刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は紫編その2 前編です。
…イチャイチャ非常に薄めな感がする。

それでは、どうぞ。


② 海中の一時(ひととき)

 ー横須賀港ー

 

 米海軍第7艦隊が置かれている在日米軍横須賀基地、及び海上自衛隊第1護衛隊群が籍を置く横須賀地方総監部の施設等が置かれる、軍都横須賀。

 浦賀水道の出入り口を目前に、諸外国艦の動きをも睨む場所だ。

 

 

 そこから出港した海上保安庁の巡視船「ぶこう」は、海域パトロールとお遣い(・・・)を兼ねて太平洋に繰り出した。

 

「しっかし、まさかあの船に自分が乗り込むなんて…、なんだか不思議な気分です。」

「そう言いたくなるのも分かります。貴方はあの時、本部で工作をしていましたから。」

 艦尾デッキで朱音と話す彼。

 

 

 あの日、可奈美が提案したS装備射出コンテナによる折神家強襲は、落着地点周辺に震度4程度の衝撃をもたらしつつ成功した。

 誰もが予想だにしなかった、潜水艦のVLS*1ハッチから放たれた六つの煌炎。

 そのさなか、彼はコンテナ到着と時を同じくして、非戦闘員の避難アナウンスとボヤを起こし、親衛隊と可奈美達がより打ち易くなる状況を作っていった。

 後から知ったが、折神家警護の刀使達は、別働隊としてやってきた赤羽刀調査隊を迎撃しにかかっていたそうだ。

 キャンピングカー改造の指揮車から非戦闘員の退避を進めた彼もまた、紫が隠世に送られた後に起きたタギツヒメの三分裂を目撃した。

 

 

 それから二ヶ月。

 舞草や刀剣類管理局の中でも一部しか知らない、折神紫の生存を知る彼は近況報告と今後のことを話すため、朱音の護衛として太平洋上の「ノーチラス号」へと向かう。そう、二ヶ月前に横須賀でコンテナを射出した、あの艦だ。

 

 

「紫様は元気にしてらっしゃるんでしょうかね?」

「姉様は治療も兼ねてあの船に乗っていますから、程ほどには元気にしていますよ。」

 「ぶこう」は減速を始め、発光信号を送る。

「ああ、潜望鏡が見えますね。あれかな?」

「あっ、浮上してきますね。」

 巨大な鉄のクジラが、白波を上げて「ぶこう」の横数百mに浮上する。

「飛沫が凄い!」

「数千トンの船ですから。」

「…!朱音様、ちょっとそのままにしていてください。」

 彼は鞄からタオルを取り出し、海水を浴びた朱音を拭く。

「…ありがとうございます。貴方も拭いて下さい。」

「そう、ですね。少し見苦しい姿ですが、拭かさせて頂きます。」

 彼もタオルを使い、頭を拭く。

「朱音様!ボートの準備が整いました。」

 海上保安庁の職員と共に、同行していた累が二人を呼び出す。

「行きましょうか。姉様の待つ船へ。」

「はい!」

 警護用の警棒と自動拳銃を懐に入れ、二人は小型舟艇に乗り込む。

 

 

 

 

 ーノーチラス号 艦内ー

 

 潜水艦内は少し薄暗い部分も多かったが、各部屋は明るめの照明器具で照らされていた。

「ここがエレンの言っていたタクシー…。」

 現代技術の粋を結集して建造されたこの原子力潜水艦は、舞草が活動するに当たって色々な改造も施されている。

「ここです。」

 累がとある部屋の前で止まり、カードキーを当てる。

 

 ピッ

 カチャン

 

 ドアのオートロックが解除される。

「失礼します。紫様。そして、イチキシマヒメ。」

「お邪魔しま~す。」

「お邪魔します。姉様。」

 部屋に入る三人。

「来たか、朱音。お前も一緒だったのだな。」

「ええまあ。今回は、朱音様の警護任務です。」

 イチキシマヒメの姿も初めて見た彼だが、とりあえず朱音の言葉の方を優先させる。

「姉様。お元気そうで。イチキシマヒメも、息災そうで何よりです。」

「朱音。我は、あまり堅いのは得意ではない。お主は我が嫌いなのか?」

「そんなことはございません。…姉様、こちらに腰掛けてもよろしいですか?」

「ああ。三人とも、座ってくれ。」

「それでは、失礼させて頂きます。」

 紫とイチキシマヒメの向かいに座る三人。

 

 

「朱音様、こちらの方は?」

「ああ、説明が遅れましたね。こちらはイチキシマヒメ。あの日、三つに分裂したタギツヒメのうちの一つの…、そうですね。人格と言って差し支えないですね。」

 正確には、ノロのスペクトラム化の結果人体状に成り立ったものだが、という説明が付くが。

「成る程。…分かりました。」

「随分、納得が早いな。」

「こういう時は考えるな、感じろのタイプですから。…それに、個人的には話せるだけで有り難いですよ。なんせ、対話が出来ずに悲惨な結果を招いた例は、歴史上幾らでもありますから。」

