刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は紫編その2 後編です。

UA17,500、全話PV47,000越えを達成致しました。
読者の皆様、ありがとうございます。
また、お気に入り登録も三桁に到達致しました。
今後とも、気を緩めず邁進して参ります。

それでは、どうぞ。



③ 遠き恋路と再出発

 ーノーチラス号 艦内ー

 

 彼と紫が話をしていた頃、朱音と累はちょっとした個室で体を休めていた。

 

「朱音様、お身体の方は大丈夫ですか?」

「ええ。お気遣い、ありがとうございます。……。」

 どこか俯き気味の彼女。

「何かありましたか?」

「少し昔を思い出していたんです。…あの日から、彼が舞草に来て、そして最近のことまでをも。」

「…そういえば、彼が舞草(うち)に来た経緯って私は知らないんですよね。何があったのですか?」

「…あれは遡ること数年程前、一人の美濃関の男子生徒の入学情報が私のもとに届けられました。彼との縁はここからです。」

 

 

 

 

 まだ朱音が折神家の出入りを普通にしていた頃、伍箇伝の学長のうち、美濃関の羽島学長と長船の真庭学長が新年度挨拶も兼ねて、新年度の入学予定者リストを持って彼女のもとを訪ねたのである。

 

 

 新年度の挨拶も終わり、ちょうど美濃関の入学予定者リストに目を通している時だった。

 一人の入学予定者に目が留まる。

「あらっ、この子…。」

「朱音様、どうかされましたか?」

(私の見当違いかもしれない…でも、彼なら私達の力になってくれるかもしれません。) 

 彼女自身何とも言えない直感もあったが、彼の書類の備考欄には『海外での銃器使用歴有り』との文言があった。

「羽島学長、彼が入学してきたら舞草への所属試験を行ってください。」

「この子ですか?」

「はい。」

 江麻は朱音の指したページを見る。

「また変わった奴が来たもんだねえ。」

 隣で見ていた紗南も、少し驚いた表情を作っていた。

「もしかすると、彼は刀使達の力になるほどのモノを秘めているかもしれません。」

「…分かりました。追って連絡を入れてみましょう。」

 江麻は納得すると、朱音の意向に応えようと動いた。

 

 

 そこから少し紆余曲折があったものの、晴れて舞草のメンバーとして認められた訳である。…入学した美濃関に居れた期間は、ほんの数ヶ月程度であったが。

 

 

 

 

「そんなことがあったんですね。」

「実際、彼は今でも現場の第一線で動き続けていますから、私の直感は当たっていたのかもしれません。…ですが…。」

「その分、学生らしい日常はそんなに送れていませんね…。もうちょっと休ませたっていいと思うんだけどな~。」

「指示を出す側の問題もありますから、それは否めない事実ですね。」

「思ったのですが、朱音様が一声入れればいいのではないですか?」

「…それこそ、贔屓に繋がりますからあまり好ましくはないですね。」

 なるほど、と頷く累。

「…せめて、人と関わる時くらいはゆったりさせてあげたいものです。」

 朱音は、この場に居ない彼のことを気遣う。

 

 

 

 

 紫の私室では、彼と彼女とでオセロを打ちながら話をしていた。

「そういえば、御刀の整備は今どうされているんですか?」

「たまに朱音の連れてくる刀匠に依頼をしている。確か青砥館だったか?」

「…陽司さん、ご苦労様です。」

 舞草のメンバーにして、東京・原宿に店を構える刀匠を労いたくなる彼。

 紫からはこんな質問が飛び出す。

「…お前は、自分の刀を持ちたいと思ったことはあるか?」

「御刀ではない、普通の刀ですよね。…難しい質問ですね。」

 後攻の彼は、黒色の面を白に塗り替えながら考える。

「せいぜい、模造刀止まりですね。やはり、安全性を考慮するとなると。…それに、手入れを丁寧にしないと錆びますから。」

「そうか。…御守り代わりに持っていても良かっただろうにな。」

「…まあ、軍刀を抜いて攻撃開始の合図をするというのも様にはなりますが、急ぐべき状況でそれやったらマスコミに叩かれるのは目に見えていますよ。」

「それもそうだな。…よし、今回も私の勝ちのようだ。」

 気が付けは、盤面はほぼ一面が黒に変わり、白色の部分は僅かしか無い。紫の圧勝である。

「やはりお強いですね。…もう一戦やりますか。」

「いいだろう。」

 今度は先後が逆でやり合う。

「以前から思っていたことで、お前に聞いていなかったことがあったな。」

「何でしょう、紫様?」

「お前の好みの異性だ。」

 一瞬、オセロを指していた彼の手が止まる。

「…まさか。俺は仕事一筋の人間です。…女縁なんて、求める方が幻想です。」

「あれほど多くの刀使や女子生徒達と共に居るのにか。」

「それとこれとは話が別です。残念ながら、そうした話とは無縁ですし、自分から関わりたいとも思いません。」

「…その言葉、私にでも当てはまるのか?」

 それには敢えて明言を避けたが、話は続けた。

 

