恋姫†無双 七天の御使い   作:にゃあたいぷ。

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間幕・三顧の礼    -徐晃公明

香風(徐晃)、私は近々(しあ)さん……いえ、張遼さんのところで働くことになりました」

 

 唐突な同居人の言葉に私は最初、理解ができなくて言葉に詰まった。

 明日からの段取りを嬉々として話し始める博美(李儒)。そんな彼女を見ていると、そうじゃないと分かっていても頭に過ぎる疑念がある。彼女が笑顔で語る内容なんて頭の中に入らなくて、目頭が熱くなって手が震えてくる。「香風(しゃんふー)?」と私の異変に気付いてくれたのか、同居人に気遣うような声に少し安心する。

 それでも確認せずにはいられなかった。

 

「……シャンのこと、嫌いになった?」

「ええ!? なんでそうなるんですか!?」

 

 否定の言葉、ほっと息を吐くと目に溜め込んでいた涙がポロリと溢れた。

 

「あっ、えっ? うえっ!? しゃ、香風、私は貴方の側から離れません!」

 

 博美(ひろみ)が私の体をギュッと抱き締める。

 力いっぱいに抱き締めているつもりなのだろうけども、非力な彼女が全力を出したところで痛くもない。頑丈な体には何時も世話になっているが、一度、苦しく感じるくらいに力いっぱい抱き締められたいって思ったりする。

 でも博美(ひろみ)の体は華奢でか弱いから、割れ物を扱うように優しく抱き締め返した。

 

「うーっ、ひろみぃー―――っ!」

「きゃあん! しゃんふぅー―――っ!」

 

 叫びながら二人でガシリと抱き締め合って、ウリウリと互いを頬擦りをし合っていると、不意にガチャリと部屋の扉が開かれた。

 

「あんたら、何してんねん……部屋の外まで聞こえてるでー」

 

 呆れ顔の張遼が土産を片手に顔を出した。

 仮にも他人の屋敷なのだから勝手に入らないで欲しい、当てつけるように博美をギュッと抱き寄せると張遼が僅かに顔を顰めた。

 ……この反応、敵かな?

 

 それから張遼は居間に居座り続けており、

 呼んでもいない客人に対しても茶を用意する博美の人の良さに感心しながら、警戒心を隠すつもりもなく睨みつけて威嚇する。おおきに、と張遼は私のことに気付かないはずもないのに笑顔で博美に接している。

 この気に入らない感覚は、なんだろう。

 私と張遼が対面に座る状況、何気なく博美が私の隣に座ってくれたので私が「ふふん」とドヤ顔を決めてみせると、張遼は博美に気付かれないように小さく舌打ちする。

 こいつは敵だと確信した。

 

「それで(しあ)さん、わざわざ屋敷まで来られてどうなされたのでしょうか?」

 

 用件なんて聞かずにお茶漬けを投げつけて、追い出せばいいのにと思いながら茶を啜る。この味は普段は使わない客用の高級茶葉――じっと博美のことを見つめると、彼女は可愛らしく首を傾げるだけだった。

 

「ああ、そうやった。これからウチの補佐官になるやろ? それやったらウチの屋敷に来ればええと思ってな、その方が時間も有効活用できるやん」

 

 こいつは敵だと確定した。

 部屋の隅に立て掛けていた大斧を取りに腰を上げたところで「折角の申し出ですがお断りします」と博美は晴れやかな笑顔で告げる。心の中でグッと拳を握りしめながら、張遼の方を見ると悔しそうに私を見つめ返してきた。きっと今の私は渾身のドヤ顔をしているに違いない。

 そうして張遼と見つめ合っていると、中腰になっていた体を博美に腕を引っ張られて彼女の膝の上に座らせられる。

 

「香風がいる此処が私の帰るべき場所なんですよ。もう結構な付き合いですし……彼女と離れるくらいでしたら引っ越したくありません」

 

