ある所に、幸せな家族が居ました。
考古学者の父親と、同じ仕事をする母親。そして……可愛い可愛い、娘が二人。
娘たちはある日、父親の研究が見たいと言いました。
なんてことはない、子供らしい我儘。快諾した父親も、子供たちも、みんな、みんな笑顔でした。
━━━━けれど、そうして研究を見に行った日に、少女は一人になってしまいました。
ノイズが急に現れて、父親を、母親を、妹を……目の前で、灰に変えてしまったのです。
少女は怒りました。
怒って、怒って、ノイズを必ず殺してやると誓いました。
残ったのは、憤怒に燃える焔のように紅い少女が、一人……
━━━━それから、時が流れました。多くの事を少女は知りました。
ノイズの襲撃が仕組まれていた事。親身になってくれた恩人こそが真の仇だった事。
そして……ノイズが、造られた兵器でしか無かったという事。
復讐を誓った焔は、されど矛先を喪ってしまったのです。
━━━━彼女は、どうすべきでしょうか?
或いは、復讐を完遂する為にいずれ蘇る仇を待ち続ける?
或いは━━━━
◆◆◆◆◆◆◆
━━━━歩く、歩く、歩く。
「此処は……日本の、山……?」
「……の、ようだね。ボクの居た欧州の森とは植生が大きく違うようだ。
けれど……」
傍らでヴァージルさんが呟く理由は、山の中腹と思われる目の前にある《異物》の物。
「遺跡……ですね。それも、探索の手も入っているようです。」
見た所、古い遺跡……それも、古墳のような物だろうか?
その入り口が、俺達の前にぽっかりと口を開いていた。
「あぁ……かなり古い物だが……うーむ、自然石を使っているのは土地柄ゆえか?
……惜しいなぁ!!今の私が過去の
「これも、誰かの記憶……なんですかね?」
先ほどの霧埜さんのように、煉獄山はかつての誰かの記憶を再現しているとみていいだろう。
俺が関わった事のある《誰か》と縁深く……そして、俺が手を伸ばす事が出来なかった筈の、かつての誰か。
「……だろうね。となれば……」
「━━━━其処に、誰か居るのかい?」
そんな折に、遺跡の闇の中から聴こえて来たのは、見知らぬ男性の声。
きっと、彼こそが此処に俺達が呼ばれた理由だろう。
「はい。此処に二人。」
そう思った俺は、
「━━━━キミは……鳴弥くん、か……?」
けれど、近づいて来た彼は、俺の顔を見て、
「━━━━ッ!!」
━━━━頭痛。認識よりもなお早く。
『はぁい!!■■ってば元気してたー?』
『……一応、親として訪ねておくけれども。ほんっとうにいいのね?
改めて言うまでもないけど、それを教えるという事は、貴方の一挙手一投足が日本政府直轄機関の監視の基に入るのよ?』
『━━━━■鳴。』
脳裏を過ぎり、占めて行く記憶。
眼に映るのは、黒髪を長く伸ばした、美しい女性の姿。
「……いや、顔つきは似ているが……そうか、キミは……鳴弥くんの息子、か。」
「━━━━あぁ、そう……なんですね……」
━━━━気が付けば、俺は、はらはらと涙を流して泣いていた。
名を呼ばれ、結びついた記憶が、
「━━━━なるほど。だから私なのか。」
「貴方は……いったい……?」
「私は
━━━━この煉獄山において、私の娘が燃やした《憤怒》と結びついた男だよ。」
◆◆◆◆◆◆
━━━━ゴトゴトと、轟々と鳴り響く音が、広い空間に反響する。
そこは、機械と機構で組み上げられた玉座だった。
大小の歯車で組み上げられた機構達。まるで、世界の総てを記す時計の中に放り込まれたような錯覚する巨大な空間……そこに玉座はあり、彼女はそこに座していた。
━━━━そして、玉座の前に広がる人形舞台。その一角。
蒼の立つべき台座の足下に広がる魔法陣。
そして、現れるは蒼の人形━━━━
「……ガリィ。」
それを見据える玉座の主の眼は、冷たく、鋭い。
「━━━━そォんな顔しないでくださいよォ。
ロクに歌えないのと、歌っても大した事無い奴と、
あーんな歌を毟り取った所で、役に立ちませんって。」
━━━━蒼の人形の言い分は、されど
万象黙示録……否、その陰に隠された
力を発揮出来ぬシンフォギアを砕いたとて、それは《装者の力不足》が原因であるとも取られかねないのだから。
「……自分が作られた目的を忘れていないのならそれでいい。
━━━━だが、次こそはアイツの歌を叩いて砕け。これ以上の遅延は計画が滞る……」
「レイラインの解放、その前段……分かってますとも。
ガリィにお任せです☆」
「……お前に戦闘特化のミカを付ける。向こうも先ほどの一戦を考慮して此方の戦力を分析するだろう故だ……いいな?」
「━━━━いいゾー!!」
玉座の主の下知に応えるのは、しかし蒼では無く、
「そっちに言ってんじゃねぇよッ!!
