愛すべき吸血姫   作:トクサン

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 ウッ、イキテル……イキテルゥ。


血婚式 前夜祭

 いつも通り軍馬を夜通し駆けさせ、ぶっ倒れた軍馬から放り出されたユウは華麗に着地しつつ夜に備えて野営地を築いた。と言っても一人分の寝床さえあれば良いので野営地と呼ぶほどのモノではないが、要は気分である。

 

 周囲の丸石を集めてから土を浅く掘り、中に乾いた木々を放り込む。時刻は夕暮れ、地面に寝そべったまま死んだように眠る軍馬を他所にユウはテントの設営を急いだ。合成獣皮で出来た頑丈なひとり用テントを横たわった馬の荷から引っ張り出し、手際よく組み立てていく。単独での活動の際、見張りが無い状態で無防備に睡眠を取る必要がある為用意された専用のテントだ。合成獣皮で出来たテントは剣や矢の攻撃を一、二度ならば確実に防ぐ事が出来る強度を誇る。中から締め切ってしまえばちょっとした防御陣地だ、尤も盾としては脆く、また元が皮である為そこそこの重量があるのが難点だが。

 

 それに剣や矢は防げても馬の突撃など重量のある物体が突っ込んできた場合は無理だ。しかしそこまで来ると騒々しい蹄の音で起きるだろう、腐ってもその辺りは戦士である。

 

 ユウが野営地に選んだのは洋館が掌サイズ程に見える丘の裏側。一応偵察という体なので突然屋敷に突っ込んだりはしない。今回は鎧だって着込んでいないし、盾だって持って来ていない。持参したのは数打ちの一つである何の変哲もない直剣一本、それに多少頑丈なだけの皮縫い旅装。とても戦う恰好ではない。誰に突っ込まれても『偵察』という体は守られているだろう、あくまで外面は。

 

 そんな恰好のまま洋館を目視できる場所に陣取ったかユウは、夜になると近場の森林から大量の薪を集め、野営地でそれを次々と燃やし始めた。丘の裏に陣取ったのは洋館側に明かりを見られない様にする為なのだが――そんな事しらんとばかりにユウは丘の上に登るとこれ見よがしに薪を組み上げ、キャンプファイヤーでもしているんじゃないかと思う程の量で焚火をし始めたのである。これは見つけて下さいと言っている様なモノだろう、実際ユウの狙いは相手方に自分の存在を知らせる事だった。

 

「一応偵察って事になっているけれど、向こうがこっちを見つけちゃったら戦わずにはいられないよね、いやぁ辛いわぁ、見つかっちゃうの辛いわぁー……まぁでもなぁ、吸血鬼は夜目が利くって言うしなぁ、見つかっちゃっても仕方ないよね」

 

 誰に対する言い訳なのかユウ自身も分かってはいない。というかこれ程の明かりならば吸血鬼どころか人間でも目視可能である。ユウは時折薪を継ぎ足しながら携帯食料を齧り、真っ暗な夜空の下で炎を焚き続けた。そして案の定キャンプファイヤーを開始してニ十分程経過した頃、ユウが待ち望んでいた人影が何か凄まじい勢いで接近していた。ユウの気配を感じ取り、何故か良く分からないけれど一人でキャンプファイヤーをやり始めたので、「これは我を呼んでいるのでは……? 呼んでなくても行くけれどね!」と叫んで速攻で髪とか服とかを整えたユリーティカその人である。

 

 彼女は地面に砂埃が発生する程の速度で駆けてくると、両手を広げて満面の笑みを浮かべる。徐々に明らかとなる人影の人相、九割がたそうだろうなと思っていたが炎に照らされた彼女の顔はユウの待ち望んだ人のもの。

 

「ユウッ!」

「ユリーティカッ!」

 

 胸に飛び込んで来たユリーティカを辛うじて受け止め、そのまま二人とも背後のキャンプファイヤーの中に突っ込む。そして反対側から飛び出して来た二人は若干燃えながら再会の抱擁を交わした。それでも二人は無傷である、とっても頑丈。反対にユウが組んだキャンプファイヤーは粉々に砕け散って平原を燃やした、南無三。

 

「遅いのじゃ! 我は何日も待ったのだぞッ!(良く来たな我が好敵手よ!)」

「遅くなってごめんね、ちょっと上司とひと悶着あって(貴様との決着をつけに来たぞ!)」

 

