恋姫†無双 七天の御使い   作:にゃあたいぷ。

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・劉備玄徳:桃香(とうか)
 盧植塾の卒業生。実家が豪農

・簡雍憲和:桜花(おうか)
 盧植塾の卒業生。実家が商家。


花芽吹く季節・承   -劉備組

 前々から漠然とした不安は感じていた。

 何かしなくてはならない、という焦燥感に駆られていたように思える。

 

 盧植塾の三羽烏と呼ばれていた私達は今、それぞれの道を歩むために離れ離れになっている。

 親友の白蓮(公孫賛)は公孫家を継ぐと異民族討伐に乗り出して多大な戦果を挙げたと聞いており、その功績を以て幽州啄郡を実質支配するまでに影響力を広げている。今では幽州刺史である劉虞に啄郡太守として正式に認められる程だ。幽州の治安を守るために東奔西走と軍を率いて駆け回っている。

 もう一人の親友である桜花(簡雍)は実家が商家なので、その手伝いをしている。何時か独立することも視野に入れているようで見聞を広めるためにと行商の旅に出ることが多く、顔を合わせることが少なくなった。

 二人とも啄郡を離れることが多くなった中、私だけが未だに此処から離れられずにいる。

 

 私、桃香(劉備)の実家は豪農だ。

 土地に根付く家柄であるために地元から離れる機会が少なく、実家の手伝いも収穫物や納税の計算といったものが多い。

 そのため商家の簡家とは農作物の取引で付き合いがあり、啄郡太守の一族である公孫家とは地元有力者としての付き合いで意外と深い関係にあったりする。例えば三羽烏の話は実家でも知られたもので、簡家とは良心的な価格で取引をしてもらったり、公孫家には納税や徴兵の時に融通をして貰うことがあると話に聞いたことがある。

 迷惑がかかっていないかと不安に思ったこともあるけども、桜花(おうか)が言うには「利益は出ている」とのことであり、白蓮が言うには「きちんと税を納めてくれるだけ上等」ということだ。

 二人がそう言うのであれば、きっと正しいのだと思うことにしている。

 

 それでも二人は一人前に頑張っているにも関わらず、私だけが何もできずにいるのはもどかしかった。

 桜花に倣って私も自分でお金を稼ごうと筵を織ってみたことがあり、啄郡に帰ってきていた桜花に丁寧に編み込んだ筵に見せびらかしたことがある。「私だってやればできるんだよ」と筵を織った経緯を話してみれば、「馬鹿なの?」と彼女に真顔で言われてしまった。桜花が言うには「ああいうのは労働力以外に売り込めるものがない人間がすることで、仮にも盧植塾で学んできた人間がすることじゃない」とのことだ。

 ちなみに筵は二束三文で桜花が引き取った、これでも良心価格だとか。実家の手伝いをしている方が遥かに小遣い稼ぎになることを知った私は筵織りでお金を稼ぐ計画を断念することになる。

 あと私が織った筵は桜花が旅先で使っているらしい。

 

 それでやることがなくなった私は手持ち無沙汰でいるのも耐えきれなくて、卒業後も盧植塾に通い続けることになった。

 前に通った時は勉学だけだったけども今は武芸にも励んでいる。そうやって時間を潰している内に関羽と張飛という幽州でも有名な義侠が二人、地元の市場を訪れたという話を耳にしたが顔を合わせることはなかった。

 なんとなしに大切な出会いを逃してしまった気がするのはどうしてだろう。

 

 それから、

 歳月が過ぎ去ると共に私達三人の距離が徐々に離れていくのを感じた頃合いだ。

 黄巾党を名乗る集団が布告を出して、各地で暴れ回るようになった。

 

 ――蒼天已死、黄天當立。歳在甲子、天下大吉。

 

 ずっと感じていた漠然とした不安、私にとっては焦燥として表出していた想い。

 誰しもが抱いていたはずで胸の内に溜め込んでいた感情、それは不安や恐怖、もしくは怒気が許容量を超えて溢れ出した。

 感情の奔流は大過となって、大陸全土を飲み込み、各地で大規模な暴動が発生する。

 

 盧植先生が漢王朝から召集を受けて、盧植塾が閉鎖された。

 暴動の熱は収まることを知らず、今まで日常だと思っていたものが呆気なく崩れて、あっという間に世界は動乱の世へと変わり果てる。幸いにも地元が襲われることはなかったが、隣村で黄巾党の襲撃を受けたという連絡が入ったので援軍に向かった。その時は相手も小規模で被害も少なく追い払うこともできたが、驚きだったのは見知った顔が黄巾党に所属していたことだ、昨日まで農民として生計を立てていた者までが動乱の熱に当てられている。

 農民が農民を襲っている、それを良しとする世界に身震いする。

 

 こうしてはいられない、と思った。

 しかし突発的な感情のままに動こうとする足を止めたのは、それでも、という考えが心に根付いていたためだ。力こそが正義だと理不尽な暴力が許される時代。そんなのは間違っている、こんな世の中は狂っている。だから私は動きたいと思った、この世の中を正さなくてはならないと思った。でも、それと同じぐらいに私には大切に思っていることがある。

 何時でも、どんな時でも――私は悪いことを悪いと云える私でありたい。

 その想いはきっと自分勝手なものだと思っている、思い上がりと言われても仕方ない。それでも私が私であり続けるために大切なことだと思っている。何をしたいのか、を明確にすることは何かを成すために大切なことだ。事が大きくなればなるだけ大切になってくる。