……チッ……せめてあの時、ハズレ装者のギアが解除されなければ……」
紅の人形、ミカ・ジャウカーン。
四大の一つ、火を司る戦闘特化の
紛れも無い最強の自動人形が、遂にその力を揮わんと動き出す……
◆◆◆◆◆◆
━━━━どうすればいいんだろう。
灯りを殆ど落とした部屋の中、いつもなら安心していられる筈の、二段ベッドの上で。
「━━━━眠れないの?」
「あ……ごめん。気を使わせちゃった……」
だけど、そんなのはやっぱり、隣で一緒に眠る未来にはお見通しだったみたい。
「━━━━今日の事を、考えてるんだよね。」
「……戦えないんだ。歌を歌って、この手を握って、戦う事が……
私しか居ないって、分かってるのに……」
━━━━怖いんだ。
歌を握る事が出来ない私の弱さが、皆を巻き込んだって、分かってるのに……
握り込んだ拳が震えるのは、きっと怖いから。頭の中、ぐちゃぐちゃで分からない。
でも━━━━
「━━━━私は知ってるよ。」
触れる手の感触、未来の手……
「響の歌が誰かを傷つける歌じゃないって事。
そして━━━━
「あっ……」
握られた手、未来が頬に寄せる。
━━━━あったかい、な……
━━━━こんな、あったかい繋がりが。なにか、大切なモノが……あった、ような……
「……お兄、ちゃん……」
夜の闇の鏡から目を逸らして、睡魔に取り込まれる、その一瞬。
なにか、とても大事な言葉を、口ずさんで、いたような……?
◆◆◆◆◆◆
━━━━あの事件から、半年の月日が経った。
病室のカレンダーを見れば分かる筈なのに、
「ゴメンね、マム。帰国したらすぐに顔を出すつもりだったのに、遅くなっちゃった。」
「ふふっ、気にする事はありませんよ、マリア。
……事態の推移は聞いています。私も遠隔ではありますがSONGにアドバイザーとして詰めさせてもらう予定です。」
だが、世界は私達の周回遅れなど気にも留めず、新たな難題を叩きつけてくる。
マリア達が揃って見舞いに来てくれたのも、その一環。
SONG本部とこの病院の通信による連携を密にする為の通信設備設置の護衛も兼ねてのことだ。
「はい!!お見舞いのお醤油デース!!マムの大好きな日本の味デスよッ!!」
「私はお見舞い向きじゃない、って反対したんだけど……常識人の切ちゃんがどうしても、って……」
「おぉ……素晴らしいですね……!!」
そんな中、花束と共に切歌が出してくれるのは、この半年の間決して見る事も叶わなかった深みのある褐色の醤油……ッ!!
