戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第八十八話 救命のブレイクスルー

━━━━地のアルカナ(レイア・ダラーヒム)を示すこの身を翻し、手に現したコインを以て眼下の廃棄躯体(エルフナイン)を追い立てる。

 

「━━━━踊れ。踊らされるがままに。」

 

埋伏の毒として、世界を壊し、紡ぎ直す歌に込められるために。

 

故に、狙いは正確に。そして同時に決して当たらないように調整した連射を叩き込む。

足下に八発。そして、近くに止まる迂闊にもガソリンの残量が少ない車を狙い、エンジン内部でかち合うように二発。

 

「細工は派手に流々……後は、仕上げを御覧じろ。という奴だ。」

 

━━━━派手な爆発の華が紅く咲くのを眼下に見下ろしながら、私は待ち人が来るのを待ち構える……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━走る。走る。走る。

人目を避けた故か、昼間の間は止んでいた敵の追撃が再開したのは、朝焼けも近くなった黎明の頃だった。

最早遠慮は要らないからだろうか?ボクが日中潜んでいたマンションの近くで火災まで引き起こしてその人形(オートスコアラー)は追って来た。

 

「━━━━ハァ……ハァ……あッ!?」

 

━━━━追い詰める為にか、ボク(エルフナイン)の足下を狙う弾丸から逃げる中、後方から叩きつけられる爆風……!!

 

「うぅ……まだ、まだ……ッ!!」

 

━━━━逆に考えるんです。これだけの騒ぎを起こせば、間違いなくSONGは救援活動にやってくる筈……!!

 

「諦めない……諦められないです……ッ!!」

 

吹き飛ばされたボクの軽い身体を、それでもと起こし、ボクは抱え込んだドヴェルグ=ダインの遺産を放さないようにしながら階段を駆け下りる。

背後で燃え上がる焔から目を逸らすように、必死に……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

『━━━━付近一帯の避難はほぼ完了……だが、火元近くのこのマンションに多数の生体反応を確認している。』

 

━━━━現場へと急行するヘリの中での簡易的なブリーフィング。一刻を争う為のそれを、(立花響)はクリスちゃんと一緒に聞いていた。

 

「まさか人がッ!?」

 

『どうやら防火壁の向こうで崩落が起きた為、閉じ込められる形になってしまったようだ。

 だが、更に気になるのは、被害状況が依然四時の方向(東南東)に拡大している事だ……』

 

防火壁で炎を遮断したけど、その逆方向から逃げる事が出来ない……避難訓練でやった逃げ方が出来ないって事かッ!!

 

赤猫(放火魔)でも暴れていやがるのか?」

 

『響くんは救助活動に。クリスくんは、拡大している被害状況の確認にあたってもらう。』

 

「━━━━了解ですッ!!」

 

━━━━ブリーフィングの終了と同時に、私はヘリのドアを開ける。

眼下に見えるのは、火の手の上がるマンション街の姿……あそこに、助けを待っている人が居る。

 

「━━━━任せたぞッ!!」

 

「━━━━任されたッ!!

 ほっ……!!」

 

此処から別行動となるクリスちゃんの言葉が、背中を押してくれる。

━━━━だから私は、マリアさんから預かったガングニールのギアペンダントを握って、その信頼に応える。

 

そして、ヘリから飛び降りる瞬間、訪れる浮遊感……!!

 

「━━━━Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)……ッ!!」

 

墜ちるままに火元へ向かいながら、私は突き出すッ!!この拳をッ!!胸の歌をッ!!

そして、歌は光となり、光は輝く武装へ変わるッ!!

 

━━━━故に瞬間ッ!!私の姿は、ギアを纏った物へと変わるッ!!

 

「━━━━一点突破の決意の右手……ッ!!」

 

『響ちゃん!!落下ポイントはそのソーラーパネルの中心よッ!!中途半端に壊れたままだと漏電の恐れもあるから、思いっきり破壊しちゃってッ!!』

 

「了解ッ!!」

 

通信の声に応えると同時、マンション屋上に備え付けられたソーラーパネルを右手の拳で打ち砕き、私は現場となるマンションへと突入する……ッ!!

