戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第八十七話 開演のグラン・ギニョール

━━━━アスファルトに照り返す陽と共にじりじりと夏の気配が近づく、深緑の候(六月中旬)

 

「今日の課題ってさ、やってきた?」

 

「うん、流石に学校に来てから課題に四苦八苦するのはマズいかなーって思って……」

 

「おッはよー!!」

 

「あ、やっちーおはよー……また朝練?最近寝不足だって言ってなかった?」

 

「あ、あはは……まぁほら、女子高生には色々秘密が付き物なんだって……」

 

ゆったりと登校するあたし(雪音クリス)の耳に聴こえてくるのは、実に平和な会話の数々。

━━━━あぁ、平和だ……

 

「━━━━クーリスちゃーん!!」

 

━━━━だが、その平穏を打ち破る者にあたしは容赦しねぇ。

声と共に飛び掛からんとしたバカその一(立花響)を鞄でキッチリ対空して押さえ込む。

 

「……あたしは年上で、学校では先輩!!

 コイツ等の前で示しがつかないだろ?」

 

顎でしゃくって指し示すのは、この春から入学して来た後輩二人。

まったく……このバカだって今年は二年で先輩になった筈なんだが……?

 

「おはよう、調ちゃん。切歌ちゃん。」

 

「おはよう……ございます……」

 

「ごきげんようデース!!」

 

アイツ(小日向未来)の挨拶に応える件の後輩二人の姿も、相も変わらずの好対照ぶりだ。

 

「暑いのに相変わらずね?」

 

「ん……?

 ━━━━いや~、暑いのに相変わらずだねぇ……?」

 

そんな折にあのバカが気づいたのは、後輩二人が仲良く手を繋ぐその姿について。

……やっぱり突っ込まねぇとダメだったか……?

 

「いやいやそれがデスね~

 調の手はちょっとひんやりしてるので、ついつい繋ぎたくなるのデスよ~」

 

「━━━━そういう切ちゃんのプニッた二の腕も、ひんやりしててクセになる……」

 

「━━━━それ、本当なのッ!?

 ……ぷに……?」

 

「や~~~~!!やめてとめてやめてとめてやめてあ~~~~!!」

 

━━━━そんな風に煩悶するあたしの前で、エスカレートを続ける後輩二組。

……と、言うか……ッ!!

 

「━━━━フンッ!!

 ……そういう事は家でやれ……」

 

━━━━鞄ノ一閃━━━━

 

━━━━通学路だぞ、此処はッ!!

 

「ふ~ん……じゃあ、家でだったらいいのかにゃぁ~?」

 

「ゲェッ!?天音ッ!?」

 

「あ、あまあま先輩!!おはようございますッ!!」

 

「おはようございます。」

 

「おはよ~。今夜は楽しみね~?」

 

そんなあたしの必死の抵抗を嘲笑うかのようにするりと現れたのは、同じクラスのバカその三(天ヶ瀬天音)

 

「おまっ……お前、まさかッ!?」

 

「ん~?なんの事かにゃ~?

 私はただ、今夜のお泊り会が楽しみだな~って言っただけなのにぃ~?」

 

「……やっぱお前だけは叩きだすとするわ。悪いな、あたしン家は九人用なンだ。」

 

「あ~!?ゴメンってばクリスちゃ~ん!!何もしないから心配しないでよ~!!」

 

━━━━そういえば、バカその一とバカその三はこの場に居るけれど……

 

……バカその二って、誰の事だったっけ……?

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「進路についての三者面談……もうすぐですわね……」

 

一時間目から水泳というスケジュールにも、二年目となれば馴れたもので。

……というか、水泳の授業って半分くらい遊んでるだけな気がするんだけれどどうなんだろう?

そんな疑問を抱く(立花響)の耳にその話題が入って来たのは、ある種当然の帰結だった。

 

「憂鬱~……成績についてのアレコレはママよりもパパに聴いてもらいたいよ~……」

 

「ビッキーの所は誰が来るの?」

 

「ん~……ウチはお父さんが来てくれるって言うんだけど……」

 

「響のお父さん、最近特に過保護だもんね?

