戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第九十話 粒砕のアルカへスト

━━━━収監された(マリア・カデンツァヴナ・イヴ)のもとに国連からの使者がやって来たのは、シャトル事故の直後の事だった。

 

「━━━━私にこれ以上嘘を重ねろとッ!?」

 

タブレットの画面に映る文面を要約すれば、それは司法取引誓約書(リーガルトランザクションアグリーメント)

……つまり、私達の身柄を再度縛る契約が書き込まれた書類だった。

 

「あの一件以前から高まっていたキミの世界的な知名度を活かし、

 事態を出来るだけ穏便に収束させる為の役割を演じてほしいと要請しているのだ。」

 

「役割を……演じる……?」

 

話の全容が見えない私に説明する彼の言葉に対し、鸚鵡返ししか私には出来なかった。

だって、今の私に出来る事なんて……

 

「スターダムを駆け上がった歌姫マリアの正体は、我等国連所属のエージェント。

 聖遺物を悪用する反体制主義者(アナキスト)の野望を喰いとめる為に潜入捜査を行っていた……」

 

「え……?」

 

━━━━それは、あまりにも荒唐無稽な設定。

だって、私が芸能界に現れたのは米国のフロンティア計画の一部だし、実際に聖遺物を悪用していたのは……

 

「事情の多くを知る(よし)も無い大衆には、これくらい分かりやすい英雄譚の方が都合がいい……」

 

「英雄譚……私は再び、偶像を演じなければならないのか……」

 

つまりは、そういう事。

偶像として、都合のいい現実(カバーストーリー)を広める為の象徴になれという……

 

「偶像。

 ━━━━そうだ。アイドルだよ。

 大事件を未然に防いだ正義の味方にしてアイドルのシンフォギア装者……

 そんな存在が世界各地でチャリティーライブを行えば大規模宣伝(プロパガンダ)にもなる……ッ!!」

 

━━━━椅子から立ち上がりながら、強く言い切るその男の言葉には、一定の理があるのだろう……だが……それでも、私には……

 

「米国は一連の真相隠蔽の為、エシュロンからのバックトレースを行い、個人のPCを含む全てのネットワーク上から関連データを破棄させたらしいが……」

 

「ん……えっ?」

 

電子音と共に更新されたタブレット端末の画面に映るのは……調と切歌とマムのデータ、そして……

 

()()()()()()()()()()()()()()()や、キミと行動を共にした未成年の共犯者達にも将来がある……」

 

「━━━━はッ!?」

 

━━━━それを、言われるまで全く気付く事が出来なかったのは何故だ……ッ!?

()()()()()()()()()()()()()()()()……!?

立花響だけでは無い……ッ!!

私が護りたかった人……もう二度と、逢えないと思っていた……あの子も……ッ!!

 

「……例えギアを喪っても、キミはまだ誰かを護る為に戦える、という事だよ……紛れも無い、自分の護りたい誰かを……」

 

━━━━下ろした視線の先、画面に映るのは……偽造された戸籍ではあっても、光の下で笑えるようになった私の妹……セレナ・カデンツァヴナ・イヴの姿だった……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━コレが、(マリア・カデンツァヴナ・イヴ)が背負う事になった保護プログラムの真相。

偶像と祭り上げられ、アリバイ作りに加担する……そんな事が、そんな事だけが私の戦いであるモノか……ッ!!

 

だからこそ、私はこうして翼の戦いを手助けしているのだ……

 

「……ッ!!マリアッ!!前だッ!!」

 

━━━━ッ!?

翼の声に引き戻されてようやくに意識する目の前の景色……ウェストミンスター橋の真ん中、時計塔(ビッグ・ベン)を背後に立つ人影……いや、人形かッ!!

 

「ブレーキングは間に合わない……突っ込むぞッ!!掴まれッ!!」

 

相手が人でないのなら、このままバンパーで吹き飛ばして……

 

「━━━━いや、ダメだッ!!あの太刀筋では……ッ!!」

 

翼の言葉を裏付けるように、人形は剣を横薙ぎに振り切らんと振りかぶる……ッ!!

