刀使の幕間   作:くろしお

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どうも、くろしおです。

今回は紫編 その3をお送り致します。
時系列は御前試合直前の頃です。

それでは、どうぞ。


④ 最強刀使の愚痴

 ー刀剣類管理局本部 局長室ー

 

 あらゆる刀使達から羨望の眼差しを向けられている、特別刀剣類管理局局長、折神紫。

 デスクワークが主体となった現在でもなお、その剣の腕に衰えはない。

 見た目が二十年前と変わっていない、要は老けていないことに関して舞草の幹部内では、彼女が二十年前に鎮められた筈の大荒魂・タギツヒメではないか、という疑念を持っていた。

 

 

 

 

 コンコン

 

 部屋への入室時、ノックを欠かさない彼。

「入れ。」

「失礼致します。特祭隊の短期装備配備計画素案と荒魂短期討伐計画検討案の写しをお持ちしました。」

「確認しよう。」

 紫の後ろには必ず親衛隊の誰かが立っていることが多い。今日は真希が立っていた。

「…真希、お前も目を通してみろ。」

「はっ。拝見致します。」

 読む時間が限られる二人は、二つの文書の簡単な概要欄を読む。

「いつも思うのだけれど、君は先回りして文書を作っているのかい?」

「掻い摘まんだ説明なら俺にも出来ますから。…紫様、日常的な使用の多い装備に関しては、可塑的速やかな配備方針を採りますがよろしいですか?」

「その方針で構わない。短期討伐計画検討案については、伍箇伝の各校と内容を詰めておいて欲しい。出来るか?」

「お任せを。…それでは下がらせて頂きます。」

 局長室から身を引く彼。

 

 

 

 

 パタン

 

「行ってしまったか。」

「彼を行かせない方がよろしかったのですか?」

「いや、いい。…今日は神奈川県警と警視庁の幹部との会合があったな。」

「出発の準備を致しましょうか?」

「ああ。一緒に来い。」

「はっ。」

 紫と真希も少しして部屋を後にする。

 

 

 

 

 時は進み、夕食の時間帯。

「今日は麦入りご飯にレバーのニラ炒めと鯖味噌煮、あと豚汁でいいか。」

 今日分の仕事が早く終わった彼は、鎌府の学食でそれらをお盆に載せて職場に戻る。

 食堂で食べても良かったのだが、生憎お茶や水の注げるサーバーが故障してしまっていたために自身の仕事机で食べることにした。

「急がないと冷えそうだしな…。」

 

 

