兎を怒らせるな   作:キルネンコ

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兎に喧嘩を売るな

 キュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッ―――――――

 

「ヴォール、少し良いだろうか」

 

 黴臭い地下牢に老人の声が響く。

 

「お前に面会だ。私と共に上に来てもらおう」

「………………」

 

 ヴォールと呼ばれた少年は、答えない。手も止めない。彼の関心は、彼の手の中にある見事な細工の施された銀色のフォークに注がれていた。

 茨の細工であり、細かな部分にまで葉や蔦が絡むように施され、バラが咲く。

 磨きに磨かれた至高の一本は、それだけでも美術価値は計り知れない。

 

 そんなものがこんな牢屋にあることはおかしいのだが、それはそれ。前回の仕事の件からの報酬だ。

 

「天使長が、お前に用事らしいんだ」

 

 興味が引けるとは思えないが、老人は少なくとも信者ならば一二もなく飛び付くワードを口に出す。

 だが、生憎と彼は清教徒ではない。どちらかと言うと無神論者であり、尚且つ神など興味がない。

 

「生憎、こんな場所にはあの方をお通しするわけにはいかない」

「………………」

「仕事なら、今回も報酬は出るだろう」

「………………」

「来ては、くれないか?」

「…………………………………………………………ハァ」

 

 ヴォールは、そこで漸くカトラリーをケースへと収め、蓋を閉めた。

 そして、立ち上がるとジッと老人の顔を見る。

 

「では、ついてきてくれ」

 

 

 ※

 

 

 教会本部。荘厳な造りであり、歴史を感じさせる重厚な見た目である。

 

「はじめまして、囚人番号004番。私は天使長を務めています、ミカエルです」

「………………」

 

 本部の一室にて光輝く美丈夫が、笑顔で挨拶を行う。が、件のヴォールは何の反応も示さない。

 それどころか、彼は部屋に置かれた金作りの燭台を手拭いで包んだ手で持つとキュッキュッと磨き始めたではないか。

 

 この場には、この二人しか居ない。仮に信者ならばグーパンも辞さない暴挙を彼は行っていた。

 

 だが、ミカエルは笑みを崩さない。彼は予め目の前の少年が無礼者であることを知っていたのだ。

 

「今回、聖剣回収に関しては、ご苦労様でした」

「……………」

「貴方には恩赦が出ていますよ?なぜ、牢に戻ったのですか?」

「……………」

「日本では、拠点を得たのでしょう?地下牢よりも快適だったでしょう?」

「……………」

 

 やはり、答えは返ってこない。

 さすがのミカエルもここまで何の反応も無いとため息をつくしかない。

 

「今回、貴方を呼んだのは仕事のためです。我々が保有する手札の中でも最強格にして、今回の一件を終息させた貴方に、ね」

「……………」

「今は、ヴォールと呼ばれていたのでしたね。確か、ロシア語で“泥棒”若しくは“盗人”でしたか」

「……………」

「まさか我々も、カトラリーセット一つを手に入れるために教会を五棟倒壊させ、更には討伐隊を10度も撃退されるとは思いもしませんでしたが」

「……………」

 

 ミカエルが語るのは、彼の罪。

 というよりも、収監されるにあたっての経緯か。

 因みにこの後、十数回に及ぶ処刑執行と続く。

 首吊り、電気椅子、ギロチン、毒ガス、銃殺、槍、その他諸々etc.

 その全てが、悉く意味もなく破壊されて効力を発揮できなかった。

 

 結果、彼は地下牢に封印収監される事となる。最も、その封印も彼からすれば薄紙の壁でしかなかったのだが。

 

「報酬に関しては、手付け金としてこちらを贈ろうと思っています」

 

 ミカエルが取り出したのは、大きめの木の箱。

 開けば、そこにあったのは輝くカトラリー達。

 

「バロックの時代から受け継がれているモノですよ。如何でしょうか?」

「………………」

 

 ミカエルの言葉も聞かず、ヴォールはカトラリーを凝視している。

 

「では、お願いしますね?」

 

 ピンクの髪が揺れた。

 

 

 ※

 

 

