戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第八十九話 焔景のノスタルジア

「下がってください!!火元に近づくと危険です!!」

 

「なんだか変な人影を見たって話よ……」

 

「怖いわねぇ……」

 

「ウチの子がまだ見つからないんです……まだ救助されてないんじゃ……」

 

意識が朦朧としている女の人を背中に背負って、気を喪った少年を抱えて歩く(立花響)の足取りは重い。

けど、同時に誇らしい。この重さは、命の宿った重さだから……

 

「この二人もお願いしますッ!!」

 

「あぁっ……!!コウちゃん!!」

 

「背中の女性は此方で預かります!!」

 

「ありがとうございますッ!!

 二人共、煙を沢山吸い込んでます。早く病院へッ!!」

 

「コウちゃん……!!コウちゃん……!!ママは此処よ……!!」

 

「ご協力、感謝します!!」

 

━━━━救急隊員の人に二人を預けた私は、思わず笑顔になっていて。

私が握るこの拳で、誰かを助けられるその事実が、何よりも嬉しい。

 

「ふぅ……」

 

だけど、燃え盛る焔は未だ消えたワケでは無くて。

見上げる私の前ではまだまだ消火活動が続いている……

 

「━━━━あれ?」

 

視線の先、火が回っていないマンション同士を繋ぐ空中回廊。

そこに、一人の()()が立っていた。

欄干に寄りかかるようにして、背を向けて。

 

「━━━━あの!!消火活動もまだ続いてますから、其処に居ると危ないですよー!!」

 

火の手は落ち着いているけれど、それだけでは安心できない。

だから、声を掛けたのだけれども……

 

「……あぁ、貴様か。

 ━━━━立花響。」

 

「━━━━えっ……?」

 

━━━━返される言葉は、本日二回目のような気がする不思議な事。

さっき助けたあの人もそう。どうして、初めて会った人が私の名前を知っているの?

 

「私の名前……貴方も……?

 なんで……?」

 

「貴方も?……まぁ良い。

 何故を問うなら教えてやろう……

 ━━━━オレが、お前の敵だからだ。」

 

「━━━━ッ!?」

 

その紡ぐ言葉に、その見下ろす眼に、宿るのは冷たい意思。

敵だと告げるその人の言葉に、嘘は無い。

 

『━━━━敵だッ!!敵の襲撃だッ!!

 そっちはどうなってるッ!?』

 

「敵……!?」

 

それを示すように、火元を追いに行ったクリスちゃんが通信から告げる、敵襲の報。

 

「あぁ、そうだ。

 ━━━━キャロル・マールス・ディーンハイムの錬金術は、世界を壊し、万象黙示録を完成させる……」

 

━━━━しなやかで、綺麗な彼女の指が空中にナニカを描いていく。

それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()現れる……

その形は、六角形で構成された円。でも、それを除けば、まるで……

 

「魔法陣……?」

 

そう。フィクションに出てくる魔法陣みたいなんだ、アレは。

それに、彼女が口ずさんだ名前は……ッ!!

 

「━━━━死にたくなければシンフォギアを纏うがいい。

 この一撃、生身で受けられる程甘くはないぞ?」

 

「待って……ッ!!世界を壊すって……ッ!?」

 

何が起こっているのかは分からない。

けど、受け入れられない言葉が確かにあったんだッ!!

 

「オレが、()()()()()と言っている……ッ!!」

 

━━━━けれど、私の問いへの答えは、烈しく燃え上がる言葉と、総てを吹き飛ばすような烈風で。

 

「うわぁッ!?」

 

咄嗟に跳び退いて衝撃を受け止められたのは、ギアを纏う為に普段から鍛えていたからだ。

 

━━━━それでも、全身が痛む。

 

めくれ上がったアスファルトが肌を裂き、巻き上げる風が私を吹き飛ばしたのだと分かったのは、倒れ込んだ土の感触から。

 

「くっ……うぅ……ッ!!」

 

痛みを感じながらも、顔を上げて、彼女を見据える。

 

「……何故シンフォギアを纏わない?敵が目の前に居ると言うのに?」

 

「くぅ……訊かなきゃ、いけない事があるから……

 ━━━━貴方の名前、セレナちゃんから聴きましたッ!!

