━━━━しとしとと、降り続く雨の中、
「……やっぱり、まだ歌うのは怖いの?」
雨の音。それが、いつもなら聴こえる色んな音をかき消してくれるから……私は、隣を歩く響に問いかける。
「え……うん……誰かを傷つけちゃうんじゃないか、って思うとね……
誰かを傷つけてまで拳を握るなんて、私は……」
だけど、響の声音は、昏く沈んだまま。
だから……
「━━━━ねぇ、響。
響は、初めてシンフォギアを身に纏った時の事って覚えてる?」
━━━━多分、それはあの日。
翼さんのCDの発売日だって駆けだして行った、一年前のあの日の事。
……私は、
「んー……どうだったかなぁ……無我夢中だったし……」
「━━━━その時の響はさ、誰かを傷つけたいと思って歌ったワケじゃないでしょう?」
「えっ━━━━?」
━━━━だって、響の歌は……
━━━━答えに辿り着けるかも知れない。そんな淡い希望を打ち砕くように、その声は上から届く。
「━━━━ッ!?貴方は……ッ!!キャロルちゃんの……ッ!?」
「そうだゾ。
━━━━お前の歌、ブチ砕いてやりに来たんだゾ?」
「……響……ッ!!」
「━━━━逃げてッ!!」
どんよりと雨を降らす空の下、未だ点く事のない街灯の上から堂々と宣言するその紅い人形を前に、私達は傘を投げ捨て、足早に橋を駆け抜ける━━━━ッ!!
◆◆◆◆◆◆
━━━━ガシャリ、ガシャリ、ガシャリ。
目の前の背中を
「━━━━逃げないで歌って欲しいゾ!!
……あ、それとも……歌いやすい所に誘導してるのかァ……?」
思考、回して見る。
でも、ミカはこういうのは苦手なんだゾ。
━━━━
「ん~……うーぅ!!
それならそうと言って欲しいゾッ!!
━━━━そーれェ!!」
だから、アルカ・ノイズを嗾けてみる。
よく分かんないけど、まぁ殺さなきゃどうにかなると思うんだゾ。
━━━━そうして、奴等が逃げ込んだのは廃ビルの中……
「むぅ……いい加減飽きて来たんだゾ?」
手加減するのは苦手なんだゾ。
━━━━でも、あの二人は
「━━━━あぁッ!?」
「響ッ!?」
「クッ……!!」
落ちる、落ちる。でも、やっぱり鍛えてるから?ちゃんと着地して、アタシの事を睨みつける。
「━━━━いい加減戦ってくれないと……キミの大切なモノ、解剖しちゃうゾ?」
━━━━ホントは、そんなのイヤだけど。
マスターが悲しい顔をするから。
だけど……幾ら言っても聴かないし。
「友達バラバラでも戦わなければ。
この街の人間を━━━━犬も猫も、みーんな解剖だゾーッ!!」
━━━━まぁ、コッチはやっちゃってもいいか。死んでもいい奴等だし。
「くッ……」
鞄を投げ捨て、ペンダントを取り出す、目の前の装者。
「あ……かはッ……!!あぁ……うぅッ!!」
でも、呻くばっかりで全然歌わない。
━━━━そんな風に呻いてたって、歌にならないゾ?
「んー……本気にしてもらえないなら……」
指を動かし、アルカ・ノイズを指揮する。
━━━━解剖はしない。まぁ、あそこから落ちたら死んじゃうカモだけど……しょうがない事なんだゾ。
「……ッ!!
━━━━あのねッ!!響ッ!!
響の歌は、誰かを傷つける歌じゃないよッ!!
伸ばしたその手も……誰かを傷つける為じゃないって、私は知ってるッ!!
……ううん、私だから知ってるッ!!だって私は響と……
「━━━━あ……」
「ううん、私だけじゃないッ!!
響の歌に救われてッ!!響達の伸ばしたその手で今日に繋がっている人、沢山居るよッ!!