 この前も衣替えだ~って定期報告の筈なのに、響ったらうっかり長電話してたし。」

 

「アハハ……」

 

━━━━二年前のあの日、ライブ会場での事件からちょっと経って……お父さんが一度居なくなった日から、お父さんは私にとっても過保護になった。

……でも、居なくなろうとしたお父さんを助けてくれたのは……アレ……?

 

「はぁ……ちょっと響が羨ましいよ……」

 

「う、羨ましいって言われると、ちょっと照れちゃうなぁ~……」

 

「って言うか、そんなに過保護だとビッキーの成績について面談で知ったら……」

 

「━━━━とォウッ!!」

 

『わぁッ!?』

 

━━━━おっと、其処から先は聴きたくないッ!!

だから……

 

「━━━━ぷはッ!!そぉんな事より、泳ごうよッ!!

 今日の夜更かしに備えてお昼寝するなら、ちょぉっと疲れたくらいが良くないかな?

 わぁお!!自分で言ってて驚きのアイデアだねッ!!」

 

「……フフッ。よぉし!!」

 

「それッ!!」

 

━━━━今夜は折角の翼さんとマリアさんのタッグライブ!!それを眠気で見逃すなんて……そんなのは、イヤだッ!!

 

「……カラ元気のクセに……」

 

━━━━けれど。微かに聴こえた未来の言葉がどうしてか、耳に残って離れない気がした……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━なるほど?

 今夜、夜更かしする為に?私の授業を昼寝に充てる、と……

 そういう事なのですねッ!!立花さんッ!!」

 

「ふぎゃん!?」

 

━━━━やっぱり、響の言い訳はダメでした。

うわぁ、痛そう……なんて思いながら、(小日向未来)達は先生の御尤もな怒りに恐れをなす。

 

「はぁ……二年になって少しは落ち着いたかと思えばこの始末……まぁいいでしょう。

 とはいえ、ロンドンが気になるという想いは分かりますしね。

 ━━━━という事で、脱線にはなりますが、久々にちょっとした小噺でもしましょうか。

 歴史は現在と過去が密接に関わって出来る物ですから、テスト範囲だけでなく、そういった脇道も知る事が理解をより深める事にも繋がりますから。

 ……さて、ロンドンで今夜開催されるチャリティーロックフェスですが、会場となるテムズドームの警備にBSAAも参加する事がネットニュースにもなりましたね?

 皆さんはBSAAについて、どの程度の知識があるでしょうか?コレは授業の範囲では無いので、気軽に応えてもらって結構ですよ?」

 

「確か、国連直轄の対テロ特殊部隊の一つ……でしたよね?アニメにもなってたので知ってます!!」

 

「んー……アタシ達的には、なんだか外国のニュースで聴く言葉って事くらいしか馴染みがないかなぁ……」

 

「えーっと……板場さんの説明に追加するなら、21世紀前半に世界で多発した生物兵器を使ったテロに対抗する為に設立された物でしたわね?

 全盛期には国連加盟国ほぼ総てにおける無制限の活動権限がありましたが、現在は生物兵器テロの減少傾向からテロを起こさせない事を重視した警備などでの活動が多いんだとか……?」

 

「ウソォ!?詩織、なんでそんなに詳しいのッ!?」

 

「あはは……古美術品は完璧な消毒や検査が難しくて、生物兵器関連の防疫によく引っ掛かりますので……お父様の商談に付き合う時にBSAAへの愚痴がチラホラと……」

 

「なるほど……大筋は寺島さんや板場さんの説明で合っていますね。

 正式名称はBioterrorism Security Assessment Alliance(対バイオテロ防衛査察連合)といい、元々は製薬会社連合が支援するNGO(非政府組織)でした。

 ですが、00年代当時多発していたバイオテロへの対策強化、そして、当時対バイオテロを標榜していた米国の特務機関FBCが秘密裏にバイオテロに加担していたというセンセーショナルな事実……