「━━━━あーッ!!切歌さんッ!!ダメですよッ!!」
━━━━だが、切歌の腕からそのボトルを受け取らんとした私の前で、その醤油は掻っ攫われる。
「うぇ!?どうしたデスか、セレナ!?」
「お見舞いだからってマムに醤油を与えないでくださいッ!!」
ずびしっ!!と切歌に指を指しながら、抱えた醤油のボトルを私から隠すのは、同じ病院に通うセレナの姿……
「うぅ……入院してからもう半年……そろそろ醤油を解禁しても良い頃では無いでしょうか……」
「それはお医者様が決める事ッ!!
そもそも、ボトルで貰ったらマムは料理の色まで変えちゃうでしょッ!!」
「くっ……成長しましたね、セレナ……」
私を諫めるセレナの言葉は、
主治医からは醤油解禁の言葉は未だ引き出せていない。この状況で醤油を手に入れたとしても、早晩取り上げられてしまうだろう……
「━━━━ですが、ありがとうございます。切歌。この醤油が使える内に必ず退院してみせますから。
その時には、きっと一緒に卵かけごはんを食べましょうね?」
「━━━━はいデスッ!!」
だから、明日の約束を。
そんな、出来る筈の無かった事すらも、今の私には出来るのだから……
「こほん……それと……宇宙に射出された事でネフィリムとの融合を逃れたフロンティアの一区画……あそこから持ち帰って来た月遺跡に関するデータなのだけれど……」
「えぇ、それも多少は聴こえて来ます……日本や米国を含めた、各国調査機関によって調査がなされていると。」
「日本政府もなにかしらを掴んでいるようなのだけれども……機密情報という事でSONGには概要しか知らされていないと……」
「……でしょうね。」
━━━━あの日、射出されたフロンティアの第三艦橋で見たデータを思い返せば。それも当然であろうと分かる。
星を巡るヒカリの道……恐らくは、異端技術においてレイラインと呼ばれる、星の命の図章化。
その位置を知るという事は、即ちその国の栄枯盛衰を握ると同じなのだから。
今回のSONGとの連携に
なにせ、私はあのフロンティア事変の最中、渦中のフロンティアへ向けて世界中のレイラインを繋げた女……
少なくとも、日本にあるいくつかの重要なレイラインについては覚えている。その情報が他国に渡れば、日本という国家そのものへの攻撃が可能となるからだ。
「━━━━でも、今度はFISと違って、皆で一緒に研究して、皆のために役立てようとしてるデス!!」
━━━━けれど、私のそんな昏い考えを打ち消すように、太陽のような少女は笑う。
「ゆっくりだけど……ちょっとずつ、世界は変わろうとしているみたい。」
それを甘い考えだ、と切り捨てるのは簡単だろう。だが……私は、人の可能性を━━━━輝きを、信じてみたい。
「━━━━そう、ですね……
━━━━もしかしたら。私の身が厳重に護られる事となった理由は、レイラインに関してでは無いのかも知れない……
「……マムは、彼の事を覚えているの?」
「……いいえ。まるで欠落したように、
けれど、一つだけ。私が心の底から言える事があります。」
━━━━彼女達に、そして……今だ眠り続ける美舟にとって大事だっただろう
「今、私がこうして未来を見ていられるのは。マリア、調、切歌、セレナ、そして美舟……貴方達の育ちゆく様を見ていられるのは、間違いなく
自らを投げ捨ててでも世界を救わなければ、と生き急いでいた私をも変えてしまったのは……紛れもない
「……変わったね、マム。」
「……そうかも知れませんね。」
「━━━━私も、変われるかしら。」
そうしてポツリと呟くマリアの言葉は、窓の外で今にも降り出しそうな雨雲のように重く、暗い。
「……出来るかどうかは分かりません。
ですが……今のマリアには、もう答えを出す為に必要な物が備わっている筈ですよ?」