 同居人が照れ隠しをするように私の髪を弄りながら言った。

 髪留めを取られて、三つ編みにされたり、編み込まれたり、多彩な腕前に少し驚きつつ正面の張遼を見やってから背中越しに博美に身を擦り付ける。ふふん、どうだ羨ましいだろう。

 

「……それなら公明もウチの屋敷に来ればええ」

 

 張遼が笑顔を張り付かせて、振り絞るように告げる。

 

「それも困るんですよね……その、此処に住んでるのは私達だけではありませんので……」

 

 あはは、と乾いた笑い声に「あー……」と張遼は天井を仰ぎ見る。

 そういえば地下室の居候が二人に増えていたな、と私も若干の諦観を交えながら思った。あれって誰なんだろうか。この前、見に行くと獣耳に尻尾を付けたりしていたのが少し気になっている。ああいうのが好きなのだろうか。今度、探してみようかな。

 ともあれ間女の魔の手から無事に逃れることができた。さっさと指を咥えながら私と博美の巣から出て行け、張遼。

 

「そやったらウチが此処に引越したる」

 

 そう言うと張遼は席を立ち、「空き部屋の一つや二つくらいはあるやろ」と言いながらズカズカと屋敷の中へと上がっていった。

 ちょっと待って、不法侵入はいけない。追いかけないといけないのに……先程から私の頭や顎下を撫でてくる博美のせいで追いかけることができない。この心地良さから逃れることなんてできるはずがない。博美は呆然としながら私を弄る手を止めようとはせず、思う存分に私の体を堪能する。

 くそう、幸せすぎる。幸せに囚われた私は極楽浄土を満喫する他になかった。

 

「なあ?」

 

 程なくして居間に戻ってきた張遼が引きつった顔で問いかける。

 

「私室として使っている部屋、一つしかなかったんやけど?」

「ええ、まあ、一つしかないですね」

「寝台も屋敷に一つしかなかった気がするんはウチの見落としか?」

「ええ、まあ、一つしかないですね」

「……寝る時はどうしてるんや」

 

 張遼の追求から逃れるように顔を逸らす博美、次いで張遼が私のことを見つめてきたので素知らぬふりで口笛を吹いた。

 

「明日から此処に住むで、執金吾としての命令や」

「……職権の乱用は、ダメ」

 

 両腕で×の字を作ってみるも「地下のことを告げ口するで?」と張遼に言われて、「それは勘弁してください」と博美の方が折れてしまった。無視したところで張遼が博美のことを困らせるような真似をしないとは思うが、博美が落ちた時点で張遼を屋敷から追い出すことは不可能に近い。何故ならば、博美が縋るように私のことを見つめてくる姿を見てしまった時点で、私が彼女の願いを断りきれるはずもない。

 できることといえば、また居候が増えることに対して、不愉快そうに溜息を零すくらいなものである。

 

「今日は一緒にお風呂入りましょうねー、ご飯も腕に磨きをかけて作ります」

「ん、期待する」

 

 あからさまに機嫌を取ってくる博美に優越感を覚えながら、仕方なしといった演技で頷いてみせる。

 どうせ結果が変わらないのであれば、これくらいの役得は望んでも許されるはずだ。しかし張遼にとってはそうでなかったようで、心底羨むように私を睨みつけている。

 ざまあみさらせ。

 

「なんなら公明がウチの屋敷に住んでもええで、代わりにウチが此処に住んだるわ」

「……んー?」

 

 私は分かりやすく首を傾げながら、屋敷の隅に立て掛けてある大斧に手が伸ばした。

 しかし背中から博美に抱き締められているので届かない。

 今一時、この小さな体が恨めしい。

 

 

 居候が更に一人増えてから三日が過ぎた頃、

 引き抜かれてしまった博美(李儒)の代わりを探すために洛陽を散策している。

 とはいえ当てがなく歩き回っている訳ではなく、昨晩、博美(ひろみ)に大した期待もせず相談してみたのだ。

 すると、

 

『私の代わりですか? 心当たりがない訳ではありませんが……』

 

