「ふふふ……あのもりくぼは森久保の中でも最弱なんですけど……」 作:べれしーと
「ただいまー。」
玄関扉を開き家に入る。愛しき我が家。ピカピカの新築だ。うーん。いい気分。
(一生懸命仕事したんだしこれくらいはあっても良いよな。)
と、聞き慣れたふにゃふにゃボイスが家の奥からする。次第にその声は見慣れた姿と共に近付いてきて俺を迎え入れてくれた。
「お、おかえりなさい、プロデュ……じゃなくて、あ、あなた……」
旧姓は森久保乃々さん。新妻である。
(え?じゃあ今の姓は、だって?んふふ。秘密。)
「うん。ただいま。」
「うぅ……はずかしい……やっぱり、今まで通りプロデューサーさんじゃだめですか……?」
昨晩にお願いしておいたあなた呼びは乃々からすればとても恥ずかしいらしく、頬を赤らめ小声で呟かれる。別にそんな事で許可を求めなくても「変わらずプロデューサーさんって呼びます……いいですよね?」とか言えばそれでいいのにわざわざ訊いてくる乃々がホントに可愛い。
そんな可愛いお嫁さんになんて答えるべきか、勿論ファンの皆さんならお分かりですよね?
「だめ。」
確定的否定である。
「そんなぁ……」
俺の返答に乃々がしょんぼりしている。可愛い。
「あなたって呼ぶのそんなに嫌?」
逆にこっちからも訊いてみる。嫌なのか、と。すると乃々は、
「………………い、嫌って訳じゃ、ないです、けど。」
俺から目を逸らしてもにょもにょと発言した。可愛い。
「恥ずかしくて言いにくい?」
諭すように迫る。
「はい。」
はっきりと断言された。
(構わないさ。この様になるだろうとは思っていたからね。恥ずかしくてむぅーりぃー……云々言うんだろうなと。予想範囲内です。)
故に、なんと言えば彼女が俺を『あなた』って呼んでくれるのかも予想がついている。
(残念そうに食い下がりながら君が必要だと訴える……プロデューサー時代に育まれたこの
「じゃあ、今まで通りプロデューサーさんでも良いよ。」
そう言うと彼女がホッとしたのが分かった。もう。恥ずかしがり屋さん。結婚したんだからそんなにもじもじしなくてもいいのにさ。
(では、説得タァイム!)
「あーあ。乃々は特別だからあなたって呼んでほしかったのになー。」
残念さを滲み出させて呟く。
「ぁ……」チラッ
「世界で一番愛してる乃々からあなたって聞けたら最高に幸せなのになー。」
世界で一番愛してる、この言葉が重要なファクターだ。最も感情を込めて力強く発言。
「う、うぅ……」チラチラ
「でもしょうがないかー。乃々がだめだと言っているんだからなー。強制するのは良くないもんなー。」
わざとらしさを醸し出してこの台詞を言うのもポイント。わざとらしさのおかげで乃々はいい感じに動揺し、葛藤してくれる。ガチっぽく言うと深く考えちゃって自分を責めだす傾向が彼女にはある。それは望まぬ結果だ。別に落ち込んでるのを見たい訳じゃない。そうだろ?
「……あ、あな……うぅ……」ジーッ
視線を右往左往させてる乃々。落ち着きがない。可愛い。
「んー?どうした乃々ー?」ニコニコ
「い、いぢわるなんですけどぉ……」
そりゃ好きな子にはいぢわるするに決まってるだろ!いい加減にしろ!男なんて幾つになってもそんなもんよ!
その……困り顔見たさにちょっかいかけるのも一粒の愛情として捉えてくれませんか……?(恐る恐る)
「誰がー???」ニコニコ
「…………あ、あなたが……///」
「ォ…………(死亡&再生)」
新妻の『はにかみながらあなた呼び』で俺は死んだ。
(まあ、比喩的な意味だけどね。まだ生きてるよ。今は一緒にご飯食べてる。俺のためだけに乃々が作ってくれた夕飯をね。羨ましい?あ、羨ましくはない?そう……)
「美味しい?」
何かを期待する瞳で俺に質問をする乃々。可愛い。
「美味しい。特にこのキノコソテー。」
そう答えると乃々は嬉しそうに笑った。可愛い。
「良かった……えへ……」
は?好き。結婚した(完了形)
「乃々の料理の上達には目を見張るものがあるよ。凄いな。」
「その……」
「うん?」
「あ、あなたのためだから……頑張れました…………」ボソボソ
「ォ…………(二回目の死亡&再生)」
新妻の『顔を真っ赤に染めながら告白』にまた俺は死んだ。そして復活した。乃々のためなら何度でも生き返れます。そりゃ夫ですから。
(あの台詞を言われてから更に飯が旨くなった。そして愛情は素晴らしいスパイスであることを漸く俺は実感した。高級店の見栄えが良い料理なんかよりも乃々が俺のために頑張って作ってくれた庶民的、一般的な料理の方が数億倍旨い。それに気づかされた。気づくの遅すぎない俺?)
