戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第九十一話 昇暁のインヘリタース

━━━━歩く、歩く、歩く。

(■■■■)は、歩く。

 

「……煉獄山というのは、思ったより……寂しい風景をしているんですね。」

 

煉獄山。基督教において恩寵を受け死に到った人が、されども神なる愛との一体を成せぬままに流されるという地。

━━━━けれど、眼前に広がる風景は茫漠と広がり、砂煙を巻き上げる……砂漠のようで。

 

「ハハハ!!確かにそうだ。

 とはいえ、そうだね……我々が登り、その頂に到るべき煉獄山とは、西方教会の言う()()とは些か異なるのもまた事実だ。

 この光景は……あらゆる繋がりを喪った今のキミが感じる世界そのものと言えるのだろうね。

 ボクのように、キミと一切関わる事の無い物のみしか認識できない……遠縁の荒野(ファルガイア)。」

 

先を歩むヴァージルさんの言葉は、吹き荒ぶ風があるにも関わらず、朗々と響き渡る。

……即ち、目の前のこの光景は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()砂漠のように、そして、あらゆる生命を拒む荒野のように見えるのだと。

 

「……繋がりを喪った世界というのは、こんなにも物寂しいんですね……」

 

「……そうだね。ボクも……そう思うよ。」

 

━━━━そう言葉を零すヴァージルさんの背中は、何故か悲しみを背負っているようにも見えた。

 

「━━━━あぁ。見えてきたね。

 あのペテロの門の先に、キミが知らなければならない()()がある筈だ。」

 

━━━━荒野の中に聳え立つ、ヒカリが結晶と化したような門。

その大きさは、ゆうに10mを越えるだろうか?

 

「キミが知る事の出来なかった事象。キミが……()()()()()()()()()()()()()()、久遠の涯、既に終わってしまっていた物語達。

 ━━━━それを知らぬ事を、キミは後悔するのだろうね。

 ……だからこそ、繋がりを喪ったこの世界においてさえ、喪われたキミとの繋がりの先……誰かが紡いだ想いが、キミを導くヒカリとなって。

 キミの知るべき本当の後悔へと繋がる経路(パス)となってくれる。

 だが、それでも……其処にあるのは大抵、尽きる事の無い悲しみと嘆きの連鎖だ。それを受け止める覚悟は……出来ているかい?」

 

━━━━門の中に渦巻くのは、ヒカリの奔流。恐らくは俺が知る事の出来なかった筈の……いつかに終わった誰かの記憶。

……それを辿る事で、俺の後悔へといつか辿り着けるという事だろうか?

 

「……はい。行きます……ッ!!」

 

━━━━だから、逡巡は一瞬。俺は自らの意思で、門の内へと一歩を踏み出す。

俺の足はまだ、その先へと進めるのだから……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

マスターからの指示通り、地味な隠密を止めて派手に装者のシンフォギアを打ち砕いた(レイア・ダラーヒム)の目の前に現れた派手な侵入者。

その色は、翠。イガリマのシンフォギアを纏う少女。

だが、その陰を縫うように現れた紅……シュルシャガナのシンフォギアを纏う少女が目標(エルフナイン)を連れて戦線離脱を宣言するように走り出す。

 

「━━━━派手な立ち回りは陽動?いや……」

 

「嘘は無いッ!!番いの愛ッ!!」

 

「やァッ!!」

 

━━━━アルカノイズの自動防衛機能が、離脱する紅に向いた瞬間を狙い棲ましたかのように。

此方の周囲に残ったアルカノイズの追撃を封じるように白の少女……アガートラームのシンフォギアを纏う少女が降り注がせる短剣(ダガー)の雨をコインで弾き散らし、それを見る。

翠の少女が現れた時、何故か羽織っていた上り旗。それをお(くる)み代わりに、ギアを砕かれた赤の少女を抱き飛び去って行く姿を。

 

「陽動もまた陽動……そして、その後詰めを務める三枚刃……なるほど。確かこの国では()()と言うのだったか?