━━━━断言はしない。そして、強制もしない。
世界を救う為の人身御供になれと。悪を貫けと。あそこまで苛烈に彼女達を育て上げる事はもうしない。
けれど……今こうしてマリアの隣に寄り添うセレナ、調、切歌の三人。そして、きっと手を伸ばし続けただろう
「━━━━昔みたいに、叱ってくれないのね。」
「すべき時ならば、幾らでも……けれど、今はまだ━━━━出来るか分からないだけ、でしょう?」
「そう、ね。
━━━━揺るぎない自分の答えは、自分達の手で探すわ。」
「マム達が護ったこの世界なんデスッ!!」
「答えは、全部ある筈だもの。」
……親は無くとも子は育つ、でしたか。
どうやら、それは真理のようで……
◆◆◆◆◆◆
━━━━しとしとと、雨が降りしきる。
新しい校舎の食堂は、以前の校舎と違ってレトロな感じ。
そんな学食の一角で、
━━━━だけれども。
「立花さんは、食べないのでしょうか……?」
カレーを持って来たのは、意外な事にヒナ一人。
「うん……課題、やらなきゃ……って。」
「響がお昼ご飯より課題を優先するなんて……
こりゃ相当な重症だわ……」
━━━━去年は、そういう事も少なかったのにな。とは口には出さない。
それは、私達三人が勝手に定めたルール。
……なぜか思い出せない記憶の空白。其処に関する話は、なるべくビッキー達の前ではしないって事。
「ふぅ……にしても、歌えないビッキーか……」
「私達が励ましても、立花さんってば余計に気を使いそうですし……」
テラジの言葉はきっと、記憶の空白についてもそうだろう。ビッキーもヒナも、そういう所は似てるから。
「普段は単純なクセに、こういう時ばっかりややこしいんだよね。」
だからこそ、ぱっと見は苦言に聴こえるユミの言葉も、その声音に非難するような色は無い。
━━━━だって、アタシ達はそんな響に助けられてきたんだから。
脳裏に過るのは、熱に苦しみながらも歌を握っていた、フロンティア事変の時のビッキーの姿。
……そこで、ふと思いついたのは、一つの仮説。
「んー……ビッキーが歌を歌えないのって、もしかして《歌う理由》を忘れたからじゃないかなぁ?」
「響が……歌う理由……」
「うん……何故、どうして……あんなに辛くても、それでも歌を歌いたかったのか……それを思い出せたら、きっと……」
「響は、また歌える……?」
「うん。アタシはそう思う。
━━━━さ、カレーが冷めないうちに食べちゃおう?
ヒナはビッキーのお昼ご飯も買っていかなくちゃでしょ?」
「あ……うん。そうだね。
━━━━お腹空いてたら、嫌な事ばかり浮かんじゃうって、おばちゃんも言ってたもんね。」
「そうですね。ナイスな判断だと思いますわ!!」
冷めない内に食べるカレーは、やっぱり絶品だった。
コレを食べないなんて、ビッキーってば勿体ない事するねぇ……なんて、柄にもない事を想いながら、私達の昼休みは過ぎて行く。
◆◆◆◆◆◆
━━━━横須賀海軍施設ドック、係留港にて。
これまでに集められたデータを基に、
参加者は指令室のメンバーと、装者を代表して翼とクリスくんと奏、そして、それぞれの付き添いとなる緒川と鳴弥くんに……
「先日、響さん達を強襲したガリィと、クリスさんと対決したレイア……
これに、翼さんがロンドンでまみえたファラと、いまだ姿を見せないミカの四体が、キャロルの率いるオートスコアラー……通称《
━━━━メインスクリーンを背に、自らの知識を基に解説を行う、エルフナインくん。
「人形遊びに付き合わされてこの体たらくかよ……ッ!!」
「名前からして、その機械人形達はさしずめお姫様を取り巻く護衛の騎士……といった所でしょうか。」
「
なるほど、錬金術師らしい名づけ方ね。」