 

「というか、こんなに派手に壊しちゃっていいんですかッ!?」

 

『問題無いわ!!むしろ、此処で派手に壊しておかないと、救助の為の誘導路作成の時に急激に流入した空気がバックファイアを起こす……つまり、逆に危険なのッ!!

 だから響ちゃん、貴方は最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に突き進んでッ!!

 ━━━━反応座標までの誘導、開始しますッ!!』

 

「言ってる事、全然分かりませんッ!!

 でも、分かりましたッ!!

 ━━━━私という音響く中で……ッ!!」

 

回る火の手を拳圧で掻き消し、私は進む、真っ直ぐに……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━あぁ、私は、どこで道を間違えてしまったのだろうか。

大学受験に合格して、この春から入居したマンションが火災に遭った中、()は思う。

 

母さんに逆らわなかった事?

……あの子を地獄に叩き落としておきながら、見捨てた事?

フロンティア事変のあの日、空に輝く光を見た事?

……それとも、■■■■(あ■■と■■■)の掛けて来た呪いのような言葉を、思い出せなくなってしまった事?

 

「うぅ……」

 

「大丈夫……大丈夫だよ……」

 

━━━━分からない。分からない。分からない。

(桜井咲)の人生が正しかったのか、間違っていたのか。

それすらも分からないけれど……この腕の中の少年の小さな命を見捨ててしまえば、私は何かに顔向けできないのだと、()()()()()()()が叫んでいる。

 

「怖いよ……怖いよぉ……!!ママぁ……!!」

 

始まりは偶然。避難する為に階段を目指した時に、防火扉を開けようとする少年の姿を見てしまった事。

……だけど、気づけば身体が動いていた。少年をかばう義理なんて無かったのに。

……なんでだろう。全然分からない。バックファイアを辛くも避けられたけれど、それから回って来た火の手が齎す熱さで、私の頭は回らなくなってしまって。

 

━━━━それでも。

 

「━━━━大丈夫よ。」

 

「え……?」

 

「耳を澄まして御覧なさい?

 しゅうしゅう、ぱちぱちと爆ぜる焔の音の中に……」

 

「━━━━生きる事を諦めないと、そう鳴り響く歌が聴こえて来たんだから。」

 

━━━━()()()()()()が、微笑みと共に零すその言葉に重なるように、歌が、聴こえたんだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━高鳴れッ!!」

 

砕く。

 

「メーターをッ!!ガンとッ!!振り切れ!!」

 

砕く。砕く。砕く砕くッ!!

目指す階層に辿り着くまで、廊下の床を粉砕して突き進むッ!!

 

『響ちゃん!!左手90°の壁を打ち抜いて、迂廻路を作ってッ!!』

 

「スゥーッ……(つ・ら・ぬ)・けッ!!」

 

━━━━槍の如く研ぎ澄ました一撃が壁に突き刺さり、其処に大穴を開ける……ッ!!

その先には、火の手の回っていないもう一本の通路……ッ!!

 

『コレで階段までの迂廻路が出来たわね。

 其処から先に進んでちょうだい。生体反応の近くに辿り着いたらまた迂廻路を開けてもらうわ。』

 

「了解ッ!!限界ッ!!なんてッ!!要らないッ!!知らないッ!!」

 

指示に従う為、歌いながらまだ火の手の薄い通路を走り抜け……

 

『其処よ!!其処も左手90°の壁ッ!!』

 

「絶対……ッ!!繋ぎ放さない……ッ!!」

 

━━━━ようやく、辿り着いたッ!!防火壁の向こう、閉ざされてしまった通路にッ!!

 

「キミは……!?」

 

「避難経路はコッチですッ!!その先に階段がッ!!」

 

「あ、あぁ……でも、隣の家の子がまだ……」

 

「今はとにかく避難を優先してくださいッ!!頭を低くして、煙を吸わないように気を付けてッ!!

 その子は私が見つけ出しますッ!!

 ━━━━せぇいッ!!」

 

纏まって居た人達の、こんな状況だというのにあったかい言葉を背に受け、火の手が回っているもう一つの階段へと私は驀進する……ッ!!

