戦姫絶唱シンフォギア レゾナンス   作:重石塚 竜胆

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あけましておめでとうございます。
本年もレゾナンスをよろしくお願いいたします。


第九十六話 間奏のクラムジーデイズ

『━━━━大手運送会社バーンスタイン・カンパニーが主催する格闘大会KOF(ザ・キング・オブ・ファイターズ)の開催が来月七月に迫る中、大会の舞台となるサウスタウンでは会場整備や選手団の受け入れが着々と進んでおり……』

 

━━━━窓の外に広がる、梅雨の晴れ間の昼下がり。

側面にモニターを付けた飛行船がニュースを流しながら飛んで行く。

 

「━━━━決めたッ!!俺もKOFに参加するッ!!」

 

「そうか。頑張れ、シン。」

 

「えぇッ!?ちょ、ちょっとシンッ!? 

今からそんな事言ったってディズィーさんが許してくれるか分からないじゃないッ!? 

ラムもアイス食べてないで止めて!?」

 

「シンなら大丈夫……多分。」

 

「大丈夫ッ!!なんとかなるってッ!!そうと決まれば早速……」

 

「━━━━って言うかそもそもKOFは格闘大会じゃない!! 

 旗使ってたら出れないよッ!?」

 

「……マジ?」

 

「ん。マジだぞ、シン。ホームページにも書いてある。」

 

「よ、読めねぇ……」

 

「もう……こんな英語も読めない状態でアメリカまで行ったって迷子になるだけじゃない……」

 

「勉強不足が露呈した。ザンネンだな。」

 

「━━━━ちっくしょーッ!!」

 

……その下から聴こえるのは、確かこの身体(この子)の元・同級生だったか。

《あの男》の庇護下にある子等があぁも暢気に笑えるとは……

 

「━━━━平和なものね。そうは思わないかしら?

 ノックも無しにお邪魔して来た大男さん?」

 

「……そうだな。護るべき日常そのものだ。

 ……それと、気が回らず申し訳無い。」

 

━━━━この身体()の横たわる病室の入り口に立つ彼の気配には、実はとっくに気づいていた。

だけど……

 

「ふふっ……レディを前にして何を言えばいいか分からない奥手な男の人に対してはちょうどいいジャブなのでは無くて?」

 

巌のような身体に、意志を体現するかのような力強い眼。真っ赤なYシャツを腕まくりして、パワーに満ち溢れた(風鳴弦十郎)が、()を前にうろたえる姿が可愛らしいと思ってしまったのだ。

だから、少しイジワル。

 

「……キミは……いや。

 まずは形式的な部分を済ませてしまおう。俺は風鳴弦十郎。国連直轄機関であるSONGの司令をやっている。

 ━━━━キミは……櫻井咲くん。で合っているか?」

 

━━━━その声が。その眼が。少しだけ揺れている、と思うのは、(櫻井咲ならざる者)の傲慢だろうか?

 

「━━━━えぇ。私は櫻井咲……先日、ガングニールのシンフォギア装者に救助された者であり……異端技術研究の最先端を走った櫻井了子の親戚であり……

 貴方のご想像通り。今は、終わり(フィーネ)の名を冠する者でもあるわ。」

 

彼を呼び出したのは、私。

ガングニールの装者について内密の話があると、機密事項の説明をしに来た緒川慎次を通じて知らせてみれば案の定だ。

 

「……フロンティア事変の最中、キミは調くんの中から去って行ったと聞いたが……」

 

「えぇ。()()()()()()()がバカ正直に此方を信じるなんて言うものだから、その策に乗ってやったのよ。

 ━━━━あぁ、そういえば……貴方達は全員、()()()についても忘れてしまっているのだったわね?」

 

ちくり。と胸を刺すような痛みは、未だ眠り続けるこの身体(櫻井咲)が起こす拒絶反応。

まったく……自分が居なくなるだけならともかく、周りにも迷惑をかけるようならばアフターフォローくらいしていっても……いや、止めておこう。この話題は藪蛇だ。

 

「……あぁ。だから、我々は《フィーネは消失した》という結論しか知らない。

 ━━━━勿論、今キミにフィーネが宿っているという事実も、だ。」

 