 それ等への対応として、BSAAは国連直轄組織として生まれ変わったワケです。

 今回のような欧州での大規模イベントでBSAAが警備を行うのも、今回のチャリティーロックフェスティバルの収益の一部が超常脅威の一端であるバイオテロの被害者救済に使われるから……という事情もありますね。」

 

分かりやすい先生の解説に感心していると、ようやく痛みから再起動した響がふと何かを思い出したような顔をし始めた。

 

「あてて……あ、そういえば……ジョージさんとマーティンさんも、今そのBSAA?だったかに出向してるって話だっけ……」

 

「ジョージさんとマーティンさんが?あの人達もSONGに編入されたんじゃないの?」

 

「えーっと……なんだか難しい話がてんこ盛りであんまり覚えてないんだけど……二人はそもそも昔の二課に所属してたワケじゃなくて、傭兵として雇われてた形だったらしくて……

 だから、ただの機密組織だった二課ならともかく、国連直轄のSONGで雇い続けるのは難しいからって話だったかな……?

 そしたらジョージさんが昔の伝手を頼ってBSAAに行くって話になったらしくて……」

 

「へぇ……じゃあ、もしかしたらマリアさんと翼さんにも、会場警備って形で逢えるかもね?」

 

「そうだといいなぁ……」

 

━━━━そんな、穏やかな筈の日々。

それなのに、どうして……こんなにも心がざわついてしまうんだろう?

警備とか護衛の話なんてしてるから?それとも……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━で……結局、どうしてあたしん家なんだ……?」

 

━━━━午前三時。どう考えてもうら若き乙女共が起きているには不釣り合いな時間。

だと言うのに、あたし(雪音クリス)の部屋は満員御礼。十人分のグラスを準備しておいて正解だったな……とは内心思いながらも、一応ツッコミは入れておかねばなるまい。

 

「すみません……こんな時間に、大人数で押しかけてしまいました……」

 

「ロンドンとの時差は約八時間ッ!!」

 

「チャリティーロックフェスの中継を皆で楽しむには、こうするしかないワケでして……」

 

謝罪、開き直り、懇願と、三者三様ながらも、その言葉の意味するところは同じモノ。

 

「ま、頼れるセンパイって事で……それに、やっと自分の夢を追いかけられるようになった翼さんのステージだよ?」

 

「そうだよ~?先輩の活躍を皆で応援しなきゃだよ~?」

 

あたしの横合いからグラスを受け取りながらのバカ二人の物言いは蓋しその通り。

━━━━ノイズの災禍が去り、世界に羽撃(はばた)けるようになった先輩の晴れ舞台なのだ。

 

「ま、確かに皆で応援……しないワケにはいかないよな?」

 

「━━━━そして、もう一人……」

 

「マリア……」

 

「歌姫のコラボユニット、復活デース!!」

 

「折角のマリア姉さんの晴れ舞台ですもんね!!」

 

━━━━後輩三人の保護者であるマリア・カデンツァヴナ・イヴもまた……

 

テレビに映る中継を眺めながら、あたし達もまた、会場の熱気に中てられて行くのだった……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━ライブジェネシスのチケットが取れたのは、狙ったというよりは、偶然に近い物だった。

そもそも休暇が何時取れるかも分からぬ身の上であるが故、ロンドン公演のチケットとなれば取れた所で迎えるとは限らんが……

仮令(たとえ)そうだとしても売上はチャリティーとして寄付されるのだから構わない……

そんな風に想っていたものだから、チケット当選の連絡を受けた時に真っ先に考えたのは、『今から休みが取れるだろうか……?』という事だった。

……そもそも、我等(緒川忍軍)と彼女の関係は複雑であるが故に……

 

『━━━━ふむ。構わんよ。行ってきたまえ。

 機密漏洩などでも無ければ、休日に何をしようと一々看過しようとは思わんよ。

 家を飛び出した宗家の娘に逢いに行くワケでもあるまい?アイドルのライブ一つ、誰が行ってもおかしくは無かろう?』

 

