「ふふふ……あのもりくぼは森久保の中でも最弱なんですけど……」 作:べれしーと
今日は個人的なお出掛けの日です。洋服でも買いに行こうかな、なんて思いから外出を決意しました。
もりくぼは女子寮には住んでいません。正確には皆の住んでいる女子寮にもりくぼは住んでいないのです。
自分が男であることを会社の人は知っています。なので女子寮にもりくぼを住まわすのは問題がある。
そのため特例として個人の部屋が用意されました。
太っ腹すぎるんですけど346プロダクション……
兎に角、外出するとき、周りにはアイドル諸君がいないのでもりくぼは好きな格好が出来る訳です。
何度も反復しますがもりくぼは男。
つまり男用の服がいります。決して男装なんかじゃありません。
そしてここから導かれるのは、男用の服を買うための男用の服がいるということ。
男の格好で外を歩くということなのです。
(女装しすぎたせいかこれが正しい服装なのに違和感をもちます……)
インナーは白黒のストライプ、白のコートを羽織り、深い黒のタイトパンツとシューズで全体を締め、ベージュのキャップと誕生石であるペリドットをあしらったネックレスでお洒落に遊び心も忘れません。
(挑戦的な服装ですが……毎日のように女装してるのと比べればよっぽどマシです。)
……イヤな訳じゃないんですけどね。
×
最初の買い物が終わって、お昼頃。
(楽しかった……♪)
鞄を片手にるんるんと道を歩きます。
(皆で買い物するのも良いんですが、やっぱり一人で落ち着いて頭を悩ませるのも良いものです。)
ベレー帽を買いました。にへへ~。
「んふー……休日とはかく有るべしー……って、あれ?」
ふと反対側の遊歩道が目に入ります。
そこには、
「瞳孔が開くその瞬間を見せて~♪」
(し、志希さんがいる……っ!!)
変装してますがはっきりと分かります。あれは一ノ瀬です。
(ヤバい。こんな格好してるのが彼女にバレたら絶対弄られる。特に志希さんには。)
あの人は鼻がいい。いくらここが人通りの多い東京と言ったって化け物の嗅覚からすればおちゃのこさいさい。
志希さんのグラビア云々で既にネタを掴まれているんです。これ以上はいけない!
(逃げましょう。よし。にげ)ガシッ
「へ?」
肩を掴まれた感覚のまま、後ろを見ます。
そこには。
「乃々ちゃーん?これはこれは偶然だねー?」
志希さんが、ニコニコしてる志希さんがそこにいました。
心を乱された私はとち狂い、
「へ、へ?ち、違いますが?(混乱)」
「……ふーん?」
「弟の……そう!弟の、えっと、い、一郎です!森久保一郎!はい!(錯乱)」
口から出任せ。焦ってて自分でも何言ってるか分かりません(駄目じゃん)
「そっかそっか!乃々ちゃんの弟さんなんだ!」
「は、はい!(意識朦朧)」
あれ?のりきれそうですかねこの感じは?
×
「皆ー!紹介するねー!さっき出会った乃々ちゃんの弟で一郎くん!」
「へー……あ、お姉さんにはお世話になってます。」
「輝子ちゃんかたいかたい!もっとラフにいこ!」
「乃々さんに似てカワイイですね……ボクには劣りますが。本当に男性なんですか?」
「ねっ!一郎くんカワイイよね!乃々ちゃんそっくり!」ニヤニヤ
(うぉぉぉぉおおおおお!!!どうしてこうなったぁぁぁあ!?)
場所は変わって本女子寮。志希さんに連れられ沢山のアイドル仲間に弄られてます。
(お姉さんはもりくぼ自身なんですけどっ!いやお兄さん!)
弟であることを全く疑われない。流石ピュアの権化、アンダー16です。
(てか幸子ちゃん!?私のことカワイイって思ってくれてたんですか!?ありがとうございます!男ですけどね!)
志希さんを見やります。
「んー?どしたの一郎くん?」ニヤニヤ
な、殴りたい……っ!解りきってる目ェしてる……っ!これだからオーバー17は……っ!
「ねえ志希ちゃん。」
「うん。」
「その男の子誰。」
「男装乃々ちゃん。」
「「えっ?」」
志希さんの暇潰しはまだ終わらないみたいです。
あの後、志希さんがもりくぼを連れて次は周子さんと美嘉さんを自室に呼びました。
ええ。つまり志希さんの自室に三人の美女と弱い男子中学生……
「へー……乃々ちゃんカッコええやん。似合っとるよ。」
そう言って微笑みかけてくる周子さん。香る和菓子の甘さが頭を融かします。
「ホントに男の子みたい……」ペタペタ
感嘆しながら体に触れてくる美嘉さん。柔らかい掌がくすぐったい。
(玩具の気持ちになるですよ……)
志希さんを見やれば。
「くふっ……」ニヤニヤ
笑いを堪えきれてませんでした。
それを発見した私は、
(……頭にきました。)
×
夕方。一時間と少しの拘束に耐え、やっと解放されます。
「あー……やっぱ乃々ちゃん面白い……」
もりくぼの女子寮に向かう道を私と志希さんの二人で歩きます。
「まあ今日の色々はおいといて。乃々ちゃんのそれ、あたしから見ても似合ってるよ。男らしくて。」
「……本物の男ですけど、何か。」プイッ
「もー、不貞腐れないでよー。」
「もりくぼの体で一日中遊んだ癖に……」
「言い方。」
次の角を曲がれば目的地に到着する、というところで、
「そうだ。そのペリドットの効果みたいなのって知ってる?」
「知らないです。」
「魔除けとか浄化っていう効果があるんだよ。」
「へー……」
「また一つ賢くなったね!」
「そうですね!そういえば志希さん、肩!」
「え?」ガシッ
私が忠告すると彼女の右肩に手が置かれました。
「確かにこのペリドットには
「ま、まさか……」
恐る恐るといった感じで彼女は後ろを見ます。
そこには。
「レッスンから失踪すんな、志希。」
鬼の形相をしたプロデューサーさんがいました。
「な、なんで……はっ!」
彼女がこちらを見てきます。
なので精一杯の笑顔を返します。皮肉ましまし!
「ま、また負けたぁぁぁあ!!」ズリズリ
「うるさい一ノ瀬。」ズリズリ
志希さんはプロデューサーさんに捕まり、引っ張られながらプロダクションへ戻っていきました。
「男の娘だってやる時はやるんです……!」フフン
×
もりくぼのこの辛くとも幸せな日常はこの日から変化しだすのです。
ペリドットォ!