刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今話は寿々花編その2 後編です。
今回、試験的に脚注機能を使用しています。
…寿々花の話が思ったより長くなってしまった…。

それでは、どうぞ。


④ 家族会談

 ー此花家 大広間ー

 

 親子間での闘いの火蓋が、既に切られていたとは露知らずの彼。

 一足早く、パーティー会場に入らせてもらっていた。

「…職業病かもな。ついつい会場周りの確認をしちまう。」

 まだ人もまばらだったため、各テーブル下や出入り口付近、更にはトイレ(男用のみ)を重点的に確認して回った。財界や政治家などの要人も呼ばれている可能性を考慮すると、爆弾テロ等も警戒すべきことだと感じたからだ。

「料理に毒盛るような無粋な奴は…居ないと思いたいが。」

 不特定多数が飲食する場でそんなことをしようものなら、化学テロ必至だがそんなことは流石に無さそうである。

 

「こんな時でも、仕事熱心ですこと。」

「寿々花…!」

 テーブル下を一通り確認し終えた彼が、彼女の声を聞いて振り返る。

 

 

 そこには、髪の色と同じ色調であるワインレッドのロングドレスで彩った、寿々花の姿があった。

 

 

「…どうかしまして?」

「いや、本当にお嬢様なんだな。よく似合っている。」

「…まあ、確かに本部に居る時にこのような格好をすることの方が稀ですもの。…お世辞でも嬉しいですわ。」

「嘘は言って無いんだけどな…。」

 頬をかく彼。

「先程、一瞬動きが止まっていましたが、見とれていましたの?」

「まあな…。ただ、寿々花のお父さんがどこかから見ているかもしれないから、気を引き締めないといけないのにも変わり無いからな…。」

 案外、監視カメラ等でこちらを見ているのかもな、とは彼も考えていた。

 

 

 実際のところ、それは当たっていたのだが。

 彼の動き自体も既に見られていた。

「寿々花の相手は自主的に検索*1と消毒*2か…。完全に動きが警察のそれだな。」

 寿々花の父親は家に帰り着いており、会場の様子をモニターしていた。

「さて、私が選んだ相手は…、あれか。」

 カメラを操作すると、パーティー会場の隅で、取引を持つ他社の人間と話しているところだった。

「京大卒にして、某重工の御曹司。文武両道で経歴も優秀。さて、寿々花はどう出る?」

 会場に向かう準備をしながら、モニターを見つめる。

 

 

 

 

 一人の二十代位の男性が、寿々花と彼の下に近づく。

「初めまして。此花寿々花さん、ですよね。」

「ええ。そうですが、貴方は?」

「申し遅れました。私はこういう者です。」

 名刺を彼女に手渡す男。

「△△重工 総務部総務課長 三田(みた)盛時様、ですか?」

三田(さんだ)と読みます。今晩のパーティーには、護衛艦の建造に携わった社の者として参加しています。ゆくゆくは、寿々花さんの結婚相手として今後ともご縁を紡いで頂ければと思います。」

 挨拶と共に、彼女に握手を求める。

「はあ…。貴方でしたのね。お父様が選んだお見合い相手というのは。」

 とりあえず握手は返す。社交辞令なのでやむを得ないが。

(先に刺客を送ってきたか…。何もなけりゃいいが。)

 他のパーティー参加者からは見えにくい位置で経過を待つ彼。

「そういえば、先程他の男性と何か話されていましたが?」

「ああ、彼でしたら私の同僚ですわ。今はこの場を外しておりますが。」

「よろしければ、お話等させて頂いてもよろしいでしょうか?」

(迂闊には断れませんわね。…彼はお父様が出てくるまで控えるように言っていますから、私が動く時ですわね。)

「承知致しました。でしたら、中央の辺りでどうでしょうか?」

「構いませんよ。」

 寿々花と三田の会話は、彼女のスマホを介して彼のインカムに伝わるようになっていた。

 

 

 

 

(寿々花は動いたか。さて、俺はどうするか…ん?あれは?)

 屋敷の外が少し騒がしく感じた。直後、屋敷の玄関口付近にバンが二台突っ込んで来る。

 ほぼ同時に、寿々花の父親とボディガード数人もパーティー会場に向かってくる。まだ異変に気づいていないようだ。

 直ぐにインカムを通話モードに切り替える。

「寿々花、派手に騒がしくなりそうだ。会場の人の避難誘導は任せる。今こっちに向かっているオヤジさんは、そっちに逃がす。」

『ちょ、ちょっとどういうことですの?』

 三田と会話中だった彼女の声が入る。

「悪い、時間が無い。切るぞ。」

『ちょっと!人の話を』

 

 ピッ

 

 通話を切る彼。それほど事態は切迫したものだったからだ。

 

 

 

 