 

『響ちゃん!!生体反応ラストツー!!階段を少し上に上がった所よッ!!』

 

「高鳴れッ!!

 メーターをッ!!ガンとッ!!振り切れッ!!」

 

上の階はもう火の手が回っている……なら……ッ!!

 

「この機械腕(りょうて)でッ!!この鼓動(うた)で護り切ってやるッ!!」

 

━━━━最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に焔と瓦礫を貫いて、最後の二人の基へ私は辿り着く……ッ!!

 

「……ふふっ……ありがとうね、響ちゃん……」

 

「━━━━えっ!?」

 

私は今来たばかりだし、シンフォギアの事だって知る由もない筈なのに、少年をその腕に抱いて……まるで、聖母のように微笑むその女性は確かに、私の名前を呼んだんだ。

 

「━━━━ッ!!」

 

考えるよりも先に、私の驀進に耐えきれなかったのか、階段の上部が落ちてくる……ッ!!

 

「限界……ッ!!なんてッ!!要らないッ!!知らないッ!!」

 

瞬間、選択したのは蹴りの乱打。落ちてくる階段どころか、その先の空まで届く大穴を開ける……ッ!!

 

「━━━━絶対ッ!!繋ぎ放さない……ッ!!」

 

全力全開の跳躍で、私は最後の二人を抱えて夜明けに向かう明け方の空へと飛び出す。

 

━━━━護り切れたんだッ!!私はッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━何を考えるよりも先に、(風鳴翼)は飛び出していた。

 

「シッ……!!」

 

落ち行くマリアの身体を抱え、捻りを加えた跳躍の速度を込めた渾身の一刀……だが、浅いッ!!

この人形、飛び込む瞬間には此方の剣を受け流すように動いていたッ!!

 

「━━━━翼ッ!?」

 

「フッ……!!友の危難を前にして、鞘走らずに居られようかッ!!」

 

故に、油断なく正眼に構えて目の前の人形を見据える。

先刻のマリアとの一合でこ奴が人間の可動域を越えた動きをする事は知れている……だが。

 

「━━━━待ち焦がれていましたわ。」

 

「━━━━貴様は何者だッ!!」

 

━━━━こ奴は、一体?

 

その問いに、人形はまさに大袈裟に構えた大上段の剣と共に応える。

 

「━━━━自動人形(オートスコアラー)。」

 

「オートスコアラー……?」

 

個体名では無いだろう。であれば、自らの所属組織か、或いは自らのナンバリングか?

……だが、寡聞にして聞いた事が無いッ!!

 

「目的は……と尋ねられるでしょうから、先んじて伝えておきましょう。

 私は、貴方の歌を聴きに来ましたの……よッ!!」

 

言い終わる瞬間、人形は踏み込んで来ていた……ッ!!

まるで無拍子ッ!!だが、それだけでこの剣は打ち砕けぬと知るがいい……ッ!!

 

「フッ!!はッ!!」

 

「フフフ……」

 

━━━━だが。此方の攻撃を人形は的確に受け止める……ッ!!

 

「クッ……ならば、コレでッ!!

 ━━━━ハァーッ!!」

 

一刀対一刀では埒が明かぬッ!!

故に、左手に展開したもう一刀と合わせた二刀流で一気に押し切る……ッ!!

 

「大丈夫か、嬢ちゃんッ!!」

 

「えぇ、私は大丈夫……けれど、このままでは……」

 

「あの女、人形だったのかよ……ッ!?まるでレヴェナントだな……ッ!!」

 

背後でマリアと護衛二人が合流したのを聴きながら、私は二刀の斬り上げで人形を先ほどのマリアのように宙へと放る……ッ!!

 

「━━━━(かざ)鳴る刃、輪を結び……火翼を以て、斬り候……ッ!!」

 

印を結び、焔を纏い、火の輪と化した翼の如き対剣(ツインセイバー)

 

「━━━━月よ、煌めけッ!!」

 

だが、赤き焔では力が足りぬ……ッ!!回転速度を上げ、取り込んだ空気で蒼く燃え上がる焔と共に私は、ふわりと降り立った人形へと、その一閃を叩き込む……ッ!!