「天使サマを騙るたぁ、ふてぇ連中だな……」
「スペックを始めとする詳細な情報は、シャトー建造には不要だったからか、ボクには記録されていません。
ですが……」
「シンフォギアをも凌駕する戦闘力から見て、その騎士達である事は間違いないだろう……」
敵の戦力、その概要が朧気ながらも見えて来た……で、あればだ。
「━━━━超常脅威への対抗こそ、俺達の使命。
だが、対抗する為の手段であるシンフォギアが破壊された現状を打開する為、エルフナインくんより計画の立案があった。」
「計画……?」
事前に詳細を知らされている鳴弥くん以外のメンバーがエルフナインくんに注目する中、モニターに計画の草案が表示される。
その名は━━━━
「Project IGNITE……ッ!?」
「まずは、この資料をご覧ください。」
その言葉と共にモニターに表示されるのは、開いた華のような……もしくは、
「シンフォギアの基礎機能の向上……いえ、むしろコレは《適応》と言うべきね。
━━━━アルカ・ノイズに対抗する為、ホワイトリスト式バリアフィールドの枚数と種類を増加させる事でアルカ・ノイズの解剖器官による攻撃を無効化する防御能力。
そして、エルフナインちゃんが持ち込んだ聖遺物……魔剣・ダインスレイフの欠片。
レゾナンスギアの《
「皆さんもご存知の通り、シンフォギア・システムには幾つかの訣戦機能が搭載されています。」
「絶唱と……」
「
「はい。ですが、絶唱は装者への負荷を度外視して聖遺物を無制限励起させる諸刃の剣……その為、単独では相討ち前提の肉弾が限界です。」
━━━━脳裏に過るのは、ルナアタック事変、そしてフロンティア事変の中で装者達が放った、絶唱の輝き達。
結果的に死傷者が出る事は無かったものの、奏は四肢喪失、翼は一時意識不明の重体。
響くんは自らの存在消滅の憂き目に遇い、調くんももう少しで絶唱を受けて内部のフィーネを割断される所だった……
まさしく、命を賭けた歌だ。確かに俺達は超常脅威から人々を護る為に打ち克たねばならないが……その為に、少女達に血を吐いて死ねと命じるほどの外道に堕ちた覚えは無い……ッ!!
「なら、そん時ゃ
「いえ、それには相当量のフォニックゲインが必要となります。
奇跡を戦略に組み込むワケには……」
「ッ……!!役立たずみたいに言ってくれるなッ!!
━━━━なんなら、絶唱で増しましたフォニックゲインで……ッ!!」
「……いいえ、それでもエクスドライブには届かない。少なくとも、独りきりの歌では。
絶唱の仲立ちをし、それを繋げる……それこそ、響ちゃんか……
━━━━コレは、歌う装者が誰であってもそうなのよ。」
クリスくんの激昂を諫めるのは、鳴弥くんの冷静な指摘。
そして、響くんに絶唱を仲立ちしてもらう事によるフォニックゲインの回収。コレにも難題がある。
「更に言えば、だ。如何にS2CAと言えど、現状の装備では響くんに負担が集中するという構造的欠陥がある。
━━━━彼女への負担軽減が出来なければ、それは戦略では無く自爆特攻だ。SONGの司令として、到底許可は出せん。」
「……クッ……!!」
クリスくんも頭では分かっているのだろう。論理だった説明を受けて、悔しがりながらもその怒りを鎮めてくれた。
「━━━━じゃあ、そのどっちでも無いって事は……
━━━━そんな折に声をあげたのは、イグナイトモジュールの説明を聴き始めてから思案に耽っていた奏だった。
「━━━━はい。シンフォギアに隠された、もう一つの訣戦機能……」
━━━━過去、二度だけ観測された事のある、驚異的な出力を産み出す訣戦機能……
「━━━━まさか、暴走ッ!?」
「立花の暴走は、搭載機能ではないッ!!」
「ッ!!トンチキな事考えてねぇだろうな……ッ!!」