 

「……ッ!!」

 

━━━━咄嗟の状況判断で座席の背もたれを全力で倒し、私達はその一閃を回避する。

だが、それでも。

寸断されたタクシーが撒き散らす硝子(ガラス)の中、制御を喪った車体は斬撃の衝撃に回転力を加えられて回転を始め……

 

「クッ……」

 

「うぅ……ッ!!」

 

「━━━━Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

 

━━━━そんな絶命の状況に、聴こえる歌声、一つ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━風を切る音と共に飛び込んで来る複数の飛来物から、エルフナインを庇いながら横っ跳んだあたし(雪音クリス)の目の前に齎された結果は、あまりにも奇異が過ぎる物だった。

 

「なんだ……コイツは……!?」

 

━━━━赤く。紅く。緋く。

融けていく……いや、解けていっているのか、コレはッ!?

 

「━━━━派手に秘匿の封を解いたのだ。

 そう易々と砕かれてくれるなよ?」

 

そう宣う人外の声の下に現れるのは……

 

『クリスちゃん!!相手の狙いは恐らく装者達よッ!!今すぐ撤退を……』

 

「わーかってるって。だがコッチも旧友とハチ合わせ中だぁ……このまま背を向けたんじゃバッサリ行かれるのがオチなんだ。ブッ飛ばしながら後退する……ぜッ!!」

 

━━━━輝きを放つ、認定特異災害(ノイズ)の姿。

 

「どんだけ出ようが、今更ノイズッ!!

 負けるかよッ!!絶対なァッ!!」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━邪鬼のッ、遠吠えの……残音が……」

 

━━━━アメノハバキリのギアを再び纏い、(風鳴翼)はマリアを抱えて欠けた月の登り始めた夜空へと跳び上がる。

そして、着地。

 

「月下に呻き、狂う……ッ!!」

 

剣を拡大変容(パラディグム)させ、私は勢いのまま目の前の人形へと大上段を叩き込む……ッ!!

 

「━━━━剣は剣でも、私の剣は()()()……ソードブレイカー。」

 

だが、人形がその身に似合わぬ剛力で受けたたったの一合が、剣の纏う外装を打ち砕く。

……なんなのだ、コレはッ!?

 

「ッ……!?其方ッ!!の戒名に……記す字を……!?」

 

━━━━その驚愕を呑み込むよりも早くに目の前の人形が行ったのは、まるで魔法のような事象。

 

手に露わにした結晶を地面に落とす事で広がった波紋のような図形。その内より現れる……

 

「あぁッ!?そんな……ノイズッ!?」

 

━━━━輝きを放つ、認定特異災害(ノイズ)の姿。

 

『反応波形。合致ッ!!

 昨夜の未確認パターンは、やはり……ッ!?』

 

『ぬぅ……ッ!!ソロモンの杖も、バビロニアの宝物庫もッ!!

 ━━━━1,000,000,000,000℃の熱量に蒸発したのでは無かったのかッ!?』

 

『━━━━細かいアレコレは後回しだッ!!

 こっちも配置に付いた。コレより援護に入るッ!!』

 

通信の向こうから聴こえる声を思考の隅に一旦追いやり、走りくるノイズ達を迎撃するべく私は走り出す。

 

「━━━━されどッ!!今はッ!!外道に哀の……一閃を……ッ!!」

 

「悪、行、即、瞬、殺ッ!!」

 

「貴方の剣、おとなしく殺されてもらうと……ッ!!

 助かりますわね?」

 

━━━━私を挑発する言葉と同時に、轟音をも置き去りにして彼方より飛来した()()()を見もせずに手元の剣で打ち払う人形。

そして、遅れて届いた衝撃波が大気を、そして橋をも揺らす。

 

『ウソだろ……ッ!?あの人形、対物狙撃銃(バレットM82A1)の弾丸を迎撃しやがった……ッ!?』

 

「そのような、可愛げを……ッ!!

 今だ、私にッ!!求めているとはッ!!」

 

だが、それに驚いている暇はない。

組打ち、同時に攻撃してくるノイズ達を切り裂き、万が一にもマリアや狙撃地点に居る彼等の下へと向かわせぬ為、私は独り大太刀回りを繰り広げているのだから。

 

「……残念だが、『防人の剣は可愛くない』と、友が語って聞かせてくれたからな……ッ!!」

 

「こ、こんな局面で言う事かッ!!」

 

「フフ……ッ!!

 それでこそ、手折る楽しみが出来るとッ!!言うものですわ?」

 

『クソッ!!完全に射線を読んでやがるッ!!すまんが有効打は与えられそうに無いッ!!