 

━━━━風輪火斬・月煌━━━━

 

蒼き焔と、一閃の相まった衝撃が人形を吹き飛ばし、機材の山へと叩き付ける。

 

……だが……

 

「翼ッ!!アレは一体……」

 

「まだだッ!!

 ━━━━手合わせして分かった。コイツは、どうしようもなく……」

 

━━━━手応えが、軽い。

振り向けば、人形が砕き散らした機材を纏めて吹き飛ばしながらに立ち上がる姿、一つ。

 

「化け物だッ!!」

 

あれほどの出力を叩き出しながら、あの人形は(まさ)しく人形(ヒトガタ)だ……ッ!!

構成するパーツ自体の重量が人間とは全く異なるのか……ッ!?

 

「━━━━ふふっ……話に訊いてたよりずっとしょぼい歌ねぇ?

 確かにこんなのじゃ、やられてあげるワケには行きませんわ?」

 

……アレ程の一撃を受けながら、無傷……ッ!!

であれば、狙うべきは撃破では無く……ッ!!

 

「クッ……ハァーッ!!」

 

「無駄ですわよ?」

 

切っ先を上に向けた突きを、人形は綺麗に、寸分違わず弾き上げる。

 

━━━━だが、それこそが私の狙いだと知るがいいッ!!

 

「━━━━ッ!?まさか、この狭所を逆手に……ッ!?」

 

瞬間、剣は天ノ逆鱗へと拡大変容し、人形を床ごとその真下へと叩き落とす……ッ!!

 

「やったッ!!」

 

「やったかッ!?」

 

「いいやッ!!この程度では、下に叩き落としただけに過ぎない……ッ!!」

 

下はテムズ川……この高さなら、多少の時間は稼げる筈だが……

 

「ッ……なら、此処は退くわよ、翼ッ!!」

 

そんな風に想う私の腕を、マリアが力強く引っ張る。何故!?どうしてッ!?

 

「え、えぇッ!?」

 

「奴の狙いは、言葉通りならシンフォギアの歌ッ!!なら、このまま馬鹿正直に迎撃しようとして観客を巻き込むのは悪手ッ!!

 有利な郊外へと誘いこむわよッ!!」

 

「ッ!!……なるほど、そういう事ならば……だが、奏がまだ会場に……ッ!!」

 

「よし、んじゃ南の出口に客が予約してるっつータクシーが止まってる筈だ。ソイツを借りて、そっちから市街地を西に抜けていけ!!

 俺等は嬢ちゃんを回収しつつ別ルートで警護しながら支援に向かうッ!!」

 

「……了解ッ!!」

 

━━━━しかし、謎の人形の襲撃とは……一体、何が起こっているのだ……?

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━あーあ、折角皆でお泊りだと思ったのにぃ……」

 

「立花さん達が頑張っているのに、私達だけ遊ぶワケにはいきませんから……」

 

「あまあま先輩とヒナがキネクリ先輩の家の合鍵を持ってたから良かったけど……

 ━━━━でも、どうして持ってたの?合鍵なんかさ。」

 

響達が出動したのを見届けた(小日向未来)達。

天音先輩は、クリスちゃんの帰りを待つ為のお留守番で……私達はお泊りを切り上げて帰る事にしたのだ。

そんな中でふと会話の矛先が私に向けられて……やっぱり、合鍵を持ってるって、不思議な事だよね……?

 

「え……そ、そうだよね?

 どうしてだろう……前に響から預かってたんだったかな~?」

 

━━━━なんとなく、緊急時の安否確認の為だって、本当の事を言うのは縁起が悪いかなって憚られて。

つい誤魔化してしまう、鞄の中のホントの気持ち。

 

「ふぅーん……」

 

「━━━━じゃあじゃあ先輩方ぁ!!

