ある所に、望みながらも望まぬ子を抱える少女が居ました。
彼女は、とあるお金持ちに見いだされて海を渡り、内縁の妻として何不自由無く暮らし……そして、彼の子を身籠りました。
━━━━けれど、産まれた子を見たお金持ちは言いました。
『この子には私が求める力は無い。』と……
その言葉が、少女の運命を変えました。
内縁の妻として生活していた彼女に後ろ盾は無く、お金持ちである彼の屋敷を追い出されそうになったとしても、それを止めようとする人は、まだ幼い胎違いの息子一人しか居ませんでした。
そして……母一人子一人。見知らぬ異国の街で彼女は流離いました。
━━━━彼女は、どうすべきでしょうか?
◆◆◆◆◆◆◆
━━━━
轟々と鳴り響く風の音は已み、代わりに響き渡るのは、賛美歌の音色……
「此処は……教会?」
「……の、ようだね。」
目の前に立つのは、小さな教会。
十字架の目立つ煉瓦造りの聖堂だけでなく、その横には目立たぬようにしながらも、しっかりとした建物が立っている。修道士が生活する為に詰めている宿舎だろうか?
「……アンタ等、今どっから出て来たんだ?」
━━━━そうして、教会を見上げる俺達に、背後から声が掛けられる。その声に応じて振り向けば……
「━━━━■■ちゃん……?」
「……?今、何か言った?」
腕に赤子を抱きながら声を掛けて来たその女性の顔立ちが、あまりにも■■ちゃんに似ていたから。
思い出せない名前を、俺は、思い出せぬままに口に出してしまう。
「……いえ。知り合いに……似ていたもので。」
「……ふーん。ま、いいか。
━━━━どうせ、アタシの見てる幻覚なんだろうしね。」
「幻覚……?」
「そう。
……辛い現実から目を逸らしたからって、何度も何度もこの景色を見せつけられる……」
━━━━そう言って、女性は腕の中の赤子を教会の入り口へと置く。
……その有様はどこからどう見ても、子を棄てる母親の姿だった。
「……アタシはね。海外旅行にと出かけた先で、ある金持ちに見初められたのさ。既にあの男には本妻も息子も娘も居たから、内縁の妻としてだったけどね。
……アタシが望む物はなんでも与えてくれた。ブランド物に、使い勝手のいい使用人に、不自由のしない屋敷……
━━━━けど、この子が産まれた後、あの男は私に構う事をしなくなった……この子に、望んだ力が無かったからだって言ってたわ。
要するにアタシの血統が必要なだけで、アタシ自身は必要じゃなかったのさ。それも、上手くいかなかったらしいけどね……
……だから、アタシは本妻から追い出された。
女一人子一人、国籍は正式に取得した物じゃないから完璧に私生児扱い……保険も効かないし、就職だって出来やしない……」
━━━━それは、悲劇だった。
いつかどこかで、ボタンのかけ違いのように起きてしまった悲劇。
……俺が、きっと手を伸ばす事が出来なかった、いつかの回転悲劇。
「…………」
「……結局、ギャングの受け子として稼ぐしか無くてね。
それでも……辛かった。苦しかった。明日に希望なんて無い。昨日には後悔しか無い。
━━━━そして、今日にも悲嘆しか見つからない。だから……この子を棄てたのさ。あの日、聖なる生誕祭の夜に。」
そう、目の前の女性は吐き捨てる。過去を再現する目の前の景色を見つめながら。
「……それで、その後、貴方は……」
「売女の末路なんて決まってるだろ?