 だが、奴はコッチで喰い留めるッ!!ノイズは頼んだぞッ!!』

 

連射される超高速の弾丸をも打ち落とし続ける人形は、やはり人の域にある強さでは無い。

だがだからこそ、ノイズと組み打つことのないこの状況にこそ勝機はある……ッ!!

 

「承知ッ!!

 ━━━━餓狼の光る牙は自らを、も……ッ!!」

 

一瞬三撃、閃いて。

走りくるノイズの三割を斬り捨てる。

それでも残る七割方……だが、掛ける情けの持ち合わせなど無い……ッ!!

 

「壊し、滅す、諸刃のよう……ッ!!

 歯軋りながら血を噴く事も……知り得て、尚も喰うッ!!」

 

━━━━逆羅刹━━━━

 

地に突いた両手を軸に、天地を逆さに脚部ブレードを振り回す。

それは、かつての()()()()()()()()()()()()()()()

生憎と……一対多の戦いには慣れていてな……ッ!!

 

「剣は剣としか呼べぬのか?

 違う、(■■)は、翼と呼ぶ……ッ!?

 ……我が、名は……『夢を羽撃(はばた)く者』也……ッ!!」

 

━━━━瞬間、胸の内より溢れた筈の歌に感じる、違和の感。

私は……今、なんと口にした?()が、私を翼と呼んだのだ……ッ!?

 

「フフッ……」

 

「な━━━━ッ!?」

 

だが、違和感の本質に触れるよりも先に、現実は私の想像をも上回って襲い来る。

心に従いブレた甘い突きを、目の前の武士(もののふ)の如きノイズはその腕の発光する部分で迎撃し……

 

「剣が……ッ!?」

 

━━━━赤く。紅く。緋く。

融けていく……いや、解けていっているのか、コレはッ!?

 

『マズい……避けろッ!!嬢ちゃん!!』

 

「はッ……!?グッ……!!」

 

剣を解かし、私の心臓へ向かって突き刺さらんとするノイズの腕。通信から聴こえる声に、私は咄嗟に背を逸らすが……

 

━━━━瞬間。パキリ、と。音が鳴った。

 

「フフッ。敗北で済まされるだなんて、思わないでね?」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「はッ!!久々に出て来たと思ったら、むしろ脆くなってんじゃねぇか?あァ!?」

 

目の前に現れたノイズ達を鴨撃ちにしながら、あたし(雪音クリス)は背後の少女を連れて逃げ出す算段をしていた。

見た所、へこたれては居ないみたいだが……って!?

 

「あぶねぇ!!」

 

ノイズが発光する部分をソイツに向けて伸ばしている事に気づけたのは、シンフォギアを纏うあたしと違ってノイズに触れられたら終わりなソイツに気を配っていたから。

 

「━━━━ダメです!!()()を受け止めては……!!」

 

だが、庇った筈のあたしに対して、ソイツは甲高くも危険だと叫ぶ。

 

「ハッ!!こんな奴等の攻撃、ギアのバリアフィールドで……

 ━━━━なん、だと……?」

 

━━━━目の前で起きるのは、埒外の事象。

先ほどの地面のように、庇って広げたガトリング型のアームドギアまでもが、解けて……ッ!?

 

「━━━━ノイズだと、括った高がそうさせる……」

 

街灯の上に飛び乗る人外の言葉に返す言葉も無く、あたしはギアを砕いて迫る一撃を身をよじって避けるしか無く……

 

━━━━瞬間。パキリ、と。音が鳴った。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

本部のバックアップメンバーの誰もが、その現象を前に驚愕の念を隠せずに居た。

 

「どういう事だ……ッ!?」

 

「二人のギアが、()()()()()()()()ッ!!」

 

「ノイズでは……無い……ッ!?」

 

ただのノイズであれば、シンフォギアが纏って居る各種防御フィールドに阻まれて炭化分解機能を使う事は出来ず……いいや、そもそも炭素で構成されていないギアそのものを分解する事が出来ない筈だ。

そこまで考えが到った瞬間、(天津鳴弥)の脳裏を過ぎった、最悪の可能性。それは……

 

「しまった……!!アレはただノイズを使役しただけの物じゃないんだわ……ッ!!