言外に彼が言うのは、米国やその他国家が私について掴んでいる事は無いという保証。

私が米国を利用し、愚かなアンクル・サム(精肉屋の小僧)と言い放ってから一年ほどであり、舌の根も乾いて居ないのだ。

そんな中で私がまたも舞い戻ったとしれば、国家機密を知られている米国としては放っては置けないだろう。

 

「━━━━相変わらずなのね。」

 

けれど、それは逆を言えば。

今の段階で私が逃亡すればその行方を追える者は居なくなるという事の裏返し。

優しいというよりかは、甘いというべきだろう。

再襲撃を考えてだのなんだの、理屈を付けて此方を拘束してしまえば、私は最早籠の鳥。

バビロニアの宝物庫が閉じた今、そこから逃げ去る為にとノイズを召喚してしまえば、それこそ自らフィーネである事を認めるようなものだからだ。

 

「━━━━甘いのは分かっている。

 ……性分だ。」

 

「ふふっ、その甘さに助けられているのだもの。感謝こそすれ、恨みつらみをぶつける意味は無いんじゃないかしら?」

 

「……キミは━━━━変わったな。」

 

━━━━その言葉は、不意討ち気味に此方を射抜いて。

 

「……そう、ね。

 ━━━━(フィーネ)は、永遠の刹那に存在し続ける。

 だけど、その同一性はどうやって保証されるのでしょうね?」

 

アウフヴァッヘン波形を以て励起した、遺伝子内の情報照合(パスワード)

コレを以て神智記録(アーカーシャ)より上書き(ダウンロード)されたフィーネの記録(データ)は、宿主となる人格を塗りつぶす……

今まではそうして来たし、そうだと説明し続けて来た。

 

━━━━けれど。表向きの為に、前々回の(フィーネ)は櫻井了子の人格を模倣(コピー)し、それを演じ続けていた。怪しまれながらも、それでも決定的な証拠は掴ませぬまま。

 

━━━━そして、前回の(フィーネ)は上書く事すらせずに、器たる月詠調の行く末を見守っていた。

 

━━━━そして、今回の(フィーネ)は、忘却のルーンによって歪な支えまでもが取り払われ、壊れかけていた櫻井咲の心を護る為に共生している。

 

果たして、それぞれのフィーネは同じ存在なのだろうか?

異なる器と、異なる状況。そこに入り込んだ(フィーネ)の同一性を保証しうる物は、この胸に宿る想いだけ……

 

「それ、は……難しい質問だな……残念ながら、現代においても魂の実在は証明出来ていない。

 魂の重さ(21グラム)というのも、実証実験においては安定しなかったと言われているからな……正直に言ってしまえば、俺のように専門知識も持たぬ人間の手には余る。」

 

重々しく口を開く彼の言葉は、(けだ)し正論だ。

最先端科学ですら未だ辿り着いていない領域……それが、魂の所在(ありか)

だが、私には一つの仮説がある。

 

「……えぇ。だから私は考えたの。私の同一性を保証する物、私のたった一つの望み━━━━

 私が変わって見えるとすれば、きっとそれは、私が()()を思い出せたからかもしれないわ。」

 

『わかりません!!わかりませんけど……!!想いの為なら何をしたっていいなんて、私は思いたくないですッ!!

 だって、そんな風になんでもかんでも踏み台にして笑いかけたって、きっと、私の好きな人は振り向いてくれないもんッ!!』

 

━━━━あぁ、まったく。耳に痛い。

ルナアタックのあの日、あの子が咆えたあの言葉。

恋も知らぬ小娘と(そし)ったその言葉を思い出したのは、この娘(櫻井咲)を護る為に立ち止まらざるを得なかったからだ。

 

あの方(エンキ様)へと想いを伝えるという目的の為に総てを懸けて突き進んだ私が、人を見守る事にして気づいた矛盾━━━━

 

━━━━それは、初めからおかしかった、たった一点の矛盾。

━━━━それは、あの方を信じたいからこそ目を逸らした事実。

 

━━━━あの方(エンキ様)は決して、(フィーネ)にすら何も語らずに愛していたヒト(ルル・アメル)を呪う事などしない━━━━

 