「過去に二股をかけた、うちの部署の先輩が居まして。御刀で双方から微塵切りに遭うところでしたよ。その先輩は危うく、男の男たる部分も無くなる寸前でした。」

「そんな男もいるのだな。」

「まあ、二股をかけた時点でアウトですがね。…二人とも幸せにするだけの気概が無いのなら、尚更のことですけれど。」

「…多重恋愛は認めるのだな、お前は。」

「他人の恋愛事情に口挟むのが、あまり好きではないだけです。…それに、この時期に自分の経験を数多く積めるのは、若さゆえの特権だとも思っていますよ。…命が関わらないものであれば、幾らでもやり直しは効きますから。」

 確かにな、と頷く彼女。

「…以前、博士からお前のことを聞いてみたことがある。お前の想像以上に好意を持っている者は多いぞ。」

「ご冗談でしょう、それは。…博士も知っているでしょうに、俺のことを。好意といっても、恐らく友人レベルのものでしょうし。」

 そうは言ったが、どこか悲しげな顔を一瞬浮かべた彼。

「過去に恋愛関係のトラブルでもあったのか?」

「いえ、そうした事態とは無縁です。…怖いんでしょうね。彼女達と深く関わることが。一度、親しい者と別れた身にとってみれば。」

「…身の上話か。」

「今は口外しても問題ないんですがね。単に家族と離れて住んでいる期間が長いだけですから。…その別れ際が問題なだけなので。」

 明らかに負のオーラを出し始めたので、これ以上の追及は止めようと思った紫。

 

 

 

 

「話を戻そう。仮の話ではあるが、私はお前にとって恋愛対象に成り得る存在か?」

「…えっ?」

 一瞬、自分の聴覚がおかしな状態になったのかと感じた彼だったが、彼女の目は本気であった。

(…あまりに直球で意外過ぎる質問がきたな…。)

 自身の直感も含めて、彼女がどういう存在かをもう一度考え直す。

 それは刀剣類管理局局長としての折神紫ではなく、折神紫という女性という視点から見た場合である。

 

 肉体年齢が17歳(で一時停止したまま)、精神年齢は30代後半というギャップを抱えているが、それを抜きに考えても女性としての魅力は十二分にある。

 庶民的部分にも感性があること*1を加えれば、親しみやすさだってある。

 

 そうした総合的観点で見たうえで結論を出す。

 

「充分、成り得ると思います。…約二十年という年齢差の問題を無視できればの話ですが。」

 この場合のボトルネックの一つと成り得る、二人の年齢差。

 周囲の理解があればどうにかなるだろうが、紫の身に遭った話は容易に出来る話でもないため、仮に付き合うとなった場合、世間一般からは奇特な視線を向けられることは確実である。

「…いや、そう言ってもらえただけで充分だ。」

(…私にも勝機はあるということだな。)

 静かだが、完全に眠れる獅子を呼び起こしてしまった彼。

 

 

 彼の個人評自体は決しておかしなものではなかったのだが、上司と部下という視点を抜いて考えていたことが、後々厄介事に引きずり込まれる遠因になることを、彼はこの時点では気づいていなかった。

 

 

 

 

「盤面は半々くらいの色分布ですね。」

「そのようだな。」

 口を開きながらも、二人は淡々とオセロを進めていた。

「紫様、逆にお尋ねしますが貴女の男性の好みはどうなのですか?」

「…お前も案外ズバッと聴いてくるな。」

「こっちは言っておいて、そちらが黙っているのはちょっと狡いと思っただけです。」

「…ノーコメントだ。」

「ええ…。」

(…言える訳無かろう。お前のような他人のことを考えられる人間などと。)

 正確には、真面目に自身の命を賭して、死地に突入してでも刀使達の救出奪還をやり兼ねないような奴、という文言が付くが。

「…早いところ、お前も出世すれば良いだろうに。待遇も良くなるぞ。」

「勘弁してくださいよ。今の立場でさえ、全国を飛び回っているんですから。…更に上の立場とか、本当に滅入りますよ。」

「…そこまでか。」

「只でさえ刀剣類管理局(うち)は人員不足なのに、これ以上だと真面目に過労死の文字が脳裏にチラつきますよ。」

「…分かった。あまり深くは言うまい。」

 紫の真意としては、程ほどの社会的立場に達した上での付き合いを考慮したうえでの言葉だったのだが、彼からすればその手の話は出世欲が無いのにいい迷惑でもあった。

 この点での二人の思いは、そう簡単に一致するものでは無いという裏返しでもあったわけである。

 