 助けてくれたって……マリアさんとまた逢えるチャンスを作ってくれたって!!

 なのに、どうして世界を壊すなんて……ッ!!」

 

助からない筈だった命を助けてくれたって、救ってくれた人だって聞いていたから。

私は、友達の恩人に拳を向けたくなんかなくて、だから……

 

「……ん……」

 

━━━━返答の代わりに、彼女は飛び降り……けど、ふわりと、風に乗るようにゆったりと砕けた大きな瓦礫の上へと降り立つ。

その足元にもまた、魔法陣……?

 

「……事情が変わった。

 ……いや、オレの本来の在り方に戻った……それだけだ。」

 

その言葉は、拒絶の言葉。《戦え》と言外に叫ぶ、宣戦の意思で……でも……!!

 

「私は……戦いたくないッ!!」

 

━━━━世界を救う手助けをしてくれた人に向ける拳なんて、私には無いよ……ッ!!

 

「……そうか、だがな。

 お前に戦う理由がなくとも、オレには()()()()()()()()()がある。

 ━━━━故に、オレの術理は区別なく、お前の命をも噛み砕くぞ?」

 

目を伏せた私に、彼女のその言葉は重く、重く()し掛かって……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━傷ごとエグって涙を誤魔化してッ!!

 生きた背中でも━━━━」

 

「装者屈指の戦闘力とフォニックゲイン……それでも、レイアに通じない……!!」

 

ボク(エルフナイン)を追っていたレイアが急行して来た装者(雪音クリスさん)と激突するのを、ボクはビルの陰から伺い見やる。

その趨勢は、一見すれば互角の撃ち合い。けれど……その実態は間違いなくレイアの優勢……!!

それは即ち戦闘特化でないオートスコアラーですら、シンフォギアを上回れるという証明なのだ……!!

 

「━━━━やはり、ドヴェルグ=ダインの遺産を届けないと!!」

 

握りしめるのは、腕の中の匣。キャロルの下から持ち出せた、逆転の秘策……!!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━相殺、相殺、相殺相殺相殺ッ!!

 

あたし(雪音クリス)の弾丸を、目の前の人外はよくもまぁ弾いてくれるッ!!

飛び込んでの至近距離ですらお互いに弾き合うだけで致命打には程遠く。

 

だが、その交錯で距離は離れ、お互いの立ち位置は入れ替わった。

━━━━前後の避けはもう許さねぇ……ッ!!

 

「なれねぇ敬語でも土砂降ッる弾丸でもッ!!」

 

左手に握るクロスボウを変形させ、この手に握るのは三連回転砲身を上下に揃えたガトリングッ!!

 

「━━━━ブチ込んでやるからッ!!」

 

ビルの壁面へと器用に着地した人外へ向かい、回転砲身から文字通りの土砂降りを叩き込む……ッ!!

 

「繋いだ手だけが()()()……ッ!!」

 

だが、奴はこの掃射すら避けて近づいて来やがる……ッ!!

ならばと左右に弾をバラ撒けば、狙い通りに奴は跳び上がる。

会心の笑みを浮かべ、あたしは叫ぶッ!!

 

「笑顔達を護る強ォさ教えろ……ッ!!」

 

━━━━MEGA DETH PARTY━━━━

 

スカートアーマーから引きずり出した大量のミサイル。あたしの十八番(オハコ)を自在には動けぬ空中で叩き込む……ッ!!

 

「はッ!?」

 

━━━━爆発、炎上。

紛れも無い直撃の証。だが……

 

「━━━━ヘタな芝居まで打ってんなッ!!勿体ぶらねぇでさっさと出て来やがれッ!!」

 

この程度で終わったワケが無い事くらい、さっきの攻防で分かってらぁッ!!

 

「フッ……」

 

言葉に答えるように、煙の中から現れるのは……

 

「盾……ッ!?」

 

「━━━━いいや、硬貨(コイン)だ。

 地味に配置を工夫した、なッ!!」

 

コインで頂点を描いた光輝く図形を、盾のように構え。

そうしてあたしの一撃を凌いだ人外は、光を喪い落ちるコインに目もくれず、返す刀でまたもコインを弾いてあたしへと迫る……ッ!!

