ!!」

 

「テェヤッ!!

 ━━━━立花ッ!!」

 

「はいッ!!」

 

そうしてミサイルを乗りこなし、速度を合わせて飛び移った事で、シャトルの速度に合った衝撃?摩擦?を受ける私達。

だけど、だからこそ、此処でこの速度を落とさないといけない……!!

その為に翼さんと左右を分担し、ウェイブライダー(突入殻)を支える支柱に取り付いて全力で逆方向へとブーストを掛ける……ッ!!

 

『装者、取り付きましたッ!!減速を確認ッ!!』

 

『墜落地点、再計測!!依然、カラコルム山系への激突コースですッ!!』

 

『突入角が悪い……ッ!!どうしてユーラシア大陸ド真ん中なのよッ!!』

 

オペレーターの皆も彼等なりの戦いを続けている音が通信越しに聴こえる。

だから、諦める理由なんて……何一つ、無いッ!!

 

「━━━━その手は、何を掴む為にあるッ!?」

 

「━━━━多分ッ!!待つだけじゃ叶わないッ!!」

 

「━━━━その手は、何を護る為にあるッ!?」

 

「伝うッ!!」

 

「熱はッ!!」

 

『━━━━未来(あす)を輝かす種火にッ!!』

 

ミサイル(イチイバル)と、バーニア(アメノハバキリ)と、ハイク&ブースト(ガングニール)の三つの加速が、シャトルの速度に対抗するべく咆哮をあげる……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「シャトルの減速、間に合いませんッ!!カラコルム山系を回避する事は不可能ですッ!!」

 

━━━━それでも。地球の自転が産み出す時速1600㎞もの相対速度差。それに対抗しきって巨大質量を停止させるのは通常のシンフォギアでは不可能。

 

「なんとか船内に飛び込んで、操縦士達だけでも……ッ!!」

 

だから、ボク(緒川慎次)は声を張り上げる。人命救助を最優先にすれば、この状況も……

 

『致し方無し……ですか。どんな発見も、彼等の命には変えられません……』

 

通信越しに状況を見守るナスターシャ教授達もその判断を受け入れたからか、顔を伏せる……

 

『━━━━ソイツは聴けない相談だ。』

 

だというのに、耳朶を打つのは、諦めなど一切感じさせない、強い言葉。

 

『人命と等しく、科学の発展も護られるべき人の進歩……』

 

『ナスターシャ教授は、世界の未来を救えるかも知れない発見をしたんですよ?

 ━━━━だったら、それを諦めるって事は、千年後の今日を、其処に生きる人達を諦めるって事じゃないですかッ!!』

 

━━━━その断言に、返す言葉も無い。

 

『どこまでも……』

 

『欲張りデスよ……』

 

『……ちくしょう、敵わないワケだ……!!』

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━恐怖が、身体を支配している。

もう、ダメだ。生きる事を諦めるな?

そんな事を言われたって、もうどうしようもないッ!!俺達宇宙飛行士は宇宙の、そして地球のスケールの大きさを知っているッ!!

……其処に、人が竿を挿した所で、大河の流れには敵わないと、分かってしまうから……

 

「もう……ッ!!」

 

スロットルレバーに掛けた手。操縦士としての責務。

━━━━放してしまえ、と囁く悪魔が、頭の中に……

 

「━━━━燃え尽きそうな空に、歌が聴こえてくるんだ。諦めるな……ッ!!」

 

けれど、けれども。先輩が手を重ねてくれて。

諦めるなと、声を掛けられて。

━━━━そこで、思い出す。

確かに宇宙は、地球は、人間を遥かに超えた長大なスケールで生きていて。

そのスケールに独り立ち向かうだなんてどだい無理な話だ。

 

━━━━だけど、人類はそうじゃない。一人で出来ない事の為に共通の認識を付け、分からない事を理解しようとし続け、時に崇め、時に恐れ、時に争い、時に助け合って来た……!!