 若干煤けた旅装の胸元に額を押し付け、ぐりぐりと痛い位に体を抱きしめるユリーティカ。その姿にユウは歓迎されていると感動した。反対にユリーティカはユウとひと悶着を起こしたと言う上司に対して若干瞳を濁らせながら問いかけた。

 

「えっ、ユウに意地悪する人間とか……殺す?(殺そう)」

「いや、一応王様だから殺されると俺無職になっちゃうよ」

「我が一生養うから問題ないのじゃ!」

「あぁ~ヒモになるぅ~」

 

 宿命のライバルとも言える二人、そんな二人が出逢ってしまったらもう戦いは不可避である。互いに啖呵を切りあいながら「今日もユリーティカは激カワ」とか、「ユウはいつ見ても恰好良いのじゃ!」と攻撃を放ちつつイチャコラ――ではなく戦いを繰り広げる。

 

 激しい攻防だった、恐らく常人であれば一分とその場に立っていられないだろう。平原の丘の上で周囲を炎に囲まれながら激しい戦いを繰り広げる二人、それは外から見れば非常に目立つ事この上無い。遠目に見ればユリーティカがマウントをとってユウを攻撃している様に見えなくも――ないような、そうでもないような。

 

「ユリーティカ……実は今日、大切な話があって来たんだ」

「うん? なんじゃ、何でも言って欲しいのじゃ」

 

 ユウは不意に真剣な表情を浮かべると、そんな言葉を紡ぐ。久方ぶりに見たユウの真剣な表情にトゥンクしながらユリーティカは頷いて見せた。そして彼女の肯定を確認したユウは懐から非常に高そうな小箱を取り出し、ぐっと手の中に握り込む。小箱の中身は何を隠そう、ドンに依頼していた指輪である。彼が気を回してくれたのか直接手渡された訳では無く、ユウの私室にこっそりと布に包んで置いてあったのだ。帰宅してそれを見つけたユウは偵察の日に求婚しようと決めた。

 

 今こそユリーティカと結ばれる、その時だろう。もう殆ど結婚していると言っても過言ではないが指輪があった方が結婚した実感が湧く。というか自分の送った指輪を身に着けるユリーティカを想像したら何かぐっと来たので何があっても無くても指輪は送る予定である。婚姻届は後からでも良いでしょう、ほら事実婚って言葉もあるし。

 そんなこんなでユウが人生最初で最後の会心の一撃を叩き込もうとした、その次の瞬間。

 

「マグリット様ッ!」

「!?」

 

 第三者によってその言葉と行動は遮られた。言葉は背後から、激しい馬の駆ける音と鎧同士が擦れる音。ハッ、とユウが気付いた時には既にユリーティカはユウの体から離れ、吸血鬼の王らしく不敵な笑みを浮かべたまま仁王立ちしていた。ユウの背後、平原の向こう側から六人の影、軽鎧を身に着けた男女六人組が二人の間に雪崩れ込み、倒れていたユウを守る様にしてユリーティカと対峙する。特徴的な鎧だ、全員が黒く塗装された鎧を身に纏っている。ユウは鎧を良く知っていた。聖王直轄の近衛部隊、『羅刹』――その部隊員が着込む特注の鎧である。何故、聖王直轄の近衛がこんな場所に。そんな疑問と同時に『お前等マジで空気読めよ』という殺気が肌から滲み出た。

 

「マグリット様、ご無事ですか!?」

「……あぁ、問題無い」

 

 如何にも強敵と戦い、不覚を取ったと言わんばかりの口調。自身の旅装に付着した汚れや煤を払い落し、毅然とした態度で立ち上がる。近衛のメンバーは自身に向けられた殺気を上手い具合にユリーティカに向けて放たれているものだと勘違いした。

 

 良く見るとこの場所に雪崩れ込んで来た隊員たちは羅刹の中でも上位十パーセントの精鋭である【数字持ち】の連中だ。皆が肩にそれぞれ自身の数字を刻んでいる。

 

「お前達は羅刹だな? 何故陛下の近衛がこの様な場所に――」

「申し訳ありません、我々陛下直々の命により四日程前から館の偵察を行っておりました、そして一度報告に戻り、それから同じく館の偵察を行うマグリット様の後をつけさせて頂いたのです……昼夜を問わない移動には流石に振り切られてしまいましたが――間に合って良かった」

 

