今回は紫編 その1です。
タイトルがいいのが浮かびませんでした…。(スミマセン)
UAが9,500に迫りつつあり、こんな作品でも読んでくださるなど、読者の皆様には感謝しきれません。
それでは、どうぞ。
① 提案とカップ焼きそば
ー折神家・特別祭祀機動隊本部 局長室ー
刀使達の頂点にして、カリスマ的存在として羨望の目を向けられる、刀剣類管理局局長
時には国会に招聘されたり、自衛隊や警察庁幹部との会合を持ったりなど、剣の腕前だけでなく権力者や官僚とも互角以上の殴り合いを行うこともしばしばである。
第一線を退いてデスクワークが増えてもなお、その実力は衰えを知らない。
年齢のわりに老けが進んでいないことなどから、舞草の主要幹部の面々は、彼女がタギツヒメではないのか、という疑いを持って、現折神紫体制の打倒を目論んでいる。
只の派閥争いのようにも映るが、日本滅亡へのカウントダウンを考慮すると、もう時間が無いことが分かっていた彼らは、必死の行動を続けていた。
コンコン
「失礼致します。」
「入れ。」
「先日の荒魂討伐に関するレポートと対策案です。」
書類を持ち込んだ彼は、舞草が送り込んだ諜報員。となっているが、実のところ半ば無理やり美濃関から転属させられたこともあり、現在ではただの刀剣類管理局職員と化している。
提出されたレポート内容をサクサク読む紫。
「…ふむ。市街地でのホイスト訓練の実施、か。なかなか興味深いな。」
「ヘリから直接飛び降りても問題は無いのですが、安全に刀使を降ろすならば、この方法も検討に値するかと思いまして。現在使用中の機種では、あまり行われていないと記憶しています。」
「…分かった。一度、航空課とも話を通してみよう。」
「ありがとうございます。」
彼女の隣には、親衛隊第三席 皐月夜見が控える。彼女は、紫に耳打ちをする。
「紫様、そろそろお時間です。」
「ああ、分かっている。会議の全権はお前に預けよう。数日中に結論を出すように。」
「はい。」
先にこちらが部屋から出た後、二人が出てくる。
その後、敬礼で二人を見送る。
「…相変わらず、ガード堅いな。当たり前だけど。」
日中、必ず親衛隊メンバーが一人は付いている。こっからどうやって、彼女の情報を持って帰ればいいんだよ、と内心彼は毒づく。
一応、舞草からの仕事は果たしているのではあるが、たまに本部が無茶を振ってくることがあるので、その辺はどうにかして欲しいものだと感じていた。
その後彼は、会議室の空き具合の確認や会議関係者への連絡、数日前に八王子で発生した、荒魂討伐の戦闘概要及び被害状況の整理などをこなしていく。
そうこうしていくうち、翌日の刀使の降下訓練に関する会議資料の策定に、思いの外時間を捕られる。
気がつけば、時間は23時を過ぎていた。
「やべっ、…流石に鎌府の食堂は閉まっているか…。」
どうしたもんかと、部屋を見渡しながら考えていた時だった。
「ん?このビニール袋…。もしや…。」
転がっていた袋の中に入っていたのは、蓋が四角形の形をしたカップ焼きそばと、フリーズドライタイプの豚汁。
「お湯さえあれば、どうにかなりそうだな…。」
そう思った彼は、早速行動に移る。
ー折神家・特別祭祀機動隊本部 給湯室手前の廊下ー
多くの人間が寝静まる頃、彼は一路給湯室を目指していた。
「ふぁ~っ。とっとと食って、眠るとするか。」
時間が時間なだけあって、建物内はだいぶ静かだった。…彼が向かっていた給湯室を除いて。
ガサッ、ゴソッ
「俺、行って大丈夫なんだろうか…?」
最悪、強盗などだった時に備えて、自動拳銃は携帯しているのでいいが、無性に近寄り難さを感じる。
(ええい、ままよ!)