━━━━だから、怖がらないでッ!!」
━━━━うん。これくらいでいいんだゾ。
「━━━━バーイならァァァァ!!」
━━━━アタシの指揮に飛び掛かるアルカ・ノイズ。その解剖器官で、脆い足場、崩れ去って……
◆◆◆◆◆◆◆
━━━━目の前が真っ白になる。
脳裏を駈け廻るのは、未来が言ってくれた事。
━━━━当たると痛いこの拳は、それだけじゃないって事。
気が付けば、脚は走り出していた。
走りだすその理由……私には、難しくて分からない。
でも━━━━
「あ、あぁ……あああああああッ!!」
ガンガンと叫びが鳴り響く頭の中、思い出したのは、あの日の断片。
胸に湧く歌に共感して、あの子の手を握ったあの時。
繋いだ手があったかいから。私は……それを手放したくないと思って……ッ!!
「
━━━━手を、伸ばす。
届け、届け……ッ!!
「
「━━━━届けェェェェッ!!」
━━━━ガングニールッ!!私に力を貸してッ!!手を伸ばす事……絶対に、諦めないからッ!!
「あ……」
━━━━背後で、上の階が崩れた音がして。背負うのは、大量の水。
……まるで、私に圧し掛かる責任みたい。でも……
この腕には、
この脚には、
金色に輝く装甲を身に纏い、未来を抱きとめる私の胸には、涯の荒野にすら響くだろう口笛と……胸の歌。
「━━━━ゴメン、未来。私……この力と責任から逃げ出してた。
だけど、もう逃げないッ!!だから聴いてッ!!
━━━━私の歌をッ!!」
━━━━きっと、私はこれからも迷い続けるだろう。それでも……
声が、聴こえたんだ。
忘れても尚、忘れる事なんて出来ない声が。
「━━━━行ってくる。」
「━━━━待っている。」
『━━━━響くんッ!!今、全速で奏をそちらに向かわせて居るッ!!それまで時間稼ぎを頼むッ!!』
待ってくれる未来に、行ってくるの言葉を託して、聴こえる通信に、無言の頷きで応えて。
「一点突破の決意の右手━━━━ッ!!」
「あらーッ!!」
駆け出す私の前にバラ撒かれる、無数のアルカ・ノイズ達。六角形の図式と共に、廃墟の中を埋め尽くさんばかり。
「━━━━私、ト云ウッ!!
右拳、左後ろ回し蹴り、回転の勢いをそのままの左後ろ半回転、反転で解剖器官を回避しつつの右前回し蹴りからの連携の左後ろ回し蹴り、一拍置いて右拳の振り下ろしからの左アッパーカットッ!!
━━━━止まる事無い拳脚の乱打で擦れ違う七体のアルカ・ノイズを粉と挽き、残りを一掃する為に拳のバンカーを引き絞る……ッ!!
「『
引き絞った弓のようなバンカーを地面に叩きつけ、爆裂する衝撃で散るアルカ・ノイズ達を尻目に、私はタイマンに持ち込んだオートスコアラーの下へと走り込む……ッ!!
「背負える勇気を……迷いは……無いさッ!!拳に包んだ……ッ!!
勇めッ!!」
けれど、踏み込んだ初撃はオートスコアラーが手から出した宝石?結晶?に受け止められる……ッ!!
「━━━━コイツ、へし折りがいがあるゾーッ!!」
その声には、余裕の色。
「どんなんだって一直線で……ッ!!
届けッ!!
ありったけファイト一発ダイヴ……ッ!!」
だとしても……ッ!!私の、胸の歌……ッ!!
正義を信じて握った、この拳で……ッ!!
「━━━━自分、色にッ!!咲き、立つ……花にな、れェェェェッ!!」
「が、あぁ……ッ!?」
髪の中からバーニアを吹き始めた紅の人形に弾き飛ばされた反動を、むしろ逆用するッ!!
脚部のパワージャッキで空を裂き、ブーストの速度も載せた回転の勁を……叩き込むッ!!
「高鳴れッ!!」
ガングニールッ!!この胸の
「メーターをッ!!ガンとッ!!」
叩き込む、為にィィィィッ!!
「振り切れェェェェッ……!?」
━━━━だけど。だけども。吹っ飛んだ紅の人形に叩き込まれる筈の私の拳は、水を弾け飛ばしただけで……
「あ……!?」
「━━━━一見正しく見えたその判断……け☆どォ……それは大いなる間違ァい。
水に映った幻は、殴った所でその実体を捉える事は無ァい……」
━━━━視界の端に過る蒼の色は、難しい事を言って。
そして、視界の中央。水の影に隠れていた紅の人形は、その手を銃口のように構えていて……ッ!!
