戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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第九十三話 再奏のガングニール

「━━━━はい姉さん、あーん。」

 

「あ、あーん……」

 

━━━━SONG本部食堂にて。(マリア・カデンツァヴナ・イヴ)は何故か、セレナに手ずからサラダを食べさせられていた。

SONG本部の潤沢な予算が実現する新鮮なお野菜は美味しいのだけれど……

 

「ね、ねぇセレナ……流石に自分で食べられるわよ……?」

 

「それはそうだけど……マリア姉さんが日本に居てくれるのは、ひとまず今回の事件の間だけでしょう?

 ……不謹慎なのは分かっているけど、それでもマリア姉さんと一緒に居られるのは、嬉しかったから……」

 

「……そうね。私も、貴女と一緒に居られて嬉しいわ……」

 

━━━━それは、強さとは真逆なのかも知れない。

立花響には傲慢だなんだと高説を垂れたクセに、自分はこうして護りたいセレナと日々を過ごしている。

これはやはり、矛盾……だろうか。

 

思い出すのは、セレナの遺してくれたギアペンダントをマムからお守りと貰った日の事。

私は、あの日のセレナのように強さを貫きたくて……だが、その想いは空回りを繰り返してしまった。それに……

 

「……セレナ。貴方は……どう思っているの?彼女……キャロルの起こしたこの事件について……」

 

━━━━今回の事件を引き起こしたのは紛れもなく、セレナを保護していた筈の彼女なのだ。

自分達を実験体としていたFISの研究者達すらも護ろうとした優しいセレナが、こうして激突する事に心を痛めないとは思えないのだ……

 

「……私は、響さんと同じ気持ち。キャロルさんにも、きっと……なにか事情があるんだろうって思う。

 ━━━━でも同時に、マリア姉さんの言う事も……分からないワケじゃないの。

 出来なくても、ダメだと思っても……それでも、前に進まないといけない時はあるから……」

 

━━━━セレナが言うのは、あの焔の日の事。

出来るワケが無いと、そう叫んだ私を前に、セレナが命を掛ける選択をした、あの時の……

 

「……私は……貴女のように、強く輝けているのかしらね……?」

 

その決意の重さが、私には分かるから。

だから、サラダに刺すフォークの輝きすら、今の私には眩しくて……

 

「……私にとっては、マリア姉さんはいつだって輝いて見える自慢の姉さんだよ?」

 

「……それは……」

 

━━━━身内の欲目、という物なのかもしれない。でも、セレナの言葉を信じたい私も、勿論居る。

……ダメね。どうしても、考えがネガティブに向いてしまう。

それが何故かを想えば……頭の片隅に引っ掛かるのは、確かに居た筈の誰か(■■■■)の事。

 

……私自身が彼?の事を深く知っているワケでは無い。

だが、思い出せない記憶に附随する情報から類推して、彼が彼女(立花響)達にとって大事な存在……私にとってのセレナのような存在であろう事は理解出来る。

あの日、ドクターの欲望に私達の計画が犯され……もうセレナに逢えないと思った時の絶望。それを思い出せば……今の彼女達に前を向けと叱咤するのは、残酷な事だったのかもしれない。

 

━━━━けれど、それでは……かつての私達と同じ。過ちに気付く事も出来ず、状況に流されるだけで、伸ばした手も届かないかもしれない……

 

グルグルと澱んだ思考は、美味しいサラダの味も一時だけ忘れさせてしまって……

 

━━━━瞬間、鳴り響くアラートの音。

 

『━━━━ッ!?』

 

食堂にも設置されている表示板に現れる文字列、それは……ッ!!

 

「アルカ・ノイズ……ッ!!私は指令室に行くわッ!!セレナは……」

 

「うん。私も指令室で待機するね……ッ!!