 

「━━━━その積み重ねが、人類の武器……科学だから……ッ!!」

 

大河の流れに竿を挿しているのは、歌う彼女達だけじゃない……ッ!!彼女達を支える者、彼女達を支えた者ッ!!

なら、俺だって……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

K2(カラコルム山系測量番号二番)への直撃、避けられませんッ!!』

 

『━━━━直撃まで、1㎞を切りましたッ!!』

 

「━━━━行くぞバカァッ!!」

 

━━━━直撃は避けられない。減速は終わらない。

そんな中であたし(雪音クリス)は頭の中で十露盤(そろばん)を弾く。

大規模破壊にゃなるが……イケる筈だッ!!コレならッ!!

 

だが、あたしのギアには踏ん張る為のアンカーがねぇ!!だから、掛ける声と共に、アンカーでしっかりと足場に喰い込んだバカの上半身にしがみつく……ッ!!

 

━━━━MEGA DETH SYMPHONY━━━━

 

選択したのは、メガデス級のミサイル、その変奏曲。

多弾頭の分裂型爆弾(クラスターボム)を岩肌に、いいや、その内部にまで抉りこませるッ!!

 

一瞬の静寂……そして、破裂ッ!!

あとは、コイツを……ッ!!

 

「━━━━ブン殴れェッ!!」

 

「えぇェ!?」

 

山脈を構成する岩塊を破砕。其処をこのバカの打撃力でブン殴らせる事で()()()()()()を造り上げるッ!!

無茶苦茶だが、許せよ国連さんよッ!!

 

『K2の標高、世界三位に下方修正!!』

 

『シャトル、不時着を強硬します!!』

 

━━━━そして、山をすり抜けた事でようやく方向の一致した斜面に乗っかれたッ!!だが……

 

「加速が付きすぎだ……ッ!!」

 

ジェットコースターも真っ青なスピードで斜面に落着、暴れ馬のままで駆け下るのは想定外だ……ッ!!

そして、目の前に広がるのは……森林ッ!?そういや確か、テレビの教育番組だかでヒマラヤの気候は標高で変わってるとあったが……!!

 

「あわわわわわ……!?」

 

「━━━━切り裂けッ!!まだ見ぬ日に往く為にッ!!」

 

「不可能なんて何一つ無いッ!!」

 

だが、その障害物を物ともせずに、センパイは構えた剣を巨大化させてそれを切り裂く……ッ!!

 

「こんなに心強い事は無い……ッ!!」

 

「絶対」

 

「絶対!!」

 

『絶対信じあい━━━━』

 

森を抜けたその先は……谷ッ!!それも、山に直撃するルートッ!!

 

「━━━━ぶっちぎィィィィるッ!!」

 

だが、その前に既にバカは前に出ている……ッ!!

振り抜いた右腕がガイドレールとなり、シャトルは左へと大きく逸れて衝突から逃れる……ッ!!

 

仮令(たとえ)闇に吸い込まれそうになって……」

 

「次は左だッ!!立花ッ!!」

 

「涙さえも血に濡れて苦しくて……もォッ!!」

 

━━━━左腕が壁を殴り、今度は右へとシャトルの進路を変更する。

速度が落ち切らない事に不安はあるが、このまま進めれば……ッ!!

 

「この調子で麓まで行ければ……ッ!!」

 

━━━━だが、目の前のバカの台詞がフラグになったのか。目の前の谷間に見えてくるのは……

 

「ヤバイ……ッ!!

 ━━━━村だッ!!」

 

谷間の隙間から見えるのは、人の生きる姿。家屋の数々。

このまま突っ込んだら、全部砕けて散っちまう……ッ!!

 

「はッ!?

 ━━━━せぇいッ!!」

 

「バカッ!?」

 

それを見た瞬間、居ても堪らずにシャトル前面に飛び出すバカの姿があって……

━━━━って、アホか!?シャトルの速度はまだまだ落ち切ってなんか居ねぇ!!その何千トンもの重量が乗った加速は、幾らあたし達のギアでも到底相殺しきれねぇ……ッ!!

