今回は寿々花編その2 前編です。
タイトルが物騒なものになっていますが、理由は本編を読めばお分かり頂けると思います。
それでは、どうぞ。
タギツヒメ及び元鎌府女学院学長 高津雪那率いる近衛隊などとの争乱、首都東京を戦場に変えたあの決戦。
現場で撤退戦の指揮を執っていた彼もまた、一時絶体絶命の状況に陥ったが無事生還した。
そして、その際に巻き込まれた公務員の殉職者の慰霊祭も終わり、東京の復旧・復興が加速し始めた頃でもある。
ー刀剣類管理局本部ー
自分の持ち場から離れ、廊下を歩いている時だった。
不意に後ろから声を掛けられる。
「お疲れ様ですわ。貴方もお元気そうで何よりですわね。」
その声の主に向かって振り向く。
「!寿々花!…部隊再編で色々忙しいんじゃなかったのか?」
現在は特別遊撃隊に所属する寿々花。多忙を極めていたため、この頃会うことが出来ていなかった。
彼女の下に駆け寄る彼。合流すると、一緒に並び歩く。
「少しお休みを頂きましたの。…実家の方に呼び出しを受けまして…。」
「…まあ、あれだけのことがあったんだ。無理も無いだろう。親御さんも心配したのかもな。」
民間人や刀使、自衛隊関係者ら複数人が死傷したことは、全国ニュースで知れ渡っていたため、娘達を心配する親の気持ちも理解できた。
だが、彼女が続けたのは意外な言葉だった。
「それが…。『そろそろ見合いについて考えたらどうだ?』と言われまして。…ちょうど、新型護衛艦の進水式がありますから、それと前後して帰って来るように、と。」
まさかのお見合い話だった。
「…んで、寿々花はなんて返したんだ?」
「勿論、『多忙につき、無理です。』と答えましたわ。ただ、『なら、こっちで話を勝手に進めるが、それでも構わないなら来なくていい。』とまで言われてしまえば、それまでですわ。」
「ああ…。なるほど。」
一般人の彼には無縁な、上流階級層同士の暗闘でもあるんだろうな、そんな認識を持っていた。
しかし、彼女の次の言葉で彼は一瞬、現実から逃れたくなった。
「ですので、私と一緒に実家まで来てくださいます?」
「うん…。……はぁ~っ!!」
「その言葉、了解ととって宜しいですの?」
あまりに突然のことで、彼は冷静になるまで時間がかかる。
「…ちょ、ちょっと待ってくれ。真希にこの話はしたのか?」
「ええまあ。言った時には、お茶を吹いて驚いた顔をしてらっしゃいましたが。」
「だろうな…。」
容易にその場面が思い浮かんだ。
「それだったら、俺より真希の方がいいんじゃ…。俺よりよっぽど最適なパートナーになるだろ?」
正直、自分よりは真希の方が(大真面目に)寿々花のパートナーに似合うのではないか、とそう説きたい彼。
「真希さんにも、それは一度頼みましたわ。ただ、『僕が行ったら、余計な混乱しか招かないと思うから、その件は他を当たった方がいい。』と仰いまして。」
「…そう言うのも、無理ないか…。」
(逃げる気持ちは分かるが…。真希、投げないでくれよ…。)
確かに、いくら二人の仲が良いとはいえ、それはこちらの事情。寿々花の両親に、それが通用するかは怪しい部分がある。
「それに、父が古い考えの持ち主ですので、男を連れて来ないことには、納得させるのは無理がありますわ。」
「それで俺、という訳か…。」
「貴方が宜しければ、ですけれど。如何ですの?」
「寿々花は、俺でもいいのか?」
「真希さんが無理というなら、仕方ありませんわ。…それに。」
「それに?」
「……何でもありませんわ。」
寿々花は、明言を避ける。
「で、如何しますの?」
「少し時間をもらってもいいか?…三十分、待ってくれ。」
「構いませんわ。どのみち、今日から二日半はお休みですもの。」
「すまん!行くなら行くで、色々済ませることがあるからな。」
「なら、控室でお待ちしておりますわ。」
ダッシュで、自分の持ち場へ戻る彼。
「…相変わらず、慌ただしく動く人ですわね…。」
離れる彼の後ろ姿を、見送る彼女だった。
持ち場に戻ると、同僚が声を掛ける。
「おう、どうしたんだ?そんなに慌てて。」
「済まない、糸崎!今から三日ほど休ませて貰う!その間の仕事、頼む!」
彼は糸崎と呼んだ同僚に向けて、両手を合わせて懇願する。
「待て待て。何があった?いきなり急過ぎるだろ?」
「実は…。」
~事情説明中~
「なるほど。寿々花嬢に頼まれ事ねえ…。お前も隅に置けない奴だな。」
「どっちかって言ったら、俺は巻き込まれた側なんだが。」
「まあ、居ない間のお前の仕事はやっておく。…彼女を頼むぞ。」
「むしろ、俺がここに無事に帰ってくることを祈ってくれよ。」