 最強。それは戦う者達にとって至高の命題。

 無限の龍神、赤龍神帝が次元最強の有力候補か。更にここには、封印された獣も入る。

 後は、各神話の戦闘系の神。

 他にも元デュランダルの使い手や、聖王剣の担い手、黄昏の神槍の保有者等は人類最強候補に挙げられる。

 

 そして、今回その候補に新たな一人が挙がった。

 堕天使幹部の光の槍を何発受けても無傷であり、更に一撃で沈めた、人間。

 当然ながら、三大勢力のトップ陣営は彼へと注目するようになる。

 何故こんな怪物のような存在が今の今まで表に出てこなかったのか、と。

 

 理由と言うほどのモノではないが、そもそも彼自身が名乗りをあげることに興味がなかった。

 そして、そんな状況に至らなかったから、だろうか。

 

 資金の集め方はカジノ。飲食は外食、若しくは山。

 居住は定めず、気の向くままに動き回り、カトラリーを集める。

 

 ただ、少し前にどうしても欲しかったカトラリーが教会の持ち物となっており、全く気にせず強奪したのが最初の名乗りであったのかもしれない。

 

「……………」

 

 ヴォールは、何処に居ようとも変わらない。

 例え黴臭い地下牢であろうとも、最高級高層マンションであろうとも。

 

 再び仕事で訪れた駒王町。借りたままにしておいたマンションの一室に籠る彼は、手付け金として渡されたカトラリーを磨いていた。

 何故ここまで、彼がカトラリーを好むのかは誰も知らない。

 “誰も”知らないのだ。

 つまり、磨いている当人ですら何故自分がここまで使う気の無い食器へと心奪われるのか分かっていない。

 

「……………」

 

 静かな室内に、インターホンが響いた。

 しかし当然ながら、彼が接客をするはずもない。それどころか、ソファから立ち上がることもなく、カトラリーを磨くのみ。

 

 再び、インターホンが鳴る。だが、動きはない。

 

 三度目は、なかった。その代わり、扉が開くような音が廊下の向こうから聞こえる。

 

「来客は出迎えるもんじゃねぇのか?」

 

 廊下を抜けて、ぼやきながら入ってきたのは、金髪のダンディーな男。

 明らかに不審者なのだが、そんなことは彼の前では関係がない。

 少なくとも、カトラリーの魅力を越えるだけのナニかは無かった。

 

「無愛想な奴だな。勝手に入ってきた相手に目も向けねぇとは」

 

 男、アザゼルは顎を撫でた。堕天使総督という肩書きを持ち、聖書にも記述がある彼は人生経験豊富と言える。

 そんな中で、ここまでの無関心っぷりはずいぶんと久しぶりの体験であった。

 

 この手のタイプは、厄介だが刺激しなければ問題ない。

 そして、本当に強い。何故なら、力を誇示する必要がなく、更に周りを気にする必要がない強さを内包しているから。

 

 実際に相対したアザゼルの感想としては、素の状態で勝負しようとすれば間違いなく殺される、ということ。そして、仮に奥の手を切っても恐らく負ける、ということ。

 以上二点か。因みに切り札は、切れば神クラスの実力を発揮できるというもの。

 つまりは、神クラスでも彼には勝てないということだ。

 無論、各国の主神や武神などがいるために一概にそうとも言えないのだが。

 

「ま、今回は顔を見るために来ただけだからな。ミカエルの野郎がお前の事をゴチャゴチャ言ってやがったし」

「………………」

「愛想ねぇなぁ…………………んじゃ、これなんてどうよ」

 

 そう言うと、アザゼルは小さな魔方陣を出現させ掌より若干大きい程度の木箱を取り出した。

 

「お前の好みは知らないがな。男なら好きじゃないかと思ったんだが」

 

 蓋が開けられ晒される中身。

 それは、一振りのナイフであった。

 柄と刃が一体化したワンピースナイフと呼ばれるモノであり、柄には羽のような紋様が刻まれている。

 鈍い鉛の色の中に銀色を内包して飲み込んだ様な色合いは、実用よりも観賞用に見える。

 

「……………」

 