それこそが致命的な矛盾。

五千年前のあの日、確かにあった筈の信頼。

……きっと、走り抜ける中で取りこぼしてしまったモノ。

 

「キミの望み……それは?」

 

「遥けし空の彼方で眠る筈のあの方━━━━カストディアンの一人。

 あの方に……《ありがとう》を伝える事。

 そしてそれはつまり━━━━バラルの呪詛がヒト(ルル・アメル)に掛けられた、その意味を知るという事。

 五千年前、いったい何があったのか?その真実を━━━━私は知りたい。」

 

━━━━そして、同時に、《愛していました》と伝えたい。

 

「……バラルの呪詛が掛けられた理由は、かつてのキミの言い分であったように《天に手をかけんとしたヒトを戒める為》では無い……と?」

 

……前説も私、そして、翻した新説をぶちあげるのも、また私。

蟲の良い話だ。と、自分でも苦笑が零れる。

 

「えぇ。あの子(立花響)から真っ向否定されてしまったわ。

 何もかもを犠牲にして突き進んで、それで天に手をかけたとしても……私の好きな人は喜びはしないって。

 ━━━━思えば図星だったのよ。あの方(エンキ)が何も言わず、手を伸ばし続けたヒトを分断し、呪うだなんて……信じたくなかった。

 だから、私はバラルの呪詛を否定しようとし続けた。けれど、それは逆に言えば……」

 

「……ヒトを呪った事は、彼の本意では無いかもしれない……という事かッ!?」

 

「━━━━(フィーネ)は、そう信じたい。

 ヒトが地に満ち、増えゆく姿を言祝(ことほ)いでいたあの方の想いに、嘘偽りなど無かったのだと━━━━」

 

「……なるほど。

 それで、先史文明の異端技術と縁深いSONGに接触を……?」

 

━━━━突飛も無い話だと、そう蹴ってしまっても構わないだろうに。

寄り添って立ち、頭ごなしに否定する事無く私の意見を確かめるその姿は、以前の(櫻井了子)と接する姿と変わりない。

あぁ、本当に……相変わらずなのね、貴方は。

 

「それもあるわ。

 ━━━━けれど、一番はこの娘(櫻井咲)の心を維持する為に欠かせなくなっていたクセに、何も言わずにサックリ居なくなってしまったおバカさんを呼び戻す為よ。」

 

「━━━━それは……確かに、()については手がかりすら掴めていなかった所だ。此方としてはありがたい……ありがたいのだが……」

 

そう言って、私の言葉に渋面を返す彼の頭痛のタネには予想が付く。

 

「━━━━襲撃者の事ね?」

 

「……そうだ。欧州の闇からやって来た錬金術師。

 今、俺達SONGは彼女等への対応に追われている……本来であれば、猫の手も借りたい所なのだが……

 ━━━━つい昨日から、外部協力者を技術主任に据えてのシンフォギアの改造という大工事に取り掛かったばかり。

 此処でいきなりにキミを推薦するのは……」

 

……それ、機密情報じゃないの?とも思ったが、まぁ今の私は各国に知られていないのだし大目に見るべきだろう。

風鳴翼が一時的に活動を休止している辺りから見て、使いっぱしりにしてしまった緒川慎次も裏で防諜に勤しんでいる筈である。

 

「━━━━勘ぐられるわよねぇ?

 櫻井了子の親戚が?いきなりSONGの中枢に乗り込んで?大鉈を振るうなんてのは……それこそ、自分から《私はフィーネで御座います》と宣伝して回るような物だわ。」

 

「……その言い方からして、錬金術師について説明する必要もないようだ。

 ━━━━だが、あぁ。せめてシンフォギアの強化・改修が終わった後であればなぁ……」

 

「いいんじゃないの?別に待った所で。

 錬金術師の件が一段落したら、小日向未来のように嘱託職員として外部協力者からスタートすればいいじゃない。」

 

━━━━だって、私には無限の時間があるのだし。

今さら数ヶ月其処等待つ程度は(この娘のメンタルケアに時間が割かれるという問題はあるが)どうという事は無い。

そう思って放った私の言葉を受けて、何故か彼は頭をガシガシと掻き始める。

はて……なにか無理難題を言ってしまっただろうか?