 心の底から安堵する様な声。六人の内の一人がユウの傍を固め、残り五人は盾となる様に剣を構えたままユリーティカの視界を塞ぐ。成程、今の陛下ならばやりそうだと思った。

 

 周囲に緊張が走っていた、ユウとユリーティカには別の意味で緊張が走っていた。ユリーティカは黙して語らず、薄笑いを浮かべたまま両手を広げて構えているが内心は色々とパニックになっている。その無言が寧ろ圧力を増しており、ユウの壁となっていた五人は既に及び腰だ。何せ評議会一の剣であるユウ・マグリットに土をつける化け物である。自身が勝利出来る確率などゼロに等しい。容姿から察するにユウが警戒している怪物とはまた別の存在だろうが、どちらにせよ圧倒的な格上である事は間違いない。

 

「マグリット様、ここは御逃げ下さい――我々が時間を稼ぎます」

 

 すらりと、腰から剣を抜き放った近衛が言う。ユウは悲痛な覚悟が込められたその台詞を聞くや否や、「何?」と思わず呟いた。いや逃げて下さいって何だよ、何から逃げるんだよ、此処には可愛い吸血鬼が一人いるだけだろうと。しかしユウにとっては可愛い吸血鬼でも彼等からすれば恐ろしい怪物。ユリーティカと対峙した近衛は緊張に汗を滲ませながら言い放った。

 

「貴方はこんな場所で死んで良い人間ではないのです、我らの死を以て彼奴の脅威を断固たるものに、願わくば仇をお願いします」

「馬鹿なッ、お前達を置いて逃げられるものかッ!」

 

 いや知らんがな、寧ろお前達が帰れよ、ユリーティカと二人きりにさせてくれ。

 

 感情の籠った怒声、それは近衛たちの背をビリビリと刺激し、思わず涙が零れそうになった。評議会第二席の男に、ここまで身を案じられるとは。大切にされている、そんな実感が身を包み込み近衛の兵達は一時の幸せを感じた。尤もそんなものは幻想だが。ユウの怒声が一層近衛たちの決意を強固なものとした。やる事、為す事、全てが裏目に出る男である。

 

 一方ユリーティカと言えば、突然しゃしゃり出て来た近衛に困惑を隠せない。そもそも誰だしお前等という感じであり、ユウとの逢瀬を邪魔した罪は万死に値するというレベル。しかし会話を聞く限りユウの部下でもあるそうで、それなりに親しい様子。そうなると流石に殺すのはマズイよなぁと困り顔。だってユウに嫌われたくないし。

 

 なら手加減して倒せば良いじゃないかと言われても、そう簡単な話でもない。そもそもユリーティカが人間に手心を加える理由なんて連中からすれば皆無だし、そんな事をすればユリーティカという吸血鬼の祖がユウ・マグリットという一人の騎士に恋をしているという事が本人にバレてしまいかねないのだ。ユウとユリーティカの二人は互いの恋心にまだ気付いていない。ここまでくると鈍感とか唐変木とかそんなレベルじゃない、もっと恐ろしい何かな気がする、こわい。

 

 そんなユリーティカの不動を強者の余裕、或は獲物を前にした舌なめずりと思ったのか、近衛たちは剣を構えながらユウに再三退く様に進言していた。何せユウは偵察用の軽装備のみである、こんな状態で目の前の怪物――の恐らく右腕とか側近とかそれに近い存在だろう――と戦わせるなど危険だと思ったのだ。しかしユウも頑固なもの、近衛の再三の撤退要請に頷く様子は微塵もない。

 

「早く御逃げ下さい! 奴は私達が!」

「駄目だ、お前達の敵う相手ではないッ!」

「例え此処で命尽きようよとも、貴方様が生き残れば我々の勝利なのです!」

「そんなのは犬死にと変わらんッ、その限りある命、陛下の為に使えと言っている!」

「いいえ、私達とてただでやられるつもりはありません、せめて一太刀――あの体に浴びせてからあの世に向かいます!」

「は? ユリーティカに怪我させるとかテメェぶっ殺すぞ」

「えっ」

 

 何か今とんでもない事言われた気がする。しかし口を滑らせた本人は咳払いし、然も何も言っていませんでしたよとばかりに横を向く。「あの、今何か」と近衛の一人が問いかけようとして、ユウは食い気味に「ええい、分からず屋め!」と一歩踏み出した。有耶無耶にする気満々である。

 

