刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

一昨日(執筆当時)の即位礼正殿の儀での様々な出来事や、昨日のミルヤ役の中の人(沼倉さん)のご入籍の発表など、様々な祝いごとが重なりましたが、筆の進みを続ける筆者でございます。

さて、今回は寿々花編 その5をお届け致します。
とじともでは明示されております、寿々花の側近の話が本話の主体となります。今編では二度目の登場です。

それでは、どうぞ。


⑦ 側近から見た彼

 ー鎌府女学院 剣道場ー

 

 鎌府の生徒や親衛隊が鍛錬を積むこの場。

 刀使の面々が多く御刀や竹刀、木刀などを用いて、その身や剣技を磨く。

 

「ふん!…はん!」

「せい!…はい!」

 

 この時間帯は、授業後に鎌府の生徒が自主練習のために十数人が中に居た。

 荒魂出現多発地帯である首都圏の守りを任されていることもあり、刀使としての使命を全うしようとする者もいる。

 

 

 それは無論、鎌府の刀使に限ったものではない。

 親衛隊である寿々花もまた、今日もここへ来て鍛錬に励んでいた。

 

 

 

 

 今回は日頃彼女の補佐を務める和歌子が、その立ち合い稽古の相手になっていた。

 

「はあっ!」

 

 ガキン!!

 

「はいっ!」

(――!?…寿々花様の打ち込みが以前にも増して鋭い!)

 

 下段から繰り出される斬り上げ、乱れ打ちとも異なる一刀一刀のブレ無き剣筋。

 真正面から受けてきているからこそ分かる、彼女の剣の実力を改めて痛感させられる、和歌子。

 十数回に及ぶ鍔迫り合いを経て、寿々花が上段から袈裟斬りをかましたことで、和歌子に張られていた写シが剥がされる。

 

 

「いやぁっ!」

 倒れる和歌子。勝者である寿々花が御刀を納めると、彼女に張られていた写シもまた、自然に解除される。

「痛た…。…寿々花様、更にお強くなられていますね。」

「苗場さんも、私の打ち込みについてくる時間がだいぶ長くなってきておられますわね。…さ、起き上がれまして?」

 斬られた際に床に倒れるような形になった和歌子だが、寿々花は手を差し出して彼女を起き上がらせようとする。

 その光景に、和歌子はつい頬を赤らめて固まってしまったものの、寿々花がどこか調子でも悪いのか、と聞いてきたことで我に返り、彼女の手を借りて立ち上がった。

 

 

 

 

 寿々花が元々居た綾小路から、親衛隊の新設のため本部へと彼女が引き抜かれることとなったのだが、その際に和歌子をはじめとした数人も、彼女と共についていくことを決めていた。

 以降、和歌子達は鎌府の生徒として籍を置いている。

 

 休憩中、和歌子は寿々花の剣技の腕が上がっていることを褒め称える。

「寿々花様、綾小路にいらっしゃった時に比べて、かなり活き活きとされておいでですね。」

「あら、そう見えまして?」

「はい。…恐らく、獅童さんの影響かとは思いますが。未だに、御前試合で勝てなかったことに対して、思うところがあるのでは?」

「…無論、それもありますわ。それ以上に紫様の剣として、盾としての重責を果たすのは、親衛隊としての私の在り方でもありますの。それに…。」

「あの男、ですか。私は未だに、あの男のことをどうも好きにはなれないのですよね。寿々花様が、どう思っていらっしゃるかは分かりませんが。」

 

 和歌子の言うあの男こそ、寿々花や彼女が討伐で一緒になった彼のことである。

 彼女本人からすれば、寿々花へ馴れ馴れしく話しかける姿に苛立つこともあるのだが、少なくともあの討伐時*1での的確な指示などから、窮状を救われた事実は事実であるため、あまり彼を非難するような言い方は出来なかった。

 