「サ・ヨ・ナ・ラだ……ゾォォォォッ!?」
放たれた結晶が、私のギアの中枢を狙いすまして。
━━━━けれど、その結晶が私のギアを貫く事は無い。だって……
「━━━━さ、せ、る、かァァァァッ!!」
━━━━何物をも貫く無双の一振りが、壁をブチ抜いて乱入して来たのだから。
◆◆◆◆◆◆
━━━━要さんの言葉に、
「娘さんが燃やした……憤怒?」
━━━━それはつまり……要さん本人の遺志では無い、という事なのか……?
「━━━━あぁ、そうだ。あの子は……
要さんが、悲しげに遺跡の入り口を見ながらに語る。
━━━━その、名前を聴いて。
「━━━━奏、さん……」
「……あぁ、なるほど。キミは知っているんだね。
だったら話は早いね。」
━━━━知っている。俺は……その背中を知っている……ッ!!命を燃やし、歌を奏でたその姿を……知っていた、筈なのに……ッ!!
「━━━━あの子は、家族を奪ったノイズに復讐する為の力を求めた。
そんなあの子に力を与えたのが……当時、聖遺物研究の権威となっていた櫻井了子━━━━そう、フィーネだったんだよ。」
「フィー、ネ……」
━━━━その名前も、きっと知っている筈なのだ。
けれど、知っている、筈なのに……此方は、像を結ばない。
「……どうやら、喪われたキミの記憶の中にも様々な種類があるようだね。
━━━━いや、むしろ逆、か。
ヴァージルさんの解説で、すり抜けて行くような感触にある程度の納得がいく。
「なるほど……確かに、私と彼女はそう親しかったワケでも無いからね……では、私からは奏についての話だけをしよう。
奏は家族を喪った。そして……ノイズに復讐する為の力を手に入れた。
だが、それはどちらも同じ人物━━━━フィーネという女性の手による物だった。
彼女の起こしたマッチポンプによって狂わされたあの子の人生は……けれど、今はそうでは無くなりつつある。」
「そうでは無くなりつつある……?」
俺がそうして鸚鵡返しに訊き返してしまうのもやむを得ないだろう。
……復讐を、誓ったというのに?
「そうさ……私達の命を、尊厳を、そのすべてを奪ったノイズ……
だが、その存在はかつての先史文明期に、バラルの呪詛を掛けられた人類が《言葉の通じぬ相手》を恐れ、理解を放棄したが故に作られた……
だから、優しいあの子は、それでもノイズを怨み続ける事が出来なかった……の、だと思う。」
━━━━悲しげに、だけど、奏さんについて語る時には、少し誇らしげに、彼は語る。
「……貴方は……怨んで、居ないんですか?」
━━━━だからだろうか。俺はつい聞き返してしまう。
「……フィーネをかい?それとも……ノイズをかい?」
「━━━━分かりません。けれど……」
━━━━なにか、大切なモノを。そこに忘れてしまった気がして……
なにか、大切だった
そんな喪失感。覚えていないのに、忘れられない……絶対に忘れてはいけない
「━━━━そうだね。
だから。喪失感に揺らぐ俺に、一人称を変えて柔らかく微笑む要さんが言っている言葉。
その意味が、よく分からなくて。
「僕達は、君という存在が喪失された事による揺り戻しで偶発的に繋がった、
つまり、《こういった事を喋るだろう》という哲学を持った……そうだな。AIが近いんだろうか。
だから、僕達が知っている事は案外に少ないし……《もしも》を語ろうにも、自分で自分が分からないのさ。」
「━━━━それ、は……」
━━━━つまり。今の俺のように、考えようとしてもその情報同士が繋がらない、という事なのだろうか。
「━━━━だからこそ、
君が忘れてしまったモノを。君が喪失の悲しみに暮れるモノを。それがきっと、君がこの煉獄山を進む理由に繋がる筈だからね。」
「……はい。」
重い言葉だ。
けれど……受け止めないといけない言葉だ、と俺は思う。
俺が何故、煉獄山を進むのか。思い出さないといけない事を、思い出す為に。
◆◆◆◆◆◆
━━━━壁を破った瞬間に見えた光景は、
響の胸元に向かって放たれる、
三年前のあの日。アタシのガングニールの砕けた欠片が胸元に直撃した事で、響の人生は一変してしまった。
あの子は、それを恨まないだろう。そんな事は分かっている。
けれど━━━━
「━━━━目の前でッ!!二度も見るのはイヤに決まってんだろ……ッ!!」
これは、ノイズへの憤怒では無い。かつて、ガングニールを握った時の想いでは無い。
それを義憤、と……自分からそう呼ぶ事は憚られる。だが……もしかしたら、そうなのだろうか?