 地味ながらも見事なコンビネーションだ。

 ━━━━とはいえ、予定にない闖入者……指示をください。」

 

『……追跡の必要は無い。帰投を命ずる。』

 

「━━━━了解。」

 

━━━━あぁ、だがやはり。

私に地味は似合わない……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━くぅ……ッ!?」

 

禁月輪で謎のノイズ達を蹴散らし、退路を確保した(月読調)達。

だけど……変形させたギアの齎すバックファイア。その苦痛に、禁月輪を維持出来なくなってしまう。

……やっぱり、私達の適合係数ではギアを巧く扱えない……!!

 

「調!!」

 

「月読さん!!」

 

「大丈夫!!今は、それよりも……」

 

私達の身の心配よりも、抱えた少女?とクリス先輩を安全圏まで連れて行く事の方が重要。

だから追手を躱す為、私は幹線道路のアスファルトをローラーで斬りつけながら走り抜けていく……

 

━━━━そして、気が付けば旭は登り切っていて。

 

「……ふぅ。此処まで来れば……」

 

「……LiNKERが無くたって、あんな奴に負けるもんかデス!!」

 

「暁さん……」

 

━━━━バチバチと、今にも崩れてしまいそうなギアを纏ってそう強がる切ちゃんの姿は、頼もしさよりも、むしろ痛ましさの方が強く見えてしまう。

 

「切ちゃん……」

 

「分かってるデス!!……強がりだって、そんな事くらい……」

 

「私達……どこまで行けばいいのかな……」

 

「それは……」

 

「━━━━行けるとこまで……デス。」

 

「……でもそれじゃ、あの頃と変わらないよ?」

 

━━━━思い出すのは、白い孤児院……そう、美舟が名付けた、壁も天井も真っ白な、あの世界……

フィーネの器として無理矢理に詰め込まれた私達に力を与えてくれたのは、マムと、そしてシンフォギア。

 

「……皆さんは、あの事件の後……」

 

セレナが言うあの事件とは、ネフィリムの起動実験の事だろう。セレナが魔女に引き取られ、居なくなった後の事……

 

「……アタシ達の立場は変わらなかったデス。フィーネの器というサブプランに、オマケとしてシンフォギアが付いているだけの存在……」

 

「━━━━けど、マムは違った。聖遺物が引き起こしたルナアタックという災厄。そこから人々を護る為に聖遺物の力で対抗する、と……」

 

「そう考えるマムを、手伝いたいと思ったわけデスが……」

 

━━━━結果は、散々な物だった。

 

「……状況に流されるまま力を振るっても、何も変えられない現実を思い知らされた……」

 

「マムやマリアのやりたい事じゃない……アタシ達が、アタシ達のやりたい事を……握りたい正義を見つけられなかったから……!!」

 

━━━━そう。だから、あの人(■■■■)みたいに、私達も自らの想いを強く握って立ち向かわなければ……?

 

「……あれ……?」

 

「調?」

 

「……ううん。なんでもない……きっと、なんでも……

 ━━━━目的も無く、行ける所まで行った所に望んだゴールがあるなんて保証はない……我武者羅なだけでは、きっとダメなんだ。」

 

「もしかして……!?アタシ達を出動させなかったのは、そういう事なんデスか!?」

 

そうなのかも知れない……信じて待っていてくれと、そう告げた理由……

 

「っつ……」

 

━━━━そんな思考を断ち切るように、切ちゃんの腕の中で目覚めたクリス先輩が声をあげる。

 

「良かった……」

 

「大丈夫デスか!?」

 

「━━━━クッ……大丈夫な物かよッ!!」

 

━━━━その叫びに、私達は思わず顔を見合わせてしまう。

……私達がした事は、また……誰かを傷つける結果に陥ってしまったの?