 と、そんな感じの返事が返ってきたので詳しく話を聞いてみた。

 其の者は幅広い知見と優れた知恵を兼ね備えているが性格に難がある。というのも宮中務めが嫌なようで、息を潜めるように暮らしているという話だ。それならば洛陽から出れば良いとおもうのだが「今の御時世、最も安全なのは洛陽市中。最も危険なのは洛陽の宮中」と言い張っているのだとか、あながち間違いでもないのがなんとも言えない。

 さておき博美が(したた)めた紹介状を片手に、彼女の教えて貰った場所に足を運んだ。

 

「……質素、かな?」

 

 名家の出身だと聞いていたが屋敷は驚く程に小さい。

 騎都尉になった時、洛陽郊外に支給された屋敷に住んでいる私よりも小さな屋敷、辺境具合では良い勝負だろうか。庭は雑草で埋め尽くされており、辛うじて玄関戸に続く道だけは生きているといった有様であった。

 本当に人が住んでいるのだろうか。そんな疑問が浮かび上がるくらいの廃れ具体、ここで立ち尽くしていても仕方ないので庭に足を踏み入れると、足首に何かが引っかかった感触と共にカランコロンという音が鳴り響いた――罠、とはいえ今直ぐなにかに襲われるといった気配はない。ただの悪戯だろうか、注意を払いながら玄関戸に近づいた。

 途中、落とし穴を一つ見つける。

 

 もしも誰かが住んでいるとすれば、余程の変わり者に違いない。

 そんなことを思いながらトントンと玄関戸を叩けば、「はいはーい」と中から声がした。ガラリと開けられた扉の先には、自分と背丈の変わらない短髪でパッと見、少年に見える顔が姿を見せる。私は博美が認めてくれた紹介状を見せると、彼は宛先人を確認するとその場で中身を読んだ。

「ははん、あいつめ……」と彼は小言を呟き、紹介状を振袖にしまって、まこと残念そうに首を横に振ってみせる。

 

「残念ながら我が主人様は病床に臥せっているためお会いできません、またのお越しをお待ちしております〜♪ またがあればのお話ですが……」

 

 そう言って、ピシャリと扉を閉じられる。

 

「……あっ」

 

 玄関前に取り残される私、もう一度、扉を叩いても返事はない。

 扉を開こうとすれば、がっしりと固定されてしまっている。中から閂が立て掛けられているように頑丈だ。

 こうなってしまっては仕方ない、また次の休日の時に出直すしかなさそうだ。

 

 更に数日後、

 無理に時間を作り、半日しかない休暇を使って、再び寂れた屋敷に訪れた。

 そこに待ち構えられていたのは、先日に訪れた時よりも巧妙な罠の数々、連携して発動する罠も多く、予想以上の大仰な仕掛けもあって、身構えなく突入してしまった私は最終的に落とし穴に引っかかってしまって泥だらけになってしまった。しかし、此処は落とし穴と呼ぶには深過ぎる。私の身長二つ分くらい、壁が脆くて昇ろうにも昇れなかった。

 それから一刻くらい文字通りに立ち往生していると、シュルリと上から縄が投げ込まれた。上を見上げると先日見た少年が穴に落ちた私を覗き込んでいる。

 

「あらら……まさか、とっておきに引っかかるとは運が悪い御人です。本来であれば一日程度は放っておくのですが……()()の御友人であられるようなので初回だけは特別です。次回は期待しないでください、懲りて貰うためのものですからね――ああ、ちなみに主人様は今日も病床に臥せっているためお会いできません。またのお越しをお待ちしております〜♪」

 

 言い切ると彼はひらひらと手を振って去ろうとした。

 待って、と呼び止める。すると彼は楽しそうな笑みを浮かべて足を止めた。

 

「初回特典、質問は三つまで受け付けますよ。ああ、それと縄には触れないように……その瞬間に逃げさせて貰います」

 

 縄から手を引いて、思い付いたことを問いかける。

 

「貴方は誰?」

「私は主人様に仕えている使用人という設定です。そうですね、名は春華(はるか)とでも名乗っておきましょうか」

 