 ()()()()()()()()()()()ッ!!悪魔召喚という魔法と、()()()()()()()()()()()()()錬金術の合わせ技……ッ!!

 ノイズによる炭化分解機能と物理的防護を優先している()()()()()()()()()()()()()()()()()()()では、そのどれでもない分解を止める事が出来ない……ッ!!」

 

「そんな……ッ!?それじゃ、防ぎようが無いじゃないかッ!?」

 

━━━━それは、つまり。手の打ちようがないという事。

シンフォギアがノイズに対して圧倒的優位にあるのは、出力が強力だからというだけではない。

何よりも、ノイズの持つ分解能力を止めうるバリアフィールドを擁しているからなのだ。

……だが、その最強の盾をすり抜ける矛が、目の前にある。

 

「……今の一撃のデータを基に復元を試みますッ!!司令はRN式で出撃をッ!!」

 

「分かったッ!!」

 

とにかく、時間が必要だ。敵の波状奇襲は完璧に嵌まり込み、今や前線を張れる装者三人が全員行動不能という危機的状況……ッ!!

此処で彼女達が殺されてしまえば、敵への糸口であろう少女も何もかもが、喪われてしまう。

だが、今から本部を向かわせても間に合うかどうか……

 

『━━━━大丈夫ですッ!!』

 

━━━━けれど、そんな絶望の中に。聴こえる声があった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━ウォータールー(ブリッジ)の上に車を止め、装者への援護射撃を続けていた(ジョージ・アシュフォード)達。

その見やるスコープの先では、ギアを纏って居た少女が辛くも分解したノイズを斬り倒し、後ろに倒れ込んでいる。

 

━━━━だからこそ、俺達が見るのはノイズでは無く、それを統率する人形。

ちらり、と此方を見て微笑むその姿は、まさに人間離れした美しさを纏って居る。

 

「クッソ……こんな状況で、あんな相手じゃなきゃ是非ともお近づきになりたい美人なんだけどなァ……ッ!!」

 

「……言ってないで撃て!!着弾修正、右に0.3!!風向きはロンドンらしく西からの風約5m!!」

 

「了解……ッ!!」

 

━━━━ジープのボンネットの上で構える対物狙撃銃(バレットM82A1)の誤差を修正し、更なる弾丸を人形に向かって叩き込む。

 

「Fuck!!この距離の12.7㎜をポンポコ弾きやがって!!人間サイズのタイラントかなんかかありゃ!?」

 

「それでも動きは封じれてる!!このまま奴を釘付ければ……」

 

だが、その総てが人形が片手に持つ剣にて弾き、散らされる。

化け物め……ッ!!と、そう毒吐いた此方の言葉を読んだワケでもあるまいに。

 

━━━━覗いたスコープの中で、()が、笑った。

そして、今まで顔の上に掲げながら振るっていた剣を、さっきの嬢ちゃんのように、構えて━━━━

 

「━━━━ッ!!」

 

瞬間、スコープから目を放し、顔を逸らす事が咄嗟に出来たのはBOWを相手に繰り広げて来た危機感知能力の賜物か。

 

━━━━だが、それでも。

顔の脇を高速ですり抜けた()()()が巻き起こした衝撃波が俺の顔を打ち、強かにフロントガラスへと叩きつけさせる。

 

「がッ……!?」

 

「■■■■!?」

 

隣の奴が何かを言ってくる。だが、聴こえない。キンキンと頭の中に充満する音が思考を奪い去っていく。

 

Fuck my life(最悪だ)……!!

 あの人形、()()()()()()()()()()()()()ッ!!」

 

「お■■い……嘘■ろ!?」

 

認めたくないが、この状況から見てそう判断するしかないだろうと吐き捨てた俺の言葉に対する奴の返事が少し聴こえる。

どうやら鼓膜が破裂したワケじゃあないらしい。

狙撃された弾丸を突きで弾き返してスコープにホールインワンさせるなんつー悪夢みてぇな状況の中での、ちょっとだけありがてぇ幸運だ。

 

「嘘なワケねぇだろ!!