 焦る気持ちを抑えつつ、普段より少し遅めの足取りで職場に戻ってきた彼。

 彼の向かいの机で作業中だった里奈が、こちらに首を向ける。

「戻ったぞ…って、糸崎が居ねえな。」

「ああ、あの人なら三原さんが来た途端に消えたわよ。どこかに食べにでも行ってるんじゃない?」

「目前の書類の山、残して行くなよ…。それはそれとして、中島はまだ仕事か?」

「会計監査やっているんだけど、鎌府の一昨年と昨年度の会計予算と支出がどうも合わないのよね…。特に変な研究費とか。」

「…粉飾決算、ってことか?仮にも税金だろ。そんなことあり得るのか?」

「ダメそうな時は、いっそ会計検査院にでも依頼する?」

「まあ、最悪紫様に裁下してもらえれば済む話だから、その辺は心配しなくていいだろう。わざわざ責任を俺達がおっ被る必要もない。…一応、会計監査はやったんだし。」

 そんな会話をしているなか、姫乃が戻ってくる。

「あれ、戻られていたんですね。」

「水沢か、お疲れ様。」

「姫乃、さっきまで本部のサーバー室でお手伝いしていたのよね。」

「今はちょっと体が寒いです…。部屋の冷房が強過ぎたので。」

「今お茶淹れるぞ。静岡茶でいいか?」

「この際何でもいいのでお願いします…。」

 紙コップに注がれる緑色の液体。

「あと氷を一つ入れてと…。多分これで舌は火傷しないはずだ。」

「ありがとうございます。…温かい。」

 冷えた体を温める姫乃。

「さてと。サクサク食って、早く食器を返却しないとな。」

「そういえば、アンタっていつも食が細く感じるんだけど、食欲がないの?」

「いや、俺は元々の胃の許容量が少ないからな。…確かに年々、食欲と性欲に関しては無くなってきている気もするけどな。」

「……一応聞くけど、アンタってそっち系の人だったりする?」

「今のところは女子が好みだぞ。…そろそろ、それも無くなりそうな勢いだけどな。まあ欲求不満が自然消滅するのは、決して悪いことばかりでもないと思うぞ。」

 どうやら既に、精神の一部が壊れかけていたらしい彼。

「…姫乃。コイツに、いい精神科医勧めてやって。」

「わ、私がですか!?」

「アイツ、仮にも年頃の男の子よ!異性に興味があるのに、どうして色恋沙汰の話すら上がってこないのよ!どう考えてもおかしいでしょ!」

「…里奈さん。その言葉、私達にもそっくりそのまま返ってきますから、あまり深く抉ってあげない方が…。」

「そうなんだけど…。私も言い過ぎたか…。」

「糸崎やお前さん達からいつも言われているが、正直なところ俺より他の奴の恋路の応援を優先した方が良くないか?」

「…◯◯(彼の苗字)さん、糸崎さんが三原さんと一緒になったことはよく分かっているはずですよね…。貴方の場合、親衛隊ほどではないにせよ刀使達への影響力があるんですから、早いところ身は固めるべきだと、刀使ではない私もそう思いますが。」

「…別れた際のリスクコントロールが取れない以上、独り身が現状最善の選択だな…。二人には悪いが。」

 頭の固さは相変わらずの様子であった。

「…姫乃、こうなればコイツより先にイイ男を見つけるわよ。そうすれば、嫌でも相手を探すようになるだろうから。」

「里奈さん、それ見つからないフラグになりませんかね…?」

 同僚がカップルだらけになったら、日本特有の同調圧力に彼も屈するだろうと思った里奈。

「…中島、俺も色々考えているからその辺は心配するな。」

「ホントでしょうね?…まあ、いい加減どうするのかだけは決めなさいよね。」

「へ~い。…よし、食い終わったから返却してくるわ。今日は荷物取りに来たらそのまま上がるんで、後残っている仕事があったら頑張って終わらせてくれよ。」

「了解です。里奈さんの仕事を手伝うつもりですから、あと一時間ほどで終わると思いますよ。」

「中島、水沢、無理はするなよ。…最悪、翌日に持ち越してもいいから体調には気をつけてな。」

「りょ~かい。なるべくテキパキやるわよ。」

 食器返却のため、職場を去る彼。

 

 

 

 

 刀剣類管理局本部と鎌府女学院の校舎は地下通路で繋がっており、緊急時はこの通路を介して刀使達の招集や指示を行う。

「地下通路は冷えるな。使う人間も多くはないし…、ってなんか扉が増えているよな…。あの学長、一体何考えているんだ?」

 一介の職員がこんなことを言うのは難ではあるが、建築基準法や消防法の確認・認可のための煩雑な書類仕事を増やしかねないことをやっているのなら、此方が鎌府女学院に対して勧告を行うこともあり得るのだ。

「…ま、それを調べるのも俺の任務か。タイムリミットがどれ程残されているのかは分からないけれどな。」

 舞草の諜報員という顔も持つ彼にとって、調査は十八番と言ってもよい。本部権限で色々と調べることが可能だからだ。それが世間に流出したら非常に不味いものも含めてである。

「早く返しに行くか…。」

 歩を進める彼。正義か不正義か、それを決めるのは果たして何者であるのだろうか。

 

 

 

 