「寿々花のお父さんですね!」

「お前は…寿々花が連れて来た男か!?」

 通路上で突然過ぎる面会を果たした訳だが、今はともかく時間が無い。

「銃で武装した集団がここに来ます。迎撃しますから、広間へ走ってください!」

「何を言って…」

 

 ジリリリリッ

 

「屋敷内の防犯用ベルが!」

「ご主人様!早く避難を!」

「若造!」

「はい!」

 ボディガードに連れられる寿々花の父親は、彼に向けてこう放って離れていった。

「お前一人で奴らを対処出来たら、寿々花のことを考えてやる!」

 と。

「その言葉に二言はありませんね!」

 と彼は返し、

「勿論だ!嘘は付かん!」

 と、父親はそう言い返したのである。

 

 

「じゃ、遠慮無く。約束は果たしてもらいますよ!」

 直後、彼は武装集団が突入して来たであろう場所に、超高速で消えていった。

 

 

 

 

 大広間では、三田との会話を打ち切った寿々花が、パーティー参加者を隣接するヘリポートに避難させていた。

「落ち着いて避難してください!…!?お父様!」

「寿々花か…、無事で良かった。」

 父親の姿を見て一安心した彼女だったが、途中で通信を切った彼のことを思い出す。

「お父様、彼の姿は見ませんでしたか!?」

「ああ、あいつなら乗り込んできた奴らの対処に当たってくると言ってな…。…!おい、寿々花!」

 父親の言葉も途中に、屋敷内へと戻る寿々花。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は思わず駆け出していた。

(貴方って人は!私の眼前から消えるなんてこと、絶対に許しませんわよ!)

 結芽や夜見を送って以降、もう親しき人は亡くしたくない彼女。

 今度は想い人を武装集団(クソ野郎共)の手によって喪いかねない。

 彼女は、大広間から持って来ていた《九字兼定》を携え、八幡力を駆使し加速する。

 

 

 

 

 突入部分に近い廊下に到着した寿々花。

「ゲホッ、ゲホッ。煙が凄いですわね…。」

 スモークグレネードが使われたらしく、白煙が立ち込める。

「無事だったら、返事をくださいな!」

 視界が澱み、煙が抜けるまでにはまだかかりそうだった。

(まさか…。)

 彼女が考えた最悪の結末…。

 そう向かうかに思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのいつもの声を聞くまでは。

 

 

「…寿々花。無事だったのか。」

 左肩から流血するような負傷をしながらも、煙の中から姿を現す彼。

 すぐに彼の下に向かい、肩は回して左腕を持つ。

「…なんで貴方は無茶ばかり…!」

「すまない…。怪我はなかったか?」

「貴方のお陰で皆傷一つありませんわよ。…ホントに、真希さんといい、貴方といい…。私の寿命を縮めるおつもりですか?」

「体が勝手に反応してな。…武装集団は無事制圧した。」

「!?まさか一人で!」

「狭い通路で応戦できて助かった。スタンバトンも使い易かったしな。」

「……馬鹿なんだか、よく考えての行動なのか、本当に分からない人ですわ。」

 彼女も少し呆れ返る。

 ちなみに、此花邸に押し掛けた八人の銃火器で武装した集団は、彼の手により全員拘束された後、御用となった。

 

 

 

 

 客間に戻ると、彼の左肩の治療を始める寿々花。

 

 それが終わった途端、彼女は彼を力いっぱい抱き締める。もう二度と放さないかのように。

 

「…でも、貴方が生きていてくれて、本当に良かったですわ。」

 目からは大粒の涙も零れる。どうやら、さっきまでこらえていたらしい。

「……思っていた以上に、俺は寿々花にとって大切な存在だったんだな…。」

「当たり前ですし、気付くのが遅過ぎますわ!この朴念仁!鈍感!」

「そこまで言わなくても…。」

 傷口に塩を塗り込むようなことを言わなくとも、と思った彼。

 

 

 

 

「…ですが、やっと理解してもらえましたわ…。貴方に好意を持たされたその責任、取って頂けますね?」

 この時の彼女は、涙も晴れて微笑みながら聞いてきた。まるで、女神の慈愛を彼に授けるかのように。

 

 

 

 

「御身は、貴方に生涯を捧げる所存です。この言葉に、嘘偽りはございません。…民法上の結婚年齢に達するまでは、恋人関係だろうけれど、よろしく。寿々花。」

 キザな言葉しか贈れないが、彼女への想いに応える彼。

「はい!喜んで!」

 

 

 ソファーに座っていた二人は、互いの距離を縮め、遂に肩を寄せ合った。(ただし、負傷しているので彼の右肩と彼女の左肩)

 取りあえず、二人の関係は進展した。

 

 

 

 

 

 

 ー翌日夜 此花邸 応接室ー

 