 

「……いや、キミの協力を約束出来たとすれば安い物、か……

 ━━━━疑いもしないんだな。我々が負けるとは。」

 

「あぁ……なんだ。そんな事?

 ━━━━五千年も負ける事が無かった(フィーネ)に、貴方達は勝ったのよ?

 ━━━━カビの生えた錬金術師の陰謀一つ程度、勝ってもらわなければ困るわ。」

 

━━━━けらけらと笑いながらに語り掛ける私の姿に、彼は苦笑を零しながらもニヤリと笑う。

心地よい距離感。あの方(エンキ様)への想いとはまた異なる……(櫻井)だけの想い。

……この胸の想いだけは、決して手放したくないと……願ってしまうのだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━響が吹き飛ばされてから、三日経った。

手術自体は上手く行って……それでも、響は目を覚まさない。

その間、(小日向未来)に出来る事はそう多く無かった。

 

響がいつ目覚めてもいいように部屋を片付けて、授業のノートを取って……SONG本部潜水艦内の医務室で眠り続ける響の様子を見に行く。

━━━━早くもルーティーンのようになってしまっていたその流れが少し変わったのは、鳴弥さんに付き添って貰って向かった医務室で出逢った女の子が切っ掛けだった。

いや……

 

「……女の子?」

 

「えぇ、あの子はエルフナインちゃん……以前大まかに説明した通り、錬金術師キャロルの計画に異を唱えて私達SONGに合流してくれた外部協力者よ。」

 

「小日向未来さん……ですね。初めまして。ボクはエルフナインと言います。」

 

そう言って手を差し出してくれるエルフナインちゃん……くん?握り返せば柔らかなその手は女の子のようだけど、同時にその顔立ちは端正で、可愛い男の子と言っても通じる部分があり……

 

「初めまして……えっと、初対面で失礼だとは思うんだけど……呼び方はエルフナインちゃん、でいいのかな?」

 

結局、分からなかったので聴く事にした。わからないまま接して彼女?の気にしている部分に飛び込んでしまってはいけないと思って。

 

「あ、はい。ボクはただのホムンクルスなので性別はありません。ですので、未来さんの好きなように呼んでください。」

 

━━━━けれど、返って来た答えは、更に私の混迷を深まらせるもので。

 

「えっ……と……?」

 

「あはは……エルフナインちゃんは、錬金術師キャロルの知識と彼女の性格・性質を決定づける記憶を保持する形で造られたホムンクルス……

 ━━━━私達にまだ馴染み深い概念で言えば、後から産まれた一卵性双生児のアンドロイド、とでもいうべきなのかしらね?

 だから、初期設定(プリセット)の段階では性別は存在しない。とはいえ、私個人の考えとしてはそれは今後のエルフナインちゃんの自己認識次第だろうから、

 ユング心理学における男性性(アニムス)女性性(アニマ)のように、人の心の中に様々な側面が存在する以上はエルフナインちゃんが想うように変わって行くんじゃないかと思うわ。

 ━━━━たとえば、世界も羨む恋をするとか……ね?」

 

「言ってる事、全然分からないんですけど……今の所はエルフナインちゃんと呼べばいいんですよね?」

 

━━━━なるほど。この前響がツイてるだの、ツイてないだのに過剰に反応してたのはコレでか……と、脳裏を過ぎるのはあの日のヘンな響への納得。

確かに、多感な女子高生相手に性別が変わるかもだの、男女どっちかだのという話題は目に毒だ。

━━━━とはいえ、私自身は好きな人であればどっちでも構わないという答え自体はあの時と変わらないのだが……

 

「百点満点よ。」

 

「はい。ボクもそれで構いません。

 ━━━━響さんのお見舞いですか?」

 

「うん……響、まだ目を覚まさないんだね……」

 

「はい……外傷部分への処置は終わりましたし、脳波にも異常は見られないそうなのですが……」

 

「……つまり、ただのお寝坊さんってコトね。響ちゃんらしいわ。」

 

「おば様ってば……」

 

肩をすくめながらのわざとらしいお道化(どけ)かた。きっと、暗くなり過ぎないようにって気を回してくれたんだと思う。

 

「さて……と、未来ちゃんは何か他に聴きたい事とかは無い?