 

『何があったの、クリスちゃん!?』

 

「ッ……敵だッ!!敵の襲撃だッ!!

 ━━━━そっちはどうなってるッ!?」

 

放たれるコインを捻りを加えた跳び上がりで避けながら、あたしはクロスボウの矢弾を返してや……

 

「━━━━危ない!!」

 

━━━━瞬間、どこかから響く声。

 

「━━━━ッ!?危ないって……はぁ!?」

 

その声に意識を引っ張られ、周囲に感覚を向けれたなら。

お互いの発射音に紛れるように、あたしの真上から聴こえる風切り音。

訝しんで見上げるあたしは、そのあまりの異様に思わず声を挙げてしまう。

 

━━━━空を舞う、無数の船……ッ!?

 

「おいおい待て待て……なんの冗談だァァァァッ!?」

 

思考停止も一瞬、落ちてくる多数の船から逃れる為に思いっきり飛び込み……

 

「ぐあッ!?」

 

背後から叩き付ける……爆風ッ!!吹っ飛んだのかッ!!船がッ!!

吹っ飛ばされる勢いを逆に利用して一段下がった茂みまで一気に移動し、その陰へと隠れる。

 

「クッ……ハチャメチャしやがる……!!」

 

「大丈夫ですか?」

 

「あぁ……?ってェ!?」

 

━━━━この緊急時に、声を掛けてくる奴だとッ!?

気付かず応じてしまったが、一瞬後に気が付いたあまりの違和感に顔を向けたあたしの目に飛び込んで来るのは、エグイ程に露出した下半身と……裸フードッ!?

ほぼ真ッ裸(マッパ)と言うべきそんな恰好の、年端も行かぬ少女の姿。

 

「おまっ……その恰好……!?」

 

「あなたは……」

 

「えぇっ!?あぅ……あ、あたしは快傑☆うたずきん!!

 国連とも、日本政府とも関係無く、日夜無償で世直しの……」

 

あまりのハレンチルックに呆気に取られてしまったが、あたしがシンフォギア装者である事を知られるのは問題がある。

そう思ってついつい口に出るのは、カバーストーリーも兼ねて作られたとかいう()()の事。

 

「━━━━イチイバルのシンフォギア装者。雪音クリスさんですよね?」

 

そんなあたしの誤魔化しを気にもしないで、ソイツは問いを重ねてくる。

そして、ソイツの声にあたしは聞き覚えがあった。

 

「━━━━んッ……待て、その声、さっきあたしを助けた……」

 

「……ボクの名前はエルフナイン。世界は狙われています。

 ボクはそれを……キャロルの錬金術から世界を護る為、皆さん(SONG)を探していました。」

 

「なッ……!?錬金術、だと……?」

 

━━━━あたし達の背後、投げ捨てられた船達が燃え盛る焔の音の中。確かにソイツは、そう言ったんだ……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

深夜の街、アタシ(暁切歌)達三人は並んで横断歩道を待っていた。

 

「……考えてみれば、当たり前の事……」

 

「……あぁ見えて、底抜けにお人よし揃いデスからね……」

 

そんな中でふと思い出すのは、調とアタシで同じ事。

LiNKER無しでの出動を禁じられ、留守番を命じられてしまったその顛末について。

 

「……フロンティア事変の後、拘束されたアタシ達の身柄を引き取ってくれたのは……敵として戦って来た筈の人達デス……」

 

━━━━あの日の事、よく覚えている。

……そのはずなのに。ドーナツの差し入れを持ってきてくれた()()の事、思い出すと胸がキュッとなって……

 

「そんな人達だから、保護観察も兼ねてかもしれないけど……学校にも通わせてくれて……」

 

「……そうですね……私の事も、迷わず引き取ってくれましたし……」

 

━━━━そんな、暖かな日々。

マムも居る。セレナも居る。マリアも……世界で頑張っている。

たった半年前までは想像も出来なかったようなあったかい物に囲まれた日々は……あんまりにも心地よくて。

 