━━━━だが、頭領の温情により、望外の休暇を得た俺は、こうしてロンドンに辿り着き……

 

━━━━俺は、其処に天女を見たような錯覚を覚えた。

 

『━━━━遺伝子レベルの』『インディペンデント……!!』

 

『絶望も希望も……』『━━━━抱いて……!!』

 

『━━━━足掻けッ!!命尽きるまで……ッ!!』

 

星天ギャラクシィクロス。

マリア・カデンツァヴナ・イヴと風鳴翼が今回のライブの為に再結成した特別ユニットの曲……

先んじてリリースされたその曲は、俺の懐にも確かに音源があった。

 

━━━━だが、圧が違った。力が違った。

……そして何よりも、込められた想いの質が違うのだと、忍者である(オロチ)の勘がそう告げている。

 

「……想いで、歌は変わるのだな……」

 

他の観客の迷惑とならぬよう、静かに落涙しながら、俺は目の前で起きるパフォーマンスの一挙手一投足から眼を放さぬように見据える。

 

圧倒的……ひたすら圧倒的だった。

会場全体の変形という大仕掛けも、夕陽射すタワーブリッジの逆光の影すらも利用した計算の妙……

 

『━━━━ヒカリと飛沫のKiss(くちづけ)……』

 

『恋のような』『虹の産まれた日(バースディ)……』

 

『どんな美しき日も……』『なにか産まれ』『なにかが死ぬ……』

 

そして、何よりも。スモークの舞う水舞台(ステージ)を踊りながら歌う二人の天女の歌声が……

 

『せ、め……て唄おう!!』『I Love you(愛していると)!!』

 

『世界が酷い地獄だとしても……せ、め……て伝えよう!!』

 

I Love youッ!!(愛しているとッ!!)

 

『━━━━解放の……時は来た……ッ!!』

 

『星降る』『天へと』『響き飛べッ!!リバティソング(自由の歌を)……ッ!!』

 

何よりも、美しい物だと魂で理解出来たのだ。

 

『━━━━Stardustッ!!』

 

━━━━夜の濃紺に染まりゆく空と照応するように、天井のスクリーンに映し出されるのは満天の流星雨。

 

『━━━━そして奇跡は待つ物じゃなくて!!』

 

『その手で創る物と……』

 

《咆・え・ろッ!!》

 

『涙した過去の苦みを』『鎮魂歌(レクイエム)にして……ッ!!』

 

「━━━━なッ!?」

 

━━━━空を舞いながら二人の歌姫が擦れ違う瞬間、忍として鍛え上げた動体視力が捉えたのは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なんと……ッ!!」

 

(せ、い)、あ、る全の……力で……ッ!!』

 

ステージ演出とはいえ、命を懸けた物だと理解出来る。吊り下げたワイヤーを外せば、待っているのは重力に引かれた自由落下。

しかも、直前までは飛行演出の為に速度を出して振り回されていたのだ……ッ!!

なんという覚悟ッ!!そして、それをエンターテインメントとして昇華する絶技ッ!!

 

『輝けFuture World(世界よ)』『信じ照らせ』

 

『星天ギャラクシィクロス……ッ!!』

 

━━━━銀河(星天)交叉(クロス)するという、天井に映し出された神秘的な演出への感嘆。そして、何よりも……交叉する歌姫二人の立ち姿に、拍手を鳴らす手が止まらない。

 

「……ありがとうございます……頭領……ッ!!」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「うわーッはははは!!