 クソが……ッ!!援護まで入念に潰して行きやがるのかよ……ッ!!」

 

「━━━━だが、まだ終わってないぜ。()()()は。」

 

「……ハッ!!確かにな……」

 

ジープのドアに寄りかかりながら、俺は大きく息を吐く。

俺達に出来る事はやった。通常兵器であんな化け物の足止めをしたんだ、むしろ褒めてもらって当然の巨人殺し(ジャイアントキリング)だ。

 

━━━━そう、俺達に出来る事は、コレで終わりだ。だから……

 

「頼んだぜ……()()()()。」

 

息を吸って顔を上げれば、()()()()()()()()()()()()()()()が視界の端に映っていた……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━(マリア・カデンツァヴナ・イヴ)の目の前で、翼が倒れ込んでいく。

ギアが完全に砕け散る前に攻撃して来たノイズそのものは倒したものの、後方に弾かれるように倒れ込む姿に、最早ギアの輝きは無い。

 

「━━━━翼ッ!?クッ……!!」

 

それを見捨てる事などどうして出来ようか?

考えるよりも先に身体は動き、橋の路面に投げ出された彼女を抱き上げる……

 

「クッ……!!」

 

狙撃の援護も、最早止んでいる。

睨みつける先……ノイズを従える人形が、その剣の鋭い突きで弾丸を弾き返したのだ……ッ!!

 

「どうする……どうする、マリア・カデンツァヴナ・イヴ……ッ!!」

 

諦める事などしない。だが、この状況は……!!

 

「システムの破壊を確認……コレで()()()は一段落なのですけれども……」

 

━━━━人形は、そう言いながら剣で私を指し示す。

……いいや、違う。指し示すのは、私の後ろ……?

 

「━━━━どうやら、貴方にとっては違うようですわね?()()()()()()()()()()()()()()()さん?」

 

━━━━振り向けば。

其処には、隻腕の女が立っていた。

燃えるような髪を靡かせ、その片腕に槍を持った……シンフォギアを纏う、女……

 

「天羽……奏……ッ!?」

 

「ハハッ……まさか、ウチの翼に手を出しといて手ぶらで帰るつもりじゃあないだろうな?」

 

「予定ではそのつもりでしたが……えぇ、了解致しましたわ。

 ━━━━私の方も追加のお仕事が入りました。申し訳無いですが……貴方の担うガングニールもまた、砕かせていただきますわね?」

 

「ハッ!!出来るもんなら……やってみなッ!!」

 

如何なる事情の変化か、ノイズを携えた女は天羽奏と戦う事にしたらしい。

走りだす天羽奏と、迫りくるノイズ達。

私達の脇を走り抜ける一瞬、私は思わずに彼女へ声を掛ける。

 

「翼の剣が効かなかったのは白く発光している部分だッ!!まずはとにかくそこを避けて攻撃をッ!!」

 

「了解ッ!!

 ━━━━届かぬ声……『ねぇ独りにしないで?』

 (こ、こ……ろ)ッ!!叫ぶけどッ!!」

 

━━━━交錯、一瞬。その瞬間にはじけ飛ぶ、人型のノイズ三体。

残りは人型二体と……

 

「回転する奴に気を付けてッ!!」

 

回転するタイプが三体……ッ!!だが、相手の攻撃が必殺であると分かった今や、そちらの方が人型よりも遥かに厄介に見える……ッ!!

 

「言葉は千切れて……ゆくッ!!

 ただ、受け入れ……『今』を静かに見つめ……」

 

横薙ぎの一閃が人型二体を消し飛ばし……けれど、どうしてか彼女は、人型を倒した姿勢のまま動き出さない。

そんな彼女に回転しながら迫りくるノイズ、三体……ッ!!

 

「あぁッ……!?」

 

「諦め?そうじゃなく……

 ━━━━乗、りッ!!超えるッ!!為にッ!!」

 

彼女の歌の通り、諦めたのかと思ってしまった一瞬。

━━━━その次の一瞬の間に、総ては終わっていた。

回転し、必殺たる部位を顕わに迫ったノイズを、横からの槍の一突き、伸ばした蹴り足を槍にした一撃、そして……

 

「なるほど……貴方の握るアームドギアとは、即ち掴み、伸ばす為のその手足……それが《槍》であると定義したからには、敵を砕き散らすのに不足はない、と……」

 

一撃目の槍を手放した右腕をアームドギアと変え、返す刃で叩き込んだ、手刀の一閃……ッ!!

 

「『誰かやってくれるだろう?』……なんて目を逸らす……

 猶予は、もう無い筈……ッ!!違う未来、望んで居るならッ!!」

 

裂帛の歌声と共に槍を再び手に持った彼女は、剣を携える人形の下へと突貫する……ッ!!