「FISの研究施設に居た頃には想像も出来ないくらい、毎日笑って過ごせているデスよ。」

 

見上げた視線の先、青信号が灯る。

 

「あ、青信号になりましたね……月読さん?暁さん?」

 

……でも、アタシ達の脚は、どうにも動かせなくて。

 

「……何とか、力になれないのかな……」

 

「……何とか、力になりたいデスよ……」

 

調とアタシから零れる言葉は、同じ事を言っていて。

 

「力は……間違いなく、此処にあるんデスけどね……」

 

「……でも、それだけじゃ何も変えられなかったのが、昨日までの私達だよ。切ちゃん……」

 

「月読さん……暁さん……」

 

隣に立つセレナも、胸に提げたギアペンダントにそっと触れる。

危険性があるからと、出撃を却下されたアタシ達……

 

『━━━━都内で発生した高層マンション、及び周辺の住宅街で起きた火災事故に関する続報です。

 火災の原因は未だ調査中ですが、住民の避難は着々と進んでいる様子が窺えます。

 しかし、混乱が続く現場では、不審な人影の目撃が相次ぎ、テロの可能性も指摘されています。』

 

そんな折に、街頭ビジョンに大写しのニュース速報が流すのは、響さん達が向かった救助活動の現場の映像……

 

『━━━━あぁッ!?』

 

━━━━瞬間、中継映像の中に火の華が咲く。

 

「今の……ッ!!」

 

「空中で、爆発したデス……ッ!!」

 

「暗くてよく見えなかったですけれど……もしかして、SONGのヘリなんでしょうか……!?」

 

「……何か、別の事件が起きてるのかも……」

 

「なら、こうしては居られないデスね……ッ!!」

 

「はいッ!!」

 

さっきまで動かなかった脚は、《やらなければ》の想いに応えてくれる。

朝が近づく街並みの中を、アタシ達は駆け抜けていく……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━通信の向こう、クリスくんを助けた少女の言葉を基に、バックアップメンバーが情報整理に務めていた。

 

「━━━━錬金術……科学と魔術が分化する以前の、オーバーテクノロジーだった、あの錬金術の事でしょうか……?」

 

「だとしたら……シンフォギアとは別系統の異端技術が挑んで来ているという事……」

 

「科学の発展と独立によって、個人の形質と合致させる魔術的要素の難解さ故に歴史の表舞台から消えたとされているけれども……

 各種データを見る限り、彼女が言う錬金術とは、現代で入手できる情報における錬金術とは一部異なる定義で構成された異端技術のようね。」

 

「むぅ……新たな敵、錬金術師……」

 

研究室から駆けつけた鳴弥くんの簡潔な説明から、錬金術という技術体系の大枠は掴めた。

━━━━だが、だというのなら疑問が残る。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

響くんの前に現れた彼女の姿をモニター越しに見つめながらも、俺達は次の一手を決めあぐねていた……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━見下ろしてくる彼女の言葉は重くて。

それでも、(立花響)

 

「戦わなきゃいけない理由……?」

 

「そうだ……お前にだって有るだろう?

 だからその歌で月の破壊を食い止めて見せた……その歌で、シンフォギアで。」

 

私の問いに答える彼女の言葉に、思わず息が止まってしまう。

 

「それは……違う!!

 そうするしか無かっただけで……そうしたかったワケじゃない……

 私は……!!戦いたかったんじゃないッ!!

 シンフォギアで……護りたかったんだッ!!」

 

━━━━何を?

 

心の奥底、どこかから聴こえる声に耳を塞いで、私は彼女の言葉に叫び返す。絞り出すように……

 

「……それでも、戦ってもらう。

 ━━━━戦わねば、オレの望むモノは手に入らないのだから……ッ!!」

 

「人助けの力で……戦うなんてイヤだよ……」

 

「……そうか。人助けの力を戦いの為にと振るうのは死んでもイヤか……

 ならばそうして……」

 

「死 ぬ が 良 い ッ !!」

 

片手を掲げ、黄金の光で輝く図形を描きながら、彼女は叫ぶ。私に向かって……ッ!!