 こんな二人と一緒に友達が世界を救ったなんて、まるでアニメだねェ!!」

 

「あはは……うん、本当だよ……」

 

ライブ中継に心ときめいている三人娘を見て、(天ヶ瀬天音)は思う。

こんな日常が……皆が笑って居る日々が、私は大好きだな

 

「良かった……マリア姉さん、元気そうで。」

 

「うん、本当に。

 でも……」

 

「……月の落下と、フロンティアの浮上に関連する事件を終息させる為、マリアは生贄とされてしまったデス……」

 

「大人達の体裁を護る為にアイドルを……文字通り、偶像(アイドル)を強いられるなんて……」

 

……けれど、世界はそれだけで回っているワケでは無くて。

曾祖父様が為した大罪のように、後ろ暗い理由付けもまた、この世界には溢れている。

 

「━━━━そうじゃないよ。」

 

『え……?』

 

「うん?」

 

━━━━けれど、その悲観を遮るように声を挙げるのは、陽だまりの少女。

 

「マリアさんが護っているのは、きっと……誰もが笑って居られる日常なんだと思う。」

 

「未来……」

 

その言葉は、マリアさんを信じる物。単純だけど、だからこそ、誰にも否定できない、愛ある言葉。

 

「……そうデスよね!!」

 

「だからこそ、私達がマリアを応援しないと。」

 

「マリア姉さんが私達を護ってくれるなら、私達もマリア姉さんの護りたい日常を護らないと……ですよね!!」

 

━━━━けれど瞬間、歓談を遮るように響き渡る呼び出し(CALL)音。

 

『━━━━第七区域に大規模な火災発生。目撃証言から、石油輸送タンクローリーが崖から団地へと落下した事が原因と思われる。

 消防活動が困難な為、此方に応援要請が入った。』

 

「━━━━はいッ!!すぐに向かいますッ!!」

 

「響……」

 

「大丈夫、人助けだからッ!!」

 

━━━━その呼び出しはつまり、誰かが困っているという事。

 

「なら、私達も……!!」

 

「手伝うデスッ!!」

 

「戦うならともかく、避難誘導くらいなら……ッ!!」

 

そして、その報に居ても立っても居られない女の子達が、二人……いや、三人

 

「━━━━三人は留守番だッ!!

 Linkerも無しに、出動なんかさせないからなッ!!」

 

『セレナくんも同様だ。正式装者として登録されていないキミを矢面に立たせていては米国からの余計な嘴を呼び込みかねない。

 ━━━━どうか、二人を信じて待っていてはくれないか?』

 

『……むぅ……』

 

━━━━そして、走りだすクリスちゃんと響ちゃん。

 

「クリスちゃ~ん!!鍵~!!開けて待ってるからね~!?」

 

その背中に掛けるべき言葉は唯一つだろう。

 

━━━━私は、此処で待ってるよって。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━奈落へと続くエレベーターを通って、(マリア・カデンツァヴナ・イヴ)は舞台裏へと降り立つ。

 

「━━━━任務、ご苦労様です。」

 

「……アイドルの監視ほどでは無いわ。」

 

其処に待つのは、黒服のSP達。

国連の監視下でようやく軟禁から解き放たれている私に、行動の自由は無い……

 

「監視では無く、警護です。

 世界を護った英雄を狙う輩も、少なくはないので……」

 

「━━━━なら、やっぱり警護の人数は多けりゃ多い程いいよな?」

 

その言葉と共に通路の端から現れるのは、重装備に身を包んだ兵士二人……?

 

「……そうですね。貴方方は些か重武装過ぎる気もしますが……」

 

黒服の二人が歓迎していない素振りを見せる辺り、どうやら国連の回し者では無いようだが……?

 

「よっ、久しぶり!!」

 

━━━━そう言って、兵士の片方は私に声を掛けてくる。

……もしかして……

 

「貴方、ジョージ・アシュフォードッ!?」

 

「その通り!!……って、もしかして気づいてなかったのか!?」

 

「因みに私も居るぞ。」

 

「マーティン・フリーマンまでッ!?」

 

二課に所属していた筈の傭兵達が何故此処にッ!?

 

「何故此処に?って顔してるんで説明するがな。

 二課のSONG再編の時、フリーの傭兵のままで雇用してもらってた俺等を国連の予算で雇うのは難しいってのが分かってな……それで、古巣のBSAAに出戻りして来たって事だよ。」

 

「俺はその付き添いって所だ。

 どうせ、米国に戻っても、当時の職場ももう無いしな……」

 

「なるほど……」

 

━━━━話をしながらに進めた歩みは、いつの間にかステージ衣装を保管するマネキンが立ち並ぶ通路に差し掛かっていた。

……というか、これだけのマネキンを並べても、衣裳として使う数って一定なんじゃないかしらね……?