「…それもそうだな。」

「紫様、朱音様。お茶をお持ちしてきますので、少し席を外しますね。」

 累が一人、この場から一度離れる。

 

 

「お前は…。深夜、頻度に紫と話していた男だな?」

 イチキシマヒメは、彼に向けて尋ねる。

「まあ、そうです。とはいえ、こうした形でお話するのは初めてになりますね。」

 イチキシマヒメに握手を求める彼。

「…お前は変わっているな。」

「そうでしょうか?別に人であれノロであれ、縁を紡ぐとはこういうことだと思いますが。」

「…まあ良い。我のことを嫌っている訳では無さそうだな。」

 互いに握手を交わす二人。

 紫は、その光景を見ながら少し喜ばしく感じた。

 

 

「朱音、少し話がある。お前はこちらの話が終わるまで、外で待機していてくれ。」

 紫にそう言われた彼は、

「じゃあ、終わるまで立っておきます。」

 と返し、部屋を去る。

 

 

「あの男、物怖じ一つしなかったな。紫、一体何者なのだ?」

「…正直、私にもよく分からん。はっきり言えることは、普通の(・・・)人間では無いな。だが、私達のような刀使でもない…。お前のようなノロに、理解のある人間であることだけは間違いないな。」

「彼は、フリードマン博士のもとで色々学んでいましたから。…もしかしたら彼自身も、ノロの気持ちが分かるのかもしれませんし。」

「ノロの気持ち?どういうことだ?」

「…家族と共に居る時間が、あまりに短かったですから…。ここ数年も、ほぼ帰れていませんしね…。」

 朱音は下を俯き、彼を想う。

 

 

 

 

「あれ、珍しいね。外で待たされるなんて。」

 紅茶セットを一式持ってきた累と鉢合わせる彼。

「大事な話らしいので、外に出ました。」

「それなら私もお茶持ち込んだら、とっとと下がろうかな?…じゃあ、少し入ってくるね。」

 カードキーを使い、再び部屋に入る累。

 ものの一分程で、彼女は出てきた。

「…かなり小難しい話をしていたみたい。私達は去って正解ね…。」

「そうでしたか。」

「私は適当に艦内を回っているから、何かあったら呼んでね。」

「了解です。」

 暗闇の中に紛れていった累。

 彼は、門を守る近衛兵の如く体を微動だにせず立っていた。…頭は無論動かしていたが。

 

 

 

 

 国会対策なども話し終えた三人は、累の淹れた紅茶を飲みながら、ティーブレイクタイムに入る。

 口元を覆うマスクを外していたイチキシマヒメが、言葉を発する。

「あの男、不思議な奴だ。どこか気だるさを醸し出しているが、紫や我らを出し抜いたのだから…。」

「私としては、愚痴を聞いてもらえるいい奴だと思ったぞ。…カップ焼きそばを作っているところを見られたのは、未だに情けないと思うが。」

「姉様。人の好みはそれぞれです。知られて困るようなものでもございませんでしょうに。」

「…折神家の当主たる私が、あんなことで動揺したと知られれば立つ瀬が無い。やはり、あの時葬り去っておくべきだったか…。」

 

 普段の紫の愚痴もなかなかなもので、酷い時には二時間近くも彼は聞かされていたことがあった。

 二十年もの長きに渡り、あまり多くの人間に悟られること無くその身にタギツヒメを抑え込んでいた、彼女の精神力は評価されるべきであろう。

 だが、そんなことを知らぬ政治家連中や官僚共は好き勝手言うものだから、よく精神が摩耗し過ぎなかったものだと、今更ながら思うところはあった。

 

「アイツは、その気になれば私を眠らせて連れて行くことだって出来た筈だが、全く行動を起こさなかった。」

「確かに、彼は姉様の件では半ば舞草の命令を無視していたところがありました。…ですが、それ以上に姉様のことを見極めようとしたところが、あったのかもしれませんね。」

「…そう言われれば、我がまだ紫の中にいた頃。あの男から見たら、敵将である筈の紫の首を容易に打ち取れる位置に居た筈だが、そんな素振りすら見せなかったな。」

 そんな彼の行動が理解不能だ、といわんばかりのイチキシマヒメ。

「…やはり、人間は不思議な生き物だ。」

「直感で動く者ばかりではない、ということは確かだろうな。」

 その言に同調する紫。

 

 

 

 