 あの日から色々詰め詰めにはなっちゃったけど、大抵の事は説明出来たと思うけれど……」

 

「そうですね……錬金術、アルカ・ノイズ、自動人形(オートスコアラー)……」

 

指折り数えるのは、此処数日の事情説明でようやく教えてもらえた神秘の数々。

まるで魔法のような錬金術、そしてそれが産み出すアルカ・ノイズや自動人形(オートスコアラー)の猛威……

 

「……うーん……今の所は無いですかね?」

 

正直、ここまでの説明だけで私としてはいっぱいいっぱい。

これ以上詰め込まれても、正直言って理解の範疇を越えてしまいそうで。

 

「ふふっ、じゃあ……後の話は響ちゃんが目を覚ましたら、って事で……ね?」

 

━━━━そう言って笑う鳴弥さんの気遣いに、私も思わず微笑みを零してしまうのだった……

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━横須賀海軍施設ドック、その近くにて。

 

「……何やってるんですか?先輩方」

 

工廠の建物の中で、(津山)は見知った先輩二人が何やら怪しげな事をしているのに気づいた。

 

「ん……?おぉ、津山か。

 なに、ちょっとした工作(DIY)さ。」

 

「アルカ・ノイズは位相差障壁の出力が低いから通常兵器が通じるってんだろ?

 だったらどうにか出来んじゃあねぇかと思ってな。マーティンの奴に色々作ってもらってる。」

 

「だったら本部の中でやればいいんじゃ……?」

 

「━━━━なぁ、津山よ。アルフレッド・ノーベルって知ってるか?」

 

「へ?……あの、ノーベル賞の人ですよね?」

 

「あぁ。そのノーベルだ。

 彼はダイナマイトを発明して億万長者になったが……そうなる前にはニトログリセリンの生成と安定化に悩んでいてな……

 度々危険な爆破実験をするものだからと、村の中での実験を禁止された事もある。そしてそんな時、ノーベル達は湖に浮かぶ船の上で実験を行ったと言われている……」

 

「へぇ……大分危険そうですね……って、まさか……ッ!?」

 

見渡せば、明らかにヤバそうな機械や……風船?それにアレは……

 

ミサイル燃料(ヒドラジン)ッ!?」

 

「おぅ、お陰でミズ・鳴弥に追い出されちまったい。」

 

━━━━いったい何をしようとしているんだ……この人達は……ッ!?

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

━━━━そこは、闇が帳を降ろした空間であった。

欧州某所。防諜対策が施された地下空間。かつての大戦の折に建造されながらも、『存在しない物』として抹消された筈の地下世界。

そこに、結社の魔人たちが集っていた。

 

「……はァ……」

 

━━━━そんな状況だというのに、(サンジェルマン)の溜息は重く、深い。

その理由は、明白にして明解。

 

「━━━━あンのバカ錬金術師めがッ!!

 表沙汰に持ち込むだけで無く、解くなと釘刺ししたアルカ・ノイズの封印まで解くなど、腹に据えかねるワケダッ!!」

 

「も~うッ!!各国の情報操作で手が回らないんだけどぉ~!!」

 

━━━━即ち、キャロルが起こしている事件についてだ。

 

「……とはいえ、そもそも結社にアルカ・ノイズの製法を齎したのはキャロルだ。

 契約上、お互いに余計な嘴を差されぬようにと封印の合意を取っていただけ……」

 

「ま、ワンチャンあったら裏切ろうとしてたのはお互い様だしね?

 ━━━━とはいえ、このタイミングは困るのよね~……」

 

そう。キャロルと我々《結社》の契約はあくまでお互いの研究を円滑に進める為の協力体制を作る物であり、どちらかが上位と決まった物では無い。

それが故に、フロンティア事変の最中の米国による強襲では《協力者からの要請》という形でしか彼女を押し留める事は出来なかったのだ。

 

「あぁ……カリオストロ。結社内部での《ファウストローブ》の研究は未だ完成していない……そうね?」

 

「……えぇ。細かい話は後で報告書に纏めておくけど、ラピスのファウストローブを完成させるにはデータが足りないわ。」

 

そう言い切るカリオストロの表情は、長い付き合いの私でなければ分からない程度に歪んでいて。

だが、問題があればカリオストロなら報告を挙げて来る筈だ。言わない以上は、私には言わないと決めている事なのだろう。なんとも頑固な()らしい……

 

「……?