「確かに、苗場さんがそう仰るのも無理はないですわ。私も最初は、彼に対して得体の知れない雰囲気を感じましたので。…ただ、話して、一緒に行動を交えて分かりましたわ。彼は、邪な感情を一切抱かず、刀使と共に戦おうとしていることを。」

 寿々花はそう言うと、あの時のことを思い出していた。

「…寿々花様、あの男に騙されているということはないのですか?私も一度、あの男に対しての発言を謝罪したことがありますが、その時の態度は無関心なものでしたよ。」

 彼女に対して想いを抱く和歌子であっても、流石に譲れないところはあった。まして、異性に後れをとるというのは、自身に魅力がないと突きつけられているようなものである。

 そんな和歌子の一種の警戒感に気付いたのかどうかはさておき、寿々花は彼の人となりを彼女に話していく。

 

 

「苗場さんは、彼の過去の実績をご存知でして?」

「…?―いえ、全く。大方、本部へ所属しているのもコネが強かったとか、そんなところではないのですか?」

「…苗場さん。貴女は『秩父会戦』という言葉に聞き覚えはありまして?」

「え~、一応噂程度にはですが、小耳に挟んだことはございます。…私からすれば、何て狂った作戦だったのかと、それを指揮した人間の神経を疑いたくはなりますが。」

「……その秩父会戦を指揮したのが、彼ですわ。」

「………えっ。……ええっ!!」

 静かに放った寿々花の言葉に思考は追いつかなかったが、追いついてもなお、開いた口が塞がらない彼女。あんな無茶にも程がある作戦を実行した人間に、和歌子は救われていたのである。

 

「無論、それだけではありませんわ。全国で派遣された際に指揮を行った討伐任務では、他の指揮した人間と比べて、高い割合で荒魂の戦闘により生じた負傷者が少ないですわ。もし彼が望めば、作戦参謀本部で高い地位を得ていてもおかしくは無いはずです。」

「…その割には、私達でもよく分からない部署に留まっていますが。」

「紫様にお聞きしましたわ。紫様本人も当時の彼の功績を評価し、より高い役職と権利を与える予定でしたの。…しかしながら、彼はそれを蹴りましたわ。」

「…蹴った、ということは、紫様の折角のご厚意をも踏みにじったということですか?…尚更、あの男を生かしてはならないのでは、と愚考致しますが。」

 

 刀使の最高峰たる、紫の厚意を無碍にするなど、刀使に対してとても無礼ではなかろうか、そう思った和歌子。

 だが寿々花は、それにも理由があると告げる。

 

「私も同じように思いましたわ。その当時、彼は紫様に昇進を断る代わりとして、自分の入る予定だった役職へ他の人間を入れることを頼んだそうですわ。その後の紆余曲折を経て、今のあの部署の責任者となった次第だそうですけれど。」

「…要するに、自分ではなく他の人間を昇進させたということですか?自分の手柄なのに。変な男ですね。」

 普通ならば出世コースへすんなりと乗る近道であるはずなのに、あっさりとそれを棄てたというのは、どうも和歌子には釈然としなかった。

「そこが彼の彼たる由縁、なのでしょうね。変な話ではありますが、出世欲がない人間というのは、私自身もその時初めてお目にかかったぐらいですから。向上心はあっても出世をしたくないという心理は、解りそうで解らないものですわね。」

「……普通の人間ではまずそんなことはやらないでしょうから、寿々花様がそうお気に掛けられなくとも、よろしいとは思いますが。」

「あと、彼は煽り耐性も強い方でしたわ。…色々言われていても、非難も弁明もしないというのには、少し怖さも感じましたが。」

「それはまあ、……そうですね。」

 和歌子の脳裏に浮かんだのは、自身が謝罪に行った時の彼の態度だった。

 

 

 

 

 

 

 ー一年以上前 刀剣類管理局本部 彼の職場ー

 