 クシュン

「あれ?そこまでここ冷えていたっけな?」

 少し寒気を感じた彼。

「あれから、結構時間が経っているな。…まだ、対策を練っている真っ最中なのか?」

 部屋の様子は見えないため、ただ待つ外ない。

 すると、部屋から朱音が出てくる。

「お待たせしました。姉様が少し話したがっていたそうなので、後は貴方にお任せしますね。私は別室で待っていますから、終わったら呼んでください。」

「分かりました。」

 彼は、にこやかな表情を向ける朱音に対して敬礼をすると、彼女が抑えていた扉から紫とイチキシマヒメの待つ部屋に入っていった。

 

 

 

 

 そして、二人と相対する彼。

「それで、俺が呼ばれた理由とは…。」

「少しばかり、こちらの話に付き合ってもらうぞ。」

「まあ、それくらいは構いませんが。そちらのイチキシマヒメさん?でいいんですよね。彼女は一緒でもよろしいのですか?」

「なに。我は、そこいらの漬け物石あたりとでも考えてもらった方がいい。…やはり、我は不要なのだな。」

 やたらネガティブ思考な彼女。

 彼は、彼女に直球で質問をぶつける。

「イチキシマヒメ、貴方から見た人間はやはり憎いものですか?」

「…人間の業に依って、我らは珠鋼から引き離された。その責任はいずれ取って貰いたい部分もある。我の存在価値を見いだした人とノロの融合も、その側面がある。…だが、紫や朱音達を見る度思う。人間は本当に絶対悪なのか、とも。」

「そうですか…。…貴方が話せる人と判って良かった。それだけは何事にも代え難いことです。」

「…やはり、お前は変な奴だ。」

「一般的な他者の信条と、自身の考えが異なっていることは理解しています。」

 その後、幾らか言葉を交わした後で紫と彼はイチキシマヒメの居る部屋を離れた。

 

 

「意外だったな。お前があそこまで話すとは。」

「海中に身を潜めた、刀剣類管理局局長の愚痴を散々聞かされてきた人間にとってみれば、これぐらい些細なものです。」

「…少し耳が痛いな。」

 通路を歩く二人。

「さて、着いた。今の私の私室だ。入っていけ。」

 断るという選択肢は端から無さそうなので、諦めて部屋に入る。

 

 

 

 

「お邪魔します。」

「そこに掛けろ。」

 紫の目線の先にある回転式の椅子のことだと分かった彼は、そちらに歩を進める。

「ちょっと待っていろ。今水を汲む。」

 棚から紙コップを二つ取り出し、ピッチャー*2から水を注ぐ。

「ありがとうございます。」

 彼女から紙コップを受け取る。

「本土はまだ大変か?」

「少しずつ、体制が整いつつあります。…親衛隊も色々ありましたが…。」

「……そうか。」

「今は可奈美や沙耶香達が奮闘していますから、ゆっくり療養なさってください。」

「…まさか、労いの言葉がお前の口から出てくるとはな。」

「…休むべき時に休まねば、いざという時に動けませんから。今は紫様がそうした時です。」

 まさかそこから三ヶ月で、大動乱の事態に陥るとも思っていなかったが、他意なく発した言葉ではなかったことでもあった。

 

「…衛藤と十条は今どうしている。」

「可奈美は、あれからまた強くなっていると思います。…姫和は、今気持ちの整理をしているところでしょうかね。」

「そうか。…私が生きていると知ったら、どう思うだろうな。」

「……俺は少なくとも、貴女が生きていたことは良かったと思いましたよ。…人の生き死にに携わるのは、誰だって嫌ですから。」

 彼女は一瞬彼の顔を見た。

 その顔からは、どこか淋しげなものを感じとらせた。

「すまない。気分を悪くするようなことを聞いた。」

「いえ。…本来、俺よりも紫様の方が悲しんでしかるべきです。たかだか十数年程度しか生きていない人間が、高説垂れる方がおかしな話ですし。」

「…あの時の一件*3は、謝って済む話ものではないと解っているが、刀剣類管理局局長の立場として改めて言わせてもらう。…申し訳なかった。」

 深々と頭を下げる紫。

「紫様、顔を上げてください。あれは誰も悪くなかった。悪い方での僅かなタイミングの重なりです。現場でやむなく一度退かざるを得なかった、自分にも責任がありますから。」

 顔を上げると、彼の穏やかな顔が目に入る。

「まだ話足らないでしょうから、今日はとことん付き合いますよ。」

「…ふっ。やはり、お前はそうでないとな。」

 

 

 

 

 低深度を行く潜水艦は、今は進むべき航路を持たない。

 己の意志で、ただ前へ進むだけだった。

*1
Vertical Launching Systemの頭文字より:日本では垂直発射システムとして訳される。主に現代の軍艦では必須の装置であり、内部に装填されたミサイルを真上に撃ち出す。

*2
お冷入れのこと

*3
番外編の主人公編『死線を越えて』前後編参照




ご拝読頂きありがとうございました。

感想等ございましたら、感想欄・活動報告で対応させて頂きます。

それでは、また。
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