 まぁいいわ。ファウストローブが完成していない以上、シンフォギアと正面切って相対するのは不確定要素が大きすぎる……

 ━━━━であれば、SONGの眼がキャロルに向いている内に我々の計画……バラルの呪詛の解呪の為の準備を進めるべきね。」

 

「そうねぇ……とはいえ、あーしはちょっと米国で不穏な動きがあるから今は動きづらいわよ?

 ()()()()、どうにもレイラインにも関係して来そうな話だし……」

 

カリオストロには、七彩騎士として米国の動きを牽制してもらわなければならない。

ドイツで産声を上げ、欧州に根を下ろした我々パヴァリア光明結社……その影響力は基本的に欧州各国に留まっている。

米国成立に携わり、石油王として名を挙げたロックフェラー家などの十三の家系(イルミナティ十三血流)も、元々は我々パヴァリア光明結社のメンバーだったのだが……

 

「……十三人評議会が我々結社と袂を別った事が惜しいな……

 彼等の協力があれば或いは……いや、コレは弱音だな……忘れてくれ……」

 

「十三人評議会の議長に就任したユダヤ家系の家長……当時のフィーネが米国側に着いたのがマズかったわよねぇ……とはいえ、色々と策を弄して七彩騎士設立に漕ぎつけたのは勿怪(もっけ)の幸い、ってヤツ?」

 

「そうかもしれないわね。それに……フィーネの眼が教皇勢力の衰退していた欧州から離れ、資本主義経済で技術革新が進む米国に向いた事で私達結社が欧州の暗黒面を支配しやすくなったのは事実……」

 

━━━━その中で奪った、数多くの命(七万三千七百五十六)の犠牲の上で……

 

「ふぅー……そうとなれば、狙うべきは日本でも米国でも無い……というワケダ。

 ━━━━サンジェルマン。私にいい考えがあるワケダ。」

 

「プレラーティ?」

 

紅茶を飲み干し、キャロルの暴走については棚上げする事にしたらしいプレラーティが眼鏡の蔓を中指で持ち上げ、進言してくる。

 

「━━━━アルカ・ノイズを、制御用の《杖》と共に売り捌く。」

 

『━━━━ッ!?』

 

だが、その内容はあまりにも……

 

「━━━━アルカ・ノイズの兵器運用は禁じた筈だッ!!」

 

「状況が変わった……というワケダ。

 ━━━━あの大馬鹿者のせいで、アルカ・ノイズの存在はMI6やCIAにも知れ渡ってしまった。

 ならば、この状況を利用するのが結社幹部のすべき事……そういう認識で居たが、異論でも?」

 

「それは……ッ!!」

 

━━━━アルカ・ノイズ。万物解剖の理を宿す、見敵必殺(サーチ&デストロイ)の究極の対人兵器。

だが、それを一度《兵器》として売りに出してしまえば……世界中の戦場に地獄の蓋が開く事だろう。

引いて言えば、生物兵器や核兵器のような《国際社会として存在を許してはならぬ絶対悪》として槍玉に挙げられかねない、禁断の果実……

 

「……それに、無節操に売りに出すつもりは無いワケダ。

 売りに出すのは《結社の構成員となる者》に対してだけ……それも、錬金術による制御術式を教育するのではなく、ソロモンの杖を模したコントローラーによる半自律制御式しか渡さぬワケダ……」

 

「あ、な~る!!バルベルデの首脳陣に売り込むワケね!!」

 

「あぁ……奴等が結社の構成員となり、《シンフォギアをも打倒した》というネームバリューに釣られてアルカ・ノイズという果実に喰い付けば、いずれ奴等の方からティキを差し出して来る筈だ。

 ━━━━なにせ、独裁者にとっては喉から手が出る程に欲しいだろうからなァ、アルカ・ノイズというのはァ……」

 

「あ~らら、悪いカオ……とはいえ、あーし達にとっては確かに美味しい取引ね?