「ふっ。それだけ冗談が言えるなら、大丈夫だろ。」
「んじゃ、これら頼むわ。」
彼は糸崎に、ファイルとUSBメモリーを手渡す。
「手順はもう書いてあるから、それ通りにやってくれ。分からない部分は、後で帰ってきた時に俺がやっておくから。」
「…準備いいな。」
「それと、サボりはなしだからな。コピーとってあるから、やってなかったらすぐにバレることだけは覚えておけよ。」
「…抜かりねぇ…。」
糸崎は、彼の手回しの早さに溜め息をつく。
「じゃあ行ってくるわな。後は任せた。」
「おう。行ってら。」
同僚に仕事を託し、次の訪れるべき場所に向かう。
「えっと、休暇届は…。これか。」
「おっ、サボりか?」
筆記台の椅子に座っていると、通り掛かりの薫(とねね)が声を掛ける。
「いや、寿々花に頼まれ事をされてな。」
「お前、色々頼まれ過ぎじゃね?」
「…薫の書類手伝いもやっているだろ?」
「まあ、それは有り難いからいいんだが。…しかし、元二席がお前にね…。」
「一応、真希に頼んだらしいんだが、断られたそうだ。」
「お前が不在の間は?」
「同僚に仕事ぶん投げた。それと、真希や沙耶香に宜しく言っておいてくれ。二日ちょっとで帰ってくる。」
「あいよ。…何も無ければいいな。」
「フラグ立ては止めてくれ。…よし。書き上げ終わり。」
休暇届を書き上げ、椅子から立ち上がる。
「んじゃ、行って来るわ。」
「おう、気をつけてな~。」
「ねー!」
薫とねねが彼を見送る。
ー折神家・特別祭祀機動隊本部 局長室ー
現在、局長代理から正式に局長になった朱音が、本部長である紗南から報告を聞いている時だった。
コンコン
「どうぞ。」
「失礼します。やはり、本部長もいらしたんですね。」
「ああ。それで、どうした?お前がここに来るなんて珍しいな。」
「休暇届の申請に伺いまして。さっき作戦指揮室に伺ったら、本部長はこちらにいらっしゃるとお聞きしましたので。」
彼は紗南に、休暇届を手渡す。
「ふむ。…なるほどな。分かった。休暇届を受理しよう。朱音様。」
「拝見します。…問題無いですね。」
ポンと印鑑が押される。
「意外にあっさりですね…。」
「まあ、お前は最近働き詰めだしな。此花のためにも、よろしく頼むぞ。」
「此花さんに、よろしくお伝えください。」
「ありがとうございます。朱音様。本部長。それでは、失礼致します。」
彼は二人に敬礼すると、扉の方に戻る。
バタン
「…はあ。休みが欲しい。」
「なーちゃん、一段落ついたら私達も休みましょう。」
「そうですね…。朱音ちゃんも、無理せんでね。」
「…うん。」
二人の上司は、互いを励まし合うように呟き合った。
ー刀剣類管理局本部 控室ー
寿々花の待つ部屋に、駆け込む彼。
「待たせたな。一通り引き継ぎ終わった。いつでも出れるぞ。」
「…早かったですわね。」
本当に三十分程でやり終えてしまうのかと、相変わらず彼は仕事の速い人間だと感じた彼女。
「意外にすんなりいってな。…それで、もう出るのか?」
「そうですわね…。少し早いですが、出発致しましょうか。」
「分かった。部屋にあるスーツケースを取ってくる。待ち合わせはエントランスでいいか?」
「ええ。」
「じゃあ、また後で。」
ー刀剣類管理局 官舎内自室ー
持参する荷物を指差し確認し、スーツケースを閉じる。
「よし、準備完了!…行ってくる。」
彼は誰も居ない部屋に、出掛ける挨拶をする。
そして扉は、閉じられた。
ー折神家・特別祭祀機動隊本部 エントランスホールー
ホールの中央付近に立つ寿々花。彼は、その彼女のもとに向かう。
「待たせた、寿々花。」
「言う程は待っていませんわ。行きましょうか。」
「ああ。」
二人は並んで出ようとした、その時だった。後ろから声を掛けられる。
「寿々花!」
「…!真希さん。」
「水臭いな…。見送る挨拶くらいさせてくれよ。」
「私情に巻き込んでしまって、申し訳無いですわ。」
そう言う寿々花をよそに、真希は彼女の両手を持つ。
「大丈夫だ。寿々花なら、これぐらいはねのけてこれるさ。帰ったら、次の休みにどこかへ出掛けよう。」
「…はい!」
(…やっぱり、これ俺じゃない方がいいんじゃ…。)
同行する人間がこう言うのも難ではあるが、男らしさという点なら真希の方が数段上だろう。
気後れしかけた自分の感情を、なんとか立て直す。
「それと。…僕が行けない代わりに、寿々花のことをよろしく頼むよ。」
「あっ、ああ。分かっている。真希を失望させないよう、善処するさ。」
「…それだけ言えれば、大丈夫だろう。二人とも気をつけて。」