 

『高質量のエネルギー反応ッ!!

 敵を前にして……どうして戦わないんだッ!!』

 

『無理よッ!!響ちゃんの歌に込められた心象を鑑みれば、この状況でギアを纏ってもギアが応えてくれるかどうか……ッ!!』

 

『救援を回せッ!!

 ……いや、相手がノイズで無いなら俺が出張るッ!!

 ━━━━本部を現場に向かわせろッ!!』

 

『いけませんッ!!司令が居ないと、指揮系統が麻痺しますッ!!』

 

『ぬぅ……ッ!?』

 

通信の向こう、聴こえてくる本部の皆の声。

……纏わなきゃ、って思う心はある。

でも……

 

「戦え、無いよ……

 ━━━━助けてくれたって……笑ってたんですッ!!セレナちゃんッ!!

 だから、戦うよりも聞きたいんですッ!!そんな貴方が世界を壊そうとする、そのワケをッ!!」

 

私の想い。握る拳は、誰かを傷つける為じゃなくて……

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

「━━━━え……?」

 

━━━━意味はよく分からなかった。でも、その言葉は何故か、今までのどんな言葉よりも、私の中のナニカをざわつかせて……

 

「いいだろう。そのクソ度胸に免じて、一発は加減して放ってやる。

 ━━━━オレの錬金術。その真髄たる第五元素(エーテル)の輝き、その曇った眼に焼き付けるがいい……ッ!!」

 

その叫びと共に、彼女が、指を、鳴らして……ッ!!

 

━━━━瞬間。光と共に解き放たれた衝撃が、私の身体を木の葉のように巻き上げた。

 

「━━━━うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「空間に、歪みが発生していますッ!!」

 

「波形パターン……照合不可ッ!!未確認のエネルギーですッ!!」

 

「そんな……ッ!?アウフヴァッヘン波形も、フォニックゲインも無しに物理法則を捻じ曲げるだなんて……ッ!?」

 

━━━━有り得ざる事象を前に、(天津鳴弥)の脳裏を占めるのは驚愕の二文字。

錬金術。表向きには、現象に理論を見出す科学と道を別ちカルト化した事で、旧時代の遺物となって消えた筈の異端技術。

 

「響ちゃん、大丈夫ッ!?

 響ちゃん!!響ちゃんッ!!」

 

だが、私達の前に顕現した真なる錬金術は、そんな常識を嘲笑うかのような破壊の爪痕を刻みつける。

 

「ロンドンの襲撃者と彼女が同じ陣営だとすれば……ッ!!」

 

━━━━彼女は、響ちゃんにシンフォギアを纏えと言った。であるならば、もしや……!?

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━瓦礫の上からオレ(キャロル・マールス・ディーンハイム)が睥睨するのは、クレーターの奥底に転がる、一人の女。

 

「あ……あぁ……ぐッ……うぅ……

 ……忘れてるって……なんの……?」

 

「…………気づいてすら居ない……いや、眼を逸らしているだけか。

 然も在りなん、か……」

 

「えっ……眼を……逸らして……?」

 

━━━━()()()()()()()()()()()()()()の記憶は、奴自身の手で忘却の淵へと墜ち込んだ。

だが、人が生きた証がそっくりそのまま消えて、それで何も無くはい御終いなどと終わる筈もない。

奴の記憶にロックが掛けられた事自体は、奴を知る誰もが気づける違和となって脳内を蠢いている筈だ。

 

だというのに、目の前のコイツは総てを忘れたままに今までの自分を保とうとしている……

 

「━━━━めんどくさい奴ですねェ……」

 

そんなオレ達を、更なる上から見下ろす人形(ヒトガタ)が、一つ。

その纏う色は、蒼。

 

「見て居たのか。

 性根の腐ったガリィらしい……」

 

オレの言葉に不満があるのか、見下ろす頭上から飛び降りたガリィは、口を尖らせて不満を表している……()()()()()()()()()

オートスコアラーの基礎部分には確かにオレの人格データの一部を使っている。

だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

━━━━魂の定義たる21グラムすら、このヒトガタの中には存在していないのだから。

 

「やーめてくださいよォ。そーゆー風にしたのはァ、マァスタァじゃないですかァ?」

 

「……そうだったな。

 ━━━━想い出の採集は順調か?」

 

だが、コイツの言う事は常に一定以上の理がある。それを演算によって測定出来ているからこそ、この蒼の聖杯はオレの側役として十二分な仕事をするのだ。

 

「順調ですよォ?