 

 

 

 彼はふと、思い出したかのように紫に問いかける。

「紫様がタギツヒメと共にいた二十年、我々世代、所謂ミレニアム世代は相模湾の大災厄を経験しないままここまで生きてきたわけですよね。…ジェネレーション・ギャップも酷かったですか?」

「そこまでは酷くなかったな。だが、携帯などの通信技術は急速に進展した。やはり、現場の順応には時間がかかったぞ。」

「ああ…。確かに。S装備も改良に改良が重ねられまくりましたからね。今は、バッテリーの稼働時間延長の研究中ですが。」

 

 このバッテリーの高性能化は、タギツヒメとの東京決戦時に部分的な威力を発揮するのだが、この頃はまだそこまでいっていなかったため、このような表現になった訳である。

 

 

「技術の進展は凄まじいものだ。…だが、私は結局その時間の流れからは外れていた。」

 タギツヒメを封じ込めていた二十年という歳月は、彼女自身の時間をも止めてしまった。共に戦った友人達は歳を重ねていくなかで、そのことは尚更彼女の心を締め付けた。

 そんな悲痛な思いの籠もった言葉に、彼はこう返した。

 

 

 

「…今からでも遅くはありません。止まった時間は、動かすことだって出来ます。また、皆で共に歩んでいきましょうよ。そこには、俺や学長達だっていますから。」

 

 

 

 気がつかないうちに、紫の手を握っていた彼。

「…!?…申し訳ありません!つい…。」

「いや、…ありがとう。」

 彼女は、両目元からうっすらと一筋の水線を光らせた。

 彼は、持っていたハンカチを渡して静かに立ち上がり、ピッチャーの水を紙コップに注ぎ直した。

 

 

 

 

 

 

 それから少しして、朱音と累の控える部屋に戻って来た彼。  

「朱音様、お待たせ致しました。」

「お疲れ様です。姉様は…。」

「少ししたら来るそうです。」

「何か、いいことでもあった?」

「世間話を少々話した程度ですよ。」

「またまた~。…でも、何か抱えて帰ってきた?」

「まさか。」

(あの涙は、誰かに言うようなことでもない。心のうちに仕舞っておこう。)

 

 あの時の紫の姿は、ごく普通の女の子の姿だった。刀使の最高峰に鉄人の如く君臨していた折神紫も、人間らしい部分だって見せるのである。

 

「待たせたな、朱音。」

「姉様。」

 少し遅れて、紫が三人のもとに現れる。

「そろそろ、海上保安庁の船が迎えに来る筈だ。甲板に上がるぞ。」

「分かりました。皆さん、行きましょうか。」

「「はい。」」

 四人は、潜水艦の乗員乗り込み用のハッチへ向かう。

 

 

 

 

 海上保安庁の小型舟艇に乗り移る前に、各々紫と言葉を交わす。

「今日はここまでですね。姉様、また何かあれば向かいます。」

「朱音も無理はするな。しばらくは管理局を頼んだ。」

「はい。」

「それでは紫様。また来ます。今度、イチキシマヒメとじっくりお話させてくださいね。」

「…アイツは嫌がりそうだがな。まあ、私一人で色々構うよりはその方が有り難いか。その時は頼む。」

「それでは、失礼させて頂きます。」

 そして、最後に乗り込む彼と目が合う。

「それでは紫様。俺の方も失礼させて頂きます。」

「…刀使達のことを頼む。」

「お任せください。…といっても、紫様もまだ刀使でしょうに。」

「私のことは構わん。当分は隠匿される身だ。気にするな。」

「…分かりました。イチキシマヒメにもよろしくお伝えください。」

「分かった。」

 小型舟艇に足を踏み出した時だった。

 彼は紫に振り向く。

「また、話せますよね?」

「私を誰だと思っている?」

「…そう言われるとそうですね。…ご無事で。」

「うむ。」

 そして彼が乗り込むと共に、小型舟艇はノーチラス号を離れていった。

 

 

 

 

(私も、色々と清算をしなくてはな。)

 去りゆく小型舟艇を見ながら、まだ見えぬ波乱の日々を悟りつつ手を差し伸べた彼のことを想う。

 

 

 大平洋高気圧の張り出した海上は、暑くも黒潮のうねりを強めていた。

 迫りくる、決戦までの時間を強く押し出すかのように。

*1
この場合、好みのカップ焼きそばが当てはまる




ご拝読頂きありがとうございました。

とじとものクリスマス衣装の紫様を見て思ったこと。
『某黒鼠のとこの雪の女王かな?』
クリスマス衣装、メイン・サポメン共に良い感じですね。(これまだ第一弾なんですよね…ヤバい。)

感想等ございましたら、感想欄・活動報告で対応させて頂きます。

それでは、また。
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