 出撃は許可されないかも知れないけれど……それでも、何も知らないよりはずっといいからッ!!」

 

「……そうね。行きましょうッ!!」

 

頷き合って、私達姉妹は走り出す。SONG本部潜水艦内の指令室へと……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━アルカ・ノイズの反応を検知ッ!!座標を絞り込みますッ!!」

 

「エルフナインちゃんからの情報で、補足精度が格段に上がっている……ッ!!」

 

鳴り響く警報、その原因は錬金術師達が放つアルカ・ノイズが起動する際に発するエネルギーの波形パターン。

(藤尭朔也)はそのデータをSONGに使用が許可されている複数のレーダーから感知、その反応の位置を三点測量の応用で特定する。

 

「ぬぅッ……!!先手を取られたか……ッ!!」

 

「急ぎ、装者達に対応指示を……」

 

━━━━そこまで言いつのった所で気付く。

対応指示を出すべきシンフォギア装者達が、既に残り少ないという事に。

 

「調ちゃんと切歌ちゃんのコンディションでの戦闘行為は無謀です……であれば……」

 

「━━━━鳴弥くんッ!!」

 

此方の情報処理を受けて司令が下す判断は、医務室に詰めていた鳴弥さんへの確認。

 

『はいはい。LiNKER:モデルKの準備は完了してるわ。

 運が良かったわね。今日が定期健診の日で……ッ!!』

 

「頼んだッ!!足は此方で用意するッ!!

 ……だが、増援到着まで響くんが耐えきれるか……ッ!?」

 

━━━━こうして、自らの出来る最善を目指して人事を尽くす僕達の前に横たわるのは、最大にして最小の不安要素。

それは、人の心。

 

『━━━━ガングニールが、私に応えてくれないんだ……ッ!?

 ……なんで、聖詠が……』

 

「━━━━歌わないのではなく……」

 

()()()()の……ッ!?」

 

『シンフォギア・システムの最大の強みにして、同時に最大の欠点……それは、装者の深層心理を歌と奏でる事で聖遺物の力を引き出すブースターとするという《聖歌受領(フォンゲン・ゲサング)》機能そのもの……

 融合症例で無くなった響ちゃんがギアを纏い続けられた最大の理由は、()()()()()()()の救助活動だからこそ……元より、あの子は誰かと戦う事になんて向いていないのに……ッ!!』

 

カラカラと車椅子を動かしながら状況をモニターしていた鳴弥さんの言葉は、この状況の深刻さを端的に表していたと言えるだろう。

━━━━元より、立花響に敵なんて居なかったのだ。

 

「クッ……緒川ァ!!危険だが……頼む……ッ!!」

 

「━━━━心得ています。忍びの本懐、遂げて見せましょう……ッ!!」

 

━━━━それは、即ち。

命を賭してでも彼女を護れ、という言外の命令。

アルカ・ノイズの分解器官に対して、通常の防御は一切の意味を為さない。

元より通常のノイズに対しては触れただけで即死であったことを考えれば多少は相性が良いものの、それでも。一度捕まれば緒川さんと言えど命はない。

 

だが、それでも構わない。と、彼も走り出す。

逆巻く血風が吹き荒ぶ、決死の戦場へ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━ギアを纏えないィ?

 

このガリィちゃんに対してンな雑な誤魔化しをかますなんて、トンだクソ度胸……だなんて思ったその言い種は、しかし見れば見る程真実味を帯びて行く。

 

しかし、それでは困るのだ。

マスターが求める万象黙示録……その陰に隠された万象追想曲(バベル・カノン)を紡ぐ為には、シャトーを起動させる原動力である呪われた旋律が必要不可欠……

とあれば、《シンフォギアを強化しなければオートスコアラーには敵わない》という意識を持ってもらわなければ困る。

断じて、こォんな腑抜けのペンダントを砕くだけの子どものお使いでは済まされないという事……

 

━━━━だ・っ・た・ら・ァ☆

 

「此処は試しに仲良しこよしを(アルカへスト)と挽いて見るべきかァ……ン?」

 

━━━━アルカ・ノイズに突撃を命じようとするアタシの枕を潰して鳴り響く、革靴の音。

 