 

「……風?」

 

「うッ……!?」

 

「━━━━誰か居るのッ!?」

 

それに気づいたのは、屋内だというのに吹き込んで来た風を感じたが為。

襲撃の気配を前に、監視の二人も護衛の二人も、即座に戦闘が出来る姿勢になって周囲を見回す。

 

『……司法取引と情報操作によって仕立て上げられた、フロンティア事変の汚れた英雄……マリア・カデンツァヴナ・イヴ……』

 

━━━━だというのに。声の在処が分からないッ!!

まるで耳元で囁くような声量。だというのに、どこから語り掛けているのか分からぬ、不可思議な声ッ!?

 

「何者だッ!?」

 

誰何の言葉に、返って来たのは……

 

「おあッ!?ンーッ!?うぁ……うぅ……」

 

「後ろッ!?

 ━━━━な、何をッ!?」

 

━━━━目の前に広がるのは、まるでホラー映画のワンシーンのような光景。

緑を纏う、おぞましい程に美しい女が、監視の男の唇を貪り喰らっている……ッ!!

エロティシズムというよりも、バイオレンスに見えるのは、喰らわれる男が身震いしながら色を喪い始めているが故。

 

「ッ!!離れろッ!!」

 

「動くなッ!!動けば撃つ……ッ!!」

 

いち早く正気に戻ったのは、もう一人の監視の男。

そして、それに続くように護衛の二人も銃を構える……私にも武器が……何物をも貫く無双の一振りがあったなら……ッ!!

 

「フッ……」

 

警告への女の答えは、男を投げ捨てながらに向ける、微笑み。

……いいや、あれは微笑みでは無い。獲物に喰い付かんとする、捕食者の表情……ッ!?

 

「貴様ッ!!」

 

「━━━━ッ!!止せッ!!」

 

「━━━━ハァッ!!」

 

━━━━次の瞬間、起こったのは連続しながらもお互いに干渉しあわぬ複数の事象。

まず一つ、三発の銃声と共に……恐らく、拳銃から弾丸が放たれた。

そして二つ、それを止めるように静止の声を挙げたジョージと、弾丸を放った監視の男をマーティンが蹴り飛ばし……

最後に、三つ。女がスカートを翻した瞬間、巻き上がる風が弾丸を巻き込み……弾き返した、だとッ!?

 

カツカツと、まるでフラメンコダンサーのように足を鳴らし、女は構える。

 

「なッ……!?」

 

「あら……腕と脳天を狙いましたのに、眼の良い戦士が居たものね?

 まぁ、纏うべきシンフォギアを持たぬ者に用はないが……」

 

━━━━狙いはシンフォギア装者かッ!!マズい……私を人質として翼を……そして、同時に()()()を引きずり出すつもりか……ッ!!

 

「マーティンッ!!」

 

「あぁッ!!コッチだ、お嬢ちゃん(レディ)!!」

 

「えぇッ!!」

 

瞬間、目配せし合った二人。片方が蹴り倒された監視の男を引きずりながらにマネキンの裏へ回り、もう片方であるマーティンは私を連れて走り出す。

 

「あら……判断が早くて大変結構。

 ですが、それだけでは私は……ッと。」

 

━━━━瞬間、鳴り響く銃声。それも先ほどの護身用の9㎜弾では無いッ!!

 

「まさか、マグナム弾をッ!?」

 

だが、先ほどのように風が巻き上がる音も後方から聴こえてくる……ッ!!これでは、残ったジョージの命は……

 

「……驚きましたわ。まさか、マグナム弾を横っ飛びで放つだなんて……しかも、狙いも正確……流石は元BSAAのSOA(エージェント)ですわね?」

 

━━━━なんという絶技……ッ!!ジョージはマネキンからマネキンへとカバーチェンジしながらにマグナム弾を女が対処せねばならない精度で叩き込んだのかッ!?