彼と寿々花は、手を振って見送る真希に、振り返しながら本部を後にする。
ー羽田空港 第一ターミナルー
鎌倉から横浜を経由し、空港連絡バスを利用することおよそ二時間。
出発前の諸手続を済ませ、北ウィング側出発ロビーのベンチに座る二人。
「まさか、空路とはな…。航空券の手配は事前にか?」
「いいえ。実家の方から送りつけられたものでして。…ご丁寧に、座席がお隣同士ですわ。」
チケットの座席番号を確認し、嘆息する寿々花。
「…完全にカップルで来ることを想定してやがるな。」
「全く、呆れますこと。」
「寿々花。実家の方との問題って、具体的にはお見合いの阻止でいいのか?」
「付け加えるなら、今後も刀使として活動して頂けるような確約を頂くことも、ですわね。」
「そうなるか…。」
後者はともかく、前者の方がハードルは上だ。
要は寿々花の両親を、彼女がお見合いをしたくない理由と根拠を提示し、納得させる必要があるからだ。
前者がクリア出来れば、後者は必然的に条件を達せられる。
「なあ寿々花。男なら幾らでも居るだろうに、なぜ俺を選んだんだ?」
「信用の置ける殿方があなたくらいなものでしたから。…別に、私も誰でもいい訳では無くてよ。」
「…それもそうか。…この件で選んでくれて、ありがとうな。」
「なっ、何で私が貴方から褒められなければならないのですか!?」
かなり強めに押し出される彼女の言葉。
「…すまん…。気に障ったなら、謝る…。」
その言葉にしょぼんとする彼。
「…そう気を落とされるのも、困りますわ。一応、私の目に叶うと判断した人間なのですから。少しは胸を張ってくださいな。」
「…ああ。」
地味にメンタルが削られた彼ではあったが、彼女の基準では問題ない(ココ重要)らしいので、自信をこれ以上無くすような真似は止めようと思った。
「そういえば、食事はどうする?空弁でもいいんだが。」
「そうですわね。たまには、そうした類のものでも結構ですわ。」
「じゃ、買ってくる。」
ベンチから立ち上がる彼。
「お金くらい、私が出しますわよ。」
「こういう時くらい、見栄を張らせてくれ。仮にでもパートナーとして、寿々花の実家を訪問させてもらう身なんだからな。」
「…分かりましたわ。」
「ちょっと行ってくる。」
そのまま、弁当売り場へと消えていった彼。
一人ベンチに残った寿々花は、溜め息混じりに呟く。
「先ほどは少し言い過ぎましたわね…。」
普通の人間ならば、寿々花のような事情に首を突っ込むのを避けるだろう。
だが、彼は迷わず協力することを選んだ。その点についても感謝している。
「まあ、他の殿方に頼むくらいなら、絶対に貴方を選びますけれども。…当の本人は、全く気づいていませんこと…。」
鈍感さでは真希と同等かそれ以上なだけあり、彼が寿々花の思いを知るまでには、時間がかかることは容易に想像できた。
「手っ取り早く行動を起こした方が、後々良いのでしょうか…。…いや、それは最後の手段として残しておきましょう。」
親衛隊で参謀を務めていただけあって、頭の回転は速かった彼女。
お見合い話をねじ伏せ、かつ彼との関係を進展させるには一計を案じるのも手だと感じた。
その案が後々波乱を巻き起こすことになるのだが、まだここでは触れないこととする。
空弁を購入し、寿々花の下に戻る彼。
「お待たせ。こんな感じのもので良かったか?」
彼が買ってきたのは、北海道で穫れた魚介類を使った海鮮丼タイプのものと、焼き鯖寿司だった。
「機内で頂いてもよろしくて?」
「ああ、どうせなら機内で味わうのもいいしな。…さて、そろそろ保安検査場を通っておくか。」
「もう、そんな時間ですの?」
「後でバタバタするのもマズいしな。…ちなみに寿々花、土産物とかはこんな感じのもので大丈夫か?」
東京土産の一つである東京バナナを携える彼。
「問題ないですわ。私が選んだと言えば、大丈夫でしょう。」
「そうか…。寿々花のご両親、一体どんな方達なんだろうか…。」
上流階級層の人達と話す機会など滅多に無いため、不安と懸念が入り交じる彼。
「まあ、あまり肩に力を入れ過ぎない方がよろしくてよ。行きましょうか。」
気遣う彼女に感謝しながら、保安検査場へ向かう二人。
一体、これからどんな展開が待ち受けているのだろうか。
それは今から向かう当人達ですら、知る由の無いことであった。
ご拝読頂きありがとうございます。
現在インフルエンザを発症中なため、更新等遅れると思いますがご容赦ください。
…まだ流行シーズン前だというのに何故…。
感想等ございましたら、感想欄などで対応させて頂きます。
それでは、また。