「━━━━あー、もうまどろっこしいなぁッ!!」

 

『……えっ?』

 

「アンタと立花がどんな関係なのか知らんけど、ダラダラやんのならアタシ等巻き込まないでくれる?」

 

「お前……ッ、コイツの仲間じゃないのか……ッ!?」

 

女王のように居丈高に。少々違(アルカと言)えどノイズはノイズ。その存在に怯える姿すら見せずに、その女は宣言する。

 

「じょーだん!!たまたま帰り道が同じダケ……ほら、道を開けなよ━━━━」

 

━━━━コイツ……ッ!?なんつークソ度胸……ッ!!

……だが、その必死の努力。いじらしくてなんとも……

 

「……くっ……えぇいッ!!」

 

━━━━だからこそ、その努力に免じてアルカノイズを下げ、包囲を緩めて見せる。

 

「━━━━今ッ!!」

 

「行くよッ!!」

 

それを待っていたのだろう。少女達は一声の下に走り出す。

一見正しく見えるその判断……だ・け・どォ……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

走る。走る。走る。

急な展開に置いて行かれないように、(小日向未来)達は走る。

 

「━━━━アンタ(詩織)って、変な所で度胸あるわよねェ!?」

 

「去年の学祭もテンション違ったし!!」

 

戸惑う私の手を引いて駈ける皆の会話は、先ほどまでの気迫とはまるで違って……

 

「じゃあ……さっきのはお芝居!?」

 

「━━━━たまには、私達がビッキーを助けたっていいじゃないッ!!」

 

「ふふっ……我ながらナイスな作戦でした!!」

 

虚を衝かれたからか、あの人形もその恐ろしげな動きを止めて……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━と、見せた希望(ヒカリ)を此処でバッ……サリ摘み取るのよねェ……ッ!!」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━いないッ!!

 

『━━━━あぁッ!?』

 

此方を逃がしたのもわざとなのか。

動きを取り戻した蒼の人形は迷う事無く腕を振り、ノイズらしき存在を此方に差し向けてくる……ッ!!

 

その動き……今までのノイズとは違う?槍状に変形して突撃してくる事は無く、白い布のように輝く部分を伸ばして振りかざして来る。

━━━━そして、接触。

 

「━━━━溶けた……ッ!?」

 

「━━━━詳しい説明は今は出来ない……でも、あの白い部分には絶対に触れちゃダメッ!!だから……早く逃げてッ!!」

 

━━━━震える唇を、無理矢理に押し込めたような声音。

その叫びを聴くだけで、響が無茶をしているんだって、私には分かる。

 

「響……ッ!!」

 

「やらなくちゃ……やらないと……逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……ッ!!逃げちゃ……あッ!?」

 

━━━━けれど、その無茶の代償は、響自身に降りかかってしまう。

道の舗装に蹴躓くなんて、最近の響なら絶対にしないのに。どうして……この大事な瞬間に、そんな事が起きてしまうの……?

 

「━━━━上げて落とせば、いい加減戦うムードにもなるんじゃないかしらァン!!」

 

「こんな……アニメじゃ無いんだから……ッ!?」

 

「ギアが……ッ!!」

 

ギアペンダントを放り飛ばしてしまいながら倒れる響に向かって、その輝く腕を伸ばす、ノイズらしきモノ。

急制動。間に合え……ッ!!

だって、此処で響に手を伸ばせなかったら、私は……ッ!!私は……ッ!!

 

━━━━手を伸ばす事、諦めたくない……ッ!!