 食堂に食器を返却後、荷物を取りに戻る彼。

「中島、水沢。戻ったぞ…、って寝てるな。」

 職場の机でもたれかかるように眠る里奈と姫乃。どうやら、鎌府の会計予算を二人で分担して作業していた時に、睡魔が襲ったようであった。

「…どうするかね…。仮眠室は隣にあるから、二人ともそっちに寝かせるか。」

 当直業務もあったりするため、彼の職場の部屋にはシングルベッドが二つ縦列に置かれた仮眠室が備わっている。カーテンで区切ることもできるため、仮に男女で眠ることになっても着替えなどのプライバシーの管理は徹底されている。

「中島、後で怒るなよ…。」

 彼女が掛けていた黒縁眼鏡を外し、なるべく起こさないように慎重に椅子を引く。キャスター付きなので、引くのは楽だったのだが、机から頭が落ちないように自身の左腕を回し、ゆっくり彼女の頭を後ろに引く。

(全く、俺だから良かったものを。二人とも、美人なんだから無防備な時が一番危険なことを自覚してくれよ…。)

 二人とも、自身がこう考えるのもどうかとは思ったが、男性視点では充分過ぎるほどの魅力や恵体である。

(中島、最近書類仕事頑張っていたしな…。今度、二日くらい休ませてみるか。)

 豊かな胸部に触れないように腕を回しながら、お姫様抱っこで彼女を仮眠室まで運ぶ。

「靴は…、外しておくか。靴下とかまで外すのは流石に不味いしな。」

 彼女の頭を枕に置き、毛布と掛け布団をかける。

「これで良し。後で置き手紙でも書いて…。」

「××(彼の名前)、…ありがとう。…Zzz。」

「…寝言だったか。というか、中島が俺のことを名前で呼ぶことってあるんだな…。」

 普段彼に対してきつめの言動をする彼女だが、寝言とはいえ名前で呼ばれることは、これが初めてであった。

「…いい奴が見つかるといいな。中島。」

 自身よりも彼女の恋路を応援したい彼。仲間思いであるという点を鑑みても、やはり彼女達の人生を優先させたがるようだ。

 

 

 

 

 その後、姫乃も同様に仮眠室へと運び込み、二人に書き置きを残す。

『お疲れ様。仕事は明日に持ち越していいから、起きたら自分の部屋に戻ってくれ。今度、二人には二日間の休暇を申請しておくから、何時がいいか決めておいてくれ。じゃあ、また明日。 ◯◯(彼の苗字)』

 書き置きを二人の枕元に置いていき、部屋の状態を確認する。

「よし、退室するか。」

 部屋の『在室』表示パネルを『不在』に切り替える彼。扉を閉め、鍵が掛かったことを確認する。

「内側からは開けられるし、これで良いか。…さて、部屋に戻るかね。」

 そう言って、職場から去ろうとした時だった。

「◯◯、今仕事が終わったのか?」

「…!紫様!」

 局長室の方から歩いてきた彼女。

「執務の方はもう済まれたのですか?」

「ああ。真希達は今日はもう下がらせた。」

「少しお疲れですね。」

「まあな。今から時間はあるか?」

「はい。丁度自室に戻ろうとしているところでしたから。」

「少し付き合ってもらうぞ。」

「…ちなみに、折神家までですか?」

「そうだ。お前も運転は出来ただろう?」

「紫様を隣に乗せて運転したことはありませんよ…。というか、専属の運転手がいらっしゃるでしょうに。」

「私も、たまには一人になりたいのさ。」

「…運転テクに関しては目を瞑ってくださいね。折神家(・・・)まででよろしいのですね?」

「ああ。」

「分かりました。」

 なぜ彼がこう聞いたのかは、後に分かることであった。

 

 

 

 

「…車はこちらでよろしいでしょうか。」

 彼が指差したのは、ミニバンタイプの普通車。

「これ、お前の車ではなかったか?」

「変に高級車では目立ちますから。…それに、誰かに聞かれたくない話も、もしかしたらあるでしょうし。」

「さて、何の話だろうな。」

「取り敢えず、乗りますか。」

「頼む。」

「あっ、紫様はバレたり乗ってて事故に遭われても困りますから、中部座席*1に座ってください。」

「…抜かりないな。」

「要人を連れて出るのですから、これくらいやっておかないと何かあった時に俺の責任問題になりますから。」

「…それでも構わん。」

「では、出発します。」

 そして、彼の運転する車は刀剣類管理局本部を後にする。

 