 

『━━━━問題無いッ!!装者達はそのまま直進してくれッ!!響はそのままブレーキングッ!!』

 

「はぁ!?」

 

━━━━だというのに、通信の向こうから聴こえてくるアイツ(共鳴)の声は直進を促すもので……!?

 

『━━━━黙って見てるワケにはいかないのさ。コッチだってね……ッ!!』

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……怖いかい?」

 

装者三人と同じようにミサイルに乗って飛び出し、シャトルの予測進路に立ちふさがるように立つ(天津共鳴)が、

隣でギアを纏う少女……セレナ・カデンツァヴナ・イヴに掛けるのは心配の言葉。

 

「━━━━はい。

 あの日と同じように……私の後ろに、多くの人が居て……命を懸けて歌わないといけない……

 それは、やっぱり怖くて……」

 

そういう少女の手は、少しだけ。少しだけ、震えている。

 

━━━━だから俺は、そっとその左手を取る。

 

「━━━━大丈夫。今度は必ず、俺がキミを護る。

 だから、セレナちゃん。キミは、キミのしたい事を全力でやればいい。」

 

「……フフッ。共鳴さんって、まるで白馬の王子様みたいですね。」

 

「白馬の王子様、かぁ……うーん……流石にそれは……恥ずかしい、かな……」

 

「褒め言葉のつもりなんですけど……」

 

セレナちゃんの純朴な褒め言葉に、なんと返そうか。と思うよりも速く。

目の前の岩塊を破壊して、斜面を駆け下ってくる巨影が一つ。

 

「━━━━来た。」

 

『ヤバイ……ッ!!

 ━━━━村だッ!!』

 

『はッ!?

 ━━━━せぇいッ!!』

 

『バカッ!?』

 

通信と、目の前に広がる光景から状況を理解する。

 

「━━━━問題無いッ!!装者達はそのまま直進してくれッ!!響はそのままブレーキングッ!!

 ━━━━黙って見てるワケにはいかないのさ。コッチだってね……ッ!!

 ……セレナちゃん。頼む……ッ!!」

 

「━━━━はい。」

 

「━━━━Gatrandis babel ziggurat edenal(ヒトの夢、小夜曲は星の瞬き)━━━━」

 

━━━━絶唱。シンフォギアに搭載された決戦機能。その一つ。

装者への反動を考慮しない全開の歌が爆発的なフォニックゲインを産み……その反動を、俺が纏うレゾナンスギアが放出する。

 

「━━━━整列(アラインメント)。」

 

アガートラームのシンフォギアから取り出された、数多なる白銀のダガー達。

それらがセレナちゃんの声に呼応し、壁を成すように俺達の前へと並び揃う。

その形は……

 

━━━━pha†anx(ファランクス)━━━━

 

古代ギリシャの過去より伝わりし重装密集陣形の如き、斜め向きの壁……ッ!!

 

「真っ直ぐに受け止めれば、幾ら絶唱したアガートラームと言えど、あの大質量を受け止め切る事は出来ない……

 ━━━━だから、こうして斜めに受ければ……ッ!!」

 

「グッ……うゥ……ッ!!」

 

『━━━━絆ッ!!心ッ!!一つに束ねッ!!

 響き、鳴り渡れ希望の音ッ!!』

 

━━━━アガートラームの絶唱特性であるエネルギーのベクトル変換。それを最大限に利用する事で、ダガーの壁をジャンプ台に。

そうする事で、加速を上方へのホップへと変えられたシャトルは……

 

「━━━━跳べッ!!」

 

━━━━瞬間。鋼の翼が再び空に舞った。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━その日、カラコルム山系に竜が舞った。

中腹にある村の人々は、その事件について訊かれた際、口々にそう答えたという。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━先ほどに続く、二度目の浮遊感。

 

「なんと……ッ!?」

 