「━━━━ったくッ!!お前がボサッとしてるから横槍刺されるんじゃねーかッ!!
最強の戦闘特化型が聴いて呆れるんですけどォ!!」
「うゥ……ガリィが酷い事言うんだゾ……」
睨みつける先で、アタシの怒りを他所に壁に叩きつけられた状態のまま暢気に話し合う紅と蒼。
━━━━全力の投槍を叩き込んで、なお無傷……ッ!!
「━━━━奏さん、ありがとうございますッ!!」
「気にするなって。
━━━━それより、アイツ等に連携されるのだけは避けたい。アタシ達の歌を重ねて一気にアイツ等を分断する……イケるなッ!?」
「━━━━はいッ!!」
重なる歌、重なる鼓動。
あの日、屋上で総てを出し切って歌った歌。
響の歌に
それを重ねて力と変える……ッ!!
「━━━━幻?夢?優しい手に包ま……れッ!!」
突撃。アタシが相対するのは、蒼の人形。
「あァら?この前2:1でも負けたのにィ?今度は2:2でペアダンスでも踊ろうってェ!!」
「ハッ!!お生憎様。
━━━━ガングニールの装者は、皆揃ってバカ正直なのさッ!!」
━━━━蒼の人形が氷で作り上げる手刀の一閃。高速の一撃を、アタシは貫き手のように尖らせた
「━━━━運命はッ!!この場所……にッ!!」
「おろろ……?コイツ、さっきと違っ……ぶへッ!?」
その隣では、響が円の動きで紅の人形の攻撃をいなし、カチ上げる。
業腹な話だが、確かにあの人形共の出力は此方を上回るのだろう。
━━━━だが、アタシ達は
「クッ……コイツ、死にぞこないのクセに、この前より鋭いじゃァ無いの……ッ!?」
「━━━━曇りなき青い空をッ!!見上げ、嘆くよりッ!!
風に逆らってッ!!かがッ!!やいたッ!!未来へッ!!かえッ!!ろ、うッ!!」
貫く、貫く、貫く貫く貫く貫く貫く貫くッ!!
槍の形状のアームドギアでは速度に追い付けない。だが、腕のままのアームドギアでは相手の手刀の威力に追い付けない。
━━━━その矛盾を、この腕で貫き通す。
「━━━━形成された腕状のアームドギアを、小型の槍に……ッ!?」
「この腕もッ!!命もッ!!繋げてもらった━━━━ガングニールだァァァァッ!!」
━━━━家族を殺された怨みは、褪せていない。
けどさ、了子さん。
……アンタのお陰で、こうして今、アタシは誰かを護る為に戦える。それだけは……
◆◆◆◆◆◆
━━━━
そのパワーは、私よりも強い。髪に仕込んだバーニアを使われたら、私のパワーでも圧し負ける……
でも。
「あれれ~?おかしいゾ~?
なんで上手く当たらないんだゾ?」
「急ぎた……く、てッ!!
いつだって不器用で……
━━━━私が鍛えて来たのは、力だけじゃない。
剛
技あってこその力であり……技無き力にも意味はない。
相手の一撃を逸らし、決して止まらず……拳脚の乱打を叩き込む……ッ!!
「━━━━でも一つだけ、分かって来た事は、ねッ!!」
「見えたんだゾッ!!