「失礼します。◯◯さんは此方にいらっしゃいますか?」

 時間は遡り、彼女が彼の職場へと謝罪のために訪問した時のこと。他の寿々花の取り巻きは別任務などで外れており、和歌子一人でここへやってきたのである。

 

 この時応対したのは、誠司であった。

「◯◯?…ちょっと待ってくれ。」

 事務机に置かれた固定電話から、何処かへと連絡を入れる誠司。

「ああ、◯◯か?なんか、お前指名の来客だ。…ああ、…おう、…相手の名前?―そこの人、名前は何なんだ?」

「苗場です、苗場和歌子。」

「苗場さんだそうだ。…分かった。切るぞ。」

 受話器を元の位置に戻す誠司。

 

「数分したら戻ってくるらしい。その間だけ待っていただいても構わないだろうか?」

「は、はあ…。」

「…で今日ここに来たのは、もしかしたら、アイツに何か苛立つことでもあったのか?」

「…え?」

 思わず間の抜けた声が出た和歌子。

「いや、此処に来る十人に一人くらいは○○へ怒鳴り込む娘がいるからな。…まあ、人間八方美人で生きるなんてのは不可能だろうから、しょうがないっちゃないんだろうけど。」

「…いえ、そうではなく私なりのケジメを着けに来ただけですから。」

「ケジメ、ねぇ…。ま、俺からはアイツと何があったのか詮索するのは止すとするか。」

「そうしていただけたら、ありがたいです。」

「しかしまあ、鎌府の刀使はどうしてこうも律儀な人間が多いのかねえ。…そういう意味じゃ、早希は変わっているのかもな。」

 自身の彼女のことをふと思い出しつつ、彼を待つ少女を横目で流す誠司。

 

 

 

 

 それからしばらく、大慌てで戻ってきた彼に声を掛ける誠司。

「…慌てて戻るようなことだったのか?○○。」

「糸崎、客人を待たせるってのは本来マズイことだぞ。―それで、苗場さんは。」

「ここにおりますわ。…先日は、どうも。」

 座っていた応接用のソファーから立ち上がり、彼に軽く会釈をする彼女。

「待たせてしまい、申し訳ない。俺の方に、何か急用でもあったのか?」

「いいえ。……この間の荒魂討伐の時のことを、謝罪に伺った次第です。」

「謝罪?…一体何に対しての。」

「…貴方に対する無礼な言葉の数々について、です。……あの時は、申し訳ございませんでした。」

 彼に聞こえるところで暴言を吐いていたこともあり、何か仕返しをされても文句は言えないと考えていた彼女。頭を下げていた和歌子に掛けた彼の言葉は、意外なものだった。

「なんだ、そんなことか。取り敢えず、頭を上げてくれ。」

「…そんなこと?」

 その言葉に驚いたものの、彼に従って頭を上げる。

「別に、苗場さんのような言葉を投げかけられることくらい普通にありますから、それを謝りに来られる人の方が珍しいです。…まあ、彼女達の言葉はごもっともなものでしょうよ。」

「は、…はあ…。」

 自身の謝罪の言葉を、どこか他人事のように捉える彼に、ちょっとした違和感も感じた彼女。

「…?何か、問題でも。」

「い、いえ。」

 戦闘時の応対とは異なり、淡白な雰囲気が逆に印象深かった。

 

 そして、謝罪とは別に確認しておくことがあった。彼女が仕える主と、眼前の彼とのことだ。

「…あれ以降、寿々花様とは何かありましたか?」

「寿々花と?…ああ、あん時に討伐が終わった後で謝罪を受けたのと、その際に連絡先を交換したくらいだ。それ以外は何も。」

「な、何もなさらなかったのですか!?―寿々花様に何もですか!?」

 

 和歌子と異なり、寿々花は親衛隊であるため何か揺さぶりでも掛けられたのか、それともいかがわしい案件に巻き込まれたのか、など、男である彼に対して不審感マシマシの様々な可能性を考えていた。