━━━━商品のクスリに手を出して……多分、
だから、最初はこの景色もクスリのせいでバッドトリップしちゃったかと思ったもんさ。
でも、終わらなかった。むしろ、この景色から目を背ける度に最初に戻されちまった。
こういうの、教会じゃなんて言うんだったかな……?」
「━━━━怠惰の罪。七つの大罪の一つとされ、《自らの為すべきことから目を逸らし、怠惰に耽った者が冠を背負い、煉獄山の周りを走り続ける》……」
女性の問いに答えるのは、悲しい目をしたヴァージルさんの声。
「……あぁ、なるほど。そりゃ妥当だ。
アタシは、やるべき事から目を逸らし続けたんだから……ゴメンね、
お母さん……ずっと間違えちゃってたみたい。
だからやっぱり……貴方には、幸せになって欲しい。
━━━━こんな、間違いだらけの過去なんて、
━━━━ヴァージルさんの声に納得したのか、一度は置いた赤子を彼女は抱き上げ、そっと抱きしめる。
━━━━その、赤子の顔が、俺には分からない。理解できない。
なのに。あぁ、なのに……ッ!!
その赤子が、■■ちゃんだと理解出来るッ!!出来てしまうッ!!
「その、子の名前は……」
「ん?あぁ……言ってなかったな。この子の名前は……
━━━━あぁ。それは、つまり。
「━━━━いいえ。もっともっと、カッコいい名前になりますよ。
だって、切歌ちゃんは……
━━━━だから、真っ直ぐに彼女の眼を見つめ、俺は告げる。
「……もしかして、キミは……この子の事を知ってるの?」
「━━━━はい。知っています。知って……居たんです。
助けたいと、手を伸ばしたいと、そう……心に決めた人です。
それを、思い出せた。間違いなく、それは貴方のお陰です。」
「…………そっかぁ。
━━━━羨ましいなぁ、切歌ってば。
こんなに素敵な旦那様を捕まえるなんて……やるじゃない?フフッ。」
抱え込んだ幼き日の切歌ちゃんに小声で呟く彼女の姿は、まるで聖母子像のように、美しくて。
「━━━━綺麗……」
「……フフッ、面映ゆいね。ホントに、この子が羨ましい……
━━━━キミ、名前は?」
「……すいません。俺自身の名前は、まだ思い出せていないんです。
だから、今はダンテ、と……」
「……そっか。私みたいに、気づけなくて彷徨ってるって感じ?」
「はい。そして、取り戻す為に……前に進むんです。」
━━━━目線を上げて、彼女の眼をまた見つめる。嘘は無いのだと、そう、言葉に乗せずとも告げるように。
「……じゃあ、約束。
━━━━
この子の
「━━━━はいッ!!」
━━━━ズキン、と胸が痛む。
まだ、なにか
「……なるほど。手の届かなかった悲劇を、こうして巡るんだね。
見てみたまえ、ダンテくん。
━━━━次の悲劇へ導く門だ。」
━━━━ヴァージルさんが示す先には、先ほどとは異なる色味をした門の姿……
「……はい。それじゃあ……」
「━━━━霧埜。
「━━━━霧埜さん。じゃあ……行ってきます……ッ!!」
「━━━━行ってらっしゃい。」
覚悟を改めて、新たな門の中へと俺は足を踏み入れる。更なる悲劇の基へ。
次なる悲嘆の只中へと……
◆◆◆◆◆◆◆
「━━━━ボクはキャロルに命じられるまま、巨大装置の一部の建造に携わっていました。
ですがある時、作業の為にアクセスしたデータベースを介してその装置が《世界をバラバラに解剖する》物だと知ってしまい……
キャロルの目論見を阻止する為に逃げ出して来たのです……!!」
狙い通りSONGに保護された
「……世界をバラバラに、たぁ穏やかじゃないなぁ……そもそも、そんな事出来るのか?世界ってつまり地球の事だろ?」
「はい。それを可能とするのが、錬金術です。
ノイズのレシピを基に造られたアルカ・ノイズを見れば分かるように、シンフォギアすらも例外としない《万物を分解する力》は既にあり……
その力を世界規模に拡大するのが建造途中の巨大装置、チフォージュ・シャトーになります……」
「……理論上は不可能では無いわね。19世紀末の科学者ニコラ・テスラは、共振装置によって固有振動数を合わせる事で《地球さえも割って見せる》と豪語したというわ。
問題は、世界規模に拡大されたその分解の力で何をするか、なのだけれども……」
……SONGの主任研究者である天津鳴弥さんの言う言葉に、ボクは答えを返す事が出来ない。なぜならば……
「……分かりません。ボクもまた、キャロルと同じように錬金術の術理を
キャロルのようにすべての知識や能力を統括しているのではなく、《シャトーを建造する》という目的に合わせて作られたに過ぎません……」
「……つまり、計画の一部しか元々知らされていない、という事か……」
「……ん?作られたって……?」
ボクの言葉に納得したような風鳴翼さんとは異なり、立花響さんはボクがホムンクルスとして作られた事が気になるのでしょうか?