━━━━グワゴラガキーンとホームラ、ンンン?」
乱打の中でも、紅の人形が動じず振りかぶった宝石棍のフルスイング。それをスウェーバックでブリッジ回避ッ!!
その勢いで……顎を蹴り上げるッ!!
「━━━━《誰かの為になら》ッ!!
《人は強くなる》ッ!!」
「うわぁ~!?」
跳ね上がった顔面に、左回転からの
「……にへッ。
━━━━だが、その一撃は顔面セーフッ!!白く煌めく歯に受け止められてしまう……ッ!!
「クッ……!!」
回転で歯の拘束から逃れ、距離を取る。
つけ入る隙はある……でも、有効打が決まらない……ッ!!
こうなったら、一瞬だけでも奏さんと合流して最大火力を叩き込むしかない……ッ!!
「━━━━奏さんッ!!」
「━━━━あぁッ!!」
目と目が合う、その一瞬で通じ合う。
「ブッ飛ばすゾォ!!」
『━━━━
飛び掛かって来た紅の人形を巴投げで後ろへと放りだす……ッ!!
その先にあるのは、奏さんに押し込まれた蒼の人形の背中……ッ!!
「あ~れ~なんだゾ~!!」
「キャッ!?ちょ、何やってんだよミカァ!?」
『━━━━
空中でかち合う、二体の人形。其処に叩き込まれるのは、私の拳と奏さんの腕の槍……ッ!!
二本のアームドギアが、人形の胸に吸い込まれて━━━━
「━━━━響ッ!!ダメェェェェ!?」
━━━━その、最中。
異常に真っ先に気づいたのは、傍で見ていてくれた未来だった。
「未来の顔が……歪んで見え……ハッ……!?」
その声に振り向けば、未来の顔がまるですりガラスを通したように歪んで見えて。
━━━━思い出すのは、奏さんの乱入直前に使われた……ッ!!
「水分身……だ・け・どォ……今度のは特別製ェだよォ?
━━━━アンタがぶっ壊して用意してくれた大量の水を使った水素と酸素の混合気ィ……ソイツを泡で留めて圧縮したってワケェ!!
そこに火花を叩き込んでや・れ・ばァ……!!」
「しま……ッ!!」
「━━━━ばっははーいッ!!」
下から撃ちあげられる、
その衝撃と火花が誘発させた爆裂が、私の意識を、奪って━━━━
「がッ……あああああああああああああああああ!?」
「━━━━響ィィィィッ!?」
━━━━胸元から聴こえる、ナニカが砕け散る音。
それは、世界の残酷みたいに、暗闇に沈んだ筈の私の脳裏に響いていた……
◆◆◆◆◆◆
━━━━
その星の名は、ガングニール。
爆発で奏さんはさっきの紅の人形の意趣返しみたいに壁に叩きつけられて。
そして……響は、直撃を受けて、空へ打ち上げられてから墜ちていく。
━━━━その腕の、その脚の、ガングニールは砕けて、光と散っている。
「響ッ!!
━━━━響ッ!!目を覚ましてッ!!嫌……響ィィィィッ!!」
「が、ハッ……!!
ち、くしょう……また……届かないのかよ……ッ!!」
叩きつけられ、地面に横たわる響に急いで駆け寄って声を掛ける私。だって、それくらいしか出来ない……ッ!!
その背後から聴こえるのは、奏さんのギアが
他には、爆発の衝撃で諸共に吹き飛んでしまった天井がどこか遠くに落着する鈍い音。
そして……
━━━━まるで私達の涙のように流れる、雨の音……
「返事をして……お願い……」
こんなのって無いよ……響は、響はやっと……どうして歌えたのかを思い出せたばっかりなのに……
「━━━━チッ!!派手にやり過ぎちゃったかしらァ?テメェのせいだぞミカァ。」
「え~?泡作ったのはガリィなんだからガリィにも過失があると思うんだゾ……いひゃひゃ、いひゃいいひゃい!!」
「天井フッ飛ばすド派手な花火上げたのはテメェだろうがッ!!混合気爆発っつったって完全密閉の閉所じゃなきゃ大した威力にゃならねぇっての!!
