「ふふふ……あのもりくぼは森久保の中でも最弱なんですけど……」   作:べれしーと

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ssの書き方を忘れてしまったアホ作者とは私のことだ。


女子大生の森久保 05

「バレンタインのお返しですか……?」

 

物寂しく蛍光灯が事務所の廊下を照らす。夜も深まってきていて、なんだか肌寒く感じてしまう。

 

刺々しい風は弱く窓をついて、カタカタと音を鳴らす。そんな孤独を臭わせる雰囲気に、しかしながら反逆する二人の男女。

 

今日は三月十四日。ホワイトデー。

 

男性が女性に愛を渡す日。

 

それに倣い、事務所にて。

 

花粉症に顔を少し歪ませながらもプロデューサーさんはその手に持つ包装されたキャンディを私にプレゼントしてくれました。

 

「ハ、ハッピーホワイトデー?」

 

それを受け取った私はどんな顔をしていたのでしょう。

 

多分、顔をぐちゃぐちゃにしてにやけていたんだと思います。恥ずかしながら。

 

でもしょうがないですよね。好きなんだから。

 

「そんな大層なもんでもないんだが……」

 

そう彼に言われます。

 

……いやいやすっごい大層なものですよ。よく味わって、噛み締めて、食べさせていただきます。ええ。

 

(嬉しい……)

 

 

 

 

 

帰ってから食べたキャンディはとても甘くて、甘くて、その味を私は忘れる事ができません。

 

それは、一つだけの檸檬でした。

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

「ホワイトデーのお返しを何卒この森久保乃々に(意味不明)」

 

(……え、突然これ?)

 

頬をひくつかせながら俺は思った。

 

(待って待って?昨日の夜にあんな淑女感出してたくせに次の日の朝はもうこれになるの?)

 

事務所の扉開けたら地に跪いて意味不明な構文を羅列させてるこの女子大学生がトップアイドルってマジ?

 

「プロデューサーさんの幸福はもりくぼの幸福……な、なんかそれって夫婦みたい……へへ……」

 

ニヨニヨした真っ赤な顔を下に向ける乃々。勝手に自爆しないで。可愛いからいいけど。

 

「あ!そういえばキャンディ!美味しかったです!ありがとうございましたっ!」

 

昔の彼女からは想像もつかねぇエクスクラメーションの多さ。茜か貴様は。

 

「ああ、そう……」ヒキッ

 

「…………なんで後ろに下がるんですか?」ズイッ

 

「いや、なんとなくですけど、」ヒキッ

 

「お返しさせてくださいよー。」ズイズイッ

 

「近い近い近い。」

 

あたってる。なにがとは言わないけど。柔らかい(昇天)

 

「んふふ……そんな強張らないで……」

 

「そういうの良くない。非常に良くない。」

 

「むぅーりぃー……」

 

「都合良すぎなんだよそれ!」

 

女性にしては長身な乃々。その魅惑的な表情と声は俺の顔前にまで迫っていた。

 

(やっべぇ……頭クラクラする……シャンプーの殺傷力高すぎだろ……)

 

と、

 

「ふー。」

 

「ひゃ!?」

 

いきなり耳に息を吹き掛けられる。変な声が出てしまった。

 

(貴様……許さんぞ……)

 

所々の行動に腹が立った俺はすかさず反撃しようとする。森久保がその気ならやってやろうじゃねぇかァ!五年前に培われた能力を見せてやらァ!

 

(……実際、そろそろ欲求がバグりそうだしなんとかしないと刑務所の冷たい床を俺の汚い涙で錆びさせるはめになる。それは防がなくては。)

 

「かわいい。」

 

さっきの変な声に言及する乃々へ……

 

「乃々の方が可愛いよ。」

 

さあ、反撃開始だ。

 

「っ……///」

 

(って、おい☆マジか☆)

 

可愛いの一言で照れた乃々が下を向いた。勝利確定までが早すぎる。チョロ久保ォ!