 

「そりゃどうも……ッ!!クソッタレ!!気を付けろマーティン!!コイツ、マグナムが効かねぇぞッ!!」

 

「えぇ、えぇ。無粋な弾丸を二度も通すなど、私のプライドが許しませんから……ね?」

 

その弾丸すらも巻き上げ、撃ち返した女の風もまた、兇悪無比……ッ!!私達の今の戦力では勝ち目が無いッ!!

 

「了解ッ!!ならば選ぶべきは……」

 

『━━━━三十六計ッ!!』

 

━━━━瞬間、スプレー缶を落としたような金属音が複数鳴り響く。

コレは、まさかッ……!?

 

「逃げるんだよォォォォ!!」

 

「━━━━えぇッ!?」

 

背後から聴こえる閃光、爆音、そして、広がり始める煙幕……良かった!!流石に破片手榴弾を屋内でブン投げる非常識では無かったッ!!

閃光手榴弾と煙幕手榴弾の重ね技ッ!!この布陣なら……

 

「あの女は、一体……!?」

 

「分からんッ!!だがとにかくこうして距離を保っていれば……」

 

「━━━━残念ながら、そうは参りませんの。」

 

「ッ!!」

 

「どわァ!?」

 

「フッ!!」

 

━━━━立ち上る悪寒に従い、私は背を丸めながらの前転に移行し、背後から迫る刃を回避する……ッ!!

左右を走る二人も、飛び込みと壁を蹴った三角跳び(バニーホップ)でそれぞれに回避する。

 

「まさか……風の刃ッ!?」

 

「マジかよ……ッ!!」

 

「この狭い通路では避け続ける事は難しいか……謀られたな……」

 

「えぇ、えぇ。そう易々と逃げられてしまっては困りますもの。ですから……この剣を受け、散りなさいなッ!!」

 

━━━━悠々とした足取りで私達を追いかけてくる女は、閃光手榴弾の効果など無かったかのように真っ直ぐに此方を見据え、いつの間にかその手に携える両刃剣を此方に向けてくる……ッ!!

 

「クッ……!!」

 

銃は効かない。逃げ切るには場所が悪すぎる。では、どうするべきか……

 

「そんなものッ!!決まっているッ!!」

 

「おいッ!!嬢ちゃんッ!?」

 

此方から女へと走り込み、その刃圏へと一歩踏み込む。

 

「飛んで火に入るッ!!」

 

「一寸の虫だろうと、風を乗りこなせばッ!!」

 

横振りを慎重に間合いを見切って避け、大振りの踏み込みを誘発させる……ッ!!

 

「━━━━取ったッ!!はァッ!!」

 

踏み込みでガラ開いた首元が狙い目ッ!!悪いが、話はベッドで聴かせてもらうッ!!

跳び上がる遠心力を活かし、180度回転した上下逆の身体を捻った回し蹴りへと変える……ッ!!

 

「ダメだ嬢ちゃんッ!!ソイツは……ッ!!」

 

━━━━ぐるり。と、()()()()()()()()()()

 

「しまった……ッ!?」

 

コイツ、まさか……()()()()()()ッ!?

私の脚ごと巻き上げるこの力もッ!!

 

巻き上げられた私に、動きの自由は存在しない……ッ!!

そして、私の落ちる先には……!!

 

女神像の如く剣を掲げる、ヒトガタの姿、一つ……ッ!!

 

「嬢ちゃんッ!!」

 

━━━━そして、私は。重力に引かれて……




掲げる剣は、慈愛の女神の如く、熱い抱擁を齎すだろう。

鎮魂の夜に捧げられるのは、赤き血か、それとも赤き焔か。

魔の欠片を持ちて走る小さな躯体を、地のアルカナは追い立てる。

かけてもつれた抒情詩(リリック)の声と、かつてこわれた追想曲(カノン)の音色。二つの鼓動が溶け合う時、生きる意味が変わった事を知ったが故に……
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