 

「━━━━悪いが……此処から先は通行止めだッ!!」

 

━━━━けれど、けれども。

ノイズらしきモノが響の身体に触れる事は無い。なぜならば……

 

━━━━戦乙女(ガングニール)が、ノイズらしきその姿を大地を貫き、突き立てた……その上に立っていたのだから。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━ノイズとアタシ(天羽奏)の関係は複雑だ。

アタシから家族を奪った憎い仇であり……血反吐を吐いてでもシンフォギアに適合せんと藻掻いた原動力でもあり……同時に、仲良くフィーネに利用されていた繋がりもあり……

━━━━けれど、ノイズが機械仕掛け(ロボット)だったと知って、そんな複雑な関係の上に立つアタシの感情は、どうにもやり場を喪ってしまっていたのだ。

 

そして……フロンティア事変。その果てに、バビロニアの宝物庫は閉じられた。

ノイズの災禍はSONGの知る所では全くなくなり……世界から、アタシみたいにノイズへの復讐を握った咎人は居なくなる……筈だった。

 

それを覆したのが、錬金術。人がかつて縋ったという……異端の力。

細かい事は聞いても分からなかったが、アタシにとって大事な事はただ一つ。

 

━━━━人の身でノイズを造り上げ、それを振るう。アルカ・ノイズという存在がこの世に有るという事実だけ。

 

……赦せるものか、と叫ぶ心を、鋼の装甲で押しとどめる。

この身を焦がす《憤怒》。その根源。

人を否定する為にノイズを振るう者━━━━目の前の、蒼を睨みつける。

 

「━━━━ハァッ!!」

 

背に護るべき響達を背負うアタシの脇を通り抜け、後詰めとして回転しながら停車する車から飛び出すマリアを脇目に見ながら、ノイズ共への牽制も兼ねてアタシは地に降り立ち、右腕に握る無双の一振り(アームドギア)を振り払う。

 

「━━━━Granzizel bilfen gungnir zizzl(溢れはじめる秘めた熱情)……ッ!!」

 

「マリアさん……ッ!?」

 

「━━━━行くぞッ!!マリアッ!!」

 

「了解ッ!!

 ━━━━このッ!!胸に宿った……信念の灯はァ……ッ!!

 グッ……誰もッ!!消す事は出来やしないッ!!永劫の……(ブレイズ)ッ!!」

 

━━━━HORIZON†SPEAR━━━━

 

━━━━けれど、響が取り落としたペンダントを借り受けて歌うマリアの声音には、痛みの色。

LiNKER無しでのギアの起動。それが齎す負荷の大きさゆえ……だが。

 

「それを知らないアタシじゃあ……無いッ!!

 おかわりはアタシが引き受けるッ!!」

 

「なァらお望み通り、(おォお)盛りでくれてアゲルッ!!」

 

アームドギアたる槍から放たれた一閃。その爆発で響達を追いかけるアルカノイズは消し飛んだ。

だが、それを補うように蒼の人形は手元に宝石をジャラ付かせ、地へと放って新たなアルカノイズを召喚する……ッ!!

 

『緒川さんとマリアさん、並びに奏ちゃん、現着ッ!!』

 

『両者、ガングニールで交戦開始(エンゲージ)ッ!!』

 

『マリアくんッ!!奏ッ!!発光する攻撃部位こそが解剖器官ッ!!

 ━━━━気を付けて立ち回れッ!!』

 

通信の先から聴こえる、ともすれば丸投げにも聴こえるその声の……

 

「━━━━裏返しなら、信頼だよなッ!!」

 

「聖光のッ!!小夜曲(セレナーデ)ッ!!

 (ち・か・ら)よ……宿れェェェェッ!!」

 

━━━━大上段ッ!!

アタシが袈裟懸けにして右の三体を葬る合間に、マリアもその大ぶりな一撃から、即座に身を翻してさらに二体のアルカノイズを瞬殺するッ!!

 

「想定外に次ぐ想定外……捨てておいた第二種適合者(ポンコツ)共が意外なくらいにやってくれるなんてェ……」

 

「━━━━正義の為にッ!!悪を……貫けェェェェッ!!」

 

「━━━━曇りなき青い空を、見上げ嘆くより……風に逆らってッ!!

