刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は寿々花編その2 中編です。
…後編のみのはずが、想定以上に文量を書いたもんだから中編を置く羽目に…。
多分、この物語では初めてオーバーフローの出た話になりました。(他作では前例が有りますが)

UAが15,000、全話PV41,000を突破致しました。
読者の皆様、ありがとうございます。

それでは、どうぞ。


③ 不可視の内紛

 ー大阪国際空港(伊丹空港)ー

 

 寿々花の実家に近いとされる伊丹空港に降り立った二人。

「無事着いたとはいえ、何故だか身構えてしまうな。」

「そこまで気になさらなくともよろしいでしょうに。こんな調子では、私の家に着くまで身が保ちませんことよ。」

「そうだな…。荷物は確保したし、御刀も問題なくパス出来た。…そういえば、空港に寿々花の家の迎えも来ているのか?」

「少々お待ちを…。『もう手配してある、送迎スペースで待っていろ』だそうですわ。」

「少し歩くな。寿々花、荷物を渡してくれ。一緒に運ぶ。」

「気を遣わなくてもよろしくてよ。」

「いや、これ以上は負担をかけさせたくないからな。実家に帰る時くらい、くつろいで欲しいから。…いつもこちらは、迷惑かけてばかりだからな。」

「…分かりましたわ。ならば、遠慮なくお渡しさせて頂きますわ。」

 その後、送迎スペースまで寿々花のスーツケースと自身のスーツケースを転がす彼。

(感情で動くかと思えば、自分の意志で動く…本当に読みにくい御方ですこと。)

 寿々花は内心彼をそう評しつつ、送迎スペースで迎えを待つ。

 

 

 

 

 それからしばらくして。

「来ましたわ。」

「リムジンかよ…。本当にお目にかかることなんて稀だぞ。」

 彼は今更ながら、寿々花の家が上流階級層のお金持ちであることを痛感させられた。

 リムジンからは、初老の男性が降りてくる。

「寿々花お嬢様、お久しぶりでございます。」

「貴方も息災そうで何よりですわ。」

「そちらの方は?」

「ああ、お父様の方からお見合いをどうするのか、ということに対しての返答ですわ。」

「ど、どうも。初めまして。」

「初めまして。此花家で執事を務めている長田です。」

 彼と長田は、ガッチリと握手を交わす。

 

(…!?…寿々花お嬢様、とんでもない方をお連れして来られましたね。彼なら、ご主人様でも大丈夫でしょう。)

「?どうかしましたか?」

「いえ、何でもございません。ささっ、お乗りください。」

「なら、お言葉に甘えさせてもらいます。」

 先に荷物を積み込み、リムジンに乗り込む彼。

 執事は寿々花に問い掛ける。

「寿々花お嬢様。」

「如何しましたの?」

「彼は一体何者なのですか?」

「職場が同じ人間ですわ。…何かありまして?」

「いえ。…彼、いつか化けますぞ。その時まで、しっかり縁を紡いでおいてください。」

「…?はあ。分かりましてよ。」

 寿々花は、この時の長田の言葉を話半分に聞いていたが、その言葉の本当の意味に気がつくのは遥か先のことになる。

 

「お待たせ致しましたわ。」

「何か話していたみたいだったが、俺何かマズいことでもしたか?」

「いえ。少なくとも悪い話ではありませんくてよ。」

「そうか。」

「お二方、シートベルトをしっかり締めてください。発車します。」

 長田がそう言うと、滑らかな発進で空港を後にするリムジン。

 

 

 

 

 ー京都府某所 此花邸ー

 

 それから揺られること、二時間強。

 リムジンは、無事此花邸に到着する。

「ここが、寿々花の実家…。」

 広々とした庭や豪邸、近くにはヘリポートも見えた。

「滅茶苦茶なくらい、場違い感が半端じゃないな…。」

「そうですの?もう何年と過ごしてきましたから、これくらい普通かと思っていましたが。」

「ええ…。いや、そこは突っ込まないでおこう。」

 庶民派の彼と上流階級の寿々花とでは、どうやっても認識に乖離が出てしまうことはやむを得ないことだった。

「さて、入らせてもらいましょうか。」

「あっ、ああ。…緊張するな。」

 