 あからさまな偽名、どうやらまじめに答えるつもりはないようだ。

 

「……どうやったら主人に会えるの?」

「うちの主人様は上がり症でして……誰かが来る気配を察すると急に布団の中へと潜り込んじゃうんですよ。だからまあ気付かれずに屋敷まで足を運んだら会ってくれるかもしれませんねー」

 

 これも嘘……でも今、大事なのは嘘を暴くことじゃない。

 

「どうすればシャンのこと、認めてくれる?」

「……さあ、それは難しい話ですね。でもまあ私の予想を超えてくれれば、話くらいは聞いてくれると思います。まあ貴方のことです、庭を無事に切り抜ける程度のことは()()()()()()()

 

 そう言うと彼は「次はもうちょっと難易度を上げておきますね」と言い残して去っていった。

 穴から出るとそこには誰もおらず、空は赤みが差している。

 

 それから自分の屋敷に戻った時、

 泥だらけになった私の姿を見た博美は「あらあら、まあまあ」と頰に手を置いて、少し困ったような素振りを見せてからお湯を作り始めた。それから私室まで連れ込まれた私は彼女の手によって簡単に衣服を脱がされて、寝台に座らせられると「んっ」と少し熱めの手拭いを肌に当てられて声が漏れる。

 しかし博美は慣れたもので「少し我慢してくださいね」と優しく肌を撫でられる。

 

「ねえ、博美はあいつにどうやって認められたの?」

 

 彼が博美のことを真名を呼んでいたことが気になって問いかけると「よくわかりません」と博美は笑って答えた。

 

「出会いも茶屋ですよ? 私が店先で戯作を読んでたら急に(りん)が話しかけてきて、それで意気投合した感じですかねぇ……」

「……戯作?」

「いわゆる俗っぽい文章のことです。知識の糧にはなることは少ないですが、頭を空っぽにして読めば面白いですよ。私は好きですねー」

 

 話には聞くが、あまり読んだことはない。

 私にとって書籍とは知識と情報が詰め込まれたものであり、文字とは過去の知見と経験を未来に紡ぐためのものだ。というよりも分かってはいたが、博美も真名を預かっているようである。

 ……ちょっと気に入らない、いや別に博美の勝手なんだけど。

 

()()、自分の知らないことに強い興味を持っているんですよ。まるで好奇心の猫のように未知に対して引き寄せられる、戯作に興味を持ったのも零にとっては初めて見る書物だったようでして――私よりも戯作を読み込んでしまって、今ではもう別のものに興味を持ってしまったようですね。まあそれとは別に他にも色々と話し込んでいると……なんだか気に入られちゃってました」

 

 てへっと舌先を小さく出してみせる。

 なんだか色んなところで縁を紡いでいる話を聞くと、博美が私の手から離れていくような錯覚を感じる。それはきっと気のせいで、むしろ喜ばしいことなんだと理解はしている。

 ただ心が付いていくかと聞かれれば、また別の話になってくる。

 

「あんたら、本当に何もないんやんなー?」

 

 何時から覗いていたのか、それとも今来たばかりなのか張遼が部屋の扉から顔だけを出した。私は近くにあった掛け布団で肌を隠す。

 

「何もないですよ?」

 

 そう答えるのは博美で「いやいや、肌を晒すのが当たり前なわけないやろ。ほら、公明もちゃーんと肌を隠しとるで」と張遼も追及を止めようとはしない。

 

「そりゃそうですよ。香風はお年頃なんですから、まだ会って日も浅い相手だと恥ずかしいに決まってます。私だって霞相手だと恥ずかしいんですから」

「ふぅ〜ん、せやったらなんで香風ならええんや?」

「香風は家族のようなものですし、手間のかかる妹のようなものですよ」

「あっ、そうなんや。妹ね、妹……ふぅん? 良かったやないか、こんな素敵なお姉ちゃんを貰って、ちょーうらやましいわー」

 