 輝いたッ!!未来へ帰ろう……ッ!!」

 

しかし、迫りくるアルカノイズから後方を護り抜くには、このままの大振り一対では抜けられる……故に交わしたアイコンタクトは、一瞬。

四肢に力漲る様子のマリアがアルカノイズ目掛けてアームドギアを投げ、それを……

 

「━━━━アタシが、使わせてもらうッ!!」

 

━━━━アームドギアを四肢へと戻したアタシが掴み、振り抜くッ!!

勢いで三体のアルカノイズを蹴散らし、その間にディフェンスを行ったマリアへとアームドギアを投げ渡し、その擦れ違いざまを回転に変えて人型アルカノイズへ足払いを掛ける……ッ!!

 

「……私のガングニールで、マリアさんと奏さんが、戦っている……」

 

━━━━見てるかッ!!響ッ!!お前の教えてくれた……繋ぐその手がアームドギアなんだって事ッ!!

今度は、アタシ達が見せてやるッ!!この背中でッ!!

 

「誇りッ!!とッ!!(ち・ぎ)……ッ!?」

 

━━━━けれど、マリアの握りしめたアームドギアの一撃は。蒼の人形が翳す手に集まる力によって、止められてしまって……!!

 

「━━━━それでもッ!!」

 

「━━━━届かせてみせるッ!!」

 

だが、マリアもアタシも。諦める気など毛頭無い……ッ!!

アームドギアの外装をパージするマリアを見上げながら、アタシが拳で狙うのはがら空きの腹━━━━ッ!!

 

「ふッ!!」

 

「はぁッ!!」

 

━━━━それは、まさしく必殺の構えだった。

翳したその手ごと、槍の外装と共に弾き飛ばし、隠し槍を叩き込むマリア。

その陰を縫うように下段から強襲を仕掛け、手刀を叩き込むアタシ。

それは、見せた事のない一手であり、奇手だった。

 

━━━━だと、言うのに……ッ!!

 

「届か、無い……ッ!!」

 

━━━━たった一片。たった一片ずつの氷の六角形(ヘキサゴン)が、アタシ達の必殺を止めていた。

 

「ぅふ。へェ……?なァんだ、やっぱりこの程度ォ?なァらぁ……」

 

━━━━言葉に伴い、増殖する氷の六角形(ヘキサゴン)……ッ!!

 

『━━━━ッ!?』

 

「━━━━アタマでも冷やしゃぁぁぁぁッ!!」

 

爆発ッ!!いや……氷を変えたのか、水にッ!!

 

『ぐああッ!?』

 

「くっ……」

 

「クソッ……!!」

 

火花と共に足先を滑らせながら、アタシとマリアは後退を余儀なくされる。

━━━━水の猛威ッ!!水圧や大河の氾濫に代表される、水と言う物質の持つ質量の暴力ッ!!アレはまさにその再現だッ!!

 

「んー……決めた。そっちのダルマは放っておいていいけどォ……ガリィの相手はアンタよ。」

 

「クッ……」

 

敵は健在。なれど此方は満身創痍……特にマリアだ。

━━━━だというのに、蒼の人形が指名するのはアタシでは無く……ギアからも火花を散らすマリアだった。

 

「ナメ……てんのか……ッ!!」

 

「アヒャハハハ!!とォぜん!!甘いキャンディを舐めつつゥ……食べる時は美味しい物優先に決まってるじゃなァいッ!!」

 

━━━━瞬間。声を残して、目の前に居た筈の蒼の人形が消えた。

違うッ!!足下を氷と変じての高速移動の跡……ッ!!一つ、二つ、三つ、四つ……音と合致したその稲妻のようなジグザグ軌道。その、狙いは……ッ!!

 

「マリアッ!!」

 

「あっ……」

 

━━━━届かない。届かない。手を伸ばしても、伸ばしても。

 

「ぐぅ……がぁァッ!?」

 

「んなァッ!?」

 

━━━━けれど、けれども。意趣返しにか胸元を狙った蒼の人形の氷刃は、突き刺さる前に目標を見失う。

 

「ギアの限界か……ッ!!」

 

どうする。どうするべきだ天羽奏……ッ!!