「あ、はい。ボクはシャトーを構成する装置の建造に必要な最低限の錬金術知識……即ち《理解・分解・再構築》と、《照応》と言った基礎的な事だけを脳に電気信号として転送複写されたホムンクルスなんです。」
「……それってつまり……?」
「どういう事なんデスか……?」
「電気的刺激によって脳に特定の情報を刻み込む……《
「はい。大凡はそういう物と思ってもらって構いません。
……先ほどから述べている通り、ボクには計画の一部の情報しか
ですが、世界解剖の装置《チフォージュ・シャトー》が完成間近だという事は分かります……!!
お願いします!!力を貸してください!!
━━━━その為にボクは、《ドヴェルグ=ダインの遺産》を持ってここまで来たのです!!」
「ドヴェルグ=ダインの遺産……?」
━━━━ずっと抱えていた匣に刻まれた、ルーンによる
「アルカ・ノイズに……錬金術師キャロルの力に、対抗しうる聖遺物……魔剣、《ダインスレイフ》の欠片です。」
「━━━━ダインスレイフ、ですってッ!?」
「知っているのか、鳴弥くんッ!?」
「北欧神話に語られる、ドヴェルグの造り上げた魔剣の一つ……《ヘジンとホグニの伝説》において、ヴァルキュリアの一人であるヒルドを攫ったヘジンに対してホグニ王が抜き放ったとされる《抜けば必ず誰かを傷つける》魔剣よ。
前大戦のどさくさでアーネンエルベから紛失したと風のウワサで聴いていたけれど……まさか、錬金術師が保有していただなんて……」
「誰かを、傷つける……」
「……っつーか、順序がおかしくないか?
そのキャロルっつー錬金術師は、
なのになんだって今さら世界を壊そうってんだよ?」
雪音クリスさんの言葉は
「それは……ボクも不思議に思っていました。キャロルに問いただしもしたのですが……キャロルはそれを《成し遂げねばならぬ
「キャロルさん……どうして……」
「……だから、ボクはキャロルの計画を止めて、知らないといけないんです!!
何故、キャロルがこんな事をしようというのか……聖約とは、一体なんなのかについて!!」
━━━━きっと、それがボクの
◆◆◆◆◆◆◆
「━━━━画面は、エルフナインちゃんの検査結果です。」
「念のために彼女の……えぇ、彼女の詳細なメディカルチェックを行ったところ……」
「身体機能や健康面に異常は無く、また……インプラントや後催眠暗示といった怪しい所は見られなかった、のですが……」
「……ですが?」
━━━━個体名:エルフナイン。性別:なし。血液型:なし
構成元素こそ一般的な人間と同質ではあるが、全く以て……一般のヒトとは似つかない。
そんな事情を鑑みれば、
「━━━━彼女には性別が無いのよ。
エルフナインちゃん本人が言うには『自分はただのホムンクルスであり、決して怪しくは無い』……だそうよ?」
ボク達の後を受けてくれた鳴弥さんの言葉に返って来るのは、当然ながらの大合唱。
「……しかし興味深いわね。血液型が判別不可能となると、もしかして彼女の体内に流れているのは人工血液なのかしら?」
「確かに……通常のABO式血液型ならともかく、SONGのメディカルチェックでも判別不可能となれば、通常の抗体はほぼ存在しない……と考えてもいいのでしょうか?