風呂に入りながら先程起きた事を思い出す。
「……つーかまじで可愛いがすぎる。なんなんあれ。」
知り合って約十年の月日が経ち、二十四歳になった彼女。身長は伸び、楓さんの様なモデル体型にさえなった。背中までストレートに髪を伸ばしている姿は清楚そのもの。つまり、美人……っ!
「……何で俺みたいな冴えないおっさんが乃々と結婚できたんだ。」
別に格好よくはない。性格もいい訳じゃない。安定した収入がある訳でもない。面白い訳でもない。
「僥倖ってこういう事を言うんだろうな……」
俺が風呂を出た後は乃々が入浴。それが完了し、次に俺達は就寝準備をする。
……パジャマ姿の乃々はまだ慣れない。いや、可愛すぎんだよ。また俺が死んじゃったじゃん。生き返るけどさあ。そろそろ森久保Pはアンデッドって呼ばれてもいいと思います。
なーんて脳内でぶつぶつ一人言を放っている間に就寝準備も完了していた。ベッドで夫婦二人仲良く寝そべっている。
(隣にいらっしゃる俺の乃々から甘い香りが……)
なんか俺ドキドキしてるわこの状況に。頭真っ白になりかけててヤバい。
(まあ、待て。夫婦なんだから何回も一緒に寝てるだろとかそんなのでドキドキするってお前中高生かよとか言いたい人がいるかもしれない。)
俺はそういう奴らにふざけるなと言いたいね。だって乃々だぜ?世界で最も可愛い生物が隣にいて冷静でいられる奴はホモくらいしかいねえだろ。何回一緒に寝ても可愛いものは可愛いんだよ!そんな可愛くて愛しい人が寝言で好きとか言いながらニコニコしてんだぞ!ドキドキするに決まってるだろ!いい加減にしろやァ!
(それにその……夫婦の営み的なアレは、まだなんで、あの、えっと、緊張する。うん。緊張してる。毎日。心臓の負担が凄い事になってる。)
まだ結婚して一年も経ってないのにそんな事は出来ない。もし嫌われたらどうすればいいんだよ。自殺するぞマジで。っておい。ヘタレとか言った奴は誰だ。
なんて弁論を心の奥底でまくし立てていると乃々が急に抱きついてきた。
(ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
「乃々?ど、どうした?」
(ァッ!!!!甘い香り!!!!仄かに伝わる心音!!!!静かな息遣い!!!!暗くてもよく見える真っ赤な頬!!!!主張する双丘!!!!スベスベの太腿!!!!高い体温!!!!潤んだ瞳!!!!)
頭真っ白。死ぬ。心臓止まる。
「いえ……今日はこうやって、眠ろうかなって……だ、だめ、ですか……?」
「いいよ。うん。そうだね。いいよ。おっけ。りょうかい。まかせて。だいじょうぶ。どうぞ。さあ。よし。ふう。うん。おやすみ。だいじょうぶ。おっけ。おやすみ。」
「だ、大丈夫じゃなさそうですけど……」
「だ、だだだだだだいじょうぶ。」
「そ、そうですか?」
訝しむ乃々。こちらをじーっと見つめてくる。今だけはそれが辛い。その、男の本能というものが……ゥッ!!
「さ、寒いなら、こうすれば暖かいですよっ!」ギュッ
更に強く抱き締めてくる乃々。勇気を振り絞ったその行動は称賛に値するよ。でもね。
「(昇天)」
俺は『相手を心配し、なら自分の身体でその相手を暖めて安定を図ろうという無意識の誘惑』に当然死んだ。生き返るのは次の日の朝だろう。そう思いながら意識を手放した(白目)
「……プロデューサーさん寝ちゃいましたね。」
「また……また何もせずですか……なんで…………もしかすると、魅力無いのかな……私……」
「いえ、そんなことはないはず。うん。だってプロデューサーさんも顔真っ赤にしてましたし。うん。大事にされている。そういう事なんですよ。理解するのだ乃々ー……なーんて……はあ。」
「男気だせー……こっちはいつでもいいんだぞー……むぅーりぃーじゃないんだぞー……」ギューッ
「……虚しい。」
「寝ますか……はあ。」
「おやすみなさい……」
口調の変化は意図的。なんていうか、乃々って20越えだしたら口調変わりそうじゃない?こう、清楚っぽく……って、え?変わらない?……こまけぇこたぁいいんだよォ!(逆ギレ)