限界を迎えてギアが強制パージされたマリアはもう戦えないッ!!

非戦闘員を更に抱えて、あの猛威を前にどう立ち向かうッ!!

 

━━━━絶唱を、歌うべき時が来たんじゃあ無いか……ッ!?

 

「うぅ……ハァッ、ハァッ……!!」

 

「……無理矢理無理繰りにギアを纏って……それでもこの程度……

 なァによコレェ。マトモに歌える奴が、歌えなきゃ一人で立てもしないダルマ一人だなんてェ……聴いてないんですけどォ!?」

 

だが、目の前の蒼の人形はトドメを刺そうという気配も見せぬまま、その氷刃を砕き散らす。

 

「ンだと、コラァ……ッ!!」

 

「なァによ、文句あるワケェ?ガリィちゃんは確かに弱い者イジメがだァい好きだけどさァ……

 こんッな興醒めなオチは大ッ嫌いなワケ!!ッたく。クッソ面白くないッ!!」

 

━━━━言葉よりも速く、足下にアンプルを放り棄てる蒼の人形。

 

「待て……ッ!!」

 

それが逃走の合図と分かっていても、マリアが相手の目の前で倒れ込むこの状況がアタシの追撃の手を鈍らせる……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「空間移動……アレもまた、錬金術の……」

 

━━━━緒川さんに奏ちゃんを託し、途上で待機している装者達と合流しながら辿り着いた指令室に入った途端に見えたのは、虚空へと消えて行く人形の姿……

藤尭くんの驚愕も尤もだ。(天津鳴弥)からしても、あの技術は一見埒外に見える……

 

「現代に新型ノイズを完成させるとは、異なる位相に存在する、《幾何学基礎論(ヒルベルト・プログラム)》に反する事象定理にすら干渉する技術を備えているという事です……」

 

ヒルベルト・プログラム……ドイツの数学者ダフィット・ヒルベルトが提唱した23の問題提起の二番目であり……細かい所を省いてザックリ言ってしまえば、《数学というスケールにおいて、真となる命題は矛盾しないという事の証明》であり、現在も解決されたとは言い切れない(特に異端技術が関連する場合、櫻井理論を代入する事で一応の矛盾は解決するものの直観に反する処理が頻発する)。

そして、それに反する事象……それこそが錬金術の秘奥であり、アルカノイズの解剖器官や、そもそものノイズの位相遷移機能に繋がっているのだろう。

 

「━━━━んな事より!!皆、無事なのかッ!?」

 

「大丈夫。駆けつけたマリアさんと奏ちゃんがガングニールを再び纏って敵を退けてくれたわ。」

 

「マリアがデスか!!」

 

「━━━━でも、それってつまり、私達のように……」

 

「シンフォギアからのバックファイアに自分を(いじ)めながら、か……無茶をしてくれる……」

 

「マリア姉さん……」

 

……己の無力さに、私は拳を握りしめる。

セレナちゃんのギアも半端にしか修理出来ず、ウェル博士のように皆にあったLiNKERを製造する事も出来ない……

━━━━それでも、出来る事を積み重ねていかなければならない。背中を見せて立つ者の一人として……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━もしも、(マリア・カデンツァヴナ・イヴ)が、ガングニールを手放して居なければ……

いいや、それは未練だな……

 

「クッ……」

 

痛みに軋みをあげる身体に鞭を打ち、私は立ち上がり、背後で気圧されていた少女達に声を掛ける。

 

「……怪我は無い?」

 

「はい……だけど、マリアさん達が傷だらけで……」

 

「歌って、戦って、ボロボロになって……大丈夫なんですかッ!?」

 

「ハハハ……大丈夫さ。むしろコッチの方が動きやすくて楽でいいね。」

 

……強いな、天羽奏は。

四肢を喪ったという重い枷を、護るべき少女達に気づかせないように話せるなんて……

 

「キミのガングニール……」

 

「……はい……」

 

━━━━私の手からギアペンダントを受け取る少女の顔は、一目見て分かる程に蒼白だった。

 

「━━━━コレは、私の受け取った……誰かを助ける為の力……なのに……どうして……」

 

……それは、無理もないだろう。

元よりこの少女は、戦いに向いてなど居ないのだから。

だが……

 

「━━━━そうだ。それは、誰かを助ける為の力だッ!!他の誰でも無い……お前だけが握れる力ッ!!