給湯室に足を踏み込む。
彼が踏み入れ部屋に居たのは、強盗ではなかった。
刀剣類管理局局長、折神紫その人だった。
「……。」
「……。」
双方、突然のことで思わず固まってしまった。
(…紫様?なんでこの人がここに居るわけ!?しかも、手元にカップ焼きそば持ってないか?)
彼は、一度に大量の情報が入ってきたので、再起動に時間がかかる。
(なぜこの時間帯に人が居る!?…しかも、手先をジッと見ているではないか!…マズいな…。)
一方の紫も、突然の人影に驚いていた。タギツヒメの持つ龍眼は、何故かこの時は発動していなかった。それもあり、完全に不意打ちを食らう形となったのである。
どちらとも一歩も動けず、紫が彼の入ってくる前に流していたカップ焼きそばのお湯の音だけが、その場に響く。
「え~っと、その…。…お邪魔しました~。」
「待て。」
(…撤退が最善じゃないのか、こんチクショー!)
見てはいけないものを見たかのように去ろうとした彼は、案の定紫に捕まる。
「なぜ、逃げようとする?」
(あっ、コレ俺死んだわ。)
とんでもないタイミングで死期を悟った彼。
「い、いえっ。その…。ちょっと頭が混乱しまして…。」
「…その言葉に嘘は無いな?」
彼の気づかぬうちに、首筋には紫から御刀を向けられていた。
コクコク、と彼は全力で首を前後する。
紫は、数秒ほど思考を張り巡らす。
「…なら良い。」
カチャン、と御刀が鞘に仕舞われる音がする。
それと同時に、ヘナヘナとその場に座り込む彼。
(俺は、助かったのか…?)
よく分からないが、危機を脱した彼。
「…つかぬことをお尋ねしますが、紫様はカップ焼きそばがお好きなのですか?」
「…何が目的だ?」
「いえ…。単に気になっただけでしたので…。」
「ふん…。もしそうだとしたら、お前はどうする。」
「いや、意外だな、とだけですね。ものによっては美味しいですし。」
「そうか。…刺客と疑ってすまなかった。」
「紫様の好みは、U◯Oなんですね。…ちょっと私は苦手ですが。」
「ほう。なかなかいい神経をしているな、お前は。」
「…いえ、何でもないです。」
「そういうお前はどうなんだ?」
「私の好みは、角型のタイプですね…。あっ、隣失礼します。」
彼は、いそいそと自分の持つカップ焼きそばを作り始める。
「紫様も、早く食べないと冷めますよ。」
「…そうだな。」
「いただきま~す。」
紫に遅れること5分。やっと夜食を食べ始める彼。
「そういえば、何故紫様はこんな時間にカップ焼きそばを?」
「事務作業が終わったからな。胃が膨れるものを持ってきた。」
「そうだったんですか。…あ~っ。インスタントでもいけるわ…。」
「ふっ。とても短期間で昇進してきた人間とは思えんな。お前は。」
「自分自身は、極々普通の人間だとは思いますが。」
「普通の人間、か。」
「紫様?」
「いや、何でもない。…ごちそうさま。」
手を合わせ、カップ焼きそばの容器をゴミ箱に入れていく彼女。
「紫様。俺で良ければ、今度愚痴くらい聞きますよ。」
「…お前は、案外食えない奴だな。」
彼は首を傾げたが、紫は少し笑いかけると、給湯室を後にした。
「何だったんだろうな、一体?」
彼はこの晩あったことを誰かに話すことはなかったが、その日以降最低でも五日に一度、夜間に給湯室へ向かっていたそうな。
ご拝読頂きありがとうございました。
紫は、過去と現在の刀使達を繋ぐ存在だったと思います。
胎動編ではラスボス的存在、波瀾編ではタギツヒメとの20年間の真実が明かされて以降の活躍ぶりが凄まじいキャラクターでした。
年齢は中年だが、肉体年齢は17…それなんて合法JK!?なんて思ったりもしましたが、20年間もタギツヒメを抑えまくったその精神力は、尊敬なんて生ぬるいレベルではない凄みを、此方に訴えかけてきたと思います。(個人評)
それでは、また。