 ヴォールも少しは興味引かれたのか、カトラリーを拭く手は止まらないものの、目だけでナイフの確認を行っていた。

 観察眼にも優れたアザゼルだ。その事には、当然気づいている。

 

 気づいた上で突っ込まない。相手の人となりが分からない時点で突っ込んで、虎の尾を踏むようなことになれば目も当てられないからだ。

 

「ま、今後とも御贔屓って奴だ。お前との敵対は宜しくないみたいなんでな」

 

 アザゼルはそれだけ言うと、後ろ手に振りながら部屋を出ていってしまった。

 残されたナイフ。ヴォールは、磨いていたカトラリーをケースへと収めるとそれを手に取った。

 

 見た目の美しさを抜けば、単なるナイフだ。曰くもなく、魔術的な要素もない。

 だが、美しさ、という点は、時にあらゆる魔術を越えた力を発揮することもある。

 

 何度か刃を翻して観察した彼は、徐にナイフを拭き始めた。

 どうやら、気に入ったらしい。

 

 

 ※

 

 

 世界には、様々な神話体系が存在する。

 三大勢力もその1つだ。

 彼らは、過去に大戦を経ており、今は休戦状態。

 

 その原因は、各勢力の疲弊にある。

 天界は神を。悪魔は魔王を。堕天使は戦力を。

 このままでは滅亡するのみだ。故に、停戦協定を結びこれ以上互いの勢力が目減りする事を防ぐに走った。

 

 だが、それが勢力すべての意思かと言われれば、否だ。

 コカビエルの一件が正にそれ。戦争を望むもの達は一定数存在する。

 

 それだけではない。特に悪魔陣営は、新しくついた四大魔王と旧魔王派がぶつかっており、更に貴族達の統率がとれてはいない。

 

 こんな状況で行われる、三大勢力によるトップ会談。

 会場は、駒王学園にて行われることになった。

 

「……………」

 

 色物揃いと言っても良いこの場で、殊更彼は浮いていた。

 この場の大半の面子が彼へと関心を寄せているのもその原因のひとつ。

 特にコカビエルに苦戦していた面々が彼へと様々な感情を乗せた視線を送っていた。少なくとも良い感情ではないことは事実。

 彼ら以外となると、銀髪の美丈夫が熱い視線を彼へと向けていた。

 

 名をヴァーリ。生粋の戦闘狂であり、現白龍皇。アザゼルをして、過去現在未来を通して最強の代と称される天才だ。

 そう、戦闘狂。強い相手との戦いを求める生粋の変態だ。

 

 さて、そんな変態含めた視線を受けるヴォールであるが、全くもっていつも通りだ。

 どこから持ってきたのかパイプ椅子に腰掛けると、ミカエルの後方壁際へと控えてカタログを読み始めていた。

 中身は、カトラリーセット。それも最低価格が云十万円からというアホみたいなモノ。

 これは報酬に関して必要なこと。つまり、仕事を完遂すれば気に入った物を送ってもらえるように取り計らっていた。

 

「………………」

 

 ペラリ、ペラリ、とページをジックリと眺めながら捲っていく。

 

 値段が高ければ良いものが多いようにも思えるが、好みと良いもの、は別だ。

 無表情の鉄面皮の下では、様々なカトラリー達がダンスを踊っていた。

 

 その間にも、会議は回る。アザゼルの黒歴史やら、魔王のサーゼクス・ルシファーやセラフォルー・レヴィアタンの妹萌えやら、ミカエルの純粋腹黒など色々あったが、とりあえず会議は回った。

 

「それで?ミカエル。ソイツの説明は、無しか?」

 

 黒歴史を抉られて疲弊したアザゼルは、カタログを熟読するヴォールへと目を向けながら問うた。

 それは、周りも思っていたことなのか、再び視線が集中する。

 

「ヴォール、ですか?そうですね………………」

 

 ミカエルは顎に手をやり考える。

 意味深な態度だが、そこに意味はない。

 

 何故なら、彼もそこまで詳しくヴォールの事を知っているわけではないからだ。

 

 カトラリーが好きであり、化物染みた強さを持ち、基本的にどんなことにも無関心。

 