話の流れが掴めたのだろう。エルフナインくんに掴みかかるクリスくんを、俺は止めない。
クリスくんとて、本気で害す気が無い事は分かっているし……暴走を実際に受ける事となるのは彼女達なのだ。
各自が出来る範囲で受け止めてやるのが、俺達後方支援の責務だ。
「ぐっ……暴走は、確かにシンフォギア・システムの
ですが、偶発的でありながらも《聖遺物の無制限励起》を絶唱無しで実現し……なおかつ、《聖遺物の力に合わせる》事で、バックファイアによる肉体の崩壊を防げるその機能は強力です……
だから……ッ!!それを制御し、純粋な戦闘力へと変換・錬成し……キャロルへの対抗手段とする。
コレが……
━━━━此処等が、頃合いだろうな。
「……クリスくん。確かにProject IGNITEは危険性もある物だ。
だからこそ、俺達は装者諸君にこの強化型シンフォギアを纏うかどうかの選択の権利を与える事にした。
━━━━加えて言えば、この説明を自ら行うと固辞したのは、エルフナインくん本人だ。
その覚悟を、慮って欲しい。」
━━━━怪しまれている事も分かっているだろうに、エルフナインくんには裏が無い。
本気で、キャロルを止めたいと願って、真っ直ぐに前を向いている。
……その姿と、本気が分かるからこそ、俺達はエルフナインくんを怪しみながらも信頼しているのだ。
「……クソッ!!
……わりぃ、頭に血が上った……」
クリスくんも同じ気持ちなのだろう。
逡巡しながらも、エルフナインくんを掴み上げた手を緩めて謝罪を行う。
……そうして謝れるようになった彼女の姿に、嬉しくなってしまうのは俺の勝手な自己満足だろう。
「しかし、イグナイトモジュール……こんなことが、本当に可能なのですか?」
「はい。錬金術を応用する事で、暴走という現象から《聖遺物の過剰励起》という事象だけを抜き出す……理論上は、不可能ではありません。
━━━━リスクを背負う事で対価を勝ち取る。その為の魔剣、《ダインスレイフ》です。」
「ダインスレイフの欠片をギアに組み込み、それをフォニックゲインによって励起させる事でその性質……《人を戦いに導く》という魔なる事象を抽出し、シンフォギアを構成する聖遺物に強制的に適用する……
コレが、イグナイトモジュールの簡単な原理説明よ。
だからこそ、イグナイトモジュールは通常のギアプロテクターとは別に、コンバーター内部に格納・隔離され、通常時は励起が起きないように調整される……それが、この新しいギアコンバーターの形状変化の理由。」
そう言って、鳴弥くんが画面を指した。
━━━━瞬間、鳴り響くアラートの音。
「━━━━ッ!!アルカ・ノイズの反応を検知ッ!!」
「位置特定……モニターに出しますッ!!」
━━━━SONGの権限で以て使用可能となった街中の監視カメラ。その映像に映るのは……
「立花ッ!?」
「
「遂に、ミカまでも……」
学校帰りの様子の響くんと未来くん、そして、それを追う紅い人形……アレが、終末の四騎士最後の一騎か……ッ!!
「━━━━緒川ァ!!」
「心得ていますッ!!鳴弥さんはLiNKERの準備をッ!!」
「えぇ!!」
「あぁ……まったくよぉ……」
「……奏?」
━━━━まだ歌えない様子の響くんの下へ天羽奏という戦力を送り届ける為に動き出す俺達の横で、天井を見上げ、奏がポツリと零した言葉に反応出来たのは、翼ただ一人だった……
火を現す
━━━━どうして、自分は立ち向かったんだろう?
その答えの一端を思い出した時、撃槍は、その手の中に……
……そして今、溢れんばかりの憤怒が解き放たれる。
それは、ノイズを振るう者への怒り。
それは、立ち上がれぬ自らへの怒り。
それは、降りかかる理不尽への怒り。
そして何よりも、この手に握る無双の一振りをかつて成していた……