 そんな様子を見ていたユリーティカは「おや?」と空気の流れが変わったのを感じた。何だか良く分からないが言い争っているユウと部下たち、これは仲違いと見て良いのでは? 今ならちょっと攻撃して追い返しても怒られないかもしれない。そう思ってそっと腰を落とし、一息に近衛に向かって飛び出した。

 

「ッ! 来たぞッ!」

「マグリット様、早くッ、御逃げ下さいッ!」

 

 地面を蹴り砕き、周囲の炎を一瞬掻き消す程の勢い。目は逸らしていなかった、しかし余りの速さに瞳はユリーティカの姿を見失い、気付いた時には近衛の一人、その腹部に強烈な蹴りが炸裂していた。鎧の重量込みで百を超える重量、それを片足の蹴りで宙に浮かべる。

 

 板金が凹み、歪な形になる程の威力。蹴り飛ばされた近衛はそのまま大きく後方へと吹き飛び、土の上を何度も転がった。

 

 速い、速過ぎる。そんな言葉が思わず近衛の口から洩れる。鎧を着ていないのだから自分達よりは素早く動けるだろう、しかしそれにしたって目で追えないというのはどういう事か。そんな呟きを終える間にまた二人、宙に跳んだユリーティカの芸術的とも言える攻撃によって戦闘不能に陥る。トン、と軽い音と共に跳躍したユリーティカは一瞬で空に舞い上がり、夜空に溶けた。ドレスの黒と夜空の黒が混ざり合って標的を見失ったのは一秒足らず、しかしその一秒の間に空を見上げていた近衛二人が、途轍もなく巨大な金槌で殴られた様な衝撃を頭部に受けた。

 

 首が捻じ曲がるのではと思う程の威力、そのまま顔面から地面に叩きつけられ痛みに喘ぐ。瞬く間に三人の近衛が倒された、どれも兵士としては一線級の力を持った戦士。それがこうも簡単に。

 

「まさか、これ程とは……ッ」

 

 地面に倒れ伏し喘ぐ仲間を見て、残った三人が蒼褪める。ユリーティカはゆっくりと地面に着地しながら薄笑いを浮かべていた。彼女からすれば残った三人を屠る事など容易だろう、しかし再び攻めて来る様子は見せず、更に先程攻撃を受けた三人は命を奪われた訳でもない。明らかに手を抜かれている、あしらわれていると言っても良い。その事に近衛達は蒼褪めながらも矜持を傷つけられ、憤った。

 

「どういうつもりだ……! 貴様、我々をいたぶるつもりか!?」

「いたぶるとな……? まさか、我にその様な下賤な趣味はない」

「ならば何故殺さないッ!?」

 

 剣を向け、荒々しく問いただす近衛。それに対してユリーティカは圧倒的格上のスタンスを崩さず、どこか芝居の掛かった様な口調で答えた。

 

「下等な存在に興味が無いのじゃ、我は美食家でのぅ、喰らうのならば強き者の血肉に限る、例えばそうだな――そこな騎士、正に強き男の血肉よ」

 

 妖艶な笑みさえ浮かべてユウを指差すユリーティカ。その事に騎士たちは悔し気に歯茎を露出させ、ユウは「やだ、カニバリズム……」と胸をトゥンクトゥンクさせた。痛いのは嫌だけれどユリーティカならちょっと齧られても許しちゃいそう。でもきっと美味しくないよ。

 

 名指しで呼ばれてしまったのなら仕方ない。いや、本当はこのまま大人しく帰るつもりだったけど? 仕方なく、そう、呼ばれてしまったから仕方なく一歩踏み出した。

 

「下がれ、そして退け――お前達では奴に勝てない」

「マグリット様……!」

 

 近衛を押し退け、ゆっくりとユリーティカと対峙するユウ。倒れた近衛にスッと目を送ると、意図を理解した近衛達が倒れ伏した仲間を一斉にユウの後ろへと引き摺って行く。近衛達の目尻には涙が浮かんでいた。何と情けない、結局助けに来たつもりが逆に助けられるとは。体を蝕む無力感、そんな近衛を他所にユウは腰の剣に手を掛ける。

 

「俺がご所望の様だな、美しく可憐で激カワの吸血鬼よ」

「そうじゃ、我は強き者の血肉しか喰らいとうない、気高く格好良いイケメン騎士よ」

 