 あたし等はこっちなのデース!!」

 

「……誘ってくれて、ありがとう……」

 

「皆で夜更かし、凄く楽しかったです!!」

 

そんな折、コンビニの近くの十字路で別の道へ向かう調ちゃんと切歌ちゃんとセレナちゃん。

 

「あ、そっか……三人は寮じゃなくて、SONGでマンションを借りてるんだっけ……」

 

「はい!!マリア姉さんが帰って来た時に一緒に暮らせるように、って……」

 

「それは……とってもナイスな考えですわ!!」

 

今はまだ国連の管理下にあるマリアさんだけど……いつか、姉妹と家族の皆で暮らせるといいな。セレナちゃんの笑顔を見て、私も思う。

 

「じゃあ、失礼するデースッ!!」

 

「あっ……切ちゃん!?」

 

「あ、暁さん!?」

 

━━━━そう言って、マンションに向かって走る切歌ちゃんと、そんな彼女に腕を引かれる二人を見送って……残されたのは私達四人だけ。

 

「バイバーイ。」

 

「気を付けてねぇー!!

 ……さて。じゃあ私は、コンビニでおむすびでも買っておこうかな?」

 

「あらあら?」

 

「まぁまぁ……」

 

「てっきり二人の事、心配してるのかと思ってたら……意外と違う系?」

 

「響の趣味の人助けだから平気だよ。

 むしろ……」

 

━━━━むしろ、なんだろう?

背後を過ぎ去る電車の音に混じって、何か大切な事がすり抜けてしまった気がする。

思い出せない想いが、胸の奥からこみあげて来て……続く言葉を紡ぎ出す事が、できなくて……

 

「……ヒナ?泣いてるの……?」

 

「え……?

 ううん……泣いてない……泣いてなんか……ないよ……」

 

━━━━なんで、こんなにも……心の中、寂しいのかな……■■■ちゃん……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━あたし(雪音クリス)を降ろし、飛び立つヘリを見上げる。

此処は横浜港近くの広場。火災現場から見て四時の方角に広がる被害の最先端……

 

『火災マンションの救助活動は、響ちゃんのお陰で順調よ。』

 

「へっ……あいつばっかにいいカッコさせるか……ッ!!」

 

━━━━瞬間、ヘリの爆音を越えて耳に届く、コインを弾く音。

明確な、異常……ッ!!

 

「ッ……!?」

 

着弾の音、二発……ッ!!

後方でヘリが爆発し、墜落するのを、あたしは呆然と見上げ……いいやッ!!

 

━━━━見上げるのは、モノレールの橋脚の上に立つ……影。

 

「この仕業は、お前か……ッ!?」

 

問いを投げるあたしを、動かぬ瞳孔で見据えるその姿は……人間というより、まるで……ッ!!

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

SONG本部。仮設という枕を捨て去り、正式に本部となった潜水艦、その内部。ブリッジを兼ねた司令室に響くのは、悲鳴のような報告の声。

 

「━━━━装者輸送ヘリ、沈黙ッ!!」

 

「どうなっているッ!!」

 

昨日の謎の反応への対処の為に詰めていた(風鳴弦十郎)は、混迷する状況に対応する為、更なる情報を求める。

 

「何者かの襲撃を受けている模様ッ!!」

 

「ロンドンからも、翼さんが交戦しているとの知らせですッ!!」

 

━━━━同時多発……ッ!!

此方の混乱を誘っているのか……ッ!?だがしかし……

 

「━━━━緒川ッ!!」

 

驚愕を押さえ込み、開く通信の先は、ロンドンで翼と共に行動している緒川の端末。

 

『はい。』

 

「このままでは情報が不足して、相手の狙いが絞り込めない。

 情報収集と現地でのバックアップを頼む!!」

 

『了解しました。ロンドン警視庁(ヤード)英国機密諜報部(MI5)に協力を仰ぎつつ、状況把握に務めます。』

 

「頼んだぞッ!!」

 

━━━━ロンドンと日本。9600㎞もの遠く離れた二点で同時に起きた襲撃……果たして、其処に蠢く陰謀の根はどこまで蔓延っているのか……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━ライブは中止だッ!!」

 

「客席へのアナウンスッ!!テロの可能性がある事を最優先で伝えて混乱を最小限に抑えろッ!!」

 

━━━━司令からの通信を切り、眼鏡を外す。

此処からは風鳴翼のマネージャーである緒川慎次では無く……SONG諜報班所属のエージェント、緒川慎次の出番なのだから……

 

「━━━━面倒事が起きているようだな。緒川慎次。」

 

「━━━━ッ!?