 大雑把に挙げるとこんなものだ。

 後はキレたら怖い程度か。

 

「……………ただの泥棒、ですかね。世界屈指の怪物ですけど」

「いや、お前なぁ……………」

「彼とのコミュニケーションがとれるとでも?」

「………………………分からなくもねぇがなぁ」

 

 アザゼルは、前に接触した時の事を思い出して唸る。

 どうシミュレーションしたとしても、接触に成功し談笑している姿が想像できなかった。

 そもそも、あの鉄面皮が緩む姿が思い付かない。

 

 接触の無い、サーゼクスやセラフォルーは首をかしげるが、そもそもこの二人は経験が浅いのだ。

 外交担当のセラフォルーはそうでもないが、少なくともサーゼクスに関しては少々問題があった。

 彼は情愛のグレモリー家出身。そのせいか、政治に情と甘さを持ち込んでしまう傾向にあった。何より、現四大魔王は力で選ばれた者達であり、後の二人は研究バカと常時怠惰という問題を持つ。

 結果として、旧魔王派の離反と貴族達の横行を許しているのだから手に負えない。

 

 何やら微妙な空気になってしまったが、そこでアザゼルが軌道修正の意味も込めて和平案を切り出した。

 このまま決まる―――――事はない。

 その直後に、トップ陣営並びにヴァーリ以外の動きが止まったのだ。

 

「…………………」

 

 いや、訂正。こんな状況でも変わることなくカタログを捲る怪物が居た。

 彼からすれば外野が荒れようとも関係無い。それこそ、世界が崩壊しようとも自分が望み、求めた物があったならばそれで十分なのだ。

 

 この間にも事態は進む。時間が経つにつれて、停止していた者達も動き始め、外では魔術師達の襲撃が始まっていた。

 中でも大物なのが、旧魔王派を纏める一人カテレア・レヴィアタンの襲撃だ。

 彼女の目的は、セラフォルーよりレヴィアタンの称号を奪うこと。

 だが、相手をしたのはアザゼルであった。

 その他にも、様々な事が流れるように起きていた。≪≪その瞬間までは≫≫。

 

「……………………」

 

 空気が凍った。そう錯覚させるほどに、結界に覆われた駒王学園の内部は凍てついていた。

 物理的にではない。雰囲気的な問題だ。

 

 それは、事故だった。

 偶々、会談の会場であった会議室を守っていた魔王の結界の内、少し薄い部分があり、そこを裏切ったヴァーリの魔力弾が貫き、偶々そこにいた彼へと直撃したのだ。

 

 当然ながら、結界を抜けて威力が減衰した魔力弾などで傷付く彼ではない。だが、その他はどうだろうか。

 そう、例えば彼の読んでいたカタログ、とか。

 

「…………………」

 

 結果だけ言おう。消し飛んだ。

 辛うじて残るのは、彼が握っていたページの端の一部ほど。後は灰となって消えた。

 手を開けば残っていた、最早元が何の紙だったのか分からないほどのカタログの燃えカスも風へと流れる。

 ヴォールは無表情のままに魔力弾が飛んできた方向へと、まるで油の差されていないブリキ人形のように首を動かして顔を向けた。

 

 ヴァーリとしては、これは正直嬉しい誤算。コカビエルを一撃で沈めた彼には興味があり、アザゼルには止められていたが戦いたいと思っていたからだ。

 

 だが、それは自殺志願でしかない。

 

「………………………………………………コロス」

 

 掠れたような、そして地の底から響くような重々しい小さな呟き。

 だが、会議室に居た者達全員の血の気が一気に引くほどの凄みが、其処にはあった。

 

 瞬間、その場に暴風が吹き荒れた。同時にガラスの砕けるような音が響く。

 

「これは………………」

「うそ………………」

 

 魔王二人は、その光景に開いた口が塞がらない。

 というのも、その先には最も硬い中央付近を砕かれた結界があったのだ。

 

 やったのは、ヴォール。魔王クラスにすら視認させない速度で外へと飛び出していた。

 狙いは、カタログを失う原因であるヴァーリ。

 