 ━━━━でェもミカちゃんゥが大喰らいなので足りてませェん!!」

 

器用にも泣き真似まで使うガリィの姿に、そういう物だと分かってはいても苛立ちは募る。

 

「フン……予測出来ていた事態をよくもまぁぬけぬけと言えるな。

 ━━━━万象黙示録の次の段階は近い……急げよ。」

 

「りょーかーい。ガリィ頑張りマース!!

 そいッ。」

 

そう言って、ガリィはテレポートジェムを足下へと放り投げる。

 

「サヨナラァ~。」

 

バレリーナを模した動きに球体関節を軋ませながら、誰とも知れぬ観客へと手を振りながらに、転移の光の中に消えてゆく。

 

「……次は戦え。そして、思い出せ。お前にとって大事だったモノの存在を。

 ━━━━決して、眼を逸らすな。

 お前が、真に()()()()()()()()()()などと思うのならばな。」

 

━━━━何も知ろうとせぬままの貴様の歌など、ブチ砕いても何の意味も無いのだから……

テレポートジェムを放りながら掛けた言葉は、果たして目の前の女に届いたのか、否か。

光の中に解けるオレにとっては、そんな事はどちらでも良かったのだ……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━力が、抜ける。

 

「私……眼を逸らして、なんて……」

 

意識が保って居られない。

(立花響)が私で居られない。

 

「無い……筈なのに……」

 

━━━━涙が、溢れて止まらない。

崩れ落ちる身体を支えられない。

 

「━━━━どうして、涙が、止まらないんだろう……」

 

『━━━━響。』

 

━━━━声。

聴こえた気がする。

……誰の?

 

━━━━決まっている。お■ちゃんの声だ。

いつだって、私が困ったら助けてくれて……涙に歪む視界の中でも、微笑むお■ちゃんの顔だけは……綺麗に……

 

「……アレ?おかしいな……」

 

━━━━だというのに。思い出そうとしているのに。

何故か、お■ちゃんの顔、思い出せなくて……

 

「そんな筈……無い、のに……」

 

━━━━その理由に考えが到るよりも先に、私の身体は倒れ込んでいて。

真っ暗な夜の闇の中へと、私は落ちていって……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━走る。走る。走る。

入り口の封鎖はじきに行われてしまうだろう。だが、そうなればあの襲撃者をこの衆人環視の中で迎え撃たねばならない。

そうなれば、足手まといの(マリア・カデンツァヴナ・イヴ)はともかく、翼が満足に動けない事は想像に難くない。

 

「━━━━エージェント・マリアッ!?」

 

そんな折、南側の入り口付近で通信を交わす黒服達が私達を止める為に声を掛けてくる。

 

「貴方の行動は保護プログラムにて制限されている筈ッ!?」

 

「今は有事。プログラムへの横紙破りへの制裁その他は後々にしてもらおう。

 ━━━━車輌を借り受ける。」

 

「えぇっ!?」

 

情報通り、南側入り口に止まっていた予約のタクシーを借り受ける為、運転手へと声を掛ける。

 

「そんな勝手は許されないッ!!

 動けば撃たせていただきますよッ!?」

 

「ひぃッ!?」

 

……だが、黒服達には私の意見は通らなかったらしい。

上の言う事に唯々諾々と従うのは、公人としては正しいのだろうが……

 

「くッ……」

 

━━━━そんな状況に風穴を開けたのは、黒服達の背後から響く三発の銃声……

 

「なッ……!?なんだ……ッ!?」

 

「身体が、動かん……ッ!?」

 

━━━━影縫い━━━━

 

曲射の弾道を描き、寸分違わずに黒服達の脚元の影へと突き刺さった弾丸が、黒服達を縫い留めた……ッ!?