 隠しきれないにやけ顔を見せつける張遼が酷く面白くなかったので、手元にあった枕を憎たらしい顔を目掛けて投げつけてやった。

 そのまま勝ち誇った笑みで逃げ去る張遼、この敗北感はなんだろうか。

 妹、手間がかかる、庇護対象……もうちょっとしっかりしようか、家事とか、掃除とか。

 なんだかとてもやるせない気持ちになってる。

 

 更に次の休日、

 あからさまに難易度の高くなった罠を潜り抜け、更に屋敷の中にまで侵入を果たした。

 荒れ果てた外観とは裏腹に内部は整然としており、部屋一つを古今東西の書籍で埋め尽くされている。少し前まで戯作に興味を持っていたというのも嘘ではなかったようで、軽く百冊以上が本棚にしまわれている。何処にこれだけの書物を買う資金があるのか、そして整然と片付けられた部屋とは裏腹に屋敷の主人様は書籍に埋もれながら昼寝を嗜んでいた。

 顔は何度も見たことがある。少年っぽいとは思っていたが、今、こうして女物の着物を着ている姿を見ると女性にしか見えない。少しはだけた胸元から膨らみを確認できたから女性で間違いない。博美も“彼女”と言っていたのを記憶している。

 気持ち良さそうに熟睡をする彼女、背丈は自分と同じほどか。しかし、屋敷の中とはいえ、こんな無防備な姿を晒して大丈夫なのだろうか――と思ったところで、前に似たようなことを思ったなと苦笑する。それに彼女の場合は外に罠を仕掛けているのだから用心をしていない訳ではない。

 さて、どうしようか。起こすのも悪いと思って暫く待ち続けることにした。

 幸いこの部屋には暇を潰せる書籍が山のようにある。

 

 数刻後、目を覚ました彼女は書籍に読み耽る私の姿を確認すると「まさか三回目で突破されるなんて、しかも屋敷内の罠まで看破されてるし」と驚きも数瞬、的確に状況を読み取った彼女は、参りました、と両手を挙げる。

 外聞を気にしない不貞腐れる姿からは少年っぽさを感じさせ、しかし姿勢を正して私を見据える姿は美少女と呼ぶに相応しかった。

 

「徐騎都尉、三度に渡って貴方を試すような真似をして申し訳ありませんでした」

 

 彼女は深々と頭を下げると重々しく口を開いた。

 

「姓は司馬、名は懿。字は仲達。度重なる無礼を払拭する機会を与えていただきたい」

 

 ふと予想を上回ることをすれば話を聞いてくれるという約束はしていたのを思い出す。

 そして司馬懿と名乗った彼女はきっと自分の中の筋を通すために私の願いを聞いてくれるだけで、臣従してくれる訳ではないということも読み取れる。

 きっと義理を果たせば、簡単に私の手から離れてしまう。だから私は手を差し伸べる。

 

「シャンの屋敷で、一緒に暮らそ?」

「はい?」

 

 コテンと首を傾ける彼女に、私は小さく笑みを浮かべてみせる。

 今は彼女との縁を紡いでおきたい。何故なら、この子が集めていた戯作は面白くて、集めていた書籍の趣味も良い。私の手元に積み重なった書籍に気付いたのか、「良い書籍をいっぱい教えてあげるよ」と彼女は良い笑顔を浮かべてみせる。

 今更、居候が一人や二人増えたところで同じことだろう。

 

「えっ、司馬懿? 張春華じゃなくって?」

春華(はるか)は私が男装してる時に使ってる偽名ですよ」

「司馬八達の? えっ、嘘。本当に? めっちゃ可愛いですよ?」

「博美、巷の私はどのように思われているのですか?」

「ちょっと落ち着きたいから抱き締めさせて?」

 

 司馬懿を連れて帰った時、彼女の自己紹介を聞いた博美が何度も問い返していたのが印象的だった。

 あと博美の膝上で髪をわしゃわしゃされるのはシャンのものです。

 どいて、張遼。そいつ、追い出せない。

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