 貴方は……オロチッ!?どうして此処に!?」

 

そう決意し、駆けだそうとした僕の前にふらりと現れたのは、スーツを肩に掛け、刺青も目立つ一見すれば無頼漢の如き男。

その名は、オロチ。緒川忍軍で修行していた時、僕と並んで最も優秀と謳われた忍者の彼が何故……!?

 

「気にするな。ただの休暇だ。

 ━━━━それより急ぐがいい。避難誘導などは俺の方で段取りを付けておく。会場の()もな。

 ……行くべき所があるのだろう?」

 

「それは……はいッ!!

 ━━━━ありがとうございますッ!!」

 

ただの休暇という答えには納得がいかなかった(そもそも忍者にとって休暇という概念自体が縁遠い)が、それを問い詰める時間も惜しいのは事実だ。

緒川忍軍のバックアップを一時的に受けられたような物と考えて先を急ぐべきだろう……

 

「━━━━会場の目も引き付けてくれるというのなら……ッ!!」

 

━━━━僕が逸らすべきは裏の警護だけに絞られる……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「……行ったか。やれやれ、世話の焼ける……」

 

━━━━緒川慎次。緒川忍軍宗家の次男であり、風鳴家に仕える為に里を抜けた男。

……そして、風鳴に仕える者の中でも、()()に最も近い男……

 

「……フン。

 ともあれ、まずは避難誘導への協力を━━━━ッ!?」

 

━━━━動き出そうとした瞬間、総身を貫く悪寒が俺を襲う。

なんだ……一体、何がこの会場に潜んでいる……ッ!?

 

……だが、その悪寒も一瞬で消え去る。

 

「……警戒は怠らず、避難誘導への参加、だな……」

 

どこに潜んでいるのかは分からない。だが、俺が標的で無い事は今の一瞬で分かった。

であれば、俺は俺のやるべき事を果たすのみだ……

 

「━━━━失礼。責任者の方はどちらに?私は日本政府のエージェント・矢又と申します。今起きているテロについて事態収拾にご協力する為に馳せ参じた次第で……」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━付近に居た忍者達がそれぞれの仕事に戻るのを感じ取り、()は偽装の為に目を落としていた書類から顔を上げる。

 

『━━━━驚いたわね。まさかロンドンで緒川忍軍(ニンジャソルジャーズ・オガワ)と二回も鉢合わせしてしまうだなんて。』

 

「……問題はない。事前情報にもあった通り、彼等は標的(ターゲット)に雇われているワケでは無いのだから。」

 

骨伝導通信を通して私に語り掛ける女の声に答えつつ、私はゆっくりとVIP席へと歩いてゆく。

 

()()()とは状況が違うのだものね……いいわ、4()7()。そのままターゲットに接近してしまいましょう。

 ━━━━ターゲットはブラッドリー・オールドリッチ。表向きは難民保護NGOの支援者である資産家であり……その裏の顔は、難民孤児を売り捌く人身売買ブローカー……

 主に南米を拠点としていて、近年ではシンフォギア装者の雪音クリスの売買にも関わっていたと目されているわ。

 ……今回、ライブ・ジェネシスのVIPとして招待を受けたのは表の顔が原因だけれど、その裏では雪音クリスを再び手に入れる為に風鳴翼との人脈を築く事を目的としているようね。

 標的(ターゲット)として申し分のない相手よ。存分にやってちょうだい。』

 

「━━━━了解した。」

 

━━━━VIPルームの護衛もこのテロへの対処の為に浮足立っている。避難誘導を装って一人ずつ倒せば標的を丸裸にする事が出来るだろう……

 

「……失礼。ブラッドリー様はまだ此方にいらっしゃいますか?」

 

「ん……?あぁ、中に留まってるぜ。爆発があったんじゃライブは中止だろうが……もしかして、避難誘導の人か?」

 

「えぇ。VIPの避難誘導を先に行う事に決まりましたので。」

 