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━完全敗北。いえ、状況はもっと悪いかも知れません。」

 

弾丸が掠めた負傷などから、先んじて救急搬送された奏とジョージさん、そしてマーティンさん。彼等が残してくれた通信機を使ってSONG本部と通信する(風鳴翼)

その姿は、マリアの衣裳の一部を切り取らせて貰う無様……

 

「本来ならばギアの解除に伴って再構築される筈の衣服が戻って居ないのは……コンバーターの損壊による機能不全であるとみて、間違いないでしょう。」

 

「━━━━まさか、翼のシンフォギアもッ!?」

 

マリアの言葉に、私は目を逸らすしか無い。

この身の不覚が、自らには深く理解出来るが故に。

 

「……絶刀(ぜっとう)天羽々切(アメノハバキリ)が手折られたという事だ……」

 

『クリスちゃんのイチイバルと、翼さんのアメノハバキリが破損……』

 

『了子さんが居ない中、いったいどうすれば……』

 

『……ギアコンバーターの修復自体は不可能では無いわ。

 けれど……ギアの防御フィールドを貫くあのノイズの攻撃をどう防げば……』

 

『……響くんの回収は、どうなっている?』

 

━━━━通信の先……SONG本部もまた、此方と同じく混乱の最中にあった。当然だろう。

シンフォギアが新種の……それも、いずこかの勢力が保有し、運用するノイズに砕かれるなど、理解の外側に飛び出していると言って相違なかろう。

 

『━━━━もう、平気です。

 ……ごめんなさい。私がキャロルちゃんときちんと話が出来て居れば……』

 

『それは……』

 

「━━━━ッ!?ようやくのお出ましか……」

 

そんな折に走り込んで来る、黒塗りの車の数々。

その中から降りて来た黒服の彼等は、その手に握った(拳銃)を向けて私達を取り囲む……

 

「━━━━状況報告は聞いている。だが……マリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 キミの行動制限は解除されていない……!!これ以上の勝手な行動は……」

 

「……翼。通信、借りるわね?」

 

「あ……」

 

彼等の威圧など物ともせずに、マリアは私の耳から通信機を取り外し……

 

「━━━━風鳴司令。私、マリア・カデンツァヴナ・イヴは、国連との司法取引の取り決めに従い、SONGへの転属を希望します。」

 

「それは……ッ!?」

 

「異論があれば聴こう。だが、新種のノイズを操る勢力が出現し、大規模なテロを発生させたのは事実だ。

 ━━━━コレは、誓約書にも記載のあった《異端技術によるテロ等が起きた場合、SONGへの転属を行う》という文言に則る事態の筈だが?」

 

「……クッ……」

 

「マリア……」

 

嘴を挟もうとした黒服を、マリアは毅然とした言葉で叩きのめす。

 

()()にギアを預けた私ですが……この状況に、偶像のままでは居られません。」

 

━━━━砕けた月の下、マリアの宣言は力強く、頼もしく響き渡ったのだった……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「本日♪の調理実習は、ビーフストロガノフ♪」

 

「アニメや♪漫画でお馴染みの、ビーフストロガノフ♪」

 

『玉ねぎは♪縦に二つ切り♪』

 

「皮と芯はちゃんと取り除いてね?」

 

『トマトは♪横に二つ切り♪』

 

「ヘタはちゃんと取らないとダメだよ?」

 

『サッと小麦粉をまぶすのは♪

 牛肉♪で無くても構わない!!』

 

「構わないけど……流石にそのまぶし方はマズいよ響!?

 はいコレ。ちゃんと大匙スプーンを使ってね?」

 

『玉ねぎに♪キノコをくわえて♪

 牛乳を♪入れて煮立ったら♪』

 

「えーっと……調べた感じだとホントは結構長く煮ないといけないみたいだね。軽く三十分くらい?」

 

「えーッ!?未来、お鍋をそんなに火にかけてたら調理実習が終わっちゃうよ!?」

 

「大丈夫だよ、響。

 そうならないように先にトマトと玉ねぎをラップで包んでチンして柔らかくしておいたから。

 コレで十分くらいで出来るかな?」

 

「おぉー!!」

 

『最後に♪塩胡椒♪ランデブー♪

 サワークリームで♪出来上がり!!』

 

「━━━━じゃなーい!!