 もしもシンフォギアとやらが此処から逆転満塁ホームランをかましたとしても、アルカ・ノイズの軍事利用によって国際世論から追い込まれた可哀想な大統領は、秘密の花園にあーし達をご招待してくれるってワケ?」

 

「フフフ……そこについては流石に希望的観測に過ぎるワケダ……だが、否定はしない。」

 

━━━━それは、つまり。

バルベルデという国家そのものを詐欺に掛けるという、大規模な策。

 

「…………分かった。バルベルデ上層部には此方から商談を持ちかける……」

 

「……私が行ってもいいワケダね。」

 

「……いや。契約には私が行く。

 ━━━━それが、私の覚悟という物だ。」

 

━━━━仮令(たとえ)、血に塗れた王冠だとしても。

バラルの呪詛が人類に齎す不和の楔を解き放ち……私は……

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

『━━━━というワケで、キャロルの件には我々結社としては不干渉とし、その隙にバルベルデへの浸透を続ける方針とします。』

 

「━━━━なるほど。任せるよ、其方の事はね。」

 

(アダム)は聴く。サンジェルマンに繋げた念話から。

 

『……よろしいのですか?』

 

「何がかな?」

 

『錬金術師キャロルの事です。

 ━━━━知己という話を聞きましたが……』

 

「構わないよ。命題があるのだろうさ、彼女にはね?」

 

━━━━だが、もしも。それが僕の計画に仇成すのならば……

 

『……了解しました。』

 

切れる感覚。念話の物だ。

結社本部、局長室の中を僕は歩く。

 

「……止まるワケには行かないのさ。僕はもうね。」

 

━━━━見上げる空に光るのは、欠けた月。

だが其処では無い。本当の問題は。

 

「神たる母は目覚めるだろうさ。七十億が繋がったあの日に━━━━」

 

つまりは、一年後だ。フロンティア事変終結の。

 

「手に入れなければならない……それまでに、神を越える力を━━━━ッ!!」

 

焦っている。それは分かっている。だが僕は……かつて、改造執刀医たる(シェムハ)の手によって産まれ落ち、神々(アヌンナキ)の前に連れ出された時に思い知ったのだ……

━━━━敗北感を。

 

「僕を認めやしなかった……神も……そして、母も……」

 

━━━━人造人間試製壱號。即ち、アダム。

それ以上でも無く、それ以下でも無い。

……いいや、そもそも見ていなかったのだ、僕を。

 

「認められるものか……無能などと……(あた)わぬなどと……ッ!!」

 

廃棄処分を下した神々(アヌンナキ)も、そうなる事を見越して居たような(シェムハ)も気に食わない。

手の内で鳴り響くのは、ガラスの砕ける音。握りしめてしまっていたようだ、ワイングラスを。

 

「……キミはいつか言ったね、イザーク……人はいつか分かり合える、と……

 ━━━━残念ながら、その時は来ないよ。」

 

トリガーは、七十億の絶唱。母が蘇る手筈が整ったのだ。集合的無意識に封じられた彼女が。

 

「━━━━残念だよ、本当に。」

 

━━━━道を違えたのだ、キミ達人類は。

避けられぬ滅びへの道へ舵を切ったのだ。目の前の破滅を避ける為に。

 

「もしも……絶望の未来(あす)が姿を変えるのならば……」

 

叶わぬ願いだ。そんな希望(モノ)は。

 

「……あぁ、だからこそ……僕が天に立つ。

 ━━━━切り捨てよう。神に逢うては。

 ━━━━打ち捨てよう。悪魔に逢うては。

 ━━━━そして叶えよう。僕は……僕の、僕だけの願いを……」

 

━━━━これは、必要な孤独だ。天に居るべきは僕ただ一人なのだから━━━━




()ち直されし刃の完成も目前に、土の、風の、水の━━━━そしてなによりも、火の猛威が迫りくる。

戦える者は数少なく。抗える者もまた然り。
だが、諦める者などこの戦列には存在しない。
秘密兵器は二つ。冷酷な突撃、驚愕の一撃、恐怖すら齎す爆裂。いや、三つだ。

━━━━冷酷、驚愕、恐怖、そして……
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