 一応敵対している形はとらないといけない為、心無し相手を挑発するような言葉を吐き出す。これならば自分がまさか相手に好意を抱いている何て露ほどにも思わないだろう。ユウとユリーティカの二人は自分の演技力の高さに惚れ惚れしていた。さすユウ。

 

 そして暫くの間睨み合い、「やっぱりユリーティカは最強可愛い」、「ユウは地上最強の益荒男」などと再認識しつつ、不意にユリーティカが視線を外して肩を竦めた。

 

「ふむ、しかし我としては今すぐ主と戦うつもりはない」

「ほぅ……何故、と聞いても?」

「我は美食家じゃ、当然拘りがある、万全の状態ではない強者を食して何が楽しい? 最上の剣、盾、鎧を揃え気力、体力共に漲らせた絶好の状態で食さねば嘘だ、『あの時、アレを使っていれば』、『僅かばかりの時間があったら』、そんな【もしも】が微塵も介在しない完全なる決着、我が欲するのはそれ一つのみ」

 

 折角見つけた猛者、ここで摘んでしまうのは惜しい。そう口にしてユウを三日月の如く歪んだ瞳で見つめるユリーティカ。その悍ましい視線に近衛は身震いし、ユウは「やだ、見つめられている……」と胸を高鳴らせた。髪型とか崩れていないだろうか、ちょっと心配。

 

「感謝を口にした方が良いか?」

「よせよせ、その様なモノは要らん、我は我の意思に従ったに過ぎん」

 

 そう言ってドレスの裾を靡かせ背を向けるユリーティカ。そして唇に手を当てると空を見上げ、月を眺めながら言葉を紡いだ。

 

「決着は――そうさな、次の満月、我の館にてつけようではないか、日で七日、それだけの時間は待ってやろう」

「次の満月だな? 分かった、その約定、決して違えない事を此処に誓おう」

 

 腰から剣を鞘ごと抜き出し、そのまま切っ先を地面に突き立てたユウ。連邦式の儀礼、膝こそ着かなかったものの亜人に対しては最上級の礼に当たるだろう。その誓いの立ち姿を見たユリーティカは満面の笑みを浮かべ、内心でその姿を脳裏に焼き付けた。

 

「屠るには余りに惜しい男よ……もし次の夜、我が主に勝利した時は――その身、我が眷属として飼ってやるのも吝かではないぞ?」

「是非お願いします(世迷言を、悪いがこの身は既に陛下と祖国に捧げた)」

 

 ユウの騎士として祖国と王に忠誠を捧げる姿にユリーティカは感銘を受け、ふっと意味ありげに笑みを深めた後、彼女は静かにその場を去った。

 本当はユウに抱き着いたり頬ずりしたり、その他諸々言及するのも億劫な数々の行為を実践したくて堪らなかったが辛うじて耐えた。ユリーティカは我慢強い人物なのである。ドレスが皴になる程強く握り締めていたが。

 

 ユリーティカが去る後ろ姿を、これまた寂しそうに眺めていたユウ。今駆け寄って頬ずりなどしようものなら二人の関係がバレてしまうと我慢に我慢を重ねた。そしてユリーティカの姿が完全に闇夜に溶け見えなくなった時、ユウは小さく息を吐き出し体から力を抜いた。そして振り向いて近衛達を見れば、辛そうにこちらを見上げて来るばかり。どうやらユリーティカに対する感情には気付かれていない様だとユウは独り安堵した。

 

「……帰るぞ、我らが祖国に」

「マグリット様、申し訳ありませんッ、この様な――」

「言うな、生き残れたのだ、それで良いではないか」

 

 倒れた仲間に覆い被さり、涙を流す近衛達。彼等は無力感の余り涙を流していたがユウからすれば『なんでコイツ等はこんなに泣いているのだろう』という状況なので、何となくそれっぽい言葉を掛けて頷いておいた。どうしたのだろうか、お腹でも壊したのだろうか。

 

「先程、陛下の命で動いていたと言っていたな……その忠義には敬意を抱く、だがこの件はどうか陛下に報告しないで欲しい」

「我らに、背信せよと……?」

「そうではない、陛下は恐らく私が奴と――そしてその背後に潜む、強大な存在と決着をつけようとしていると知れば国を挙げての討伐に乗り出すだろう……優秀なお前達の事だ、陛下が何故この洋館の偵察を命じたのか、その意図は理解している筈だ」

 