 その前にデミグラスソース!!コレが無いと茶色くならないでしょ!?」

 

「へぇ~、デミグラスソースって缶の物があるんだ~。」

 

『男の子は♪知らないけど♪

 意外に♪簡単♪

 ビーフストロガノフ~♪』

 

『本日の♪調理実習は、ビーフストロガノフ♪』

 

『アニメや♪漫画でお馴染みの、ビーフストロガノフ♪

 にゃ!!』

 

「はぁ……」

 

━━━━即興曲を作るのはいいけれど、微妙に作り方が足りてないのは音感重視のご愛敬という物だろうか。*1

なんて、溜息と共に考える(小日向未来)が居るのはリディアン音楽院の家庭科室。

調理実習の授業で一緒の班になった私達は、五人で協力してビーフストロガノフを作る事になったのだ。

 

「いやぁ~ビーフストロガノフ、って名前なのに、よもや牛肉以外でもOKとは恐れ入ったねぇ……

 ロシア料理の懐は広大だよ。うんうん。」

 

「ビーフって言っても牛肉のビーフじゃなくて何々流って意味らしいからね……って響ッ!?

 手元手元!!ちゃんと猫の手にしないと危ないよッ!?」

 

「あ、ごめんごめん……掃除洗濯ならともかく、普段料理ってしないからつい……」

 

「リディアンは寮の食事も充実のラインナップだからね……」

 

「━━━━あれ?そういえば未来って料理出来たんだっけ?」

 

「恥ずかしながら、昔はお母さんに『台所に立たないで。危ないから』と言われてたんだけど……

 ほら。女の子だから~ってワケじゃないけど……頼りっぱなしって悔しいじゃない?

 だから、■■ちゃんに負けないようにってお母さんに……あれ……?」

 

━━━━誰に、負けないようにって思ったんだっけ……?

 

「未来……?

 ━━━━未来も、そうなの……?」

 

響が、恐ろしい事に気づいてしまったように目を瞠る姿。

それを見て、私は何か大切な事を忘れてしまったのでは無いか?という可能性にようやく思い至る。

……響がそんな顔をするようになった切欠。考えられる事と言えば……

 

「……この間の出動で、何があったの……?

 調ちゃんや切歌ちゃんも、検査入院しているんでしょう?」

 

「うん……詳しい事は、まだ未確定だからって口止めされてて言えないんだけど……私、何か大事な事を忘れてるって言われちゃって……」

 

━━━━響のその言葉を聞いて、私は、響がどうしてあんな顔をしたのかを私は……頭では無く心で理解出来た。

まるで、心臓を鷲掴みにされたような恐怖。

……思い出せない事すら、忘れてしまっていた事。

それが、胸の裡にある事に気づいてしまったから……

 

「……誰かが、居たの。

 ━━━━私達の近くに、ずっと……なのに、どうしてなんだろう……」

 

「……思い出さないと、いけない気がするんだ……それに、忘れたままじゃダメだって……」

 

「それも……その人が?」

 

「うん……だから、その為にこの力で……皆を護る為のシンフォギアで、戦えって……

 でも、それは……」

 

……だから、響は迷っているんだ。

響は、誰かを護る為に戦って来たから。

響が、誰かと戦う為に拳を握った事なんて無かったから。

 

━━━━でも、そんな事を言われたってどうすればいいのだろうか?

思い出せない事にすら気付く事の出来なかった、霞のようにぼんやりとしたこの記憶。

……思い出す事が出来ない物を、いったいどうやって思い出せばいいのだろう……?