 彼は、神器白龍皇の光翼を禁手化させた鎧を纏っていた。

 効果は半減と吸収であり、これによっていかなる相手の力も削ぐことが可能。

 

 その筈であった。

 

「なっ……!ゴッ!?」

「………………」

 

 鎧は、まるでガラス細工のようにアッサリと砕かれ、隕石にでもぶつかったかのような圧倒的質量を誇る拳によってグラウンドへと叩き落とされていた。

 

 成したのは、ヴォールだ。会議室を飛び出した勢いのまま、中空のヴァーリへと接敵し半減の効果をレジストした上で殴っていた。

 ヴァーリが叩き落とされた瞬間に、グラウンドは砕け、辺りに居た魔術師達は木っ端のように吹き飛ばされる。

 

「……………」

 

 グラウンドに出来上がったクレーターの中へと降り立った彼は、そのままの足で中心部へと向かう。

 舞い上がる粉塵を抜ければ、そこに居るのは鎧が砕け、体の大半が地面に埋まったヴァーリの姿。気絶しているのか、若しくは死んでいるのか、ピクリとも動かない。

 彼は、何の警戒もすることなく無造作に近寄ると片手で白蜥蜴を掴んで地面より引きずり出した。

 

「…………………」

 

 無表情、ではない。眉間にシワが寄っており不機嫌な表情だ。

 

 ヴァーリの誤算は、神器の力を過信しすぎた事、相手との力量差を測れなかった事。

 

 ヴォールに慈悲はない。彼の気に入った物へと危害を加えたのだから、当然であった。

 吊り上げる左手に代わって、右拳が握られ持ち上げられる。

 神器の鎧のお陰で辛うじて肉体が残ったのだ。それすら無いならば、ミンチ確定。

 拳が後ろへと引かれ、

 

「待ってくれ!!」

 

 突如飛来した光の槍。直撃したヴォールの首が左へと傾く。

 

 槍の主は、アザゼルだ。

 カテレア戦で左腕を失ってしまったが、息子同然のヴァーリの窮地に思わず飛び出してしまっていた。

 

「頼む!殺さないでやってくれ…………!」

 

 血も涙も無いような相手への必死の懇願こそ、虚しいものはない。普段のアザゼルならばこんなことはしなかっただろう。

 実際のところ、ヴァーリをどうこう出来る者など早々居らず、アザゼル自身が敵わない相手など居ないのだから、蹴散らすのが普通であった。

 

 そして、ヴォールにとってそんなことは関係がない。引いた拳には力が入る。

 そのまま振り抜かれ―――――

 

「ドラゴン・ショットォッ!!!」

 

 極太のレーザーに呑み込まれていた。

 それもヴァーリにはギリギリ当たらない、彼だけを飲み込むレーザーだ。

 この間に、どうにか息を吹き返したヴァーリが掴まれていた服を破って距離を取る。

 

 レーザーを放ったのは、兵藤一誠。今代の赤龍帝である彼だ。

 放った理由は、神器に宿る相棒に懇願された為。向こう見ずさの無鉄砲。力の差すらも理解できない蛮行であった。

 

 何せ山すら消し飛ばす極太レーザーが収まった其処には、無傷の彼の姿があったのだから。肉体は愚か、服にすらも焦げ目ひとつありはしない。

 

「……………」

「っ!」

 

 蛇に睨まれた蛙とは、正にこの事。

 再び無表情となった彼に睨まれる形となった一誠は思わず生唾を飲み込んで、半歩下がってしまう。

 勝てないと、本能が理解した。今から自分が死ぬということがハッキリと想像できた。

 

 彼は前へと一歩踏み出し、

 

「そこまでですよ、ヴォール」

 

 突然目の前へと現れたミカエルによって押し留められた。

 何も力で止めたわけではない。彼は、あるものを取り出していたのだ。

 

 それは、先程まで彼の見ていたカトラリーのカタログ。それも寸分違わぬモノであった。

 受け取ったヴォールの全身から覇気が消え去ると、その場に座り込んでページを捲り始めた。

 

 “助かった”それがこの場全員の感想。

 そして同時に思い知った。

 最狂の兎を怒らせてはならない、と。




続いちゃいましたね

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