人工血液の製造自体は現代でも行われていますが、やはりコスト面などで大量生産は難しいですし……もしもこの技術が流出した場合、大変な事になってしまうのでは……?」
「其処も頭痛のタネだけれど……私としては先日の逃走劇を思い出して今さら冷や汗が噴き出ちゃうわね……
幾ら人工血液や成分輸血によって輸血が簡単になったと言っても、エルフナインちゃんの場合は完全な新種の血液……もし、昨日の逃走劇でエルフナインちゃんが輸血が必要な程の大怪我をしてしまっていたら……」
━━━━その先は、言うまでもない。
輸血した血液が彼女……もう彼女で良いだろう。自認もどうやら女性系のようだし……の血に反応して凝集や溶血を起こしてしまえば……
「そう考えると、
「……幸運、ね……」
━━━━あおいさんの言葉を聴き、そう静かに呟く鳴弥さんの姿は、何故かいつかの了子さんのようにも見えた……
◆◆◆◆◆◆◆
「━━━━んで……コレが、ロンドンでアメノハバキリを破壊したアルカ・ノイズ……?」
「あぁ、我ながら上手く描けたと思う。」
━━━━そう言って首肯して来る
だってそうだろうッ!?このイラストッ!!どっからどう見ても時代劇の侍でしかねぇじゃねぇかッ!?
「んなッ……アバンギャルドが過ぎるだろッ!?現代美術の方面でも世界進出するつもりかッ!?
……実際の所、何割方なんすか、コレ?」
ダメだこりゃ。この人本気でコレで完璧だと思ってやがる。
部屋の掃除といい、なんか抜けてるよな……なんて、評価の修正を迫られるついでに隣の
「んー……四割くらい?顔はもっとデフォルメ効いてたし、刀も差しては無かったけど……そうだな。全体の雰囲気は確かに武士ッ!!って感じだったなー。
片手の解剖器官?だっけ?ソイツが棘になってて、それが伸びてくるんだよ。だから、刀ってよりはレイピアかもな?」
「マジかよ……錬金術師の美的センスが怪しく感じて来たんだが……」
そちらから返ってくる答えは幾ばくかの事実入りだという信じがたい物。
「……はいはい、話を戻すわよ。
━━━━目下の問題は、アルカ・ノイズを使役する錬金術師と戦えるシンフォギア装者がガングニールの二人しか居ないという事実よ。」
「……キャロルさん達と戦わずに分かり合うという事は……出来ないのでしょうか……」
━━━━数少ない戦力と数え上げられた
「━━━━逃げているの?アルカ・ノイズと独り戦う重圧から。」
……そんなバカの姿に何も言えないあたし達を尻目に、強く言葉を投げかける
「━━━━逃げているつもりなんかありません……ッ!!
……だけど……適合して、ガングニールを自分の力だと……この手に握る
この人助けの力で誰かを傷つけるのが……凄く、嫌なんです……ッ!!」
━━━━それは、覚悟を握る誰もが直面するジレンマなのだろう。
誰かを笑って傷つけられる人間は、この世界に間違いなく居る。だけどそういう奴だって、大抵はどこかで《アレは自分とは違う》と一線を引いているからこそ……握った力が自分を傷つけないだけなのだ。
だから、結局のところ。人が覚悟を握って拳を振るえば、その拳は誰かを傷つけてしまう。あたしがソロモンの杖を振るったように。
「━━━━それは……力を持つ者の傲慢だッ!!」
「おい、それは……ッ!!」
流石に言いすぎだ、と叫ぼうとしたあたしを制するのは、首を横に振る
「……それを優しさだと、
だが……その傲慢が齎す迷いは、いつか貴方の大切な人をも傷つける……
……それだけは、忘れないでちょうだい。」
「そんな……つもりじゃ……」
━━━━どちらの言い分にも、一分を越える理があり、信念がある。
ギアを砕かれたあたし達が其処に嘴を突っ込むのは……それこそ傲慢じゃないのか……?