 だが、その答えが肩をがっくりさせにかかるものだったため、彼女は驚嘆するほかなかった。

 

「そんな驚くようなことか?用が無いなら掛けないし、だいたい、寿々花は親衛隊だろうが。ただでさえ忙しい身に連絡を寄越す方が、彼女にとって迷惑だろ?」

「…正論を言われている筈なのに、こうも苛立つのは一体なぜなのでしょうか…。」

 和歌子自身も、この苛立ちがどういったものの類なのかは分かっていなかったが、一つ確かに言えたのは、彼が寿々花に対して、何か仕掛けようと考えているわけではなかった、ということくらいだろうか。

 

 結局その後、鎌府での生活に疲れていることはないか、などをアンケート形式で答えるなどして、彼の職場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 時系列は現在に戻ってくるのだが、和歌子の彼への疑念は尽きない。

「今思えば、アレも彼が私や寿々花様へ何かを謀っていたのかもしれませんが。」

「それは考え過ぎではありませんの?それにもし、彼がその気なら、私に何かしらのアクションを起こしてきてもおかしくはないでしょう。…ですが、苗場さん。彼は私達に何かしてきまして?」

「…いいえ。薄ら怖いくらいに、業務改善の手立てを手伝ったりしてきますね。見返りは要らないというのが、尚更に。」

「苗場さん、あまり彼を虐めるというのは止めておいたほうがよろしくては?」

「…そう仰るのでしたら、まあ…。」

 

 実際のところ、和歌子の彼への警戒感そのものは、あながち間違ったものでもなかった。彼自身は反体制派たる舞草の構成員でもあり、親衛隊の面々と距離が近いということは、それだけ情報を得られやすくなるメリットも高まる。和歌子の警戒はどちらかといえば同族嫌悪に近いものであったが、それを解くべきでは本来無かったのだろう。…それを止めたのが、仕える主でなければ。

 結果として、彼が自ら舞草の構成員であると明かすまでは、誰も気付くことはなかったのだから。

 

 

「それにしても、ああいった殿方は普通、何かアプローチを掛けてきそうなものですが、…私には魅力を感じないという稀有な御方なのかしら。」

「…ちなみに寿々花様。同時に、獅童さんとあの男から誘いを受けた時、どちらの誘いに乗られますか?」

「ま、真希さんとですの!?…そ、それは勿論、真希さんですわ。」

「そーですよねー。」

 ついつい棒読みになってしまった彼女だが、寿々花の反応そのものは想定内であったため、あまり意外性は無かった。……なかったのだが。

 

 

「…でも、もし同時でなければ、彼と一緒に出掛けることも、私はやぶさかではありませんわ。」

 

 

 その言葉を聞いた途端、和歌子は身体中を石化させた。

 

 

 

 

「…へ?…寿々花様、今何と」

「さ、苗場さん。鍛練に戻りましょうか。」

 先ほどの言葉をかき消すように、既に寿々花は《九字兼定》を抜いていた。

 

「アッ、ハイ。」

 

 無言の圧力に負けたような気がした、和歌子であった。

 

 

 

 

 同刻。

「「ヘッ、クション!!」」

 会議室で打ち合わせ中だった、真希と彼のくしゃみが重なる。

「ううっ、寒気か?」

「まさか。君じゃないんだから、風邪をひくような柔な体はしてないよ。…誰か、僕か僕らの噂でもしているんじゃないのかな。」

「それこそまさかな。―話を続けるとしようか、真希。」

「ああ。」

 

 まさか、身近な人間から話が出ているとは思わなかった、二人であった。

*1
寿々花編『衝突の初対面』参照。




ご拝読いただき、ありがとうございました。

次回は紫編となります。
感想等ございましたら、感想欄・活動報告へお気軽にご投稿頂けたらと思っております。

それでは、また。
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