 ピーンポーン

 

『は~い。』

 応対したのは女性のようだった。

「お久しぶりですわ、お母様。」

「寿々花!」

 玄関から飛び出てくる女性。どうやら、彼女の母親のようである。

「ちょっと、お母様!急に抱きつかれると困りますわ!」

「何を言っているの、寿々花。あれだけ大きなことがあった以上、心配するわよ。」

「ご心配なく。ちゃんと両足揃えてこの場に立っていますわ。」

「なら、いいのだけれど…。其方の男性は?」

 

 

 

 

「ああ、彼でしたら私の…そうですわね、将来の旦那様になる方ですわね。」

 寿々花の一計は、今炸裂した。

 

 

 

 

「ふぁっ!?」

 思わず、変な声が出る彼。

 流石に、自分の挨拶前にこんな不意打ちを受けるとは予想出来ていなかった。

「えっ、寿々花?それは本当なの!?」

 寿々花の母親も、思わず問い質す。

「本当ですわ。彼なら、お父様にも認めてもらえるかと思いまして。」

 無論、彼女の真意には少し嘘が混じっているが、概ね言っていることは事実だ。

「…。(マズい…。寿々花に反論したいが、この状況じゃとても無理だ。)」

 彼女はそこまで計算尽くめな上でこのタイミングを見計らったのか、と思うと、改めてその頭脳への恐ろしさも実感した彼。

「貴方がその…寿々花とお付き合いされている方?」

「はっ、はい!」

(仕方ない…ここは寿々花に合わせよう。)

「誠実そうな方ですこと。遠路はるばる、ようこそ此花家へ。ゆっくりしていってください。」

「あっ、ありがとうございます。」

(…寿々花、後で理由は聞かせてもらうぞ。)

 彼の不安は更に高まったが、とりあえず家の中には通してもらえた。

 

 

 

 

 ー此花家 客間ー

 

 客間に通された彼は、管理局での制服から一転して礼装に着替える。

 というのも、旅客機に乗っていた際に寿々花から、

『進水式が明日ですので、恐らく前夜祭としてパーティーが催されると思いますわ。ですから、着いた後には服を着替えておいた方がよろしいかと。勿論、私も着替えますわ。』

 と聞かされていたので、事前準備を万全にした甲斐はあったと思った。…まあ、日頃持参している物を考えたら、だいぶマシなスーツケースの中身ではあったが。

 ちなみに、何があってもいいように、とこっそり防弾チョッキを着込んでいる。(スタンバトン仕込済)

 

 コンコン

 

「はい。」

「失礼しますわ。」

 寿々花の服装の方は、まだ特別遊撃隊の制服であった。

「一応、礼装に着替えたが良かったか?」

「ええ。…といっても、まだ時間はありますが。」

 彼女は、ソファーに座る彼の隣に着座する。

 

 彼は、先程の玄関でのやり取りの訳を訊く。

「寿々花、何であんな内容の話を…?普通に『現時点で付き合っている方です』とかでも良かったんじゃ?」

「まあ、一種のブラフですわ。実際、此方に帰るようにけしかけたのは父ですから、母には適当な情報を吹き込めば問題ないですわ。」

「おいおい、ブラフって…。」

 家族間で使うようなものなのかよ、と言いたくなったが、下手をすると彼女の今後の人生が危うくなり兼ねないため、こうした行動に走るのも無理はないと悟った。

「しかしなあ…。これ、下手な芝居は打てなくなったぞ…。俺、即興ものとか苦手なんだが。」

「まあ、心配なさらなくともよろしいですわ。父も意外に忙しい方ですので、今晩のパーティーを除けば明日の晩までは何事も無く過ぎる筈ですわ。」

「何事も無く、ね…。」

(希望的観測で今まで無事だったことってあんまり無いんですが、寿々花さん。)

 自身の過去の経験を思い出しつつ、打てる手は限られているので、彼女の意見を聞きつつ時勢の流れに身を任せることにした。

 

 

 

 