◆◆◆◆◆◆◆
「━━━━どう思います?エルフナインちゃんの事。」
「……現状で断定するのは早計だが……怪しいという、装者の諸君の考えを頭から否定する事は出来ないな。」
━━━━SONG本部潜水艦内の一室。その暗がりにて、
「フフッ……どちらの可能性も考えるのがSONG司令の仕事……ですものね?」
「そうなるな。
……やはり、キミから見れば怪しいか?」
話題の対象は保護された少女、エルフナインについて。
「……えぇ。敵……敢えてこう言いますけれど、敵である錬金術師キャロル……彼女の狙いがギアを破壊する為の誘導と波状攻撃にあったとすれば……
そもそも
……そして、そんな状況でシンフォギアに比肩する程の存在からの襲撃をほぼ無傷で生き残った事を考えれば……」
「……ただの偶然、或いは、エルフナインくんが一枚上手だったという可能性もある。
それに、作戦実行までにエルフナインくんを見つけられなかったからこそ、アルカ・ノイズを投入する事で此方の戦力を分断させたという可能性もある。」
司令の言う事には、多くの理がある。同じアドリブであるのなら、《此方を囮とする》形でアルカ・ノイズを投入したのかもしれない。
「そうね……普通に考えれば、そうなのだけれど……」
━━━━何かが、私の脳裏に引っ掛かる。
けれど、その理由について深く考えようとすれば、まるで■■に関する事のように、思う端から思索をすり抜けていく……
「……そういえば、米国は今回の件について、なんと?」
彼等の中にはキャロル・マールス・ディーンハイムとコネクションを持っている者もいた筈だ。
「━━━━七彩騎士の一人が、経歴から考えるに錬金術師であるらしい。
だが、その七彩騎士はキャロルの本意については何も知らないと主張しているらしい。
他の七彩騎士を此方に戦力として回す案も、
「KOF……確か、七彩騎士の一人が主催する格闘技大会でしたっけ?
━━━━司令は、参加しようとは思わなかったんですか?」
「今回の一件があっては、な……
それに……」
「それに?」
「━━━━
《頼むから来ないでくれ。貴兄が米国に上陸すれば重大な外交問題になる》……だ、そうだ。」
それはつまり、司令の力が憲法どころか米国の国家安全保障法に抵触するという事を示唆しているという事で……
「……ぷっ、フフッ……アハハハハハッ!!
凄いじゃない!!弦十郎君ってば、遂に戦略兵器扱いされるようになっちゃったのね!!」
「笑いごとでは、無いんだがなぁ……」
◆◆◆◆◆◆◆
「━━━━私的には、ツイてるとか、ツイてないとかはあんまり関係無いと思うんだけど……」
「……えっ、うぇえ!?」
━━━━装者の皆が揃った翌日。学校の帰り道。
隣を歩く未来の言葉に、思わず大声を出してしまう
だって、
「……ビッキー、何をそんなに?」
「はぇ、うぇ……だって、ナニがどこに付いてるのかななんてそんな……」
「ツイてる、ツイてない。
確率のお話です……いいえ、もしかしたら幸運の話かも知れませんわね?
今日の授業……選択科目の
「まーたぼんやりしてたんでしょー?