禅問答の答えは、今の私達には見えなくて……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……退屈デース!!」

 

LiNKER無しでギアを纏った無茶の影響を調べる為にと行われた検査入院も三日目。

月読さんと暁さんは、最初こそ大人しくしていたものの……やっぱり、退屈で仕方がないみたいで。

でもその気持ち、(セレナ・カデンツァヴナ・イヴ)も分かる気がします。

 

「病院食は味が薄い……」

 

「━━━━えぇ、全くもってその通りです。病院食は醤油の量が足りません。もっと醤油をふんだんに使って……」

 

「マムったら……ホントはまだ安静にしてないといけないんだから、気を付けてくださいね?」

 

幾ら車椅子での移動が解禁されたとはいえ……今なお身体の治療の為に入院しているマムにまでそんな事を言われると、私は流石に困ってしまう。

 

「むぅ……とはいえ、新たな異端技術の脅威が現れた今、私とて横たわってままでは……」

 

「それはダメだよ、マム?」

 

「そうデス!!確かに状況は良くないデスけど……」

 

「その為にマムが無理をするのは、もっと良くない。」

 

━━━━私は一緒に居られなかったけれど、マムがレセプターチルドレンの皆を護る為に無茶をした事は皆から聴いているんだから。

 

「……そう、ですね。

 フロンティアの一区画と共に打ち上げられた私がこうして此処に居られる事、それ自体が()()と言っていいのですから……」

 

「そうだね……あれ?」

 

……月にまで飛ばされたマムは……一体どうやって、私達の元に帰って来てくれたんだっけ……?

 

「セレナ?」

 

「あ……ううん。なんでもない。

 さ、そろそろマムも病室に戻りましょう?」

 

「もうそんな時間ですか……」

 

ふと頭を過った思考を振り払い、私はマムの車椅子を押して二人の病室を出る。

……それでも、何故か。心の片隅に燻ぶる何かがモヤモヤと、私の中に渦巻いていた……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━日本に戻る、と?」

 

謎の敵による襲撃の翌日。メトロミュージックの事務所で(風鳴翼)は、イギリス進出をプロデュースしてくれた恩人であるトニー・グレイザー氏に自らの進退を告げていた。

 

「……世界を舞台に歌う事は、私の夢でした。ですが……」

 

━━━━認定特異災害たるノイズ。その災禍が収まる兆候を見せていると鳴弥おば様が検証してくれたが故に掴み取れた私の夢。

だが、ノイズを意のままに操る勢力が出たとなれば……話は変わる。

歌女である前に、私はこの身を剣と鍛えた戦士なのだから……

 

「……それがキミの意思であるなら尊重したい。

 ━━━━だがいつか、もう一度自分の……いや。ツヴァイウイングの夢を追いかけると約束してもらえないだろうか?

 キミ達の夢は、たかだか一度や二度の困難で挫ける程度の物では無いと……私は信じているのだから。」

 

「それは……はい……ッ!!」

 

━━━━けれど、それだけでは無いと。そう信じてくれるトニーさんの言葉は、私の背中を強く押してくれる。

 

「奏くんも、日本に戻って本格的なリハビリを始めるのだったね。

 ━━━━二人が揃って世界に飛び立つ日を、私はいつまでも待っていると伝えてくれないか?」

 

「━━━━はい。必ず。」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「翼?どうしたんだよ、シリアスに決めるにしてもあんまり静か過ぎやしないか?」

 

「……あ、奏。ううん、トニーさんに挨拶した時の事を思い出してて……

 そうそう……奏のリハビリ、トニーさんも応援してくれてるって。」

 

「おっ?ソイツはイイ事聞いたなぁ。

 じゃあ次にイギリスに行く時は自分の足で歩いて見せて驚かせてやろうぜ?」

 

━━━━目の前で楽しそうに話す双翼を見つつ、(マリア・カデンツァヴナ・イヴ)は思索を巡らせる。

……国連所属のエージェントとしてアーティストをしていたこの三ヶ月。なんだかんだと翼と共に仕事をする事も多かった。

それ故に、先日のLIVE GenesiXでも共に歌う事に何の憂いも無かったのだが……

 

…………その安心感からか、歌う事に没頭し過ぎてしまったかも知れない……ッ!!