 

 

 

 折神家と刀剣類管理局本部はそこまで離れた距離にあるわけではない。

 だが、彼は折神家へは直行せず鎌倉市街をぐるぐる回る。

「紫様、今日はいかがでしたか。」

「私も疲れる。定型的な会議ほど詰まらなくなるものもない。…だが、上に立つならばその職務を全うする義務があるからな。」

「管理職はどこも似たり寄ったりですね…。」

「それでも、我々も言うべきことは言わねばなるまい。」

「対立が生み出すのは、大体不毛な闘いですからね…。協調が最善ならそれに越したこともないでしょうし。」

「…そう、だな。とはいえ、刀使の減少に歯止めが掛からないのも困ったものだ。結局、特祭隊だけでなく各都道府県警どころか、自衛隊にまで協力を仰ぐ始末だ。」

「こればかりは仕方ありませんよ。国が少子高齢化対策に小手先の対応ではなく、本腰を入れない限りはどうにもなりませんし。あまつさえ刀使、ひいては刀剣類管理局の仕事に対しての世間の目は厳しいですから。…彼女達は何も悪くないのに。」

 日頃のマスコミの報道などに対して、少し怒りを見せる彼。

「…言い過ぎましたね。申し訳ありません。」

「いや、お前の言いたいことも分かる。…機が熟すまで、もうしばらく待つのも大事なことだ。」

「本当なら、酒でも酌み交わしながら愚痴を言い合うのが良いのでしょうが、生憎未成年なもので…。こうした時くらいしか、直接こぼすなんて出来ませんから。」

「なに。私も夜遅くにお前に、愚痴を聞いてもらうことが多いのだからな。これくらい、お互い様だ。」

「そう、言ってもらえただけありがたいです。」

 

 

 

 

 刀剣類管理局本部を出て三十分。

 彼の運転する車は、折神家横の駐車場へと入る。

「着きました。実質軟禁状態にさせてしまいましたが、有意義な時間でした。ありがとうございました。」

「いつもお前達の働きには感謝されてばかりだ。こちらからも礼は言わせて貰おう。」

「では、また明日。」

「ああ。今日は帰ったらゆっくり休め。」

「紫様もですよ。」

 

 

 紫が車から降り、折神家の門を通り抜けたことを確認すると、彼は車を発進させる。

「なんだかんだ、部下思いな人だよな。紫様は。…真実がどこにあるのか、それを見極められる目は俺にあるのだろうか。」

 フロントガラスに写る自分の顔を見据えながら、自問自答する彼。

 

 

 彼女は誰にも気取られないようにしながらも、約二十年もの間タギツヒメの暴発をその身を挺して食い止めていた。そのことを知るのはこれより後の話になるのだが、『あの時話していたのは紫様だったのか、それともタギツヒメだったのか。』と振り返ることもあった。

 

 ただ一つ確かなことは、親友を失ってもなお紫自身の精神(こころ)が砕かれることは無かったということだろうか。

 それに自分の存在が一役買っていたのかまでは、流石に分からなかった。

 こう思うことは、真希あたりからは自惚れであると言われるかもしれないが。

 

 

 

 

 舞草の信条を取るか、紫の行動に沿うことを取るか。

 彼への選択の時は迫っていた。

*1
この車は三列シート車なので、二列目がある。




ご拝読頂きありがとうございました。

先日、日間ランキングの方に載っていたことに衝撃を受けましたが、今作を知って頂いた方もいらっしゃったようで、今後も身を引き締めつつ執筆を続けて参ります。

感想等ございましたら、感想欄・活動報告にて対応させて頂きます。

次回は結芽編です。
それでは、また。
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