 

「フフッ……ならば、その槍たる手足……私が再び叩き斬って差し上げましょう……ッ!!」

 

━━━━ぶつかり合う、剣と槍。

だが、先ほどのように一撃で砕かれる事は無い……何故だ?あの破壊にはなんらかの条件があるというのか……?

 

「この手ッ!!掴んでいたのは……永遠ッ!!に見えた……有限ッ!!

 失くした時……気づいた価値。またの名を……『希望』ッ!!」

 

一合、二合、三合と、積み重なっていく打ちあいは、しかし……

 

「━━━━所詮、貴方は復讐の念で槍を握った第二種適合者……LiNKER無くしてはギアも纏えぬ半端者……そんな貴方に私が止められると思っておりまして?」

 

━━━━押し込んでいるのは、人形の方だった。

それは、当たり前の事実。翼が押し込んでもなお、余裕の表情で受けきって見せた存在なのだ、あの人形は……ッ!!

 

We are one(想いは一つと)信じて、いたいよ……ッ!!

 外はッ!!止まない……雨、でもッ!!」

 

大きく振りかぶった一撃、その反動で距離を取る天羽奏。そして構えるのは、槍の本領とも言える構え……突きを狙う、上段ッ!!

 

「━━━━ヒカリを忘れぬよう、私達は……出逢ったのかも……知れない……ッ!!」

 

「……クッ……私は……?

 ━━━━奏ッ!?」

 

苦痛の為故か気絶していた翼が目を覚ましたのは、天羽奏が突きを繰り出したその瞬間の事。

 

「━━━━君ト云ウ 音奏デ 尽キルマデ……ッ!!

 傍に居る……ッ!!Sing out with us(■■に歌う為)……ッ!!」

 

人形もまた突きを繰り出し、切っ先と切っ先がぶつかり合う。

それは奇しくも、先ほど翼が剣を砕かれた時と同じ構図で……

 

「━━━━残念ですわ。砕き散らす事を許されていれば、貴方の歌も是非受け止めたいのですが……」

 

━━━━余裕を崩さぬまま、女は嗤う。全力を出し切る天羽奏を嘲笑うかのように。

 

「くッ……がァッ!?」

 

「奏ッ!?」

 

その余裕を裏打ちするかのように、突きの力比べに勝ったのは人形の方だった。

 

「フフッ……本当にしょぼい歌……」

 

「クソッ……!!」

 

吹き飛ばされ、それでも右手に持つ槍を支えに立ち上がる天羽奏の姿。

━━━━その背に重なって見えるのは、あの日のセレナの背中。

 

「奏……ッ!!」

 

手を伸ばす事しか出来ない翼と、あの日の私はきっと似た者同士なのだろう……

 

「グッ……ガハッ……!!」

 

━━━━そして、彼女がその口から吐き出す血の色もまた、あの日のように紅く……

 

「絶唱を口にせずとも、貴方の適合係数は元々ギアを纏うに足りぬ物……仮令(たとえ)LiNKERで繋げようと、無理に出力を上げれば……焼き切れてしまいますわよ?」

 

「……ゲホッ……構うもんかよ……ッ!!

 ━━━━目の前で片翼を喪うよりも、ずっとずっといいッ!!」

 

「フフフ……!!いいですわ、いいですわ!!自らの命をも賭して剣舞う、その覚悟ッ!!

 ━━━━ですが……残念。時間切れのようですわ。」

 

━━━━そう言いながら、人形は懐から何かのアンプルのような物を取り出し……足下へポトリと落とす。

 

「何を……ッ!?」

 

問いに答える事は無く、人形はその美しくも恐ろしい美貌を能面のように無表情としたまま、足元より広がった光の中へと消えていく。

 

「……撤退?何故……

 いや、それよりも……敗北で済まされないとは、いったい……?」

 

「……グッ……」

 

「━━━━ッ!?天羽奏ッ!?」

 

━━━━聴こえてくるサイレンの音の中、思考を一旦棚上げにした私は、倒れ込む二人を介抱するべく動き出す。

まずは、翼に服を着せなくては……ッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━目の前で、ボク(エルフナイン)を庇ったクリスさんのギアがアルカへストへと解けていく。

 

「グッ……がァッ!?」

 

「クリスさん!!