 此花家も携わった新型護衛艦の進水式も無事に終えることができ、皆意気揚々と帰ってきた。前日の襲撃がまるで嘘のようである。

 さて、今回の訪問目的かつ本題として残っていた見合い話だが、見事破談に追い込むことに成功した。

 というのも、前日の彼と父親のやり取りが、彼の持つICレコーダーに記録されており、有言実行と言わんばかりに武装集団全員を返り討ちにしたものだから、流石に寿々花の父親も白旗を揚げるしかなかった。

 ちなみに寿々花の評価では、三田氏はイマイチな人間だったそう。…ご愁傷様である。

 

 また、寿々花が今後も刀使として活動することにも許可が下りた。どちらかと言えば下ろさせたが正しいのだが。…なぜか、家庭内ヒエラルキーが逆転しているのですがそれは。(父親が娘に頭を下げている)

 

 

 そして、本来予定になかったことだったが、彼と彼女の関係とその今後についての許しを得られるか、ということだったが、案外普通に許可がもらえたのである。

 その際の会話である。

 

「あっさり許可を頂けたのは嬉しいことなのですが、本当によろしいのですか?」

「ええ。寿々花が、あそこまでの想いを伝えられる人を見るのは初めてだったから。…それに、貴方なら安心して寿々花を預けられるわ。」

「お母様…。」

「寿々花。今回は俺の負けだ。…自分で掴み取った男なんだ。大切にしなさい。」

「お父様、ありがとうございます。」

「ああ、それと。寿々花の…恋人でいいのか?」

「そうなりますね。」

「…娘を頼んだ。私を始めとして、多くの参加者を銃火から逃してくれたことも、感謝している。」

「娘さんのことはお任せください。…後者の感謝はありがたいですが、それが我々の仕事ですので。」

 彼女の父親に、笑顔で応対する彼。

「そうか。……孫の顔、いつ頃見れるだろうかな…。」

「ブフッ…!」

「寿々花、大丈夫か!」

 紅茶を飲んでいた寿々花が思わず噴き出す。それに驚き、彼女の背中を軽く叩く彼。

「だ、大丈夫ですわ…。」

「お父さん…、分かってますよね。」

「…申し訳ありません。」

 彼は失言した父親とそれを睨む母親を見て、案外此花家はカカア天下なのかもしれないな、と思った。

 

 

 

 

 

 

 ー更に翌日 京都駅ー

 

 改札口まで、二人を見送りについてきた長田。

「長田さん、ここまでありがとうございました。」

「いえいえ。将来、寿々花お嬢様の旦那様になる御方なら、こうして仕えようがあります。」

「お父様とお母様にも、よろしくお伝えくださいな。また当分は帰って来れませんわ。」

「承知致しました。」

「長田さん、今度美味しい紅茶の淹れ方、教えてくださいね!」

「はっ!それでは、失礼させて頂きます。」

 自動改札機を抜け、長田と別れる二人。

(様々な経験を積んで、お嬢様に尚相応しい御方になって戻ってきてください。私の目に狂いが無いことを示してみせてくださいな。)

 ホームへ進んだ彼に、内心エールを送る長田。彼にとっても、成長を心待ちにしているようだった。

 

 

 

 

『まもなく12番乗り場に、17時19分発 のぞみ38号 東京行きがまいります。ホームの柵から離れてお待ちください。自由席は1号車…』

 新幹線の接近を知らせるアナウンスが、構内に響く。

「でも良かったな。色々解決して。」

「そうですわね。…ようやく前に進めるというのも、なんだかという気はしますが。」

「…そこは目を瞑ってくれよ。」

 寿々花としても、やっと彼との関係が前に進んだことで、少し肩が軽くなった。

 彼の鈍感さは今に始まった話ではないので、あまり強く言うつもりも無い。

「分かっていますわ。…ですけれども、」

「えっ…!?」

 

 

 N700系「のぞみ」がホームに滑り込むとともに、寿々花は彼の服のネクタイを引き寄せ、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 新幹線車両の進入時の轟音とともに、二人の重なる影もまた、その車両の影で黒く塗り潰される。

 

 

 

 

 

 

 寿々花が彼から離れる。

「これくらいは、させて頂きますわ。」

「…寿々花、っておい!」

 一瞬茫然としていた彼がスイッチを入れ直して、乗降口に向かう彼女を追う。

 

 

 彼女は、一瞬彼に向けて勝ち誇ったように後ろを振り返って笑いかけると、乗降口デッキに乗り込んでいった。

 

 

 

 

 それから鎌倉に戻ると、真希との間で少し一悶着あるのだが、それはまた後の話である。

 

 

 梅雨前の晴れた空が、京都の街を大きく包んでいた。

 まるで、二人の今後を祝うかのように。

*1
建物内部などに爆発物等の危険物が無いかを確認すること

*2
要人などが安全に過ごせる状態に整えられていること




ご拝読頂きありがとうございました。

メイド服の親衛隊、ヤバいですわ(語彙消滅)
引くべきか悩ましいところ…。(今のところ見送り)

感想等ございましたら、感想欄・活動報告で対応させて頂きます。

それでは、また。
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