 だから━━━━目を背けるなッ!!その力で誰かを助ける為に、その誰かを傷つける者を打ち砕く為にッ!!拳を堅く握らなくてはならない時もあるという事実からッ!!」

 

━━━━残酷な世界の現実は、少女の力を求めて牙を剥く。

だから……だからこそ、目を背ける事は出来ないのだ。巻き込まれてしまった少女が本来負うべき責任などでは無いとしても。

……その力を振るわねばならない時が、いつか来るのだという事を……ッ!!

 

「目を、背けるな……でも……」

 

思わず掴みかかってしまった私の視線に耐えきれず、少女は目を伏して黙する。

……あぁ、彼女の心に澱む闇を、如何にすべきなのか。共に立ち、その手を握る()()が、もし居たのならば……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━マリアさんが響の肩を掴んで叫ぶ事は、きっと正論なのだろう。

でも……お願いマリアさん!!顔の血を拭いて!!

ギアの反動で流れたその血化粧が相まって、今のマリアさんの迫力はまさに世界級(ユニヴァーサル)!!

響じゃなくても目を合わせ続けるなんて怖くて出来ないよ……

 

「━━━━マリア、ストップ。」

 

そんな重圧(プレッシャー)の中で、真っ先に動いたのは、ギアを纏ったまま事態を静観していた奏さんだった。

 

「天羽奏……ッ!!だが……ッ!!」

 

「今のアタシ達に時間が無い事は百も承知さ。でもな……こういうのは、時間を置かないと受け入れられない事だってあるんだよ。

 それに……」

 

「それに?」

 

「……今のマリアに凄まれたらアタシだって言葉に詰まる事間違いなしだしなー。

 おーい、緒川さーん!!拭くもの貸してくれないかー?」

 

奏さんはやっぱり凄い……この状況でマリアさんを諫めつつ、オマケにマリアさんの血化粧にまで言及している……

 

「あっ、はい!!」

 

「…………もしかして……」

 

「歌舞伎役者もビックリなむきみ隈だぜ?」

 

「……そう、か……すまない。世話を掛けた。」

 

マリアさんと奏さんの会話は短かったが、それだけでお互いに通じ合ったらしい。

 

「……ふぅ。

 あー、んじゃ……すまん、皆。今回急いできたんで車椅子用意してないから……あと、よろしく……」

 

そう言って奏さんは近くのベンチに座り込んで……って、もしかして……!?

━━━━光と共に、ギアが解けて……その中から現れたのは、SONGの入院着に身を包んだ奏さんのあられもない姿……!?

 

「……ど、どうしよう……緒川さんからスーツの上着を借りてこないと……!!」

 

「……ヒナ、割と手馴れてるね……」

 

「私達は呆気にとられるばかりでしたのに……」

 

……そういえば、何故だろう?響が人助けに走るから、それを助ける為……?

ううん。それだけじゃない……それだけじゃない筈なのに……それが、思い出せない。

……なんだか、私までモヤモヤする……




━━━━何故?どうして?
運命に翻弄された少女の心を映すように、雨は降りしきる。

君という音、私という音。
いつか気づいたはずなのに、指の間から零れてすり抜けてしまった、拳を握る理由(ワケ)

だからこそ。憤怒の槍と共に、希望の槍は降りしきるそのアメごと切り裂いてその姿を現す。
━━━━此処に紡ぐは古きにして新しき双槍合唱(デュエット)
対なる奏の━━━━ガングニール。
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