あぁ!!今になって恥ずかしくなって来たかも……ッ!!

 

『すっかり任務を忘れてお楽しみでしたね~』

 

なんて言われてしまったら、私はどんな顔をすればいいのかしら……ッ!?

 

「……ん?どうしたんだ、マリア?

 ━━━━もしかして、飛行機に乗るのが怖かったのか?」

 

「━━━━飛行機を降りるのが怖いのよッ!!!!」

 

「ん~……?」

 

私の言葉に、二人揃って首を傾げる双翼。

くっ……!!そんな仕草のユニゾン具合まで可愛いわね……ッ!!

 

『━━━━まもなく、当機は着陸態勢に入ります。

 シートベルトの着用をお願いします。』

 

「……覚悟を決めるしか、無いようね……」

 

『……????』

 

この戦い、私自身が勝利する以外に道は無い……そうよね、マムッ!!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━学校帰り、翼さん達の帰国を待ってSONG本部に向かう為に、(立花響)達は空港のターミナルで二人を待っていた。

 

「━━━━あ、来たデスよ!!」

 

切歌ちゃんの声に目を向ければ、騒ぎにならないようにと貸切ったターミナルの向こうから歩いて来る四人の姿……

 

「翼さ~ん!!奏さ~ん!!マリアさ~ん!!」

 

「━━━━挨拶は後ッ!!

 新たな敵の出現に、それどころでは無い筈よッ!!」

 

━━━━手を振る私の前にビシッ!!とした姿勢で進んで来たマリアさんの言葉は、(けだ)し名言で。

 

『おぉ~……!!』

 

「ちょっと頼もしくてカッコいいデス!!」

 

「やっぱり、マリアはこうでなくちゃ……!!」

 

デキる大人の女性……ッ!!って感じのマリアさんの勇姿に、私も憧れが隠せない。

私って頼れるとかそういうキャラって感じになれないもんね、何故か……

 

「……ふふっ。」

 

「なるほどなぁ?」

 

「あはは……」

 

でも、それに対して翼さん達の反応は何故か微笑ましい物を見るかのようで……なんでだろう?

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━SONG本部潜水艦内部・司令室。

 

「━━━━シンフォギア装者勢ぞろい……とは、言い難いのかもしれないな……」

 

国内外に別れていた装者八人が合流した事で、ようやく昨日の日本とロンドンという遠く離れた二点で同時に起きた襲撃事件……そのデブリーフィングを行う事が始まった。

……とはいえ、(風鳴弦十郎)が切り出す話題は明るい物では無く……

 

「コレは……?」

 

「━━━━新型ノイズに破壊された、アメノハバキリとイチイバルです。

 コアとなる聖遺物の欠片は無事なのですが……」

 

「装者の歌によって聖遺物の欠片が産み出したエネルギーをプロテクターとして固着させる機能が損なわれている状態です……」

 

━━━━それはつまり、シンフォギアとしての機能が破壊されているという事。

 

「それって……」

 

「フロンティア事変の直後のセレナのギアと同じ……」

 

セレナくんとマリアくんが目を見合わせて話すように、

彼女達の手に握られたアガートラームのシンフォギアは、フロンティア事変当時には真っ二つとなったコンバーターユニットを無理矢理に組み合わせた事とエクスドライブ級の出力を成した事で半壊以上の状態へと陥っていた。

 

「だったら、直るんだよな?フロンティア事変の後も直してたんだし……」

 

「……そうね。《直す》だけなら、了子さんから研究を引き継いだ私が時間を懸ければ不可能では無いわ。

 けれど……問題はむしろ、その先……」

 

鳴弥くんが言葉を濁す理由。それは即ち、シンフォギア・システムの各種防御フィールドを突き破る新型ノイズの存在……

ただ直すだけでは、あのノイズ相手には一撃を受ける事すら許されない危険な戦いを装者達に強いてしまう。

 