 

「可愛いって言われて黙っちゃうところも可愛い。」

 

追撃すると乃々にジト目で睨まれた。怖さが全く無くてこれはこれで恐い。底無しの可愛さが恐い。

 

「それずるくないですか……」

 

「甘え方を覚えやがった乃々も充分狡い。おあいこさま。だからどいて。人来たら俺クビになっちゃう。」

 

「胸があたって鼻の下のばしてるくせに。」

 

「お、男だからそれは許して。それと離れて。まだ社会的に死にたくない。」

 

「ヤです。」

 

「ええ……」

 

「寒いのでもう少しこのまま……えへ……」ギュッ

 

「うーんこの頑固さとストレート。五年前の乃々なら卒倒しそう。」

 

抱き締められて頬擦りされる。

 

(出社から五分も経ってないのにこの濃度かあ。先が思いやられるなあ。)

 

ふと時計を見ると針は朝の七時を差していた。誰も来ないで……(神頼み)

 

「おはようございます!カワイイボクが来てあげましたよ!」ガチャッ!

 

神は死んだ(ニーチェ)

 

「おはよう幸子(ローテンション)」

 

「おはよ、さっちー!(ハイテンション)」ギューッ

 

不本意ながらも二人で挨拶する。重……くはないけど心臓の音が煩いんで早く退いてほしい。どちらの音かは言わないけど。

 

「はあ……そういうのは家でやってくれません?」

 

この光景にはもう慣れたと言わんばかりの呆れ声で呟かれる。なんか勘違いしてませんか幸子はん?

 

「家でもやんねぇよ。恋人じゃねぇんだから。」

 

「!?」

 

「驚きに満ちた表情をされてもこれは事実だ。分かったら抱き締めるのを止めろ、乃々。」

 

「抱擁の権利!愛情の権利!」

 

「そんなものは存在しない。」

 

「むー……」

 

「幸子の目線が痛いからマジで離れて下さい。」

 

そう俺が言うと乃々は渋々腕を解いてくれた。代わりに膨れっ面が誇示される。幸子のニヤケ顔も目に入った。フフーンを添えて。どちらもうざカワイイ。

 

ほんのりと残った体温と今更湧いてきた恥ずかしさを忘却する為に腕を組みながら俺は愚痴る。

 

「乃々さん?あなた最近はしゃぎすぎじゃありません?」

 

「…………?」

 

「そんな惚け面しても許さないからな。可愛いだけだぞ。」

 

「可愛い……えへへ……」

 

「は?好き。許す。」

 

「やった。」

 

嘘ついた。やっぱ無理だわ。俺、乃々には勝てない。強すぎる。父さん母さんごめんなさい。僕は乃々に無力でした。どうにもこの愛らしさには隷属する他ないようです。人の性とは末恐ろしい。逆らえません。好き。ののすき(脳死)

 

「大丈夫ですかプロデューサーさん。」

 

「だいじょうぶだいじょうぶ。しんぱいむようだよさちこ。ののすき。」

 

「そういう演技染みた方法でボクを欺こうとしても無駄ですよ。二人の日常はよく知ってるんですからね。」

 

「ちっ。」

 

騙されやすい幸子はもういないのか……五年前の幸子だったらいとも容易く騙せていたのに……っ

 

「別に照れなくてもいいんですよプロデューサーさん?ボクと同じくらい乃々さんはカワイイんです。そういう態度も許容します。」

 

余裕そうにそう言われる。は、はいぃ?

 

「そ、そういう態度って何ぞや?(焦り)」

 

「本当は乃々さんが恋愛的に大好きなん」

 

「わー!わー!幸子に仕事あるやでーェ!北極!北極にいくんや!」

 

「は!?そ、それはいくらなんでもアイドルのすることじゃ、」

 

「るせぇぞ輿水!アイドルは世界も救える存在だ!北極くらい軽いだろォ!」

 

彼女の手を掴み、頑張って外まで引っ張っていく。事実を有耶無耶にしなければならないという義務感。ここで果たそうではないか(混乱)

 

「あの……」

 

「さすがに北極は!」

 

「宇宙もあるぞ!生身でだ!」

 

「もりくぼは無視ですか。そうですか。」

 

「殺すつもりですか!?」

 

「アイドルは不死身だ!構わず来い!」ガチャッ

 

「……」バタンッ

 

 

 

 

 

静かになった部屋で私はひとりごちる。

 

「……やりすぎましたかね。はは。」

 

「はは……はぁ。」

 

「途中、幸子ちゃんをプロデューサーさんが遮った……なんか、仲良さげに……もりくぼよりも仲良さげに……」

 

「嫉妬……」

 

「……あ。」

 

「明後日、プロデューサーさんと遊園地だ……」




可愛さ、可愛さってなんだ?

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