 ━━━━クリスさん!!クリスさん!!」

 

倒れ込んだ彼女を抱き上げ、呼びかけるボクの目の前に降り立つのは……黄を纏う人形。レイア・ダラーヒム。

……今の一合に何が起こったのか、それはボクの中の知識を擦り合わせればすぐに分かった。

 

「世界の解剖を目的に造られた万象解剖機(アルカ・ノイズ)を、兵器と使えば……」

 

「シンフォギアに備わる各種防御フィールドを突破する事など、容易い……

 ━━━━とはいえ、次なる仕上げは、次なる役者(キャスト)に……ん?」

 

彼女の言葉の意味は抽象的で、錬金術的だ。

だけど……一つだけ、分かる事がある。

 

「━━━━彼女に手は出させません!!」

 

━━━━此処で引いたのなら、彼女の命は無いという事。

だから、ボクは倒れたままの彼女を庇うように立ちはだかる。

 

「…………」

 

けれど、無言……レイアは何故か、ボクを見つめたまま動かずに居て……?

 

「━━━━させないデスよッ!!」

 

「む……?」

 

━━━━そんな膠着を打破する声が、上から響き渡る。

見上げれば、其処には……マフラー?のような物を巻きつけた少女が、一人……?

 

「暁切歌さん……!?」

 

「ふんッ!!」

 

「━━━━Zeios igalima raizen tron(夜を引き裂く曙光のごとく)……」

 

その少女が纏うのは、翠。

イガリマのシンフォギア装者が、どうして此処に……!?

 

「━━━━危険信号点滅!!

 地獄?極楽?どっちがイイDeath!?」

 

━━━━切・呪りeッTぉ(ジュリエット)━━━━

 

「真っ二つにされた……け、りゃ……Attention……ッ!!

 整列(きをつけ)Deathッ!!」

 

跳び上がり、放つ鎌刃はしかし、アルカ・ノイズを一掃する事は出来ず、頭部を切り落とされたアルカ・ノイズは自動迎撃の為に少女へと殺到する……

 

「小っ恥ずかしい過去は……赤面ファイヤー消去Deathッ!!」

 

━━━━災輪・TぃN渦ぁBェル(ティンカーベル)━━━━

 

けれど、少女の勢いは止まらない。噴き出すバーニアの焔で高速回転した鎌を独楽に変え、解剖器官が届くよりも速くアルカ・ノイズ達を薙ぎ払う……!!

 

「ドコまで積み上げれば?未来って見えてくるんだ、ろう……ッ!!」

 

「……派手にやってくれる……

 だが、派手さに(かま)け過ぎて目標がお留守だぞ?」

 

「……ハッ!?」

 

何時の間に背後に……!?

気付けば、ボク達の後ろにも回り込んでいたアルカ・ノイズが、その腕を振り上げていて……!!

 

━━━━だが、瞬間。ボク達の前後を包囲するアルカ・ノイズ達を切り裂く何かが数多飛来し、その姿をアルカへストへと返していく……!!

 

そして、桃色の影が走り抜けて、止まる。其処に、居たのは……

 

「月読調さん……!?」

 

「━━━━フッ!!」

 

━━━━α式・百輪廻━━━━

先ほどの切歌さんのように跳び上がり、調さんもまた、ギアから展開した刃をアルカ・ノイズへと叩き付ける。

 

「あぁ、女神、様が……」

 

━━━━女神ザババの双刃。対なるシンフォギアが、絶命の窮地のボク等の下に飛び込んで来てくれたのだ。

逃げ出してから何も食べて居なかった為に遠のく意識の中、誰かに抱え込まれる温かさだけが、強く、強く感じられた……




━━━━初めが転ばし、二つが裂いて、最後三つが傷を癒やす。
パックリ往こうと傷跡遺さず。三刃の鎌鼬、此処に揃いて御座候……

そして、砕け散りし希望の欠片達を前に、少女達は悲嘆に暮れる。
どうすればいいのか。どうしたいのか。そして……

━━━━自らが、いったい何を忘れてしまったのか。

忘却が逸らしてくれていた喪失の痛みに眼を向ければ、自分が壊れてしまうから。そう言い訳て逸らし続けた数多の違和感。気づいた所で、今更何が出来るのか……?

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