「……とはいえ、相手が現れるのなら対処しなければならないのも事実。

 現状、大手を振って動ける唯一の装者である響くんには負担を強いてしまうが……」

 

「私だけ……」

 

「━━━━そんな事、無いデスよ!!」

 

「私達だって……!!」

 

「ギアを纏う事は出来ますッ!!」

 

━━━━俺の発言に食って掛かるのは、元FIS所属の三人。だが……

 

「ダメだ。」

 

「ッ!?どうしてデスかッ!?」

 

「……適合係数の不足値をLiNKERで補わないシンフォギアの運用が、どれほど身体の負荷になっているのか……」

 

検査入院はこの為に行った物だ。

LiNKERを打つ事すらせずの無理矢理のギアの使用、そして戦闘まで……緊急時だからと今回は見過ごさざるを得なかったが、この状況での出撃の常態など断じて許可できない。

 

「キミ達に合わせて調整したLiNKERが無い以上……いいや、有ったとしてもこのまま出撃させる事は出来ない……」

 

「……奏ちゃんのように、命を削り続けてまでシンフォギアを纏わせるつもりが私達に無い事。それだけはどうか……分かって頂戴ね?

 奏ちゃんもそうよ。翼ちゃんから聴いてるわよ?あの時、ライブ前日に吐血してたそうね?」

 

……そう。三年前、LiNKERを使っての無理矢理なシンフォギア運用によって深く傷つきながらも、それを俺達にすら隠して大舞台に望んだ奏の無茶を、俺達は忘れてはいないのだ。

 

「うげ……!?

 ……分かってるって……今はちゃんと検査も受けてるし、連続ならともかく。散発ならまだ大丈夫だろ?」

 

「……どこまでも私達は、役に立たないお子様なのね……」

 

「……メディカルチェックの結果が思った以上によくないのは知っているデスよ……それでも……!!」

 

「奏……うむ。こんな事で仲間を喪うのは、二度と御免だからな……」

 

「その気持ちだけで今は十分だ。」

 

LiNKERを使用している第二種適合者の面々はコレで良い。だが……

 

「……私は……」

 

「━━━━セレナくんも同様だ。政治的に立ち位置が不透明な事もあるが、何よりも体力や連携訓練の不足を考えれば、正式装者として登録する事は許可できない。」

 

「……はい……」

 

「後は、()()()についてか……」

 

━━━━話を切り替え、手元の端末に映すのは、SONG本部内の一室にて保護している少女の監視映像。

 

「エルフナインちゃん、ですか……」

 

「確か、セレナを保護していた魔女……キャロル・マールス・ディーンハイムの所に、彼女も居たのだったかしら?」

 

「はい……私にはよく分からなかったんですけれど、ホムンクルス?という存在らしくて……キャロルさんは彼女にも一線を引いたような対応をしていました。」

 

「ホムンクルス……中世に偉大な錬金術師ヴァン・ホーエンハイム・パラケルススが造り上げたという人造生命の事かしら……?」

 

「……そこの所も含めて、彼女から事情を聴かなければならないな……」

 

一応、保護した際に最低限爆発物などを持っていないかのチェックはしたものの、身体検査などはまだなのだ。

……正直気は乗らないが……組織の長として、やらねばならない事だろう……

*1
うたの通りに美味しく作る為の手順はこちらを参考にさせていただきました。




必死の覚悟を握りしめ、最後の希望を届けんとした力のカード(エルフナイン)
彼女と戦姫の出逢いが導くのは、一筋の光明か、それとも……

そして、武器を握らぬ手を握りしめる少女の迷いと苦しみは、遂に彼女自身にすら牙を向ける。
━━━━命を質に取り、蒼き人形は嗤う。力を握れと。

どうすればいいのだろうか?どうあればいいのだろうか?
彷徨い流離うその苦しみは、奇しくも門を越えたとある少年の悩みに似ていて……

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