……にしても、ミエル先生ってばホントに決闘占いに凝ってるわよねー……」
「私なんか、初手の確率計算の後のデッキトップが《死の代行者 ウラヌス》だっただけなのに、
『帰り道を変えなさいッ!!不幸な目に遭うわよッ!!』って散々言われちゃったもんね……」
「ミエル先生の普段の占いは信用していますけれど……皆での帰り道に不幸が転がっているとも思えませんし……」
「あ……あっはっはっは!!そうだよねぇ!!」
━━━━どうやら、私の早とちりの勘違いは流して貰えるらしい。
……良かった……エルフナインちゃんの性別がどっちで、その場合?……その……下に、
昨日を思い出してそんな事を考えてしまっていたなんて気づかれなくて……本当に良かった……ッ!!
「……もしかして、昨日も何かあったの?」
……小声で未来が訊いて来るけれど……エルフナインちゃんの事は、まだ言えない。
「……その、ごめん……」
「……いいよ。謝らなくても……」
「……色々あって、さ。」
━━━━私は、イヤだ。
どうしても、昨日のマリアさんの言葉に対する反発心が胸を衝く。
この手に握るガングニールは、この胸に宿る歌は……
「━━━━きゃあッ!?」
「━━━━ッ!?」
刹那。絹を裂くような悲鳴が聴こえて、振り返った私達の眼に入って来たのは……
レンガ道の脇に放り棄てられた、人々の姿……ッ!!
「━━━━ッ!!」
「━━━━聖杯に想い出は満たされて……生贄の少女が現れる……」
その姿は、話に聞いたオートスコアラーの暴虐の一端に他ならなくて。
見据える先の木陰から不思議な言葉を呟く蒼の姿は、あの日に見上げた……
「キャロルちゃんの仲間……だよね。」
「仲間という言い方は正確じゃア無いですけど、まぁいいでしょう。
━━━━そして、貴方の戦うべき敵でもある。」
「━━━━違うよッ!!私は人助けがしたいんだッ!!
戦いたくなんて無いッ……!!」
「チッ……この期に及んでなァんて石頭……
……で、もォ……」
━━━━カラカラと、音を立てて蒼の少女人形が掌の上で転がすのは、紅の球体が詰まった……結晶……?
掌を振るい、蒼の少女人形が、結晶を撒き散らす。
━━━━結晶が砕ける瞬間、地面に広がる、光の魔法陣。
そして、其処から立ち上がるのは……
『きゃああああああッ!?』
「━━━━アルカ・ノイズ……ッ!?」
「貴方みたいに
「コイツ、性格悪ッ……!!」
「あたし等の状況も良くないって!!占い通りの結果じゃない!!」
「このままじゃ……」
━━━━つまり、私が背に負う皆は人質だと。
「アんたの頭の中のお花畑を踏み躙ってア・ゲ・る。」
鳴り響く蒼の少女人形の指。その音に連動してにじり寄る……アルカ・ノイズッ!!
「くッ……!!」
━━━━戦いたくなんて無い。心の底から、そう思っている。
だけど、目の前の残酷な現実は待ってなんてくれない。だから、私は仕方なく、服の中からガングニールのギアペンダントを引きずり出し……
「━━━━あッ……カっ……Ba……ッ!!」
「━━━━響……ッ!?」
「━━━━ゲホッ!!ゲホッ!!」
━━━━胸の歌を、構えている筈なのに。
「……歌、えない……」
「━━━━えっ?」
「いい加減、観念しなよ……」
━━━━皆が、私にギアを纏えと言っているのに。
「聖詠が……胸に浮かばない……」
『えェッ!?』
「……あァ?」
「━━━━ガングニールが、私に応えてくれないんだ……ッ!?
……なんで、聖詠が……」
胸を衝く、想いと言葉に嘘は無い。
けれど、思い出せない悲しみは、踏み込む一歩を躊躇わせる。
迷い、流離い、彷徨う心に突き立つのは、苛烈なる槍と、光なる槍……
━━━━キミが信じて握るのならば、譲れぬ道に立つ壁さえも、刹那の間に砕け散るだろう。