「助かるぜ……いつ避難出来るのかとダンナがイライラしてっからよ。」

 

護衛は二人、外が一人で、中にも一人。最小限の人数。

━━━━ワイヤーを構え、周囲の状況を確認する。本物の避難誘導が来るのは二分後。それまでに始末を付け、離脱せねばならない。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━先ほどヘリを落とした時と同じ、甲高い音と共に軌条(レール)の上に立つ影が放った弾……コインがあたし(雪音クリス)の足下に突き刺さる。

そして、影の手元から手品のように現れる、新たなコイン。

 

「━━━━此方の準備は出来ている。」

 

なるほど。投げ銭って奴か……だが。

 

「━━━━抜いたなぁ?

 だったら貸し借り無しでやらせてもらう……後で吠え面かくんじゃねぇぞッ!!」

 

━━━━宣言と同時に、あたしが首元から引き抜くのはギアペンダント……ッ!!

 

「━━━━Killter ichiival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)

 

聖詠(トリガー)と共に、あたしは掲げるッ!!この手をッ!!胸の歌をッ!!

そして、歌は光となり、光は輝く武装へ変わるッ!!

 

「━━━━鉛玉の大安売り(バーゲン)ッ!!」

 

速攻をかます為、引き出すアームドギアの形は弩弓(クロスボウ)。クルリとキッチリ一回転で手の中に納まったソイツをアイサツ代わりにぶち込んでいく……ッ!!

 

「馬鹿につける……(ナンチャラ)はねぇッ!!」

 

左右それぞれのクロスボウ、トリガー一回が五発ずつ、合計十発体制だってのに、影はその総てをキッチリ避けて来やがる……ッ!!

軌条(レール)を使ったブレイクダンスまで混じったこの動き、人間離れどころじゃねぇ……ッ!!

 

「ドンパチ感謝祭さぁ躍れッ!!ロデオの時間さBaby……ッ!!」

 

━━━━人外そのものッ!!

 

挙句の果てにゃあ、放った矢を空中で掴み取り、そのまま砕くなんてパフォーマンスまで交えて披露してきやがるッ!!

まだまだ物足りないと言わんばかりのその動き、コッチとしても大層おありがてぇ……ッ!!

相手が人を越えた、ヒトでないモノだってんなら……

 

「━━━━つまり、やりやすいッ!!」

 

━━━━加減も容赦もゼロの、全開フルスロットルで構わねぇって事だよなァ!!

 

進化した歌で解除されたシンフォギアのカタチッ!!五、四、三本をピラミッド配置した十二本の矢の同時撃ちを叩き込んでやらァなッ!!

 

「世の中へとッ!!文句を垂れたけりゃ……(マト)から卒業しな……ッ!!

 神様、仏様……あ・た・し・様が許せねぇってんだ……ッ!!」

 

『……司令。』

 

『どうした!!』

 

『この一連の騒乱……昨夜確認された謎の反応と関係があるのでは……?』

 

『……未確認の反応波形と、新たな敵……』

 

通信の向こうから漏れ聞こえる言葉を聞き流しながら、あたしは十二本から成る乱射を影へと叩き込む……ッ!!

 

━━━━瞬間、またも手品のように奴の手の内に現れるコインの数々。

それも十や二十と数えられねぇ程の大量のッ!!

 

ソイツ(コイン)を弾いてあたし様の乱射ちに対抗しようってか!?片腹痛いぜこんちきしょうッ!!

 

金属音と乱射音、そして相討つ相殺の衝撃音。

三様の音が乱舞する戦場に、あたしの歌が響いていた……




━━━━三様の音、まさしくその通り。
人形二者だけでは恐怖劇(グラン・ギニョール)は終わらず。
太陽の少女が遇い出逢うのは、琥珀の記憶のその持ち主。

何故?どうして?
そう問う少女に返される咆哮は鋭く、そして烈しく。
知らずの内に喪ってしまった少女の胸へと滑り込む。
戦ってでも、いいや、戦わねば手に入らぬモノをこそ……彼方からの迷い子(オレ)は求めるのだと。

使用楽曲コード:18604617,18782302,71296140,71311769

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