『━━━━翼ちゃん!!前部を下げる形で噴射三秒ッ!!』

 

「━━━━ッ!!了承したッ!!」

 

考えるよりも先に聴こえた通信に彼の考えを理解し、突き立てた切っ先を支点にして(風鳴翼)は脚部のバーニアを噴かす。

 

「どわわッ!?」

 

前部を下げる事で、浮遊によって一瞬の低重力状態となったスペースシャトルを回転させ……()()()()()()()()()()

 

『━━━━響ッ!!噴射二秒ッ!!』

 

「わわわわわ……せ、ぇ……のッ!!」

 

だが、バーニアが片側だけでは、回転を産み出す事は出来ても、その回転を止める事は出来ない。

━━━━それ故に、突入殻の裏側に取り付いていた立花の噴射が必要だったのだ……ッ!!

 

「でもダメだ……ッ!!このままじゃ村の先の岩場に激突して……ッ!?」

 

けれど、向きを固定しても速度は落ちない。

防人姉妹(わたしたち)だけでは、このシャトルは止められない……ッ!!

 

『━━━━操縦士ッ!!聴こえてるなッ!!

 全力で噴かせッ!!此処で止める為にッ!!』

 

『━━━━ッ!!

 ラァァァァ!!』

 

━━━━だからこそ、共鳴くんは叫ぶ。

この場で最も強力なバーニアを持つ物……即ち、シャトルのバーニアを全力で起動させる為に……ッ!!

 

爆音、轟いて……

内部から操作された事で、シャトルは着陸シークエンスを開始する。

 

微調整のバーニアによって姿勢がコントロールされ、ゆっくりとスペースシャトルが地に降り立つ……

 

「はぁ……なんって……荒業だよ……」

 

「━━━━任務。完了しました。」

 

突き立てた剣に掴まり、雪音を支えながらに飛ばす通信は、任務の成功を示すもの……

 

「無事か!!立花ッ!!」

 

「はいッ!!

 ……えへへ、ふふっ……あはははは!!」

 

「……おかしな所でもぶつけたか?」

 

飛び降りて顔を揃えた私達なのだが……

立花がいきなりに笑いだす理由が、私達には分からなくて……

 

「━━━━私、シンフォギアを纏える奇跡が、嬉しいんです……ッ!!」

 

━━━━その言葉の意味。分からぬ私達では無く……

 

「……お前、本当のバカだな。」

 

雪音の、言葉とは裏腹の苦笑が、私達二人の心情を現わしていた……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━ぐらり、と身体が崩れそうになる。

それを気合いで支えて、俺はシャトルに寄りかかる。

 

━━━━目の前で、響達が楽しそうに笑う姿。

その姿が……()()()()()()()()()()()

 

「遂に……視覚が持っていかれちまったか……」

 

━━━━発作が起きたのは、シャトルを打ち上げた瞬間。

発作の間隔が短くなる中、忘却のルーンにて鎮めたその反動が、遂に視覚情報にまで及んだのだと理解する。

 

「……潮時、だよな……」

 

━━━━二課の必死の捜索も虚しく、俺の左腕は見つからなかった。

つまりそれは、俺の左腕を封印する事で神の力を封じ込める策が不可能なままである事を意味する。

 

『━━━━あぁ、そうだ。潮時だ。

 だから諦めろ、天津共鳴。』

 

━━━━囁く声が、聴こえる。

 

『これ以上喪えば、間違いなくお前は死ぬ。

 むしろ、ここまでよく耐えたと言ってやろう……だからこそ、お前を喪うワケにはいかない。

 さぁ、母上(グレートマザー)と一つになれ……ッ!!人たるを捨て、怪物(ムシュフシュ)としての(サガ)を取り戻せ……ッ!!』

 

それは、俺の中に潜む怪物因子。

遺伝子(ジーン)に刻まれた、神の力……

 

「━━━━なに、勘違いしてるんだ……」

 

『━━━━なに……?』

 

「諦めるなんて、一言も……言ってねぇだろうが……ッ!!」

 

━━━━だからこそ、その声に否を返す。

その決意と覚悟と共に、この右手に宿るのはアメノハゴロモ。絶唱と、三人のユニゾンした歌声が齎したフォニックゲイン、そして……

 

『バカな……ッ!?