 私は民が傷付く事を好まない。

 そう言ってユウは静かに近衛に微笑みかけた。「お前達もまた、近衛であると同時に連邦の民だ」、そう言うと彼等は一斉に顔を伏せ、肩を震わせ始めた。ユウは言外に『ユリーティカとの逢瀬を邪魔しないでくれない?』と言っていたのだが、近衛達はまた別の意味で言葉を捉えていた。

 

 即ち、近衛の精鋭である自分達ですら歯牙にもかけない怪物、そんな存在に国を挙げて挑めばどうなるか。恐らく夥しい数の犠牲者が出るだろう。アレでまだ本気を出していないのだから恐ろしい。だからこそユウは独りで決戦に赴こうとしているのだと、近衛達はそう解釈した。

 

「よもや、よもやこの様な……貴方様、たった一人に頼り切るなどッ、何と、何と口惜しい事かッ!」

 

 自身の掴んだ剣を地面に突き立て、全身で悔しさを表現する。近衛の道を選んだのは祖国の為、陛下の為。何より天上の存在である評議会の九人を守護する為。近衛とは陛下の盾であり、ノイスタッド連邦の核である評議会の盾でもある。その盾が守るべき対象から庇われるなど――恥にも勝る、正に自死に等しい醜態だった。

 

 えっ、何でそんなに悔しがるの? やっぱりお前達もユリーティカに惚れちゃったの? 死ぞ? そんな事したら死ぞ? ユウは近衛の悔しがる姿を見て思わず剣を握り締めた。

 

 そんなこんなで綱渡りをしつつ近衛を巻き込み、何とか陛下に虚偽の報告を確約させたユウ・マグリット。「これが私の、騎士としての最期の頼みだ」と真面目な顔で告げると、彼等は滝の様に涙を流して頷いた。いや、ほら、ユリーティカと結婚したら騎士もやめないといけないしね。これが寿退社って奴だろうか? いやぁ照れる。

 

 そして負傷した近衛を回収して馬に乗せると来た時とは反対に非常にゆっくりと帰城した。移動に倍以上の時間を掛けたのは負傷兵に配慮しての事だ、別に今聖王と顔を合わせるのが気まずいとかそういう事では決してない、本当だよ。一応簡単に傷の方も見てみたが、致命傷を受けた近衛はひとりもいなかった。鎧の板金を射抜かれた近衛も見た目に反して酷い傷では無い。恐らく出来得る限り手を抜いてくれたのだろう、手を抜いた状態で鎧の板金を簡単に凹ませると言うのだから恐れ入る。

 

 城に戻ったユウ達一行は心配そうに集まって来た兵に負傷兵を医務室に運ぶように指示し、ユウ本人はさっさと部屋に籠った。今回は出迎えなしである、聞くところによると評議会の面々は聖王の指示によって駆り出され警邏のマロニーを除き不在らしい、諸外国に対する使者として動いているのだろう。聖王その人は現在も執務室で仕事中である。帰還した近衛の一人が報告に向かい、ユウは静かに決戦の日を待った。

 

 

 





 臓器移植でも使われるドキツイ薬を処方されました。薬代めっちゃ高かいわ、パッケージがアホみたいに大きいわ飲みにくかったです(コナミ)。
 飲んでる間は比較的平穏なのですが副作用を考えるとあんまり飲みたくないです。ゲーム表記にすると「トクサン の しゅびりょく が 99 さがった!」状態になります。こんなんメラでワンパンですわ。特に今の時期はアカン。あと検査入院の話も出ました。
 そして例の如く飲み続ける薬では無いので一端止めた数日後、再び地獄が……←イマココ
 
 小説がですねぇ……へへ、全然ですねぇ……進んでなくてですねー……。
 ゆるして(懇願)
 
 もういっその事全身サイボーグになって病気とは無縁の生活を送りたい。
 アーマードコアごっことかしてみたい、してみたくない? 私はしてみたい(真摯)
 皆さんも小学校の頃にプールの時間で「クッ、メインブースターがイカれただと!?」と言いながら水没した経験あると思います、あとはドッチボールで最後に残って「ノーカウントだ!」と叫んだ経験も。隠さなくても良いのです、誰でも一度は通る道、家の電気ヒモでシャドーボクシングくらい普通です、もしくは扇風機の前で「アァァァァ」。

 結局何が言いたいのかと言うとさっき階段で小指ぶつけてめちゃくちゃ痛かったです。


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