 

「緒川さんッ!!」

 

返答は、言葉では無く首肯のみ。だが、それだけで此方に任せてもらった事は理解出来た。

 

「━━━━悪いが、翼は好きにさせてもらうッ!!」

 

シートベルトを締めた事を確認し、タクシーを即座に急発進させる。

目指す先はロンドン中心部にありながら多くの自然を誇る地、ハイドパーク……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━大至急、響ちゃんの回収をッ!!三番ヘリ、急いでッ!!」

 

━━━━なんだ?この拭えない違和感は……ッ!!

じわり、と脂汗が浮くのが自分でも分かる。

キャロル・マールス・ディーンハイムがあの場で退く理由が見当たらない事が原因だとは分かっている。

だが、あの攻撃が錬金術という名の異端技術由来だとして、その反動を考慮しての撤退という可能性も現段階では否定できない……

 

相手の狙いは……一体なんだ……ッ!?

 

『━━━━なんだってッ!?

 あのバカがやられたッ!?襲撃者にッ!?』

 

「翼さん達も撤退しつつ、態勢を立て直しているみたいなんだけど……」

 

『クッ……錬金術ってのは、シンフォギアよりも強ェのか……ッ!?

 ━━━━コッチにも252(要救助者)が居るんだ。ランデブー(合流地点)の指定を……ッ!?』

 

「ッ!?クリスちゃんッ!?クリスちゃんッ!?」

 

相手の狙いが掴めぬまま、後手に回る俺達SONGを嘲笑うかのように、襲撃者達は新たな一手を打ってくる。

 

「まさか、敵の狙いは同時攻撃では無く……波状攻撃だというのッ!?」

 

「波状攻撃……だとォッ!?」

 

鳴弥くんの叫びは、蓋しその通りであろう。

此方を分断する為の第一波、そして、此方の支援の手を止める為の第二波……で、あれば……ッ!!

 

「━━━━至急、クリスくんに連絡をッ!!敵の狙いはシンフォギア、或いは装者そのものと推測されるッ!!

 ランデブーを待つ猶予はないッ!!即座の撤退を命じるッ!!」

 

「は、はいッ!!」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「いったい、何が……」

 

━━━━間一髪で翼さん達の救援は間に合った。

だが、この状況に何が起きているのかはまだ分からないままだ。

 

「━━━━翼さん!!

 いったい何が起きているんですか!?」

 

だから、少なくとも(緒川慎次)よりは情報を持っている筈の翼さんの端末へと連絡を取る。

 

『すみません……敵の狙いは、どうやらシンフォギアとその装者である私のようなのです。

 ですから、マリアの考えで人の居ない所へと抜けて改めて迎え撃つ作戦で……会場との方、お任せします。

 私とマリアを先んじて狙った事から見て、奏を優先する可能性は低い筈ですが、其方には出向して来ているジョージさんとマーティンさんが回ってくれています。』

 

「なるほど……分かりました。観客の皆さんは任せてください。

 ……其方もお気を付けて。」

 

会場に集った観客もまた、翼さんの歌に感銘を受けた護るべき人々なのだ。オロチに初動を任せる事になってしまったが、そちらにも対処しなければならないだろう……

 

「━━━━というワケで、申し訳ないんですが……()()()()()()()。ウチのタクシーが今盗まれちゃって。

 予約は申し訳無いんですがキャンセルしてもらってもいいですか?」

 

『━━━━あぁ、構わない。此方も別ルートで帰る事に決めたのでな。

 気を付けて帰りたまえ。爆発事件も起きているようだしな。』

 

「はい……ありがとうございます……」

 

━━━━後方で交わされる電話に少しの引っ掛かりを覚えながらも、僕は自らの戦場へ向かって走り出すのだった……




初めの一つは、キミ達の歌を釣り出す為に。
繋ぐ二つは、キミ達を食い止める為に。
そして今、三つ目の牙がキミ達を襲う。

その姿を目に焼き付け、震え、怖じよ。
コレこそが、人が使役せし悪魔の姿。
世界を壊す━━━━その前に。
この輝きこそ、その身に纏う歌を砕き散らす破滅の光だ。
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