演出よ演出ゥ!!ドカンとフッ飛ばしてやりゃ自分達の未熟な策が逆用……ッ!!」
「ほェ?どうしたんだゾ、ガリィ?」
「━━━━帰るぞ。もう此処に用はねェ。」
━━━━そんな私達に頓着する事無く、人形達は光の中へ消えて行く……
「響……響ィ……ッ!!」
傘は無い。逃げる時に投げ捨ててしまったから。
屋根は無い。さっきの一撃で吹き飛んでしまったから。
━━━━だから、雨を遮る物が、一つも無い……
「━━━━未来さんッ!!響さんッ!!奏さんッ!!」
「未来ちゃんッ!!」
「緒川、さん……」
救急車と一緒に急行してくれたのだろうか?緒川さんと鳴弥さんが、SONGの医療チームと共に走り込んで来る。
「頭を打っているようです……すぐに本部に搬送をッ!!」
「未来ちゃん……」
ギュっと、雨に濡れた身体が、鳴弥さんに抱きしめられる。
「響が……響、やっと……歌を……」
━━━━雨が、降り続いている。
この頬を伝う涙と同じように、止めどなく。
「うん……そうね……」
何も言わずに抱きしめてくれるその温もりだけが、今は……
◆◆◆◆◆◆
「担架通りますッ!!」
「緊急手術準備ッ!!絶対に助けて見せるぞッ!!」
「響……」
━━━━手術室に搬送された立花の容態は芳しくない。
それも当然だ。敵の策による混合気爆発、それと同時に打ち上げられ、ギア無しで地面に叩きつけられたのだから……
「大丈夫だ……立花なら、きっと……」
……それが気休めの言葉である事は、他ならぬ
「ッたりめぇだッ!!あのバカが……あのバカが……ッ!!
こんな事で、退場するものかよ……ッ!!」
雪音の強い言葉に、思わず拳を握りしめる。
……立花に、私達は何度も救われた。だから……
「その通りだ……ッ!!たった一人で戦えと背負わされた立花の重責……それを、奏のように共に担う事も出来ず燻ぶっているなど……防人として、断じて看過できぬ……ッ!!
━━━━行くぞ、雪音……ッ!!」
「あぁ……ッ!!」
━━━━強化型シンフォギア。錬金術師達に対抗する為の、新たなる剣。
それを振るうに相応しい力を付ける為に、私達は修行の道をひた走る……ッ!!
◆◆◆◆◆◆
「━━━━さて。私の話はこれで終わりだ。
煉獄山が映した物とはいえ、私達の悲劇はもう……とうに終わった事だし……奏も、新しい想いを握って立ち上がっている。
だから、もう次の場面へ移れる筈だ。」
━━━━要さんがそう言うと同時に
「━━━━ありがとうございました。
……母さんの事、そして……奏さんの事も、思い出させてくれて。」
「気にする事は無いさ。
此処は、どうにも連想ゲームのような場所のようだからね。
君が鳴弥くんの事を、奏の事を思い出せたのは、君自身がそれを思い出したかったから……なのかもね。
━━━━それに、お礼を言いたいのは此方の方さ。」
「え……?」
要さんが微笑む姿は、思い出した記憶の中の奏さんと似ていて。
「━━━━三年前のあの日、総てを出し切って歌い尽くし、命の焔も燃やし尽くす筈だったあの子が、今もこうして生きている。
それは紛れもなく……
「あ……」
━━━━それは、いつか言われた事のあるような言葉で。
「だから……ありがとう。
娘の命を救ってくれて。それと━━━━出来ればこれからも、あの子の事を助けてやってくれ。」
「━━━━はいッ!!」
安請け合い?上等だ。
まだ、思い出せない事もたくさんある。
俺自身がどういう存在だったかも中途半端なままだ。
━━━━それでも。俺は……きっと、《総てを諦めたくなかったんだ》。
覚えていなくとも、確信できる。
煉獄山を登る旅路の途中、俺の胸に宿り始めていたのは、そんな風に燃え上がる焔だった……
━━━━そして、一週間の月日が経った。
回天の決意と覚悟を以て進められる、強化型シンフォギアの改修・修繕作業。
その
━━━━防人がその威を握り護らんとするのは国か、人か。それとも、心か。
三代三様なる答えを胸に、不器用な家族達は未だ擦れ違っていた……