 世直しをする、それは良い。では何のために世直しをするのか考えるべきだ、そもそも私は何を直すつもりなのか。悪いのは何か。無論、悪いのは黄巾党だ。だけど本当に黄巾党の全てが悪いのか、どうして黄巾党は暴動を起こしてしまったのだろうか。それ以前に黄巾党とは何なのか、まずそこから分かっていない。

 考えろ、考えろ、考えるには情報が足りていない。私だけで答えが出せないのであれば、頼れる仲間に頼るのが正解だ。幸いにも私には頼れる仲間が二人もいる。それはきっと幸せなことに違いない。そして行商に出ていた桜花がつい先日、啄郡に帰ってきていたのは幸運と呼ぶ他にない。

 そこまで考えた時、私は桜花の下まで一目散に駆け出そうとして――数秒考えた後、何か行動を起こすには兎にも角にもお金が必要だと思い至り、実家にある蔵に駆け出した。埃被ったガラクタ達、十年以上も前から手を付けていないことを私は知っている。どうせこのまま埋もれさせるくらいならば私が有効に活用してやるのだ。

 それら骨董品を台車にまとめて載っけた私は改めて、桜花の下まで駆け出した。

 

 

 趙雲を無事に白蓮(公孫賛)に押し付けた私、桜花(簡雍)は今、実家で悠々自適な生活を送っている。

 つい先日まで家に置いていた趙雲から事ある度に揶揄われて嫌気が差すことも多く、その度に白蓮(ぱいれん)に紹介しようかどうか悩んだものである。紹介をしなければしないだけ、趙雲に付き纏われる時間が増えるだけだと察した私は、白蓮が帰ってきたという報告を受けると同時に趙雲を白蓮に押し付けてやった。

 それからというもの私の身の回りは平和そのものだ。

 行商の予定は暫くない。積み上げた書籍に目を通しながら、ふと久し振りに桃香(劉備)と街中を出歩くのも良いかもしれないと思い立った。

 そうと決まれば話は早い。予定を組み立てようと竹簡を取り出し、

 

桜花(おうか)ちゃーんッ!!」

 

 と元気良い声が心に染み入るように耳に入った。

 どうにも私の親友は行動が早い、私が思いついた時にはもう行動が始まっていることも少なくない。これが以心伝心というものだろうか、私と桃香(とうか)は距離が離れていても分かってしまうほどに心が通じ合っているのかもしれない。

 仕方ないなあ、と口元が緩むのを堪えながら澄まし顔で彼女を出迎えるべく玄関戸を開けば、

 

「これを全部、売るの手伝って!」

 

 と、ありったけの骨董品を載せた台車を玄関前に置いた桃香が埃まみれの満点笑顔で立っていた。

 うーん、これはどう解釈すべきだろうか。私もまだ彼女と心で通じ合えているわけではなかったようだ。それはさておき、彼女がなにかを行動を起こす時は良くも悪くも予想の範疇から外れるものだが――今回に限っていえば、あまり良い予感はしない。

 とりあえず話を聞いてみるべきか、少し怖いな。

 

「またどうしたの?」

「最近、世の中が荒れてて白蓮ちゃんも忙しいでしょ? だから私達で少しでも助けてあげられないかなって!」

 

 要約すると、世の中が荒れているのに何もできないのはもどかしい、と言ったところか。

 こういった彼女の押し付けがましい善意は嫌いではないが、しかし――キラキラと目を輝かせる彼女を見て、無下にすることもできずに「とりあえず検品してあげるから庭まで運んでよ」と問題を先送りにした。桃香が張り切ってる時は行動が一つか二つ飛んでいるんだよね、と思いながら庭に運び込まれた骨董品の物色を始める。

 劉姓を持つ豪農と言うこともあってか、桃香の実家の歴史は古い。そのため彼女の台車に詰め込まれた骨董品は過半数以上がガラクタであったが、意外にも売れそうなものが紛れ込んでいる。正直なところ二束三文の足しになれば良い方だと思っていたが、これならば兵を五十人程度は集めることはできるだろうか? 維持はできないだろうが兵糧は白蓮に頼めばいい、縁というのはこういう時に使うものだ。

 算盤を叩いて見積もりを出していると「ああ、あとこれも!」と桃香は土地の権利書を差し出してきた。

 

「……これは、盧植塾の権利書じゃない。権利者が桃香の名前になってるけど?」

風鈴(盧植)先生に必要ないって貰っちゃった、免許皆伝の代わりだって」

 

 免許皆伝を売ってしまっても良いのだろうか、まあ細かいことは後で纏めて言うとしようか。

 ざっくりと計算していると、ふと台車の端に一風変わった装飾の施された刀剣を見つける。なんだろうと思って手に取ってみるも刀身が錆びてしまっているのか鞘から剣を引き抜くことができなかった。貸してみて、と言う桃香に刀剣を手渡すとスルリと鞘から剣が引き抜かれる。

 あれ? と彼女は不思議そうに首を傾げる。

 そんな愛おしい桃香の表情を目の端に捉えながら、引き抜かれた刀身が太陽の光を吸い込むような美しい輝きを放った。その刃は水を濡らしたように綺麗で、刃こぼれ一つ、翳り一つすら見えない。素人目で見てもわかる業物、その美しさに思わず唾を飲み込んだ。

 桃香は静かに剣を鞘に収めると、それを私に差し出して告げる。

 

「これなら高く売れるよね」

「売っちゃうの!?」

 

 ちょっと待って、それって値段とか付けられないやつだから。

 おそらく買い取ってくれる相手を探すだけでも苦労する感じのお宝だよ。

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