 またもや命を燃やしたのか、貴様はッ!?

 死ぬぞッ!?死んでしまうぞ天津共鳴ッ!!』

 

「━━━━それが、どうした?」

 

『なん……だと……ッ!?』

 

━━━━俺の命を燃やして、紡ぎあげたモノ。

 

「━━━━俺が隠してた最後の手段には、どっちみち命を燃やす必要があるんだ……

 だったら、今更寿命の幾らか程度。燃やしてヒカリと変えても誤差だッての……ッ!!」

 

━━━━取っておきたかった、とっておき。

最後の、最後の手段としておいた物。

 

『一体、何を……ッ!?』

 

「━━━━()()()()。この世界に。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()を……ッ!!」

 

━━━━神の力。俺から別たれたモノ。

けれど、俺自身の遺伝子情報を宿し、俺と同じであるモノ……!!

 

『━━━━ば、かな……ッ!!

 それは……ッ!!やめろッ!!

 そんな事をすればお前を……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!!

 正気か、貴様ッ!?』

 

「━━━━ハッ。構いやしねぇよ。退けば死に、進めば消える。

 だったら……世界を救って消えるのが、一番上等なやり口に決まってるだろう……?」

 

……ウソだ。

……俺は、嘘を吐いている。

 

『やめろ……やめろッ!!そんな神殺しをすれば、母上の降臨すら危うく……ッ!!』

 

「━━━━それが目的に、決まってるだろうがァァァァッ!!」

 

……怖い。

━━━━喪失が、怖い。

━━━━忘却が、怖い。

 

『怖いよ……!!死にたくない……!!私、生きていたい……ッ!!』

 

『デートの約束、ちゃんと守ってくれよ?』

 

『……分かった。じゃあ……うん。お兄ちゃんがあんまり遅いようなら、私の方から迎えに行っちゃうから。』

 

『……ありがと、な……パパとママの想い出の場所に連れて来てくれて……』

 

『━━━━それでも、思い出してくれてありがとう。貴方の人生の片隅に居た、小さな女の子の事を、覚えようとしてくれて……本当にありがとう。』

 

『━━━━そんな奇跡を齎してくれたのは他でもない貴方。だから……胸を張りなさいな。』

 

『━━━━そう……ならいつか、貴方自身の願いが分かったら……それを私にも教えて頂戴ね、共鳴クン?』

 

━━━━脳裏を駆け巡る走馬灯。前後不覚になった想い出達が暴走する。

 

『いや!!死にたくない……死にたくないっ!!』

 

あぁ。あの日、ライブ会場の惨劇の中で。叫びをあげた少女の最期の言葉が。

今さらになって、実感と共に思い出される。

 

「……死にたく、無い……ッ!!」

 

━━━━怖い。恐い。こわい。コワイ。

自己の喪失、自我の消失、自身の消滅。

━━━━恐ろしくないワケが無いッ!!

 

「あ、あぁ……うああああああああああああッ!!護る……為にィィィィッ!!」

 

━━━━それでも。ルーンを刻むこの手に揺るぎは無い。

ルーンとは、正しく刻まれなければ意味を為さない物。

……そう。たとえ()()()()()()()()()()刻まねばならないのだから……ッ!!

 

『やめろォォォォ!!』

 

…………事此処に到って、ようやく気付いた。

 

「…………俺は、皆と幸せに……なりたかったんだ…………」

 

━━━━義務はいつしか、願いに変わっていたんだって。

 

「……なんて、遠い回り道…………」

 

皮肉な事だと、最期に、俺は、笑って━━━━




━━━━その日、一陣の風が吹いた。
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