「では、私も準備を始めますので、一度失礼させて頂きますわ。」

「また後でな。」

 彼女が部屋を去ると、彼も少し思考を張り巡らせる。

(お見合いについてと言っていたということは、恐らくその相手自身も今日のパーティーに来ているかもな…。となると…、必然的に俺はその相手との矢面に立つことになるのか…。)

 まさか寿々花の見合い話を阻止するどころか、彼女自身の手によって結婚前提の付き合いをしているという形を取られてしまったのは、より複雑めいたことになったと感じていた。

(寿々花が嫌いか…?いや、だったらこんな話はまず引き受けないしな…。だが…。)

 好意もはっきり明示していない現状では、付き合っている云々の話に飛んだ時に、間違い無く彼女の父親に疑われる。

(細かな部分は寿々花次第か…。見合い話に蹴りをつけ終えたら、キチンとその辺を話し合うか…。)

 ともかく、今は彼女の彼氏(仮)を演じきるほかないと判断し、彼女の父親との面会の時を待つ。

 

 

 一方の寿々花も、ブラフとはいえ自身の思いを半分吐露したことを思い出し、少し顔を紅潮させていた。

「まさか、自分でもとんでもないことを口走るなんて思いませんでしたわ…。」

 ドレスに着替えながら、若干の反省と今後の動きをどうするかを練る。

(彼自身が私のことをどう思っているかは、この際脇に置きましょう。…一つ確かに言えることは、見ず知らずの相手よりも彼が結婚相手の方が余程良いですわ。)

 何も彼女は打算的に考えている訳では無い。

 今後数十年近く共に歩む人間がよく知らない人間であるよりかは、彼女のことを知っていて苦難な時でも支えてくれる人間の方が、精神的な保ちようが大きく異なるからだ。家督を継げと言われた場合なら尚更である。

「…私に退路はありませんわ。それに彼ならば…。」

 自分の人生をかけるに値する人間である、と。

 まだ彼に好意は示していなかったが、いつでも想いを伝える準備は整えてあった。

 

 二人の思いにすれ違いが殆ど無かったのは、このタイミングでは幸いといえるだろう。

 

 

 

 

 ー阪神高速道路ー

 

 当然ながら、寿々花の父親も彼のことを調べていなかった訳では無かった。

 空港の迎えに出したリムジン内のカメラから送られてきた画像から、彼の身元の割り出しは終わっていた。

「ふむ、これが寿々花が連れてきた男か…。」

 自宅に戻るクラウンの中で、彼の身辺調査書(リサーチシート)に目を通し始める。

「…家柄、家族構成も至って平凡…?…芦屋、この調査書は本物か?」

「ええ。ご主人様の仰っていた通りに調べ上げましたが。」

 車を運転する芦屋という執事に、彼は訊ね返す。

「…年齢の割に、我々の取引先との関わりが多くないか?」

 彼の言う取引先、つまりは治安に関する諸組織(陸上・海上自衛隊/海上保安庁/警視庁/特別刀剣類管理局・特別祭祀機動隊等)への出向・研修数が、彼の場合なぜか突出していたのである。

 えらく変わった経歴を持つ人間を連れてきたものだ、と感じた。

「…私の選んだ相手と、寿々花自身の選んだ相手。どちらが娘の相手に相応しいか見ものだな。」

 流れゆく道路照明灯を見送りながら、彼と相対するのを待つ。

 

 

 

 

 親子の見えない闘いの火蓋が、切って落とされた。

 どちらが勝つかは、神のみぞ知るところであった。




ご拝読頂きありがとうございました。

後編は最後の詰めに入っているところですので、少々お待ち頂けたらと思います。

私事の方で、一つお話させてください。
つい先日、愛犬の方が逝去致しましてだいぶメンタルが打ち砕かれているところでございます。
当たり前だと思っていることも、そうではなくなる時がいずれ来るのだということを、身に染みて痛感させられました。
本当に辛くなるのは、今から先であることもなお悲しさを増させます…。
ペットを飼われている方は、その最後の別れの時までに、日頃からの積み残した後悔を残さないようにしていただければ、と思います。(あくまで私個人の考えです。)
長くなりました。この話はここで失礼させて頂きます。

感想等ございましたら、感想欄・活動報告で対応を取らせて頂きます。

それでは、また。

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